迎撃、星戦型ダモクレス~ダンス・ダンス・ダンス

作者:弓月可染

●ヘリオライダー
「……いずれにせよ、もう、対話を夢見る時間は過ぎました」
 超神機アダム・カドモン。ダモクレスを率いる十二創神は、ケルベロス達の考えを理解しながらも、交渉を打ち切り地球のマキナクロス化を宣言した。
 ならば、未来を掴み取る為に、私達は戦って勝たねばならないのだと――アリス・オブライエン(シャドウエルフのヘリオライダー・en0109)は、集まったケルベロス達が覚悟を決めている事を知っていて、敢えてそう告げる。
「アダム・カドモンは、惑星級星戦型ダモクレス『惑星マキナクロス』を駆って太陽系に侵攻を始めています」
 既に、火星までの惑星はダモクレスによって機械化されてしまった。そして、いったん機械化が完了したならば、彼らはその惑星の運行すら自由に出来るのだという。
「おそらく、ダモクレスの目的は、グランドクロスを発生させる事です」
 グランドクロスとは、『季節の魔法』の宇宙版である。彼らは、惑星を思うままに並べる事で莫大な魔力を生み出し、それをシャドウエルフの秘宝『暗夜の宝石』たる月に注ぎ込むことで、暗夜の宝石を再起動し、地球マキナクロス化を瞬時に完遂しようとしているのだ。
「ダモクレスは、地球周回軌道上から魔空回廊を通じて暗夜の宝石制圧部隊を月に送り込み、月の遺跡を制圧しようとしています。それに対抗するため、皆さんには万能戦艦ケルベロスブレイドで月に向かっていただきたいのです」
 月が制圧されてしまえば、地球のマキナクロス化を防ぐ事は不可能に近い。また、ケルベロスブレイドの速度では未だ無事な金星に向かうにも時間がかかりすぎる。アリスが告げた作戦は、現時点ではほとんど唯一の選択肢だった。

●ダモクレス
「月の遺跡には、その機能を掌握するためのいくつかの重要地点があるようです。聖王女エロヒムさんの協力で、そのポイントはおおよそ判明しています」
 当然ながら、ダモクレスもそこを狙って転移してくるだろう。幸い、予知によって先回りが可能なので、敵の制圧部隊を待ち受ける事が出来る。
「魔空回廊を通って襲撃してくるのは、三体の『星戦型ダモクレス』です」
 決戦用に改修されたダモクレスの切り札――星戦型。ただ、ケルベロス達にとって幸運なのは、魔空回廊の通過にタイムラグがあるのか、三体はそれぞれ八分程度の間隔を開けて出現するのだという。
「各個撃破を狙えれば、戦闘を優位に進める事が出来ます。ただ、それは手間取ったら複数の敵を相手にしなければならない、ということの裏表ですから」
 ケルベロス達の目的は、月の制御をダモクレスに渡さないこと。ならば、遺跡を破壊して撤退する決断も必要になるかもしれない。
「いずれ、暗夜の宝石を利用するために、なるべく遺跡は無傷で手に入れたいところです。ですが、地球のマキナクロス化を防ぐ方が優先です」
 決して引き際を見誤らないで下さいね、とヘリオライダーの少女は釘を刺す。彼らを案じるその口調に、冗談の色は微塵も感じられないのだ。

「皆さんに迎え撃っていただくのは、GEARS、と名乗る組織の精鋭です」
 かつてはマキナクロスの直衛を任じられていたという組織を率いる三体のダモクレスが、星戦型に換装され更なる力を得て、暗夜の宝石を強襲するのだ。
 先鋒は、黒いコートを纏い禍々しい大爪を構えた青年型ダモクレス、略奪王ピニオン。
 続くは紫の髪を靡かせ不可思議な軌道で宙を舞う女性型ダモクレス、機巧王セミマル。
 そして、GEARS首領にして装甲機構を操る少女型ダモクレス、歯車神エクスマキナ。
 いずれも一騎当千、幾多の戦場を駆け抜けたケルベロス達でさえ易々と勝てる相手ではない。
「月面の大神殿の内部での戦闘になると思われます。周囲に稼働を止めた機械が並んでいますが、多少の流れ弾はどうしようもないでしょう」
 破壊しようと思って仕掛けなければ、少々当たったとしてもどうにでもできる。それより、機械の確保を気にしてピンチになる方が問題だ。
「強敵との三連戦。しかも、ケルベロスブレイドの援護も受ける事が出来ません。でも、ピンチを何度も乗り越えてきた皆さんですから」
 きっと、生きて帰ってきて下さると信じています、と。
 そう締めくくって、ヘリオライダーの少女は一礼した。


