●決戦へ
先に行われた投票の結果。
ケルベロスたちは、アダム・カドモン率いるダモクレスとの決戦に臨むこととなった。
「事此処に至って他に道は無し。これを最後の戦いにすべく、全力を尽くしましょう」
ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は引き締まった表情で告げると、戦いに挑むケルベロスたちの姿をゆっくりと見回してから、再び口を開く。
「アダム・カドモンが座乗する惑星級星戦型ダモクレス“惑星マキナクロス”は、亜光速で太陽系に侵攻し、各惑星の機械化を始めたわ」
敵軍の狙いは『機械化惑星を制御して“グランドクロス”を発生』させること。
「グランドクロスは、謂わば『季節の魔法』の宇宙版。その魔力で『暗夜の宝石』である『月』を再起動させて、地球を一瞬でマキナクロス化するつもりなのよ」
既に火星の機械化まで完了させた敵軍は、続けて金星方面への進出を図っている。
その道中――地球周回軌道上にて、宇宙戦用の改修強化を行った“星戦型ダモクレス”で構成される『暗夜の宝石制圧部隊』を月へ向かわせるようだ。
「これを迎撃すべく、皆は万能戦艦ケルベロスブレイドで月遺跡へと急行。魔空回廊を用いて遺跡内部へと転移してくる敵を撃破し、遺跡を防衛しなければならないわ」
万が一にも、遺跡の制圧を許せば――。
先で待つ未来は、アダム・カドモンが望むものになるだろう。
●詳細
聖王女エロヒムの助力もあり、既にダモクレス軍の侵攻地点は予知されている。
其処へ先回りして、魔空回廊から転移してくる星戦型ダモクレスを迎撃するのだ。
「防衛地点一つにつき、投入されるダモクレスは3体。最初の1体の出現から8分後に2体目、さらに8分後に3体目が到着するわ」
つまり、素早く敵を倒していけば各個撃破が可能であるが――手間取れば、強力なダモクレス3体をまとめて相手にしなければならない、という状況もあり得る。
「迎撃が難しくなってしまった場合は『遺跡を破壊して撤退』する事も視野に入れる必要があるわね。もちろん、出来れば避けたい方法ではあるけれど……」
地球マキナクロス化を防ぐ為であれば、やむを得ない場合もあるだろう。
「必要に迫られた時、最後の手段としてそのカードを切るか否か。判断は皆に任せるわ」
ケルベロスの決断であれば、其処に異存はない。
ミィルは信頼に満ちた眼差しを手帳へと落として、さらに説明を続ける。
まずは戦場について。
「月遺跡内部は、かつて『月面ビルシャナ大菩薩決戦』でも戦場となった場所ね」
当時はマスタービーストの改造によって邪悪で禍々しい神殿のような雰囲気を漂わせていたが、暗夜の宝石の姿を取り戻した今では以前と真逆の荘厳さに満ちているという。
また、そこかしこにエネルギーの枯渇によって動作が停止した不可思議な古代機械があるようだ。防衛不可能と判断した場合は、この機械を破壊して撤退する事となる。
それから、敵部隊について。
一番手、先鋒を務めるのは『エアーツ』なるダモクレス。
全身を黒い甲冑のような装備で覆い、剣一本で接近戦での斬り合いから距離をとっての撃ち合いまで、遠近問わずに戦いをこなすが――彼の真の力、最たる武器は“機動力”である。
恐らくは、その疾さでもって攻勢を凌ぎ、同胞の到着まで時を稼ごうとするだろう。
続く二番手は『アルマ』だ。
両手甲に両刃を備えた彼女は圧倒的な攻撃性能を持ち、多少の妨害など物ともせずに嵐の如き猛襲を仕掛けてくる。生半可な守りは、忽ち突き破られてしまうはずだ。
然しながら一つ、欠点とも言うべきか。彼女は“レプリカントを優先して攻撃する傾向”があるらしい。無論、それが手の届く範囲に居れば、の話ではあるが。
そして、三番手。
最後に現れる『ディクマ』は、ダモクレスが収集していたケルベロスの戦闘データを惜しみなく注ぎ、改良したという高性能機。只々、純粋な強敵として立ちはだかるだろう。
また同系統機であるエアーツやアルマが生存していた場合は、彼女の指揮によって連携能力が向上してしまうであろうという事も、頭の片隅に留めておくべきか。
●いざ征かん
