シャイターン襲撃~雪色戦乙女の嘆き

作者:黒織肖

「きゃぁぁッ!」
 悲鳴が上がった。
 しかしの悲鳴もすぐにかき消され、胸に咲いた鮮血の花を見る間もなく女は倒れ伏す。
 クリスマス前の賑わいに華やぐ住宅地に、悲しき血の染みが落ちた。
 通行人は何事かと振り返り、暫し凍りついた後、クモの子を散らすように逃げ惑う。誰も彼もが混乱の最中にあった。
 重く垂れた雲の下、鈍色の空間から東京都国立市のこの地域に忌まわしき魔空回廊が現れたのである。
 そこから現れたヴァルキュリアは、3体づつ4方向に分かれて住宅街に向かっていく。
 通りや病院などに近い場所だったのも運が悪かった。
 そして、病院から出てきたばかりの老人が二人目の犠牲者になろうとしていた。
「逃げろ! デウスエクスじゃ……ぐふぅッ」
 振り下ろされた槍が老人の体を貫く。
「あぁッ……おじいちゃんっ」
 孫が悲鳴を上げる。
 目の前のヴァルキュリアは澄み切った雪色の髪と光の翼を持つ乙女たちだ。しかし、一様にその表情は悲しみに満ち、紅玉の瞳から血の涙を流していた。
 振りかざされた槍が再度老人を貫く。
「おじいちゃーん!」
「にげ、るんじゃ……」
「でも……」
 小さな孫は泣きながら言葉を紡いだ。
 これから新宿に繰り出し、クリスマスのプレゼントを二人で買いに行くところだった。
 なのに、なのに……。
 かりそめの平和が音を立てて崩れていく。
 3体のヴァルキュリアが、血の涙を流しながら住民を虐殺を繰り返していった。

「み、皆さん大変っす~~~~~~~!」
 ヘリオライダーの黒瀬・ダンテはケルベロス達に向かって叫ぶように言った。
「今頃、城ヶ島のドラゴン勢力との戦いも佳境に入っている所じゃないかと思うんっすけど。エインヘリアルにも、大きな動きがあったみたいなんっす!」
 ダンテは強調するように、エインヘリアルの所を一旦区切った。そして、手短に鎌倉防衛戦で失脚した第一王子ザイフリートの後任として、新たな王子が地球への侵攻を開始したらしいことを伝えた。
「どうも、エインヘリアルは、ザイフリート配下であったヴァルキュリアをなんらかの方法で強制的に従えれるみたいなんっす。そこで、魔空回廊を利用して彼女たちに人間達を虐殺させてグラビティ・チェインを得ようと画策しているらしいっすよ」
 少し暗い顔でダンテは言った。
 これから何が起ころうとしているのか……一同は息を飲む。
 東京都町田市から神奈川県相模原市までの14か所に現れたようだが、皆には東京都国立市に行ってほしいとダンテは伝えた。
「ヴァルキュリアを従えている敵は、妖精八種族の一つシャイターンなんっす。国立市内部で暴れるヴァルキュリアに対処しつつ、シャイターンを撃破する必要があるっす」
 緊張した面持ちのダンテは、皆にヴァルキュリアの装備武装を教えた。
「使用武器は、槍っす。グラビティは、槍の一撃を繰り出してきたり、チャージして突撃したりっすかね。そうそう、仲間を鼓舞して回復するのも注意っす。あと、状況によっては、更に1体のヴァルキュリアが援軍としてやってくる場合もあるので、注意を怠らないようにしてくださいっす」
 ヴァルキュリアは、住民を虐殺してグラビティ・チェインを奪おうとしている。しかし、邪魔する者が出た場合は、その邪魔者の排除を優先して行うように命令されているらしいのだともダンテは言う。
 つまり、ケルベロスがヴァルキュリアに戦いを挑めば、ヴァルキュリアが住民を襲うことは無いだろうということだ。
 だが、国立市内部にシャイターンがいる限り、ヴァルキュリアの洗脳は強固であり、何の迷いもなくケルベロスを殺しくるだろうことは明白。
 シャイターン撃破に向かったケルベロスが成功した後ならば、なんらかの隙ができるかもしれないが、確かなこととはいえない。
 なかなか悩ましい状況であった。
「ヴァルキュリアが操られているって。同情の余地もあるってわかってるんっすけど……負けるわけにはいかないっす。ケルベロスが敗北すれば、ヴァルキュリアによって住民が虐殺されてしまうんすからね」
 そのような事は断じて許されてはならない。ここは心を鬼にしてヴァルキュリアを撃破する必要があるだろうとダンテは続けた。しかし、彼の表情に悲しみの表情も見て取る。
 できるならば助けたいと思うのは仕方がないところであろう。
「最近動きがあったと思ったら、今度は新たなエインヘリアルの王子。新しい指揮官に新たな敵って、めまぐるしい状況っすけど。でも、相手の能力が未知数でも負けられないっす!」
 ダンテはケルベロス達に頑張ってくださいと頭を下げた。