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)
トライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)

■リプレイ


「邪魔するなよ小僧ども、この遺跡は俺達の物だ」
 星戦型ダモクレスの先鋒、略奪王ピニオン。その三白眼が捉えたのは、ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)のヘリオンデバイスによって空中に牽引された大弓・言葉(花冠に棘・e00431)の姿だった。
「そうだなぁ……とりあえずは、お前だ」
 ニィ、と唇を曲げる。歯車の軋む音。次の瞬間、黒翼から放たれる数多の刃。
 その先には目を見開いた言葉。その頬から血の気が引く。
「え、えええっ!」
「やらせねぇ!」
 だが、刃は届かない。割って入ったトライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)の光剣が幾つかを叩き落し――そして、幾本かをその身で受け止めたからだ。
「ご、ごめんなさいっ」
「謝る事はねぇよ。こんな大一番で、頼もしい仲間を護って戦えるんだ」
 恵まれたってもんだ、と笑ってみせるトライリゥト。その身に、彼の指輪から溢れ出すエネルギーが輝く盾となって寄り添った。
「そうだね、大一番だもんね」
 その視界の半ばを頼もしき背で埋めて。強張った顔をぐしぐしと擦った言葉は、手の中のパズルを大きく捻った。ふわり、現われて淡い光を放つ蝶。
「かっこ悪いところは見せられないの!」
 蝶の羽ばたく先、純白の刀を構える仲間に目をやる彼女の頬は、すっかりと赤みを取り戻していた。

 大一番。
 そう、彼らにとってこの戦いは落とす事の出来ない大一番だ。
 しかし、空中と地上との距離が禍々しき黒爪を封じているとはいえ、星戦型の銘は伊達ではない。僅か八分で仕留める――その困難さを、彼らは既に思い知らされていた。
(「もう、昔の私じゃない」)
 一分。二分。刻々過ぎる時間。だが、ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)を焦がすのは時計の針だけではない。
 GEARSの名を聞いた時、ぞくりと震えた背。それが示すのはただ歓喜であると、彼女は信じているけれど――。
「今度はお前が奪われる番だ――その命をな」
 飛来する刃が身を抉るのも構わず、略奪王目がけ急降下するソロ。僅かに手前で着地したかと思うと、思い切りブーツの底を地面に擦り付ける。途端、轟、と音を立てて炎が沸き立った。
「お前達の存在を、私は決して許さない」
 下から蹴り上げる。炎に捲かれながら咄嗟に身体を反らすピニオン。そして、がら空きになった胸元へと飛び込む影。
「Shall we dance?」
 それは軍服に身を包んだディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)、その肩から腰にかけて背負う闇の色。冗談めいた口調とは裏腹に、その唇は凶暴な程の弧を描いた。
(「略奪王、か……やる気が出るよ。ああ、殺る気が、な」)
 隙だらけの胴を一振りのナイフが薙ぐ。そのまま床を強く蹴って上空に離脱する彼は、ちらりと彼方に視線を投げて。
「任せて下さい!」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)がその視線を受け止める。支援を主とするディークスがあえて接近戦を挑んだのは、自分に託したからだと――彼女は正しく理解していた。
 ならば、期待には応えるまで。
「授けましょう、聖者の遺した癒しの教えを」
 羽筆を走らせ虚空に描くは施療院の紋。さざ波のように広がる魔力が、ソロの流す血を止め、痛みを和らげていく。
「こんな時の為に、日々鍛えていますから」
 友の為に。仲間の為に。どこまでも手が届くと信じて、ミリムはまた詠唱を紡ぐ。

