迎撃、星戦型ダモクレス~常戦普遍

作者:黒塚婁

●月へ
「アダム・カドモン――ダモクレス勢力への対応、その結果が決まった」
 ――決戦を行う。
 ケルベロス達を一瞥し、雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)は静かに告げる。
 一方で、ダモクレスも動き始めている。
 最後の戦いに向け、現在アダム・カドモンが率いる惑星級星戦型ダモクレス「惑星マキナクロス」は、亜光速で太陽系に侵攻、太陽系の惑星の機械化を開始している。
 予知によれば、奴らの目的は『機械化した惑星の運行を制御し、グランドクロスを発生させる』こと、らしい。
「グランドクロスは、すなわち宇宙版の『季節の魔力』――その魔力を使い、『暗夜の宝石である月』を再起動させ、地球のマキナクロス化を目論んでいる」
 忌々しそうに、彼は言う。
 既にマキナクロスは火星の機械化を終了し、金星方面へ移動を始めているらしく――同時に、火星から金星に移動する地球周回軌道上を利用し、魔空回廊から月遺跡を掌握をせんと兵を送り込んでくる。
「星々までは追いかけてはいけぬが、月は防衛せねばならん。よって、貴様らには万能戦艦ケルベロスブレイドで遺跡に急行してもらう」
 幸いにして、ダモクレスの襲撃地点については、聖王女エロヒムの協力もあり――予知できている。
 果たして戦場は月面遺跡内部――荘厳な神殿内部は、不思議な機械群が覗える区域。今はエネルギーが枯渇し、総てが停止したような状態にある。
 ケルベロス達はこの地に先回りし、魔空回廊から転移してくる星戦型ダモクレスを迎撃することになる。
 星戦型ダモクレスとは『宇宙での戦闘用に改修強化されたダモクレス』――その大多数が、人型・中型のダモクレスである。制圧後、古代機械の操作などを担う任務があるからであろう。
「予知によれば、敵は一地域につき、三体。最初のダモクレスが出現してから八分後に、次の一体。更に八分後、最後の一体が現れる」
 つまり、素早く――八分以内に討伐できれば、各個撃破となる。逆も然り――そして、討伐できぬまま時間が掛かるとなれば、此方が遺跡を破壊し、撤退するという選択もでてくるだろう。
 暗夜の宝石の遺跡を破壊するという選択は、以後この機能を利用できなくなるリスクがあるが、最も避けるべきは、地球のマキナクロス化だという判断だ。
 破壊の選択は最悪の場合の判断であるという事を忘れぬように、と辰砂は念を押す。

 さて、襲撃してくる敵であるが、まずは国喰鴉という女性型ダモクレス。無数のカラス型ビットと行動し、主力は強化改造を繰り返したバスターライフル。中距離で時間稼ぎを得意としている。
 次に、剣聖機『シャドー』――太刀を佩びた女性型ダモクレスで、強烈な斬撃で接近戦を得意としている。
 最後に、タイプ・トーマス。地球の科学者を模倣した、研究者型のダモクレスだが、星戦型と改造されたことで、それなりに戦闘力を強化されている。先の二体に比べれば、戦闘能力は劣るが、厭らしい性能をしているとも言える。これらは単体で見れば、付け入る穴も多々見えるが。
「これは私見だが……二体以上揃った時に、面倒な相手となる印象だ。実際のところは貴様ら次第だな」
 辰砂は言葉をきって、ケルベロス達を再度、ゆっくりと一瞥した。
「敵も必死だ……奴らは何時でもそうだったが――いよいよ、その総てを賭けて来ているだろう。此方も心して挑め」
 勝利を信じている、と。
 辰砂は最後に告げ、微かに笑う。
 戦いの日々は終わりに近づいている――ここまで来たのだ、と。僅かな寂寥を浮かべながら。


参加者
ティアン・バ(世界はいとしかったですか・e00040)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
コマキ・シュヴァルツデーン(翠嵐の旋律・e09233)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)
ミレッタ・リアス(獣の言祝ぎ・e61347)
四十川・藤尾(七絹祷・e61672)

