シャイターン襲撃~焼尽邪曲

作者:門倉鐘

 東京都小金井市。自然公園や湧水で知られる緑豊かな都市である。いわゆるベッドタウンの一つでもあり、市内のほとんどを住宅地が占めている。
 この日、そんな平和な町に悪魔が襲来した。
 市の中心部南西寄りに、泉と樹林の美しい庭園がある。その静謐で美麗な空間に突如として亀裂が走った。魔空回廊である。
 開かれた魔空回廊から一人の巨漢が現れた。二振りの剣を提げた男は庭園に降り立つと、周囲を見回し邪悪で獰猛な笑みを浮かべた。
「ほう、美しい。大して期待していなかったが、存外地球も悪くはなさそうだ。実に蹂躙しがいがある。そうは思わないか、お前達」
 大男が振り返る。未だ開かれたままの魔空回廊から、次々とヴァルキュリアが姿を見せていた。その数、実に16体。
 しかし、彼女達はいずれも瞳から光を失い、まるで人形のように虚脱した有り様であった。
「反応無しか。イグニス殿下よりお借りした操り人形とはいえ、所詮はヴァルキュリア。面白みの無い奴らよ」
 大男は興を削がれたというように鼻を鳴らし、ヴァルキュリアへ冷徹な視線を向ける。その目は澱み、濁りきっていた。
「まあいいだろう。これから楽しくなるのだから。さあお前達、存分に殺戮して来るがいい。俺に生命の悲鳴を聴かせてくれ。この美しい世界を破壊し尽くせ! イグニス殿下の、地球侵攻の前祝いだ!」
 その命令に反応し、虚ろな12体のヴァルキュリアが3体ずつ四つのチームを編成し、庭園の外へと去って行った。
 大男――シャイターンは、4体のヴァルキュリアを手元に残し歪に笑う。その背に生えるタールの翼から粘液がしたたり、庭園の水を汚していた。

「城ケ島の戦いが佳境となりましたが、エインヘリアルにも動きがありました。第一王子ザイフリートの後任として、新たな王子が攻め入って来るのです」
 セリカ・リュミエールが状況に変化があった事を告げる。普段よりもやや硬質な声は事態の深刻さを物語っていた。
「新たな王子は、ザイフリートの配下であるヴァルキュリアを、何らかの方法で支配しています。そして複数の都市を襲撃し、グラビティ・チェインを得ようとしています。お集まりくださった皆さんには、東京都小金井市へと向かって頂きたいのです」
 敵は魔空回廊を使って各都市に同時攻撃を仕掛けて来る。小金井市も襲撃対象の一つなのだ。
「今回ヴァルキュリアを従えている敵は、シャイターンという妖精8種族の一つです。都市内部で暴れるヴァルキュリアに対処しつつ、彼女達を率いるシャイターンを撃破する事が本作戦の目的となります」
 シャイターン。この新たな敵が、今この場に集まった者達の倒すべき相手である。
「シャイターンは護衛として4体のヴァルキュリアを傍に置いています。しかし、先に放ったヴァルキュリア部隊が苦戦している場合は、その戦場へ護衛を2体ずつ送り込むようです」
 ヴァルキュリア部隊を担当するケルベロスの状況によるが、目安として、最初に援軍を送るのが3~5分後。残りの2体は7~10分後に送り込まれるだろう。
 もちろん援軍を送る都度、シャイターンは護衛を失い無防備になっていく。手薄になった所で指揮官であるシャイターンに攻撃を仕掛ける作戦になるだろう。また、指揮官を撃破する事ができれば、ヴァルキュリアと戦う仲間達の戦いも楽になるはずだ。
 戦闘を開始するタイミングはここに集まったケルベロスに一任されている。確実にシャイターンを撃破できるような作戦を立てる必要がある。
「シャイターンは二振りのゾディアックソードを装備しています。そのグラビティを使用してくるのですが……一つだけ、炎を用いる詳細不明の技も持っているようです。我々が見た事の無い攻撃ですので、注意してください」
 護衛のヴァルキュリア達は全員がルーンアックスを一つずつ装備している。こちらは既に情報のある攻撃しかしてこないようだ。
「敵の能力は未知数です。しかし、だからといって黙ってやられる訳にはいきません。どうか皆さんの手で討ち取ってください。お気を付けて」
 セリカが願い、一礼する。彼女にできる事は、後はケルベロスを戦地に運ぶ事だけだ。
 作戦会議が始まった。