参加者
寺本・蓮(平平凡凡・e00154)
神楽・凪(歩み止めぬモノ・e03559)
ミオ・リリエンタール(拳で語る独国産大和撫子・e09678)
ルース・マグナス(愛とエロスに生きる・e14230)
王生・雪(天花・e15842)
雪村・巴(雪明かりの夜・e20698)
ロメオ・シンプキンス(地球人の刀剣士・e21007)

■リプレイ

●処女雪は紅涙に濡れ
 鎌倉防衛戦で失脚した第一王子ザイフリートの後任として現れた新たな王子の侵攻を聞き、ここ東京都国立市にケルベロス達は駆け付けた。
 鈍色の空を舞うヘリオンからまず降り立ったのは、寺本・蓮(平平凡凡・e00154)。
 ボクスドラゴンのフェアリンも一緒だ。
「ふう……毎回ドキドキするな。ねえ、俺はヴァルキュリアを殺さず救うことを目指すけど。でも、最優先は一般人の安全だからね」
 蓮は降りてくる仲間に向かって言った。
 最悪の場合、ヴァルキュリアの討伐も視野に入れるしかない。できれば蓮は避けたかった。
「了解だ。予知の段階で病院が近いってのは、流れ弾とかの問題もあってまずい」
 答えたのは、神楽・凪(歩み止めぬモノ・e03559)だ。
 軽々と飛び降り体勢を整え、凪は辺りを見回す。逃げ惑う人々の声が響いていた。
 そして、ひときわ目立つ影。大鷲のように舞い降りたのは麗しきペトロダラーのサラフディーン・リリエンタール(蒼き大鷲・e04202)。
「シャイターン討伐成功のための陽動は必須だ」
 ヴァルキュリアの保護は難しいゆえ、贅沢は言えない。
 着地すると体勢を整え、鳥の羽を纏った銀のイヤーカフに触れた。
 愛しい人とのお揃いのものらしい。
 眼前には、紅瞳紅涙のヴァルキュリア。距離はまだ遠い。
「兄さん!」
 そして、ミオ・リリエンタール(拳で語る独国産大和撫子・e09678)が猫のようにしなやかに降り立った。サラフディーンの実妹である。
 彼女の腕の中には黒いサイベリアン種のウィングキャット、ネロ様が「んにゃぁ♪」と鳴いていた。
「戦乙女の説得は上手く行けば良いな位には思ってたけれど……難しそう…あら?」
「ミオさぁ~ん♪ 今度俺とデートでもー……おーっとっと!」
 ルース・マグナス(愛とエロスに生きる・e14230)が危なげに降り立ちながらミオに言った。
「あら、ルースさん初戦よね? 今は戦闘に専念よ」
「今はってことは、後はいいんですかね? ね?」
「ルースさん、時間がありませんよ。作戦通りでよろしいですわね、皆さま?」
 そう言ったのは、王生・雪(天花・e15842)。
 純白の羽根を持つ、儚げで浮世離れした見目麗しいオラトリオだ。その気品ある姿は崇拝を受けて育ったという事だけはある。
「時間が無いし、やるしかないですね♪ ……あ、これ、とってもおいしいです♪」
 雪村・巴(雪明かりの夜・e20698)は肉まんをモグモグしながら言った。
「本当に……雪色ですね。おれがいた雪山と同じ色……助けなきゃ」
「来た……やるしかない」
 今しがた飛び降りてきたロメオ・シンプキンス(地球人の刀剣士・e21007)はまっすぐヴァルキュリアを見つめる。
 今手にしているのは、あの日の狂った鋏じゃない。もう操られない。暴走しない。
「今度は間違わない……多分」
 あの人は違うのは、一人じゃないということだった。
 背を預けていいのかわからない。でも、倒すには十分な実力と経験を持った先輩たちだ。
「行こう……」
 ロメオの戦いも――今始まった。

