「ケルベロスのみなさんによる投票の結果、超神機アダム・カドモン率いるダモクレスとの決戦を行う事が決定致しました」
ヘリオン発着場へとケルベロス達を迎え入れたネイ・クレプシドラ(琅刻のヘリオライダー・en0316)がおそらくは最終決戦となるであろうダモクレスとの戦いの始まりを告げる。
「超神機アダム・カドモンが座上する惑星級星戦型ダモクレス『惑星マキナクロス』は亜光速で太陽系内へと侵攻し地球を除く全惑星の機械化を完了させようとしております。アダム・カドモンの最終的な狙いは『機械化惑星の運行を制御し、グランドクロスを発生させる』事に間違いないと私達の予知には導き出されております」
ヘリオライダーに曰く、『グランドクロス』とはすなわち宇宙版の『季節の魔法』であるという。
それらの実行によって膨大な『季節の魔力』が得られれば様々な大規模儀式が容易に可能となる点、他ならぬケルベロス達自身が『万能戦艦ケルベロスブレイド』建造などを通して深く識るところである。
「アダム・カドモンは『季節の魔力』によって月の……秘宝『暗夜の宝石』の再起動を行い、時間遡行すら可能としたその力で地球をマキナクロス化させようとしているのです」
既にダモクレス軍は『惑星マキナクロス』太陽系進軍による惑星機械化と並行し、魔空回廊を用いて月面遺跡の内部へ星戦型ダモクレスによって結成された『暗夜の宝石制圧部隊』を直接転移させ、その掌握を行おうとしているという。
もしも星戦型ダモクレスによって月が制圧されてしまえば、グランドクロスによる地球マキナクロス化は一瞬の内に完了し、決戦の勝利はもはや不可能となるだろう。
「壮大さに迅速さを併せたこの侵攻作戦……さすがは無限増殖機械軍の手並みと称讃すべきなのでしょうか。容赦無きこの苛烈さは、アダム・カドモンにとってケルベロスの皆さんが敬すべき、『剣』を賭すに足る敵となったという表れなのでしょうね……」
タイタニアの少女の唇から漏れた、淡い、溜息ひとつ。
地球以外の太陽系惑星の機械化を阻止する手段は現状において存在しない。
たとえ『万能戦艦ケルベロス』の最大速度をもってしても最も近い金星に辿り着くだけで数ヶ月を要する為、とても間に合わないのである。
「ですので、今なすべきは『暗夜の宝石』の死守。皆さんにはこれからすぐ『万能戦艦ケルベロスブレイド』で月遺跡へと急行し、防衛を行っていただきたいのです」
月遺跡とはかつて『月面ビルシャナ大菩薩決戦』時に戦場となった月の裏側の神殿じみた巨大遺構であり、人知れずマスター・ビーストの研究拠点となっていた場所である。
もっともかつてケルベロスが訪れた際と現在では様相が一変しており、神殿におそましき改造を施したマスター・ビーストが討伐されて以降は本来の荘厳さが取り戻され、各所に配された機械設備も枯渇状態のまま沈黙を保っているという。
「月遺跡制圧にあたって、星戦型ダモクレスの中でも今回は小型から中型で古代機械の操作が可能な、より人型に近い個体が派遣される事となります。ですが『暗夜の宝石』の制御を奪う為に彼らが向かうであろう地点は全て、聖王女エロヒムの協力によって予知がなされております」
各地点へと先回りしたケルベロスによって魔空回廊から転移してきた星戦型ダモクレスへの迎撃を行い、月遺跡を守り抜く事が今回の作戦の目的となるだろう。
1地点あたり投入される星戦型ダモクレスは計3体。しかし個々の強大さ故にか1体ずつ時間を掛けなければ転移が出来ないらしい。
つまり、最初の敵が到着してから2体目が出現するまでは8分かかり、更に8分後にようやく3体目が回廊から出現する事となる。
「各敵を素早く倒すことで各個撃破が可能となりますが、逆に、もしも手間取ってしまった場合は複数の星戦型クラスの強敵を同時に相手取らなければならなくなります。その場合、防衛地点の古代機械設備を全て破壊して撤退する決断も必要となるでしょう……」
もしも『暗夜の宝石』を万全の状態のままで防衛し抜く事が出来たならば、あるいは後々その力をよりよき未来の為に活用する道も望めるかもしれない。
しかし、今、最も優先されるべきは間近にと迫った地球マキナクロス化の阻止である。
