いかるの誕生日~アクアリウム探訪

作者:あき缶

●ほの青い世界で
 梅雨が終わりかけの頃、それが香久山・いかる(天降り付くヘリオライダー・en0042)の誕生日である。
「世間はちょっと切羽詰まってはいるものの、だからこそちょっと息抜きいかへんか?」
 と、いかるは一緒に水族館に行かないかと誘ってきた。
「水族館って心休まるでー。薄暗いところでぼんやり青く光る水槽の中を泳ぐ魚やらクラゲやら眺めてぼーっとするねん。明るいところでイルカショー見たり、海獣やペンギン見たりも楽しいわな」
 イルカショーを見るベンチ前では、ソフトクリームも売っているそうな。
「けど、最前列で見るなら飲食禁止やで。水かぶって台無しになるからな」
 そして水族館ならでは、出口付近では魚や海獣などをモチーフにしたぬいぐるみや文房具、お菓子などのお土産を販売しているという。
 地球には、人間以外の生き物もたくさんいることを身近に学べる水族館。
「僕らが護る星の仲間を見て、頑張ろうって気持ちになる……なんてシリアスなことは考えんでもええねん。水族館を思う存分楽しもうやないか!」
 といかるは笑顔で言うのだった。


■リプレイ

●イワシからクラゲ
 暗い館内をぼうっと照らす青い光。水槽の奥で大きなイワシの魚群が刻一刻と姿を変えている。
 その様子にインスピレーションがわいた九田葉・礼(心の律動・e87556)は、せっせと魚群をスケッチしていた。
「ただの食べ物だと思ってたのに、すごく煌めいてる……!」
「……わあ、綺麗ですネ。お魚サンっテ、泳ぐための形をしているのですネ。 一握りだけでも、こんなに沢山の種類ガ、海に住んでいるのですネ」
 エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)は魚群を見上げて感嘆の声を上げ、後ろを振り向いた。
「せやろ。海の中は驚きがいっぱいや」
 エトヴァに誕生日の贈り物としてもらった、イワシのホログラムキーホルダーを手の中で弄びつつ、香久山・いかる(天降り付くヘリオライダー・en0042)は頷く。
 そこに大きな声がやってきた。
「いーかーるー! 今年もお誕生日おめでとうっスよ!」
 大きく手を振っているハチ・ファーヴニル(暁の獅子・e01897)に、
「誕生日おめでとう、香久山。水族館エンジョイしているかな?」
 と淡々と歩く櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)の手を握ってぶんぶんぶんぶん振り回す、
「とってもエンジョイ&ハイテンションなんだぞ!」
 鬼飼・ラグナ(探偵の立派な助手・e36078)である。
 いかるが生誕祝いに礼をいいつつ、館内では静かにと諌めると、ハチはハッと口を押さえて咳払いした。
「コホン! それにしても、いやー、いいっスなぁ水族館! 魚の群れとかクラゲとか、ぼーんやり眺めるのってすごく癒されるっス!」
 本人としては声量を抑えているつもりだが、それでも「!」がつく元気さなのはもうハチがハチであるゆえに仕方がない。
「魚にクラゲ、ペンギンにイルカショー、そして甘味に売店! 全て満喫するという豪胆さもまた修行の道!」
「怒濤の満喫コースだな」
「うんうん、修行の道だ!」
 腕を組んで頷きながら水族館での予定を修行と称するハチに、千梨は淡々と、ラグナは元気に賛同した。
「良ければ、いかるもどうっスか? ソフトクリーム、奢るっスよ!」
 ハチがいかるを誘うも、ラグナが割り込んできた。
「修行の一環として、ソフトクリームぜひ俺に奢ってくれ!」
 すかさず千梨が淡々としたまま、奢り対象を追加してくる。
「ハチは、ラグナと香久山と俺と……そんなに奢ってくれるのか」
 焦るハチ。
「なっ!? いかるは今日の主役っスから! いかるは!」
「悪いなあ。お礼に、『サメに噛まれてる帽子』を奢ってやるな」
 千梨は話を確定で進めてくる。
「えっ、千梨、俺もサメの帽子買ってー!」
「ラグナも欲しいの? 追加だぞ、ハチ」
「わーっ! だからァ!!」
 やっぱり大騒ぎになってしまう三人を、いかるはやれやれと苦笑しながら見守るのだった。
「なんや大水槽の方から声が聞こえるような……気のせいか。今日は一日ぼーっとするのも良えやろと思って、ぼーっとしすぎたんかな」
 クラゲ水槽前で美津羽・光流(水妖・e29827)は前方を伺うように目を細め、首を傾げる。
「いかる先輩探してお祝い渡さなあかんな」
 光流が持つ包みの中は、魚味の飴だという。
「え……それ大丈夫? ちゃんと美味しい飴? 罰ゲーム用とかじゃなくて? 甘いものとお魚は別々のほうが……」
 心配するウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)に、光流は難しいことを考えすぎるなと忠告する。
「レニ、今日は難しいこと考えるのはナシや。クラゲになったつもりでぼんやりしとき。俺が後ろから支えといたるから」
「OK、今日はお休みにしよう。クラゲになるよ」
 なんだかんだ、ウォーレンを光流が後ろから抱く格好になった二人。
「どや、ええ感じにクラゲっぽくなれたか?」
「少しクラゲの気持ちになれた気がする……でもやっぱり光流さんのことを考えてしまうから、クラゲ失格かなー」
 などと暗いクラゲコーナーの隅でいちゃつくのだった。

