迎撃、星戦型ダモクレス~殲虐の三重星

作者:椎名遥

「みんな、集まってくれてありがとう」
 集まったケルベロス達に、水上・静流(レプリカントのヘリオライダー・en0320)は小さく一礼する。
「先日の投票の結果、ダモクレスとの決戦が決まったのはご存じかと思います」
 聖王女の協力を得て実現に至った、ダモクレスを率いる十二創神『超神機アダム・カドモン』との話し合い。
 その中で、アダム・カドモンが宣言した地球のマキナクロス化に対し、ケルベロス達の対応方針が決定したのは先日の事だ。
 アダム・カドモンの考えにも理はある。
 ――けれど、ケルベロスにも譲れないものがある。
 ならば後は、互いに全力で戦い信念を押し通すのみ。
「この戦いを、第二次大侵略期の最後の戦いとするためにも、全力を尽くしましょう!」
 拳を握る静流が示すのは、地球と周囲の星々が書かれた太陽系の星図。
「現在、アダム・カドモンが座上する惑星級星戦型ダモクレス『惑星マキナクロス』は、亜光速で太陽系に侵攻して惑星の機械化を開始しています」
 その狙いは、太陽系の惑星を機械化することで運行を制御し、決戦のタイミングで『グランドクロス』を発生させることにある。
 『季節の魔法』の宇宙版であるグランドクロスで膨大な魔力を呼び出し、それを暗夜の宝石――『月』に集めて再起動させる事ができれば、地球マキナクロス化を一瞬で完了させることも可能になるだろう。
「既に火星は機械化を終了。この後は金星、水星方面に移動し、全ての惑星の改造を完了させた上で地球に進軍してくると予想されています」
 語る静流の指は火星から金星へと動き――その途中、地球の近くで停止する。
「ですが、この作戦には、惑星の改造だけでなく月の制圧もまた必要になってきます」
 暗夜の宝石を利用する為には必要不可欠となる月面遺跡。
 その制圧なくして地球のマキナクロス化は実現はできない。
「そのため、火星から金星に移動する地球周回軌道上のマキナクロスから、魔空回廊を通じて制圧部隊が月に転移してくることが予知されています」
 月が制圧されてしまえば、グランドクロスによる地球のマキナクロス化を防ぐ事は不可能となるだろう。
 だが、これを迎撃できれば、生み出した魔力を十全に使うことはできなくなる。
 故に、
「ダモクレスが転移してくる場所は、聖王女エロヒムの協力により予知できています。だから、みんなにはケルベロスブレイドで月面遺跡に急行してもらい、制圧部隊の迎撃と遺跡の防衛をお願いします」
 そう言うと、静流は遺跡内部の見取り図を広げる。
「みんなに向かってもらう場所に転移してくるのは、『殲虐の九人姉妹』達」
 いくつもの戦場で、いくつもの形でケルベロスとぶつかり合ってきた歴戦のダモクレス部隊『殲虐の九人姉妹』。
 ぶつかり合う度、撃破されるたび、更新される戦闘データから調整を積み重ね。更には、宇宙での戦闘用に星戦型ダモクレスとしての改修強化も受けた戦力は侮れるものではない。
 それでも、経験を重ねてきたのはケルベロス達も同じこと。ヘリオンデバイスを始めとする力も合わせれば、決して勝てない相手ではない。
 ――相手が一体だけであれば。
「転移してくるのは、アハニト・ハルベリー、シェッシュ・サヤフ・ハザク、そしてエハド・ショウヘルの三体です」
 嘗て撃破された九人姉妹の七女『シェーバ・カシャット』の戦闘データを基に製造された量産型『アハニト・ハルベリー』。
 同じく、撃破された六女『シェッシュ・サヤフ』の強化型『シェッシュ・サヤフ・ハザク』。
 そして、これまで姿を見せることのなかった長女『エハド・ショウヘル』。
「最初にアハニトが現れ、その八分後にシェッシュ。さらに八分後にエハドが現れます」
 素早く撃破できれば各個撃破で対応も可能だが……手間取ってしまえば、最悪の場合は三体を同時に相手取ることにもなりかねない。
 そして、姉妹を名乗るだけあって、連携を取った彼女達の戦力は個別に相手取る場合の数段上を行く。
「……防衛が難しい場合は、遺跡を破壊して撤退する決断も必要になるかもしれません」
 暗夜の宝石を利用する事が不可能になる危険もある為に、できれば避けたい手段ですが、と静流は表情を曇らせるが……それでも、ダモクレスに遺跡を奪われないためには、やむを得ない手段でもある。
「でも、みんななら大丈夫だと信じています」
 そう言って、静流はケルベロス達を見つめる。
 相手の戦力は高いけれど、ケルベロス達も決して劣るものではない。
 重ねてきた経験も、共に戦う仲間との信頼も、未来を思う信念も。
 その全てが、未来を切り開く牙となってきたのだから。
「――頑張って。貴方達なら、きっと大丈夫なはずだから」


