●空に光りありて
「皆様、お集まり頂きありがとうございます。アダム・カドモンとの決戦の話、既に耳にされているかと思います」
レイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)はそう言って、集まったケルベロス達を見た。
「アダム・カドモンは惑星級星戦型ダモクレス「惑星マキナクロス」と共に、亜光速で太陽系に侵攻しているのが確認されています」
太陽系の惑星の機械化を開始しているのだ。
「アダム・カドモンの目的は、太陽系の惑星を機械化した上で、決戦のタイミングで『機械化した惑星の運行を制御し、グランドクロスを発生させる』事と予知されています」
どーんと火星まで到達して、地球を避けてぐるっと行く予定っぽいんです、とレイリは顔を上げる。
「ぐるっと太陽系全ての惑星を改造した上で、地球に向けて進軍して来ると予想されます。
それはもう見事に手間のかかる改造計画になっていますが——この行動には、意味があります」
ひとつ息を吸うと、レイリは告げる。
「グランドクロスは『季節の魔法』の宇宙版です。膨大な魔力が発生します」
季節の魔力を利用するための行動だ。
「アダム・カドモンは、この膨大な魔力を以て『暗夜の宝石である月』を再起動させ、地球のマキナクロス化を行おうとしています」
暗夜の宝石である『月』を使えば、地球のマキナクロス化は一瞬で完了することだろう。
「既に「惑星マキナクロス」は火星の機械化を終え、金星方面への移動しています」
だが、惑星の機械化と同時にダモクレス軍は「暗夜の宝石制圧部隊」を動かしているのだ。
「魔空回廊を通じて、月面の内部に直接、星戦型ダモクレスを転移させようとしています」
レイリは真っ直ぐにケルベロス達を見た。
「部隊の狙いは月の遺跡の掌握です。これを許す訳にはいきません」
月が制圧されてしまえば、グランドクロスによる地球のマキナクロス化を防ぐ事は不可能となるだろう。
「皆様には、万能戦艦ケルベロスブレイドで月遺跡に急行し、遺跡の防衛をお願い致します」
●彼岸は遠く
「では、作戦概要を説明しますね。
月の防衛については、聖王女エロヒム様のご協力によりダモクレスが狙うだろう地点を予知することが出来ました」
提供された情報により、暗夜の宝石の制御を司る複数の防衛地点は判明している。
「ばっちり先回りさせて頂きましょう」
微笑んで告げて、レイリはケルベロス達を見た。
「皆様には、魔空回廊を使って転移してくる星戦型ダモクレスを迎撃、月の遺跡を守り抜いて頂きます」
決して容易い事では無いだろう。だが、だからこそ迷わずに、信頼を込めてレイリは告げた。
「皆様であれば、成せるとそう、信じています」
敵は、魔空回廊を使って直接月の内部に転移してくるため、万能戦艦ケルベロスブレイドでの迎撃は出来ない。
「一つの地域につき、出現するダモクレスの戦力は合計三体です」
だが、一度に三体が出てくる訳では無い。
「最初のダモクレスが現れて8分後にもう一体、更に8分後にもう一体が魔空回廊から出現します」
素早く敵を撃破することができれば、各個撃破が可能だろう。だが、倒すのに手間取れば、複数の敵を同時に相手にしなければならない。
「勝利が難しい場合、遺跡を破壊し、撤退するという決断をする必要も出てくるかと思います」
暗夜の宝石の遺跡の破壊は出来れば避けたいが、地球のマキナクロス化を防ぐ為にはやむを得ない。この遺跡を——月を、利用されるわけにはいかないのだ。
「敵勢力は、プラネットフォースの三体です。地球マキナクロス化計画の為に自ら動き出したプラネットフォースのリーダー、ザ・ヴァルカンが、二体の機体を引き連れてきます」
青の機体を持つザ・ネプチューン、そして死神のデータを元に作られたという情報もあるザ・プルートだ。
「戦力についての情報も、お任せください。
先鋒はザ・ネプチューンです。防御力が高い機体となります。二本の槍を使い、水の竜巻を生み出します」
プラネットフォース9番目の機体。その性質から、ディフェンダーだろう。
「次に出現するのは、ザ・プルートです。武器には大鎌を使用し、プラネットフォースの回復に特化した回復手段も有しているようです」
その性質から、メディックだろう。だが、攻撃力も侮れはしない。
