迎撃、星戦型ダモクレス~破壊と憎悪の裁定者

作者:のずみりん

「ダモクレス、アダム・カドモンが動き出した。恐らくこれが決戦になる」
 低い声でリリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)はそう告げた。
「手短に説明する。敵の狙いは『暗夜の宝石』……つまり月だ」
 既にアダム・カドモンが座上する、惑星級星戦型ダモクレス『惑星マキナクロス』は亜光速で太陽系に侵攻。
 太陽系の惑星を次々と機械化し、必殺の準備を進めているという。
「アダム・カドモンは運航を制御した惑星でグランドクロスを人為的に起こし、『暗夜の宝石』を再起動して地球全土をマキナクロス化させるつもりだ。この狙いが成功すれば、我々は負ける」
 図示された盤上を示し、淡々とリリエは告げた。
 グランドクロスはいわば宇宙版の『季節の魔力』。その天文学的な魔力からもたらされるマキナクロス化は地球一つ程度、一瞬で飲み込むだろう。
 発動してしまえば逃げる暇は一切ない。
「我々に打つ手は少ない……亜光速で動くマキナクロスに対し、我々の万能戦艦ケルベロスブレイドはせいぜい時速五万キロ……敵の万分の一の速度もない。宇宙での戦いは我々の完敗だろう」
 だがしかし。
 そこでリリエは声を大きくする。
「この策の要であり、唯一最大の隙は『暗夜の宝石』、月の制圧だ。ここなら何とか、私たちでも手が届く」
 無論、ダモクレスもそれは承知だろう。
 聖王女エロヒムの協力でもたらされた予知によればダモクレスは魔空回廊を展開、『暗夜の宝石』を制御する月面遺跡の内部に星戦型ダモクレスを転移させてくるという。
「これより万能戦艦ケルベロスブレイドは月遺跡に急行する。転移してくるダモクレスを迎撃し、遺跡を防衛してくれ」

 月面での迎撃なら、戦闘はケルベロス側にだいぶ優位なものとなる。
「まずその一。ダモクレスが狙うだろう地点は、聖王女エロヒムの協力により予知することができている。その結果が優位二……つまり敵が集結し準備を整える前に叩く事ができる」
 魔空回廊で送りこめるダモクレスは一体ずつで、一地域の制圧に投入されるダモクレスは三体。つまりさん連戦を勝ち抜けばいいわけだ。
「魔空回廊が開く感覚は8分だ。最初のダモクレスが現れてから8分後に、もう1体。更に8分後に、もう一体が出現する……素早く倒せるかがカギとなるが、こちらがやられては元も子もない。慎重に事を運んでくれ」
 最後の優位について、リリエはそう言って説明する。
「最後の手段だが……もし勝利が難しい場合、遺跡を破壊してしまえば地球のマキナクロス化は防ぐ事ができる。多大な損失で避けるべき事態ではあるが……頭の片隅に覚えておいてくれ、ケルベロス」
 星戦型ダモクレスはそれほどに強大だ。リリエはそういうと、資料映像を切り替えた。

「皆の迎撃ポイントに出現するダモクレスは、この三体となる」
 黒い霧に包まれた少女型の『デバステイター・ブラックシープ』
 刃物を備えた四肢、外套を纏った漆黒の戦士『ジ・アービター』
 そして赤熱する直立歩行の黒牛『アボミネイター・クロックブル』
 三体のダモクレスのスライドが表示される。
「最初に出現する少女型『デバステイター・ブラックシープ』は電子戦タイプだ。この霧状の物質は電子ウイルスで、《破壊者》の名の通り、都市機能を丸ごと麻痺させるほどのハッキング能力がある……戦闘ではサキュバスに近い能力の、広範囲攻撃型だな」
 ジャマーのポジションで布陣する『デバステイター』の攻撃はいずれも広範囲、長射程。催眠やトラウマといった厄介な状態異常を散布し、状態異常を強化するジグザグ効果の攻撃も有しているらしい。
 また破剣効果の支援グラビティも有しており、生き残ると厄介な相手になるだろう。