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)
キサナ・ドゥ(カースシンガー・e01283)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
夢見星・璃音(輝光構え天災屠る魔法少女・e45228)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)

■リプレイ

「暗夜の宝石……まさかまた、こんな形で来ることになるとは」
「宇宙に来るのもこれで何度目だったかね?」
 周囲を見回す夢見星・璃音(輝光構え天災屠る魔法少女・e45228)に、軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)も頷きを返す。
 『暗夜の宝石』攻略戦から二年。
 以前と異なる気配に満ちているけれど――それでも、ここに立つと思いだす。
 不慣れな環境に戸惑いながらも、医療コンテナを引っ張って運んで、力を尽くして戦った戦争を。
 幾度となく乗り越えてきた地上を離れての戦いを。
 あの日々も日常も、全てが自分達の経験となっている。
「――La」
 僅かに目を閉じ、過去に思いを馳せ。
 キサナ・ドゥ(カースシンガー・e01283)が紡ぐ歌声は、張り詰めた空気を揺らして遺跡の中に響いて消えて。
(「声は響くか? ……オーケー」)
 自身に問いかけ、答えを返し。
(「見通しはいいか? ……グッド」)
 瞳を開き、得物を握り。
(「覚悟はいいな? ……当然!」)
 見据える先で空間が歪み、現れるのは一つの人影。
 『殲虐の九人姉妹』の先兵たる量産型、『アハニト・ハルベリー』。
(「シェーバ姉さん……いえ」)
 姉の面影を宿す姿に、ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827) は首を振る。
 次の姉妹が転移してくるまで、八分。
 一分一秒も無駄にできない。
「さあ、我らが闘争を始めよう。最後まで付き合ってもらうぞ」
 無言で手にしたライフルを構えるアニハトに、アルトゥーロ・リゲルトーラス(蠍・e00937)も銃を抜き放ち。
 肩を並べる璃音が極聖剣エクスカリバール【神殺】を振りかぶり。
 凍結光線を左右に飛んでかわすと共に、双吉とミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)は走り出す。
「俺らの星をメカメカしくされてたまるかよ」
「敵転移確認、オープンコンバット」


「運命の導き『女帝』――貴方の運命をお守りします!!」
「行け、ミオリ!」
 如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)が導く女帝の愛の力、月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)が顕現させる星の輝きを宿す魔力柱。
 二重の加護の中、
「抉ります」
 踏み込むミオリが繰り出すスパイラルアーム。
 更には、アルトゥーロの蹴撃が、朔耶のオルトロス『リキ』の斬撃が。
 三重の連撃がアニハトへ走り――しかし。
 それらをかわし、受け止め、受け流すと同時に至近距離からの銃弾がケルベロスの足を止め。
 飛び退き距離を取る――瞬間、
「逃がさねぇよ!」
 キサナの紡ぐ『想捧』の歌に力を高めた双吉と璃音の銃弾が、退くアニハトを捉えてよろめかせ。
 続くティーシャの砲撃とアニハトの狙撃がぶつかり合い、大気を震わせる。
(「大したもんだ」)
 拳を止めることなく、アルトゥーロは胸中で息をつく。
 相手は量産型で、後方支援が本領の立ち回り。
 それでいて、実力はケルベロスを単身で相手取れるほど。
 双吉の拳を受け流し、ティーシャの狙撃を受け止め。
 放つビームの雨がミオリのブレイジングバーストとぶつかり合い。
(「――だが、まだだ」)
 例え、相手が強大でも、戦場に立つのが久しぶりだとしても。
(「これはいわば、最後の戦争に至るための前奏曲」)
 握る拳で光線を打ち払い、肩を射抜かれながらも顔を上げ、
「最高潮に達するまで、歩みを止めはしないさ」
 次弾よりも早く、アルトゥーロのサイコフォースがアニハトのライフルを捉えて銃口を逸らすと共に、朔耶の呼び出す御業と沙耶の鎖が絡みつき。
 動きが封じられたアニハトへ、ミオリと璃音が駆ける。
「見上げた星空すべて 一握りにまとめるような 儚き抗いのイマージュを 君はもう笑わないはずだ ――担う君だからこそ!」
 纏う星の輝きは、キサナの歌の後押しを得て輝きを強め。
 重なる蹴撃が、受け止めたライフル諸共にアニハトを壁へと叩きつけ――、
「一体、撃破です」
「七分、間に合ったな」
 崩れ落ちるアニハトを見下ろすミオリに、時計に視線を走らせるとアルトゥーロは小さく息をつく。


