螺旋道、未だ黎明なり

作者:久澄零太

「はっ、はっ、はっ……」
 軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)は走る。日本家屋立ち並ぶ、寂れた町跡を。
「くそっ、どうしてわからない!? 俺たちはもう戦わなくていいんだ!!」
 飛び込んだ路地裏、物陰に潜んでやり過ごそうとすれば。
「グラビティチェインを奪う必要がないというのだろう? その事情は承知している」
「ッ!?」
 頭上からの声に飛びのいた直後、貫通性を磨き上げた螺旋の手裏剣が地面を穿つ。飛び降りた男は双吉を見据えて。
「されど我等、星光忍者に立ち止まる理由はない」
 一瞬だけ、心を殺したはずの忍に寂寞の念が垣間見えるが、すぐさま殺意に塗り潰されて。
「螺旋の力とお命、頂戴する……!」

「みんな準備できてるよね!?」
 緊急招集をかけた大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)は、頷く番犬達を連れてヘリポートへ走る。
「軋峰さんが螺旋忍者の襲撃を受ける予知があったんだけど、連絡がつかないの! 本人の居場所は分かってるから急いで救援に向かうんだけど……!」
 事前に通達した情報を繰り返し、並走するブリジット・レースライン(セントールの甲冑騎士・en0312)が「皆、心得ている」と頷いた。
「敵は不退転の覚悟で殺しにくるよ」
 それは、デウスエクスであれば変わらぬ様相に思えたが。
「今回の忍者は、生きるために戦ってきた他のデウスエクスと違って……なんていうか、死に場所を探してる気がするの……」
 番犬達の活躍により、グラビティチェインの枯渇は回避されつつある。その中で番犬を狙る理由とあれば……。
「矜持、だな」
 ぽつり、ブリジットが呟いた。
「今まで歩んできた道のりを、今更変えることなどできないのだろう。番犬を殺すことに、何らかの『意義』を持つ忍者連中だったんじゃないか?」
 今、自分たちは仲間の命を救いに向かう。そして、相手が貫きたかった『信念』を踏みにじらなければならない。胸中、感情の混沌が渦を巻く。それでも、白猫は離陸に備えた太陽機を前にして。
「それじゃみんな、いってらっしゃい!」
 必ず生きて帰って来いと、戦場へその背中を押すのだった。


参加者
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
クリームヒルデ・ビスマルク(ちょっとえらそうなおばちゃん・e01397)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
清水・湖満(氷雨・e25983)
バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)
アンヴァル・ニアークティック(バケツがガジェット・e46173)
リリエッタ・スノウ(未来へ踏み出す小さな一歩・e63102)

