迎撃、星戦型ダモクレス~機械転星への序曲

作者:雷紋寺音弥

●強襲、月面遺跡!
「ダモクレスへの対応に関する、投票の結果が出たようだな。結果として……俺達は、アダム・カドモン率いるダモクレスとの決戦を行う事が決定した」
 この戦いを、デウスエクスとの最後の大規模戦闘にするためにも、全力を尽くして事に当たらなければならない。そう言って、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)はケルベロス達に、地球に迫り来るダモクレス本星との戦いについて説明を始めた。
「現在、アダム・カドモンが座上する惑星級星戦型ダモクレス『惑星マキナクロス』は、亜光速で太陽系に侵攻、太陽系の惑星の機械化を開始している。アダム・カドモンの目的は『機械化した惑星の運行を制御し、グランドクロスを発生させる』事だと予知されているようだな」
 グランドクロス。それは、宇宙版の『季節の魔力』であり、その魔力を以てすれば、『暗夜の宝石である月』を再起動させることも可能となる。そして、暗夜の宝石の力を使うことにより、ダモクレス達は地球のマキナクロス化を行おうとしているのだ。
「ダモクレス軍は、惑星の機械化と同時に魔空回廊を利用して、月面遺跡の内部に星戦型ダモクレスを直接転移させることで、月遺跡の掌握を行おうとしているぞ。お前達には、万能戦艦ケルベロスブレイドで月遺跡に急行し、遺跡の防衛を行ってもらいたい」
 クロートの話では、月遺跡の制御を奪う為にダモクレスが狙うだろう地点は、聖王女エロヒムの協力により予知することが出来ているとのことだった。この地点に先回りし、魔空回廊から転移してくる星戦型ダモクレスを迎撃し、月遺跡を守り抜くのが今回の作戦の目的だ。
「敵が魔空回廊を通じて送り込んで来る星戦型ダモクレスは、1つの地域につき3体だ。最初のダモクレスが現れてから8分後に、もう1体。更に8分後に、もう一体が魔空回廊から出現することが予測されている」
 素早く敵を撃破する事で各個撃破が可能となるが、反対に、倒すのに手間取れば複数の敵を同時に相手しなければならない状態になる。どのダモクレスも単体で一騎当千の戦力を誇る上に、それぞれ得意な戦い方も異なっている。
 全ての敵に対応しようとすれば、器用貧乏になって却って追い込まれてしまうだろう。一方で、メンバー全員が同じ方向性に特化して戦えば、ある戦いでは有利に事が運べるかもしれないが、別の戦いでは思わぬ苦戦を強いられることにもなりかねない。
「最初に出現が予測されているのは、『航空騎兵・ハイヤーボ』と呼ばれるダモクレスだ。本来、宇宙での活動は想定されていなかったようだが、改造を受けて全領域対応になっているようだな」
 その姿は、さしずめ飛行機が変形したようなパワードスーツを纏った人間といったところ。スピードと火力に特化しており、圧倒的な爆撃性能と、竜巻状のエネルギーを発生させて、こちらの攻撃の命中精度を下げる技を得意とする。加えて、純粋なスピードを利用した突撃も脅威であり、どれも侮れない火力を誇っている。
 幸い、攻撃を集中的に当てることができれば、防御力はそこまで高くないので、容易に撃破できるだろう。もっとも、範囲攻撃でさえ相当の火力を誇り、更には8分で次の増援が現れるので、あまり時間はかけられない。
「こいつの次に現れるのは、『ヴァルプルギス・サラマンダー』と呼ばれる女性型ダモクレスだ。ミサイルランチャーと大型キャノンが搭載されたアーマーを纏った、アンドロイドタイプの個体だな」
 その性能は遠距離砲撃と防御力に特化しており、強力な弾幕を張って敵を容易に近づけさせない。加えて、キャノン砲には照準補正システムが搭載されており、かなりの命中精度を誇るので油断は禁物である。
「これも撃破すると……最後に現れることが予測されているのが、『ワイズマン』というアンドロイド型のダモクレスだ。人間の老人としか思えない見た目で、実際にかなりの旧式だが……攻防一体の球体型ビットと、刀を使った剣豪顔負けの剣術を使う強敵だ。この3体の中では、最もバランスの良い能力を持っているから注意しろ」
