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「投票により、アダム・カドモン率いるダモクレスとの決戦を行う事が決定しました。これが最後の戦いとする為にも、全力を尽くさねばならないでしょう」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はいった。
現在、アダム・カドモンが座上する惑星級星戦型ダモクレス「惑星マキナクロス」は、亜光速で太陽系に侵攻、太陽系の惑星の機械化を開始している。その目的は『機械化した惑星の運行を制御し、グランドクロスを発生させる』事だと予知されていた。
グランドクロスは、宇宙版の『季節の魔力』であり、その魔力で『暗夜の宝石である月』を再起動させ、地球のマキナクロス化をアダム・カドモンは行おうとしているのである。
「ダモクレス軍は惑星の機械化と同時に魔空回廊を利用、月面遺跡の内部に直接星戦型ダモクレスを転移させて月遺跡の掌握を行おうとしています。皆さんは万能戦艦ケルベロスブレイドで月遺跡に急行。遺跡の防衛を行っていただきます」
セリカは告げた。次いで、彼女は具体的な作戦について説明を始めた。
「月遺跡の制御を奪う為にダモクレスが狙うだろう地点は、聖王女エロヒムの協力により予知することが出来ました。この地点に先回りし、魔空回廊から転移してくる星戦型ダモクレスを迎撃、月遺跡を守り抜くのが今回の作戦の目的となります」
敵は魔空回廊を通じて星戦型ダモクレスを送り込んでくる。星戦型ダモクレスとは宇宙での戦闘用に改修強化されたダモクレスであった。
一つの地域につき投入されるダモクレスは三体。最初のダモクレスが現れてから八分後にもう一体。更に八分後にはもう一体が魔空回廊から出現する。
「素早く敵を撃破する事で各個撃破が可能ですが、逆に、倒すのに手間取れば複数の敵を同時に相手しなければなりません。勝利が難しい場合は、遺跡を破壊して撤退する決断も必要になるでしょう」
そういうセリカの顔には苦渋の色が滲んでいた。できうるならば暗夜の宝石の遺跡の破壊は避けたいところであったからだ。が、地球のマキナクロス化を防ぐためには、それもやむを得ないことではあった。
「皆さんが担当する地域に出現するダモクレスはタイプ・チャールズ、ゴルドラ、リーリエです」
セリカはいった。
タイプ・チャールズは地球の科学者を模倣した頭脳機械群「天才集団ディス・ジーニアス」の一員で、その中でも生物の研究、改造を担当するダモクレスである。戦闘力そのものは高くなかった。
次いで現れるゴルドラは妖精女王リーリエに仕える臣下で、白金の騎士の後継機。貴重な金属のみで作られたゴーレムであり、強力な武力をもっていた。
最後に現れるリーリエは美少女フィギュアを思わせる妖精型の機体である。見た目は非力そうだが、決戦用に改造されているため、実のところ戦闘力は三体中最強であった。
「遂に、ダモクレスと雌雄を決する時が来ました」
セリカはいった。緊張のために肌はそそけだっているが、瞳は期待に輝いている。
「この戦いは、宇宙の未来を決定する戦いなるでしょう」
万能戦艦ケルベロスブレイドの最高速度は時速50000km。故に一番近い惑星の金星に移動するのにも数カ月かかってしまう為、太陽系の惑星の機械化を止める事は出来ない。もし月遺跡をダモクレスに掌握されれば、グランドクロスを用いた宇宙規模の『季節の魔力』により、地球は瞬時にマキナクロス化し、決戦は敗北となってしまうだろう。
「それを阻止する為には月遺跡を守り抜かなければなりません。月遺跡内部での戦いとなる為、ケルベロスブレイドの援護は受けられませんが、皆さんならばきっと……。強敵との三連戦となりますが、勝利できると信じています」
セリカは告げた。
参加者 | |
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叢雲・蓮(無常迅速・e00144) |
リィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506) |
ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051) |
黒岩・白(巫警さん・e28474) |
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荘厳たる雰囲気の満ちた遺跡。
そこに声が響いた。
「誰にでも譲れない一線ってのはあるもんっス。言葉を尽くした上でなお戦う……ってのは残念ではあるけれど、スッキリはするっスよね」