■リプレイ


「そこに意味も誰からの理解も不要ず……!」
「今回はッ!」
 飛び掛かる日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)の顔面に白猫の拳がめり込み。
「遊んでる場合じゃ!!」
 捻りを加えて撃ちだされる鉄拳は漢の体にジャイロ回転をかけて、開いた太陽機の扉へ送り出す。
「ないって言ってるでしょ!!!」
 更に飛来する追撃の蹴り。軌道を直角に曲げ、戦場へと蒼眞を叩き落すのだった……。
「うぉ!?」
「何奴!?」
 対峙する二人の間に蒼眞が落下したことで、軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)と忍者が同時に飛びのき、彼我の距離が開く。
「まだ螺旋忍軍って生きてたのね。そろそろ絶滅危惧種に指定されてもいいんじゃないかな?」
 クリームヒルデ・ビスマルク(ちょっとえらそうなおばちゃん・e01397)が呆れたように歌声を紡ぎ、双吉が吠える。
「星は滅んだ、雇い主になるような奴ももう地球にはそんないねぇ。なんだって、武器を手に取るんだよ、おっさん!?」
「お前達と同じだ」
 淡々と、しかし瞳の奥に揺らがぬ灯を見せた忍が苦無を握り。
「貴様らは皆、寿命で死ぬ。されど、死に際に想いを託し、連綿と繋いできた鎖を持つ。我等は果てた同胞と掲げた悲願を抱く。ただ、それだけだ……」
「走り出して突き進んだ己の道。振り返ろうにも踏み止まれない所まで……なんてよくあります」
 もはや相手の後ろに道はなく、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は微かに目を細める。
(ひたすら前を進むしかないと考えたらまるで誰かさんみたい。つい最近のダモクレスもそうだったように……)
 手を取り合えば、異なる未来もあっただろう。だが、そこに一切の妥協が許されない以上、伸ばした手は重ならずに拳へ変わる。
「これまでを戦い抜いた仲間、恩義ある双吉さんを狩らせはしません」
 竜鎚が大地を打つ。その重圧は巨大な窪みを残し、反動を以てミリムを空へ。
「命を取るなら逆に取られるのも覚悟の上……」
 ですが。問いかけと共に振りかぶる得物が冷気を纏い、白く染まれば氷塊に姿を変え、天へと延びる氷柱を目で追えば、落下に伴い、成るは氷山。
「結果はどちらだろうと構わないとか、そんな自棄ではないでしょうね!?」
 並みの侵略者であれば一撃の下に粉砕したであろう、凍結の殴打。その命中の瞬間に、対峙していた双吉は見ていた。
「不味い……!」
 忍の目には、ミリムしか映っていない。その意味を悟って走り出す。距離にしてほんの数歩。だというのに縮まらない距離の中で、捉えたのは最小限の螺旋を纏う刺客。防御にしては展開範囲が狭く、回避するには回転が遅い。
「貴様には殺意が足りぬ。後続へ繋ぐ攻めなど、拙者には生温い!!」
 端から受けも避けも狙っていない。額を割られ、滴る血液すらも凍てつかせた忍の掌底がミリムの胸へ伸ばされるが、双吉が割り込んで急所を躱し左の腹で受けたものの。
「ごぷ……!?」
 皮を裂く事なく臓腑をすり潰す螺旋の衝撃。血液と肉片が胃に逆流し、やたら重みのある吐血をした双吉が崩れ落ちた。
 続けて自分の首へ振り下ろされる苦無を視界の端に捉え、螺旋に編んだ重力鎖を手裏剣代わりに相殺を狙うが、相手は自らの腕でそれを受け、得物を加速。
「敵さんが命をかけて挑んでくるんなら、私らも命をかけるしかあらへん」
「ぶほぉ!?」
 清水・湖満(氷雨・e25983)が地面を滑るように差し込んで、双吉の顔面を蹴り飛ばして位置をずらしながら自らの太腿で斬撃を受ける。
「殺すか殺されるか!燃えてきたわぁ」
「笑ってる場合か!?」
 湖満の首を刎ねようとする忍の苦無を、鎖で繋がれた棒の片割れで弾き、敵の視線が蒼眞へ滑る。踏み込みの所作すら見せない忍を前に、得物は引き戻せずとも手元の片割れを振るえば繋ぐ鎖が相手の肘へ絡みつくも動きは止まらない。胸……心臓への直撃を予感し肩で受けた蒼眞だったが、肉の引きちぎれる音と共に鈍い音が二つ。腕を捻じ曲げられ肩関節が前後逆に嵌り、片腕が激痛に囚われ使い物にならなくなる。
 一方湖満は狂気を纏い、白い着物を鈍血に染めた。太い血管と筋繊維の塊を刃で抉られ、人並みの精神では激痛と失血の衝撃で意識が持たなかったのか、湖満は笑いながら脚を叩く。
「いけません!太腿の傷は命にかかわりますよ!?」
 バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)が慌てて駆け寄る。ちらと蒼眞を見たが、そちらは諦めたらしい。
(脱臼状態を骨格が記憶してしまうのは、後々の後遺症が恐ろしいですが……)
 彼に『次』はない。見切りをつけて湖満へと駆ける。脚の肉を貫かれ、筋繊維と血管を切り開かれた湖満と、片腕をねじ込まれた蒼眞。
 この場で即座に治療を施すとなると、一度関節を外して神経や血管を傷つけることなく正しい位置に骨を合わせる必要がある分、蒼眞の治療には手がかかる。であれば、最終的に部隊全員の生存を目標とするのなら、あちらを見捨てて単純に止血と補強を施すだけで済む湖満の治療に集中した方が効率がいい。
「医者の、辛いところですね……」
 誰かを見殺しにしなければ、より多くの犠牲を出す事になる。分かってはいても、割り切れるものではない。
「なんや、うちの傷塞いでくれはるん?」
「えぇ、とはいえあまり無茶は……」
 ふと、傷口を見たバラフィールが止また。
「血が、止まっている……?」
「おみ足いうんは、肉の塊やろ?せやから、脚の筋肉で傷口塞いどけば多少は違うやろ」
 筋肉を緊張状態にすればわずかとはいえ膨張、硬化して傷口を閉ざす事はできる。だが、それは同時に激痛を伴う行為のはずで……。
「無理をしないでください、すぐに繋いで見せます……!」
 失礼。短く断り、湖満の着物の裾を開く。刺された腿にこびりつく一部の血は既に黒変して固まり始めているが、拭って傷口を確認。断ち切られた肉の断面は、鏡写しの如く美麗。消毒と共に血管を繋ぎ合わせ、湖満自身の治癒能力に任せる形で癒着を促し、元の形へ治して見せるが。
「強い衝撃があれば簡単に傷が開きます。くれぐれも無茶は……」
「せぇへんと勝てへん相手やろ?」
「ッ……!」
 薄らと笑う湖満へ、バラフィールは返す言葉を持ちわせていなかった。