「二番目に現れる『ジ・アービター』は見た目通りの白兵戦特化型のクラッシャーだ。ドラゴニアンに近い、頑健と敏捷双方に優れた能力で、的確に目標を仕留めに来る」
 元は《裁定者》と名付けられた『アービター』は実戦データ収集のための指令を帯びていたらしく、強者を優先して狙う特色がある。攻撃は全て近距離だが、四肢のブレードはドレイン効果を帯びており、また必殺の斬撃フィニッシュは凌駕することも難しい。
 またマントには隠密能力があり、命中精度を強化させるヒールグラビティとして動作するという。
「ここまで二体、どちらも連携されることは避けたい相手だが……最後の『アボミネイター・クロックブル』、《憎悪者》が難題だ」

 前の二人に比べ、憎悪者の能力はシンプルだ。
 能力は頑健、破壊に特化。ブレイク効果の乱撃、服を破る突進、破壊力を高めるヒールグラビティ。とにかく破壊力特化。
「問題はコイツの能力だ。こいつのポジションはディフェンダーなんだが……僚機が破壊されると攻撃力が大幅に増大する。合流前、合流後、どちらでもだ」
 感情によって喚起される底力に着目した実験機という『クロックブル』は仲間の死に憎悪を爆発させる。
 もし『ブラックシープ』『アービター』双方が倒された時は、およそ二倍……その攻撃力はクラッシャーに匹敵するほどになるだろう。
「八分の猶予を生かすなら速攻が上策なんだが……こいつらの場合、あえて倒しきらず『クロックブル』の猛攻を避けるのも一つの手かもしれない」
 どのように戦うか、戦況の変化にどう対応するか、考えておく必要があるだろう。

「今回は月遺跡内部での戦いとなるため、ケルベロスブレイドからの援護はできない……だがロケーションは我々が圧倒的に有利だ。八分間を最大限に生かし、勝利してほしい」
 信じているぞ、ケルベロス。
 短い檄が、リリエの締めの言葉となった。


参加者
ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)
羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)
ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)

■リプレイ

●黒羊の幻惑
『大気成分の変化を確認』
 その魔空回廊は黒霧と共に開かれた。
「来たな。SYSTEM COMBAT MODE」
 遺跡へと降り立つや響く『R/D-1』戦術システムの警報に、マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)は短くも鋭い開幕を宣言する。
 出現予測からの『XMAF-17A/9』アームドフォート、一斉射撃。
「相手も向こうも手慣れてきているの……!」
 マークのフォートレスキャノンが着弾するや、圧を増す黒にガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)が声を唸らせる。
「予想される脅威、当然の対応」
 電子ウイルスをまとい現れる小柄な少女型ダモクレス『デバステイター・ブラックシープ』の損傷は言葉通り軽微。
 そしてそれにケルベロスが驚き座すこともない。百戦錬磨の激突は一瞬にして開幕する。
「ナノマシン散布型のダモクレスは……母が消えた後も独自に進化を続けて?」
 その能力の類似性、ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)は淡々と、しかし既視感に驚くように目を細める。
「なるほど。情報検索……螺旋再現ナノマシン特化機、PIC=02」
「いいえ……現在の私はピコです」
 それは確かに的を射ていたのか。データベースより因縁の名を拾い上げたブラックシープへ、ピコは破壊の黒霧をかわし、マフラーからほつれ出でた紙兵をチャフのように散布する。
 ターゲットがダモクレスへと流れかけるも、紙兵が媒介するワクチンプログラムに一瞬だが揺らぐ霧。
 効果ありだ。
「ワクチンプログラム解析、アップデート……!」
「敵も総力戦なのかな……厳しいけど負けないよ。いこう!」
 ブラックシープが一手を使う中、今度はマイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)のブレイブマインが、今度は直接に電子ウイルスの催眠を吹き飛ばし、視界を晴らす。
 その力強さは炸裂に散布されるガートルードの『ワイルド・リジェネレーション』、纏わされ暴走形態を形どった力の中にあった。
「これは、気体化した混沌の水(ワイルドスペース)……!」
「シュッ!」
 飛び出すボクスドラゴン『ラーシュ』のタックルに跳ね飛ばされながら、しかしブラックシープは冷静に分析する。
 即座に、再び電子ウイルスの性質を変換、反撃を試みるが。
「大丈夫、みんなを信じてる。思いっきり暴れられるようにしてあげるから! いって!」
「ありがとう、結衣菜さん……この思い、惑わされはしません。ミチェーリ!」
 一手の差は経験と絆にあった。何度も戦ってきたのだ、フローネたちとは。
 ボディヒーリングを仲間たちへと施し、不可視のトラウマより守り抜く羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)の援護を受け、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)は進む。
「魂なき者が振り絞って各々が導きだした戦いなら! 私も、己が魂をかけて!」
 全力で立ち塞がり、討ち果す。『ダイアモンド・フロスト』へと映る父、姉妹……受け継いできた力と思いの幻影を振り切って、フローネは必殺の布石を撃ち出した。
「離脱……不能……!?」
「随分と手ぬるく見積もられたものです……その代償、受けていただきましょう」
 驚愕にデジタルグリーンの目を見開くブラックシープ。
 展開されたアメジスト・ドローンのビームシールドがウイルスごと、ブラックシープをプラズマ結界に閉じ込める。上方へと脱出を図ろうとした所へ突き刺さるへ、狙いすましたミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)のイガルカストライク。
「アイズ、ベルク! “氷山”の棺で眠りなさい!」
 三角錐のバリアを満たす様にあふれる冷気。
 『Айсберг』がその名の通りの氷山へと封じたダモクレス目掛け、必殺の追撃は叩きつけられた。
「っし! イタダキマース!」
 破塵を着火、燃焼させる猛烈なチェーンソー剣の二刀連斬。
 アリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)の『名物・大魂颪焼』が氷山ごとにブラックシープを焼き尽くしていった。

