シャイターン襲撃~黒の破壊者

作者:陸野蛍

●笑う妖精
「ほうほう、ここが地球ねえ。壊し甲斐がありそうないい所じゃねえの」
 とあるビルの屋上。
 魔空回廊から出て来た男は、楽しそうにうすら笑いを浮かべながら、地球の第一印象をそう述べた。
 その背にタールの翼を持った色黒の男の後ろには、16体のヴァルキュリアが虚ろな瞳をして控えている。
「てめえらの命はイグニス王子から俺様がもらったんだよ。だからな、てめえらの命は、俺様のものなんだ。分かるよな?」
 男がヴァルキュリアに慇懃無礼に言うと、彼女達は、無表情に頷く。
「じゃあ、そっちの四人だけ残って他の奴らは、地球の人間共をぶっ殺してよお、グラビティ・チェインを奪ってこいやぁ! イグニス王子の地球侵攻の前祝いだ! 派手にやってこい!」
 その言葉を聞くと12体のヴァルキュリアが、翼を広げ地上へ降りて行く。
「どうせ、あいつらは捨て駒だ。ケルベロスとやらに殺されても痛くも痒くもねえ。暴れるだけ暴れて目茶苦茶にしてきてくれよ」
 唇に笑みを浮かべたその男の瞳は濁りきっていた。

●新たな敵シャイターン
「みんなー! 緊急事態だ!」
 大淀・雄大(オラトリオのヘリオライダー・en0056)が慌てた様子で、ケルベロス達に話し始める。
「とりあえず、順を追って説明するな。城ヶ島のドラゴン達との戦いも佳境に入っているんだけど、このタイミングでエインヘリアルにも大きな動きがあったみたいなんだ」
 鎌倉奪還戦以降、エインヘリアルの動きが無かった訳ではないが、地球侵攻を指揮していたはずの、エインヘリアル第一王子ザイフリートの行方は、分からないままだ。
「簡潔に言うと、新たな王子が地球侵攻に乗り出したらしい。その王子は、ザイフリートの配下だったはずのヴァルキュリアを何らかの方法で強制的に従わせて、人間達を虐殺させることによってグラビティチェインを得ようとしてるいるみたいなんだ」
 新たな王子の侵攻と知って、ケルベロス達もざわめきだす。
「皆に向かってほしい場所は、東京都昭島市。ここに、ヴァルキュリアを指揮している、シャイターンがいるんだ。こいつを倒してほしい」
 聞いたことのないデウスエクスの名前が雄大の口から出る。
「シャイターンって言うのは、妖精8種族の一つで。今回の王子の直属の配下みたいだな。炎と略奪を司っていて、暴力衝動のままに闘争を繰り返す危険な種族だ」
 タールの翼と濁った目をしているからすぐ分かると、雄大は付け加える。
「皆に頼みたいのは、昭島市のヴァルキュリアを指揮している、シャイターンの撃破だ。こいつは、とあるビルの屋上に護衛の4体のヴァルキュリアと一緒に居る」
 ここからが今回の戦いのポイントになるからな、と雄大は前置きをして。
「こいつの指揮している、他のヴァルキュリアは、3体一組で4チームに分かれて虐殺行為を行おうとしてるみたいなんだけど。そっちのヴァルキュリアが苦戦すると、戦場に援軍を送るんだ」
 大まかに言うと、ケルベロスの状況にもよるが、最初の2体が3分から5分後。次の2体が7分から10分後に派遣されると考えていいと言うことだ。
「つまりだ、ヴァルキュリアとケルベロスの戦闘が開始されて時間が経ってからの方が、シャイターンの護衛は減って、シャイターン自体は撃破しやすくなるってことだ。ただし、他の戦場にヴァルキュリアの援軍が来て、そっちは大変になる」
『だけどな』と雄大は人差し指を立てる。
「指揮官であるシャイターンを倒すことが出来れば、ヴァルキュリアと戦う仲間達を有利にする事ができると思われる」
 雄大曰くヴァルキュリアの意識が混乱状態になると言うことだ。
「どのタイミングで襲撃をかけるかは皆に任せるけど、確実にシャイターンを倒してほしい!」
 シャイターンの撃破が皆に頼む任務の最優先事項だと言うことを雄大が強く言う。
「シャイターンの戦闘方法なんだけど、今回が初めての戦闘になるからよく分からない部分が多くて、何らかの方法で炎を操るって事と武器が鎌ってことしか分かんないんだよな……ごめん。ヴァルキュリアの武器は4体ともルーンアックスだな」
 雄大自身も新たなデウスエクスの襲来に困惑している部分があるのが見て取れる。
「今回は、情報の少ない敵だし、難しい仕事だと思うけど、皆ならどんな敵でも倒せるって信じてるから。シャイターンに地球にはケルベロスがいるってことを教え込んで来てほしい! 頼むな!」
 雄大は、最後に笑顔を見せると、足早にヘリオン操縦室に向かった。