 製造された時代は古くとも、数多のアップデートとマイナーチェンジ、そして数多くの戦いの経験に裏打ちされた戦術は、最新鋭のダモクレスにも引けを取らない。
 最悪の場合、勝利が困難になったのであれば、遺跡を破壊して撤退する決断も必要になる。暗夜の宝石の遺跡の破壊はできれば避けたいところだが、地球のマキナクロス化を防ぐためには、やむを得ない。
「遂に、ダモクレスと雌雄を決する時が来たな。拠点攻略型強襲機に、拠点防衛型も兼ねる砲撃機……そして、狡猾な老兵との連戦か。なかなか厄介な状況だが、それでも俺は、今まで地球を守り抜いて来た、お前達の勝利を信じているぜ」
 戦いの経験ならば、こちらだって今までに随分と重ねてきた。ダモクレス達の作戦がいかなる物であろうと、それを上回るだけの力が、今のケルベロス達にはあるはずだ。
 最後に、それだけ言って、クロートはケルベロス達に改めて依頼した。


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
清水・湖満(氷雨・e25983)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)
浜本・英世(ドクター風・e34862)
リリエッタ・スノウ(未来へ踏み出す小さな一歩・e63102)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)
ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)
マリン・アルセラス(地球人の巫術士・e86034)

■リプレイ

●第一波:爆撃特攻
 月面遺跡。暗夜の宝石が眠るその場所へ到着するや否や、ケルベロス達を迎えたのは、敵のダモクレスによる盛大な爆撃だった。
「目標捕捉……破壊、破壊、破壊……」
 周囲の被害も気にかけず、ひたすら絨毯爆撃を繰り返す航空騎兵・ハイヤーボ。こちらと意思の疎通をする素振りさえ見せず、ともすれば暴走しているかの如く、執拗に周囲を爆撃して行く。
「あの火力……早めに封じないと危険だね」
 拳銃に弾を込め、リリエッタ・スノウ(未来へ踏み出す小さな一歩・e63102)は飛び回るハイヤーボに向けて連射した。直撃を食らっても怯む素振りさえ見せないハイヤーボだったが、それでも彼に搭載された爆弾の発射口を、いくつか潰すことには成功した。
「これで一安心……とは、まだ言えそうにありませんわね」
 だが、それでも状況は決して油断できるものではないと、ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)は他の者達に釘を刺した。
 敵の火力は脅威だが、ハイヤーボの武器はそれだけではない。相手を翻弄する圧倒的なスピードもまた、強力な武器となり得るものだから。
 制限時間が課せられている以上、少しでも攻撃を外すことは、それだけで不利を重ねることに等しかった。ならば、ここは自分が敵の動きを止めようと、ルーシィドは飛翔するハイヤーボに向けて多数の鎖を発射した。
「捕らえましたわ……っ! ですが……物凄い力です……」
 手にした鎖が軋み、彼女の手から鮮血が迸る。鎖による拘束を、ハイヤーボが強引に引き千切ろうとしているのだ。無論、その程度で千切れる鎖ではないが、機動力を殺すにしても、かなりの覚悟を要求されるというのは確かであり。
「好機を逃すな! このまま、一気に畳みかけるぞ!」
「賛成だね。長時間の作戦遂行は、それだけ心身に負担をかけるからな」
 ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)の言葉に、浜本・英世(ドクター風・e34862)が頷いた。獣の力を宿した拳が、射出された巨大な鉄杭が、それぞれにハイヤーボの装甲を打ち砕き。
「……私のことは気にせんと。今は攻撃に集中したらええ」
 その隙に、仲間の盾として集中的に爆撃を食らっていた清水・湖満(氷雨・e25983)が、気を巡らせて体勢を立て直す。
「こちらでもバックアップする。被害が拡大する前に、攻撃を集中させた方がいい」