「戦いは遺跡内部で行われる為、ケルベロスブレイドからの援護は受けられないわ」
それでも――と、語り部は顔を上げて言葉を継ぐ。
「あらゆる困難を打ち破ってきた皆だもの。この戦いも、必ず乗り越えられるはず」
譲れぬものがあると、剣掲げたその手で。
勝利を。望むべき未来を。掴み取るのだ。
参加者 | |
---|---|
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547) |
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701) |
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308) |
霧島・絶奈(暗き獣・e04612) |
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813) |
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388) |
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432) |
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027) |
●
思えば遠くへ来たものだ――と、郷愁じみた想いに駆られるには未だ早くとも。
地球を、大地を離れて臨む戦ともなれば、追憶から吐息など漏らすのも已む無し。
「……うむ」
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)は唸り、歩みを止める。
長きに亘る闘い。その終着点であろう決戦の序章。
予知された戦場はまさに今、己が踏みしめる月遺跡の一角。
「これが、闇夜の宝石の本来の姿なのか……」
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)が呟きながら辺りを見回せば、両の眼に映るは不可思議な機械群。
それらが醸し出す荘厳な雰囲気は思わず息を呑むほどだが、しかし古の遺産を只々眺める為だけに来たのでない事は、誰しも理解するところ。
「これを、決してダモクレスには譲らせまい!」
「がんばるぞー! おー!」
拳握るフィストの傍ら、平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)も幼児のように腕振り上げて意気込めば――直後、ケルベロスたちの前に開いたのは宇宙すら渡る虚の道。
「来よったか!」
月だの星だのグランドクロスだの、種々様々な言葉で形作られた眉間の皺を吹き飛ばすように笑って、服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)が全身に力を込めながら吼えた。
「因縁一切の落着を戦って着けようという意やよし!! いざ尋常に、勝負ッ!!」
為すべきは一つ。無明丸は床を砕かんばかりに蹴りつけて駆け出す。一歩、二歩。仲間たちにすら追随を許さぬ程の疾さで間合いを詰めて、腕を、拳を、高々と翳すようにして。
「ぬぁあああああああーーーっ!!」
さらなる咆哮と共に打ち抜く一撃は――手応え得られぬまま、空を裂いた。
拳から溢れる眩い光が機兵の黒鎧を照らす。けれど、脅威を僅かな身動ぎで避けたダモクレス“エアーツ”は慄きも嘲笑いもせず、勢い余った無明丸が過ぎるのを静かに見送るだけ。
「随分と余裕だね。……でも」
何時まで兜の下に澄まし顔を保っていられるか。
唇を舌先で僅か拭って微笑むプラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)が写し身の如き氷騎士を喚べば、コクマもジェットパック・デバイス噴かせて突撃。