参加者
華槻・蒼衣(氷の修羅・e00234)
佐々川・美幸(忍べてない・e00495)
シロン・バルザック(トゥインクル・e02083)
槙野・清登(惰眠ライダー・e03074)
雛祭・やゆよ(オラトリオのミュージックファイター・e03379)
アベル・ウォークライ(ブラックドラゴン・e04735)
端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)
淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447)

■リプレイ

●嫌悪
「破壊、略奪、自分の手を汚さねえで駒が勝手にやってくれるんだ。イグニス王子にも少しは、感謝してもいいかもな」
 後ろにガラスの様に輝きを失った瞳のヴァルキュリアを従え、シャイターンは、昭島市の町並みが破壊されるのを愉しむ様に眺めている。
「それにしても、話には聞いていたが、ケルベロスってのは鬱陶しいみたいだな、早めに片をつけちまうかねえ」
 シャイターンは、言いながら後ろのヴァルキュリアをちらりと見て、もう一度戦場に視線を戻す。
 その姿を、壁越しに見ながら、ケルベロス達は苛立ちを覚えていた。
「ホント、シャイターンって卑怯者! とっちめてヴァルキュリア達を助けてあげるんだから!」
 佐々川・美幸(忍べてない・e00495)がシャイターンへの怒りを口にする。
「にしても、次の王子は、ザイフリートよりあくどい手を使ってくるみたいだわね……」
 シャイターンの態度も気に入らないが、新たに侵攻してきた王子の手腕が気になるのは、雛祭・やゆよ(オラトリオのミュージックファイター・e03379)だ。
 その間にも市街のケルベロス達とヴァルキュリア達の戦闘は激化していく。
 その光景にシャイターンが舌打ちする。
「ちっ! 本当にヴァルキュリアってのは使えねえな! もう二匹位出してやるか? 俺様は、優しいからよ、援軍ってやつだ」
 シャイターンが苛立ちを隠すように言う。
「……そろそろじゃな」
 リボルバー銃を握りシャイターンを急襲するタイミングを測るのは、 端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)。
「ここで手早く、シャイターンを倒せるか否かに、ヴァルキュリアの相手をする者と、ヴァルキュリアの命運がかかっておるのじゃ」
 括の少女を思わせる可愛らしい顔に一筋の汗が流れる。
 そんな時だった。
「もう、めんどくせえな! てめえら二匹! お前等も暴れてこい! ケルベロスってのを殺してくるんだよ! それまで戻ってくんじゃねえぞ!」
 シャイターンが苛立ちのままにヴァルキュリアに命令すると、斧を携えた二人の乙女は、表情の無いまま市街の戦場へ降りて行く。
「イグニス王子も役立たずよこしやがって……」
 その時、氷の様な寒気を感じるオーラがシャイターンを襲った。
「命をもらっただの、俺様のものだのと……。炎と略奪を司るか知らんが、その言動は……少なくとも、俺の本気に火を点けた」
 シャイターンが気にも留めない程の目立たなさで接敵し、奇襲をかけた槙野・清登(惰眠ライダー・e03074)は、静かな怒りの言葉をシャイターンにぶつける。
 ケルベロス達の時計の針は市街での戦闘が始まってから、4分が経過していることを指し示していた。

