迎撃、星戦型ダモクレス~可憐なり機甲恐竜

作者:七尾マサムネ

 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は、ケルベロスによる投票の結果を改めて伝えた。
「アダム・カドモン率いるダモクレス軍との決戦っす。やるからには、これで全部おしまいにする勢いで、フルパワーでいくっすよ!」
 目下、アダム・カドモン擁する惑星級星戦型ダモクレス『惑星マキナクロス』は、亜光速で太陽系内に侵入。手始めに火星を機械化した後、金星方面へと航行中だという。
「予知によれば、アダム・カドモンの目的は、機械化した惑星の運行を制御することで、人為的にグランドクロスを発生させる事っす!」
 グランドクロスとは、いうなれば『季節の魔力』の宇宙版。その魔力を用い、『暗夜の宝石』である月を再起動。地球のマキナクロス化のプロセスを、瞬時に完遂するつもりなのだ。
 そしてダモクレス軍は、惑星機械化と並行して、月面遺跡の掌握を画策している。魔空回廊を利用し、遺跡内部へと戦力を直接転移させる事によって。
「ってわけで皆さんには、月遺跡の防衛をお願いしたいんす。万能戦艦ケルベロスブレイドなら、月くらい、ひとっ飛びっすよ!」
 ダモクレスが、具体的に月遺跡のどの地点を狙うかは、既に予知されている。聖王女エロヒムの協力のお陰である。
「複数あるこのポイントに先回りして、魔空回廊から転移してくるダモクレスを迎え撃つ作戦ってわけっす」
 敵が送り込んでくる戦力は、『星戦型ダモクレス』と呼ばれる制圧部隊だ。
 1つのポイントにつき、投入されるダモクレスは、3体。最初のダモクレスの出現から8分後に2体目が。更に8分後に3体目が魔空回廊から出現する。
「8分以内に敵を倒せればいいんすけど、もし時間がかかっちゃうと、2体以上同時に相手しなきゃならなくなるっす」
 今回は月遺跡内部での戦いのため、ケルベロスブレイドの援護も見込めない。
「万が一ジリ貧になりそうなら、遺跡を利用されないようこっちで壊して、撤退するって手もあるっすよ」
 ケルベロスにとっても、暗夜の宝石の遺跡の破壊は避けたいところだ。しかし、ダモクレスによる地球のマキナクロス化を阻止するためならば、やむを得ぬ決断であろう。
「まあでも、頑張って守って勝てば、オールオッケーっすよ!」
 重苦しくなりかけた場の雰囲気を変えるように、ダンテが明るい口調でケルベロスを鼓舞した。
 戦場となる月遺跡内部は、月面ビルシャナ大菩薩決戦時には、禍々しい神殿の様相であった。当時は、マスタービーストによって改造されていたからである。
 だが今回は、暗夜の宝石本来の形状を取り戻しているため、内装は神々しく荘厳なものとなっている。
 また、周囲は、エネルギーの枯渇により機能停止した機械群が置かれた状態だ。
 そして、ダンテの説明は、星戦型ダモクレスに移る。
「星戦型っていうのは、宇宙戦対応にカスタムされた、決戦用強化タイプっす」
 最初に転移してくるのは、『IAP-35-4 慈悲のカルタ』。
 青い外装のトリケラトプス型で、防御タイプだ。内蔵火器や角で攻撃を行う一方、防御フィールドで修復や耐性付与を行う。
「二番手は、『IAP-35-6 美のセクスタ』って奴っす。こっちはティラノサウルス型で、見た目の割に、連携とか、かく乱攻撃も得意みたいっす」
 なお、カルタとセクスタは姉妹機にあたり、どちらも女性人格を有しているという。
 そしてラスト、三番手は、『エスカレイト・クロス』。白衣をまとった人間の少女型で、遺跡掌握後、古代機械の操作役も担うらしい。
「見た目はか弱いっすけど、星戦型に強化されてるんで、戦闘力は他の2体にも多少劣る程度っす。ダモクレスの技術の粋を集めた×(クロス)ドライバーを使いこなすっすよ」
 防御に秀でた慈悲のカルタを、いかに素早く撃破するかが、勝利の鍵となりそうだ。
「いよいよダモクレスとの決戦っすね。宇宙の未来を賭けた戦いの始まりっす」
 ダンテが、いつになく神妙な面持ちで語る。
「休みなしの3連戦は正直しんどいっすけど、皆さんなら乗りきれるって信じてるっす!」