「最早、戦う理由はないのに、相変わらず戦いを仕掛けてくる宿敵達。信念だか死に場所だか知りませんが、そんなんで人様の命を奪うのを……正当化されちゃあ敵いません」
 アンヴァル・ニアークティック(バケツがガジェット・e46173)はぶっ倒れたままの双吉の顔面にバケツの中身をぶちまけて。
「奪おうとする者は、いつか奪われ、全てをなくすってことを……教えましょう」
「治療にもうちっとやり方はなかったんかねぇ!?」
 せき込む双吉であるが、再び立てる程度には腹の中の激痛が収まっている。その姿を前に、忍は目を細めて。
「ならば拙者は、全てを失った後、その先をお見せしよう……!」
 再び得物を構える忍へリリエッタ・スノウ(未来へ踏み出す小さな一歩・e63102)が頬を膨らませた。
「むぅ、もう戦う必要なんてないのに戦ってばかり。行き止まりになったら戻って別の道に進めばいいだけなのにね」
「道がないのなら、その壁を打ち砕くのみ。我等に他の道など、ありはしない!」
 マリンセーラービキニのリリエッタと、全身を覆う忍装束の刺客。真逆の衣装に身をを包んだ二人だが武装を構えたのは同時。あるいは水鉄砲、あるいは苦無を手に視線を引き絞るが。
(単純な速度なら、リリが上……!)
 相手はリアクションを放棄して反撃に専念してくる。ならば、狙いが多少ブレても命中する分、先に攻める番犬が優位。
(多分、一撃耐えられればいい方、かな)
 向こうが攻撃に集中している分、回避に専念しなければ番犬側も必中。それでも、リリエッタは小さく首を振って。
「相手が全力ならリリも全力でいくよ!」
 引金を小刻みに二度引く。通常の銃と異なりリリエッタが持ち込んだ武装は水鉄砲。タンクに水がある限り装填の必要はなく、トリガーによって発射される水量、水圧の調整が利くため。
(先の二発は牽制、本命はこっち!)
 敵が両肩に水弾を食らい、反撃に動き始めた瞬間に放たれる三発目。顔面に直撃させて動きを鈍らせたものの、心臓を外した苦無はリリエッタの鳩尾に突き刺さり、すぐさまトーキックが苦無の尻に突き刺さる。
「カハッ……!」
 貫通した切先はリリエッタの背骨を掠め、背中から逃げ出していった。急所への命中こそ躱したが、どうあがいても次はない。
「これは……いよいよ厳しいかな?」
 戦況を鑑み、クリームヒルデは苦虫を噛む。癒の型を二人配置して立て直しを狙った今回の布陣だが、反撃という形における相手の手数に対して、対応が追い付かない。
「浪漫はおばちゃんも大好物ですが、守るものが増えてくると……好き嫌いばかり優先するわけにもいかないんだなあ、これが。昔みたいに、やんちゃしまくってた時代が懐かしいぜ」
 理想を言えば、全員が立ったまま勝利を掴みたいが、現実は甘くない。
「まあ、やんちゃは若者に任せて、年寄りの役目とやらを果たしましょうかのう」
 軽い身であれば、自分を盾にするという選択もあっただろう。夫と子を待たせる身になってしまえば、そうもいかない。
「いつの間にか、重たい体になったもんだ」
 白い帽子を引き下げて、クリームヒルデは歌う。自分にできない戦いを、若き後続に託して……。