●醜悪
「てめえら! ケルベロスか! めんどくせ……」
 シャイターンがケルベロス達に気付き攻撃態勢に入ろうとした時、無数の刀剣が上空から現れシャイターンを襲った。
「お前に掛ける情けは無いだろう? すぐに消えてもらう」
 攻撃の主、華槻・蒼衣(氷の修羅・e00234)は、石ころでも見るような瞳でシャイターンを見ながら無機質に言う。
「何だと。ヴァルキュリア共! こいつら……! グフッ!」
「貴様のその眼とやり方は気に入らん!」
 赤く燃ゆる炎をシャイターンにぶつけ、同じく怒りの炎を宿した赤い瞳のアベル・ウォークライ(ブラックドラゴン・e04735)が異形の大鎌を構え言い放つ。
「地球人風情が! ケルベロスだろうと関係ねえ!」
 シャイターンが大鎌を回転させ投げつけるも、光の壁に阻まれケルベロスを傷つけることなくシャイターンの手に戻る。
「お前のようなゲス野郎には、仲間は傷つけさせない! 自分達の手を汚さずとか許せないニャ!」
 光の障壁を形成した、シロン・バルザック(トゥインクル・e02083)がボクスドラゴンのメテオと共に怒りの視線を向ける。
「お前を倒す為なら……。俺は、オレは自分を抑えない!」
 同じく怒りに燃える、淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447)のフードで隠れた瞳は金色に輝きだす。
(「地球に来たことを後悔させてやる!」)
 死狼は、普段見せないケルベロスの牙を剥き出しにしようとしていた。
「地球とか、おめえらのこととか知ったことかよ! 俺様は破壊と略奪を楽しみてえんだよ!」
 シャイターンの言葉と同時に二体のヴァルキュリアがケルベロス達に襲いかかる。
 ヴァルキュリアの斧は意思こそ乗っていないが無情に、シロンと美幸を傷つける。
 すぐさま、シロンが癒しの雨を降らせると少しずつ、傷を癒していくがヴァルキュリアの猛攻は止まらない。
 美幸はヴァルキュリアの攻撃を受けながら、あることを強く思っていた。
(「ヴァルキュリアは今は敵かもしれないけど、こんな形での戦いを望んでるはず無いもん!」)
「だから、正気に戻って!」
 想いをこめてヴァルキュリアにグラビティの一撃を放つ。
 攻撃を受けヴァルキュリアは、一歩分後退するがすぐに斧を構え直す。
「お前等馬鹿じゃねえの? そいつらは俺様のお人形なんだよ。聞こえねえって」
「……なら、お前を倒すのみ」
 蒼衣がシャイターンの死角となる斜め下から斬撃のモーションに入る。
 同時に、清登、括、死狼、アベルもシャイターンへと攻撃を仕掛けていた。
 シャイターンへの集中攻撃、そして短期決戦。
 ケルベロス達は、その為に一気に動いていたのだ。
 だが……。
「それとな、おめえら。あんまり俺様を舐めてんじゃねえぞ」
 シャイターンが言った瞬間シャイターンを中心に外へと爆発的な砂嵐が巻き起こる。
 全くの無動作からの攻撃に、地に伏すケルベロス達。
 ディフェンダーの清登だけは、どうにか膝をつく所までで態勢を整える。
 だが、清登の意識ももやがかかったように晴れない。
「バッドステータスの付与まで!」
 シロンが慌てて癒しの雨を降らすが、その隙をついたヴァルキュリアの攻撃でシロン自身も傷ついてしまう。
「皆が立て直せるまでアタシが喰い止めるだわさ!」
 やゆよが時空の流れを止める一撃をシャイターンにぶつける。
「だから、あめえって言ってるんだよ!」
 シャイターンの黒い炎がやゆよの腹部に直撃し燃え続ける。
「ケルベロスってのがこの程度で拍子抜けだなあ! ……グフッ」
「……敵に背を向け油断するのは甘くないのか?」
 シャイターンの横腹を死狼の黒い槍が貫いていた。