参加者
鬼部・銀司(ヤーマの眼・e01002)
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)
槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
忍足・鈴女(キャットハンター・e07200)
紗神・炯介(白き獣・e09948)
エイト・エンデ(奮う雷霆・e10075)
本屋・フェリア(はかないようじょ・e17583)

■リプレイ

●10分間
 生い茂る樹林の合間を音も無く滑る影が一つ。忍足・鈴女(キャットハンター・e07200)はその身を隠しながら、庭園に現れたシャイターンを探していた。
 園内の坂を下ると湧水によって作られた大きな泉がある。木の陰から顔を覗かせた鈴女は、その水辺に大男と四人の女性が立っているのを認めた。曲々しい雰囲気の大男はタールの翼を、虚脱しているような女性達は光の翼をそれぞれの背に生やしている。間違いなくシャイターンとその護衛のヴァルキュリア達であった。
「標的発見。まずは紫織殿に連絡でござる」
 小声で呟き片目を閉じる。アイズフォンを発動させた鈴女は仲間へ通信を繋ぐと、シャイターンを捕捉した事を手短に伝えた。程なくして、彼女の元に静かな衣擦れの音をさせながら槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)が姿を見せた。
 二人は敵に捕捉されないよう息を潜めながらアイコンタクトで頷き合う。
 自身の目で敵の姿を確認した紫織はゆっくりと後退する。十分な距離を取ったと判断してから、彼女もまた片目を閉じてアイズフォンを使用した。通信先は同園内唯一の建物に潜んでいる仲間達であった。
 庭園の出入口には門を兼ねた管理事務所が存在する。普段は事務員が詰める場所だが、現在は六人のケルベロスが身を潜め、隠密班となった鈴女と紫織からの連絡に待機していた。一般人である事務員は庭園の出入り規制を設けた後、ケルベロスと入れ替わるように全員退避している。
 そんな事務所内に着信音が響き渡った。全員の視線が集まる中、ワイヤレスヘッドセットを装着した紗神・炯介(白き獣・e09948)が着信に応じる。
「はいはい、こちら待機班の紗神だよ」
『隠密班の槙島です。シャイターンを発見しました』
「流石だね。どんな状況なのかな?」
『場所は泉です。護衛のヴァルキュリアもそこにいます。四体全てが援軍として送られたらまた連絡します』
「ありがとう。それじゃあね」
 通信を切った炯介は着信の音量をミュートに設定した。それから仲間達に向き直ると、同じタイプのヘッドセットで先程の通話を聞いていたシルディ・ガード(平和への祈り・e05020)が、ヘッドセットを持っていない鬼部・銀司(ヤーマの眼・e01002)とコロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)に通話内容を伝え終えた所だった。
「居所は泉の辺か。ならば敵に気取られない程度に近付くとしよう」
 エイト・エンデ(奮う雷霆・e10075)が事務所にあったパンフレットを開きながら言った。それに記載された庭園の地図を見て、順路から外れた場所に身を隠すのが適当だと判断する。
 一同は外にヴァルキュリアの気配が無い事を確認してから事務所を出た。そして繁茂した草木の中に素早く潜り込むと、順路と頭上から姿が見えないように屈んだ。
 その体勢のまま四分が過ぎた頃、上空を羽音と風切り音が過ぎて行った。そっと頭上へ向けた銀司の眼に翼を広げた二体のヴァルキュリアが映った。
 更にその六分後、同様に二体のヴァルキュリアが援軍として空を飛んで行った。同時に本屋・フェリア(はかないようじょ・e17583)の通信機に着信があった。
『鈴女でござる。護衛ゼロを確認、集合して下され』
「了解です! さあ行きましょう皆さん!」
 ケルベロス達が一斉に立ち上がる。
 ねこじゃらしを掲げるフェリアを先頭に、その脇をエイトと炯介が固める。三人掛りで発動した『隠された森の小路』により庭園の植物達が大きく身を捩り、幅広く通りやすい道が形成された。
 目標への最短距離を行く六人の前に鈴女と紫織の背中が現れた。振り返った隠密班の二人を加え、八人全員が揃った一団は勢いそのままに泉の辺へと猛進する。
 魔空回廊を開こうとしていたシャイターンが木々の揺れと迫る気勢に敵対者を感じ取る。振り抜かれた剣に枝葉が切り裂かれ、泉に落ちた。

