迎撃、星戦型ダモクレス~三連の刺客

作者:森高兼

 ケルベロスの使者達と十二創神たるダモクレス『アダム・カドモン』の対話を経て、未来の行く末を決める投票が行われた。
 集計完了すると情報が公開されてヘリポートの騒がしくなった中で、皆が足を運んだ先はサーシャ・ライロット(黒魔のヘリオライダー・en0141)の所だ。何やらテーブルには惑星が十字に並ぶの様子が描かれた大きな紙が置いてある。
 サーシャは意外と冷静そうだった。宇宙が絡む以上は事態の大きさも今更の話だからだろうか。
「投票の結果、アダム・カドモン率いるダモクレスと決戦することになった。それで戦いが終結してもらいたいものだな。惑星級星戦型ダモクレス『惑星マキナクロス』は現在……亜光速で太陽系に侵攻して惑星を機械化し始めている」
 アダム・カドモンの目的はただ1つ。
「奴は機械化した惑星を制御し、『グランドクロス』を発生させて地球をマキナクロス化するつもりらしい」
 グランドクロスは言わば宇宙規模の力を発揮する『季節の魔力』であり、膨大な魔力によって『暗夜の宝石』の月を再起動できてしまう。
「そして惑星の機械化を進めるのと同時に、月の遺跡を掌握しようとしているぞ」
 ダモクレスは魔空回廊を利用できるため……遺跡内部に直接『星戦型ダモクレス』を転移させることなど造作もない。
 今の状況が伝えられたところで、サーシャが皆を見やってくる。
「君達は万能戦艦ケルベロスブレイドで遺跡に急行して防衛にあたってくれ」
 ダモクレスの斥候が遺跡の制御を奪いに狙おうとする多数の地域は予知済みだ。
「聖王女エロヒムが協力してくれたおかげだな」
 皆は担当の防衛地点に先回りして襲撃者を迎え撃ち、遺跡を死守するのが今回の目標となっている。
「一ヶ所の防衛地点につき、魔空回廊を通じて3体の星戦型ダモクレスが投入されてくるぞ。だが一度に送り込まれてはこないようだ」
 1体目の到着から8分後で2体目が現れ、次の8分後に3体目と……時間差で出現するという。
 少々険しい顔をしてくるサーシャ。
「撃破に手間取れば、無傷の敵が加勢してくることになる。厳しい戦況になった時には遺跡を破壊した上で……撤退を決断する必要があるだろう」
 遺跡の破壊は避けたいとはいえ、地球のマキナクロス化を阻止するためとなるとやむを得ないのだ。
 サーシャは説明を続けるのに際して表情を緩めて資料を配ってきた。
「さて、戦場と敵ついて解説していこうか。敵の詳細はその資料に纏めたからな」
 マスタービーストの支配下にあって禍々しかった当時の雰囲気とは真逆で、遺跡内部はすでに本来の姿に戻って荘厳な神殿となっている。
「戦場はエネルギー枯渇で停止した不思議な機械がある区域だ。その機械が重要らしいな」
 資料をめくってみると、第一陣の敵が『強盾・x-999』で第二陣の敵は『装甲破壊兵』と書かれていた。第三陣の敵が『プロフェッサー・レイヴン』とあり……不思議な機械の操作を任されている者の1体かもしれない。
 強盾・x-999は約4メートルの巨体に見合った大盾の『ストライクバック』を持っている。
「x-999はその名が示すように大盾で守りを固めて戦う。防御体勢をとっての回復や盾の力で解呪も可能だ。対象が遠ければ飛びかかって斧を振り下ろし、溜めたダメージをストライクバックで衝撃波として周囲に放ってくるぞ」
 攻守に優れていて8分間を耐えるべく、三連戦において先鋒に抜擢されたのだろう。
 装甲破壊兵は『アーマード』と呼ぶ装甲兵シリーズで、『アーマード・クラッシャー』と名が体を表している。
「アーマード・クラッシャーの攻撃は火力重視で右腕のドリルがとても強力だ。胸部の水晶で光を圧縮させて撃つレーザーは防具を貫通する。ミサイルポッドの弾幕と関節の隙間から大量に噴出させてきた場合の黒煙にも気をつけてほしい」