●裁定者の強襲
「よーし、まず一つ……」
「ン!? 喰えテ……なイ!?」
 流れるような完璧な処理。マイヤが快哉を上げた瞬間だった。
 首をかしげるアリャリァリャの前、砕け散った『Айсберг』の中からブラックシープが飛び出すのは。
「どういうことなの、氷が効いてない……!?」
「いえ、効いてはいます。ですが」
 相殺された。ガートルードの疑問に、ピコは『増設型擬似螺旋炉』を駆動させて理屈を示す。
 放たれた螺旋氷縛波が、届かない。
『ダモクレスは電子ウイルスを自身周辺に散布。空気の鎧として完全凍結を回避した模様』
「分析が早い。やはり油断できない」
 マークの『R/D-1』戦術システムが補足する。たしかに凍結は効果を発揮しているが、直接のダメージが届ききってない。
 足りないのだ、火力が。
 それを補うためのジャマーであり、エンチャントだが、ダモクレスもわかっているから削りにくる。
「ブレイブマインが……!」
「まずいよ、止めないと!」
 マイヤの『Caelestis』が撒いた星のきらめきが、電子ウイルスの闇に飲まれていく。
『ターゲットロスト、目標フロ……診断プログラムによるキャンセル。再試行……』
 ダモクレスの分析に、ケルベロスの動きは素早かった。
 レプリカントたちのシステムが上げる電子の悲鳴に、結衣菜は『夜天弓セレネ』へと祝福の矢をつがえて放つ……破剣に対抗できるのは同じブレイクの力を持つ技か、あるいは同じ破剣の技だけだ。
「であるのなら、フローネ!」
「リードは預けました、ミチェーリ!」
 放たれた矢を受け、飛びのいたミチェーリが反転。『ポレヴォーイ・サパギー』を疾走させながら、『ホロドナヤ・ブローニャ』が守る利き腕を刀の形へピンと伸ばす。
「残り時間は!」
「2……NOT,1 MINUTES」
 フローネたちへと数えながら、マークは右腕の『PS8000』プラズマソードを展開する。
「かわせない……!?」
 回転が噴出するプラズマを流し、巨大な炎の剣を出現する。電子ウイルスの霧を集中し、ブラックシープも受け止める、が。
「共に誓った連理の刃!」
「双盾強攻鎧兵術、“剣舞”!」
 ズタズタラッシュをさばいた瞬間、逃すケルベロスではない。
 冷気を帯びたミチェーリの手刀とフローネの『アメジスト・ブレイド』による乱舞曲が、ダモクレスの黒を美しく引き裂いていく。
「ここまでか……頼む、《裁定者》」
「間に合わせますよ……!」
 霧の向こう、『Танец с саблями』の手刀がブラックシープの体を穿ち、ライムグリーンの閃光を吹き上げさせる。
 なおも掴みかかるブラックシープの腕を、ピコの螺旋氷縛波が引きちぎった。
「早く、回復を……!」
 マイヤがグラビティの準備を構えたのと、爆発と新たな魔空回廊の現出はほぼ同時。
 ミチェーリが駆けだすより早く、結衣菜の体を鋏のような大腕が襲った。

