迎撃、星戦型ダモクレス~ブラック・エンタープライズ

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 『ブラック・エンタープライズ』は、最近急成長した重工業会社である。
 会社は家、社員は家族。
 みんなの喜びが、自分の喜び。
 そのためであれば、自分の身を犠牲にしても、安いモノ。
 そんなアットホーム感満載の会社の『社長』は、極めて高度な演算能力から予知染みた采配で、短期間のうちに会社を大きくしていった。
 その右腕である『執行役員』は、強引とも言える手法で、他の会社の乗っ取りや提携の構築に尽力した。
 そのやり方には、賛否両論あったものの、傘下に入った会社の者達は、まるで人が変わったようにブラック・エンタープライズの方針に従った。
 そんな会社を陰で支えているのが、『部長』であった。
 部長は現場の指揮を委ねられており、人並外れた計算能力と、様々な場面に対応する戦闘力を駆使して、様々な問題を片づけていった。
 その上、部下からの信頼も厚く、社の商品である家電や技術の売り込みで、会社の拡大に貢献した。
 しかも、ここで売られている製品は、どれも安価で、高性能。
 ただひとつ問題があるとすれば、この企業がダモクレスに支配されているという事だけであった。

●セリカからの依頼
「投票により、アダム・カドモン率いるダモクレスとの決戦を行う事が決定しました。これが、最後の戦いとする為にも、全力を尽くさねばなりません。現在、アダム・カドモンが座上する、惑星級星戦型ダモクレス『惑星マキナクロス』は、亜光速で太陽系に侵攻、太陽系の惑星の機械化を開始しました。アダム・カドモンの目的は『機械化した惑星の運行を制御し、グランドクロスを発生させる』事だと予知されています。グランドクロスは、宇宙版の『季節の魔力』であり、その魔力で『暗夜の宝石である月』を再起動させ、地球のマキナクロス化を企んでいるのでしょう。その足掛かりとして、ダモクレス軍は、惑星の機械化と同時に、魔空回廊を利用して、月面遺跡の内部に直接、星戦型ダモクレスを転移させ、月遺跡の掌握を行おうとしています。そこで皆さまには、万能戦艦ケルベロスブレイドで月遺跡に急行し、遺跡の防衛を行ってもらいたいのです」
 緊迫した空気に包まれる中、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、今回の依頼を説明した。
 いよいよ、最終決戦。
 もうすぐ、すべての戦いが終わりを告げる。
 そう予感させるほど、セリカの言葉には重みがあった。
「月遺跡の制御を奪う為に、ダモクレスが狙うと思しき地点は、聖王女エロヒムの協力により予知することが出来ました。この地点に先回りして、魔空回廊から転移してくる星戦型ダモクレスを迎撃し、月遺跡を守り抜くのが、今回の作戦の目的となります。敵は、魔空回廊を通じて星戦型ダモクレスを送り込んできます。1つの地域につき投入されるダモクレスは3体で、最初のダモクレスが現れてから8分後に、もう1体。更に8分後に、もう一体が魔空回廊から出現します。素早く敵を撃破する事で各個撃破が可能ですが、逆に、倒すのに手間取れば、複数の敵を同時に相手しなければなりません。勝利が難しい場合は、遺跡を破壊して撤退する決断も必要になるでしょう。暗夜の宝石の遺跡の破壊はできれば避けたいですが、地球のマキナクロス化を防ぐためには、やむを得ないでしょう」
 そう言ってセリカが、ケルベロス達に対して、資料を配っていった。
「皆さんが戦っていただくのは、ここ数年で急成長を遂げた大企業『ブラック・エンタープライズ』を仕切るダモクレス達です。彼らにとって、この戦いは避けられないモノ。ここで敗北するような事があれば、せっかく大きくしていった会社が崩壊しかねません。戦う順番は、部長、執行役員、社長になっています」
 おそらく、3体同時に戦うような事になれば、勝つ事は困難になるだろう、とセリカが言葉を付け加えた。
 もちろん、一体ずつ確実に撃破していけば、そんな心配をする必要もない。
「間違いなく、この戦いは宇宙の未来を決定する戦いになるでしょう。月遺跡をダモクレスに掌握されれば、グランドクロスを用いた宇宙規模の『季節の魔力』により、地球は瞬時にマキナクロス化し、取り返しのつかない事になるでしょう。それを阻止する為には、月遺跡を守り抜いて欲しいのです」
 そして、セリカが祈るような表情を浮かべ、ケルベロス達を決戦に舞台に送り出すのであった。