「最後に出現するのがプラネットフォースのリーダー・ザ・ヴァルカンです」
女性型のダモクレスだ。
毒や麻痺を扱い、重力を込めた一撃を操る。
「その性質から、ジャマーかと」
星戦型ダモクレスは、宇宙での戦闘用に改修強化されたダモクレスだ。決して、容易い相手では無い。
「回廊からの出現に、タイミング差はありますが、どう戦うかが重要になってくるかと思います」
そこまで話すと、レイリは端末を下ろし、ケルベロス達へと視線を向けた。
「長くなってしまって、すみません。皆様、最後まで聞いていただきありがとうございました」
決戦の地は、月だ。地球を背に戦うことになる。
月の遺跡をダモクレスに掌握されれば、グランドクロスを用いた宇宙規模の『季節の魔力』により、地球は瞬時にマキナクロス化してしまうだろう。
「これを阻止する為には、月の遺跡を守り抜かなければいけません」
敵は強敵が三体。戦場となるのは月面遺跡内部。
「この戦い、宇宙の未来を決める戦いになります。えぇ、大きく言えばそんな感じで、いつも通り——私たちの明日を、守り抜く戦いになります」
勝ちましょう、とレイリは告げた。
「この戦いを、最後の戦いとするために。では、行きましょう。皆様に幸運を」
参加者 | |
---|---|
幸・鳳琴(精霊翼の龍拳士・e00039) |
ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352) |
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414) |
新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664) |
シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695) |
ロイ・ベイロード(剣聖・e05377) |
ステラ・ハート(ニンファエア・e11757) |
アンジェリカ・ディマンシュ(ケルベロスブレイド命名者・e86610) |
●月面遺跡
そこは、荘厳な神殿の一角においてひどく静かな眠りについた場所であった。停止した不思議な機械のある区画が、ケルベロス達が守る場所であった。
(「プラネットフォース残党……出てきたか、よりにもよって、「海王星」と「冥王星」か……」)
長く聞くことの無かった名だ。情報にあったザ・ヴァルカンはリペアかとロイ・ベイロード(剣聖・e05377)は一つ息をついた。
「と、そろそろか」
空間の歪む気配に、水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)は息を吸う。幸い、戦いの邪魔になりそうなものも無い。
(「にしても、月を機械に、か。SF小説じゃ、時々見るが、本当にやるとはな」)
回廊が開くと同時にケルベロス達の目に見えたのは青き機体。
「確認。やはり障害となるか。ケルベロス」
低く響いた声と共にダモクレスは二本の槍をこちらに向けた。
「プラネットフォース・ザ・ネプチューン。貴殿等を葬り去る荒波となろう!」
告げる声と同時に、ネプチューンが踏み込んだ。床板が派手に割れると同時に戦場に生まれたのは水の竜巻だ。
「前に来るのじゃ……!」
警戒を告げたのはステラ・ハート(ニンファエア・e11757)だ。全てを飲み込むように走る力は目的の地までの道を作る為か。重く響いた足音は、だが、屈せずに立った娘の姿に止まる。
「守り切るか、貴殿」
「あぁ」
盾として前に出たローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)は真っ直ぐに一人目の敵を見据えた。
(「アダム・カドモンは私達を認めてくれた。その上で敬意を持って挑んでくる」)
だったら、とローレライは守護星座の陣を描く。紡ぐ癒やしは加護と共に。
(「だったら、私達も敬意を持って挑まないとね」)
シュテルネ、と呼んだ先、頷いたテレビウムがぴょん、と跳ねる。ガウン、と一発叩き込んだ一撃に重ねていくのは鬼人だ。
「斬らせてもらうぜ」
「ハ! この身を、砕くと!」
あぁ、と応じる代わりに、間合い深く鬼人は踏み込んだ。刃にかけるは空の霊力。詠唱はいらぬ――ただ、愛用の刀を信じるだけ。