参加者
ドローテア・ゴールドスミス(黄金郷の魔女・e01306)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
宇原場・日出武(偽りの天才・e18180)
フラウロゼット・レオンハート(メーテルリンクのつばさ・e32870)
松園堂・紗衣(狂魔学者・e43021)
横星・亮登(百万回失恋した煩悩・e44125)

■リプレイ


 月遺跡内部。
 6人のケルベロス達が防衛を担う神殿状のフロアには、水晶柱の如き古代機械が、あちこちにたたずんでいる。
 どこか厳かな静寂を破ったのは、魔空回廊の出現であった。転移を遂げたのは、トリケラ型ダモクレス……IAP-35-4 慈悲のカルタ。
「指定エリア内、ケルベロス数、6。戦力は想定内と判断します」
 迎撃される事も織り込み済みか。カルタは、粛々と任務を開始した。
「プロテクト・フィールド展開」
 カルタの周囲に、無数の小型六角形が組み上げられ、蒼のバリアを形成する。単機でケルベロス達を撃滅するつもりはなく、援軍を待つ構えのようだ。
 対するケルベロス側も、作戦内容はシンプルだ。
「要は出てきた順番に全員叩き潰せばいいだけですねえ。わかりやすくて実に結構ではないですかホッホッホ」
 先鋒として、カルタに拳打を浴びせかけたのは、宇原場・日出武(偽りの天才・e18180)。
 とにかく硬度の高い装甲だが、その隙間部分が弱点となるのは明白。日出武の狙いはそこだ。
「月を用いた地球のマキナクロス化作戦、なんとしても阻止するのじゃ」
 ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)が、二振りのナイフで切りかかると同時、カルタの視覚に刀身を見せつけた。
「……! ……?」
 ウィゼの刃がカルタの電脳に干渉、その負のメモリーを強制的に引き出すと、挙動が明らかに鈍った。
 その隙に、横星・亮登(百万回失恋した煩悩・e44125)が、すうっ、と深呼吸。
「覚悟はいいか? オレはできてる」
 そして、
「ずーっと前から愛してましたオネーサンっっっ!!」
「???」
 彼女ができないまま、この長きにわたる戦いも終焉を迎えようとしている……亮登が賭けるチャンスは、もうここしかないと思った。
 果たしてその答えは。
「理解不能です」
 無慈悲だった。
「ダメかー……! 成功すればワンチャン人間型になるとか期待してたのに……!」
「諦めてください」
 松園堂・紗衣(狂魔学者・e43021)が、亮登に、ツッコミという名の追い打ちをかける。表情筋一つ動かすことなく。
 停滞した空気を打ち破るように、紗衣の叩きつけた鉄塊剣が、カルタを護るバリアを光の破片に変えた。
「まだ、決着のついてない相手もいるけド、一応これがデウスエクスとの最後の大きな戦いになるのかしラ」
 攻防を注視しながら、ドローテア・ゴールドスミス(黄金郷の魔女・e01306)がつぶやく。
 頷きを返したのは、フラウロゼット・レオンハート(メーテルリンクのつばさ・e32870)だ。
「ならば、ここでまちがいなく敵をくだし、星をすくうことこそフラウのなすべきノブレス・オブリッジなのよ。そうよね、ドローテアおばさま」
「その通りだワ。今はここを切り抜けることだけを考えましょう。行くワよ、フラウ。怪我のないようにね?」
「ええ、みんながしっかりたたかえるように、がんばってささえるわ」
 姪の覚悟に満足げに微笑むと、ドローテアが宝具として振るった星辰剣から、星座の輝きが溢れる。遺跡を照らす聖光は、仲間を彩る守りの加護。
 フラウロゼットが展開した雷光の防壁が、カルタの兵装に搭載された妨害プログラムの発現を妨げる。
 次なる攻撃に移行せんとするカルタへ、ナイトはかせの爪が突き込まれる。貫いたのは、魂……カルタを形成するプログラムそのものだ。