●英霊呼びたる乙女の涙
「早く行け!」
 凪が言った。
「あ……はいっ! ありがとう御座います。さあ、行きましょう!」
 病院の先生らしき人物が、老人を支えて駅の方へと歩きはじめた。
 老人は血に濡れてはいるものの、まだ元気そうだ。孫らしき子も寄り添い逃げている。
 優先すべきは一般人。凪は病院から逃げ出してきた人々を背に庇いつつ、身構えた。
 配置は凪とロメオがクラッシャー。蓮、ボクスドラゴンのフェアリン、ミオとウィングキャットのネロ様、同じ種のユキがディフェンダーで、手数は5。キャスターのルース。雪とウィングキャットの絹はスナイパーで手数が2。ジャマーの巴とメディックのサラフディーンという、総勢12という陣営だ。
 その中でディフェンダーの手数が5もあるというのは中々に硬いチームだ。
 3対12では勝負が早くつきかねない。一同は布薩を胸に攻撃を開始した。

「ギャッ!」
「でやぁ!」
 神楽は電光石火敵の急所を貫こうと蹴りを繰り出す。
「キャァッ!」
 ヴァルキュリアはた堪らず悲鳴を上げた。急所には届いてない。しかし、クラッシャーの重い一撃はかなりのものだ。
 蓮も一般人や味方の盾となるよう立ち回りつつ、卓越した技量からなる、達人の一撃を放つ。
「これがお前たちの本懐か?!」
「ッ!」
 寒空の下、凍えた空気を切り裂いて寺本の拳が冷気さえも放つ。赤い涙と傷受けた血が舞って地面を濡らした。
(「それに……終わりが救いになることもあるだろうしな」)
 蓮は瞳逸らさずに乙女たちを見た。
 ロメオはもうすぐ避難が終わる一般人にう呼びかけながら、病院との間に立って戦乙女たちに向かって説得から入る。
「どうか目を覚ましてくれ。君たちがそれを望んでないように……俺も、俺もこんな戦いは望んじゃいない!」
「死ネ、愚カシキ人間共ヨ!」
「その涙は……心の証のはずだ!!」
 ロメオは叫んだ。
 同時に飛び出しして、手加減攻撃を加える。
「アアッ!」
「いくぞ、ミオ!」
 サラフディーンはミオに声をかける。
 巴と蓮の攻撃を受けたヴァルキュリアが、肩で息をしているのが見えた。
 できるならば救いたいという願いを受けて、サラフディーンは全体の動きとダメージ量に気を配っていた。
 ヴァルキュリアの体力の半分ぐらいを目安に攻撃の追加効果で死なぬ様、弱らせる意味もあって毒の効果を持つグラビティを発動する。
「義無き戦いならば……失せろ!」
 幼き頃に恐れられた蒼い瞳は間違うことなき邪眼。大鎌を持て堕天すべき天使を狩る大天使サリエルの、血に濡れそぼつ邪眼の如く、鮮血色のオーラが翼となりて戦乙女を切り裂いた。
「ッ……ァア"ッ!」
 大鷲の如き視力で獲物を捕らえ、静かなる怒りが毒で敵を蝕む。
「ォ、オノレェ!」
「兄さんっ! ……ッ」
 光を宿した、強烈な槍の一撃がミオを貫く。痺れが全身を駆けた。
「ミオッ!」
「大丈夫です! ここはわたくしが!」
 雪は両手の斬霊刀から、霊体のみを斬る衝撃波を放った。
「良く似た姿のお嬢さん…私の本分は人々を護る事。悲劇を止める事。貴方達の本分は、何ですか?」
「死ネェッ!」
 ヴァルキュリアの振りかざす槍の動きは鈍らずに飛んできた。でも、赤く濡れた瞳はそのままで、助けてと叫んでいるかのようだ。鎧もマントも赤く濡れて首を狩られた幽鬼のようで……。
「そうです! 少なくとも斯様な蛮行等では無いと、その血涙が語っておりましょうに!」
 雪は悲しげに言った。
「双方の被害は減らしたいのだけどっ」
 ミオはガトリングガンを構えると、弾丸を嵐のように撃ち出し、ばら撒く。
 堪らずヴァルキュリア達が声を上げた。
「アアッ!」
「兄さんに手出しはさせない……」
「おーっと、俺の事も忘れないで下さいよ!」
 ルースが叫んだ。
「貴方たちは洗脳なんかに負けない。俺たちに綺麗な笑顔を見せてくれませんか? そして、ぜひともオレとデートしてください」
 初戦のルースにとって最適なポジション取りで、命中率と回避率を上げて戦いに挑む。しかし、決め文句は外したようだった。
 弾丸や礫をばら撒くように放ち、敵の侵攻を食い止めた。少しでも足止めできればとの行動だ。次はクイックドロウと見切り回避を試みる。
「人間共メ!」
「俺はレプリなんでー」
 ハハハと人の良い笑みを浮かべつつ、ルースは狙いを外さない。
「フェアリン、最悪の場合、バックアップを頼む」しな
「がおー!」
「来い、壱式!」
 蓮は特殊な配合により精神を高ぶらせる効果を持たせた弾とマスケットを召喚。弾丸を握りしめグラビティを込め、銃に装填し、敵に放つ。
 壱式特殊弾頭、ラースブリットの効果でヴァルキュリアの精神が昂ぶり始めたようだ。
「オマエ、殺ス!」
「よし、ヘイト成功」
 その後はその状態を維持、優先しつつ見切られないないよう、グラビティを切り替え攻撃した。
「女神は囚われの身ながら貴方達の自由を願い王子は心優しき貴方達の為、罠を覚悟で危地に赴いた……彼らの為にも、どうか……」
 雪は胡蝶の夢、絶空斬、二刀斬空閃交ぜ。彼女たちが弱れば極力手加減攻撃を加えて殺さぬよう必死になった。
「んにゃぁー!」
「にゃーお!」
 ウィングキャットの絹とネロ様が、それぞれ尻尾の輪と猫引っかきで攻撃する。
「ギャッ!」
「んーにゃッ」
 ネロ様は一番手近なヴァルキュリアに攻撃が当たったのにご機嫌になったのか、追撃とばかりにバリバリむにむにとお引っかきあそばされた。
「ギャーッ! 色々ト許サナイ!」
「だめです。気をしっかり持って」
 巴が声をかけた。
 あの雪山と同じ色の乙女たちを死なせてしまうのは悲しい。
(「でも、もし被害が大きくなりそうなら、トドメをさすしかないですよね…負けられないです」)
 そうならないように、巴は戦闘中ずと呼びかけた。
 巴は電光石火の蹴りで敵の急所を貫く。ジャマ-が放つグラビティは攻撃による効果が三倍になる。ヴァルキュリアは上手く動けなかったようだ。
 巴はガッツポーズをする。
 だが、まだまだ戦いは始まったばかりだった。

