ミッション破壊作戦～永遠の眠りを再び

■リプレイ

●死に満ちた島へ
　九州本島の南端に当たる鹿児島県佐多岬、その南西の洋上に浮かぶ無人島の一つ『臥蛇島』に魔空回廊があった。
　かつては人も住んでいたが年月と共に人も去り、無人島となっていたこの島はデウスエクスが秘密に研究を行うにはもってこいの場所。
　本来静かな島は、今や悲しみと苦痛の叫びを響かせる哀れな巨体の屍隷兵彷徨う地獄の如き有様と成り果てていた。
　一面に広がる海を往くヘリオンの中から、九田葉・礼（心の律動・e87556）は臥蛇島周囲の海域、そして島の形状を手元の地図と照らし合わせ眺めている。
　そしてメンバーの中で最年長の宇原場・日出武（偽りの天才・e18180）は目を軽く閉じ意識を集中している。
　少々特徴的な外見の彼だけれども、不動かつ自信に満ちた表情と雰囲気は不思議と安心感を与える。
　そんな彼の横では副島・二郎（不屈の破片・e56537）が島の屍隷兵へと想いを巡らせている。
（「人以外のものになり果てた、か……俺も似たようなものかもしれん」）
　かつて真面目な普通の警察官だった二郎だが、今はひとつの武力――ケルベロスとして在る彼は、自分と屍隷兵の在り方が近似していると内心で自嘲する。
「……だが、まだだ」
　しかし同時に、全く同じではないという事も理解している。
「どこの誰がこんなことしたのか知らないけど……」
　そんな彼の向かいで静かに、しかし心底からの怒りを燃やす青髪のシャドウエルフはシル・ウィンディア（鳳翼の精霊姫・e00695）。
　かつてこの島で研究していたのは螺旋忍軍らしいが、その研究を行っていたものが現在も生存しているかは定かではない。
　だが、それでも。
「見つけたら、屍隷兵を作った事を後悔させてやるっ！」
　手元のグラディウスを握り、シルはそう強く決意する。
　そしてヘリオンが臥蛇島上空へと到着、島の中心にある魔空回廊を見下ろす位置で効果準備を開始。
　ここまで地図と目視確認を丹念に行っていた礼は、島の形から撤退は海岸を目指す形がよさそうだろうと仲間たちに伝えつつグラディウスを抜く。
　そして四人のケルベロス達はヘリオンより飛び降りる。
　背後から聞こえる声と光線によりヘリオンデバイスが実体化される中、礼はグラディウスに込める為のグラビティを練り上げ始める。
　屍隷兵、死体より神造されたデウスエクス。
　怨嗟、悲嘆、憎悪――そして苦痛。過去の報告書や看取ってきた者の記憶と感情で色々と知ってしまっているからこそ、ヴァルキュリアである礼には思う所がある。
「無人島だって不要な場所じゃないし、この島は誰かの供養碑もあるの」
　元は人の住んでいた島、この地に眠り弔われる魂も間違いなく存在している。
　その魂達が現在の屍より創り出されたデウスエクス闊歩する現状をどう思うか、
「……仇が滅ぶ程度で無念が晴れるとは思わない。だけど、私はヴァルキュリアの端くれとしてその苦しみや悲しみを引き取ることはできる」
　死と向き合い、寄り添い続ける礼の魂の叫びはグラディウスの輝きをより強めていく。
　そして礼と同じく、シルも死んでなお弄ばれる命を解き放つ為にグラディウスに想いを込めていく。
　現世に縛られた悲しい命が、新たな悲しみを生むことのないように、この地に新しく住まう人達が笑顔で過ごせるように――、
「ここで、すべてを断ち切らせてもらうよっ！」
　その叫びに応えるかのようにグラディウスに宿る輝きは高まっていく。
　そして大柄な日出武もグラディウスを手にし叫ぶ。
「……この天才であるわたしが君臨する日本に、いまだにこのようなものがあるのを決して許すわけにはいかん！」
　突然何を言い出すのか。だが、それは日出武の魂の叫びで。
「わたしは天才！　そして天才であるからには世界と人々を守るのは義務！　即ちノブリス……いや、ジーニアス・オブリージュなのです！」
　天才を自称する彼は英語と仏語を混ぜつつ、傲岸に言い放つ。
　それは本音か、或いは困難に相対した上で自己を保つ為の虚勢か――、いずれにせよ彼の強烈な意志を込めた叫びに呼応してグラディウスの輝きは増していく。
　そして感情をあまり表情に出さない二郎も静かに、しかししっかりと想いを込めて言葉を紡ぐ。
「俺は自分が『在る』限り……人の営みを、守る」
　在り方の違い――何かの命令に従って暴力を振るう屍隷兵に対し、二郎は彼自身の意志で人を守る為の武力と在ろうとしているのだ。
「お前たちが安心して眠れるよう、その苦しみを、断ち切る」
　そんな彼の決意の言葉にグラディウスはより輝きを増し、そして四人のグラディウスに蓄えられたグラビティの力が限界にまで高まった。
　そして自身の天才性をつらつらと述べていた日出武が言葉を切って、
「わたしは天才だぁ～！！！」
　彼の心からの叫びと共に短剣が一際輝き、
「あなた達の安息の為、全力で臨むから……この島は今生きてる人達に返してあげて！」
「……さあ応えろ、グラディウス！」
「グラディウス、想いとともに、力を解き放てっ！！」
　そして日出武に続き四つのグラディウスの力が一斉に解き放たれ、屍隷兵巣くうこの地を解放せんと練り上げられた力がバリアに叩き付けられた。