「……ちっ、気にくわねぇツラだ」
 果敢に挑む自らのテレビウムを捉える敵の大爪。それを目にし、相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)はそう吐き捨てる。
「クク……あやつ、どこか竜人と雰囲気が似ているな?」
「馬ぁ鹿」
 肩を竦めるペルを三白眼で睨みつけ、竜人はその拳を握りしめた。ゆらり、と周囲の空間が歪む。だが、彼が飛び出すよりも早く、ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)がその背を追い抜いていく。
「起点は私だ――続け、ペル」
 夜闇よりもほんの少しだけ明るい宵の色。対比するかのように眩い髪。速度を乗せて敵の頭上を襲うその姿は、まさしく流星が夜空を駆けるようで。
「誰が相手でも、やる事は変わらない」
 幾度も背を預けた友なれば、その狙いは判っている。ならば、自分の役割は相手の足を止め、その動きを錆び付かせる事だ。
「私達の連携をもって、その鋼の体を断じよう」
「目付きの悪い奴にはお仕置きが必要だからな」
 ぶん、と音を立てて投げられたペルの大鎌が、離脱したハルの残像をかすめ、略奪王の肩を食い破った。回転する鎌は円弧を描き、持ち主の手の中へと帰還する。
「安心しろ、竜人と間違ったりしないさ。竜人のが優しいしな」
「本当に黙ってろ馬鹿」
 隙だらけの構えと緩慢な動き。敵が示すそれは仲間達の積み重ねの結果だ。だからこそ、今がチャンスと信じ、竜人は一気に迫る。
「テメエは俺の敵だ――そのツラも世界で二番目に気にくわねぇしな」
 腕に纏うは白焔。愕然とする略奪王。その脇を潜り抜け、すれ違いざまに右手を突き入れる。
「コイツはちょいとばっかし重いぜ!」
 ずん、と。
 焔が爆ぜる。自らを巻き込む事も辞さないそれは、ピニオンを包み――その身体を四散させた。

 そして。
「なんじゃ、もうやられたのか略奪の。口ほどにもないのう」
 虚空の大穴から、次なる刺客が現れる。


「セミマル……お前に弄ばれた身体でお前を倒す!」
 絶叫。あるいは咆哮か。返事を待たず、現れたダモクレス――機巧王セミマルへとソロが迫る。アスガルド神の力を取り込んだ機械兵装を真っすぐに突き出し、まさしく一条の稲妻となりて。
「ユニが、朋未が見れなかった未来を、独り生きてきた。それがどれほどの苦しみだったか、お前に判るか!」
 石畳が砕け、土煙が捲き上がる。確かな手応え。――だが、その手応えを、絡繰の腕に走る鋭い痛みが上書きする。
「……幻蝶の? いや、失敗作の一つであろうが、妾がいちいち覚えていようはずもないわ」
 そう吐き捨て、機巧王は宙を舞った。ソロの横をすり抜け、そのまま牽引されたケルベロス達へと加速し、袖から覗く細い刃ですれ違いざまに斬り捨てて。
(「飛行型か。厄介だな」)
 距離の優位が覆された事を悟り、ペルは年齢に見合わぬ大人びた瞳を細めた。無論、その間にも彼女は呆ける事なく、次の一手を準備する。
「理想。因縁。欲求。平行線は交わらん」
 外套をはためかせる凍気の渦。白い杭打機は、いまや氷の大槍と化す。
「今交えるのは互いの拳、それで十分だろう?」
 加速。加速。互いに高速飛行する二人が正面から交わり――そして、セミマルの肩を穿った杭が氷の華と変わった。

「あの炎は……ナノマシンか何か、でしょうか」
 セミマルが突如炎に包まれ、半ばを覆う氷を溶かしていく。自分の治癒術とは異なる体系ゆえに朧げだが、ミリムはそれを高度な修復手段と看破していた。
「……どのような苦境でも、真っ直ぐ前を見るだけですが」
「大丈夫だぜ、俺達なら勝てる」
 彼女を蝕んだのは長期戦の予感。だが、力強く言い切ったトライリゥトの励ましが、その不穏を打ち払うのだ。
「どんな強敵でも望むところだぜ!」
 そのまま敵へと取りつき、足技からの一撃。これまで守勢に回っていた彼が、明確に攻撃へと軸を移す。その意図を理解し、ミリムもまた彼女に不釣り合いな程大きな黒斧を高く掲げた。
 呟くルーン。迸る呪力。猛き英雄の斧が、機巧王を打ち据える。
「いくよぶーちゃん、やっつけちゃえー!」
 言葉の声に応じ、腰の引けたボクスドラゴンが炎の吐息をぶちまけた。
 トライリゥトの連れるセイは回復に専念してくれている。ならば十分だ。演じる幼さよりも遥かに濃い言葉の戦闘経験は、メディックとして自分が支えるという自信へと繋がって。
「私も頑張るよ、皆がばしばし攻撃できるようにね!」
 こうありたいと願う自分である為に、ほんの少し可愛らしく声を張る。コンパクトのボタンを押しこめば、虹色の爆煙が弾け、戦場を覆った。

