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「直近の『超神機アダム・カドモンへの対応』についての投票により、ダモクレスとの決戦が決定しました」
定刻と見計らい、ヘリポートに集うケルベロス達を見回した都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は、徐に口を開く。
「先の会談に於いて、『地球のマキナクロス化』を宣言したアダム・カドモンが座上する『惑星マキナクロス』は現在、亜光速で太陽系に侵攻。太陽系の惑星の機械化を開始した模様です」
アダム・カダモンがケルベロスを「尊敬すべき敵」として全力で滅ぼそうとするならば、こちらも全力を尽くさねばならないだろう。ダモクレスとの決戦を、最後の戦いとする為にも。
「ヘリオンの演算によれば……アダム・カドモンの目的は『機械化した惑星の運行を制御し、グランドクロスを発生させる』事にあります」
グランドクロスは、謂わば宇宙版『季節の魔力』。アダム・カダモンはその魔力で『暗夜の宝石である月』を再起動させ、瞬時の地球マキナクロス化を成そうとしている。
「更に、ダモクレス軍は惑星の機械化と並行して、魔空回廊を通じて月面遺跡の内部に直接、星戦型ダモクレスを転移。月面遺跡を掌握させようとしています」
星戦型ダモクレスは、『宇宙での戦闘用に改修強化されたダモクレス』だ。ちなみに、マキナクロス自体、『惑星』と冠するに相応しい超巨大な星戦型ダモクレスであるが、遺跡に転移してくるのは小型から中型の人間型であるようだ。
「星戦型ダモクレスに月が制圧されてしまえば、地球のマキナクロス化を防ぐ事は不可能となるでしょう。皆さんは、万能戦艦ケルベロスブレイドで月面遺跡に急行、防衛に当たって下さい」
タブレットを一瞥した創は、作戦の詳細を説明していく。
「月面遺跡の制御を奪うべく、ダモクレスが狙うであろうポイントは、聖王女エロヒムの協力もあって予知に成功しています」
この地点に先回りをして、魔空回廊から転移してくる星戦型ダモクレスを迎撃、遺跡を守り抜く事が、今回の作戦の目的となる。
「1つのポイントにつき、投入されるダモクレスは3体。最初のダモクレスが現れてから8分後に、もう1体。更に8分後に、3体目が魔空回廊から出現します」
迅速に撃破していけば各個撃破も可能となるが、逆に、倒すのに手間取れば、複数の敵を同時に相手取らなければならなくなる。短期決戦を目指したい所だ。
「遺跡の内部は、荘厳な神殿のような様相で、エネルギーが枯渇して停止中の不思議な機械がある区域です」
ダモクレスとの決戦後に、暗夜の宝石を利用する可能性を考慮すれば、遺跡は無傷のまま、敵を撃退するに越した事は無い。
「それでも……万が一、防衛が不可能な状況となった場合、この『機械』を破壊して撤退する決断も必要となるでしょう」
背に腹は代えられない。地球のマキナクロス化を防ぐ為ならば、やむを得まい処置と言える。
「……さて、皆さんに向かって頂くポイントに出現するダモクレスについてですが――」
彼ら3体全て、『心理博士』なるダモクレス率いる『グリード軍』に属している。ちなみに、元帥自身も、別のポイントに現われるようだ。
「1体目は、グリード『色欲』中隊:外交仕様――バニーガールのような姿の女性型ダモクレスです」
交渉と暗部に長け、思わせぶりな態度で他者との駆け引きを愉しむ。享楽主義者のパーソナリティをシミュレートしている模様。
「2体目は、グリード『嫉妬』連隊:諜報仕様――やはり、女性型ダモクレスですが、3つの首と2対の腕の異形です」
内諜と暗殺に長けるが、被害妄想と誇大妄想、激しい攻撃性を制御出来ないパーソナリティは、重度の偏執病を擬えている。一応、会話は成立するが、三つ首がそれぞれ主義主張をがなり立てる為、意思疎通は困難だろう。
「そして、最後の3体目は、グリード『怠惰』旅団:参謀仕様――研究者タイプの男性型ダモクレスです」
研究と開発に長けるが、効率化に固執する。最大効率を求める余り、研究の為の研究、開発の為の開発に勤しむ傾向にあるとか。
「本来は、最前線に出るタイプではありませんが、遺跡の制圧後、地球のマキナクロス化の準備を担っているようです」
彼らに固有の識別名称は無い。つまりは『グリード軍』を形成する量産型ダモクレスだが、決して油断は出来ない。
「星戦型ダモクレスに改修強化された事で、特に『色欲』と『嫉妬』は、ケルベロス8人との戦闘力の差は、余りないものと考えた方が良いでしょう」
流石に、『怠惰』は少し弱めではあるが、複数の敵と対峙する事態となれば、より深刻な脅威となる。
