七夕ピラー改修作戦~星と短冊、明日に願いを

作者:質種剰


「皆さん、ケルベロス・ウォーの勝利、おめでとうございます~っ!!」
 そうケルベロスたちを祝う小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)の表情は、いつにも増して晴れやかだ。
「アダム・カドモンを撃破できたおかげで、主だったデウスエクスの勢力は壊滅し、地球が平和になったでありますよ~♪」
 定命種長年の悲願達成である。これが喜ばずにいられようか。
「そうそう。あの後、アダム・カドモンの残した資料から、破壊されたゲートの修復さえ行えばゲートをピラーに戻せるだろうと判明したでありますよ」
 だが、『ゲートの修復とゲートをピラーに戻す作業』には、特別な季節の魔力が必要になるとかけらは言う。
「それは、『銀河を越えて、遠く引き離された二つの地点を結び合わせて邂逅させる季節の魔法』……すなわち『七夕の魔力』なのであります」
 ダモクレスがこのタイミングで決戦を挑んできたのも、決戦後にゲートをピラーへ修復する算段があったからかもしれない。
「戦争直後で申し訳ないでありますが、皆さんには7月7日開催の七夕まつりにご参加いただいて、七夕の魔力を集めて欲しいであります」
 よろしくお願いします、と頭を下げるかけら。
「現在、日本全国の自治体に連絡して、七夕まつりへの市民の皆さんの参加を要請中であります」
 また、例年七夕まつりが8月に行われる地域についても、7月7日に運営してもらえるよう、お願いしているらしい。
「七夕のまつりが盛大であるほど多くの魔力が集まりますので、ケルベロスの皆さんの手でお祭りを盛り上げてくださいね」
 と、補足するかけら。
「地球の危機を救ったケルベロスが参加するだけでも市民の皆さんは相当喜んでくれますが、ケルベロスによるサプライズ企画などがあれば、もっともっと喜んでくれるはずであります」
 勿論、ケルベロスがお祭りを楽しむことも必要である。
「デウスエクスの危機の去った地球で恋人やご友人、ご家族と共に、どうぞ存分にお楽しみくださいね」
 かけらは笑顔で続けた。
「さてさて、皆さんにご参加いただきたい七夕まつりはですね。京都のおっきなショッピングモールで開催されるお祭りでありますっ」
 デパート1階中央部の大きな吹き抜けに笹飾りを立てて、そこへ買い物客が書いてくれた短冊や、自分たちで作った七夕飾りを飾るらしい。
「もちろん、短冊は皆さんの分もご用意してますから、もしよかったら、どんなお願い事を書くか考えてきてくださいっ!」
 後は……と手元にあった折り紙を器用に折り始めるかけら。
「七夕の笹を飾りつける醍醐味といえば、短冊以外にも折り紙や切り紙がありますよね。こんなふうに」
 顔の高さまで持ち上げた両手には、折り紙で作ったブリーフとブラジャーが握られていた。
「もし、他にも面白い折り紙や綺麗な折り紙をご存じの方は、ぜひぜひ教えてくださいね~」
 注意事項は未成年者やドワーフの飲酒喫煙の禁止のみである。


■リプレイ


「七夕飾り作り、頑張っちゃうぞー!」
 気合いを入れて折り紙を始めるのは果乃。
 彼女が用意した折り紙は、キラキラとホログラム加工されたものや、モザイクや星の模様などが刷られたものがあったりと多種多様。
 それらを器用に折り進めて、果乃は可愛い薬玉や風船、ダイヤモンドカットを模した宝石を形作っていく。
「千羽鶴も折ってみようかなー」
 星の薬玉自体、何枚も折った同じパーツを組み合わせて球体にしていくだけに根気がいる。
「あと、こう折ったやつをハサミで切って広げると……ほら!」
 まして、細かく鋏を入れて花や雪の結晶を作る慎重さもある果乃だから、千羽鶴の完成も夢ではない。
「疫病退散を願ってアマビエみたいなのも作ってみよう!」
 そんな果乃が短冊に託した願いは、
『宇宙のみんなが平和で暮らせますように』

