ゲームマスターが戦う時

作者:秋津透

 神奈川県川崎市、埠頭に繋がる海沿いの倉庫街。
 なぜ、こんな場所に来たのか。それはやってきた当人、霧崎・天音(ラストドラゴンスレイヤー・e18738)にもよくわからない。ただ、ここに来なくてはいけないような気がしていた。
 そして通常ならば、人混みとまでは言わないが、荷下ろしなどの作業をする人々が常時往来しているはずの埠頭近くに、まったく人の気配がない。明らかに異常ではあるが、天音はなぜか違和感を覚えなかった。更に、嘲るような声が聞こえてきたのも、自然に思えた。
「のこのこと、おびき出されてきたな。間抜けなケルベロスが」
「ライラ? ……いや……ライラに取り憑いた死神か」
 寸毫も表情を変えず、天音は振り返る。そこにはいつの間にか、影のような大鎌を携え、奇妙な形のゴーグルを装着し、手にゲームコントローラーのような器具を持った、あからさまに怪しい女が佇んでいた。しかし天音は驚きもせず、淡々とした口調で訊ねる。
「……どういう風の吹き回しだ? ゲームと称して他人を操って闘わせ……自分は高みの見物をするのが……お前の信条じゃなかったのか?」
「よく言う。その高みをぶち壊してくれたのは、どこのどいつだ」
 怪しい女……死神『ライラ・ザ・ミストラル』の口調に憎悪が滲み出る。しかし天音は、ペースを崩さない。
「高みをぶち壊した? ……ああ、デスバレスの崩壊か。それで安住の地を失って……地上にさまよい出てきたのだな。で……私に何の用だ?」
「決まってるだろう。私は死神だ。貴様を殺す」
 言い放って、死神は片手に大鎌、片手にコントローラーという、一見奇妙な構えを取る。
 それに対して天音も身構え、あくまで淡々と応じる。
「不精な奴め……やっと自力で戦う気になったか。こい……相手をしてやろう」

「緊急事態です! 霧崎・天音さんが、デスバレスの崩壊から逃れて地上に出てきた死神に襲われる、という予知が得られました! 急いで連絡を取ろうとしたのですが、連絡をつけることが出来ません!」
 ヘリオライダーの高御倉・康が緊張した口調で告げる。
「天音さんは、川崎港の埠頭に近い倉庫街にいるので、今すぐ全力急行します! 一刻の猶予もありません!」
 そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「現場はここです。天音さんを襲う死神『ライラ・ザ・ミストラル』は天音さんと面識があるようですが、詳しいことはわかりません。ただ、使っている身体はダモクレスのもののようで、ダモクレスの種族グラビティに加え、簒奪者の鎌と爆破スイッチの武器グラビティを使います。ポジションは、おそらくキャスター。一対一で闘ったら、絶対に勝てないとまでは言いませんが、天音さんの勝ち目は薄いでしょう」
 予知の中では、天音さんは冷静で余裕ありげな態度で死神に接していたようですが、御存じの通り、彼女の冷静さは上辺だけなので、本当に有利とは思えません、と、康は渋面で告げる。
 そして康は、一同を見回して続ける。
「敵は単体で、増援も呼びません。逃げ場がないので、撤退もしません。倒すか倒されるか、二つに一つです。『ヘリオンデバイス』での支援も可能な限り行いますので、どうか天音さんを助けて、厄介な死神を倒し、皆さんも無事に帰ってきてください」
 ケルベロスに勝利を、と、ヘリオンデバイスのコマンドワードを口にして、康は深々と頭を下げた。


参加者
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
霧崎・天音(ラストドラゴンスレイヤー・e18738)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)
リリス・アスティ(機械人形の音楽家・e85781)
ニケ・ブレジニィ(マリーゴールド略してマリ子・e87256)
九田葉・礼(心の律動・e87556)
瀬野・祐奈(地球人の心霊治療士・e87614)

