闘神ウルズ

作者:紫村雪乃


 篠突く雨に濡れる道を一人の女が歩いていた。
 十五歳。大きな瞳が特徴的な可愛らしい少女である。
 が、少女は人間ではなかった。黒猫のウェアライダーである。
 名はノルン・ホルダー(若枝の戦士・e42445)。よく鍛えられたしなやかな肢体の持ち主であった。と――。
 突如、ノルンは足をとめた。異様な気配を感得した故である。
 はじかれたように振り向いたノルンは見た。雨に朧に霞む影を。腕を組み、壁にもたれるようにして立っている。
 十七歳ほどか。ノルンと同じ黒猫のウェアライダーであった。
「ケルベロスだな」
 少女が目を開いた。月光のような蒼い光が零れ出る。
「あっ」
 愕然としてノルンは声をもらした。少女の顔に見覚えがあったからだ。
 とはいえ実際に見たわけではなかった。ノルンの家に伝わる肖像画に少女そっくりの人物が描かれていたのである。
 名はウルズ。闘神と呼ばれ慕われていた黒猫のウェアライダー三姉妹の長女で、ノルンの先祖であった。確かダモクレスの軍勢と戦い、行方不明になったと聞いている。
 それが何故、という疑問を抱くより先にノルンは飛び退った。少女から悽愴の殺気が放散されたからだ。恐るべき大敵と遭遇したことをノルンは悟った。
「死んでもらうぞ」
 次の瞬間、少女ーーウルズの姿が消えた。ケルベロスであるノルンですら完全には視認できぬ速度でノルンに迫る。
 咄嗟にノルンは跳び退った。その眼前、黒髪が翻る。
 地に降り立ったノルンは激痛をおぼえた。胸にウルズの指が突き刺さっている。
「なんていう踏み込みの速さーー」
 ノルンは呻いた。そして反撃に転じようとし、愕然とした。まるで石化したかのように身体が動かない。
「その若さで、そこまで至れるとはたいした天稟だ。生かしておけばどれほどのびるか……。が、そうもいかん。可哀想だが、とどめを刺させてもらうぞ」
 黄金のガントレットをつけた手を、すうとウルズはあげた。


「ノルン・ホルダーさんが、宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けることが予知されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)がいった。
「急いで連絡を取ろうとしたのですが、連絡をつけることは出来ませんでした。一刻の猶予もありません。彼が無事なうちに救援に向かってください」
「敵はどんな相手なの?」
 凄艶な女が問うた。和泉・香蓮(サキュバスの鹵獲術士・en0013)である。
「ウェアライダーの少女。死神にサルベージされたようです。強力な敵なので苦戦は必至となるでしょう」
「助けにいかなくては」
 香蓮はケルベロスたちを見回した。
「ノルンさんを救い、その少女を撃破してちょうだい」
 香蓮は告げた。


参加者
リィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)
皇・絶華(影月・e04491)
ラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
ノルン・ホルダー(若枝の戦士・e42445)
烏賊流賀呑屋・へしこ(の飲む独活の緑茶は苦い・e44955)
村崎・優(黄昏色の牙・e61387)