 天音は折り紙の本をぱらぱら捲って、簡単そうな星から挑戦。
 長い帯状の折り紙を端から巻くように折って、縁をへこませればぷっくりと立体的な星型に仕上がるというもの。
「しばらくこういうことはしてこなかったから……」
 だが、天音が思わず遠い目で言い訳したくなるぐらい、完成品は彼女の不器用さが滲み出ていた。
「戦いが終わった後も平和なままでいてほしい……そのためには、どんなことを願おうかな」
 ともあれ、気を取り直して短冊に願い事を書く天音。
『宇宙のすべての人達と仲良くできますように』
 平和になった世界で、ダモクレスは勿論のこと。まだ見ぬデウスエクスの人々とも仲良くできたら……それが天音の望み。
「ちょっと大きな願い事過ぎたかな?」
 でも、きっと今の私達なら叶えられる……確信に近い希望を抱く天音だ。

「テンペストさん、草臥さん、お願い事があったら教えてください……」
 刃蓙理の申し出に、顔を見合わせる男たち。
「願い事は数ですよ……兄」
「死亡フラグを立てるでない」
「何故戦い風味なんだ」
 念押しをする刃蓙理へツッコミつつ、素直に短冊を差し出す2人。
『身長が伸びますように』
『夏バテせず沢山食べられますように』
 いかにも当人らしい願い事だ。
「ありがとうございます。高いところに吊るしますね」
「かたじけないのう」
「ああ。ありがとう」
 刃蓙理は2人の短冊を提げるついでに、ちゃんと自分のも用意していた。
(「私の願い事は決まってます……」)
『この地球……全ての願いが……届きますように……』
 どこまでも他者を優先する、心優しく献身的な刃蓙理だった。

「大したお願いって訳でもないんだけどさ」
 誰にともなく言い訳しつつ、白兎が短冊に書きつけた願いは、
『全世界ラブ&ピース』
 白兎にしては珍しく、至極真面目なもの。
(「主だった勢力はどこも潰れてデウスエクスの有り様も変わってくるこれから、争いで決着とかみたいなことは、前より無くなるんじゃないかな」)
 続いて、自分らしく……と人参の折り紙を折りながら、
「とゆーか、かけらはコンプライアンス的に大丈夫なの?」
 果たして下着の折り紙は飾って良いものかと、小檻にツッコミを入れていた。
「もちろん。コンプライアンスを気にして折り紙をメインに据えましたし」
「つまり、かけらは下着を人前に見せても大丈夫と?」
「やだ恥ずかしい……ちゃんと穿いてますからご覧になります?」


「思い出すなぁ、カケラの誕生日……笹に願い事書いた下着を吊るしたよね」
「えっ、何それ、笹に願いを書いた下着を干す! 面白そう! 参加したかったわー!」
 4年前の今頃をしみじみ思い出すマヒナへ、目を輝かせて食いつくのは梢子。
「干すってお洗濯じゃないよ……多分。ワタシはフンドシに書いたなぁ」
「まー褌に書いたの!? あはは何それ、意外!」
「えっ、タンザクに形似てたからだけど……?」
 マヒナが——今回は本物の短冊へ——前回同様真剣な願いを書く一方。
「今の願い事は……『ワタシの大切な人達が泣かなくてもいい世界にする』」
「じゃ、私も肖って褌に」
 梢子は本物の褌へでかでかと煩悩を書き殴る。
『すいーつ食べ放題したい』
「折り紙で下着折るのも楽しそうね」
「ブラジャーは簡単でありますよ。こうやって」
「ふんふんこれが乳ベルトになると……」
 ましてや梢子が小檻の手解きでブラジャーを折り始めたため、可哀想に赤面した葉介が逃げ出した。
「……オリガミって何でもありなんだね」
 マヒナも梢子の手元の褌折り紙を見て、半ば呆れ顔だ。
「あら随分真面目な願い事じゃない」
「あ……うん」
 飾ってきて頂戴と褌や折り紙を渡されて、マヒナが頷く。
(「長い戦いの中で、考え方も幸せの形も皆違うって分かったから。皆が幸せ、っていうのは中々難しいと思う……けど」)
「……せめてワタシの身近にいる人達くらいは笑顔にできたらなって」
「旦那様との仲は? あーそっちは願わなくても十分かしら?」
「……ってもー! またそーやってからかうんだから」
「そうだわ、せっかくだし勝負下着買ってく?」
「しょ、勝負下着!?」
 散々梢子にからかわれて、赤くなりっぱなしのマヒナだった。