 攻撃一辺倒のアーマード・クラッシャーは一気に制圧してこようとするはずだ。
 先端は改造道具であるアームがプロフェッサー・レイヴンの背中には4本ついている。
「プロフェッサー・レイヴンは特殊なゴーグルで君達に良い効果の力が付与されているのを確認すると、アームを伸ばして初期化させてくる。一時的な改造をされると傷の治りが悪くなるぞ。中身が攻撃用と回復用のどちらか不明のフラスコも使う」
 研究者タイプだと思われるプロフェッサー・レイヴンとて、長期戦で消耗する皆に襲いかかってくるのは万全な状態。油断するとあっさりやられかねない。
「増援を前提とした戦闘になるが、上手く戦えば複数を相手にすることはないからな。戦略が勝利の鍵だ」
 サーシャも皆にヘリオンデバイスを起動させるために月までは同行する。
「君達の出番が訪れた後……私はケルベロスブレイドの中で貴方達の帰りを待つわね」
 ずっと真剣な表情だったサーシャは、最後に1人1人へと微笑みかけてきた。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
ドゥリッサ・クロイセル(ドラゴニアンのワイルドブリンガー・e44108)
 

■リプレイ

●継戦の勇士達
 順次やってくるダモクレスを討つべく、遺跡内部の機械前で待機する7人のケルベロス。
 伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)はレプリカントになってから未だに心の在処を探していた。プロフェッサー・レイヴンが因縁の相手で……今回共に戦える親しき者達に今のキモチを吐露する。
「……んうー、ぼくは、戦闘用で、こわすものなのは、かわらないけど……。きっともう、博士がつくったぼくとは、ちがってる。なかよしを、はなればなれにしないのために、ほわほわをまもるために、ぼくは、たたかう」
「ワタシもかつて、自らの創造主を殺しタ。伏見が想いを遂げられるよウに全力でサポートする」
 複雑な勇名の心情を理解したのは君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)だった。
 軍服らしき服装の『キリノ』は、眸が心を得る切欠になった地球人の死によって顕現したビハインドだ。回復に専念する眸に対し、盾役で皆の力になる。
 深く信頼を寄せる相棒は隣にもいた。
 尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)が不安を感じているかもしれない友達を明るく照らすように、勇名へと無邪気な笑顔を向ける。
「俺達がついてるぜ」
 自分とて元ダモクレス。だがまっすぐと敵に対峙して全力を尽くそうと、唯一無二の相棒たる眸ともう1人の友達に笑いかける。
 小さく笑い返したと言えなくもなさそうな九分九厘の無表情にて、櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)は約20センチの身長差がある広喜を見上げた。
「守り手として広喜と肩を並べ……るには、背と体力が足りんかな?」
 そんな冗談を飄々と口にできるのは仲良しの証拠で、友の勇名に対して密かにほんわり保護者気分ゆえに本音を呟く。
「足手纏いにならんようにするさ」
 ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)とドゥリッサ・クロイセル(ドラゴニアンのワイルドブリンガー・e44108)は顔馴染みではない4人の会話を静かに見守っていた。