「任せておけ! 元より、退くつもりなど最初からない!!」
 リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)が奏でる冒険家の歌を背に、ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)が飛んだ。直線的な攻撃ではあるが、相手が動きを制限されている今ならば。
「チェストォォォッ!!」
 炸裂する斧の一撃が、ハイヤーボの装甲を砕き、飛散させた。どうやら、命中センサーに支障を生じさせたらしく、ハイヤーボは今まで以上に狂ったような動きをして、明らかに制御を失っていた。
 これはチャンスだ。どれだけ強烈な爆撃であっても、当たらなければ意味はない。続けて畳みかけるべく、今度はマリン・アルセラス(地球人の巫術士・e86034)がバールを構え、それをハイヤーボ目掛けて投げ付けた。
「なんて凄まじい邪気……。心を持たない機械であるはずなのに……」
 ひたすらに破壊を求めるハイヤーボ。そこに心も感情もないはずなのだが、故に殺気だけはどんな生物の抱くそれよりも大きかったのだろうか。
 狙いを付けて投げたにも関わらず、マリンのバールは明後日の方向へ飛んで行ってしまった。ある程度は敵を追尾することのできる技だったが、それでも同属性の技を連続して使えば、敵には容易に動きを見切られる。
「冷静になれ! 攻め時を逃せば、それだけ後の戦いにも響き兼ね……っ!?」
 叱咤するジョルディだったが、彼が言葉を言い終わるよりも早く、今度は強烈な電磁竜巻が前衛に襲い掛かった。
「これは……正直、あまり良くない状況だね」
「特殊な磁場を残して、こちらの命中精度を下げるつもりのようね。やってくれるわ」
 状況を的確に分析しつつ、英世とリティが苦い顔をした。
 正直、持久戦は望むところではないが、しかしこのまま闇雲に攻撃を仕掛けては、却って攻撃の効率が落ちてしまう。ならば、ここは元より火力を重視していない自分達が、仲間のフォローに回るしかなさそうだ。
「敵の動きは、こちらでも可能な限り制限させますわ!」
「装甲はリリが壊すよ。この先のことを考えると、あまり時間はかけたくないからね」
 ルーシィドもリリエッタも、次の味方が少しでも戦い易くなるような行動を取るべく意識を集中させた。制限時間内で効率良く敵を撃破し、かつ余力を残して勝利せねばならない状況で、スタンドアローンでの戦闘は厳禁であると知っているからだ。
 直も続く激しい空爆。そして、応戦するケルベロス達。さすがに、そろそろ疲労の色が見えたところで、唐突にハイヤーボが最大戦速で突っ込んで来た。
「狙われているぞ! 受け身を取れ、マリン!」
「そ、そんなこと、急に言われても無理ですわ!!」
 敵の狙いを察して叫ぶジークリッドだったが、肥満体に近い体形のマリンには酷なこと。このままでは、早くも脱落者が出てしまうかと思われたが……間一髪のところで、ハイヤーボの前に割り込んだのはジョルディだった。
「重騎士の本分は守りに有り! この戦い……勝利して見せる!!」
 大盾をブチ抜かれ、反動で遺跡の奥まで吹き飛ばされるが、それでもジョルディは止まらない。こうなれば、もはや鉄塊でしなない盾などデッドウェイトだ。豪快に放り投げつつ、両手に斧と剣を握り締め、お返しとばかりにハイヤーボの身体を挟み込み。
「我が嘴と刃を以て……貴様を破断する! インフェルノォォォ……クラァァァッシュゥッ!」
 噴き出す炎を纏った刃を交差させて、暴走する航空騎兵の首を刎ね飛ばしたのだった。

●第二波:装甲巨砲
 辛くもハイヤーボを撃破したケルベロス達だったが、戦いはこれからが本番だ。魔空回廊より現れし第二の刺客。砲撃能力に特化したアンドロイド型ダモクレスであるヴァルプルギス・サラマンダーは、同時に堅牢な装甲を誇り、生半可な攻撃では怯みもしない。
「これは……少しばかり、面倒なことになりそうやね」
 身体の痺れに顔を顰める湖満。先のハイヤーボと同じく、ヴァルプルギス・サラマンダーは多数の範囲攻撃を持っている。だが、それらは火力に特化したものではなく、相手の行動を阻害し、炎でじわじわと体力を削る持久戦仕様。