「テメエらがいなけりゃソロと会う事も無かった、って訳か」
 取り乱すソロを視界の端に入れ、竜人は独りごちる。彼女の不幸がなければ自分達は出逢わなかった――そう言ってしまえば皮肉ではあるのだが。
(「そうしたら、――は戦わずに済んだのに」)
 胸に蠢く思い。けれど、竜人は世界がそこまで単純ではないとも知っている。
 敵を殺せ。敵だから殺せ。俺はお前の敵だ――などと。
「違ぇよ。そうじゃねぇんだよ」
 自分自身の戦う理由を抱いて戦場に立つ。それが、ケルベロス達と、仮面を外した自分との矜持だから。
「だから、きっちり叩き潰させてもらうぜ!」
 竜の絶叫と共に、彼は戦鎚を振るう。その強襲に続くのは、幾本もの刀剣を従えし剣鬼――ハルだ。
「我が内なる刃は集う。無明を断ち切る刹那の閃き――」
 月の薄い空気が、ぐ、と重くなる。どろりとした圧。その領域を自在に舞う美しき刃が、突如一つの方向へと向き直る。
「――絶望を切り裂く終の剣!」
 其は殺界に千華舞う白翼。久遠にして刹那の舞踏。仮初の刀剣が降り注ぐ中、ハルは純白の刀を振り下ろす。
「今ひとたび、この刃を振るおう。彼女が望む決着の為に」
 そして、その濃密な殺気の中を奔る熱鎖。紅く輝く瞳、黒く呪われし爪――それらディークスの意が指し示す先へと煉獄の焔は押し寄せる。
「高まる熱に上限は無く」
 袈裟懸けに斬られ、限界に達していたセミマルに避ける余力はなかった。
「絡まる深さに際限は無い」
 絡みつく鎖。
 灼き焦がす熱。
 それが、神殿の床と機巧王とを繋げ、葬送の火櫓の如く燃え盛って。
「これで、二つ。ダンスのステップはSTOP、だ」
「……、無様よな、ギアマスターを迎えられぬとは」
 ちょうど七分。白狼の魂鎖に全身を灼かれ、機巧王だったものは崩れ落ちる。

 そして、暫時。
 歪む虚空より現れし最後の刺客、機構兵器を身に纏った少女は。
 刹那の躊躇すらなく、ケルベロス達の視界を圧倒的な白に染めた。


「初手で来るとは……思い切ったな」
 右肩を押さえたトライリゥトが、溜まった血を吐き捨てた。
 それは文字通りの強襲。甲冑の砲門を全開にした高密度エネルギー射撃。彼らが飛行していた為に狙いが分散し、本来の威力からは幾分か減じられてはいたが。
「トライリゥトさんっ」
「見得くらい切らせてくれよ。一世一代ってもんだ、なぁ!」
 ミリムを庇い直撃を受けた彼の傷は深い。それでも、視線で治癒しようとする彼女を止めて、にっ、と笑った。笑ってみせた。
「望むところだぜ――やらせるかよ。俺が、守る!」
 それこそが彼の誇り。
 それこそが彼の立つ理由。
 自らを奮い立たせる叱咤。全身を痛みが襲おうとも、笑顔を見せる空元気。
 ああ、それこそが勇気というものだと、守護者たるトライリゥトは知っているから。
「……そう、真っ直ぐ、猪突猛進ですね」
 そしてミリムもまた、その勇気に励まされ、二振りの得物を握り直す。
 二人以外の者達も体勢を整えつつあった。その中でいち早く、現れた敵――エクスマキナの次なる動きを察知したハルが、流星の如く宙を駆ける。
「第三次状況開始。目標、歯車神エクスマキナの撃退。皆全力を尽くしてくれ」
 それは牽制、なれど強力なる痛打。加速を重ねた蹴撃が、歯車神を地上に縫い止める。
「信じる道の為に――全力で乗り越えるまでだ!」
「はい、地球を機械化させる企みなんて、打ち砕いてやりましょう!」
 ハルに呼応し、声を上げるミリム。蒼炎の大剣を中心に巨大な魔力が揺らぐ。
 いまや、過去の惨劇を忘れ癒しの力へと浄化された月の魔力。高く掲げた大剣を大きく振り下ろせば、それは暖かな波動となって仲間達を包んでいった。