「今年の七夕は特別だし、頑張って盛り上げないとね」
 奈津美は、手先の器用さを遺憾なく発揮して、七夕飾りを作る。
「そういえば七夕飾りを作るのは子供の頃以来かも。懐かしいなぁ」
 赤い提灯、水色やピンクの網など定番から、切り紙の繊細かつ高難度な星、立体折り紙でとにかく手間がかかる薬玉まで、楽しそうに飾りを増やす奈津美。
 その隣、飾りにじゃれつきたいのをじっと我慢するバロンが可愛らしい。
 完成後は、翼のあるバロンと上下に手分けして、飾りつけに勤しむ2人。
「長い戦いだったわね……大変な事もいっぱいあったけど、楽しいことも人との出会いもそれ以上にあったわ」
 飾り終えた笹の下、奈津美は戦いの日々に思いを馳せつつ、傍らのバロンを抱きしめた。
「何より、貴方と出会えたことが何よりの幸せよ」

 蒼眞は、黒い折り紙を用いて薬玉のパーツをせっせと量産中。
 織姫と彦星というリア充に何かを祈願するなど、嫉妬戦士としては些か引っ掛かるものがあるらしい。
 黒い薬玉も、天辺から白いこよりで繋いだ赤い星を見るに、リア充爆破用の爆弾だとわかる。
 さらには、2つ並べた白い薬玉へ折り紙のブラジャーを被せておっぱいを再現したりと、いつも通り仕様もない方向で楽しむ蒼眞。
「うーん……おっぱいの質感へ近づけるには、肌理細かい柔らかい紙で……」
「今更確かめなくてももう体が覚えてるぐらい揉んだでしょうに」
 小檻におっぱいダイブを敢行したりと悪ふざけまで始まって。
「……どうしてこうなった……?」
 最終的には、自分自身が短冊として『煩悩退散』と書かれ、笹の幹に吊るされてしまうのだった。

「お客さんの短冊を吊るすマスィーンになるのです♪」
 ミライは吹き抜けに立つ笹に沿ってぐんぐん上昇。
「そうそう、作戦中はいつもこのぐらいの高さから前方を偵察……」
 3階から下の賑わいを見下ろして、
「そっか……もう声を殺して飛ぶことは、ないんだ」
 その平和な光景に、改めて実感した。
「っと、笑顔笑顔! 折角の皆さんの願いなのです、から♪」
 嬉しさの中で寂しさを噛み締めるも、努めて笑顔で短冊提げを再開するミライ。
(「……誰かの夢を、願いを応援したくて、歌い始めたんだ」)
 憧れの人と付き合えますように。宝くじが当たりますように。
(「――私の夢は叶わなかった、けれど」)
 他の人の短冊を眺める間に、自分も触発されて、
「私にも願いならまだあるのです!」
『新しい友人の皆さんと、仲良くなれますように』
 密かに認めた自分の短冊も、お客さんのと一緒に笹へ吊るした。


「まだまだやらなきゃいけない事はたくさんあるんでしょうけど……一先ずはお祭りを楽しんで成功させましょう」
 かぐらは、七夕飾りを笹につけていたらしく、数メートル上から涼しい顔で降りてきた。
「空を飛んだりはできないけど、ジャンプでも階を越えることは出来るでしょうし」
 そう考えて折り紙の網などへこよりで大きな輪をくっつけ、まるで何かの競技かゲームのように、跳躍しては笹の枝へそれらを引っ掛けていたのである。
「小檻さんが作ったのも付けてあげるわよ」
 笑顔で請け負うかぐらの青の浴衣が、涼しげで大層よく似合っている。
「ありがとうございます。ではこれを是非っ」
「……って、器用にできてるわね……」
 レースまで切り紙で再現したブラジャーに、苦笑いするかぐら。
 ちなみに、折角だからと彼女が短冊に書いた願いは、
『ケルベロスの力を使わなくていい日が来ますように』
 だった。