「立て続けの3連戦となりますが、敵の手の内は、ある程度判明しています……必ずや、勝利を」
第二次大侵略期の前触れより6年――遂に、ダモクレスと雌雄を決する時が来た。
「この戦いは、宇宙の未来を決定する戦いとなると確信しています」
既にアダム・カドモンと『惑星マキナクロス』は、太陽系の惑星の改造を行いながら、火星まで到達。その後、金星、水星方面に移動し、太陽系の全ての惑星の改造を完了させた上で、地球に進軍してくると想定されている。
「万能戦艦ケルベロスブレイドの最高速度は時速50000kmですから、地球から1番近い金星に移動するのにも数ケ月は掛かります。太陽系の惑星の機械化阻止は、不可能です」
そして、月、即ち暗夜の宝石の遺跡を掌握され、グランドクロスが発生すれば、宇宙規模の『季節の魔力』により、地球は瞬時にマキナクロス化する。ケルベロスの敗北に他ならない。月の遺跡は、何としても守り抜かなければならないのだ。
「遺跡内部での戦いとなる為、ケルベロスブレイドの援護は受けられません。どうかお気を付けて。皆さんの武運を祈っています」
参加者 | |
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![]() ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813) |
![]() オイナス・リンヌンラータ(歌姫の剣・e04033) |
![]() 八島・トロノイ(あなたの街のお医者さん・e16946) |
![]() 卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412) |
![]() 美津羽・光流(水妖・e29827) |
![]() バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965) |
![]() ペルレ・ヴィルベルヴィント(オラトリオのウィッチドクター・e36224) |
![]() コモフォ・コモラ(欲望狂・e46761) |
●戦を前に
月面にも拘わらず、空気も重力もある不思議。荘厳な一角のどん詰まりに、不可思議な機械が在った。用途は全く不明だ。
もうすぐ、ダモクレスが、来る。暗夜の宝石を掌握し、地球をマキナクロス化するべく。
(「まさか、『狂月病』の原因であった場所に足を踏み入れる事になるとは……」)
ウィッチドクターとしてか、バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)は感慨深い表情。
「カッツェ、今回も強敵ですが、よろしくお願いしますね」
相手は異なれど、月の遺跡は悪用させない。彼女の決意に応えたか、ウイングキャットは賢そうな碧眼を瞬かせた。
(「レプリカントさん達みたいに手を取り合えたら良いのだけど……」)
程なく戦場となる一帯を見回し、ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)はすぐに頭を振る。
(「僕らは、選択をしたんだ」)
『地球のマキナクロス化』を宣言したアダム・カドモン――ダモクレスとの決戦を。
「……だから、覚悟を決めないと」
奇襲を警戒しながら『その時』を待つ青年を、美津羽・光流(水妖・e29827)は気遣わしげに窺う。
(「顔色、あんまり良ぅないなぁ」)
彼の体調は、勿論、心配だけど。
(「嫁が覚悟決めたんやから、俺も腹括らんとな!」)
大将との戦いが控えているのだ。こんな所で負けられない。
「守りは任せたで!」
「うん!」
光流の信頼に、ウォーレンも力強く応える。
「フーン……病魔の研究をしている間に色々あったんだな」
微笑ましい光景はさて置き。何処か他人事のように肩を竦める八島・トロノイ(あなたの街のお医者さん・e16946)。『万が一』に備えて、レスキュードローンを物陰に置く。
「そう言えば……今回の連中、誰かの身内だそうだな」
「私の同居人のな」
機能性重視の武骨なゴーグルの下から応じる、コモフォ・コモラ(欲望狂・e46761)の声音は素っ気ない。
「故に、直截的な縁は無い。気兼ねなく殲滅すれば良かろう」
称えるべきは、各自の欲望であるならば――淡泊に言ってのけ、コモフォはジェットパック・デバイスを起動する。
「了解」
ドワーフらしい小柄を横目に、思わず頬を掻くトロノイ。
(「だったらまあ……事が済んだら、連中も診るとするか。戦いの中で、心を得るかもしれないしな」)