「砕くさ」
キン、と抜き払いの一撃、声と共に行ったのは続く1人に気がついていたから。
「地球をマキナクロス化なんてさせはしないよっ!」
撃ち出されるのは竜の砲撃。竜砲弾を放ち、シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)は告げた。
「さて、守るための戦い、はじめよっかっ!」
「あぁ」
短く応じた青年が星座の剣に手を添える。指先、辿れば灯るは守護の光。
「守護術式、放て」
陣を描き、前衛へと回復と解除の力を新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)は届けた。
「さすがはアダム・カドモン。だが、我々とて負けるわけにはいかん」
「勿論なのじゃ」
笑顔で応えるとステラは光の盾をロイに紡ぐ。回復は今のところ十分、あの竜巻でついた氷も今は祓えている。
(「オラトリオの誇りにかけて、回復なら任されよ。最後までみんな立っていようぞ」)
守るべき明日の為、世界の為に。今、自分達も生きて――守るのだ。
「行きましょう」
告げる幸・鳳琴(精霊翼の龍拳士・e00039)の竜砲が、ゴォオ、と唸った。迫る一撃に、ネプチューンが脚を引く。だが、その巨体に影が落ちた。
「えぇ」
声は空より響く。流星の煌めきを纏い、アンジェリカ・ディマンシュ(ケルベロスブレイド命名者・e86610)の蹴りが――落ちる。ガウン、と重く。僅か揺れた身が迫る砲撃を躱そうと身を退いても――そこも、鳳琴の間合いだ。
(「敬意と共に私達に挑む超神機。私も武人として堂々と迎え撃ちましょう」)
地球を守る者として。
真っ直ぐに視線を向け、緩く拳を握って構えを取る。迷わず踏み込むロイを見たからだ。
「硬ぇが、切れねえわけじゃねぇ! 冥王星が出ると厄介になるから、さっさと何とかさせていただこう!」
この地を守り切る為に、その守りの全てを砕くまで。
●プラネットフォース
剣戟に氷が混じる。冷気の向こう、それでも弾けた火花と共にケルベロス達が駆けた。
「そこを退いて貰うぞ!」
「悪いが、退く気も負けるつもりも無い」
短く告げると同時に、恭平は黒き鎖を展開する。
「縛!」
言葉こそ、展開の証。
黒き鎖が青の機体を絡める。ぐ、とネプチューンの腕が軋む。散る火花に、迷わずローレライが続いた。
「全て浄化してあげる!」
番えるは七色の宝石で出来た矢。強く引き絞った先、炎剣の騎士の瞳は迷わず敵を――射貫く。ヒュン、と放たれる矢が浄化の光を帯びた。鋼を引き裂き、尚、届く力にネプチューンが身を揺らす。だが、それでもダモクレスは立っていた。
「必ず、落としますわ」
告げてアンジェリカは踵を鳴らす。展開するは音響魔方陣。組み立てるは魔剣。
「断罪の時来たれり、万魔とその軍勢を率いる悪徳の王を倒す為に我と誓約せし者よ……」
謳うようにアンジェリカは紡ぐ。柔く髪が揺れ、前へと出した指先に光が灯る。少女の求めに魔剣は斬閃となって敵へと向かった。一撃、受け止めるように槍を構える。ギィイ、と響く音は一瞬。だが――魔剣は槍を砕く。
「な……!」
「落とすと言いましたわ」
笑みと共にアンジェリカは告げる。血の滲む腕、痛みは今は置いて。誰もがその身に傷を受けていた。2体目が出てくるその前に倒しきる為に選んだ結果だ。でも、だからこそ――。
「守るのじゃ」
ステラは真っ直ぐに前を見る。敵の攻撃は比較的前衛に向いていた。まずは前から退けということか。
(「一人も欠けさせたくはないのじゃ」)
――それでも、誰ひとり、と思うから。己の全てで、回復を加護を紡ぐ。
「7分、もうすぐなのじゃ!」
「あぁ、迷う理由もないな」
強くロイが踏み込む。一族に伝わる剣技を以て、硬く軋む機体に踏み込む。
「今だ……!」
沈め、と敵に告げる代わりに、ロイは仲間に声を放つ。うん、と応じたシルが行く。
「止めるよ、ここで!」
デバイスによる飛翔でシルは滑空する。滑るように低く、一気に詰めた間合い。軽く、地に触れたつま先で一気に身を回す。
「上空からこのネプチューンを落とすか!」
ヒュン、と撃ち込んだシルの蹴りをネプチューンが受け止める。ギ、と軋む腕は――だが次の瞬間、弾けた。
「右が、ガラ空きですよ」
