迎撃、星戦型ダモクレス~群がる敵、月をたすけて

作者:ほむらもやし

 決戦の幕が開かれた。
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)が淡々とした口調で、語り出す。
 アダム・カドモンが座上する、惑星級星戦型ダモクレス「惑星マキナクロス」は、太陽系に侵攻、惑星の機械化に着手した。抵抗らしい抵抗もあるはずがない。既に地球より外周にある火星までのマキナクロス化は成り、現在は地球を迂回し内周部の金星方面に移動中だ。
 各惑星の機械化の意図は、惑星の運行を制御し、グランドクロスを発生させること。
 グランドクロスは、宇宙版の『季節の魔力』にあたり、莫大な魔力が生み出される。
 その力により『暗夜の宝石である月』を再び起動させ、一瞬にして地球のマキナクロス化を完了させるのが敵の目論見だ。
「月の掌握をめざすダモクレス軍は魔空回廊を利用して、月面遺跡の内部に直接、星戦型ダモクレスを転移させて来る。諸君らには、防衛のため、これから万能戦艦ケルベロスブレイドにて月に向かってもらう」

 星戦型ダモクレスとは、宇宙での戦闘用に改修強化されたダモクレスだ。
 月遺跡の制御を奪う為に、敵が狙う地点も、聖王女エロヒムの協力により予知済みだ。
「今回の作戦目的は、予知された地点に先回りし、転移してくる星戦型ダモクレスを迎撃し、月遺跡の奪取を阻止すること」
 敵は、魔空回廊を通じて星戦型ダモクレスを送り込んで来る。
 1つの地点につき投入されるダモクレスは計3体。
 最初の1体目が現れてから8分後に、もう1体。
 更に8分後に、最後の1体が出現する。
 2体目、3体目が送り込まれる前に、各個撃破することが可能だ。
 倒すのに手間取れば、強敵同士の合流を許すことになる。
 そうなれば、敵も連携行動が出来る様になるから、戦いは苦しくなる。
「防衛しきれないと分かった時点で、月遺跡――暗夜の宝石の遺跡を破壊して撤退して下さい。遺跡を奪取されれば、地球のマキナクロス化を防げない」
 今回送り込まれてくる敵は古代機械の操作を行う必要から、人間型のダモクレスが選ばれている。
「諸君が受け持つ敵はプレアデスシリーズと呼ばれるダモクレスのうち、マイア、アルキュオネ、タイゲテの3名」
 最初に現れるのは、マイア。
 白いドレスを纏ったお姉さんの外見、チームで戦うならば、まとめ役とも言える存在で情報処理に優れバランスが良い。
 次に現れるのは、アルキュオネ。
 黒猫をモチーフにしたタイツが特徴的な、淡い髪色のポニーテールの女の子の外見。黒く巨大な斧を攻防に使いこなす。火力と防御力に強みがあるタイプ。
 最後に現れるはタイゲテ。赤髪で装備を赤系で統一している艶っぽいお姉さん。速力と銃による遠距離攻撃を得意とする。
 各個撃破を成立させるには、1体を8分以内に倒す必要がある。
「諸君は強い。しかし敵も必死だ。この戦いには地球と人類の命運が掛かっている。勝利を祈る」
 充分な戦力をもつ、相容れない両雄。
 もう引くことのできない激突の時が、ついに始まった。


参加者
烏夜小路・華檻(一夜の夢・e00420)
昴・沙由華(ドキドキレプリカント天使・e01970)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
スズナ・スエヒロ(涼銀狐嘯・e09079)
土方・竜(二十三代目風魔小太郎・e17983)
クリスタ・ステラニクス(眠りの園の氷巫女・e79279)