●長期戦の果てに
「吼え猛る狼牙は残響を残す。ぶっ飛べ!」
 狼吼残響――凪の修めた無名流派に伝わる秘拳の一つ。
 神楽は高速の踏み込みから青い気をまとった左右の拳を連続で打ち込んだ。その気は集まって相手の中で衝撃波に変わり、拳の残響が相手を打ちのめすかのように体内から相手を吹き飛ばす。
「ァ"アッ!」
 威力の増した攻撃にヴァルキュリアは吹っ飛ぶ。
「よしっ!」
「でやぁ!」
 巴は隙を窺ってブラックスライムを捕食モードに変形し、近距離にいたヴァルキュリア1体を丸呑みにした。
「コノッ……離セ!」
 余裕はあるが、ボタンの掛け違えのような単純ミスは許されないため、語尾にも軽いものがなくなるほどの緊張感だ。
「ミオ! 手を貸してくれ!」
 ヴァルキュリアとの交戦で、全体の体力のバランスを計っていたサラフディーンは、ヴァルキュリアにウィッチオペレーションを試み、叫ぶ。
 単体へのヒールゆえ、手が足りなくて大変なのである。
 それを見て蓮がフェアリンに向かって叫んだ。
「フェアリン、回復だ!」
 ライトニングウォール、気力溜めと見切られないよう注意し、ヴァルキュリアのダメージが4割、ケルベロス達の体力が半分以下にならないように気を配った。
 そして、サラフディーンはヴァルキュリア達への会話を試みる。
「涙の訳を知っているぞ。俺たちを信じて待ってろ」
「ったく、泣くほど嫌なら意地を見せてみやがれ!」
 凪が叫んだ。
「女性には常に笑顔でいて欲しいんです」
 ルースも言う。
 しかし、彼女らとは初戦闘の所為か、繋げる絆が成り立たないのが歯痒い。
 威力の強いグラビティを使う度に回復や手加減攻撃へと変更した。
 ワイングキャットたちも回復の手伝いに参戦している。
「さあ、癒してさしあげましょう。ザイフリート様もヴァナディース様も、きっと心痛めておられますよ。お気を確かに」
(「誰の命も散らせはしません…貴方達も含めて」)
 雪も彼女たちに呼び掛ける。
「にゃおん♪」
 ふわりと絹が飛ぶと羽ばたきで邪気を祓った。
「あと少し……」
 何度目の手加減攻撃だろうか。
 ロメオはひたすらに攻撃し、仲間を見た。戦うタイミング、下手に体力を削らない技選びを学びつつ、目的のために行動していく。戦闘に入って約14分が経過していた。
「ルース! シャイターン戦の続報はまだか!」
 サラフディーンは叫んだ。
 ルースのアイズフォンで情報を得られないかと振り返る。その瞬間、ルースが快哉の声を上げた。
「やった! 勝ったァァ!!」
「本当か?!」
 国立市のシャイターンは倒されたと頷く。
「待ってました♪」
「よし、行くぞ!」
「「「おー!」」」
 皆はヴァルキュリアを見た。
 そこには明らかに動揺し、先程とは違う様子の雪色の乙女達がいた。