●タイムリミット
「ま……まんごうちゃん!」
 咄嗟、ポジション移動をあきらめた相棒、シャーマンズゴースト『まんごうちゃん』の放つ神霊撃が、ブレードを裂く。
 いや、裂こうとしたところにまた刃。
「結衣菜、まずい!」
「フッ!」
 切り裂いた刃は両足だった。
 マイヤが気力溜めを放つ間もなく、『まんごうちゃん』が切り裂かれて転がっていく。低重力の月面を浮かび、アービターは次の獲物を見定める。
「そこか」
「ギッヒヒヒ、ヨくキたナ!」
 危険、あるいは強敵と呼んだか、両腕でチェーンソー剣を振りかぶるアリャリァリャに、結衣菜が間一髪で解放された。
 その一撃は互いに空振りだが、少なくともケルベロス側は十分。
「させません、これ以上!」
「ヌ!?」
「RED EYE ON!」
 キルゾーンに誘導された《裁定者》ジ・アービターへ、フローネの『トパーズ・キャノン』が射、更にマークが『RED EYE』を輝かせて放つ『DMR-164C』ライフルのゼログラビトン弾。
 そのすべてをマントに受け止め、アービターは再び舞う。
「擬似螺旋力、出力調整……照準システムの異常補正……再誘導」
 更に襲い掛かるのはかの敵だけでない、側面を狙うピコを襲う視界のブレ。
「ヒールが、間に合わない……!」
 飛びかけるアービターを封じに『Hexagram』の光を飛ばすマイヤは、その連なり溢れる光の中でボクスドラゴン『ラーシュ』に治療を呼びかける。
 おそらくフローネやマークもだろう……ブラックシープとの戦闘での電子ウイルスは、まだ除去しきれていないのだ。
「高エネルギー反応を感知!」
「完全同期完了。出力します」
 マイヤの手で躍るように弾けた光が侵食して時間を稼ぎ、間一髪でピコの両腕の螺旋が同調を間に合わせた。
 放たれる疑似と生来、二つの螺旋の『螺旋相剋撃』がアービターの体内を襲い、機関を破壊する音が響く。
「手加減して、どころじゃありませんね!」
 ダマスカスブレードをジグザグに振るうガートルードの傷が石化を広げ、動きを鈍らせる。このまま動きを封じ、最後の大詰めを迎えられればいいのだが。
「残り二分しかない!」
「く、この恵みを以て、あなたを癒やすわ……!」
 止めきれない。早口になる結衣菜の『翠緑の恵み』がマークを癒し、その巨体が飛びあがる。
「BOOST ON!」
 『メインブースター』を起動し、アクロバティックに踊るアービターを強引に追いすがる。
 アームドアーム・デバイスで遺跡の装置を掴んで転回するやし、『Armed Greave』レッグガードに取り落とした『PS8000』ブレードを保持してリーチを確保。カポエラが如き足技がぶつかり合った。
「ヌゥッ、バランサー異常……」
「ウチも混ぜテッ!」
 ジェットパックデバイスで追いすがるアリャリァリャのスカーレットシザース。炎を上げるチェーンソー剣が流れを押し返したかに見えた時。
 三度、空間は歪んで爆ぜた。