「……なるほど。流石は首領という事か」
 血に染まった白い外套。エクスマキナの投じた大歯車に食い破られた肩口の痛みに、ペルは眉根を寄せる。
「主星の防衛を担っていた、という触れ込みも伊達ではないのだろうな」
 傷口を押さえる彼女を眩い輝きが包んだ。身体の底から呼び起こされるような、馴染みのある感覚。少し前方に浮かぶディークス、その背にしがみつく闇色の蜥蜴が、瞬くような光を全方位に発している。
 歯車神。
 そのシンプルな火力と耐久力。その脅威を、既に彼女らは思い知らされていた。
「だが、やるしかない。疲れていると思うが、もう少し頑張ってくれよ」
 もとより攻撃と支援のバランスを取っていたディークス。だが、この時彼は、より仲間のフォローを厚くする方向に舵を切っている。
 賞賛すべきはその戦局眼。歯車神の怒涛の攻勢の前にここまで誰一人欠けずにいる、その功の一端が彼にある事を疑う余地はない。
「ペル」
 らしくもなく案じる声に少女が目を向ければ、傍らには竜人の姿。
「……やっぱ、今のうちに一切合切叩き潰しとかねえとな」
 俺が一番強く在れるうちに、と呟いた彼に、阿呆、とペルは投げ返した。
「何もかもを背負ったような顔をするな。我を暇にさせるな、と言ったぞ」
「覚えてねぇよ――馬ぁ鹿」
 いつかの神聖なる約束。それを誤魔化すように、竜人は戦鎚を構えエクスマキナへと突貫する。その様を、馬鹿馬鹿言い過ぎだ、と彼女は見送って。
「とはいえ、たまには我も格好をつけねばな」
 刹那、目を閉じる。その手には巨大なる白剣。小柄な彼女よりはるかに長いそれを握りしめ、ペルもまた男の後を追った。
「――白紙に、無に、回帰せよ」
 視界には歯車神の大甲冑。一刀両断の意思を込め、ぐん、と振り下ろす。

「……コイツさえいなければ」
 私達はこんな未来を歩まなくて済んだ、と。そう吐き捨てたソロを誰が咎められようか。誰も彼もが傷ついたこの戦場で、彼女の瞳はただ爛々と光を増す。
「お前を、お前を道連れにするまで――」
「ソロちゃん」
 だが、捨て身で飛び掛かろうとするソロを、甘やかな声が呼び留めた。
 言葉。地獄の炎を身に宿しながら、生クリームと砂糖菓子で自らを装う女。女の子は正義だと臆面もなく言い切ってみせる、幸福主義のエピキュリアン。
「ほら、女の子は可愛くないと」
 色鮮やかなリボンがソロを覆う。手首には蝶々結びのラッピング。ね、と場違いに微笑む言葉。
 それだけで良かった。
「……、そうだな」
 向き直るソロ。対するは歯車神。これが決着となると、知らず誰もが感じていた。
「全ての命の源たる青き星よ――」
 エネルギーで満たされた砲門が光を漏らす。
 蒼き光輝が集いて剣を成す。
「……一瞬で良い、私に力を貸してくれ!」
 この惑星の命と想い。それを両手に握り締め、まさに放たれんとする破壊の奔流へと彼女は飛び込んでいく。

(「もう……独りじゃない」)

 刺し違える為ではなく、共に還る為の剣。
 長い旅路の果て。辿り着いたその切先が、エクスマキナの胸を貫いていた。

作者:弓月可染 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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