■リプレイ


 ウルズの黄金のガントレットが火を噴いた。ジェットエンジンの噴射炎である。
 次の瞬間、凄まじい速さの拳撃がくるだろう。そう見てとったノルン・ホルダー(若枝の戦士・e42445)であるが、いまだに動くことはかなわなかった。
「哀れ、小娘。この辺境の星の露と消えるか」
 加速させた拳をウルズはノルンにぶち込んだ。いやーー。
 岩すら簡単に砕くウルズの拳はノルンに届かなかった。彼女の拳撃は機械の腕によって阻まれていたのである。
「させないでござるよ」
 機械腕の主がニヤリとした。眼鏡をかけた、どこか飄然とした青年である。
 彼の名はラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)。ケルベロスであった。
「ぬうっ!」
 瞬間、ウルズの拳に爆発的な力が込められた。たまらず機械腕が粉砕、ウルズの拳がラプチャーを殴り飛ばした。
 まるでトラックにはねられた子猫のようにラプチャーが吹き飛ぶ。恐るべきウルズの拳撃の威力であった。
 その時だ。ウルズの視線が流れた。蒼い翼をもつドローンがウルズに迫ったからだ。
 ウルズがドローンを叩き落とした。路面に落ちたドローンが粉砕される。
「さすがだな。ドローンの不意打ちは効かないか」
 蒼髪をシュシュでポニーテールにした女が苦笑した。はなから不意打ちなど効かぬと承知している笑みである。女の名はリィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)といった。
 次の瞬間、リィンは矢を放った。空を裂いて疾ったそれは、しかしウルズを狙ったものではない。矢が吸い込まれたのはノルンであった。
 見る間にノルンの傷が癒えていく。完全ではないものの。矢は癒やしの力をもっていたのだった。
「間に合いましたか!」
 ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)がノルンに声をかけた。同じウェアライダーを見とめ、ノルンの顔が輝く。
「来てくれたんだね」
「当然っすよ」
 長い爪楊枝をくわえた女が笑った。烏賊流賀呑屋・へしこ(の飲む独活の緑茶は苦い・e44955)という名のケルベロスであるのだが、目が異様であった。地獄を覗いたことのある者の目である。
「ノルンの嬢ちゃん、あっしらが来たからにはもう心細い思いはさせやせんぜ」
 へしこが告げた。そしてウルズを見据えたまま独語した。
「先祖ねェ。故郷を失ったあっしには縁遠いものですなァ。顔だけでも見れたのは幸か不幸か…」
「良い仲間をもったな」
 すうとウルズがかまえた。するとジュリアスが傘をたたんだ。
「雨が降ってる中、子猫ちゃんを攻撃する趣味は持ち合わせてはいないのですが、仕方ないですね」
 軽口をたたきつつ、ジュリアスはウルズを見つめた。その目が笑っていないことをウルズのみ見とめた。
「では、やるか」
「もうやめてくれ!」
 シャドウエルフの少年ーー村崎・優(黄昏色の牙・e61387)が叫んだ。
「この戦いはなんの意味もないんだ!」
「意味がない、だと?」
「そうだ。今はもうデウスエクスと殺し合う必要などない。悲しみしか生み出せない理不尽な戦いをする必要なんかないんだ!」
「甘いな、少年」
 ウルズの顔に嘲りの色がよぎった。
「甘い?」
「そうだ。戦う意味はそれぞれが様々にもっている。その意味を他者が否定することなどできんのだよ」
「それでもーー僕は否定する。仲間に害を加えようとする奴がいるなら、僕は戦う。迫り来る全ての理不尽と悪意を断ち切るために」
「それが少年の戦う理由か。つまりはそういうことなのだよ」
「問答無用か…やむを得ぬ、迎撃する!」
 流星のように優は跳んだ。空を切り裂いた煌めく脚をウルズに叩きつける。いやーー。
 ウルズの姿が消失したーーようにケルベロスたちの目には映じた。神速の機動で移動したのである。優の蹴りがむなしく流れすぎた。
「くだらん」
 嘲笑う声がした。目をむけたウルズはドワーフの男の姿をとらえている。
 ウルズの目に不審の光が揺れた。男が荒みきっているからだ。男の名がコクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)であることは無論ウルズは知らなかった。
 ウルズが抱いた印象を、八人めのケルベロスである美青年ーー皇・絶華(影月・e04491)もまた感じた。怪訝そうに柳眉をひそめる。
「…コクマ? しばし見ない内に酷い顔だな」
 絶華は独語した。