 背部、肩部、頬部……カルタの各装甲が展開した。
「オープンファイア」
 実体弾が連続射出。光と熱の炸裂が、ケルベロス達に損傷とパラライズをもたらす。
 とは言え、カルタも万全ではない。ケルベロスの猛攻を受け、装甲には亀裂が走り、表面の特殊コーティングも剥離している。
 だが、あと少しで機能停止に追い込めるという所で、新たな敵機が襲来した。
「お待たせしました姉上」
「待っていました妹よ」
 8分の攻防を経て、カルタの援軍として現れたのは、次なる機甲恐竜……IAP-35-6 美のセクスタであった。
 カルタの弾幕に続けて、セクスタの尾から放射された無数のレーザーが、ケルベロス達を蹂躙する。
 姉妹機の連携攻撃が開始されると、ケルベロスの優勢は一転、次第に押され始めた。
 劣勢を覆すべく、ドローテアのリングより放たれた光が、盾を為す。外には守り、内には癒し。二つの加護を、味方にもたらす。
 懸命に援護にあたるフラウロゼットの視線の先、ナイトはかせが勝利を祈り、皆の治療。守り手だけでなく攻撃、癒しと、八面六臂。
「敵が何体同時だろうと知ったことか~! わたしの天才ムーブの前にひれ伏すのだ!」
 水晶柱の陰から飛び出した日出武が、天才……達人級のパンチで、カルタの体勢を崩す。
 そして、そのチャンスをつかむべく、ウィゼが真っ向から飛び込んだ。渾身のキックが、カルタの装甲を突き破る。
 反対から打撃するのは、泣きながらの亮登だ。やがて傷心は無心へと代わり、境地へと至った拳が、露出した内部機構を破砕していく。
 あくまで優先すべきは、損傷度の高いカルタの撃破。紗衣が地獄炎をまとった剣を、カルタを振り下ろした。威力の源は、気合だ。そう教わった。それと、仲間の援護。
 地獄の炎に飲み込まれ、蒼の恐竜機は、遂に爆散した。
「IAP-35-4、反応の消失を確認。……戦闘行動を続行します」
 セクスタのカメラ・アイの明滅は、姉妹の『死』を悼むようであった……というのは、いささか感傷的過ぎるであろうか。


 セクスタの兵装は、ジャミングに特化されていた。攻撃力こそ脅威でないものの、連戦で疲弊しつつあるケルベロス達にとっては、厄介極まりない。
「ここで気を抜くわけにはいかないワね」
 ドローテアが手を掲げると、銀の粒子が四散した。最前線の仲間に、ダモクレスの演算能力にも匹敵する超感覚を発現させる。
 銀の雨に続き、フラウロゼットが戦場に降らせたのは、薬の雨。敵味方を識別して作用、味方の負担のみを和らげる。
 遺跡の天井や、壁面、怪しげな古代装置。それらを足場として勢いをつけると、ウィゼがセクスタの背を蹴り飛ばした。
 たたらを踏みつつ、身を翻すセクスタ。かかとから射出した杭状のアンカーで体を固定すると、胸部装甲が展開。露出した二門の砲口から、高出力のビームが射出される。
 だが、味方を焼き尽くさんとするその射線上に飛び出したのは、亮登だった。
「受けて、守る……両方やらなくちゃあならないってのが守り手のつらいところだな」
 チェーンソー剣で激しいエネルギーをはじき返しながら、亮登は、へらっ、と笑った。
 だがその時、更に新たな襲撃者が姿を現す。
「なんだ、エスコートは一機のみか」
 3体目の星戦型ダモクレス……転移を完了した、エスカレイト・クロスが白衣を翻す。
「面目ありません、エスカレイト様」
「安心しろ! 天才科学者たる私様が来たからには、もう敵は無いのだ」
 再びの2対7。
 しかし、エスカレイトの援護に回ろうとしたセクスタの視界を、真紅が埋めつくす。紗衣の流麗なる剣戟が生んだ幻影だ。
 舞い散る薔薇に邪魔される中、懐剣が、装甲に傷を刻んでいく。紗衣に返って来るのは、カルタより幾分柔らかい装甲の感触。
 紗衣と入れ替わり、飛び込んだ日出武。狙いを定め、セクスタの額を突く!
「…………」
 互いに静止し、睨み合う二者。
「……この敗退は、美しくないと、判断します」
 一拍の後、セクスタは、内部から爆砕した。
「ふう。楽勝だったぞ~!」
 爆風を浴びながら、日出武は勝ち鬨の声を上げた。
 ホントはしんどかった。