相棒のオルトロス、ベルナドットの頭をわしわしと。つぶらな瞳を見下ろせば、自然と肩の力も抜けるよう。
「大丈夫なのです? ペルレちゃん」
一方で、今回が初陣のペルレ・ヴィルベルヴィント(オラトリオのウィッチドクター・e36224)は、顔が強張っている。心配そうな義兄のオイナス・リンヌンラータ(歌姫の剣・e04033)とオルトロスのプロイネンに囲まれても、両手を握り締めている。
「私もケルベロスです……! やる時はがんばります、全力で!」
喩え物凄く緊張しても。怖くて手が震えても――気丈なオラトリオの少女の肩を、レプリカントの少年は力付けるようにポンポンと。
「あ……!」
プロイネンもペルレにもふもふ寄り添ったその時。異次元が、開く。
「いよいよ、だな」
魔空回廊が開いても、卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)の飄軽は変化ない。
「よっと……」
懐から取り出したのは、1枚のコイン。気負う風もなく、勢いよく弾く。
――――。
高々と宙を舞い、クルクルと落下したコインは、泰孝の右手の甲に。
「……表か、こりゃあ勝ちは貰ったってトコロかね」
その実、両方表のイカサマコイン。激闘目前のゲン担ぎ。
●色欲
「あらぁ、素敵」
べったりと蜜を塗ったような甘ったるい声。次いで網タイツに包まれた脚が見えるや。
「……っ!」
オイナスへの強襲を、ウォーレンが遮る。機械の翼を広げて旋回したダモクレスは、速やかに離脱する。
「フフッ、恥ずかしがり屋さんね?」
ピンクのポニーテールの下で、チロリと舌が覗く。1体目はグリード『色欲』中隊:外交仕様――つまりは、バニーガール。
「月で兎がぴょんぴょん跳ねるなら、私がその首を刎ねてやろう」
単身、空中より冷徹を言い放つコモフォだが、装甲の下の表情は渋い。やはりクラッシャーのオイナスも似たような面持ちか。
元は量産型モデルながら、星戦型に改修強化されたダモクレスの強さは――眼力が如実に示す。
8分毎に新手が現れる。タイムリミットがあれば尚更、一手も無駄に出来ない。
「カウント、スタートです!」
声を張り、ペルレはドラゴニックハンマーを構える。要は、如何に『全員攻撃』の態勢を調えるか。うかうかしていては、勝率も下がる一方だ。
――――!!
確と狙い澄ませば、初陣であろうと轟竜砲は『色欲』を捉える。
(「……この命は、生命を護るために」)
カッツェが前衛へ清浄の翼を広げると同時、バラフィールのスターゲイザーが奔る。踵の2対の翼が翻り、ハイヒールの足を刈る。だが、敵はよろめく素振りすら無い。ジャマーの厄は重いが、使役と魂を分け合う身で厄付けは聊か不得手なのだ。
それでも、光流が氷結の螺旋を放てば、虹纏う急降下蹴りを浴びせ掛けるウォーレン。泰孝は弱体化のエネルギー光弾を射出する。
「ちゃんと用意しておいたぜ。それっ!」
トロノイが取り出したるは、何かすごい目薬。コモフォへ投擲する間に、ベルナドットの神器の剣が閃く。喩え万全でなくとも、眼力が示す命中率も零でなければ、プロイネンと息を合わせて突撃するオイナス。コモフォも機体を引き裂かんと掴み掛った。
「……フフッ」
ケルベロスとサーヴァントの攻撃の度、『色欲』の体表はビキビキと音立てて凍り付いていく。だが、淫蕩に笑む『色欲』の機械翼が妖しく輝く。
「な……」
甘ったるい風に凍結が剥離し、戒めが解ける。ケルベロスが刻んだ『色欲』の傷が、見る見る癒えていく――アッと、小さく声を上げたのは光流だ。
「メディックやな」
各部隊の特性もあろうが、敵の継戦狙いは明白だ。
「そんなこわぁい顔しないで、あたしともっと遊びましょうよ」
デウスエクスも眼力を具える。手が届く中で、オイナスを標的にしたのは、ダモクレス故の効率重視か。だが、初手から、怒りを植える作戦に出たウォーレンは、『色欲』の視線を遮り続ける。
「……ごめんね、僕のお相手はもういるから」
誑かす囁きに唇を噛めば、背後より注がれる気力が心強い。
「地球の子なら紹介できるけどー?」
「はーい、地球のお医者さんでーす……あ。お呼びじゃない? そりゃ残念」
仲間には癒しを、敵には気咬弾を。おどける片手間にトロノイがバトルオーラを操れば、ケルベロスとサーヴァントのグラビティが『色欲』に殺到する。喩え、回復されようと、厄を祓われようと、強化を砕かれようと、圧倒的な手数で捻じ伏せれば良い。「テメーを蝕む一本場。さあ、どこまで伸びるかね?」
「く……」
泰孝の狂奔連荘は、淫猥なる風起こす機翼を縫い留める。悔し気な『色欲』に、踏み込むオイナス。二刀の斬が――捉えた!