●戦いの果てに
「もう、戦う必要はないはずだ」
 凪は手加減攻撃しながら言った。
「違ウ!」
「やめて! こんなの間違ってる!」
 正気を取り戻したヴァルキュリアが、こともあろうにケルベロスの味方に回り仲間を攻撃し始めている。
 しかし、次の瞬間には、洗脳が元に戻ってケルベロスを攻撃してきた。
「自分の意思と違う卑劣な思惑に従い果てるのが望みですか? 生きてさえいれば今受ける汚名は必ず返上の機会が来るはずです」
 ミオは必死でザイフリート王子を救出可能な事を呼び掛ける。
「捨て駒にした真の敵を討つ為にも矛を収めてください!」
「嘘吐キナ、人間共!」
「これは洗脳なんだよ」
 蓮も言うが、声は届かない。そして、巴が話しかける。
「話を聞いてください! おれたちは、あなたがたの敵ではないのですっ!」
「裏切リ者メ!」
「違う!」
「ライトニングウォールを!」
「ダメだ! 間に合わない!」
 誰かが叫んだ。
 刹那、前衛だったヴァルキュリアが血を吐いて倒れ伏す。
「そ、そんな……」
 蓮は凍えた瞳でヴァルキュリアを見る。
「この混戦状態じゃしかたない」
「阻止すると言ったろ。だから、悪夢から覚めることに集中してくれ」
 ロメオが諦めずに言い放つ。
 尚も乙女たちは争い合っていた。
「待って!」
 叫んだが間に合わなかった。
 同士討ちを始めたヴァルキュリアの一体が倒れ、コギトエルゴスムへと変化する。
「一緒に行きましょうよ! 友達に……」
「……」
 雪色の戦乙女は逡巡したものの、コギトエルゴスムへ変化した仲間を拾いあげると、その場を去る。                    
 ケルベロス達の静止の声を振り切り、魔空回廊の方へと飛び去った。

●戦いの終わり
「花束あげるつもりだったんですか?」
 巴が赤い花を見て言った。
「えぇ、まあ……無駄にはなりませんでしたけど、ね」
 ルースは苦笑した。
 戦闘の前の説得の際に薔薇の花束を贈ろうかと買っていた物だった。
 挨拶の花束が、二度と戻らぬ乙女への手向けになるとは思わなかっただろう。
「切ないな」
 ロメオと凪は死んだヴァルキュリアの周りと散った彼の薔薇の花束にもヒールした。
「おい、吸うか?」
 サラフディーンがシガレットケースを出して勧める。
「いただきますよ」
 後味の悪い戦いの後、悪友と並んで吸う細巻煙草はいつもより苦かった。
 妹が呟く。
「友達になれなかった」
「……あぁ」
「未来があります」
 雪が微笑んだ。
 戦うだけじゃない。守りたい。誰しもが願う想い。
 サラフディーンは友と並んで紫煙を吐いた。
(「守りたい。愛する……」)
 その先の想いは、突如聞こえたパトカーのサイレンにかき消された。
 にわかに人々が集まり、掃除、ヒールを駆けていく声などで周囲が満たされていく。
 乱された年末は、滞りなく修復されていっているように見えた。

作者:黒織肖 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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