■リプレイ

●これは……ゲームなどでは……ない。
「不精な奴め……やっと自力で戦う気になったか。こい……相手をしてやろう」
 淡々と告げる霧崎・天音(ラストドラゴンスレイヤー・e18738)に、死神『ライラ・ザ・ミストラル』が、影のような大鎌を投擲する。
 しかし、その刃が天音に届く寸前、上空から降下してきた日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)が強引に飛び込む。大鎌の刃は蒼眞の肩口を裂き、死神の手元へ戻る。
「ふう、どうにか間に合ったか」
「援護に感謝する……だが……大丈夫か?」
 表情は変わらないものの、気遣う声を出す天音に向け、蒼眞は笑ってみせる。
「痛くないと言ったら嘘になるが、攻撃を防いでなんぼのディフェンダーだ。この程度でやられはしないよ」
 告げると、蒼眞は自分と天音、前衛二人に対しオウガ粒子を散布。ダメージを癒し、攻撃命中率を上げる。
 すると死神が、憮然とした口調で蒼眞に訊ねる。
「貴様もケルベロスか? なぜ私が、アマネを襲うとわかった?」
「教えてやる義理など、どこにもないと思うが?」
 何しろ相手は死神だ、冥途の土産など持たせたらえらいことになる、と、蒼眞は内心肩をすくめる。
(「まあ、今は冥土も無茶苦茶になってるからな。そもそも、死神が死んだら、いったいどこへ行くのやら」)
 そこへカロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)が急速降下してきて、死神の背後斜め上から強烈な重力蹴りを見舞う。
「えいやっ!」
「ぐわっ!」
 兎獣人ならではのラビットキックが見事に決まり、死神は吹っ飛ばされて地面に転がる。
「き、貴様、いきなり何をする!」
「そういう貴方は、天音さんにいきなり何をしているのですか」
 叫ぶ死神に、カロンは丁寧ではあるが厳しい口調で応じる。
「訊かれる前に言っておきましょう。僕も、天音さんを援護に来たケルベロスです」
「そうか。これが、ケルベロスの絆という奴か」
 忌々しそうに唸り、死神は起き上がる。そこへ、起き上がるのを待っていたような感じで、天音が『天音専用エアシューズ』で重力蹴りを叩き込む。
「ぎゃあっ!」
「ケルベロスには……絆がある。自覚はなかったけど……ダモクレスにもあった。私と……ライラの間にも」
 淡々と告げながら、天音は死神を見据える。表情は固いが、瞳の光り具合が尋常ではない。
「その体を……これ以上使わせるわけには行かない……私は……もうダモクレスじゃないけど……嘗ての仲間を……良いように使われるなんて許せない……」
「許せない、だと? 笑わせるな。貴様に許してもらおうなどとは、私はもちろん、この身体に残ったダモクレスの残滓だって思っちゃいない」
 憎々しげに応じる死神を、天音は更に瞳に宿した光……いや、炎を強めて見据える。
 すると、降下してきた帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)が激しい怒声を発する。
「聞いたようなことほざくんじゃねえ! 死神は絶対に許さねえ! 四の五のぬかさず、とっととくたばれ!」
 もともと平常時と戦闘時では性格が一変する翔だが、彼自身、死んだ家族を死神に利用されたことがあるので、今回は切り替わりなく激怒戦闘モード。『ドラゴニックハンマー・改』を砲撃形態に変え、怒りを籠めて直撃弾を撃ち込む。
 続いて、リリス・アスティ(機械人形の音楽家・e85781)が降下したが、彼女は敵よりも後続の味方が気になるようで、行動を起こさない。レスキュードローン・デバイスとともに降下してきた次のニケ・ブレジニィ(マリーゴールド略してマリ子・e87256)も行動を保留し、天音に声をかける。