●全身全霊の戦い
 突進がケルベロスを打ち砕く。
「ミチェーリ!」
 フローネの間に合わぬ悲痛な悲鳴。
『《憎悪者》アボミネイター・クロックブル』の出現するや否やの猛突撃は重ね掛けたヒールドローンの盾を砕き、ミチェーリの魔導装甲に大穴を空けていた。
「大丈夫、まだ……しかし、まずい」
 すれ違いざまに『旋刃脚』を打ち込んだミチェーリだが、果たして通ったか。クロックブルの、いわゆる蹄類とも異なる扁平な脚の亀裂から漏れるは赤い閃光。
「裁テイ、シャ。破カイ者、ハ……?」
「一単位、間に合わなかった」
 すがるようなクロックブルの呻きに、裁定者は俯いて見えた。
 猛牛の悲鳴が悲しく響く。怒りが激しく遺跡を震わせる。
「泣いている……の?」
「理解しヨウとシテる。『死ぬ』っテ事を」
 ガートルードの漏れた声に、乱杭歯を剥きだしたアリャリァリャは、裏腹な静かさで言った。
「祝福するゾ。良く死ヌためニ」
「ガアァァァァァァーーー!」
 赤い揺らめきを引きずり、憎悪者の恐るべき力が来る。
 それはクラッシャーの位置に立アリャリァリャで何とかギリギリ対抗できたというほど。
「オロシィィィィャァァァァァ!」
「ブルァァァァァァ!」
 飛び退きながらに切り刻む『名物・大魂颪焼』の連打でも突進は止められず、身が跳ね飛ばされる。
 続くマークが二人目、受け止め、受け流そうと試みて半ばまで成功しかける。
「POWER FULL THROTTLE……!」
 『LU100-BARBAROI』脚部履帯の旋回用バンカーが突進に負け、なお履帯を全開で回してマークは対抗。その肩口を閃光が裂いた。
「DEUS EX……!」
『HW-13S』を失ったマークに刃を防ぐものはなく、肩口から胴へと切り裂かれ、膝をつく。
 そこに突入してくるクロックブルの回転突撃。交わす術はなく、限界を超えたディフェンダーたちが衝撃波に叩きつけられる。
「ナノマシン残量10%……状況、危険です」
「ここが踏ん張りどころだよ、ラーシュ……!」
 前進しかない。ボクスドラゴン『ラーシュ』がフローネと共に、不足した前衛を補わんと移動する。
「まだよ、ドロー!」
 ガートルードの引き抜いた『白銀のカード』から叩きつけられるドラゴンサンダー。バチバチと帯電しながら、しかしダモクレスの歩みはとまらない。
「押し切れないよ……パワーが足りなくって」
 倒れた結衣菜の小さな胸が上下し、苦しげに言葉を吐く。
 何とか崩壊を避けられているのは防御重視、長期戦に備えたフォーメーションとグラビティゆえだが、それゆえにケルベロスたちは決定打を欠いた。
 慎重なエンチャントは今を支えてくれているが、倒しきれぬ分に負傷と状態異常もたまり切ってしまっていた。
「まさか、そのためにブラックシープを?」
「ウゥゥゥゥアァァァァァー!」
 ピコは推理に戦慄する。自ら捨て石となり、電子ウイルスへの警戒と対策で遅滞をかけてアービターたちを生かしたのか?
「ダモクレスも成長し、進化している……できればこの決戦の後、意見を受け容れ、共存の道を進みたかった」
 だがそれは出来ない。全力で彼らに立ち塞がり、討ち果すと選択した。それが自らレプリカントとなったフローネの覚悟であり、選ばなかったダモクレスたちの覚悟でもある。
「そちらが下がれないように、こちらにも退けない理由がある……けど」
「向こうの粘り勝チ、だナ」
 口惜しさをにじませたガートルードの前、アリャリァリャがチェーンソー剣を構える。
 ブラックシープを速攻で倒し被害を減らせていたら、余裕をもってアービターを封じられていれば、あるいは違ったかもしれない。
『有力選択肢、暴走による撃破……』
「ダメです。今、それはまずい」
 後は最後の手段だが、ミチェーリは『R/D-1』の提案を手を振って遮った。
 今ここで暴走して勝てても、その後は最終決戦まで復帰困難。戦力は大幅に減ってしまう。
「最大出力でアービターを撃破、同時に離脱を、とどまり続けるのは危険です」
 二体のダモクレスのうち、クロックブルを見やりピコは警告する。頷き、後は一瞬。
「螺旋相剋撃、オーバーロード!」
 ピコの螺旋に続き、大きく振りかぶったミチェーリのデッドエンドインパクトがクロックブルを空ぶって飛ぶ。
 だがそれでいい、その一撃は遺跡の奇怪な機械を貫き、爆発を起こす。
 まさに仕掛けようとした《裁定者》ジ・アービターを巻き込んで。
「裁テイシャァァァァ!」
 黒い煙の目くらましの下、撤退する一行は雄牛の咆哮を聞いた。
「今はぶつかり合うしか手段がない、けどその先に、きっと対話の未来があることを信じてるから……!」
 連鎖する爆発。仲間の突然の死に荒れ狂うクロックブルを悲しく見やり、ガートルードは一直線に破壊した遺跡を脱出した。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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