●凌駕巨兵リローデッド
　解放された力が放った光と爆音、そして煙が魔空回廊の周囲を満たし、そして晴れる。
　その間に着地したケルベロス達の目に映った光景は、屍隷兵共に特に荒らされていたのか荒野の如き場であった。
　この荒野の光景に何故かよく似合う様に見える装いの日出武は即座に周囲を確認、そして強襲型魔空回廊が消失した事を認識する。
　自作の鞘、或いは腰後ろの鞘にエネルギーを放出しきったグラディウスを礼とシルが納め、全力で戦ってもすっぽ抜けたり取り落としてしまわぬよう固定する。
　そして二郎と日出武もグラディウスをそれぞれ体に固定した時、巨体の屍隷兵が現れる。
　眼前に現れた悍ましき巨人は死して尚縛られる哀れな魂、それを前にしたシルは左の薬指に光る絆の指輪に触れる。
　離れていても一緒だと、愛しきひととの誓いを再確認したシルは眼前の敵を見据えた。
「ふむ、後はあれを速攻で撃破して離脱だな」
　戦闘に際して装着したアームドデバイスを構えた日出武が前に出ると同時、シルが二郎と礼にジェットパッカー・デバイスからビームを繋ぎ、青空へと一気に牽引。
　シルに牽引され空に引っ張り上げられる感覚を感じながら、二郎はレスキュードローン・デバイスを周囲に展開しつつその手のパズルを組み替えて蝶の群れをシルへと放つ。
　その助けを受けたシルは反転、
「流星の煌めき、受けてみてっ！！」
　二人を空に導いたのとは逆方向に加速、流星の如き勢いで白銀の装飾の靴を屍隷兵の頭部にめり込ませ、そして空へと離脱。
　彼女に連携して礼が失われた面影を悼む調べを唄い上げ魂を呼び寄せ、その魂を自身を含めた三人のケルベロスに纏わせ加護砕きの力を与える。
　攻撃に対し悍ましい咆哮をあげた巨体の屍隷兵は唯一狙える位置にいる日出武を標的に定め、大きく振り被ったその剛腕で彼の頭を粉砕せんと振り下ろす。
　だが天才たる彼と比較すればその他は凡人――例えデウスエクスであったとしても。
「凡人ごときの攻撃、わたしに当たると思ったか～！」
　勢いは強烈だが単純な力任せの攻撃を日出武はデバイスを斜めに傾けて逸らし、
「新しい秘孔の究明だ」
　巨大な拳が地を割ると同時に屍隷兵の胴に拳を叩き込み、その体の内部にダメージを浸透させる。
「ん～？　間違えたか……？」
　首を捻りつつ逆の腕の攻撃を大きくバックステップし回避、後方の大岩をアームドデバイスで掴み体を引き付けて射程から離脱する日出武。
　そして彼に入れ替わり、六色の小さな宝石に彩られた指輪で精霊の力を引き出し光剣を形作ったシルが再度屍隷兵の肩口に飛び込み袈裟懸けに切り裂いた。
　屍隷兵はそんなシルを掴もうとするが、彼女をはじめジェットパッカーによる空中機動を行うケルベロス達を屍隷兵は捉える事ができない。
　故に攻撃は日出武へと集中、只管力押しで見切られる事すら厭わず連続で攻撃してくるが、日出武は冷静に攻撃を逸らし、致命的な一撃にならないように受け流していく。
「今一度、あなたの力を！」
　受け流しながら流し切れぬダメージを蓄積させている日出武に、礼が彼女の内に記録した死せる者の力を一時的に具現化、その力により日出武の傷を癒しその力を高める。
　その助けを受けつつ牽制で振り回される屍隷兵の腕をすり抜けて日出武がガントレット纏う拳で痛烈な一撃を叩き込めば、それに呼応するようにシルが空より流星の勢いで急襲し、その白銀の靴を屍隷兵の肩に突き立て即座に離脱。
　一撃離脱を徹底した彼女はその火力の他に呪縛を一つずつ重ねて巨体の屍隷兵の動きを徐々に鈍らせていく。
　それを厭うたか、屍隷兵が負傷に対し絶叫を轟かせ傷を治療し勢いを増す。しかしそれに対しシルが音速の拳でその勢いを砕いていく。
　だがその直後、急に日出武へと飛び込んだ屍隷兵がその丸太のように太い足で一気に蹴り飛ばす。
　空中に浮いた日出武、だが華麗に着地を決め涼やかな表情のまま構えを取り直す。
　まるで岩のように立ちはだかる彼は鉄壁の盾――内面ではのたうち回る程の激痛に襲われていても、それを表には出さぬのは彼が天才と在ろうとしているから。
「村長、今治す――命を支える、力となれ」
　そんな彼に呼びかけた二郎が四肢の一部を補う青黒い混沌の水を放ち傷口を濯ぎ、治癒に特化した水の暖かな流れで彼のダメージを癒す。
　世紀末な世界によく似合う装いの日出武は天才らしく紳士的に二人に礼を言い、再び屍隷兵の攻撃を受けんとガードを固めながら敵の巨体の一点に指を突きこみその気脈を破壊する。