声の主はドワーフの女。きりりとした眉と大きな胸が特徴的であった。名を黒岩・白(巫警さん・e28474)という。
「そうなのだ」
大きくうなずいたのは叢雲・蓮(無常迅速・e00144)である。
人類とダモクレス。決して交わることのない存在であるのならば、いっそ戦って決着をつけた方が良いのかもしれなかった。
「未来を掛けての強敵三連戦とか、ここで燃えなきゃ男じゃないのだよ。ガンバルゾー!」
「がんばってくれるのはありがたいが、少しは力を抜いたほうがいいな」
蒼い髪をシュシュでポニーテールに結いながら、リィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)は蓮にむかっていった。
髪を結うのは、リィンにとってはいつもの儀式のようなものである。が、この時ばかりは少し違った。決意を込め、強く髪を結ぶ。
「でも」
かわいらしい顔立ちの娘がリィンに顔をむけた。童顔のために少女に見えるが、すでに二十歳を超えている。ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)であった。
「やっぱり緊張します。負けるわけにはいきませんから。既に戦いは正念場、です…!」
ロージーはいった。いつもはお気楽そうな表情であるが、今は顔が強張っている。人類の未来をかけた戦いに臨むのだから、それも仕方なかった。
その時だ。空間がゆがんだ。
「くるぞ!」
リィンが叫んだ。アイスブルーの機体に純白の翼のついたレスキュードローン・デバイスを展開すると同時に時計のアラームをセットする。
次の瞬間、白影が地に降り立った。
ビーカーのごとき頭部。身は白衣に包まれている。タイプ・チャールズであった。
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「ケルベロスの諸君。どうやら先を越されてしまったようだね」
タイプ・チャールズが無数の小型ミサイルを発射した。爆発がケルベロスを襲う。
「やってくれる」
リィンがゾディアックソードで地に星座を描き、蓮と白に治癒を施す。
その間、ロージーが攻撃していた。流星の煌めきと重さをもつ蹴りを叩き込む。
次いで、ほぼ同時に蓮と白が襲った。三条の光流が疾る。
それは弾正大疏元清と玉環国盛という二振りの喰霊刀と日本刀の斬撃であった。いかんなく斬られたタイプ・チャールズがきりきり舞いする。がーー。
リィンの顔が曇った。戦力差を悟ったのである。
四人のケルベロスで三体のダモクレスを相手どるのは、やはり無謀であった。攻撃力が足りない。
そのリィンの見込み通り、タイプ・チャールズを倒した時、すでに彼女たちは満身創痍となっていた。設定時間内に倒しきることはできたものの、時間がかかった分攻撃を受け、回復が追いつかなくなりつつある。
「くるぞ、二体めが」
荒い息とともにリィンが叫んだ。
その瞬間である。空間を切り裂いて白銀影が現出した。
第二のダモクレス。それは騎士を思わせる重装甲の機体の持ち主であった。
ゴルドラ。妖精女王リーリエに仕えるダモクレスで、白金の騎士の後継機であった。
「やはりタイプ・チャールズごときでは相手にならぬか」
タイプ・チャールズの残骸をちらりと見やり、ゴルドラはいった。それからケルベロスたちに視線を転じると、
「さすがはケルベロス。が、タイプ・チャールズごときでその様では話にならぬ。リーリエ様の手を煩わせるまでもない。ご出陣の前の露払い。このゴルドラが蹴散らしてくれる」
宣言の直後、ゴルドラから銀光が噴出した。抜剣したのである。横殴りの一閃が蓮と白を薙ぐ。
「まだだ!」
リィンが星霊剣を地に突き立てた。瞬時に輝く星座が展開。星の位置そのものが魔法的意味があり、発動した魔力が蓮と白を癒やす。
次の瞬間、聖犬であるマーブルが襲いかかった。くわえた神器で切りつける。
「犬の身でありながら、やる」
ゴルドラが感嘆した。白銀の超鋼が傷つけられている。
「マーブルも覚悟を定めているのだ。ボクも負けられないのだ!」
踏み込むと同時に抜刀。たばしらせた二刀の刃は迅雷の速さと鋭さで超鋼の鎧を切り裂いている。
続く白の斬撃。唸りをたてて振りおろされた一撃は、しかしゴルドラの大剣によって受け止められていた。
「ぬっ」
呻いたのは、しかしゴルドラの方だ。受け止めた衝撃により、彼の足は地に陥没してしまっている。
その時、すでにロージーの姿は空にあった。光の亀裂を空に刻みつつ、繰り出された蹴撃は強かにゴルドラを打ち据えている。