静かに告げた鳳琴の蹴りが届けば、青き機体の腕が砕けシルの蹴りが深く届く。視線ひとつ躱し、背を預け合った二人の一撃に、ぐらりと巨体が傾ぐ。
「見事也、ケルベロス。だが、これで終わりでは――……」
無いぞ、と紡ぐその声より先に、爆風がネプチューンを包んだ。白い光の中、消えた機体に一度目をやったステラが、時を告げる。
「来るのじゃ」
「あぁ、死神を模した10号機」
彼らを知るロイが知る限りを語る。その言葉に、キィ、と鈍い音を零しながら回廊から出現した2体目のダモクレスが嗤った。
「蹂躙開始ダ」
●死神の鎌
剣戟と火花を散らし、戦いは加速する。死神に似た姿を持つダモクレスは、癒やしの術を持つ機体であった。蹂躙を告げ、放たれる大鎌の一撃は癒やしを阻む。
「蝕み、刻み、蹂躙せよ。絶対の目的の為に」
「そうかよ」
砕かれた加護に鬼人が息を吐く。回復もそうだが――奴の場合、加護も砕いてくる。
「面倒な相手だな」
息を落とした恭平に鬼人は肩を竦めて頷く。首ひとつ動かして鈍く痛むのは、恭平も同じか。それでも誰一人、この場で落ちていないのは届く回復のお陰だ。間に合わなければ自前の用意もある。
「ま、後はもう一体が出てきそうってことだが……」
「ですが、一撃で倒すには向かないですね」
鳳琴の言葉に、二人が頷く。連戦、そして複数の敵を相手にする可能性は最初から分かっていた。だからこそ、その時の為の動きも決めていたのだ。
「邪魔しくぜ」
「お願いします」
短く告げた鬼人に鳳琴が静かに応じる。た、と地を蹴った娘が踏み込むのと同時に、ステラが声を上げた。
「もう、すぐじゃ」
ステラは顔を上げる。回復は届くように掛けられた制約は祓った。だが、あと一つ落としきれない。連戦だ。問題は回復不能のダメージ、その蓄積になってくる。
「刻限だ」
低く笑うようにプルートが告げた。次の瞬間、回廊が開く。足音が高く、響く。
「名乗りは必要かしら? ケルベロス。瞬きの間に全て終わるのよ」
緩く笑ったダモクレスに、ロイは剣を向けた。
「隠された星がこの戦いに出てきたわけか。なぁ、貴様か『太陽に隠された謎の星』ヴァルカン!」
「戦場で騒ぐ男は嫌われるよ、ベイロードの坊や」
妖艶な笑みを浮かべ、最後の襲撃者プラネットフォース・ザ・ヴァルカンがケルベロス達を見据えた。
「退きなさいケルベロス」
後は全て、我々に。
そう告げるヴァルカンのカードが妖しく光り――黒き光が戦場を蹂躙した。
「回復するのじゃ……!」
高らかにステラが告げる。癒やし手たる彼女を狙うようにヴァルカンが動いた。
「させない!」
踏み込んだのはシルだ。だが、その邪魔をするようにプルートが動く。大鎌の一撃が後衛を凪いだ。
「蹂躙する」
「いや、邪魔させてもらうぜ」
鬼人が告げる。踏み込むにはヴァルカンが邪魔だが、射線は遮れる。踏み込むのは――ローレライだ。
「全て――……」
引き絞った矢に、重ね合わせた恭平の一撃が走る。その熱を感じながら、アンジェリカは前へ――ヴァルカンへと踏み込んだ。
「取り除きますわ!」
「あら」
鋭い視線を向け、狙うは胸だ。鋼の鬼と化したアンジェリカの拳が、ヴァルカンに届く。一撃は浅いか。
「そのスカートで随分とお転婆なことね」
一撃を受け、欠けた身でヴァルカンは笑い、カードを掲げた。
「幻星の獣に引き裂かれなさい」
「――!」
虚空より姿を見せたのは、黒き雷光の獣達。咆吼と共に、迫る一撃にアンジェリカは唇を引き結んだ。ダメージはもう、蓄積している。連戦だ。ここまで来た以上――。
「アンジェリカ!」
「先の一撃、届いてましたわ」
属性が一つ確実に届いた事実を唇に乗せ、アンジェリカは真っ直ぐにヴァルカンを見据えた。
「ダイエットさせてあげましてよ」
不敵に笑い、展開した魔方陣と共にアンジェリカは一撃を受け止めた。切り裂く獣の爪に、戦闘不能になった少女を庇うようにステラが動いた。
「――かならず守るのじゃ」
悔しそうに呟き、アンジェリカを守るようにステラは立つ。あら、とヴァルカンは笑った。
「心配しなくて大丈夫よ、我々の計画は成就するのだから」
地球マキナクロス化計画。
だからこそプラネットフォースは応じたのだ。
「だから退いて頂戴」
「なら、我は貴殿を倒するまで」
燃え盛る剣を手にローレライはと告げた。騎士は身を低めて前に跳ぶ。一気に間合いを詰めるローレライに、ヴァルカンがカードを振り上げる。だが、その指先が空で止まる。