「ナノマシン散布、治療開始」
 ミオリの散布するナノマシンとキサナの歌、沙耶の光が仲間を包み。
 目を閉じ、息を吸い――鋭く息を吐くと、朔耶は瞳を開く。
 僅かでも、傷を塞ぎ、息を整えることはできた。
「さて、次に行こうかね」
「戦力の逐次投入ってのは、悪手の極みだぜ?」
 肩をすくめるアルトゥーロの前で空間が揺らぎ、現れるのは大剣を携えた赤の人影。
 撃破された『シェッシュ・サヤフ』の強化型『シェッシュ・サヤフ・ハザク』。
「アニハトは倒したのね、ティーシャ・カシャット」
「ティーシャ・マグノリア、よ」
 そうだったわね、と微笑むシェッシュにティーシャは僅かに表情を曇らせる。
(「シェッシュ姉さん……でも、違う」)
 声も姿も記憶も、全ては『シェッシュ』そのもの。
「……ティーシャさん」
「姉妹が相手でやりにくいってんなら俺らでブン殴って来るが」
 けれど、沙耶と双吉に首を振ると、ティーシャは銃を構える。
 姉だったシェッシュは、四年前に自分の腕の中で死んでいる。
 同じデータを使っていても、目の前の『シェッシュ』は別人でしかない。
「討たせてもらう、シェッシュ・サヤフ・ハザク」
「ああ、テメェの砲でケリつけるってんなら俺らが全力でその機を作るぜッ!」
 ティーシャと双吉の銃撃を赤の剣閃が切り払い。
 それを合図とするように、ケルベロスとダモクレスはぶつかり合う。
「――っ」
 振り下ろされる刃を沙耶が受け止め。その背を飛び越えるミオリが繰り出すスパイラルアームが。左右から回り込む朔耶の斬撃とアルトゥーロの蹴撃がシェッシュを揺らがせて――、
「無駄よ!」
 直後、薙ぎ払われる赤の剣がケルベロスを押し返し、続く焼夷弾が周囲を炎に包みこむ。
 蓄積されたデータ、星戦型としての改造。
 今のシェッシュの剣は、四年前よりも遥かに強く、重い。
 ――けれど、
「大丈夫です」
「護りは任せな!」
 沙耶の守りの光、キサナの紡ぐ希望の歌。
 二つの癒しと共に沙耶の鎖が炎を打ち払い。
 双吉の拳が、璃音のバールが、荒れ狂う刃へと叩きつけられる。
「そんなもので、受けられると!」
「いいや」
「できる!」
 轟刃、鉄拳、神殺のバール。
 三つの武器がぶつかり合い、轟音を響かせて――打ち勝つのは、ケルベロスの爪牙。
 大剣ごと押し返されてシェッシュの体勢が崩れ。
 その機を逃すことなく、蹴撃が、砲撃が、無数のグラビティが追撃する。
 四年の間に力を付けたのはダモクレスだけではない。
 いくつもの経験を経たケルベロスもまた、力を伸ばしている。
「いくら相手が経験積んでるといっても、私たちは負けない。経験の濃さが違うから!」
「流石ね。でも、まだよ!」
 踏みとどまり、璃音と切り結ぶシェッシュをキサナは静かに見据える。
 流れはケルベロスに向いている。
 だが、この場において時間はダモクレスの味方。
 アルトゥーロの鳴らす笛の音――最後の一分の合図に小さく舌打ちすると、
「残り一分だ。押し切るぜ!」
「ああ!」
 キサナの声に応え、ケルベロスはより前へと踏み込み。
「ならば後一分、全力をもって応えましょう!」
 シェッシュもまた、ケルベロスの気迫に笑みを浮かべて大剣を振りかぶる。
「ここで守りに入られたら、ちょっと困ったんやけど……アイツら、機械のクセに単純な状況整理すら出来んのかいな」
「まあ、こちらには好都合だ」
 呆れたように呟く朔耶に、ティーシャは軽く応え。
(「……シェッシュ姉さん、そういうところがあったからな」)
 記憶の中、武人を思わせる佇まいを見せる姉の姿に、そっと息をつくと銃を構える。
「最後まで、手は止めないよ」
 砲弾が、朔耶の業炎が、シェッシュの焼夷弾とぶつかり合い。
 巻き起こる爆炎を踏み越えてケルベロスとシェッシュは交錯する。
「おおっ!」
 大剣をアルトゥーロの拳が外へと逸らし、その脇を走り抜けたミオリの蹴撃がシェッシュを退かせ――しかし、衝撃をこらえて振り抜く大剣が割りこむ沙耶を跳ね飛ばし、返す刃が双吉へと襲い掛かり。
「迸れ、生命の力集いし刃! ステラ・フルクトゥス!」
 それよりも早く、走り抜ける虹色の刃が大剣を弾き返す。
 それは、璃音の放つ魔力の刃。
 火水風土雷氷光闇の8属性の魔力を束ねた巨大な剣の刃を飛ばして放つ斬撃波。
 璃音の技の中でも特に速度に長けた一閃が刃を弾き、よろめくシェッシュへ双吉の拳が走る。
 狙いは相手の掌。大剣を操る生命線。
 キサナの歌と零の境地を載せて放つ拳は剣を外へと弾き飛ばし。
「言っただろう」
「オレ達が全力でその機を作るってな!」
「――狙い撃つ」
 笑みを浮かべる双吉とキサナに頷き。
 ティーシャの放つ砲弾がシェッシュを貫き――そして、爆発に包み込む。