●傲慢
 辺へと辿り着いたケルベロスはシャイターンと対峙していた。シャイターンは一振りの剣を手に、路傍の石を見るかのような視線をケルベロスに注いでいた。
 侮蔑も露な態度に、フェリアの殺気が膨れ上がり解き放たれた。
「同じ妖精8種族として、シャイターン、貴方達は許せません!」
「ヴァルキュリアの解放を願い、命を懸けている人達がいるんだ。みんなの笑顔のために倒させてもらうよ!」
 シルディが信念を込め言い放つ。
 彼らの言葉を聞いたシャイターンは一瞬呆けた後、鼻を鳴らして答えた。
「成程、貴様らがケルベロスか。しかし流石はシャドウエルフにドワーフだな、実に下らん事を言う」
 吐き捨てるシャイターンの剣が濁ったオーラを纏う。唐突に剣が振るわれ、牡牛を象ったオーラがシルディを含む前衛陣へと襲い掛かった。
「まあいい。首を幾つか土産にするとしよう」
 ケルベロスを侮り切った口調で邪悪に笑う。その笑みを恐怖と後悔に染めるべく、銀司の刀がオーラの残滓を斬り開きながらシャイターンへと迫った。
 切っ先が頬を切り裂く。ケルベロスが自らの攻撃を受けてなお平然と反撃し、更に傷を与えてきた事実にシャイターンは目を見開いた。
「威を借りて気を大きくしているようだが、手勢を全て放つとは判断を誤ったな」
 刀から殺意を呪毒として流し込んだ銀司が告げる。
 見下していた者から手痛い反撃を受け、シャイターンは憤怒の形相となった。
「調子に――」
「この程度で頭に血が上るなんて、カルシウムが足りて無いんでござるね」
 感情のままに何かを口走ろうとした矢先、その隙を突いて懐に潜り込んだ鈴女が悪戯に微笑む。螺旋の込められた掌が顎に見舞われ、シャイターンの頭部は激しく揺るがされた。
 間断無く紫織が二本のライトニングロッドを手繰って殴りかかり、シルディが銃でゾディアックソードを握る手を撃ち貫く。連撃の傍らではエイトが自らの細胞に賦活し、確実な攻撃への布石を打っていた。
 シャイターンが歯を食いしばりながらグラビティの雨を耐え抜く。窮地を脱すべく転げる姿には既に余裕など無かった。
「逃がさないよ」
 しかし、転がった先にも逃げ場は無い。炯介のささやくような声にシャイターンが周囲を見れば、薔薇の花弁がひらひらと纏わり付くように舞っていた。次の瞬間、花弁は深紅の槍となり、全方位からシャイターンを襲撃した。
 その背後ではタイミングを計っていたコロッサスが大上段に刀を構えていた。
「外道よ、貴様は自ら望んで裁かれに来たのだ」
 破邪の斬撃が標的を過たず捉える。一閃はシャイターンの体の深くまで到達していた。
「刑の執行は今日この時。後日に譲る気は微塵も無いぞ」
 残心を怠らず、刀と死刑宣告を共に突き付ける。
「ば、馬鹿な。押されているだと!?」
 愕然とする彼の眼前でカラフルな大爆発が起こる。フェリアのブレイブマインによる爆風を背に、前衛に立つケルベロスの傷が癒されていた。
 焦燥と屈辱の表情を浮かべたシャイターンが二本目の剣を抜く。獅子と牡牛の力を宿した双剣を振り上げ、雄叫びと共にエイトへ斬り掛かった。
「させないよ!」
 すかさずシルディが割り込み、その体で双剣の一撃を受け止めた。その横からコロッサスが緩やかな弧を描く斬撃を放つ。シャイターンは紙一重で躱したが、磁力で導かれるような動きで滑り寄ったエイトが胴体へ破鎧衝を叩き込んだ。
 体勢が流れるシャイターンへ、雷火の尾が地を這い迫る。弓引くように左手を大きく後ろに構えた銀司が、音を置き去りにする掌打を繰り出した。
「女性を顎でこき使うその傲慢な態度……」
 衝撃で咳き込むシャイターンの傍らに紫織が立つ。不意に伸ばされた彼女の左手が襟首を掴み、大男の顔をぐいと引きずり下ろす。濁り切った瞳に、にっこりと微笑む紫織が映った。
「少しお仕置きが必要ですね」
「ぶっ、がっ、きさっ、ええい!」
 右へ左へと、超高速で振るわれる往復ビンタが男の顔を弾く。逆上したシャイターンが拘束を振り解く頃には、その黒い頬は赤く腫れ上がっていた。
「貴様ら……!」
 彼の瞳は怒りに震えながらも、どこか頼り無げに揺らぎつつあった。