●憎悪
「……てめえら、しぶてえな。チッ! 命を持ちし蛇よ」
 シャイターンが呟くとシャイターンの掌に黒く不気味な蛇が現れ、シャイターンの身体を伝ってシャイターンの口に呑みこまれていく。
 その隙をついて、括が流星の如き蹴りをシャイターンに加えるが傷が癒えて行く。
「……どうやらヒールグラビティの一種の様じゃの」
「だから、言ってんだろうが! おめえらじゃ、俺様に勝てねえんだよ! ヴァルキュリア共! おめえらもちんたらやってんじゃねえよ!」
 シャイターンが叫ぶと同時に、ヴァルキュリアと交戦中の美幸に炎を飛ばす。
 だが、その一撃は、清登のライドキャリバーがボディで受け止める。
「チッ!」
「貴様は、いちいち気に入らない事を口にせねば気が済まんようだな。ならば、その口塞いでやろう」
 アベルの身体を地獄の炎が包み始める。
「真なる黒竜の力を見せてやろう!」
 地獄の炎を纏い巨大な黒竜と化したアベルは空中へ舞うと、超高速の羽ばたきでシャイターンに突撃する。
 そのあまりの大きさに防ぐことが敵わなかったシャイターンだが、直撃の瞬間アベルの首筋を大鎌でざっくりと切り裂く。
 その上で、タールの翼を器用に操り衝撃も抑えるシャイターン。
 一方アベルは、本来の大きさに戻り地に伏してしまっている。
「だから、あめえ! あめえ!」
「甘いのはそっちじゃない? このシャッターは『痛み』を写し、積み重ねる……ッ!」
 清登は、スマートフォンをシャイターンに向けるとシャッターを切る。
 その度にシャイターンに斬撃が奔る。
「おもしれえ技だ。……だがな」
『ザシュ』
 その音と共に清登が崩れ落ちる。
 血を滴らせた斧を持ったヴァルキュリアがガラス玉の目で清登を見下ろしている。
「お前等の相手は、俺様だけじゃねえんだよ。こいつらは傷つけたくねえとか甘っちょろい考えでも持ってるんだろ? だから、あめえって言ってるんだよ!」
「戯言はそれだけか?」
「笑いたきゃ笑えよ。その代わり、これでも喰らえ!」
 蒼衣の背後に霊力が高まっていく。
「裂きて殺せ。抉りて殺せ。穿ちて殺せ。……刀身開放。舞い踊れ」
 具現化された幾千もの殺意の刃がシャイターンに襲いかかる。
「てめぇの蛇じゃ癒せない程の蛇の痛みだ! 光の差さない、海の底へと消えて行け」
 黒い液体が嫉妬という概念と合わさり、何者も噛み砕く蛇の形を形成していき、シャイターンに喰らいつく。
「ウギャーーーーーー!」
 無数の刃と嫉妬の蛇に喰われたシャイターンの姿が土煙りの中に消えて行く。
「砕け散れぇぇッ!」
 死狼の叫びとと共に土煙りは収束するかに思えた……しかし。
 土煙りは収束するどころか、細かな粉塵となり砂嵐を形成していく。
 その砂嵐は、死狼と蒼衣を呑みこみ、二人を地面に叩きつけた。
「まだ、私がいるだわさ!」
 やゆよが、土埃の中にうっすら見える人影に、回復能力を阻害するウイルスを放つ。
 そのウイルスは人影に命中し、もだえ苦しんでいる。
「やっただわさ!」
「残念だったな」
 いやらしく響く言葉と共にやゆよの肩から背中にかけて斬撃が奔る。
 倒れるやゆよの目に映った、土埃の中の人影はヴァルキュリアだった。
「ヴァルキュリアを身代わりにするとは……」
 やゆよの背に立ったシャイターンへと、一気に距離を詰め、ナイフでシャイターンの首をかすめる括。
「駒の使い方は、俺様の自由だろうが!」
「おぬしがその娘らを駒と言うのならおぬしも、じゃろ? キャッ!」
 括の腹部が炎に包まれる。
「てめえらうるせえんだよ! ザコ共が!」
 苛立ちながら、吠えるシャイターン。
「シロンさん! 皆の回復は?」
「全力でやってるニャ!」
 美幸も回復に回らなければならない状態だが、美幸一人では目の前のヴァルキュリア一体を引き止めるだけでも精一杯なのだ。
 シロンは生命の電流をアベルに送り続けていたがそれだけでは負傷者が多すぎて追いつかず、雷の癒しを全体にかけている状態なのだ。
「おめえさえ、潰せばおめえらお終いみたいだな?」
 シャイターンが大鎌を振りかぶり、シロンの首に向かって大鎌を投げつける。
 その瞬間に美幸の目に映ったのは、その巨体でシロンを包むアベルと立ち塞がる清登だった。
 大鎌は清登の胸元を大きく切り裂く。
「二人共! 大丈夫かニャ!」
 シロンが駆け寄るとアベルは、静かな声で。
「シロンが集中的に回復してくれたお陰で何とか動ける……だが」
 シロンにも理解出来た。
 攻撃に移れるものがいないのだ。
 なら……。
「まことのみんなの幸のために私のからだをおつかいください」
 言葉と共にシロンは、炎で身体を燃やす蠍を召喚する。
 炎の蠍はシャイターンを罪を犯せし者と認識しその炎で焼きつくす。
「ウギャー!」
 シャイターンのコールタールの翼が異臭を放ち、燃えあがる、
「……おい! てめえ! こっちに来い! ヒールだ!」
 シャイターンが美幸と対峙するヴァルキュリアに助けを求める。
「ヴァルキュリアを傷つける気は無いけど、助けさせる訳にもいかないんだよう!」
 美幸を背にしてシャイターンに向かおうとするヴァルキュリアに向かって美幸はグラビティで作り上げた手裏剣を構える。
「忍法、影縛りの術!!」
 手裏剣の束縛でヴァルキュリアの動きが止まる。
「くっそ! てめえらの相手はまたしてやる!」
 シャイターンが逃走しようとする。
「そうは、いかぬのじゃ。おぬしを倒さねば、ヴァルキュリア達の意思も戻らぬのでな……」
 括は膝を付きつつもシャイターンに向けて6発の弾丸を放つ。
「ひとふたみぃよぉいつむぅなな。七生心に報いて根国の縁をひとくくり。さて、おぬしの御魂は此方側かの彼方側かの?」
 括の放った弾丸は、御業の力を借りて6体の分身となって、銃弾を放つ。
 その銃弾はシャイターンを中心に陣を描くと生と死を分かつ結界となり、シャイターンの魂を死へと誘う。
「こ……の……クソ共が」
 その言葉がシャイターンの最後の言葉となった。
 時計の針は、ヴァルキュリアの攻撃開始から9分が経とうとしていた。