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ゴルドラが射出したミサイルの雨がケルベロスたちに降り注いだ。
灼熱の嵐の中、リィンの懸命の回復。彼女の放つ矢に射られた白の身体が再生を始めた。
破壊力の増大。肉体にやどった力を確かに感得し、白は襲った。流麗な軌跡を描く日本刀の刃がゴルドラの機体を鮮やかに切り裂く。
ゴルドラがのけ反った。開いた懐に飛び込んだロージーのチェーンソー剣が唸りをあげて無惨にゴルドラを切り刻む。
次の瞬間、紫電が白銀の機体にからみついた。十億ボルトにも及ぶ稲妻。放ったのは蓮だ。
が、まだ戦いは終わらなかった。悪夢のような死闘の刻は続く。
剣風が吹き荒れ、紅蓮の炎が辺りを席巻した。世界が悲鳴をあげる。
「……残りは三分か」
呟くリィンの顔が濡れている。汗であるのか血であるのかわからない。おそらく両方だろう。
蓮が荒い息をもらした。
もはや立っているのが精一杯である。三体めのダモクレスとまともに戦えるとは思えなかった。戦況を読むに、蓮は実に冷静だ。
「ここで決めるのだ」
決めなければならない。決意した蓮の身がすうと沈んだ。
蓮の身から凄絶の殺気がほとばしり出た。空気がきりきりと硬質化する。
瞬間、蓮が地を蹴った。強大な脚力で爆散させた地を残し、飛ぶように接近。
反射的にゴルドラは大剣をかまえた。が、そな態勢が整う前に蓮は肉迫している。
ぎら、と光る蓮の目がゴルドラを見上げた。玉環国盛の柄にかかった蓮の手が動きーー。
一閃。
神速の蓮の刃を見とめえた者がいたか、どうか。玉環国盛が鍔鳴りの音を響かせた後、ゴルドラの機体から黒血を思わせるオイルがしぶいた。
刹那、マーブルが飛びかかった。神器でさらにゴルドラの傷を切り広げる。
「まだっスね」
白はゴルドラの状態を読んだ。光る電子眼からは戦意が失われてはいない。
「羊だからって舐めてると怪我するっスよ!」
白が叫んだ。ビッグホーンの精霊であるロシュを自身に憑依。膨大な力が白の肉体を変化させる。頭部に巨大な角が突き出てきたのだ。
地を蹴り砕きつつ白は馳せた。颶風と化してゴルドラに突撃する。
ゴルドラが受け止めた。が、ぶちまけられた破壊力を削ぐことは不可能であった。巨大な角がゴルドラの機体を深々とえぐる。
「お、おのれ!」
ゴルドラが横一文字に大剣を払った。死力をふりしぼった一撃は木の葉なように蓮と白を吹き飛ばしている。地に叩きつけられた時、二人はすでに戦闘不能状態に追いやられている。
「けれど彼は倒さなければなりません」
ロージーはゴルドラを睨みすえた。ゴルドラを倒さなければ遺跡の破壊はできない。
「もう少しです、一気に攻めていきましょう…!」
リィンに告げると、ロージーは装備した全ての砲門を開いた。
「撃ち負けはしません、当たるのであればっ!」
絶叫するロージーの全身が炎に包まれた。一斉発射された砲弾の噴射炎である。
怒涛のように砲弾がゴルドラに迫った。さすがに回避できぬゴルドラに着弾、高層ビルですら塵と化さしめる破壊力でゴルドラを打ちのめす。それでもーー。
ゴルドラは立ち上がった。自身のためでなく、リーリエのために。
「ま、まだだ。まだ我は戦える。リーリエ様には手出しさせぬぞ」
「その意気やよし。けれど私たちにも覚悟がある!」
リィンが迫った。逆巻く炎をのせた斬撃を連続して繰り出す。その速さ、手数の多さに、さしものゴルドラも全てをさばくのは不可能であった。散る炎は真紅の花吹雪を思わせた。
「この剣舞は炎の舞、貴様を地獄へと誘う死出の舞! 塵も遺さず消え失せろ!」
リィンは身を舞わせた。百メートル近い跳躍。遥か高空からリィンは落下した。
流星と化して接近。咄嗟に掲げたゴルドラの大剣ごとリィンは超鋼の機体をいかんなく斬り下げた。
「リ、リーリエ様」
真っ二つとなったゴルドラの機体が地をうった。一瞥したリィンが告げる。
「安心しろ。私たちはリーリエには手をださぬ」
リィンはロージーに目をむけた。
「もう時間かない。遺跡を破壊し、撤退するぞ」
「はい」
悔しさを押し隠し、ロージーは頷いた。
かくして闘いは終わった。ダモクレス二体を撃破し、四人のケルベロスたちは撤退したのである。リーリエの撃破はできなかったものの、人類と宇宙は守られたのだった。
作者:紫村雪乃 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:4人
結果:成功!
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