ダモクレスに月掌握を許しグランドクロスが完成する最悪の事態を回避する為には使用断念もまた已む無しだろう。
黒揚羽のヘリオライダーは、次に、今ここに集ったケルベロス達が防衛を担当する地点への襲来が予知されている3体のダモクレスについての説明へと移る。
「いずれも同シリーズの姉妹機にあたり、地球の十二支……? というものをモチーフにしているようです。今回予知された個体は猿と犬と猪ですね」
同シリーズの別個体は過去にディザスター・キングの軍団の指揮官機の1体として虐殺を実行したデータが確認されているという。
「おそらくはその後に再編成され、決戦用に改めて強化・改修を施されたのでしょう……。それぞれが多彩な個性と個体戦闘力を備えた精鋭機揃いですが、最大の脅威は同シリーズ機同士の連携運用。そんな彼女達が魔空回廊によって逐次投入を余儀無くされる状況は不幸中の幸いと言わねばなりません」
『暗夜の宝石』の制御を司る機械施設の一つが存在する区画へと続く大扉を背に、進路を塞ぎ、8分刻みで到着する星戦型ダモクレス全3機の各個撃破を目指す防衛戦。
連携分断の思惑通りに事が運べてなお熾烈なものとなる事は避けられない。
「ですが信じております。みなさんならば、必ずや勝利すると。それでは、急ぎ月の裏側へと参りましょう。『ケルベロスブレイド』と共に……!」
参加者 | |
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稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734) |
戦場ヶ原・将(エンドカード・e00743) |
知井宮・信乃(特別保線係・e23899) |
草薙・ひかり(往年の絶対女帝は輝きを失わず・e34295) |
モニ・ブランデッド(おばあちゃんを尋ねて三千里・e47974) |
●
ヘリオライトよ、光を――。
祈りと同時、宇宙装備ヘリオンから放たれた輝きは決戦都市・東京の莫大なエネルギーをケルベロス達の身へと注いでゆく。
「これが、ヘリオンデバイスの超パワーアップ……!」
VRヘッドセットを連想させるゴーグルを装着した戦場ヶ原・将(エンドカード・e00743)の声が昂揚に上擦る。
モニ・ブランデッド(おばあちゃんを尋ねて三千里・e47974)もまたクラッシャーとしてのパワーをちっちゃな銀ぎつねの全身に漲らせ、月遺跡の入り口へ元気よく一番乗りだ。
「もうすぐ夏至なのよ。ほんものの季節の魔法がモニ達の味方をしてくれるはずなのよ」
どれほど遠く離れていようと魔法は……そして人々の想いはいつだってケルベロスと共に在るのだ。
プロレスになぞらえるのであればロイヤルランブルマッチといった所だろうか。
……などと、時間差入場の連戦という今回の珍しいシチュエーションに胸躍らせつつ。
「『魅せ』は置いといて実戦モード、速攻でいきますよ。プロレスラーは『実戦』でも強いんです!」
すっかりと荘厳な神殿のように変化した月遺跡内部へとリングインした星戦型ダモクレスの1機目、『猟犬機嬢』タチアナを迎え入れた初撃は稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)からの一閃。裂帛のハンマーエルボーから放たれた気咬弾だ。
『……ケルベロス、だと……?』
遺跡制圧の尖兵たるタチアナはまずは偵察をと考えていたのであろう。
背に担いだライフル銃を降ろす暇も与えられぬまま、鼻っ柱へ真紅の闘気迸る肘を喰らう羽目となった少女ダモクレス目掛けて流星の軌跡描いて将のキックが畳み掛ける。
(「大事なのは連携だ。いつものことだがこっちは個の戦闘力じゃ向こうに劣るからな」)
隙を突き……あるいは隙と呼べるチャンスをこじ開けて仲間にと繋げる。その細心あればきっとジャイアントキリングは成し遂げられると将は信じ、颯爽と挑む。
スターゲイザーの衝撃によろめくタチアナのさまを知井宮・信乃(特別保線係・e23899)の黒瞳が捉え、すかさず抜刀。
「『困難は分割して解決せよ』、まさにその言葉のとおり。星戦級を相手に5対1の三連戦は難題ですが、やらなきゃいけません!」