 宿敵に挑む決意を固めた勇名を見ていた源・那岐(疾風の舞姫・e01215)は、ふと大切な義弟や義妹の顔が心に浮かんできた。会話の終了を見計らって、戦闘を前に少し凛々しさを残しながらも少女に優しく微笑みかける。
「私達も一緒ですよ」
 よく知らないはずの大和撫子なお姉さんの微笑に不思議なキモチとなる勇名。ココロが温かくなったのだろうか。
 7人が結束したところで、『強盾・x-999』が魔空回廊から姿を現してくる。
 守護者達は前線に散開していき、ドゥリッサが戦場の後方で身構えた。中間に布陣したのは敵を牽制する那岐である。
 ヴォルフがジェットパック・デバイスで勇名と前線にて飛行を開始した。牽引の希望者は眸しかおらず……ビームを繋げる一番の適任者に呼びかける。
「勇名、任せた」
「ぼるふ、まかせてだ。君乃、ひっぱる」
「ありがとウな、伏見」
 巨体でありながら、強盾が身軽そうにヴォルフへと飛びかかってきた。
 コアエネルギーを拡散させた眸が、周囲に光の回路を展開した。白銀に輝くフィールドが戦場に広がり、飛行する2人と後衛陣の集中力を高める。
「フィールド生成……これより命中率ノ向上に貢献すル」
 ヴォルフは遥か昔に失われたはずである『太古の魔術』を意味する魔法を発動させた。
「Weigern……」
 仲間達と共に敵を破壊することを約束して精霊を召喚し、精霊の呪力で強盾の装甲修復を妨げる。
 ストライクバックを突き出して防御体勢をとってきた強盾。やはり装甲はあまり修復されていない。
 強盾の懐に潜り込もう……と見せかけ、ドゥリッサが強盾の背後をとる。
「その守り、崩してやる!」
 右半身と左半身がそれぞれ地獄化とワイルド化している手を硬化させ、強盾の左肩を貫いてよろめかせた。

●根比べ
 強盾はストライクバックをかざして修復を阻害する呪力を消し去ってきた。
 もう一回装甲を痛めつけようと、勇名が丸鋸を射出する。
「がりがりーの、ぎゃりぎゃりー」
 回転する鋭い鋸刃は強盾の装甲に掻き毟ったような傷を重ねていった。
 ドゥリッサの竜砲弾で回避能力を鈍らせた強盾が、跳躍してヴォルフに斧を振り下ろそうとする。
 千梨は咄嗟に反応していて斧の一撃をくらうと地面に落ちた。
「痛い痛い」
 軽口を叩いてみたものの、実際は守備を重視する敵の攻撃であっても侮れない。こちらもダメージ軽減を念頭に置いて受け身はとっていた。
 回復と攻撃で違う色のエネルギーを放つ『碧蒼ナックルリング』の回路を碧に輝かせ、眸が千梨の側に光の盾を創造する。
「回復は慣れていル」
 キリノは心霊現象に抵抗しようとする強盾を抑え込んで金縛りにかけた。
 ストライクバックの下底が地面に突き刺さって固定される。震え出した大盾から衝撃波が地面を走るように前衛陣へと拡散されてきた。空中の勇名とヴォルフには効かない。
 竜砲弾の影響で強敵が隙を晒したのを、ドゥリッサは見逃さなかった。パイルバンカーの螺旋力をジェット噴射させて強盾に突撃していく。
「遅い!」
 横腹の装甲を容赦なくぶち抜いてやった。
 強盾が解呪のためにストライクバックをかざしてくる。もはや微々たる修復率は上等と開き直ったのだろう。
 勇名は地面擦れ擦れを飛び、紅蓮金属のギアが組み込まれた『紅蓮立体機動ギアシューズ』でローラーダッシュした。ヒール部にはスラスターも内蔵されていて一気に加速する。
「あついの、いくよ」
 激しい摩擦熱で炎を纏った蹴りを強盾に見舞うと上昇していった。
 ストライクバックを再び構え直してくる強盾。
 強化繊維で作られたグローブ状の『氷晶ガントレット』にて拳を握り込み、広喜が氷のような装甲を纏った。
「何度構えてこようと無駄だぜ!」
 ストライクバックに高速の重拳撃を打ち込んで衝撃の伝播によって強盾の体勢を崩させる。
 強盾は今一度、前衛陣に衝撃波を生じさせてきた。