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
上野・零(延炎轟々地獄式・e05125)
カルロス・マクジョージ(月満ちるケモノの料理人・e05674)
社守・虚之香(月光に輝く白銀の誓い・e06106)
イルザ・ウィンフォーン(見習い魔女の薬師・e19161)
ザラ・ガルガンチュア(旧き妖精譚・e83769)

■リプレイ

●月面遺跡
 ケルベロス達は魔空回廊から現れるダモクレス達を撃破するため、万能戦艦ケルベロスブレイドに乗って月面遺跡の内部にやってきた。
 魔空回廊からダモクレスが現れるまで、約8分。
 そこから休む事なく、ダモクレス達と戦い、撃破していく必要があった。
「何をしてくるかと思ったらグランドクロスを発生させて地球をマキナクロス化させるとはな」
 相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)が魔空回廊を見つめ、深い溜息を洩らした。
 泰地にはブラックエンタープライズの社名に聞き覚えがあった。
 数年前、別の依頼で戦った相手が、社員(情熱型)であった。
 そう言った意味でも、因縁めいた相手ではあるものの、そうでなかったとしても、ダモクレスを倒すという気持ちに変わりはなかった。
「なんとしても、この場所を守らねばなりません。宿敵という訳でもありませんが、弊社グループも、その、ちょっと煽りを受けてますので……」
 その間に、社守・虚之香(月光に輝く白銀の誓い・e06106)がゴッドサイト・デバイスを装着し、朝凪の湖面をイメージする事で精神を統一させた。
 ダモクレスが出現している時間が近づいているせいか、空気が重くピリついていた。
「最後の戦いなら、僕らがこの一戦を勝つことで、世界が変わる。さあ、世界を変えよう」
 カルロス・マクジョージ(月満ちるケモノの料理人・e05674)が、仲間達を鼓舞するようにして大声を上げた。
 ここでの戦いが、今後の運命を左右する。
 そう言っても大袈裟ではない程、世界の命運が掛かっていた。
「……来ます」
 そんな中、イルザ・ウィンフォーン(見習い魔女の薬師・e19161)が、ただならぬ気配を感じ取り、警戒した様子で仲間達に声を掛けた。
 次の瞬間、魔空回廊から現れたのは、タバコを咥えた『部長』であった。