●巨悪
 シャイターンの身体がそのタールの翼だけを残して消えると、ヴァルキュリア達の瞳に生の色が戻ったが、どう動けば分からないと言った状態になった。
 今にも、手に持った斧でお互いを攻撃してしまいそうな程だ。
 ケルベロス達もシャイターンとの戦闘でボロボロだったが、ヴァルキュリア達を救いたいと思っていた。
 ケルベロス達は武器を納めると、静かに語りかけた。
「もう誰にも君達を物のように扱わせはしない」
 清登が片膝を付いて語りかければ。死狼が清登に肩を貸しながら。
「別に僕らは、あんた達を殺したい訳じゃない。それよりあんた達にはやるべきことがあるはずだ」
 その言葉に、ヴァルキュリアは更に瞳に色を戻す。
「ザイフリートは生きているよ。ただ彼も窮地に陥っている」
 蒼衣が温和な声で今現在の事実を伝える。
「ザイフリートは、多摩ニュータウンで、今まさにイグニスが放った、シャイターンに殺されそうになっているのよさ」
 やゆよの言葉でヴァルキュリア達はお互いの顔を見合わせる。
「他のヴァルキュリアさん達は、皆が止めてくれてるニャ。王子の所にも駆けつけてくれてる。オレ達は、絶対貴女達の仲間を助けるニャ。だからオレ達を信じて」
 シロンの言葉を受けると、ヴァルキュリア達は頷き合い『ありがとう』と一言言って空へ羽ばたきだす。
「……また別にじっくり話し合うとかしたいじゃない」
 美幸が珍しく寂しげな少女のような雰囲気でポツリと言った。
「それにしても……」
 まだ立ち上がることが出来ない、アベルが重い口調で言う。
「……そうじゃな」
 括も同じことを考えていたのだろう。
「なんとか押し切ったが、壊滅寸前の勝利。シャイターンを倒すことも出来なかった可能性があった。危ない橋だったと言わざるをえないな……」
 勝てたとは言え、負傷者の数が敗北の可能性があったことを物語っている。
「ヴァルキュリアをなるべく傷つけず、シャイターンをいち早く倒す。それは、出来たけどね」
 蒼衣もヒールで回復しきらない傷を受け、立っているのも辛い状態だ。
「僕達が倒したシャイターンが操っていた、ヴァルキュリアと戦っていた仲間達が、いい成果をあげてくれると信じましょう」
 死狼の言葉にケルベロス達は頷いた。
 自分達は傷ついてでも、仲間達の勝利に貢献したかったのだからと。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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