■リプレイ

●一番手
 月の遺跡――神殿が如き厳粛な空間と、何がどう作用するのかもわからぬ様々な機構の数々。今は眠ったようにすべてが止まっているが。
「……不思議ね」
 魔女として象徴と見なす月にあるコマキ・シュヴァルツデーン(翠嵐の旋律・e09233)は、見上げ、時に魔力を乞う存在に居ることが、奇妙で仕方なかった。
「ええ、本当に」
 月にいる事へ、感慨を抱くもう一人。ミレッタ・リアス(獣の言祝ぎ・e61347)は過去を思い出し、微笑む。
「狂月病もよく判らない位、小さい頃。満月を欲しがったこともあったけれど――まさか実際に月面に立つとは思わなかったわね」
「竜十字島で月の鍵を見つけた時は、遺跡の存在も月の正体も、想像もしていなかったが……」
 ティアン・バ(世界はいとしかったですか・e00040)が思いを馳せた過去は――ミレッタの追憶に比べれば、つい最近の事である。
「でも、ダモクレスに遺跡や暗夜の宝石を利用させる為に見つけたんじゃない」
 小さな囁きすら吸い取るような、静かな藍の世界で。
 仲間達は彼女の言葉に、ただ深く、頷く。
 その時――彼らの意思の統一、集中の高まりを察したからではなかろうが、するりと何もない空間に歪みが起こり、先触れの鴉が羽ばたき駆け回る。
 やがて、一番手、虚ろな視線を目的地に彷徨わせたダモクレス――国喰鴉は、ケルベロス達を認め、目を眇めた。
 彼女の唇が微かに動く。
「――参り、ます」
 静かな開戦の号に従い、先から遺跡を飛び回っていた鴉が増殖し、ケルベロス達へと襲いかかってくる。
 機兵の群れの中央へと、自ら躍り出る女は、艶然と微笑む。
「迎えの宴です――互いに散らし合う宿命であるのなら悉く猛り、」
 四十川・藤尾(七絹祷・e61672)は嫋やかに。されどオウガの性を隠せずに、黄金の手斧を剛と薙ぐ。
「瞬きの間すら……愉しみ尽くしましょうね」
 身を翻弄する痛みすら、飲み乾す女は鴉どもの進路を遮り――同じく縛霊手を盾に、キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)が前へと身を滑り込ませると、翻したそれで霊力を帯びた紙兵を、散蒔いた。
「地球も月もくれてやるワケにゃいかねぇンでね。目指す未来はお互いサマだ、一分たりとも譲りはしねぇよ」
 彼の言葉に、キソラらしい、とティアンは頷き。手繰る鎖にて陣を描けば、もうひとつ。守護の力を持つ二重の鎖の魔法陣が、力を放つ。
「ああ、好きにさせるかッ」
 一方を担う鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)は、激情を隠さず、敵を睨めつけた。
 対照的にな涼やかな声音を機兵は耳にする――。
「遠路はるばるって感じですねー、ご苦労さまです、って言ったほうがいいやつでしょうか?」
 告げたカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)は、翡翠の瞳を楽しげに細め、翼を畳むように姿勢を制御し、低く駆ける。
「今までも、色んな強敵と相まみえてきましたから。今回だって――月も地球も、しっかり守りきってみせますよ」
 床を蹴り、壁を蹴った。空に躍った。構えるのは、青銀色の竜翼を模したハンマー――花のオーラを軌跡に咲かせ、強か国喰鴉の背を撃てば。
 対角、其の眼前に迫るは、赫と燃える地獄の炎。甲冑の男は大仰な音を立てるも、軽々と距離を詰めていた。
「最後の敵勢力は我が故郷ですか」
 ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)の囁きは、兜を燃やす炎を弱めたか――否、ハンマー大ぶりに振りかざし、躊躇いなく敵の顔面へと叩きつける。
「なんてね、望むところだよ」
 戯けながらも、隙はなく。ラーヴァは鎧の重量を感じさせぬ軽々とした跳躍で、離れる。
 そして敵も、強烈な二撃――彼と入れ替わり踏み込んできた藤尾の鉄槌を追撃と食らえど、けろりとしていた。血も流さぬ、機械の体。
(「あの人と同じで……違う、わね」)
 コマキは無意識に――小鳥のシルバーネックレスに触れていた。腰に輝く壜のひとつに眠る辰砂の薔薇が、目覚め、鋼の粒子を振りまく。
 胸の内に何を抱えていようとも、地球を、人々を、守らねばならない。
 ミレッタが抱えた骨の色にも似たハンマーは、今は銃砲を敵へと突きつけ。
 刹那に放たれた竜砲弾は、唸りながら敵を捉えて、爆ぜる。
「さて。ここはひとつ、うさぎらしく全力で跳ね回ってみせましょうか……ダモクレスにも、地球の人にも、かっこ悪い姿は見せたくないものね」
 そう、射に乱れた髪を軽く抑えながら、ふんわりと笑う。
 曾ての己が焦がれたように。今も誰かが、月を見ている――ならば。凜々しく戦おう。