それに続いて攻め掛かるウイングキャット二匹は、霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)の“エクレア”と、フィストの“テラ”。更にはテレビウムが凶器片手に猛然と走り、その主たる霧島・絶奈(暗き獣・e04612)も従者の行く先に在る敵へと轟竜砲で狙い定める。
掛ける言葉などない。互いが望む未来の為に死力を尽くすだけ。
ただそれだけだからこそ――牙剥く番犬の群れを前にして、機兵も揺るがない。
氷騎士の刺突を半身で躱し、コクマの魔剣に刃を合わせて往なす。交差するように迫った翼猫の光輪と爪撃の隙間を潜り抜けて凶器には片脚を見舞い、直後眼前まで来ていた砲弾に刃を一閃。
「あやや……」
真っ二つに裂けた弾が彼方で爆ぜるのを見やり、己に光の蝶を纏わせていた和が愕然とした声を漏らす。
デバイスの力を借りた一撃をも退けるとは。星戦型ダモクレス、大仰な肩書も伊達では無いというべきか。
「とはいえ、負けられませんわっ。……マキナさまっ」
うさぎのマスコットが付いた妖精弓を引き絞って、ちさが射ち放つ矢は癒やしと祝福が形作るもの。
だが、受けたマキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)は悲哀の滲む顔で胸に手を添える。全身貫いた温かさでも拭えぬ痛みは、己とダモクレスを分かつ決定的な差異。
(「……為ればこそ、伝えましょう。私の全てを込めて」)
足元から青光の粒が昇り、マキナの視界にターゲットスコープが浮かぶ。
もはや彼らと往く道を交える事は叶わず。交わるは唯一つ、兵刃のみ。
振るう力に何を添えても、彼らには響かぬだろうが、それでも。
それが、せめてもの。
●
想いを乗せた砲弾が黒鎧の機兵へと迫る。
然しもの星戦型ダモクレスも、全てから逃れられはしない。接触と同時に起きた竜の息吹のような爆発がエアーツの姿を一時覆い隠して、その間に癒やしの光盾を作ったフィストは、それをテレビウムへと張り付けた。
すぐさま感謝を露わにした従者はまだ余力充分だが、しかし。
(「悠長に構えてはいられませんね」)
第二、第三の矢が戦場へと届く前にエアーツを屠らなければ。
テレビウムから敵へと目を移した絶奈が鎖を伸ばす。爆煙から飛び出した黒鎧の片脚を絡め取って力いっぱい引けば、すかさずコクマが巨大化した剣を横薙ぎに振るう。
直撃は免れない――と、誰もが確信したところで響く微かな金属音。
刹那、断ち切られた黒鎖だけを青白い水晶の刃が撫でていく。
「ええい、ちょこまかと……!」
歯噛みして視線を走らせるコクマ。求めた敵は遠間から黒い剣閃を放つ。
その射線上へと果敢に割り込むのは、ピンク色の髪靡かせるサキュバス。
「私が皆様をお守りいたしますわっ」
士気を保つべく声上げて構えれば、柔肌を裂く痛みにちさの世界が揺れる。
だが、屈する程ではない。踏みとどまって桃色の霧で自身を癒やせば、主の元に駆けつけたエクレアも苦痛を和らげようと羽ばたいて。
癒やしの風を浴びる最中――それは無情にも過ぎゆく時を報せてきた。
ケルベロスたちが各々忍ばせるタイマーの震動。敵方次鋒の到着は間もなくだ。
ならば、全員で一気呵成に攻め掛かってエアーツを圧し潰すべきか。
(「……けれど、この手応えでは……」)
マキナは総攻撃を躊躇う。押し切れると思えないのは、ケルベロスたちの攻撃が少なからず徒労に終わっていたからだろう。
エアーツの機動力も衰えてきてはいるが、しかしそうなるまでには少々時間を要した。
初撃からより精密な攻撃を可能とする備えがあれば――などとは、考えても詮無い事。
(「とにかく、無理に攻めるべきではないわね」)
(「うむ。仕方あるまいな」)
マキナが目で訴えれば、小さく頷いたコクマが仲間たちに手で合図を送る。
とはいえ、あくまで攻勢を強めないというだけ。為すべきは何一つ変わらない。
「後が閊えてるから早くいっちゃってほしいな」
プランがダモクレスには理解し難い妖しさで囁き、超高速振動する刃で斬りつければ。
「ふりかぶってー……かっきーん!」
和の大振りなエクスカリバールも辛うじて敵を捉え、黒鎧に傷をつける。
反攻には再びちさが盾となり、その傷をフィストが癒やす傍ら、残るケルベロスたちがまた攻め掛かっていく。