●南の海
「色とりどりですごく綺麗。何時間でも見ていられそうです」
「小さくてかわいいお魚もいっぱいいますよねー」
 とエルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)、朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)が言い合う横で、霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)はじっと極彩色の南国の小魚が泳ぐのを眺めている。
 同じく魚を眺めていたアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)は友人たちの様子を横目で見て、
(「こんなに大人数でお出かけするのはいつぶりかな」)
 と嬉しく思った。
「こんな魚に囲まれて海を泳いでみたいなぁ……」
 うっとりとしたエルムのつぶやきを、アンセルムは拾って微笑む。
「流石にここでは無理だけど、こんな感じの魚と一緒に泳いだりできたら楽しそうだよね」
「それは楽しそうですね、アンセルム。例えば沖縄とか、もっと南の外国とか……いつか旅行するのも良さそうです」
 和希がうなずいた。
 しっぽを揺らしながら環も、素敵ですーと声を上げた。
「いつか行ってみたいな、そういう海」
 アンセルムは南国の水槽越しに、本当の南国を夢見る――。
 その少し離れた場所、南国の小魚の上をゆったりとウミガメが通り過ぎていくのを、
「いたいた、ホヌ!」
 マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)は目を輝かせて見上げていた。
「やっぱりホヌ、いいなぁ……」
 ヒレを広げて、ゆうゆうと水中を行くウミガメを下から見上げると、空の色が写ってまるで空を飛んでいるように見えた。
 マヒナは、故郷でウミガメと一緒に海を泳いだことを思い出し、懐かしさに胸をつまらせる。
「平和になったら……いつになるかは分からないけどいつか、故郷に帰ろう。滅ぼされちゃったけど、それでも何かできることがあるかもしれないから……アロアロも一緒に、ね」
 手をつないだシャーマンズゴーストに微笑みかけると、アロアロは僅かに首を傾いでみせた。
「わぁ……幻想的。星空も美しいけれど、水中も……」
「そうだね、深く呑み込まれそうな感覚は星空も海の中もおんなじだ」
 ジェミ・フロート(紅蓮の守護者・e20983)とティユ・キューブ(虹星・e21021)は雄大な海を思わせる壮大な大水槽に歓声を上げ、自然と手をつなぎ合っていた。
 地球に生きる命はいずれも宝物。機械化なんてさせるわけには行かない。……そう、隣の大事な人も。
 つないでしまった手に顔を赤くするジェミに、ティユはニッコリと笑いかける。
「僕もジェミも、もう戻ることなんて考えられないだろう? お互いに守ろう」
 だから、ジェミも手は離さず、笑顔を返した。ふたりとも、大丈夫だ。

●太平洋
 巨大なサメが大きな口を開けて通り過ぎていく――のを、二人並んで見送る。
 ガラスに張り付いてサメを見ているるギフト・アムルグ(残焦・e25291)を見て、ロコ・エピカ(テーバイの竜・e39654)はくすくす笑う。サメを見たいと言ったのはロコなのだが、夢中なのはむしろギフトのようだ。
 ロコはギフトに声をかける。
「ギフトは海に潜った事あるんだろ。あんな感じだった?」
 振り向くギフトは興奮気味に答える。
「おう、こんな大物にゃ会えなかったが、前潜った海にも沢山の魚が暮らしてて、どこまでも広くて透明な水が続いてんだ」
 ギフトの答えを聞いて、ロコは想像する。澄んだ広い海中を飛ぶように魚が泳ぐ、その横を泳いでいく……。
「僕も本当の海に潜ってみたい」
 ぽつりと零したつぶやきを、ギフトはちゃんと聞いていた。
「いつかロコにも見せてやるよ。素潜りはダメでも潜水艦とか道を探してさ」
「楽しみにしている」
 冗談めかしたロコの言葉に、ギフトは茶化し返した。
「案外実物よりココのがキレイかもしんねーぜ?」
 てくてくと暗い廊下を歩く真宮・智秋(空音ノ詞・e22197)は、おみやげコーナーで隣を歩く夜別・ナキ(シニカルナイト・e86960)が弟妹にと沢山ぬいぐるみを買って帰ることになるのだろうなぁとボンヤリ考えていた。
 しかし、その考えも廊下を抜けて、大きな水槽に泳ぐ沢山の魚を見て止まる。
「ヘェ、すげェな」
 圧倒されていると、隣のナキが小声で話しかけてくる。
「すごいですね、チアキさん」
「あ? なンて?」
 聞こえていたけれど、あえて聞き返しながら顔を近づける智秋に、ナキはカァッと顔を赤くした。
 思ったより近い顔にどぎまぎしながらも、ナキは勇気を出して智秋の手をそっと握る。
 すると智秋は無言でその手を指を絡めながらつなぎ直し、ぐっと引き寄せた。
「!」
「ナキ、後でゆッくり顔見せろよ」
 囁く耳は熱い。きっとナキの顔は真っ赤だ。暗い館内できちんと見れないことを、智秋は残念に思った。