すらりと細いその両脚に装着されたメタリックレッドのブーツ型デバイスは旅団パワーを命中率上昇にと換えてくれている。
今繰り出すべきは雷刃突だと弾き出した自らの眼力を信じた少女の一太刀に草薙・ひかり(往年の絶対女帝は輝きを失わず・e34295)がすかさず強烈な張り手を重ねて。
そんな怒涛のラッシュの一方で。
迅速な立て直しを図ろうとする犬耳をじっと見つめたまま、モニの手は組み替えたパズルから光の蝶を飛び立たせた。
(「まずは命中重視。狙アップで備えるんだよ……」)
クラッシャーである彼女は遥か格上である強敵との闘いにも決して浮き足立つことなく、まずは定石を踏んでゆく。
『いずれにせよ、任務遂行の障害は、すべて排除する』
スナイパーコートを羽織り直し、銃を構えたタチアナ。クンと小さく鼻が鳴らされ、後衛列を掃射すべく銃口が向けられる。
だが狐狩りの銃弾は、全弾、しなやかなゼブラの跳躍によって阻まれた。
「全宇宙のプロレス女王としては、連戦も望むところだよ! 真っ向から受けて立ってあげましょう!」
負わされた射創すらも何するものぞと頼もしき鼓舞にと変えてゆく。
相手の技を見切り受け止めて魅せるひかりの本領は、ディフェンダーとしても高い適性を発揮している様だ。
『……耐性持ちは、避けるが無難か』
思いもよらず強烈な待ち伏せに遭いながらもダモクレス少女は冷静を保ち続ける。
まるで眼力ではなくその鼻で命中率を見分けているかのように犬耳少女は的確に嗅ぎわけ『セント・ハウンド』の誘導弾が将の片脚をクリティカルに射ち抜いた。
「将さん」
「気合い入れて、行くよ!」
ヒールは最低限であるべき短期決戦だが一方で3連戦の初戦、出し惜しんで貴重な戦力から脱落を出す訳にはいかない。
信乃の螺旋力とひかりの闘気が惜しみなく相次いで注がれ、片膝をつかされた青年はすぐさまエクスカリバールを強く握り締め、再び戦闘態勢に。
将や晴香によるBS狙撃はタチアナを弱体化させ、また着実にその体力を削りつつある。
数分の攻防を経た頃には深くダメージを蓄積させられたタチアナはヒールとそれに伴う防御力上昇で時間稼ぎに入らざるを得なくなっていた。
「もうすぐ次がくるんだよ」
事前にセットしていたアラームが7分経過を告げ、モニの片腕を覆う篭手から繰り出された爪撃が狙撃手の盾を打ち砕く。一気呵成の連携でトドメにと移るケルベロス達。
「『勝つことが本分にて候』、と言いますからね!」
赤き流星の煌めきは敵兵にとっては死を予感させる凶星。
戦国武将の言を諳んじて超特急と化した信乃の飛び蹴りに吹き飛ばされたタチアナへ、
「願いと祈りを心に宿し! 未来の扉を今開け! ……ライズアップ!!」
将が掲げた札は――夜空を駆ける眩き竜星『イルミナルセイバー・ドラゴン』!
TCGバトラーからのダイレクトアタックが『猟犬機嬢』のライフをゼロとして不死の命を完全撃破する。
『……せめても……データ……』
ライフル銃を取り落とし、ガクリとその場へ糸の切れた人形のように倒れ伏すダモクレスのさまを看取ったのは新たなダモクレス。
『偵察兵の本分、よくぞ果たしましたタチアナ。 ……装置はあの大扉の向こうですね』
ちりんと金の鈴揺らし。
ややアーミー色を覗かせたタチアナから一転、入れ替わるように現れた二番手『妖猿機嬢』紅鈴(ホンリン)の出で立ちは名前の響きが示すままのチャイナ風。
カードをデッキにと戻しながら、将は猿耳少女へ不敵に笑いかける。
「息つくヒマすらナシか。ブランク明けにゃあキツいマッチングだが……やってやろうじゃねーか!」
●
戦力的不利を撥ね返すべく練られた攻防癒全てにおけるギリギリの効率化と、不足を埋め合わせる不屈の覚悟。
5名の選んだ方針は、一言で云い表わせば退却など考えもしない前のめりであった。
「おねえさんは間に合わなかったのよ。というか、戦力の逐次投入なんてダモクレスは全然なってないのよ。随分甘く見られたものなのよ」
『確かに貴女の指摘通りです。聖王女という情報ソースを差し引いて尚、ケルベロス組織による派兵速度と規模は我々の予測を遥かに凌駕するものでした……』
短期決着を果たそうとぴこんと狐耳を立てて雪玉に似た魔法弾を放ったモニ。