■リプレイ

●巡りあい
 クリスタ・ステラニクス(眠りの園の氷巫女・e79279)は遺跡の荒涼とした風景を見渡す。
「うまく隠れて、できれば、1人目は奇襲したいところですー」
 敵が転移されてくると予知された地点にはたどり着いた。
「ここに敵が現れるといっても大ざっぱだよね。そうだよね。敵が現れるのを待とうか?」
 年齢よりも若く見える顔に、切迫した表情を浮かべて、シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)は言う。
「そうしましょう。出てくる順に各個撃破ですね」
 一瞬物憂げな表情を見せた、昴・沙由華(ドキドキレプリカント天使・e01970)はすぐに明るい声で応じた。
 三連戦に持ち込めてこそ、勝機がある。
 時間内に仕留めそこなえば、2体あるいは3体の強敵と同時に戦うことになる。
「6人か」
 土方・竜(二十三代目風魔小太郎・e17983)は、改めて人数を確認する。
 スズナ・スエヒロ(涼銀狐嘯・e09079)のミミック『サイ』を含めることで頭数は7だが、戦力がかさ上げされるわけではない。
 物量にまかせて押し寄せてくるダモクレスに対して、ケルベロス陣営の迎撃は、予知された出現ポイントへの分散配置という作戦となった。
「忍びとして生きてきた俺にはもったいない晴れ舞台だ」
「晴れ舞台……ですか。以前ここに来た時も激戦でしたけれど、なるほど、ある意味そうかも知れませんね。本当に今回も大変そうです」
 敵を撃破した上で、遺跡の防衛も成し遂げる。それが最高の結果だとスズナは思う。
 最高の結果を得るには正に死力を尽くす必要がありそうだ。
 異変は前触れも無かった。
 唐突に現れる敵の気配。
 予知された通りの白いドレスを纏った女が現れ、地面をスキャンするように赤い光を放つ。
 遺跡の装置の把握のためか、敵を警戒してか、その意図を解釈する前に女は戦闘の構えをみせる。
(「気づかれたかしら?」)
 スズナが眉を顰めるのと同時、烏夜小路・華檻(一夜の夢・e00420)、そして竜とクリスタが先手を取るように飛び上がった。

●開戦
「さあ……わたくしと楽しい事、致しましょう……♪」
 一瞬で間合いを詰めて、その視界を奪わんとする一撃。
 普通の相手なら痛烈な一撃となり、なし崩し的に優勢を確保することも出来たかも知れない。
 だが、驚きはしたもののマイアは冷静だった。
「あいにく、そういう趣味はございませんの」
 素早い横への動きで間合いを広げるマイア。
 その動きの終点を見極め、竜は接近戦を挑む。
 そして柔術を範とした攻撃を仕掛けるが、一瞬で間合いを広げられる。
「凍り付きますー?」
 次の瞬間、クリスタの声と共に氷結輪が射出される。
 聖夜の氷晶と名付けられた氷結輪は複雑に光を反射させながら敵に強烈な冷気を刻みつけた。
 ――速い。
 次の瞬間、マイアは宙高く飛び上がると弾幕の如くに大量の気孔弾を放った。
「お久しぶりです姉さん……最初が貴女で良かったです」
 遺跡を壊して仕舞うと錯覚するほどの爆発が連続する中、沙由華の声が響き渡る。
「今の私はプレアデスの次女ではありません……正義のヒロイン、エレクトラです!」
 言い放ちながら、爆煙を裂いて駆け、マイアの目前で跳び上がる。
 瞬間、二つの星座を宿した十字斬りが、回避の動きをみせるマイアの身体に浅い傷をつける。
「……誰かしら?」
 半歩引いて躱しきったはず、それなのに刻まれたダメージを意外に感じる。
 マイアは感情の籠もらない声で返しつつも侮れない敵だと認識する。
「そうですか。星戦型ダモクレスに改修された今、昔の姉さんでは無いということですか」
 沙由華の顔に微かな表情の変化が現れる。
 当たり所が良かったにもかかわらず、思ったよりもパラライズの重なりが少なかった。
 時間が迫っていると言わんばかりに、竜は、次々に螺旋氷縛波を放つ。
 氷結の螺旋が触れるたびに氷の塊が飛び散る。
 シルディが命中の底上げを狙って打った手が、徐々にではあるが利き始めていた。
 クラッシャーのポジション効果により強化された攻撃は当たりさえすれば強烈な一手となる。
 幸運さえ呼び込めればスペック以上の成果をもたらすこともある。
 スズナの時計のアラームが鳴り響き、直後に何度目かの気孔弾が降り注ぐ。
 ミミック『サイ』が撃破されたのは、賭けとも言える一斉攻撃に入って間もなくのことだった。
「忍びの技を知るがいい!」
 鋭く言い切り、竜は焼け爛れた右腕を突き出す。
 自らも傷つきながらの渾身の一撃が避けられる。
 今、撃破しなきゃいけない。
 シルディの大振りしたドラゴニックスマッシュ『まう』につけられた星型の鉄球がマイアの横腹を直撃する。
 全身を砕かれるような衝撃に、マイアは悲鳴をあげる。
 ギリギリ行ける。
 華檻が次手を繰り出そうとマイアに狙いを定めた瞬間、空間が黒く歪むエフェクトとともに淡い髪色のポニーテールの女の子――アルキュオネが現れた。