「撃破、残敵は……」
「私だけ、だな」
「――っ!」
 呼吸を落ち着けながら呟くミオリに、背後からの声が応える。
 弾かれたように振り向けば、そこに立つのは紫の装甲に身を包む一人の女性。
「……エハド姉さん」
「久しいな、ティーシャ」
 身構えるティーシャに、『殲虐の九人姉妹』の長姉『エハド・ショウヘル』小さく笑みを返し。
「一つ問わせろ。ティーシャ、戻る意思はあるか?」
「……いや、それはできない」
 最終通告とも呼ぶべき問いに、一呼吸の間をおいてティーシャは首を振る。
「私は、この道を選んだからな」
「ああ、そうだな」
 決意を込めて姉を見つめるティーシャに、アルトゥーロはそっと頷く。
 投票で選んだ三つの選択肢。そのどれもが間違いとは言えなかっただろう。
 けれど、選んだ道を捨てて別の道に手を伸ばすのは、自分への裏切りに他ならない。
「だから、私は私の道を行く」
「そうか。ならば――」
 その答えに頷き――そして、エハドは全身の武装を起動させる。
「乗り越えて見せろ、ティーシャ」
 どこか悲し気に、そして楽し気にケルベロスを見据えるエハドに、朔耶は苦笑を浮かべ、沙耶はそっと息をつくと月の光を身に纏う。
「アダム・カドモンの考えは理解は出来ても賛同は出来んからな……」
「まあ、お互い譲れない信念があるなら……戦いでその意志を示しましょう」
 この戦いの先に何があるのか。
 それを知るためにも、
「それじゃ、始めようか。お互いの譲れないもののためにも、ね」
「来い。この障害を越えられないならば、己の道を歩ききることなどできぬと思え!」
 璃音の虹の刃とエハドの紫の光線。
 二つの意思がぶつかり合い、そして最後の戦いの幕が上がる。
 エハドの放つ無数のミサイルを沙耶の操る鎖が打ち落とし、巻き起こる爆風を突き破り、璃音のバールと紫の巨腕が交錯する。
 轟音が響き衝撃が走り、打ち勝つのはエハドの巨腕。
 だが、押し切られながらも振り抜くバールが腕を外へと逸らし、入れ替わりに飛び込むミオリの蹴撃が追撃を阻み。
 僅かに生まれた間を縫って、朔耶の御業とティーシャの砲撃がエハドへと走り――しかし、飛びのくと同時にエハドの放つ紫光の奔流がその全てを焼き払い。
 そのまま、止まることなく襲い掛かる光の奔流をキサナの歌の後押しを受けて割り込む沙耶が受け止めて。
 その背後で、アルトゥーロは静かに息を吐いて両手の銃を構える。
 精神を研ぎ澄ませ、狙いを定め、放つのは必中の弾丸。
「《蠍》には毒がつきものさ!」
 鎧の隙間を貫く一撃に、エハドの体がわずかに揺らぎ。
 しかし、即座に体勢を立て直して踏み込むエハドと、双吉の呼び出すガネーシャの幻影がぶつかり合う。
(「成程な」)
 止まることなく幻影を薙ぎ払うエハドの姿に、双吉は感嘆の息を漏らす。
 マルチプルミサイル、スパイラルアーム、コアブラスター。
 エハドの操るのは、どれもがレプリカントにも共通するオーソドックスな攻撃法。
 けれど、完成度が違う。
 精度はアニハトに、火力はシェッシュに比肩するほどに。
「やっぱり基本が最強ってーことか!?」