●哀れな魂に安らぎを
　戦いは終始ケルベロス優位に進んでいた。
　屍隷兵の強烈な蹴りを受けた日出武に礼が彼女の記録から具現化させたグラビティを送り込んでその力を高めていく。
　唯一牽引されていない地上の日出武のみに攻撃が集中していて、加護を砕かれるのも必然彼に集中してしまっているが、その度に礼は彼に治癒と加護をかけ直している。
　やや行動の優先順が曖昧であったが、これならそう迷う事もないだろう。
　そして二郎の青黒い混沌の水をずぶ濡れになる程に被った日出武は、変わらず屍隷兵の前に立ち続けている。
　回復に専念する二郎の努力、そして重なった重圧により敵の攻撃の精度が落ちてきている事もあり、一人屍隷兵に狙われ続ける日出武もまだまだやせ我慢できる程度には余力がある。
　もっとも彼の場合、本当に倒れ伏してしまう瞬間までやせ我慢を続けるのだろうけれども。
　嘆きの声と共に叩きつけられる屍隷兵の剛腕、だがそれは空を切り隙ができる。
　その隙を見逃さず礼が光の翼を広げ屍隷兵に飛び込むと、肉食獣の牙のような傷を刻み込む。
　苦悶の叫びをあげる屍隷兵、その犠牲にされた哀れな魂に礼は真摯に向き合い、解放する為にその力を振るう。
「ウィンディア、頼んだ」
　手の中の爆破スイッチを押し込み、空に花火のようなカラフルな爆発が巻き起こりシルを鼓舞する。
「ここからは本気で行くよっ！」
　鼓舞されたシルが飛び込み旋風が吹き過ぎるかのような蹴撃が屍の胴体に突き刺さり、抉り取るように蹴り抜いて。
　即座に反撃せんと巨大な腕で掴もうとするが、シルの勢いを止める事は叶わない。
「ちょっとやちょっとじゃ、わたしは止まらないっ！」
　近距離での攻撃グラビティに集中したシルの攻撃はヘリオンデバイスの補助もあり非常に強烈。
　絶叫を上げ傷を癒そうとする屍隷兵だが、回復を阻害する呪縛の効果もあり、屍隷兵の体力はそれ程大きくは回復できない。
　怨嗟まき散らす屍隷兵の乱雑な攻撃を日出武が逸らしカウンター、降魔の力を宿した日出武の拳が屍隷兵の肉に突き刺さり、その生命力を奪い取る。
　ここが攻め時と、礼がオウガ粒子を周囲に展開、飛行中三人の感覚を活性化させる。
　そして荒れ狂う屍隷兵を見、二郎は想う。
　この屍隷兵を創造する為の素材にされた者達がどのような死を経て今の姿にされたのかは分からない。だが、決してこのように理性なく暴力を振りまく存在に変えられていいはずがない。
　本性の正義感、そして心の裡にある後ろめたさより出でし怒りを変換した雷はほんの一瞬、屍より創造されたデウスエクスの動きを止める。
　そして巨体の屍隷兵に憐みの視線を日出武が向け、上空からの雷に注意が向いた所で巨体の懐に飛び込んで急所に拳を突き込めば、内部から破裂するように肉が弾ける。
　しかしそれでもまだ屍隷兵は動き続けようとするが、気脈を砕かれ雷に撃たれた衝撃でその体は思うようには動かない。
「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ、暁と宵を告げる光と闇よ……」
　そしてシルが左手に淡い翠のショートソードを握り、ジェットパックを全開に噴射し猛加速、屍隷兵の巨体が反応する前にその懐に飛び込んだ。
　彼女のショートソードは指輪から引き出した力を増幅する為の補助具、高められた力は死より蘇り邪悪なる術に囚われた哀れな魂の拘束を吹き飛ばす程のもので。
　そして青のエルフの背には反動を抑え込むための一対の魔力の青白い翼が展開され。
「わたしの全力魔法、遠慮なくもってけっ！」
　言葉と共に、精霊の力を収束した巨大な魔力砲撃が放たれ、光が巨体を丸ごと飲み込むように迸った。