「俺自身、火力に自信がある方じゃないが……」
 上空に暗雲が立ち込める。積乱雲は蒼眞の頭上で渦を巻き。
「積み重ねれば……戦闘が長引けば、どうかな?」
 落ちる雷は蒼眞の刀に宿る。込められたのは電流と、異次元の英雄の意思。
「ならばここで、終わらせるのみ」
 片手で刀を構える蒼眞に、忍が苦無を構える。
「全てを斬れ……雷光烈斬牙!」
 脚を前後に開いて刺突に構え、二つの刃がすれ違う。リーチ差で稲妻を帯びた蒼眞の刀が先に刺客の体を穿つが、構わず敵が踏み込んで……。
「一巻きごとに僅かでも確実に前に進む……それが螺旋の力だ……なんてな」
 胸に苦無を突き立てられて、蒼眞が崩れ落ちていった。彼の最期の言葉を噛みしめているように見えた彼が、引き抜いた刀を背後に振るい、ミリムの黒き大斧を受け止め、弾き返しながら刀を投げ捨てる。
「片手で……!っていうか今、防ぎませんでした!?」
 両手を振り上げた格好でたたらを踏んだ格好のミリムの懐へ忍が踏み込んでくるが。
「あちらさんも追い詰められとるってことやろ。戦場で想定外が起こったくらいで狼狽えるんやない!」
「へぶっ!?」
 ミリムの脇腹に湖満の肘鉄が刺さり、彼女の体を吹き飛ばして敵の射線に自らの体を差す。胸に触れられた直後、両の肺が握り潰されたような不快感。脳が警鐘を鳴らし、痛覚を切ったのだと察した時には喉を鉄臭い熱が這い上がってくる。
「ッ!?」
 血の塊を吐き出して、敵が『外した』のだと察した途端に激痛が腹の中で荒れ狂う。帰ってきた痛覚に口角を上げ、残った肺の片割れで酸素を取り込みながら、湖満は笑った。
「一撃の……キレが……なくなってきとるで……?」
「安い挑発を……」
 そうだ、それでいい。こちらを狙え。そして……。
「行きます!合わせて!!」
 刺客を囲む五つの点。五芒星の術を警戒した忍へ、ミリムが踏み込む。
「この一撃は必滅の理……」
 足元に描かれた紋章を踏んだ瞬間、ミリムの手には一振りの槍。
「我が一撃は貫く闘志の結晶!」
 刺し貫き、回り込んだ背後で朱染めの槍を捨て、新たに顕現した槍を振るう。
「見るがいい、これ成るは女王の守護たる誉の槍!」
 一度振るえば再び構えるまで隙が大きい槍を捨て、新たな槍がミリムの手に現れて。
「風槍よ、穿て!」
 至近距離の投擲。単純な腕力よりも速く、強烈な一突きが忍を貫き最後の槍が、ミリムに握られた。
「女王騎士の五本槍、ここにあり!!」
 油断なく、確実に運んできたミリムだったが。
「面白い技を持っているな」
 忍は既に貫通された腕で、槍を受けた。前腕を支える骨の間に穂先を潜り込ませ、肉を裂きながら肘関節に刃を食い込ませて動きを止める。
「しまっ……」
 伸ばされる腕を前に、巨大な影が割り込んで。
「素晴らしい槍捌きだったぞ」
 微笑むブリジットの体を、苦無が穿つ。突き刺さった得物に拳が重なり、大柄な彼女の体に風穴が開けられて、背に庇うミリムが鮮血に染まる事になるが、人馬はまだ倒れない。
「やられっぱなしは、趣味ではなくてな……!」
 殴りつけた直後の刺客を蹴り飛ばし、血を噴き出しながら跳躍。中空で槍を突き立てたブリジットが着地と同時に得物を深く突き立てて、その動きを封じると。
「く……」
 急所をぶち抜かれた彼女は、自らの血溜まりへと沈んでいった。
「小癪な真似を……!」
 槍を引き抜き、よろけながら立ち上がる忍だが、その後頭部に銃口が添えられる。
「この距離なら、絶対に外さない。逃がさない」
 トリガー。送り出されるのは圧縮された空気に押し出される水の弾丸。一撃で態勢を崩させて、二撃目がノーガードの背中を吹き飛ばし、三撃目がダメ押しとばかりに刺客の骨から悲鳴を搾り取る。
「チッ……!」
 空中で受け身を取り、体勢を立て直した忍。その隙にアンヴァルがバケツを振りかぶって。
「今のうちにこちらの体勢を整えます!息止めて!!」
「ふきゅっ!?」
 リリエッタの頭をバケツに突っ込ませ、胴体の穴を塞ぐアンヴァルの傍ら、バラフィールが湖満に駆け寄ろうとするが。
「うちはいらんで」
「何を言っているんですか!?」