●最強の敵
「苦戦しているみたいだね」
 アルキュオネは猫の如きしなやかな動きで、マイアの前に躍り出た。そしてマイアへの止めを狙う華檻を斧の腹の部分で食い止めて、弾き飛ばした。
 いま横から攻撃を受ければ、戦いは一挙に不利になってしまう。
 少しの間でもいい。注意を引くにはどうすれば良いか?
「良い斧だね。随分力自慢みたいだけど、ボクは頑丈さなら負けない自信があるよ!」
 咄嗟にシルディの脳裏を過ったのはアルキュオネの戦闘スタイルが脳筋タイプであるというという情報。
 スタイルと気質は同じとは限らないが、戦闘力に自信をもっている敵ならば乗ってくるかも知れない。――根拠の薄い賭けであった。
「ふうん。一番のチビなのに、6人の中じゃあキミが一番強いんだね」
 ――乗ってきた。
 シルディの両眸が確信に見開かれる。
 そのやりとりの一瞬を活かして、華檻はアルキュオネの脇を抜けるとマイアの腹に破鎧衝を叩き込む。
「負けては、いられません」
 次の瞬間胴体の大部分を破壊されて、マイアは火花を散らし崩れ落ちるように、膝を着く。
 そこにグラインドファイアの炎を纏ったクリスタの蹴りが炸裂してマイアは燃え上がる火焔の中で事切れた。
「じゃあ耐えてみるんだね」
 アルキュオネ巨大な黒斧が翻る。
 無造作に突き出された斧頭はシルディが翳した両腕をすり抜け、狙い過たず額を直撃した。
 視界が閃光に包まれたように真っ白になり、声を出そうとしても、聴覚はわけの分からない高音で満たされていて自分が声を出しているかも分からない。そして肉体から離れたところで、もう一人のシルディの意識が倒れ伏し、頭から血を流しているシルディの身体を見ていた。
 ごめん。
 まだ戦い続ける仲間たちと、これまでに関わった自分にとって大切な者たちの顔が過ぎ去って行く。
 それらはノイズに覆われて急速に闇色に沈んで行く。
 ごめん……ボクは、まだそっちには行けないんだ。
 瞬間、激痛が戻って来て、まだ身体がそこにあることを知る。
「だいじょうぶですか、聞こえますか?」
 大急ぎで駆け寄り、応急手当を施すスズナに、シルディは手を握り返して応じる。
「よかった。私の意志は、揺らぎませんから!」
 再び、今度は強く手を握り返して来た。
「おっかしいなあ、ぶっ壊せるぐらいには、かましたはずなんだけどさ」
 最強の盾を失ってなお、戦いを諦める者はいなかった。
「これ以上は、許しませんよ、アルキュオネ」
 正義のヒロインを貫く決意と共に、沙由華は破鎧衝を放つ。
 演算によって見破った構造的弱点を目掛けて、舞い散る花の如き可憐な動きから生み出される必殺の一撃だ。
 一点に収束した強烈な力が解き放たれて、肌に密着する黒い装甲が粉砕され、磁気のような白肌が露わになる。
 アルキュオネの攻撃は苛烈だったが、マイアとは違って攻撃を躱されるということは少ない。
 シルディやスズナがつけてくれた狙アップの効果も利いているのだろう。
「さあこれからだ。この技を見た物は必ず死ぬ。忍びの技の恐ろしさを知るといい」
 もはや骨と筋ばかりのミイラのように見える右腕で竜は攻撃を繰り出す。燃え尽きそうな拳から生み出される破壊のダメージは強気なアルキュオネを苛立たせる。
 気持ちの乱れを見逃さずに、クリスタは前に踏み出す。
 そして、得物に纏わり付いた氷を降らせながら駆けて間合いを詰める。
「凍てつく舞なんですー」
 凜とした声を日々させ、繰り出す連続斬撃、雪山を駆ける鹿の群れを思わせる斬撃は刻まれた傷を一瞬で凍結させた。
 アルキュオネの攻撃は当たり所が悪ければ一撃で重傷に至る可能性がある。
 それでも華檻は怯まない。
 それどころか、壊れかけた装甲を纏った容姿もまた良いものだと感じる気持ちの余裕だけは残っていた。
「さあ、わたくしとも楽しく、致しましょう」
 強力な攻撃力でダメージを与えるだけではない、後に続く者が有利に戦えるように、足止めを重ねる密着技。
 身体の感触を味わい、華檻が決着をつけようと首の骨をへし折ろうとした瞬間、アルキュオネは猫の如き柔軟さで拘束を抜け、蹴り上げた巨大斧を片手で掴む。
「――?!」
 そして落下の勢いを加えて打ち下ろした。
 回避する間も無かった。限界を超えるダメージに電球をたたき割った様な音と共に視界が暗転して、華檻は倒れ伏す。
 一斉攻撃の時を告げるアラームが鳴り始める中、スズナが応急措置を掛ける。
 幸運にも意識は戻ったが、もはや戦うことは出来ない状態だ。
「相変わらずの暴れっぷりね、アルキュオネ」
 複雑な胸中を口にしつつも、攻めるべき時を逃すつもりは無い沙由華。既に見破った構造的弱点を目掛けて、闘気を凝縮させた一撃を叩き込む。
「女子供から狙うっていうのはどうかな?」
 言いながら投げ放った毒手裏剣が、アルキュオネの白肌に突き刺さる。
 畳みかけられる攻撃に、唸りのような声をあげる。そこにクリスタは手裏剣の軌跡を追うようにして、距離を詰め、炎を纏った蹴りを叩き込む。
 激しい蹴りはアルキュオネの身体をあり得ない方向にへし曲げて、そして紅蓮の炎で包みこむ。
 燃え上がる炎の輝きの中で、アルキュオネは断末魔の叫びを上げながら消えて行った。