「めびるが昔住んでた居たお宮にはね、7月7日には星凛祭っていう神事があったんだよ」
「へえ。めびるの地元にもそういう祭りがあったんだな」
 機嫌良く短冊を提げようとするめびるだが、ふと目に入ったのは例のブラとぱんつの折り紙。
「あっ、流石にかけらちゃんのやつみたいなのは無かったよ、無かった」
 何故か我が事のように顔を赤くして両手をぶんぶん振るめびるに、そりゃそうだろと敬重も苦笑いした。
「願い事をするって感覚が、俺には少し不思議なもんで、どうにも思いつかないんだけど」
「んっ、めびるの短冊、見る?」
 思いつく手助けになれば、と見せた短冊には、
『敬重くんと幸せな未来が築けますように』
 とある。
(「……えへへ。ちょっと恥ずかしい事かいちゃったかな?」)
「……そう、めびるの願い事は未来か」
「未来!」
 内心照れるめびるだが、感心したような敬重の声でぱっと笑顔になった。
「少し昔のめびるは考えもしなかったモノ! ……それを築くとしたら、絶対敬重くんと一緒が、いい」
「そういう風に言って貰えるのは嬉しいもんだ」
 めびるの頭に手を置き、優しく髪を梳きながら思案する敬重。
「それじゃ、俺は『めびると一緒に居られるよう頑張ります』かな」
「って、敬重くんそれは願い事になってないよ……!?」
「彦星さんと織姫さんだっけ。見ていて下さいとお願いするくらいが俺には丁度良いから」
(「だって、それじゃまるで」)
 誓い、みたいな。
 めびるは思わず口に出しかけて、ぱくぱくと金魚の如く息を詰まらせた。
「らしいと言えば、らしいけど」
 消え入りそうに呟くその頬まで、金魚色だったのは言うまでもない。
「さて、本場の宇治金時でも頂きに行こうか」

 友禅柄やロシア用に作ったビザンチン風の模様など、自作の短冊を携えて参戦したのは礼。
「私は手芸だけが取り柄だから張り切って行きますよ」
 そんな自信に違わず、織姫彦星や星飾りに加えて、素早く正確な鋏使いで切れ目の揃った網飾りを拵えていく。
 その投網は青いグラデーションが美しい紙を使って、伸びると天の川のように見える。
 更には、細かく鋏を入れて立体模様が綺麗な貝飾りも仕上げた。
「網も貝も『魚や貝が大量に獲れますように』って大漁と豊作祈願なんですよ」
 紙細工に見惚れるギャラリーへ説明する傍ら、礼は自作のタペストリーやランチョンマットも次々提げていく。
 本人曰く、賑やかしと宣伝も兼ねてらしいが、複雑な織り地のアラベスク文様やエメラルドグリーンの海の繊細な刺繍などは、それひとつでも主役級の美しさだ。
 短冊に己が願いを書くのも忘れて、飾りつけに没頭する礼は心底楽しそうだ。

「いままでありがとう、な」
 パトリックが最初に笹へ飾ったのは、家内安全のお守り。
(「もういい加減持ちっぱなしだったし」)
 縁結びの御利益で知られる神社のそれは、約5年もの間パトリックと共にあり、彼のケルベロスとしての歩みをずっと見守ってくれた存在である。
「さて、あとは……ティターニアも手伝ってくれ!」
 そんな風に、参拝に誘ってくれた仲間の想いを大切にするパトリックだから、今も自分の願いは後回しに、お客さんの短冊をかける役目に徹している。
「なんだこれは!」
 だが、笹に提げられた妙にリアルなブラジャーの折り紙を見つけて、つい驚きの声をあげるパトリック。
(「いやいや……落ち着けオレ。今までオレ達ケルベロスの為に色々とバックアップしていただいた恩を忘れてはいけない」)
 すぐに気を取り直し、デパートのお客さんへ丁寧に対応するのだった。


「ここは頑張って、飾り付け用の折り紙を折りましょう!」
 そう張り切る佐祐理は、既に短冊に自分の願いを書き終えていたからこそ、飾りつけに熱中できるようだ。
『バンドのキーボード弾きが見つかりますように』
 彼女の祈願は、大層具体的かつ切迫しているように思えるが。
(「だって、元々は機織りの技術向上、ひいては技芸向上をお願いするもの、だそうですし」)
 その実、本人としては七夕の歴史に合わせただけらしく、案外気軽なお願い事なのかもしれない。
 一通り飾りつけを終えると、佐祐理はアイズフォンで折り紙の折り方を調べて、他の者へ丁寧に教えていた。
「ありがとうございます。おかげで織姫と彦星が綺麗に折れました」
「本当に助かったよ……良かった、下着以外の折り紙もあって」
 天音やパトリックも、佐祐理の手解きで折り紙を楽しめたようだ。