●二番手
 国喰鴉の改造銃が放った光線は幾重にも拡散し、皆を苛んだが――重ね合わせた守りの力と、何より道弘の治療術が、その特性を上回った。
「倒れるにはまだ早ぇぞ――喝!」
 気迫を乗せた一喝から波状と広がる鼓舞で、皆を蝕む呪を祓う。
 久々の立ち回りに肩が凝ると、腕や首を捻り、預かり物のリングを一瞥する。
「心配性な元教え子に、いい知らせをやらねぇとな」
 半ば惘れたように零しながら、道弘は口の端に笑みを刻み、次へと備える。
 だが、もう勝負は決していた。
 四肢も躰も、全身に亀裂を走らせた敵は、然れど膝もつかず巨大な銃を構えていたが。
 ミレッタの垂直と落ちる蹴撃で痛打を与えると、即座にティアンのナイフが亀裂を無慈悲に抉る。
 其が何とか指だけ動かし放った最後の一射を潜り抜け、跳躍したカルナが繰り出した音速を超える拳が胸を穿ち――国喰鴉は砕け散る。
「気をつけて、次がすぐ来るよ!」
 ミレッタが警句を発する。
 刹那――空間の歪みより、黒髪のダモクレスが姿を現す。
 目の前に陣するケルベロス、その近くの鋼の残骸を見て状況を察したそれは、不敵に笑う。
「ほう、あれは敗れたか。面白い――いくぞ、雷切」
 愛刀の名を告げた時、剣聖機『シャドー』は既に鯉口を切っていた。
 目にも止まらぬ一閃、後、凄まじい剣風が吹き荒れる。
 だが、その刀身を――後ろまで届かせまいと、キソラがバールで受けていた。
 守護の力を重ねて尚、痺れるような衝撃と、皮膚が爆ぜそうな威力に、血潮が霧と流れゆく。彼は敢えて笑う。揺らがぬ炎の右手と武器で、相手の動きを阻んだ儘。
「――縫え」
 彼の頭上に靡く彩雲が、虹色を帯びた鋭利な光雨をシャドーへ注ぐ。
 傷つきながら、治癒よりも先に、一手を仕掛けたキソラへ。
「無理しやがって! じっとしてな――すぐ治す!」
 道弘が新たな光の盾を作り上げる。その動きを視界の端におき、シャドーを冷ややかな眼差しで捉えたティアンが礫を放つ。友を傷つけた者への、応報だ。
 注ぐ攻撃を、剣を薙ぎつ駆け出す敵を、藤尾の振り落とす一閃が出迎える。垂直に鋼をも叩き割る鋭い一撃へ、シャドーは脚を止め、身を屈める。肩に食らった斧の一撃の衝撃を地に逃がし、進路を瞬時に探る。
 その視界に、牙を剥くドラゴンの幻影が過る。
 機兵は力任せに跳ぶが――カルナの放った焔に腕を焼かれ、脚に銀鎖が巻き付いた。
 コマキが淡く血の透ける瞳を細め、成果を誇る。
「逃がさないわ」
 更に、ミレッタが既に宙に舞い――流星が如く飛来し、重力をシャドーの腰へと蹴り込む。
 間髪を入れず――雷の霊力を帯びた一矢が、肩に刺さる。掴もうにも、ラーヴァが射った、機械仕掛けの脚付き弓から放たれた光線矢であれば、残るは焦げた痕のみ。
「敵の邪魔はたのしい」
 笑いを含む声音に合わせ、ゆるりと燻る炎を見て、シャドーは「ああ、愉しいな」と不敵に笑んだ。