「破壊されてしまうとは情けない。でも十分役目は果たしたようなのだ」
 にやりと笑う、エスカレイト。ケルベロス達の消耗ぶりは、明らかであったからだ。
「これなら、戦闘用に強化を施した天才の私様が一ひねりなのだ」
「おおっと、御冗談を。わたしの方が100倍天才ですよ?」
 挑発を仕掛けるエスカレイトにも、余裕の態度を装う日出武。正直早く休みたい。
「待てみんな! そして、おじょーさんっっっ!! 俺の愛を受け止めてっっっ!!!」
 亮登が、エスカレイトに突撃した。
「何言ってるのだオメー」
「ありがとうございましたー!」
 ×ドライバーにはたき落とされる亮登。
「いい加減目を覚ましてください。それはそうと」
 紗衣は、エスカレイト……正確にはその武器を見て、
「その×ドライバーとやら、実に興味深いものです。是非、私に渡してください」
「嫌なのだ」
「安心してください。徹底的に研究して必ず世界の役に立ててみせますから」
「安心できないのだ」
 紗衣の本心、すなわち、狂気魔学者として知識欲を満たしたいだけという思惑を見抜いたらしい。同じ研究者ゆえ、だろうか。
 紗衣のみならずウィゼまでも、ダモクレスの技術の粋を集めたという、そのツールに興味津々の様子。
「その形はプラスドライバーかのう? ×ドライバーとはダモクレスの者達も変わったネジを使っておるのじゃな。じゃが、そのドライバーに合うネジ穴は地球にはないのじゃ」
「なければ作りだせばよいのだ。それが発明なのだ」
 ウィゼに張り合うように、胸を反らしたエスカレイトは、ドライバーをケルベロスに向ける。
「残るは1体。ここを切り抜ければひと段落よ」
 ドローテアが、フラウロゼットを励ます。ドローテア自身、決して余力充分ではないが、余裕を見せるのもオトナ、そして魔女のたしなみである。
「どんなにつらい戦いでも、フラウは目を閉じたりしないの。なぜならフラウの胸には、このノブレス・オブリッジの心があるから!」
 フラウロゼットのやる気は、皆の士気にも作用したらしい。
 活力と気力をかき集め、エスカレイトへの反撃を継続する!
「どこにそんなカロリーが残っていたのだ? でも、これでおしまいなのだ。元素励起、エレメンタル・ドライバー!!」
 火水土風雷……エスカレイトが掲げたドライバーから、元素の嵐が吹き荒れる。
「もうあなたの攻撃は効かないの」
 フラウロゼットが全力を注いで構築していた雷壁が、エスカレイトの妨害プログラムをシャットアウトする。
 渾身の目力で相手を圧倒した日出武が、エスカレイトの秘孔を突いた。
「ホッホッホ、お前はもう、死んでしまいますねえ」
「断言しやがったのだ?!」
 相手は人型。急所も人体のそれを反映させているに違いなく……内側から衝撃があふれ出た。
「正念場ね」
 白煙をこぼし、よろめくエスカレイトを目の当たりにしても、ドローテアは慢心しない。勝利をこの手につかむまでは。
 皆が攻撃に専念できたのも、ドローテア達の守りと癒しがあってこそ。そして、仲間達に必中の加護を託すドローテア。この月を、地球マキナクロス化の道具になど、させはしない。
 人型ならば、組し易い。紗衣は、相手の懐に入り込むと、渾身の蹴りをお見舞いした。その威力は冷気を生じさせ、エスカレイトの体表を凍てつかせるほど。
 自身の自由を封じられたエスカレイトに、亮登が迫る。反動をいとわぬ渾身のキックで、その身を吹き飛ばした。
 反撃に転じようとしたエスカレイトのドライバーが、ウィゼを狙った瞬間、突然火を噴いた。
「なんなのだ!?」
「ふぉふぉふぉ。少々細工させてもらったのじゃ」
 悠然と笑うウィゼ。それ自体は、ささいなトラブル、しかし、積み重なったダメージは、×ドライバーを暴発に導く。その破壊力は、主であるエスカレイトへも容赦なく、牙を剥いたのだった。
「わ、私様が、こんなところで潰えるとは……世界にとって大損失なの……だ」
 全機能、停止。その場に倒れるエスカレイト。
 もはや襲来する敵は、いない。
 過酷な連戦を完遂できた事を喜び合いつつ、一同は、ケルベロスブレイドへ帰投するのであった。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:6人
結果:成功!
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