 間もなく、8分経過となり……装甲破壊兵が魔空回廊より出現してくる。勇名に強盾が襲いかかってきた直後、ミサイルポッドの魔力弾を無数に戦場の奥まで発射させてきた。だが完璧に演算された攻撃で、双方にとって重要な機械は無傷だ。
 キリノは勇名の傍に浮上していて少女の代わりに魔力弾を受け止めていた。
「ぼくは、だいじょうぶ、ありがとだ」
 ずれていた帽子の位置を直して満足そうに前線へと戻っていく。
 攻撃の危険度が格段に増した。それでも……装甲破壊兵の誘導を試みる広喜と千梨を除く6名は基本的に強盾の撃破を優先である。
 守り手達のために、那岐が赫い刀身のサーベルで地面に守護星座を描いた。刀身が僅かに明滅する『貫く赫灼のアンタレス』が宿す星座は蠍座で、心臓部分の赤い星が一際輝いて前衛陣を守護する。
「千梨さん、広喜さん。ご武運を祈ります」
 強盾は本領発揮するかのごとき勢いで、装甲破壊兵を惑わそうと千梨が呼び出した女神の幻影に立ちふさがってきた。広喜が一先ず装甲破壊兵を引きつける。
 殺す対象に興味と好奇心を持つヴォルフ。合理的な戦い方で敵を抹殺しようとしてくる装甲破壊兵に関心を示すも、それは仕留めるまでの短い時間だ。
「互いに遠慮は無用だな」
 黒い刃に竜の紋様が刻まれた偃月刀を高く投擲した。元は冥府の名を語る者の愛用品だった『Unterwelt』が、最高度に達して分裂する。装甲破壊兵に当たるかどうかは際どかったが……幸運にも、2体に混乱を招くことができた。

●絶え間なき攻防
 ストライクバックの光を放たれるも、装甲破壊兵は正気を取り戻せなかったらしい。バグを起こしたような狂った挙動の後に黒煙を噴出させてきて、前衛陣に届いた時点で霧散する。
 那岐は後衛陣にも加護を付与し、勇名が降魔の蹴りを強盾にくらわせて回復の足しにしておいた。
 強盾が再度ストライクバックの光を迸らせて装甲破壊兵を冷静にさせる。
 胸部の水晶に光を収束すると、装甲破壊兵は明確な意思をもって傷の浅くない千梨の腹部に防具も貫通できるレーザーを撃ち出してきた。
 那岐が得意の戦舞で幾重にも常闇色の風を発生させる。
「さあ、常闇に抱かれて鎮まりなさい……」
 上手くいけば強盾に止めを刺せそうであり、舞い終える直前にドゥリッサへと目配せする。
 那岐の視線に察しをつけたドゥリッサは、すかさず『砲撃形態』に変形させたドラゴニックハンマーで強盾をロックオンした。
「これで終わらせる!」
 極限まで集中して狙い撃った竜砲弾が強盾の顔面に命中する。
 強盾が背中から頽れ……轟音を響かせて爆散した。
「やってくれたか。俺もお仕事しようかな」
 アンティーク調の天球儀を模したガネーシャパズル『星並べの天球儀』を巧みに操る千梨。邪魔者に妨害されることなく、女神カーリーの幻影によって装甲破壊兵を怒らせた。
 広喜が青い回路状の光で装甲破壊兵を侵食する。
「さあ、一緒に壊れようぜ」
 自身の内に刻まれた本質のコマンドで精神に強力なジャミングをかけた。
 レーザーで穴を開けられた千梨の腹を、眸が碧色の光でふさぐ。
 装甲破壊兵が戦場の広域を一瞬黒く染めようとしてきて、広喜は射線上に並ぶドゥリッサのために肺を蝕まれる覚悟で大きく息を吸い込んだ。吐血しながらも口を拭って笑顔を保つ。
(「後ろの仲間は誰もやらせねぇ」)
 勇名が装甲破壊兵に強襲した。苛烈な攻撃にある程度踏ん張れるようにしておきたい。
「ちょっと、いただきます」
 紅蓮立体機動ギアシューズを履いた足で魂を喰らう降魔の一撃を繰り出す。
 標的に悩んだ挙句、装甲破壊兵は前衛陣を纏めて攻撃できる爆撃をかましてきた。
 広喜が眸に治してもらっていた肺から怒気を放つように咆える。
「てめぇの兵器をぶっ壊してやるぜ!」