「そういうことだ。とはいえ――」
 双吉の呟きに応えつつ、エハドは苦笑を浮かべ。
 直後、放たれたミサイルを受けた沙耶が崩れ落ちる。
「私単独であれば危なかったかもしれんな」
 アニハト、シェッシュ、そしてエハド。
 三連戦による消耗は、すでに限界近くまで積みあがっている。
「いいや、終わったつもりになるのはまだ早いぜ」
「ほう?」
 しかし、キサナは不敵に笑ってエハドを見据える。
 連戦の中、キサナは止まることなく回復を使い続けてきた。
 それは、アタッカーの手を止めないことで攻勢以上の効果を出す、攻撃の要としての立ち回り。
 同時に、強化を重ねて仲間の力をより高める立ち回りでもある。
 長時間の戦いを経て重ねた加護は、もはや数えきれないほど。
 無論、限界が近いことは変わらないが――不安を笑みに隠し、キサナは高らかに祝福の歌を響かせる。
「気を付けな。オレ達の牙は、ここからでもお前に届くぜ」
 瞬間、踏み込むエハドの腕に鎖が絡みつく。
 それは、倒れたままの鞘が走らせるケルベロスチェイン『Solomon Grundy』。
 気力を振り絞って繰り出す拘束は、一瞬動きを止めるだけで即座に振り払われるも、
「見えました」
 その一瞬で狙いを定め、ミオリはその手に力を収束させる。
 スパイラルアームはミオリ自身も得意とする技。
 例え相手が格上だったとしても――重なる加護が力を高め、鋭さを高め、さらに一歩を踏み込めば、
「抉りました」
 閃く繊手が紫の巨腕を打ち砕き。
 続けて、もう一方の腕へとリキが飛び掛かるも、刃を振るうより早く走る腕がリキを打ち据え消滅させる。
「遅い」
「いいえ。ありがとうリキ――解放……ポテさん、お願いします!」
 だが、消滅するリキのその背後から、朔耶は手にするファミリアロッド『Porte』をエハドへと突きつける。
 呼びかけに応え、梟の姿に戻ったポルテへと魔力を集め。撃ち放つ月桜禽(ツキ)の魔弾がエハドを撃ち抜いて。
 衝撃に神経回路が麻痺した瞬間を逃さず、璃音の閃かせる虹色の魔力刃が残る一つの腕も切り飛ばし。
 続くアルトゥーロの蹴撃が、双吉の拳が、エハドを捉えて跳ね飛ばす。
 そして――跳ね飛ばされた先、僅かな距離を置いて身を起こすエハドとティーシャが向かい合う。
「決着をつけるよ、姉さん」
「来い、ティーシャ!」
 ティーシャが呼び出すのは、別の戦場で戦う――新たな道の先で得た友の姿。
 彼女のジャイロフラフープをアームドフォートに換装し、狙いを定め。
 同時に、エハドの背負う光輪に紫の光が集束し。
「切り裂け! デウスエクリプス!!」
 撃ち出す破魔の刃は紫の光の奔流ごとエハドの体を切り裂いて――、
「さようなら、姉さん」
 うつむき、表情を見せないまま、ティーシャは倒れ伏す姉へと言葉を送り。
 そうして、月面での戦いは終わりを告げた。

作者:椎名遥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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