「体調はどう? 問題無く戦えるかしら?」
「問題はない……と思う。援護……感謝する」
 燃える瞳で死神を睨み据えたまま、天音が淡々とした口調で答える。な、なんか、ギャップがすごい、と思いつつもニケは口には出さず、続いて降下してきた九田葉・礼(心の律動・e87556)にBS耐性を付与。リリスも礼に盾を付与して防御力を上げる。
「え? あの……」
 まだ何もアクションを起こしておらず、ダメージもない状態で、リリスとニケから回復グラビティを送られ、礼が少々戸惑った声を出す。しかし、戦闘中なので余計なことは言わず、ケルベロスチェインを使って自分を含む前衛に回復と盾付与を行う。
 そして最後に、サーヴァントのオルトロス『シーザー』を従えた、瀬野・祐奈(地球人の心霊治療士・e87614)が降下する。『シーザー』は口に咥えた神器の剣で死神に斬りかかり、祐奈はアニミズムアンクを掲げて蒼眞を治癒する。レベルが低いので治癒力そのものは小さいが、BSの【服破り】が消えたので、蒼眞は内心安堵の息をつく。
(「アスティもブレジニィも、九田葉が心配なのはわかるけど、も少し決め打ちせずに状況見てほしいもんだな。ポジションが後衛とはいえ、瀬野の方がずっとレベルは低いんだし……おわっ!」)
 声には出さずに呟いていた蒼眞が、慌てて庇いに飛ぶ。死神が爆破スイッチを使用。ケルベロスの後衛に、目に見えない地雷による列攻撃を仕掛けたのだ。
「きゃあっ!」
「……間に合った」
 間一髪、飛び込んだ礼がアームドアーム・デバイスで祐奈を抱え上げ、地雷の爆発から庇う。祐奈は、自分以上に『シーザー』が心配だったようだが、こちらは蒼眞が庇って事なきを得る。
(「サーヴァントは不滅だと理屈ではわかってても、目の前で愛犬吹っ飛ばされちゃ精神衛生上よろしくないよな」)
 もちろん、マスターの祐奈が無事だったから言ってられる話なんだが、と、蒼眞は小さく苦笑する。
「九田葉、グッドジョブ!」
「……私が最初に戦場に出た時の皆さんの気持ちが、ちょっとだけわかりました」
 蒼白な顔で応じながら、礼は祐奈を降ろす。蒼眞も『シーザー』を下ろし、後衛に応援爆破を行う。
(「前衛三人、中衛一人、後衛がサーヴァント含めて五人……そりゃあ、遠列攻撃がありゃ、使いたくなるよな」)
 奴が持っている遠列攻撃は二種、と、蒼眞は計算する。見切りも発生しないから、おそらく連続で後衛に撃ち込んでくるだろう。
(「どこまで凌げるか……」)
 口には出さないものの、わずかに眉を寄せ、蒼眞は死神を見やる。我が身可愛さで乏しい回復を使ってくればいいが、もはや死神は自棄に近く、相討ち覚悟で攻撃してくる目算が高い。
「……これが、自称ゲームマスターの命を懸けたゲームだとでもいうのですか。ゲームは皆で楽しくやるものでしょう」
 おそらく蒼眞と同じ推測をしたのだろう。カロンが厳しい表情で呟くと、掌から「ドラゴンの幻影」を現わし、強烈な炎のブレスを放つ。続いて天音が、オリジナルグラビティ『獄炎斬華・恨壊(ゴクエンザンカ・コンカイ)』を発動させる。
「私が…全ての恨みを晴らす…地獄の……怨嗟の声を聞け…!」
 死神が安居していたデスバレスが崩壊しても、地獄は在る、私の中に、と、天音は呟く。犠牲者の声を聴いているのは私だ。お前ではない。
「ぎゃあっ!」
 死神が濁った悲鳴をあげた。比喩ではなしに鋭い刃の集合体と化した天音の蹴りを受け、死神の半身が削れ、ゴーグルが割れる。
 よろめくところへ、翔が重力蹴りを叩き込む。
(「最速で、とっとと潰す……けど、留めは霧崎さんに任せねえとな」)
 怒りはいっこうに収まらないものの、自分でもちょっと意外なほど冷静に、翔は呟いた。