●部長
「……おっと、わざわざ出迎えてくれたのか? 挨拶代わりに、ガトリングガンをぶっ放しても構わねえが、それじゃあ面白くねえ。道化師は踊ってこそ、意味があるからな」
 部長が臆する事無く、ガトリングガンを構えたまま、皮肉混じりに呟いた。
 ケルベロス達を、よく喋る壁程度にしか思っていないのか、鬱陶しそうにしており、まるでゴミを見るような感じであった。
「……随分と馬鹿にされたものだな……」
 上野・零(延炎轟々地獄式・e05125)が、冷たい視線を部長に送った。
「別に馬鹿にしているつもりはねえ。……ただ俺が強過ぎるだけさ」
 部長が勝ち誇った様子で、ガトリングガンを乱射した。
 そのたび、遺跡の壁に穴が開き、真っ白な煙が天井まで上っていった。
「……行くぞ!」
 その間に、ザラ・ガルガンチュア(旧き妖精譚・e83769)が仲間達と連携を取りつつ、部長に死角に回り込もうとした。
「おいおい、どうせなら真正面から突っ込んで来いよ! ……たくっ! 調子が狂うぜ!」
 部長がムッとした様子で、ザラを目で追いながら、ガトリングガンを乱射した。
「そんな事を言われて、素直に従ったところで、ハチの巣になるだけだよね?」
 一方、カルロスはマインドウィスパー・デバイスを用いて司令塔として戦場の全体を把握し、仲間達に指示を出しつつ、部長に対して問いかけた。
「ああ、その通りだ。でも、その方がお前達にとっても、都合がいいだろ? 大して苦しむ事無く、逝けるんだから……」
 部長が全く悪びれた様子もなく、カルロスを見つめて、ニヤリと笑った。
「……まだ分かっていないようですね」
 イルザが呆れた様子で脳髄の賦活を発動させ、禁断の断章を紐解き詠唱する事で仲間を強化した。
「分かっていないのは、お前達の方だ。あと数分で、執行役員が、ここに来る。そうしたら、お前達はお終いだ!」
 その言葉を遮るようにして、部長がガトリングガンをイルザに向けた。
「何も分かっていないのは、てめぇの方だ!」
 次の瞬間、泰地が旋風斬鉄脚(センプウザンテツキャク)を繰り出し、旋風のような身のこなしで、部長の死角から高速かつ強靭な回し蹴りを放ち、ガトリングガンを木っ端微塵に破壊した。
「……んな!」
 それを目の当たりにした部長が、咥えていたタバコをポトリと落とした。
「今まで格下の相手としか戦わなかったのであろう。自分の力を過信し、妾達を過小評価したのだから、当然の結果であるな」
 その隙をつくようにして、ザラが禁縄禁縛呪を仕掛け、半透明の『御業』で部長を鷲掴みにした。
「なんだ、これは! は、離せ!」
 部長が半ばパニックに陥りながら、拳をブンブンと振り回した。
 だが、半透明の『御業』からは、まったく逃れる事が出来なかった。
「私達の実力を過小評価したのが敗因ですね」
 続いて、虚之香が旋刃脚を仕掛け、部長の顔面を蹴り飛ばした。
「……ぐはっ! や、や、やるじゃねえか。だからと言って、こっちもやられっぱなしじゃねえぞ、ゴルァ!」
 部長が吠えるようにして叫びながら、恰好よくポーズを決めて、ロケットパンチを放った。
 それが爆音を響かせながら、ケルベロス達に襲いかかって、次々と爆発した。
「……これが地獄だ」
 次の瞬間、零が物理焼却(フィジカルオーバー)を仕掛け、部長の身体を掴んでドロドロに溶かした。
 そのため、部長は悲鳴を上げる余裕もなく、物言わぬ塊と化して動かなくなった。

●執行役員
「やれやれ、随分と派手にやってくれたようですねぇ。いつもであれば、彼一人で片付くのですが……」
 そんな中、魔空回廊から現れたのは、執行役員であった。
 執行役員はドロドロに溶けた部長を見ても、まったく驚いておらず、笑顔を浮かべたままだった。
「だったら、アテが外れてしまったな」
 泰地が皮肉混じりに呟きながら、一気に間合いを詰めていった。
「一体、何を殺気立っているのですか? そんなに騒がなくとも、殺して差し上げますよ」
 即座に執行役員が飛び退き、次々とアイアンカッターを放ってきた。
 しかし、泰地はまったく臆しておらず、アイアンカッターを食らって、飛び散った血を纏いつつ、執行役員に雷刃突を繰り出した。
「そう簡単に殺せると思ったら、大間違いですよ」
 それに合わせて、虚之香がフォーチュンスターを仕掛け、執行役員を蹴り飛ばした。
「うぐっ! ふざけた真似を……」
 その途端、執行役員の表情が曇った。
 それを誤魔化すようにして、大量のミサイルが発射し、シャワーの如くケルベロス達めがけて落下させた。
「先程と比べて、余裕が無くなっているようですね」
 すぐさま、イルザがエナジープロテクションを発動させ、ミサイルの爆発から仲間達を守った。
「何故だ。何故、邪魔をする!」
 執行役員が身体を震わせ、グッと唇を噛み締めた。
 何もかもが、予想外。
 そのすべてが予定になかった事だった。
「僕の願いは、僕ら地球の人々が安全に暮らせること。変わらぬ日々を、平穏な日々を過ごすこと。それが……僕の『願い』だっ!!」
 その間に、カルロスが一気に間合いを詰め、執行役員に獣撃拳を叩き込んだ。
「ならば、その願いを抱いて死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 次の瞬間、執行役員が両目をカッと見開き、レイザーキャノンをぶっ放した。
「……その言葉、そっくりそのまま返してあげるよ……」
 それと同時に零がフレイムグリードを発動させ、地獄の炎弾を解き放った。
 その炎弾がレーザーに当たり、花火の如く飛び散った。
「文句があるなら、あの世で喚き散らすのだな」
 そこに追い打ちをかけるようにして、ザラが熾炎業炎砲を放ち、執行役員の身体を炎に包んだ。
 そのため、執行役員は悲鳴すら炎に飲み込まれ、消し炭と化して辺りに散った。