 そっと、片手で制して、地面を滑るように走り出す。医者が視線で追った先には、苦無と螺旋を纏わせた手刀で打ち合う忍と双吉。
「今の一瞬で……!」
「盾役が気張らんでどうするの!」
 湖満の言葉は自らへの激励か、バラフィールへの叱咤か。
 お互いの得物が弾き飛ばされ、防御に向けて双吉が半歩引き、刺客が一歩踏み込む。双吉の瞳孔が開き、忍の目が引き絞られて……その視界が、白い花模様に埋め尽くされる。
「……後は、任せたで」
「お前……!」
 撃ち込まれた掌底、駆け巡る衝撃。螺旋状に撃ち込まれた重力鎖に臓腑をかき乱された湖満は、最後に口の端から血を垂らし、肩越しに微笑んで散っていった。
「邪魔を……するな!」
「俺のこの螺旋は恩人からもらったモンだ。気前良くお裾分けたぁいかねぇんだよッ!!」
 忍は腕を引き、双吉は拳を構える。
「いけない、真正面からぶつかったら……!」
 相手が狙うのは後の先ですらない相打ち。人類と侵略者という生命としての格差がある以上、勝敗は……バラフィールはその『結末』に向けて待機していた浮遊機を連結。戦乙女の姿を取るが。
「うるせぇ!」
 双吉はただ、一喝。
「無理だ、敵わない、そういう戦いだからこそ!」
 ダンッ!忍と番犬。両者が最後の一足を踏み込んだ。
「俺はこの螺旋で乗り越えなきゃいけねェッ!!」
 舞い上がる粉塵が螺旋を描いて虚空を踊り、撃ち込まれる二つの拳は真正面からぶつかり合い、互いが持つ逆回転の螺旋が相殺、逃げ場を失った衝撃が戦場を駆ける。
 ぼたり、血液が地面を濡らす。視線が交差する中、忍が苦無を構え双吉は片足を上げる。
(先生……散々借りっぱなしだが、もう一つ借りるぜ……!)
 居合を思わせる音速の蹴り。虚空を蹴ったそれは脚圧で大気を引き裂き、戦場に一瞬の真空を産む。
(まだまだ届かねぇ……ここから先は、俺の技だ……!)
 本来なら大気を蹴り、鎌鼬を起こす一撃。されど完全には再現できず、敵の動きを封じるにとどまった。
「螺旋模倣……」
 蹴り抜いた脚の慣性に任せて螺旋を描き、逆脚で二撃目の蹴りを敵の脳天に叩き込む。
「軋峰烈脚断斬陣!!」
「そのような大振り……」
 身を逸らし、直撃を躱した忍が口角を上げ、全身から血を噴きだす。
「ぇ……?」
 見届けたバラフィールにすら、何が起こったのか分からない。タネを割れば単純な話、双吉は再現しきれなかった恩師の技に対し、追撃を重ねることでその背に届かずとも、手をかけるくらいはやってのけただけの事。
「ここまで、か……」
 倒れ、天を仰ぐ忍はどこか晴れやかな顔で、視線を横に滑らせる。そこには眼鏡を外し脂汗を拭う双吉の姿が。
「人は死ぬ。だから、想いを遺した奴等に託すんだ……」
 言いたいことがまとまらず、頭をかく双吉へ忍はそっと手を伸ばす。
「ならば……拙者も人を真似るとしよう……」

 ドスッ。

「……は?」
 口から、熱い液体が溢れ出す。心臓に何かを撃ち込まれたと理解した時には、既に視界が暗転していて……。
「最後の最後で……!急いで!全員を搬送します!!」
 バラフィールの指示にデバイスは番犬達を抱えて浮遊する。
「……苦い勝利に、なりましたね」
 アンヴァルのその一言が、全てを物語っていた。

「……そう、あなたは彼に託したんですね」
 もはや誰も残らぬ戦場に、一人の番犬がいた。
「どうか、安らかに……」
 戦乙女の少女は、散っていった忍の魂を送り出す。その胸に残るのは、彼の最期の記憶……双吉はまだ知らない。自身の心臓に撃ち込まれたものが、彼が追い求めた一族の悲願『創世忍法・暗天開闢の術』、その基盤であるということを……。

作者:久澄零太 重傷:軋峰・双吉(黒液双翼・e21069) 清水・湖満(氷雨・e25983) ブリジット・レースライン(セントールの甲冑騎士・en0312) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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