バラフィールとカッツェの斬が交錯すれば、ペルレの刃もジグザグの軌道を描く。
ガチリ――。
拳銃と化したガジェットの銃口を、コモフォは『色欲』の眼前に突き付ける。
「……ちっ」
思わず舌打ちするコモフォ。その実、スピード勝負は不得手だ――網タイツの脚が撃ち抜かれるより速く身を翻す『色欲』だが、先回りした光流が、貼り付けたような笑顔でゾディアックブレイクを叩き付けた。
●嫉妬
回復の時間を作れた幸い。素早くヒールするケルベロス達。
「アアッ! 先遣がヤラレタ。マズイゾマズイゾ、きっと私もコロサレルゥゥゥッ!」
「なら殺そう、じゃあ殺そう。刺殺撲殺扼殺毒殺、コロセコロセコロセキャハハハッ!!」
「恐れよ畏れよ、我こそは嫉妬の権化! グリード軍影の総帥也!!」
きっかり8分経過――2体目は、グリード『嫉妬』連隊:諜報仕様。妄想止まらぬ三つ首が内諜と暗殺に長けるとは、どんなダモクレスジョークか。
「共食い整備の事務員さん、三頭政治の結末知ってるかい?」
「「「コワスゥゥゥッ!!」」」
コモフォの呆れ声に、見事シンクロした三重音声がノイズと化す。コモフォ含む後衛の身を震わせる。
「……っ」
思わず息を喘がせるペルレ。幸い、範囲に及ぶノイズが厄を齎す率は五分五分。麻痺自体、発動率も低い。だが、足止めせんと身構えた少女は、ハッと金の双眸を見開く。
「これって……」
「うん」
オイナスは奥歯を噛み締める。眼力が示す命中率は、『色欲』の時より更に低い。尤も、『嫉妬』が1体目より強いというよりは。
「キャスター、だね」
「ああ、せやな」
ウォーレンも光流と頷き合う。歴戦と言える2人をして、命中率は7割を切る。コモフォに至っては、現状でガジェットガンは使えないだろう。
どんなに強力な技も命中してこそ。それでも、怯んではいられない。素早くガネーシャパズルを組換え、怒れる女神の幻影を顕すウォーレン。
――西の果て、最果ての光よ。訪れて裂け!夜の果てにこそ明日はあるべし。
光流の飛斬は白光を帯び、二対の腕を蠢かせる敵を追尾する。
ヘリオンデバイスの援けも借り、ペルレのスターゲイザー、ジャマー2人のジグザグスラッシュが奔る。厄付けに対する使役修正の不利を覆すように、サーヴァント達も次々と突撃を敢行した。
『破滅ハメツ終焉オワリ論理ロジック』
ベロリと舌を出す真ん中の首が軋るように不明瞭を叫べば、三つ編みの首は薄ら笑いを浮かべ、シニヨンの首は銃を構える――Q.E.F.
「プロイネン!?」
ウォーレンの挑発も構わず、オイナスを貫かんとした怪光線の軌道を、オルトロスが阻む。咄嗟に月光斬を繰り出すも、敢え無く弾かれた。
(「確実にダメージを積み上げないと……っ」)
ジワリと焦燥が少年の胸を食む。誰の命中率も零でなければ、果敢に攻撃する限り、じわじわとダモクレスを追い詰めていくだろう。
問題は、長期戦が望ましくないタイムリミットがある事。迅速確実な厄を積むという点で、些かの晩熟は否めない。
「15分、です!」
確実に追い詰めてはいる、だが、決定打には至らぬ焦燥感の中、ペルレのタイムカウントが遺跡に響く。
――――!