そして。
やはり得られていた感触に間違いはなく、未だ健在の黒鎧越しに再び歪みが起こる。
一機でも強敵と呼ぶべき相手。合流されるのは避けたかったところだが、しかし。
「私達は全力を以ってこの機械を守り通す。我らがドラゴニアンの十二創神『大勇者』、並びに誇り高きヴァイキングの末裔の名に懸けて叫ぶ。来い!!」
臆せず声を張り上げるフィスト。
その見据える先から姿を現す――第二の機兵。
「……アルマ」
ぽつり、と。思わず零すマキナ。
けれども、新たに降り立った浅黒い肌の女は一瞥くれただけで。
程なく戦場一帯を見回すと、ケルベロスたち全員に謗るような眼差しを向けた。
殊更険しい、その視線の理由は凡そ察しがつく。
「へっへーん、とどかないもんねー」
デバイスのビーム牽引で飛翔する和が、自前のブースターから粒子を放出しつつ嘲るように言い放つ。
予知によれば、アルマは尋常ならざる攻撃性能を有しているらしいが……その力を発揮できる範囲は狭く、飛び回っていれば容易く逃れられるはず。
「皆様、慌てる必要はありませんわっ」
如何に恐ろしい刃でも、届かぬなら脅威に非ず。
それでも万が一があるならば、身を粉にして防いでみせよう。宙に在っても盾の構えを崩さないちさに、同じ役目を担うテレビウムとテラも負けじと勇猛な姿勢を覗かせて――。
刹那、紅の嵐が翼猫を蹂躙した。
「……っ!」
主、フィストが咄嗟に治癒を施そうとするも時既に遅し。無残に切り裂かれたテラは形を失い、ケルベロスたちの間に緊張が走る。
エアーツ相手に幾らか働いていたとはいえ。従者ゆえの脆さもあるとはいえ。
(「一撃、ですか」)
絶奈は淡々と現状を把握する。これではテレビウムにも粘りは期待できまいが、デバイスを装着できない(つまり直接牽引できない)サーヴァントを今更抱えて飛ぶ意味は薄い。
況して地上の最前に立つ供を討ち果たしたところで、アルマには置物と化す以外の道などない。
(「ならば……」)
絶奈はテレビウムを一瞥した後、黒鎧へと狙い定める。
ともすれば非情な判断と映るかもしれないが、しかし。
死力を尽くすとは、そういう事だ。
八つ裂きとなって散るテレビウムを横目に、凶的な笑みを浮かべた絶奈が光槍のような巨大物体をエアーツへと打ち込む。
幾度の攻撃で足の鈍った今ならば正中を穿つのも容易い。輝きに飲み込まれた後、再び姿を見せた機兵の命はもはや風前の灯火。
「先陣切る覚悟や見事であった!」
一番槍を担う気概に敬意を表しつつ、無明丸が繰り出すのは全身全霊を捧げた一発。
挨拶代わりの初撃こそ躱されたが、今ならば。
「いざと覚悟し往生せい! ぬぅあああああああーーーッッ!!」
遺跡中に響き渡るかという程の雄叫び。
輝く拳が、今度こそ機兵を貫いた。
●
赤い眼が光を失い、頑健な身体が倒れて“がしゃり”と音を立てる。
幾分か手間取ったが、それでも機兵の先鋒は討ち果たした。
「わはははっ! 次じゃ次ぃ!」
意気揚々と宣う無明丸。
一方、マキナは屑鉄と化した黒鎧から目を切って、アルマを見据える。
為す術なく佇む最中、それでも深紅の覇気じみたものを溢れさせながら反攻の機を伺う彼女を如何に思うべきか――と、感傷に身を委ねている暇はない。
時間だけは平等に過ぎていく。最後の一機が現れるまでの、この絶対的な優勢を浪費してはならないのだ。
コクマと視線を交え、手を振って仲間に総攻撃の合図を送る。
倒し切れるか、ではなく。倒し切るのだと気を入れ直せば。
其処から始まって暫し続いた一方的な戦いに、機兵は耐える他なく。
故に。
己を癒やしながら耐え忍ぶしかなかったが為に。
深紅は辛うじて生き延び、ケルベロスでなく時間を食い潰した。
三度、歪んだ空間からダモクレスが来る。
最後にして最優の一機。ディクマと名付けられたそれは現れるや否や、生き残っていた同胞へと一言だけ告げた。即ち、今暫く耐えろ、と。
指揮とは到底呼べない指示だが、それ以外に授けられるものはない。如何にディクマが優秀であろうと、ただそれだけでアルマの刃に無限の間合いを持たせられるはずはないのだから。