●社長
「……たくっ! どいつもこいつも使えん奴等だ! こう言う奴らは、一気に片付けねぇとダメだろうが!」
 次の瞬間、魔空回廊から社長が飛び出し、問答無用でフィンガーミサイルをぶっ放した。
 それがクネクネとウネりながら、次々とケルベロス達に襲いかかった。
「我が魔力を以って開放せん。起動する術式は愛。心に、想いに、共鳴し飛び立て!」
 即座に、イルザが【護緋裏銀】(ウラシロカネノアカマモリ)を発動させ、傷ついた仲間達の身体を癒していった。
「――展開。我が胸裡に触れし者を、紅に染めよ」
 それに合わせて、虚之香が我流術式『心の檻』鮮紅(ワガキョウキヲカイマミヨ)を発動させ、社長を鮮血満たす狂気世界に誘った。
「ググ……、なんだ、これは……! く、来るな! こっちに……来るなァァァァァァァァァァァァァ!」
 その途端、社長がパニックに陥った様子で、ハンドチェーンソーを振り回した。
 だが、斬れない。
 そもそも、存在していないモノが斬れるほど、ハンドチェーンソーの切れ味は鋭くない。
「土よ、木よ、風よ、我がルーンに応じよ。壊式ゴーレム、起動!!」
 その間に、ザラが大いなるルーンの巨兵(ゴーレムクリエイション)を使い、戦場にある土塊や瓦礫などをガジェットの要領で組み上げ、即席の魔道人形を作成し、その背に乗って社長に体当たりを喰らわせた。
「ぐおっ! ば、馬鹿な! このワシが……苦戦している、だと!?」
 社長が信じられない様子で、ギチギチと歯を鳴らした。
 この様子では、今まで失敗した事がなかったのだろう。
 その現実を受け入れる事が出来ぬまま、恨めしそうにケルベロス達を睨みつけた。
「……残念だけど、それが現実だよ……」
 次の瞬間、零がサイコフォースを発動させ、社長のチェーンソーを爆破した。
「い、い、いつの間にっ!」
 社長が傷ついた右腕を押さえ、警戒した様子で、後ろに下がった。
「それが、てめぇの敗因だ! いや、てめぇら全員の、な!」
 それと同時に、泰地がセイクリッドダークネスを発動させ、光輝く聖なる左手で社長を引き寄せ、漆黒纏いし闇の右手で胸部装甲を破壊した。
「ま、まだだ! まだ何も終わっとらん!」
 社長がケモノの如く吠えながら、ビームアイを解き放った。
 そのビームが泰地の左肩を貫いたものの、悲鳴を上げるどころか、視線を外す事がなかった。
 それどころか、右手をさらにグイッと押し込んで、そのままコア部分を掴み取り、何の躊躇いもなくグシャッと握り潰した。
「グ、グ、グァァァァァァァ! ば、馬鹿なっ! こんなところで! ワシがいなくなったら、会社が……会社がああああああああああああああ!」
 その一撃を食らった社長が、断末魔を響かせ、大爆発を起こして、ガラクタの山と化した。
「会社もダモクレスも終わりだよ。このまま地球を無くすわけには行かないからね」
 そう言ってカルロスが、虚之香と一緒に地球を眺めた。
 そして、ケルベロス達は月面遺跡を破壊した後、万能戦艦ケルベロスブレイドに乗って、その場を後にするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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