 前衛過多な陣形では、当然のことながら湖満やジョルディが自らも狙われた状態で、他の仲間を守ることになってしまう。当然、被弾もその分だけ増え、麻痺弾やナパームの炎に蝕まれることも多くなる。
「あくまで時間を稼ぐ気か。だが、ここで攻撃の手を休めるわけには……」
 ジョルディも必死に攻撃を繰り出すも、先のハイヤーボとの戦いで追った負傷が響いているのか、迂闊に単独で突撃できない。ヴァルプルギス・サラマンダーが出現するまでの僅かな間、体力をある程度回復できたのは幸いだったが、それでもグラビティでは癒せぬ傷が蓄積しているのは確かだからだ。
「体力が低下している分は、こちらで守りを固める。制限時間を考慮しつつ、それぞれの持つ最大火力で攻撃してくれ」
 鎖で防御の陣を張りつつ、リティが言った。それを見たヴァルプルギス・サラマンダーは、己と同型の存在が定命の者と化し、ケルベロスとして活動していることに対し、ともすれば皮肉とも取れる言葉を浴びせかけた。
「定命化してスペックダウンしたようね、サイレン」
 不死の存在たるダモクレスからすでば、命に限りのある存在となったこと自体が、忌むべきデチューンとも呼べるもの。もっとも、リティにとっては不死の肉体を捨てる代わりに人間と同じ心を持てたことは、決して退化などではなかったが。
「スペックダウン? 違うな。ケルベロスの戦隊単位で作戦遂行するための最適化……とでも言っておこうか」
「意図的に己をデチューンしたというの? ケルベロスは、ダモクレスをスペックダウンさせて、量産でもしようというのかしら?」
 互いに嚙み合わない会話。それは、同じ型として作られた存在でありながら、リティとヴァルプルギス・サラマンダーが、もはや決して相容れぬ者同士になってしまった、決定的な違いに他ならず。
「なんとでも言え。そして……お前の敵は、私だけではない」
 そう、リティが告げると同時に、他の者達がヴァルプルギス・サラマンダーへと一斉攻撃を開始した。
「行くよ、ルー!」
「ええ、合わせましょう、リリちゃん」
 リリエッタとルーシィドの二人が、示し合わせたかの如く、星形のオーラをヴァルプルギス・サラマンダーへと蹴り込む。ファンシーな見た目に反し、それはあらゆる物体を斬り裂く鋭利なカッターとなって、堅牢な装甲をも軽々と引き裂き。
「まだだ! 風よ……邪悪なる野望を抱く者を打ち砕け! 烈風!」
 ジークリットの巻き起こす風の刃が、装甲の亀裂から入り込み、内部から敵の身体を構築する機械を粉砕して行く。
「どれだけ強大でも、我々の攻撃が効かないわけではありません! さあ、これで終わりですわ!」
 他の者達の活躍に鼓舞されたのか、続けてマリンが御業から特大の火炎弾を放った。いかに重装甲のダモクレスとはいえ、立て続けに攻撃を浴びせれば、強引に押し切れるだろうと……その判断は、誤りではなかったのだが。
「ふぅ……どうやら、これで終わったようですわね」
「いや、まだだ。油断はしない方が……っ!?」
 額の汗を拭うマリンを英世が窘めたところで、爆炎を引き裂き空を切る砲弾。それが、未だ健在であるヴァルプルギス・サラマンダーから放たれたものだと、気が付いた時には遅かった。
「……ごふっ……!?」
 砲弾が腹にめり込み、マリンの身体が破裂するようにして吹っ飛んだ。炎に阻まれ、狙いが定まっていなかったが故に、急所を逸れたのは幸いだったが。
「……ったく、言わんこっちゃない」
「だが、時間も残り僅かだ。ここで立て直している暇はないぞ!」
 半ば呆れる湖満の背をジョルディが叩き、再び武器を構えた。グラビティの構成からも、マリンの火力が不足していたのは違いないが、それを言っても始まらない。
「悠長に回復している暇はない、か……。ならば!」
 意を決し、身を乗り出すリティ。先程まで、後方支援に徹していた時とは明らかに様子が違う。胸の装甲を展開し、内部から露出した発射口から、彼女は強大なビームの奔流を解き放つ。
「なにっ!? そんな……あなたの役割は、負傷者の救護と全体の指揮では!?」