「ああ…本当に許せぬ…全てが許せぬ…。ふざけるなふざけるなふざけるなぁ!」
 絶叫とともにコクマは踏み出し、鉄塊のごとき巨剣ーースルードゲルミルを振り下ろした。
 一瞬後のことである。地が爆ぜた。スルードゲルミルが地を割ったのである。またもや神速の機動でウルズがかわしたのであった。
「なんて速さ。これじゃあ、みんなの攻撃が当たらない。なら」
 ノルンが地を蹴った。疾風の速さでウルズに迫る。
 常人には視認不可能な速さで交差。風車のような回転させた神槍ーーブリュンレイスをノルンは薙ぎつけた。
 咄嗟にウルズは腕ではねた。が、足はとまった。その隙を絶華は見逃さない。
「闘神か…相手にとって不足なしだな」
 絶華の蹴撃。鉄槌のごとき一撃に、ウルズの脚が地に陥没した。
「想像以上に動きが速い…! ならば」
 ジュリアスの選択は蹴撃。空間をえぐるように脚をウルズに叩き込む。
 咄嗟にウルズは跳び退った。蹴りの威力を逃す。
 が、ジュリアスの蹴りはあまりに鋭く重かった。逃しきることは不可能である。
 そして、さらにーー。
 へしこもまた飛翔し、蹴りを放った。ジュリアスのそれよりもさらに鋭く、強烈な蹴り。蹴りの衝撃にウルズが後退った。
「くっ」
 ウルズが呻いた。脚が痺れている。蹴りを受け過ぎたのだった。
「私が生まれる前から一族を襲っていた、あの死神から続いていた宿縁。ウルズ様、あなたを倒すことで終わらせる!」
 ノルンが拳撃をぶち込んだ。獣化した彼女の拳は岩すら砕く。
 が、ノルンの拳ははじかれた。ウルズの拳によって。
「やはり散らすに惜しい天稟よ」
 空に戻ったノルンを追うようにウルズは手刀を横薙ぎに払った。放たれた重力波が空間を噛み砕きながら疾る。
 刹那、二つの影が躍り出た。ジュリアスとナノナノだ。
 とてつもない衝撃にジュリアスとナノナノの骨肉が軋む。
 鮮血を口から滴らせながら、しかしジュリアスはニヤリとした。
「残念、貴方の攻撃をホイホイと通させはしませんよ!」
 ジュリアスが反撃した。炎をまとわせた蹴りを放つ。が、燃える脚はウルズをかすめたにすぎなかった。
「今度は逃さぬ! ああ、我が憤怒。我が絶望。存分にぶつけてやろう。只の八つ当たりよ」
 身を旋転。加速させた一撃をコクマは薙ぎ下ろした。さすがに避け得ぬウルズを強かに切り裂いた。
「神速の機動力をなくしたようだな」
 リィンがゾディアックソードを地にむけた。瞬間、輝く星座が地に現出、前衛者に破邪の力を与える。
 その時、光が流れた。ナノナノが放つ優しき鉄槌である。
 ウルズは、しかし無造作にガントレットではじいた。その瞬間を狙って動いたのはへしこである。
 縦に旋回。重さと速さを十二分にのせた斬撃をウルズめがけて繰り出す。
「ううぬ」
 ウルズは呻いた。コクマとへしこにより、呪的防護を施した戦闘衣が損傷している。防御力の低下は免れなかった。
「闘神か」
 ある想いを込めて絶華は声をもらした。彼には双子の弟がいるのだが、今は離れ離れとなり、行方を探しているのだった。
 その弟は武門の家柄である皇家の次期当主となる身であった。武の道を歩む者として、きっと闘神というものに憧れをもっていたであろう。
「ならば弟に成り代わり、全霊をもって挑む!」
 絶華の腰から銀光が噴いた。たばしる霊剣『Durandal Argentum』の刃は空の霊力をまとわせてウルズを斬る。
 直後、優が襲った。
 寸前、彼はさらに空の宝くみへと飛翔している。これは癖である獣の牙鳴りのごとく左右手の喰霊刀ーー暗牙た織心の刃をすりあわせてから、優は空を蹴って落下した。いや、跳んだ。
「く゛ぅだぁけろ゛おおおおああっ!」
 加速と重さをのせて優は真一文字に刃を薙ぎ下ろした。凄絶の破壊力を秘めた斬撃は剣光を稲妻のごとく走らせ、唸りは轟雷と化して響いた。
「ぬうっ」
 初めてウルズの口から苦鳴がもらた。いかんなく切り下げられた身体が落雷に撃たれたかのように動かない。
 そのウルズを見下ろし、この場合、ラプチャーは薄く笑っていた。
「三女と次女と戦って、最後に残っていた長女でござるか。若枝の戦士殿はこの三人を糧にして、一体どういう風に成長するのでござろうね。その成長を見られるのは先の事になるでござろうが、楽しみでござるよ」
 ラプチャーの笑みが深くなり、そしてその紫色の瞳がぎらりと光った。
「その成長の為にも、しっかりと助けてケリをつけられるように力を尽くすでござるか」
 全身を覆うオウガメタルを起動。白銀の鬼と化してラプチャーは拳をぶち込んだ。