『おべんきょうが、できたい』
「……なんか違う気がする」
 笹の下で首を傾げるのは誰あろう、ララ乳のルル。
「何コソコソしとるんじゃルルは」
 背丈の変わらぬガイバーンだけが彼女に気づいた。
「ルル? それは誰のことかな?」
 しれっと惚けるルルだがすぐに思い直したのか、
「なんか違う言葉を直して欲しい……」
「ふむ、やっとルルが勉強する気に……わしは嬉しい!」
「ち、違う! 永遠の叛逆児・ルルがお勉などする訳がない!」
「全然威張れんからの、それ」
「でも、ケルベロスの力が必要無い世界になったら、ルルは誰も助けられなくなっちゃう……だったら、ケルベロスの力以外で出来ることを探したら良いのかなって」
「そうかそうか。ララ乳も安泰じゃな」
『お勉強ができるようになりたい』
 短冊を直したガイバーンは感動しきりで、
「明日槍が降らんか心配じゃが、今日は雄っぱい牛乳で祝杯じゃ!」
「そこまで!?」

『パティシエになって人々を笑顔にしたい』
 恭介が普通の短冊に認めた願いは、隣で見ていたカナには意外なものだった。
(「子供の頃、ヒーローものが好きでしたから、てっきり、ヒーローになりたいとばかり」)
 その驚きを口に出すわけにもいかず、口ごもるカナ。
「俺は絶対になってみせるさ。こう見えても甘い物好きで、子供の頃からの夢だったんだ」
 そんな彼女を安心させるように、恭介は宣言すると、
(「今までは戦うことでしか笑顔を守れなかったが、これからは戦い以外で人々を笑顔にしていきたい」)
 真摯な想いを込めて、笹に短冊を飾りつけた。
「夢が叶ったら真っ先に、煉獄寺に俺のスイーツを食べさせるよ」
 振り返り様にそんなことを言われて、カナはますます驚くも、
「ありがとうございます」
 白い前髪の内で嬉しそうな笑みを浮かべ、恭介へ自分の短冊も渡した。
『灰山さんとこれからもずっと一緒にいられますように』
「……生き別れた幼馴染はいいのか?」
 カナの事情を知っていた恭介が問うても、
「大丈夫です。もう彼は見つかりました」
 カナ当人はそう断言するだけに留めた。
 それでも、どんな人間かと訊かれたら我知らず顔を赤らめてしまうのは致し方ないところか。
「……秘密です」
「……どうしてだ?」
(「……その幼馴染が灰山さんだなんて、恥ずかしくて口が裂けても言えません……」)
 必死にはぐらかしつつも、もしかしたら彼に気づかれてはしないかと、チラチラ視線をやるカナだった。

「織姫と彦星、ずっと一緒にいられないなんて可哀そうだね」
 立派な七夕飾りと化した笹を眺めていたリリエッタは、親友の気配に振り向いて思わず目を丸くした。
「二人でいっしょに沢山書きましょう!」
 ルーシィドが両手いっぱいに短冊を抱えてきたからだ。
「リリ、こんなにたくさんお願い事思いつくかな?」
 小首を傾げるリリエッタを見守りつつ、自分も早速筆を走らせるルーシィド。
「わたくしの願い事は、お菓子作りが上達したい、夏はまたダンスをしたい、色んな場所に行ってみたい……それからそれから」
 既にルーシィドが何枚も可愛らしい願いで埋め尽くす一方、こちらもせっせと書き連ねるリリエッタは、ミッション地域の復興やゲート修復などなど。
「リリちゃんがこれから自分のしたいことを見つける手伝いになるといいのですけれど、なんて」
 あまりに他人事なお願いばかりなのを見かねて、たまらずルーシィドはさらっと本音を溢した。
「むぅ、もっとリリのやりたいことを書いていく?」
 アドバイスへ素直に頷いて、次の短冊から熟考するリリエッタ。
「リリも……色んな場所に行ってみたい。地球だけじゃなく……まだ見たことのないデウスエクスの星にも……」
「それと、リリちゃんの可愛い水着が今年も見れますように!」
「!?」
 自分自身のお願いは順調に増えたものの、突然の不意打ちに顔を赤くして、
『ルーとずっと一緒にいられますように』
 『織姫と彦星、ずっと一緒にいられますように』という短冊の裏にこっそり書きつけたそれを、慌てて他の短冊に混ぜて隠すリリエッタだ。
 その後は、珍しく翼を広げたルーシィドがデバイスでリリエッタを牽引、仲良く笹の上部へ短冊を沢山吊るしたのだった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年7月14日
難度:易しい
参加:20人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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