●心残して
「危ない――」
 竜の警告が飛ぶと同時、銃弾の雨が降り注ぐ。
「タイゲテ……」
「やっぱり姉妹さん達……なんです?」
 スズナの問いに、沙由華は小さく頷く。
 しかし遺跡の破壊を視野に入れ、撤退寸前の状況に追い込まれている今、心の痛みを吐き出すことは憚られる。
「いい目をしているわね。それでこそ、やり甲斐があるわ」
 言い放つや否やタイゲテは発砲を再開、今度は竜とクリスタを目掛けて激しい銃撃を浴びせる。
 被弾を重ねながらも全力の飛行で竜は距離を詰める。
 しかし近づくことは出来ても、竜にとってやりやすい間合いを作ることは困難だった。
 使い慣れた氷結輪の重みを確かめながら、クリスタはタイゲテに狙いを定めると、必中の願いを込めて射出する。飛翔する氷結輪の軌跡が見える。目標に向かって吸い込まれるような、狙い通りの動きをするが、かすめるだけで、直撃はしない。
「俺は忍び。忍びとしての生き方しか知らない――」
 そのタイミングで間合いを詰めた竜が身体を張る。無我夢中で炎を纏った拳を突き出す。
 強烈な一撃に態勢を崩されながら、それでもタイゲテは跳ねるような動きで踏みとどまる。
 しかし、竜の攻勢もここまでだった。
 気合いだけで、本来の実力以上に、無理を重ね続けた身体がついに限界を迎える。
 なぜ、タイゲテが遠距離攻撃を得意とする理由だけで、近距離が苦手だと思い込んだのか。
 自分にとって有利な間合いが、敵に取って一方的に不利であると思い込んだのか。
「竜さん!」
 かくして、竜の戦闘不能をもって、遺跡の防衛を断念。セカンドプランに入る。
 沙由華とクリスタは全力で遺跡の破壊を実行、スズナは負傷者3名と共に撤退を開始する。
「手際の良いこと……奪われるくらいなら、壊したほうがまし。ってことかしら」
「戦いはこれで終わりではありません!」
「そうね。また会うことがあれば、いいわね――」
 物憂げに呟き返したタイゲテは、撤退する一行に向かって一発の銃弾すら放たなかった。
「とにかく早く状況を知らせなければ……」
「他の戦場のことも気になりますねー」
 遺跡は破壊せざるを得なかったが、2体目までの敵は倒せた。最良には及ばないが、目標は達している。
「ごめんね。ボクがもう少し持ちこたえられていれば……」
「あそこまで耐えられる人はシルディさん以外には考えられません」
 スズナの目にはシルディの状態は、深傷を負った竜や華檻と比べて、ずっと落ち着いているように見えた。
 最も多くのダメージを受けたにもかかわらず深傷も負ってない。
 これも戦いにおける非情な現実かも知れない。
 決戦の時は近い。
 ケルベロスはケルベロスの使命の為に、前を見続けなければなけない。
 沙由華も正義のヒロインであるために前を見なければなけない。
 傷つきあるいは失われた者に顔向け出来るような自分でありたいと願い、一行は決戦までの休息に入る。

作者:ほむらもやし 重傷:烏夜小路・華檻(一夜の夢・e00420) 土方・竜(二十三代目風魔小太郎・e17983) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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