しかし幾らかの時間さえあれば。その双刃に意味を与える事は出来る。
ケルベロスたちに跳梁を許す元凶。ジェットパック・デバイスを身に着けた二人さえ落とせば。
解き放たれた紅の狂飆が、忽ち全てを鏖殺するだろう。
「手始めに貴様からだ――!」
吼えるディクマの携えた双剣が煌々と輝く。
「させませんわっ」
残る盾はちさだけ。己が覚悟に違えるところなしと身を擲てば、エアーツの一撃とは比べ物にならない熱と衝撃がうら若き乙女を喰らう。
その苦痛、絞り出すような悲鳴は素知らぬ顔で流せるものでない。癒し手のフィストが光盾を張るのは当然の事、マキナも青い粒子を生み出そうと構えて。
「……わ、私は大丈夫ですわっ」
気丈な台詞、確固たる意志を秘めた瞳がレプリカントを制す。
力を注ぐべきは此方ではないと。言外に語るちさの意を汲むのであれば。
「――アルマ」
呆然と呟くのでなく、決意を込めて名を呼ぶ。
それに終わりを齎すのは。嘗てに別れを告げるのは。
他の誰でもなく、心を得た己が。
マキナは無意識に胸元を掴んでいた手でカプセルを取り、照準に捉えた相手へと放る。
自身のこれまでを緩やかに辿るように、微かな軌跡を残したそれは程なく、砕けて。
その内に収めていたもので機兵を侵し、蝕み、そして――死を与えた。
●
かくして大勢は決した……と。
相手が取るに足らない雑輩であれば、そうも言いたくなるところ。
最後に残った者こそが一番の強敵であれば、気を緩められるはずもなく。
牽引ビームを解いたケルベロスたちは、ディクマを倒すべく力を振り絞る。
「まだまだ倒れませんわっ」
ちさは癒えない傷をあちこちに作りながらも“飲み物”をぐいと呷り、最後まで盾の務めを果たそうと立つ。その姿、正しく不撓不屈の決意をフィストは歌に変え、希望の光を生み出して仲間を癒す。
他方、かすり傷程度では萎えるはずもない闘志に突き動かされる無明丸が猪武者の如く斬り掛かれば、対照的な静けさを纏って粛々と戦う絶奈が意味のない笑みと共に竜砲弾を浴びせて。
「えーい! やー! とー! てややー!」
和も(掛け声はさておき)光の蝶によって幾らか精度を高めた殴打を繰り出す。
それらに耐え、反攻に出るディクマの力量は勿論侮りがたいものだが――無理せず焦らず、しかし簡単な工夫で三本の矢の一つを殆ど無力化したケルベロスたちを、ただ一機で突き崩すには至らない。
「全力で抗わせてもらうぞ! ここまで来て機械化なんぞ御免被る!」
コクマが巨剣に水晶の刃を纏わせながら吼えた。
そして――攻め掛かる前にちらりと、横目を使う。
其処に在ったのは女性らしい豊かさの象徴。
(「うむ。やはり硬く冷たい鋼などではなく、柔らかに揺れてこそ」)
戦の最中に何を思うか。などと余計な言葉を吐く余裕が誰にもなかったのは幸いであろうが、さておき。
得てして女性とは視線に敏感なものだ。最前で肩を並べて戦うプランは眼差しの向こう側すらも見抜き、けれども敢えて己を見せつけるようにしながら。或いは欲望を更に煽るかような艷やかな身のこなしで、ディクマへと迫って。
「壊れちゃうくらい気持ち良くしてあげるね」
囁き、機兵を己の空間に取り込んで弄ぶ。
時間にして僅か数秒。瞬くほどの間に起こった出来事は、外からでは窺い知れない。
しかし尋常ならざる何かであった事は確かだろう。毅然としていた機兵は解放されるや否や、腰砕けとなってへたり込む。
その機を逃さず、コクマが巨剣を打ち込めば――。
「――これまで、か」
機兵が紡いだ言葉は抑揚に欠けて冷たく、其処から何某かを汲み取るのは難しい。
それでも、と。僅かな台詞を胸中で反芻しながら近寄ったマキナは、朽ち果てる間際の相手を真正面から見据えて言う。
「私は……いいえ、私達は進み続けるわ。貴女を超えて」
ダモクレスからの返答は――ない。
不敵な笑みと共にマキナを見返す眼は濁り、もう二度と動く事はなかった。
作者:天枷由良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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