●怯懦
 揺らぐ瞳の動いた先を、コロッサスは見逃さなかった。
「臆したか? ならばこのまま逃げるのも良かろう」
「なっ」
 猛攻にさらされたシャイターンは無意識に逃げ道を探そうとしていた。魔空回廊が開かれるまで残り八分。それだけの時間を耐え切る事は不可能だと理性が判断しているのだ。
「口だけの端武者など、何処へ逃げようとも実害はあるまい」
 だが、それを認める事は彼の傲慢が許さない。ましてや敵対した者に見透かされ指摘された上、侮蔑の言葉を投げ掛けられるなど耐えられるはずがなかった。
「でもでも、だんちょ。こいつの親玉は親類に刺客を送るような奴でござる。無能が逃げた所で、その親玉に処分されるだけでござるよ」
 効果有りと見て取った鈴女が、コロッサスに同調し挑発を重ねる。憐れむ声音で言う彼女の隣では、フェリアが勇ましい顔付きでシャイターンを睨んでいた。
「このド腐れ! 妖精8種族の面汚し! 敵を前にしておめおめ逃げ帰るのか、オークにも劣るシャイターンめ!」
「あら、そういえば腐っていますね。羽とか目とか。切り落としたりしなくて大丈夫ですか?」
「まあ確かに性根は腐っているかもしれないが……」
 紫織もビンタした右手を払いながら続く。
 尽きずに湧いて来る罵倒の数々にエイトは頬を掻く。つい浮かぶ苦笑が内心の感服と戦慄を物語っていた。
「黙れぇえ!」
 激昂したシャイターンが双剣を地に突き刺した。自由になった両の掌から炎が迸り、一つの燃え盛る塊となる。灼熱の炎塊から発せられる熱波が木々を焦がし、泉を沸騰させた。
「我が炎で焼け尽きてしまえ!」
「ぐぅうう!」
 ゲヘナフレイムが最も怒りを買った者に叩き付けられた。
 真紅の鎧が焼かれて熱を持ち、肌を焦がす。熱風が過ぎ去った後には荒い息を吐くコロッサスが残されていた。
「コロッサス団長! ガード!」
 シルディが詠唱し、前衛陣を覆い護る盾が出現する。その陰から踊り出た炯介が、両手に構えたガトリングガンで銃弾の嵐を吹き荒れさせた。
 双剣を抜き銃撃に対応するシャイターンを余所に、フェリアのブレイブマインが再度前衛に施される。併せて鈴女のサーヴァント、ウイングキャットの『だいごろー』も翼の羽ばたきで彼らを癒していた。
 一方の鈴女はフェリアのサーヴァント、ライドキャリバーの『グリム・リーパー』と共に大地を駆けていた。手裏剣を取り出しつつ木の上に跳び上がり、突撃を補佐しようと毒手裏剣を投げ付ける。
 更に紫織が二本のロッドで殴り掛かって防御をこじ開けた。
 休む暇を与えまいと銀司が刀を振るう。シャイターンは慌てて距離を取るが、咄嗟の動きに死に体となっている。
「逃すものか……喰らいつけっ!」
 それを先読みしていた銀司は気咬弾で追撃し、逃げを許さず捉えた。
「どうした、息が上がっているぞ」
 刀を突き付けられシャイターンの顔が引き攣った。忌々しそうに刀の切っ先をゾディアックソードで薙ぐも、その意気は当初の精彩を欠いている。目は血走り、噛み砕かんばかりに歯を鳴らしていた。
 シャイターンが咆哮を上げ、シルディの元へと跳び掛かる。技量を捨て力任せに振り下ろされた双剣は防がれる事無く、シルディは地面へと押し倒された。
「おおおおおっ!」
「うわっ!? やばっ!」
 再度跳躍したシャイターンは樹上に立つ。シルディにとどめを刺そうと、タールの翼を広げ、双剣を掲げた。
「目先の好機に囚われて、周りが見えていないな!」
 まさに飛び降りようという寸前、エイトの狙い澄まされた雷撃がその一撃を妨害した。
「ありがとうエイトさん!」
「何、先程はガード殿に助けられたからな」
「先の炎塊は中々だった。返すぞ」
 墜落したシャイターンが起き上がるよりも早く、復帰したコロッサスが刀で袈裟型に斬り上げる。
 血煙と共に転がりながら、シャイターンは震える声を絞り出した。
「お、俺が、こんな雑兵如きに殺される……? ヴァ、ヴァルキュリアよ。早く戻れ!」
 力の入らない様子に、炯介は優しげな瞳のまま、狂気を孕んだ笑みを向ける。倒れ伏すシャイターンの頭上では薔薇の花弁がひらひらと舞っていた。
「あんたみたいなやつを知ってるよ。道具でも飼い犬でも、労わってあげなきゃ噛まれることになる。ああでも、もう遅いかな」
「や、やめろ」
 シャイターンからは逆光で炯介の顔が見えなくなっていた。湧水のせせらぎと風に揺れる木々のざわめきに混じり、炯介のささやきが耳朶を打つ。
「とっくに、地獄の番犬があんたを噛んでいたね」
「やめ――」
 深紅の槍がどうと押し寄せ、制止の声を包み隠す。槍の雨が止む頃には火の粉すら残さず、邪曲な炎は消え去っていた。