しかし先を上回る回避力を誇る敵は僅か紙一重でその軌道を躱し、すぐさまカウンターの踏み込み。
『ですが、甘かろうが我々は強いのです』
少なくとも貴女たちよりはと幼女の強気を一笑に付して振り下ろされた双爪は、間一髪、跳躍したひかりのガードが受け止める。
「ありがとうひかりさん。さあ、こてんぱんにするのよ!」
「もちろん!」
厳冬の灯を想わせる幼女のにっこり笑顔に盛夏そのもののオーラを発した女帝がハツラツと応じる。
紅鈴戦突入後、殊更にモニの口数が多くなりキレ味も増しているのはおそらく彼女達前衛列の防具耐性が共に『双猴爪』と合致しているのを見越しての策なのだろう。
いや、単に天然かもしれないが。それはそれで結果オーライ。
しかし二戦目は先とは異なり、3体の中では長姉機にあたる紅鈴の軽快な立ち回りにやや手こずらされる形勢となった。
キュア手段を持つ格上のキャスター敵に対して将以外からは足止め攻撃が行われず、折角のダメージ増大攻勢もあまり功を奏しているとは言い難いのだ。
「ああもう、ちょろちょろと……よし、今度こそ捕まえた!」
『しまっ――』
晴香がようやく最初のバックドロップを決めた頃には2度目のアラーム音が鳴り響き……また1機、少女の顔をしたダモクレスが回廊から飛び込んで来た。
『ゆくぞ……どっかーん!』
どこか間抜けさすら漂うひどく平坦なその発声を合図に、前列全てをエンチャントもろとも吹き飛ばす猪パーカーの蹂躙が巻き起こる。
番外機を除けば『十二支姉妹』シリーズのラストにして三番手、『猛進機嬢』ジャネットの登場である。
『とにかく全部ぶっこわせばいーんだよな、姉』
『……よくはありません。我々の任務は暗夜の宝石の制御と確保です、ジャネット。 が、助かりました』
豪快にマットならぬ神殿遺跡の硬い床へと叩きつけられたばかりの紅鈴はほっと一息つきながら癒しの舞を自らに施す。
盾たるジャネットが突入の一番手に選ばれなかった点、ケルベロスにとっては幸運だったが、ダモクレス側も単独運用に難の有る彼女の気質を慮った上での事だったのだろう。
遂に同シリーズ2機に連携を許す形となったがケルベロス達だったが迎え撃つ誰一人として落胆する者は無く、撤退の可能性など彼女らには過ぎりもしなかった。
「事前の打ち合わせ通り、行くよ!」
ジャネットの脇をするりと摺り抜けたひかりは世界を制した剛腕をもって強引にアテナ・パニッシャーへと持ち込み、紅鈴は又もしたたか頭から叩きつけられる事となる。
そして、立ち上がるより早く追い撃たれのは信乃の螺旋掌。普段通りでは勝てないと、今回の彼女は斬霊剣士ではなく螺旋忍者の如き闘法を多用する。
「はい、そのまま2番手さん打倒に専念ですね」
トドメを意識して繰り出された掌底打ちは惜しくもジャネットの割り込みが間に合ってしまい、果たせず。
だが仰け反る程の衝撃と共に内部破壊を促されたジャネットは、以降のその猛進に重い枷を架される事となる。
短期決戦から一変、連携と連携のぶつかり合いとなった戦いは真っ先に盾を潰したいダモクレスと盾を避けてその後ろをまず潰したいケルベロスの思惑が交錯する事となる。
『なっ、まだ立ち上がってくるのかよ!?』
『……厚きこの守備を打ち砕ぬかぎり我々に勝利はないのでしょうね』
まずひかりを仕留める為にと星戦型2機がかりで列アンチヒールを絡めた集中砲火が続けられ――結果、紅鈴の回復は後回しにされており妹機に守られてなお姉機も既に傷深い。
「こうも挑戦者が引きも切らないなんて、私もまだまだ捨てたものじゃないわね……っ!」
今度こそと叩き伏せられた筈のその肉体が燦然たる笑みと共に幾度も立ち上がるさまは、まさに不滅たる女帝。
だが――限界を超えたその輝きさえもやがては燃え尽きて。
只管に凌駕とヒールを繰り返し、ケルベロス数名分にも匹敵するダメージを一身にと集め耐え続けたひかりだったが遂に巨星墜つ。
「ひかりさん!? 早く、彼女を後ろへ!!」
「……もう充分すぎるよ。後は、私達に任せて」
守りの要であったひかりと共に継戦という意味では攻癒補助で最も尽力する信乃からの指示に従い、晴香は見慣れたゼブラ柄を戦場外へとリングアウトさせる。
ひかりが粘ってくれた分だけ戦況はケルベロスへと好転しつつあった。