「凍てつきし刃よ、彼の者を両断せよ」
それは古代語と精霊魔法の複合詠唱。向けるは視線だけに。退魔士は黒曜石を核にして生成した氷の刃を、戦場に投射する。
「腕が……!」
鋼の腕を恭平の放つ刃が削いだ。深く、その核に届く程に凍り付いた腕にヴァルカンが身を後ろに飛ばす。取った間合い。だが、すぐに跳ねるように顔を上げた。
「騎士は……右かい!」
「――あぁ」
応じる声と、振り上げる剣が重なった。ガウン、とローレライの一撃が、庇うように腕を振り上げたヴァルカンとぶつかり合う。ギィイ、と火花が散り――だが、ジグザグと変じた刀身は鋼の身さえ引き裂く。
「全力で挑ませてもらう」
戦場は加速する。炎を纏い、雷光に穿たれながらもケルベロス達は動き続ける。足を止めること無く、その声を止めること無く。心を途切れさせることも無いままに。
「――お前の運命を極めるダイス目だぜ? よく味わいな」
ピン、と指先でサイコロを放つ。くるくると回るダイスの目と共に地獄の炎が灯れば、冷気に満ちた遺跡が、燃え盛る炎を見せる。
曰く極小の太陽のように。
「終わりだ」
「棄却する。その運命など……!」
身を退き、一撃躱すようにカードを展開したヴァルカンが――ひゅ、と息を飲んだ。
「な……」
カードが、燃えたのだ。
一瞬して炎に飲まれたのは「6」をダイスが刻んだから。避ける筈の力が失われたのは、制約だ。一瞬、ヴァルカンは脚を止める。それだけの時間があれば――充分だ。
「っく、ぁあ!」
ゴォオオ、と燃え盛る炎がヴァルカンを打った。間合い深く、届けたその場に立ったまま鬼人は声を上げる。掌に翳す炎に敵の目が向いている今だからこそ。
「ステラ!」
「勿論じゃ!」
オラトリオは祈る。その誇りにかけて。少女の願いにかけて。広げる量の手に呼応するように、ヒールドローン達が展開した。
●明日の為に、未来の為に
(「回復不能ダメージは蓄積されてるのじゃ。だから、今、必要なのは……」)
守ること。守り切ること。ステラは元気いっぱいに笑顔で告げた。
「支える為の盾なのじゃ。全力ヒールじゃよ!」
その回復と盾と共にケルベロス達は駆ける。
「なら砕くだけよ、ケルベロス!」
ヴァルカンが吼え、空を舞ったカードが空間を歪ませる。重力振動波が向かうのは後衛か。だが――。
「全てを守ろう」
落ちる力の前、立ちはだかったのはローレライだった。軋む痛みに、膝を付かせようとする力に、だが顔を上げる。
「それが、誓いだ」
頬を一筋、血が伝う。きつく握り直した剣が熱を持つ。言葉を以て告げたのは仲間の姿を見たから。
「六芒星に集いし精霊よ」
「龍に宿りし鳳凰よ」
シルと鳳琴だ。放つ光はシルから、舞い上がる鳳凰の翼は鳳琴から。共に己が最高の一撃を以て行く。
「我らが翼をひとつにして……」
「すべてを撃ち抜かん――!」
その背に、青き翼と赤き翼を。羽ばたきひとつ、手を前にしたシルと鳳琴の砲撃がヴァルカンに――届く。
「まだ、まだだ。必ず、地球マキナクロス化計画を……!」
「終わらせてやるよ」
静かに騎士は告げる。嘗てプラネットフォースと戦ってきたベイロード騎士団の一振りたる青年は己の全てを込めた剣を振り上げた。
「これがっ! 必殺の一撃だ!」
刃を袈裟懸けに振り下ろす。ギィイ、と火花が散り――だが一族に伝わる一撃が、その因果の全てを砕くように、届く。ザ・ヴァルカンの核まで。
「我らが敗れると……」
向ける腕は力を紡ぐ事は無いままに、プラネットフォース、最後の一人が崩れ落ちた。
静寂を取り戻せば、荒く吐く息が戦場に響く。戦闘不能になったアンジェリカもすぐに目を覚ますことだろう。
「――一手凌いだぞ。次はこちらの手番だな」
恭平はそう言って視線を上げる。
月も地球も守り切った。
(「無事終わったぜ」)
そっと鬼人はロザリオに手をあててそう祈った。
「行くか」
「――あぁ、帰ろう」
ロイが頷く。明日を、世界を守り切ったケルベロス達を祝福するように、柔らかな光が見送った。
作者:秋月諒 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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