「悪いな。与えられた役割しか果たせぬ機械人形と違い、私は私の意思で、臨機応変に対応を変えることができる」
 それこそが、心を持つ者と持たぬ者の違い。機械よりも正確さで劣りながらも、数値上のスペックを覆し、数々の奇跡を生み出す人の技。
「これで……終わりだ!」
 最後に、一際強烈な光を受けて、ヴァルプルギス・サラマンダーは背負った巨砲だけを残し、跡形も残さず消滅した。

●第三波:老兵機士
 立て続けに2体ものダモクレスを撃破し、暗夜の宝石の遺跡を守り抜いたケルベロス達。だが、それに続く形で現れた最後の敵を前にして、さすがの彼らも疲弊の色が隠しきれなかった。
「おやおや、どうなされました? さすがにあの2機を相手にしては、随分と消耗されてしまったようですね」
 飄々とした様子で告げる初老の男。彼こそが、最後の敵にして最大の難関、ワイズマン。先程の台詞からして、先の2機の戦い方は、この男が考案したものだったのだろう。
「強襲機で突破口を開き、防衛機で時間を稼ぎ、最後に自ら止めを刺す、か……。確かに、完璧な作戦ではあるようだが……」
 守りを固めつつリティが言った。先程とは違い、彼女は自ら前に出て、積極的に味方の盾となっている。
「それでも、ここで負けるわけには行かぬのだ! 我が心の故郷たる地球の為にな!」
 続けて、ジョルディが斧を高々と掲げ、ルーンの魔力で味方を強化する。二人は互いの体力を考慮して、一手を犠牲にする形で陣形を交代していたのだ。
「いやはや、さすがですな。しかし……守りに徹するあまり、私を前にして一手を捨てたのは悪手だったのでは?」
 それでも、何ら動ずる様子を見せず、ワイズマンは周囲にビットを展開した。彼の武器は刀だが、それだけでなく、強力なビームを放つビットを多数所持しているのだ。
「さあ、これで終わりに致しましょう。その傷ついた身体では、さすがに耐えられますまい」
 球体のビットより放たれる無数の光。それらは前後左右、あらゆる角度からケルベロス達に襲い掛かり、その身体を容赦なく貫いて行く。身を挺して仲間を庇わんとするリティや湖満だったが、今までの戦いによるダメージの蓄積が、彼女達の肉体に限界を迎えさせる要因となった。
「……っ! ここまで……か……」
 全身から火花を上げ、リティが倒れた。それだけでなく、ジークリットも吐血しながら膝を突き、手にした刀を落としてしまった。
「ああ! ジーク様が……」
「……ジジイ……絶対に殺す……」
 リリエッタの瞳が、細く、鋭く変化する。ルーシィドの前でも躊躇うことなく汚い言葉を使っている辺り、本当に怒っているのだろう。
 拳銃を捨て、リリエッタは一気に距離を詰めると、ワイズマンへと蹴り掛かった。その攻撃を刀の鞘で受けるワイズマンだったが、ふと背後に何者かの気配を感じ、思わずそちらを振り向いた。
「……大層な御託並べよって、その割に強そうな者ばかり狙うのは感心せんな。狙うなら、か弱そうな私にしとき」
 そこにいたのは湖満だった。あれだけの攻撃を受けたにも関わらず、彼女は気力だけで立ち上がり、決して倒れることをしなかったのだ。
「……邪魔。退いて」
 肉体への負担も顧みず、湖満は凍れる武器による一撃を見舞った。不意を打たれては、さすがのワイズマンも敵わない。内部まで侵食する凍結により、狡猾なる老兵の電子頭脳は微妙に狂い、冷静な判断力さえも失って行き。
「捉えました! 今ですわ!!」
「ああ、任せてくれ。役目のために活動する金属の塊に、容赦をするつもりは微塵もないよ」
 ルーシィドの蔦が拘束したところへ、射出されたのは英世の鉄杭。渾身の一撃が胸部を直撃すれば、氷像と化していたワイズマンの身体は、木っ端微塵に砕け散った。
「終わったか……。限られた命での精一杯。この感覚、心を獲得する機会が我が身にあったこと、本当に幸運だと思うよ」
 最後に、それだけ呟いて、英世は静かに目を閉じた。正にギリギリの戦いではあったが、それでも彼らの活躍によって、暗夜の宝石の遺跡は守られた。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。