●戦いは……ゲームなどでは……ない。
「死ね! ケルベロス!」
 満身創痍の死神が絶叫し、ケルベロスの後衛に向け、全身からミサイルを発射する。
(「確率なんぞ、知ったことか!」)
 蒼眞が祐奈を庇うが、礼は動けない。『シーザー』がミサイルの直撃を受け、存在を失う。
「ああっ!」
 慟哭する祐奈に、蒼眞が敢えて淡々と告げる。
「大丈夫だ。サーヴァントは、マスターが生きてる限りは不滅だ。知ってるだろ?」
「知ってます。知ってますけど……」
 声を震わせる祐奈の背を、蒼眞は軽く撫でる。
「ショックなのはわかるが、しっかりしろ。ケルベロスが死ぬことは滅多にないが……絶対にないわけじゃない」
「は、はい……」
 祐奈の声と身体が震える。ケルベロスの力を持つとはいえ、齢11、特に過酷な体験をしたわけでも、特殊な訓練をしたわけでもない地球人の女の子だ。おそらく頼りにしていた愛犬がやられて衝撃を受けるのも無理もないが、敵は斟酌してくれない。
(「瀬野は、とにかく俺と九田葉で庇うしかないが……他の連中は大丈夫だろうな?」)
 戦況を窺い、蒼眞は後衛にオウガ粒子を散布。治癒と命中力上昇を行う。
 そしてカロンが、オリジナルグラビティ『星河一天のミルキーウェイ(セイガイッテンノミルキーウェイ)』を発動させる。
「さあ、進化した天の川をご覧ください!」
 カロンの声に応じ、空に天の川が流れるように現れる。そして、その星々の一つ一つが落ちてきて、死神を的確に貫いていく。目も眩むような美しい光景だが、与えるダメージに容赦はない。更に、死神の大鎌を星の一つが直撃し、大きく歪ませる。
「……これで……潰せるか?」
 天音が螺旋忍者の技を使い、螺旋の力で死神を強打する。死神はよろめき、その身体に氷がビシビシと付着するが、倒れはしない。(「これは……でかいのぶちこんだら、潰しちまうかな?」)
 オリジナルグラビティ『カオティックマキシマムドライブ』を用意していた翔は、予定を変更して『ワイルドライフル』から冷凍光線を撃ち込む。死神を覆う氷が、その厚みを増す。
 そしてリリスは、直撃を受けた時のダメージを少しでも減らすべく、祐奈にシールドをかけ、防御力を上げる。ニケは、庇いに入って痛手を受けている礼に、エナジープロテクションで治癒、BS耐性を付与する。
 一方、礼はケルベロスチェインを使って、後衛に治癒と防御力上げ。祐奈は竪琴を奏で、後衛の破壊力を上げる。
(「……思いのほか、しっかりしてるな」)
 やるべきことは、しっかりやってる、と、蒼眞は祐奈を見やって呟く。実際、列に対するBS耐性付与グラビティは祐奈しか持ってきていなかったので、彼女がいなかったら、列攻撃ミサイル喰らって軒並み大勢麻痺していたかもしれない。
 そして、死神は爆破スイッチとおぼしき手元の機械を操作する。後衛に見えない地雷の爆発が来るか、と、蒼眞と礼は身構えたが、死神は唯一使える自分への治癒、応援爆発を行った。とうとう、重なる痛手に耐えられなくなったらしい。
(「とはいえ、応援爆破じゃキュアはかからないから、BS解除はできない。列治癒だから、回復値も小さい。これで投了だな」)
 声には出さず呟いて、蒼眞は天音に【破剣】を付与する。実質的な意味はあまりないが、とどめを刺せという意志表示のつもりだ。
 一方カロンは、治癒の手が回らず事実上ほったらかしにされていた蒼眞に気力を送る。そして天音が、再び『獄炎斬華・恨壊』を発動させる。
「ライラ、いや、死神よ……これが奪われてきた命の声…消える前に十分に思い知らせる……そして終わりにする…眠らせる…その肉体を…我が友ライラを……!」
 常とは違う言葉とともに、天音はほとんど体当たりするような勢いで、無数の刃と化した脚を死神に叩きつける。激突の一瞬、刃がチェーンソーのように鋭い音をあげて旋回。死神を付着した氷もろとも粉々に砕く。
「!!」
 断末魔の声すら出せず、死神は砕かれ、微塵となって消滅する。手にしていた歪んだ大鎌がふわりと浮くが、そのまま影のように空間に溶けて消える。もう片方の手が持っていたゲームコントローラーのような装置だけが、かたんと乾いた音を立ててコンクリートの地面に落ちる。
「……終わった」
 呟いて、天音はゲームコントローラーのような装置を拾い上げる。すると翔が、息を整えながら訊ねる。
「……霧崎さん、その機械は、死神の……?」
「いや……元はライラの……ダモクレスの装備。死神が機能を変えて使っていたようだけど……今はもう……何の機能もない」
 ライラは、これで人間を操り殺し合わせるゲームをしていた。死神は、それを改造して、サルベージしたデウスエクスを操っていた。忌まわしい機械だが、私にとっては仲間の形見、と、天音は言葉には出さず呟く。
(「そう……ライラが、そして昔の私が……どんなに非道なデウスエクスだったかなんて……皆に言うべきことじゃない」)
 特に翔には、と、天音は無表情なまま、わずかに首をすくめた。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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