●そして、帰還する
　砲撃の光が消え、巨大な屍隷兵はそこに跡形もなかった。
　そして休む間もなく礼がチェイスアート・デバイスのビームを仲間に繋ぎ、
「あの方角へ向かうのが一番早いです」
　空から見た地形と地図から割り出した撤退経路を示し、誘導するように駆けだした。
「長居はよろしくないですな。撤退しましょうか」
　戦いのダメージなどなかったかのように、その外見から想像できぬ程軽やかに日出武が礼を追いかけ走り出す。
「ああ、急ごうか」
　そして二郎とシルも彼に続く。
　道中にまばらに生えた植物も隠された森の小路の力で避けさせ、そして混乱から復帰した屍隷兵達が追い縋る時間も与えず一気に切り立った崖へと辿り着く。
　ここからはシルのジェットパッカーの出番。
「さ、一気にいくよ！」
　ジェットパッカーのビームで四人全員を繫ぎ、シルが牽引しつつ崖から飛び立つ。
　屍隷兵の攻撃が届かぬくらいに島から離れればヘリオンによる回収も容易に行えるだろう。

　こうして四人のケルベロスの活躍によりまた一つ、デウスエクスに占拠された地が人類の手に取り戻されたのであった。

作者：寅杜柳	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2021年7月7日 難度：普通 参加：4人 結果：成功！
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