「ろう ろう もに りむがんと いるかるら なうぐりふ! ……機械でねじ曲げて無理やり起こすにせものの魔法なんかには! 負けないのよ!」
モニの呪文が、ぐにゃり、紅鈴の頭上にかつての邪気満ちる空間を一時甦らせて巨大な雪の結晶めいた『なにものか』を喚び寄せる。
『ひ……っ……ッ……』
術者曰く『雪の妖精さん』らしいが禍々しきひとつ眼が湛える深淵はそんな可愛らしいものではなく……申年の加護もない今、満身創痍の少女機は抗う術なくこてんぱんに圧潰されるしか無かった。
『姉っッ! ……どどどどん!』
単機残された最後の星戦型の猪突は激しさを増すばかり。
ひかりが倒れて程なくモニまでもが轢かれるようにして将の目の前で力尽き……。
(「ああ、クソ。足が震えてんな。 ……いや。ダメだだめだ」)
自分達に代わって猛攻を引き受け続けたあの守護女神はもう居ないのだという痛感。
ぶん殴られ、叩っ切られ――ああ、くそ。チクショウ、メチャクチャ苦しい。
だが、それでも。
(「……俺は負けない。俺は強い。 ……よし。戦える。怖くねえ」)
弱い己自身と戦いそしてねじ伏せる。
笑ってやろうじゃねーかと何ひとつ決して顔には出さぬまま。
「そうだ。これがバトルだ! いくぜ……俺のターンだ!」
恐れを知らぬスター選手、戦場ヶ原・将としてのコールは熱く高らかに。
「ディフェンダーにしてその破壊力。まるでどこかの誰かさんみたいね」
『あの恐るべき盾の女のことだったら光栄だぜ。お前たちとは強襲機として全力でぶつかりたかった気もするが……姉達のロストを無駄にするわけにはいかねーからな』
晴香も――おそらくはひかりもこの少女とガンガンやり合うクラッシャーマッチは望む処だったがその機会が訪れる事はもう無い。
ひかりが倒れて以降あえて大扉へと引き寄せるよう戦い始めた晴香によって、制圧すべき機械設備を損なうであろう『亥』の本領は完全に封じられていたのだから。
「プロレスラーは魅せる闘いがお仕事だけど……『それ以外』ができないわけじゃ、ないのよっ!」
しばしの力比べの様な組み合いの後。
ジャネットの必殺『ずっどーん!』を真正面から相殺した晴香がそのままがら空きの少女の体を抱え上げ、そして渾身の反り投げで大きく後ろへとと叩きつける!
死闘の最後を締め括ったのは“プロレスラー”稲垣・晴香必殺の正調式バックドロップ。
彼女の技とそれを繋げたケルベロス達の闘いに存在しない筈の『魂』魅せられながら、『猛進機嬢』の猪突は永遠に時を止めたのだった。
●
東京の『魔法』がケルベロス達の負った傷を急速回復し終える頃には三姉妹が使用した魔空回廊も完全に閉ざされていた。
最前列で闘い続けたひかりとモニのダメージは特に深く大きく……だがいずれも命に別状は無く数日の後に完全回復が望める範囲で、しかも防衛した機械施設はまったく無傷のままである。
劣勢を覆したケルベロス達による堂々たる完全勝利であり、大戦果であった。
そして、こう云わざるを得ない。
――5名の勝因は退却など考えもしない勇敢な前のめりにこそあった、と。
(「……おばあちゃん……どこにいるのかわからない、おばあちゃん……地球は絶対に守り抜くから……モニを見ててなのよ……」)
月遺跡での企みは阻止できたがこうしている今にも太陽系に機械化の波が押し寄せているなんてとんでもない話だし居ても立ってもいられない――けれども。
暴走さえ厭わぬ覚悟で闘い抜いた彼女は今、とてもとても眠いのだ。疲れちゃったのだ。
「むにゃ……だってモニは子供だから……仕方ないのよ……」
そうだねと優しく答えた仲間の背中で、ふるりと首を巡らせ、それっきり。
小さな銀狐は夢すら見ない昏い眠りへと沈み――来たる決戦の為の牙はすでに着々と研がれつつあったのだった。
作者:銀條彦 |
重傷:草薙・ひかり(往年の絶対女帝は輝きを失わず・e34295) モニ・ブランデッド(おばあちゃんを尋ねて三千里・e47974) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:5人
結果:成功!
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