●イルカショウ
 イルカショーステージの最上段には、ソフトクリームなどの軽食を売る店がある。
 その店を指差し、ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)はあざとく保護者に媚を売った。
「竜人、ソフトクリームがあそこで売っている。我、食べたいなー?」
「わざわざそういう言い方しねえでいいから。食いたきゃ買ってやるよ」
 相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)は財布を取り出し、ペルにイチゴ味、自分用にバニラを買う。
「竜人の方のと食べ比べしたいぞ。ほれ、我のも少し良いから」
 とイチゴ味を差し出すペルに、竜人は首を横に振る。
「欲しいならあげるけど貰わなくていい」
「なんだ、照れてるか? クク……」
 とニヤニヤするペルに、竜人は平然と言い返した。
「大人は物が食えなくなるんだ」
 その横をぐんぐんと四人が最前列目指してステージを降りていく。
 ルイーズ・ロジェ(宵の星・e86874)はリュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)の手を引っ張る。
「イルカショー、早く行くのよ!」
「ぷち家族旅行、すごく楽しみだったの! イルカショーはやっぱりいちばん前の席よね!」
 わくわくとやってきたのは水かぶり席こと一番前。
「意外とチャレンジャーだな」
 とウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)が感嘆している中、ルイーズは席を立って、プールで準備運動とばかりに泳ぎ回っているイルカを覗いているので、兄のシャルル・ロジェ(明の星・e86873)が呼ぶ。
「ルーも、ほら、座らないと……誰かに席をとられてもいいの?」
 あわてて戻ってきて、ようやく四人並んで席につくと、リュシエンヌは、
「お水を被っても平気なように、カッパも用意してきたのよ」
 とイルカ型フードのついたカッパを双子に着せだした。
「これ着るの?」
「ん、カッパさん? かわいいの!」
 ちいさなイルカになったルイーズはご満悦だ。
 そして自分もイルカッパを着たリュシエンヌは、もう一枚大人用のイルカッパを取り出し、
「うりるさんのもあるのよ?」
「いや、俺はい……」
 三人で、じーっと着る気を見せないウリルを見つめる。
「判った判った……着るよ!」
 わぁい! 最前列にイルカッパが四つ並んだ。
 と、イルカショーが始まった。調教師の元気な声にあわせて、イルカが跳んだり跳ねたり、ボールを運んだり。
「間に合ってよかったな」
 楽しみにしていた二人がショーを見逃してがっかりしないように、時間をチェックしていたレヴィン・ペイルライダー(キャニオンクロウ・e25278)は、
「あんなにジャンプや芸が出来るのすごいね」
 天雨・なご(かりう・e40251)が感心する横で、
「輪っかをくぐったり賢いですよねー。調教師さんととても仲良しさんです!」
 御巫・かなみ(天然オラトリオと苦労人の猫・e03242)がはしゃぐのを、満足げに見つめていた。はしゃぐ恋人のかなみは可愛い。
 頑張るイルカはきっと沢山の練習を重ねてきたに違いないと、レヴィンは彼らの奮闘を思いやる。
「うっ……」
 感動して涙ぐむレヴィンをなごは、なんで泣いているんだと怪訝な顔をしていた。
 拍手喝采のイルカショーが終わって、観客は三々五々に散っていく。
 時間も遅くなってきて、イルカのプールは夕日を反射してオレンジに光っていた。
 アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)も席を立ちながら、隣の陽南・ルクス(零れ陽・e87336)に声をかける。
「あまり乗り気じゃないみたいなのに、付き合ってくれてありがとうね」
 イルカを可愛いと言っても、気のない返事しかしなかったルクスには、イルカショーはつまらなかっただろうかと思うアリシスフェイルに、ルクスは首を横に振る。
 実際、つまらなかったわけではない。イルカの奮闘に目を輝かせるアリシスフェイルは愛らしかった。
(「高揚する程の好ましいという感情をアリス以外に持つことが今迄なく」)
 ルクスは彼女から少しずつ、感情を得て知っていっている最中なのだ。
「後で売店に寄って帰りたいのよね。イルカの抱き枕も買っていきたいの」
 アリシスフェイルが言うと、ルクスは澄ました顔で言う。
「俺を抱いて眠れば良いだろ?」
 真っ赤になったアリシスフェイルは、しばらく言葉を失っていたが、
「そうだけど、そうじゃなくて!」
 と言い返してくる。
「冗談だ」
 といなすルクスだが、イルカの抱き枕を抱えるアリスを自分が抱いて眠ればいいと思っているので、あながち冗談でもないのだった。

作者:あき缶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月13日
難度:易しい
参加:29人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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