 恐らくは、この陣において最も武力を誇るのがシャドーなのだろう。戦う為の準備が整っていた事もあるが、次の敵が来る前にと頭から猛攻撃を仕掛けて尚、このダモクレスは頑強に振る舞う。
 其の刀が唸れば、血は必ず流れる。
 此方の治療が追いつかぬことはなかったが、シャドーもまた追い込まれただけ奮う気質のようである――。
「我が最後の戦いを彩るに相応しい――!」
 ひとり高笑しながら、シャドーはケルベロス達の中央で躍る。
 それぞれに剣風を躱しながら、攻撃の糸口を作る鏑矢は赫と燃えていた。
「我が名は熱源。余所見をしてはなりませんよ」
 天高く、ラーヴァが矢を射れば、炎の滝が注ぐ。
 シャドーは臆さず突き進むが――疵より浸食し身を蝕む呪を食らい膨らんだ炎に裡から焼かれ――急に膝から落ちるように、均衡を崩した。
 本人も僅かに驚愕したようだが、死が迫ると悟るや、其は更に殺気を噴き出した。
「あと一息だ!」
 耐えろ、と道弘の一喝は喧々とした戦場によく届く。壁を蹴ったカルナは、所持するアラームが輝いたのに、気付く。
「まもなく次が来ます! 決着を!」
 何せ三番手は、癒手である。合流されては厄介だ。
 軌道を読まれぬよう彼は天井を蹴り、落下しながら振り抜けば、カルナの槌はシャドーの肩を砕いた。
 そこへオウガメタルを纏ったミレッタが、距離を詰め、短い気合いとともに、鋼に包まれた拳を振るい、刀を握らぬ左腕を叩き壊す。
 隻腕と追い込まれたシャドーは力任せに、二人を退け前へと跳ぶ。決死の一刀でせめて一人は道連れに、という気概か。
 応じるは、キソラ――先と同じく、バールを構え。
「同じ手は食わないってネ」
 隻腕で振るおうが、相変わらず、重い――がキソラは受けきる。思い切り薙ぐや、垂直にバールの殴打を、叩き込むと。
「元より、二度は許さない」
 敵を詰るより、友を咎めるような言は、気のせいか。彼から落ちる影から放たれたティアンの鋭きナイフの一閃が、縦に、女の頬を裂く。
 二人が素早く、飛び退けば。
 空いた射線は――戦いで巻き上がった土埃で烟っていた。しかし、ぼんやりと白い輝きが浮かんでいる。
「さあさあ、ここにありますは一輪の鳳仙花。タネも仕掛けも……あるのよねー、これが!」
 その向こうには、巨大な白い鳳仙花を体に纏うように咲かせたコマキが、いた。
 美しく開いた花冠より、真っ白なエーテルの種が放たれる――月長石の弾丸に穿たれ、シャドーはのけぞる。防禦も出来ぬ儘、撃ち抜かれ、全身を戦慄かせている間に。
 花の香のように血の香を漂わせた藤尾が、槌を大ぶりに振り下ろした。
 其の刀を無情と砕きながら――槌は勢いを更に加速させ、機兵の額を打ち砕く。
「ご満足いただけたでしょうか?」
 藤尾が問う。形を失うように崩れていきながら、シャドーは残る片頬で、やはり笑った。
「ああ、好い戦いだった――悔いは無い……」