 続く闘神と番犬の攻防。それは局地的災害を思わせた。
 空は灼けた。地は砕けた。そしてーー。
 始まりがあるように終わりもまたあった。人外の戦いもまた例外ではなかった。
「く…強い相手です…後水を吸った毛並みが…!」
 ジュリアスがごちた。が、リィンは首を横に振った。
「確かに彼女は強い。が、そろそろだ」
 リィンはいった。
 彼我の損傷量。互いに、もって後一交戦であろう。
「戦が終わっても宿縁は断てぬか。なら此処で終わらせる! いくぞ、ノルン」
「わかったよ」
 大きくうなずき、ノルンは星霊剣ーーシュヴェルトラウテをかまえた。
「あなたの妹たちの想いも、この剣に込めて、いざ勝負!」


 なぜ、戦いはなくならないのだろう。
 永遠の疑問である。
 優に、その疑問に対する答えはなかった。なればこそ、優は戦う。答えを見いだすために。
 疾風の速さで優は迫った。抜き討つ刃が瘴気の尾を黒々とひいている。
 迎え撃つウルズは、しかし迅雷の速さを取り戻していた。優の刃をするりとウルズはかわしてのけた。かすめただけで火ぶくれのできそうな斬撃がウルズの眼前を疾りぬける。
「良い技前だ。が、無駄だ」
「無駄じゃないっすよ」
 とは、へしこである。優がこじ開けたい間隙にするりと入り込む。
 一瞬、へしことウルズの視線がからみあった。
「ううむ」
 ウルズほどの者が呻いた。彼女はへしこの瞳の奥に地獄を見たからである。いや、正確には地獄を超えた何かを。
 どれほどの地獄を見、どれほどの地獄をくぐり抜けたなら、人はこのような瞳をもつに至るのだろう。闘神と呼ばれたウルズですら驚嘆を禁じざるを得なかった。
 その驚嘆が、闘神の身体を瞬間的に呪縛したのかもしれない。へしこの手のナイフが閃いた。稲妻状の刃がウルズを無惨に切り裂く。
 さらにナノナノも襲った。が、ウルズはするりと身をかわした。
 その眼前、コクマが迫った。
「我が怒り…我が絶望…我が憤怒。存分に受けて貰おうか。ああ…貴様が悪いわけではない。唯この場にいた…それだけだ」
 コクマの憤怒の具現化。地獄の業火をまとわせ、とてつもなく巨大化した剣をコクマは振り下ろした。灼熱の刃がウルズを焼き切る。
「まだでござる!」
 ラプチャーが叫んだ。
 飄然としていながら、しかし戦場において彼の精神は常に冷えている。澄明な湖面を思わせる目でウルズとケルベロスの状態をはかりにかけていた。
「手助けするのは拙者達の役目、ケリをつけるのは本人の役目。先人に未来の力を見せつけてくるのでござるよっ」
 この場合、ラプチャーはノルンに微笑みかけた。その口は一瞬間で呪文の詠唱を終えている。
 人間には発音できぬはずのそれは竜語。織り上げた魔力は魔法陣を現出させ、ドラゴンの幻影を放った。仮初めの形を与えられたドラゴンがウルズを襲う。
「見たぞ」
 絶華の目がきらりと光った。わずかにウルズが態勢を崩したことを見抜いたのである。
「明鏡止水に至らせる前に仕留めさせてもらう」
 絶華がダッシュした。蹴り砕かれた地が爆散した時、すでに絶華の身はウルズとの間合いに飛び込んでいる。