「冥府の海にも雨が降るから、どこにも行かないで――ここにいて?」
異形の頭上に、出現する水環。ウォーレンの『限られた恩寵』が『嫉妬』の動きを鈍らせると見るや、天井スレスレより急降下。コモフォ腕甲が頭の1つを掴み掛る。
グギィィ。
首を引っこ抜けずとも、たたらを踏んだ『嫉妬』に攻撃が集中する。
「やったか!?」
左の鉄骨腕を翳し、目を眇める泰孝。一方で、バラフィールは頭を振る。
「まだです」
――ギ、ガガ……分割思考、総括、指示……。
ギリギリで踏み止まったか。カクリと三方向に首を仰け反らせ、『嫉妬』は自己修復を図る。
「けど、後少しで……!」
勢い込むトロノイを、ベルナドットが足下から押し留める。
「まだシステムを掌握していないとは……全く以て使えない」
ゆうらりと魔空回廊から現れたのは、研究者風情の優男――3体目、グリード『怠惰』旅団:参謀仕様。
●そして、怠惰
「ア、ア……博士に報告? 分解、解体、廃棄処分」
「ウルセェ、てめぇから殺すぞ、いや殺そう、さあ殺そう」
「参謀風情が、我に意見など、身の程を知るがイイ!」
「……その非効率極まりないアルゴリズム。本当に解体してやりましょうか」
吐き捨てた『怠惰』の視線が、眼鏡越しにケルベロス達を見やる。
「ともあれ、最優先は『障害の排除』です」
ケルベロス達の反応より早く、『怠惰』の機翼が放電する。
――――!!
蒼雷迸る絶妙なタイミングで、『嫉妬』もノイズをぶちまける。
「……っ」
ウォーレンもプロイネンも後衛に走るが、庇いきれず、トロノイとサーヴァント達は身を強張らせた。
「トロノイさん!」
「いい。自分で回復する――」
――魂に眠る強き意思を。気高き強さを。解放せよ、その輝きを!
トロノイの言葉より早く、バラフィールより飛来した光の羽が癒す。同時、カッツェの清らな翼が愛らしく羽ばたいた。
「お節介でしたか?」
「いや、助かった」
ヒラリと手を振り返し、自らも癒しの雨を降らせるトロノイ。
「手負いから、だな?」
「勿論!」
新手が増えようと、ケルベロス達の標的は変わらない。ついでに、『嫉妬』が『怠惰』への射線を遮る立ち位置にいるのだから、迷いようがなかった。
プロイネンのパイロキネシスが『怠惰』を牽制する間に――三つ首にグラビティが殺到する。光流が撃ち込んだ螺旋の氷は、攻撃の度にその傷を凍らせていく。
ギ、ギギギ……。
「回復、させません!」
今度こそ自己修復は許さない。ペルレが殺神ウイルスを投擲し、泰孝も魔法の百点棒を異形に突き刺す。
「修行の成果……見せてやるのです!」
ウォーレンのオウガ粒子にも即発され、右に『揺らがぬ炎』、左に『砕けぬ氷』、オイナスの二刀は舞うが如く。刃を彩る炎と氷が花弁のように、星のように煌く。
…………。
幾重にも重なる追撃が、とうとう『嫉妬』に引導を渡せば、いよいよ後1体。
「く……」
狙い澄ました一撃は確かに侮れなかったが、『怠惰』の攻撃グラビティは何れも範囲に及ぶ。脅威の痛撃であろうと散じるだけに、持ち堪えればヒールでカバー出来る範囲のダメージ量なのだ。
「妨害手の放置は面倒だろ? だが、オレを狙っても他の打撃が痛い、さあどうする?」
揶揄する泰孝は、これ見よがしにゼログラビトンを叩き込む。
戦術を見通せる演算能力があるだけに、『不完全』な状況は許し難いのだろう。『怠惰』は歯噛みせんばかり。勿論、この期に及んで、ケルベロス達にも容赦はない。
「心配するな、まだまだあるぜ。それっ!」
ペルレの轟竜砲が轟く中、ダメ押しとばかり、トロノイは鷹の目薬を大盤振る舞い。クリアな視界で狙いを定め、オイナスはオルトロスと突撃する。けしてけして、遺跡の機構になど近付けさせはしない!
「土砂降りの中でも、ほら、僕を見て」
閃く七色は虹の階。ウォーレンの蹴撃が眼鏡越しの視線を捉えれば、息を合わせた光流の最果ての光が、死角から貫く。
「……」
刹那、休息を求めるように瞑目する『怠惰』だが、そうは問屋が卸さない。
「今です!」
肉迫したバラフィールの鋼の拳が、強かに『怠惰』を打ったその時。遺跡の天井近くから、抑えた声音が降ってくる。
「急な作戦でハードワークだったろう? 永久休暇をプレゼントしてやろう」
ロケット推進式赤いパン籠――空飛ぶパン籠を通じ、コモフォは爆撃を要請する。
――――!!
『怠惰』の細身が爆ぜる。断末魔の叫びは聞こえず、粉塵収まった後には爆破の跡ばかり。眼鏡1つ、残らなかった。
――斯くて、ケルベロス達は見事、決戦の前哨戦を制する。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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