●静けさ
「要した時間は4分足らず、といった所か」
 エイトがシャイターン撃破までに掛かった時間を体感で計り告げる。それに皆が同意を持って頷き返した。
 戦闘を終えた一同は負傷の回復と事後処理に時間を充てているところであった。
「それでは、私と忍足さんはヴァルキュリアの担当チームに連絡を取って来ますね」
「撃破報告は任せるのでござるよー」
 休息も束の間、紫織と鈴女はアイズフォンを発動し、シャイターンを討ち取った事を小金井市にいる他のチームへ報告し始めた。ヴァルキュリアの変調によりその事は既に知られているかもしれないが、念のための行動であった。
「それにしても4分か。結構早く倒せたのかな」
「きっとそうです! みんなですごく頑張りましたから!」
 庭園の木を見やる炯介の言葉に、傷を癒して回るフェリアが賛同した。庭園もケルベロスも、負った傷は浅くない。
「可能なら他のチームの助勢に回りたいが、難しいか」
 周囲の様子を見た銀司が口惜しそうに呟く。やってやれない事も無いが、多少の無茶になるだろう。あるいは重傷者が出る可能性もあった。
「当初の目的は果たした。後の事は託された者達に任せよう」
 ベンチに腰掛けたコロッサスが深く息を吐く。横に座っていたシルディが立ち上がり、ヴァルキュリアが飛び去って行った空を見上げて言った。
「うん、信じよう! 町の人達もヴァルキュリアも、きっとみんなが助けてくれるって!」
 希望に満ち溢れた言葉を聞き、一先ずの戦いを終えたケルベロス達が彼に倣う。
 木々の狭間から覗く空を鳥達が飛んでいる。邪悪と炎に脅かされた庭園に、常の静けさが戻って来ていた。

作者:門倉鐘 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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