 絶華の身体がぶれたように見えた。超高速での機動のためだ。
 一刹那のさらに数分の一。その一瞬間に絶華は絶華はウルズの七つの気脈を突いた。いやーー。
「さすがは」
 呻いたのは、絶華の方であった。七つの打撃のうち、四撃までをウルズは防いでのけたのである。が、それでもすぐにウルズは動けない。
「どうした? 身体が重いか? なら誉としておこう。闘神に膝を付かせる好機を繋げられたのであれば!」
「見事だ」
 ニヤリとすると、ウルズは手をあげた。
「くるでござるぞ!」
 ラプチャーが叫んだ。直後、ウルズの手刀が横一文字に払われた。
 ウルズ渾身の重力波である。なんで、たまろう。前衛に位置するすべての者が粉砕された。喪神し、戦闘不能となる。いやーー。
 ノルンのみ残った。それはジュリアスが盾となったからで。
「ジュリアス!」
「あなたが倒れなければいいだけの事。後はノルンさんにお任せします」
 ニッと笑むと、ジュリアスもまた昏倒した。
「ノルン、行け!」
 リィンが叱咤した。
 彼女にはわかる。これが決着の刻であると。ノルンと仲間たちが血を流し、築き上げてきたものだ。
 自身の想い、そして仲間の願いを込めて、リィンは矢を放った。
「此処で最後の禍根を断ち切るんだ!」
「わかった!」
 ノルンが躍りかかった。剣の英霊をその身に降ろし、潜在能力を解放する。
 ノルンの全身が金色に輝いた。可憐であったその姿が凛然としたものに変わる。
 次の瞬間、ノルンの姿が消失した。一刹那ではあるが、ノルンの全能力は数千倍にはね上がっている。ウルズですら、いや、神ですら今のノルンを見切ることは不可能であった。
「挫けない心を以って、未来を斬り開く!」
 ノルンの手のシュヴェルトラウテが存分にウルズを斬り下げた。
「見事だ」
 ウルズは嬉しそうに微笑み、そして消えた。


「やったな、ホルダーさん」
 優が声をかけた。こくりとうなずくと、ノルンは仲間を見やった。
「皆、ありがとう」
「なんの、でござる」
 へしこがこたえる。口にくわえた楊枝を上下させる彼女の目からはウルズが怯えた地獄の色は窺い知れない。
 その時である。ノルンの手のシュヴェルトラウテが粉々に砕け散った。まるで役目を終えたとでもういかのように。
「ありがとう、おやすみ」
 蛍火のような光粒子を見つめ、そっとノルンは囁いた。

「待て」
 コクマの肩をリィンが掴んだ。
「何の真似だ。はなせ」
 コクマがギロリとリィンを睨みつけた。
「はなさぬ。貴様が香蓮を襲うつもりであるならば」
 リィンがコクマを見据えた。
「貴様、ケルベロスをなんだと思っている。暴力をもって女性を陵辱しようなどとは言語道断だ!」
 リィンは大喝した。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年7月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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