●三番手
 開戦、十六分を経て――全員、戦闘に問題なし。されど、それなりの疲弊を蓄積している。あと、一体。
「これは困りました。戦闘タイプの二人が既に討ち取られているとは」
 出現するなり、タイプ・トーマスは困惑を隠さず、電球頭の明滅させた。
「しかし充分削ってくれたようです。形勢逆転に向け、私も死力を尽くすとしましょう」
 言うなり、何かを投擲する。
 輝くは視界を奪い、床に雷撃を敷く閃光弾が爆ぜ、守りを削いだ。
 然れど――トーマスの優位は最初の数分のみであった。此方の体力が半分ほど削られての開戦ではあったが、すぐに守りを立て直したケルベロス達は、怒濤の攻撃で最後の機兵を追い詰める。
 元より戦闘に不向きのトーマスは、回復に徹しても意味の無い――時間を稼いでも、もう救援はない。
 割に合わないと肩を竦め、追い込まれたトーマスは問いかける。
「然し何故抵抗なさるのです。我らが神の言葉――ウィン・ウィンの提案だと思うのですがね」
 ダモクレスには、到底わかるまい――否、もっと簡単な話だと、藤尾は微笑む。
「有機生命を刈り、星の命脈を絶ち――それらを吸い尽くして永らえるのが生であり、宿業ですから」
 恨みはしない――ですけれど、と。彼女の双眸は妖しい輝きを帯びる。
「わたくしもこの青き星を。美しきものを、愉しきことを、可愛い人を――わたくしなりに愛しておりますの。望むのであれば奪いなさいな」
 譲って差し上げは、致しませんよ。
 生存のための闘争。オウガらしい武の言葉と、力強い跳躍と共に高々と掲げた斧で。音も裂く勢いで、振り下ろす。
 重い音がして、破片が舞う。その狭間。
「あなた達がそうであるように、私達も譲れない。それだけよ」
 金紗の髪を踊らせ、ミレッタは構える。
 同時に去来するのは、月が呪いを撒くなど、二度と――。
「その傷に、枯れない花を。芽吹き、燃え盛るが如く花開け。」
 武器に籠めたる呪を、敵へと解き放つ。男の躰へ、傷ひとつを苗床に貪欲に天を乞う花が咲く。焔華凍月という名の、癒やしの力を阻害する、呪い。
 膝を突いた敵を前に――今は沈黙を続ける古代機械群を見遣り、ティアンは僅かに目を伏せる。
(「……この遺跡は、いつか地球の人が使う事を、待ってた? ……夢見過ぎかな」)
 都合のいい解釈でも、なんでも。
「やはり――これをお前達に与えるわけには、いかない」
 ティアンの胸より溢れるは、分け貰った炎。混ざり合った黝い命。業火の海は滔滔と広がり、トーマスを絡め取る。
 翡翠の尾を揺らして、宙に舞ったカルナは、深く頷く。
「僕は今の地球が好きですから、マキナクロス化なんてお断りです――咲き誇れ、氷晶の華よ」
 トーマスを、周辺の時間ごと凍結し、咲いた氷華が怜悧に輝く。
 炎と氷と花と、破壊された躰を蝕むすべてに縛られた其へ。超硬化した爪で、道弘も直接、躍りかかる。
「どんなに正しかろうが――そいつは俺達の神じゃねえ」
 なすすべも無く、次の焼夷弾を握る腕を爪撃に斬り裂かれ、だらりと下がる。然れど、男は手前へとそれを投げつけた。せめてもの意地であろう。
 お互いの境界を示すように炎が広がっていく。
 陽炎の揺らめきを前に、コマキはそっと囁く。
「お互いの正解が違うんじゃ、仕方ないわね……悲しいけど」
 決戦を、もう覆すことは叶わない。ならば全力で挑む――コマキの新緑の髪に、新たと咲いた眩き白花が、揺れていた。
 鳳仙花より放たれた純白の種子は、トーマスの胸を続けて穿つ。
 ――ままなンないね、とキソラは空色の双眸を細め、嘯き。
「でも。そろそろ、ケリ、つけよか」
 キソラの言と眼差しは、この勝負と――その先に待つ決戦に向いている。
 トーマスの側面へと回り込んでいた無骨なバールの一撃は、機械仕掛けの躰の半分、傷だらけのそれを叩き壊す。
 全身に稲光を纏わせ乍ら、機兵は絶体絶命に低く笑う。もう反撃の手はないと自嘲する、その眼前に。
 物騒な巨大弓より、一矢を引き絞るラーヴァが、酷い状態だねと労るように囁く。
「宇宙規模の機械なんてのも面白そうではありますが、地球を渡すわけにはいきませんね――お引き取り願いましょう」
 ひゅっ、と、空気を斬り裂く鋼の矢は炎を纏い。トーマスの頭部をあっさりと砕いた。
 破片が塵と燃えゆくを、見届けながら。
「なに、すぐに会えますよ。……地獄でね」

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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