 腕に装着する如意棒の『腕部換装パーツ肆式』に、青く光る回路を経由して地獄を充填させた。装甲破壊兵のドリル表面に小さなヒビを入れてやる。
 前衛陣の回復で眸が大変なことは承知しており、左手を構成する混沌の水を巨大な顎へと変化させて装甲破壊兵の関節に噛みつかせたドゥリッサ。
「喰らい尽くせ!」
 敵の血液かもしれない黒煙を無毒化させた上で生命力に変換し、大事をとって攻撃と回復を両立だ。
 威力が低下しているとは思い難いドリルで、装甲破壊兵は広喜の腹をえぐってきて全身に血を浴びた。
 那岐がドラゴニックハンマーを砲撃形態にさせる。ドゥリッサに倣って狙撃するわけではない。
「私の役目は牽制です」
 足元を中心に竜砲弾を撃ち込んで破壊装甲兵を踊らせる。
 装甲破壊兵による魔力弾の雨が降ると、千梨は龍の形をした『御業』を招いた。滝の幕を巡らせるように金の花弁が戦場に舞い散る。
「形を成すのは、守護の誓い」
 龍の加護は猛々しくも前衛陣を包み込む柔らかさを備えていた。
 装甲破壊性が広喜の血で濡れたドリルでキリノを戦線離脱させてくる。
 『Unterwelt』に稲妻を帯びさせたヴォルフは、超高速の突きを圧倒的な火力で装甲破壊兵に炸裂させた。敵の装甲を穿って四散に至らせる。
「…………」
 死んで興味の失せた敵にかける言葉は持ち合わせていない。
 思いがけず早期に片はついたが、皆に呼吸を整える暇は与えられなかった。
 魔空回廊から遺跡に足を踏み入れてくるプロフェッサー・レイヴン。ゴーグル越しに勇名を気味悪く眺めてきた。後衛陣の分析が完了して4本のアームが伸ばされる。
 勇名の元に急行すると、広喜は体質を初期化された。それを意に介さずにプロフェッサー・レイヴンに忠告する。
「勇名は俺たちの自慢の友達だ。てめえのじゃねえ」

●連戦の果て
 どちらも消耗しきっていて、千梨と広喜は構わずプロフェッサー・レイヴンの注意を引いた。
 プロフェッサー・レイヴンが広喜の目の前でフラスコを投げて割ってくる。中身の液体が瞬時に蒸発した。どうやら、通常よりも毒性の強い薬品だったようで広喜の意識を混濁させてくる。
 気絶する寸前の広喜と目が合い、眸は勇名のことを頼まれた気がして頷くと彼を退避させた。
 千梨が鬼の冷気が込められた御札の『鬼凍ノ札』を射出する。『鬼凍ノ札』に切り裂かれたプロフェッサー・レイヴンの傷を凍てつかせた。勇名を造ったことには感謝しており、彼との交戦は真摯に臨んでいる。
「まだ俺がいるさ」
 的確に操作されるアームが差し向けられた勇名を庇い、着地して膝を突くと仰向けに倒れ込んで眸に運ばれた。
(「……上出来だろう」)
 装甲破壊兵の攻撃が適度に分散してくれたおかげでダメージコントールが絶妙だったのは確か。まだ那岐がいるため、攻撃用フラスコも扱いづらいはずだ。
 那岐が戦舞でプロフェッサー・レイヴンに風を吹きつける。
 1人も戦闘不能にさせたくなかった眸。それは戦力的に厳しかったかもしれないが……。
「もう仲間は倒れさせなイ」
 翡翠の花模様が刻まれた小型筒『翠煌』にて、相棒達の分まで後衛陣の士気を上げるつもりで光花を咲かせる。
 プロフェッサー・レイヴンの回復用フラスコが割られた。だが治癒は捗らない。後衛陣を無理矢理クールダウンさせれば、勇名とドゥリッサは攻撃のついでに自力で回復した。フラスコがやけくそ気味に那岐へと投げつけられる。
 ただ敵を殺す……それだけのために作られた大型のシースナイフ『Lament』を逆手に持ったヴォルフが、眼下のプロフェッサー・レイヴンを見下ろした。
(「長く楽しめるのは悪くないな」)
 高所からの急降下で敵に肉迫していき、『Lament』の鋭利な刃をジグザグに変形させて傷口を斬り刻む。
 ドゥリッサはヴォルフとは逆に高々とジャンプし、足に流星の煌めきと重力、さらにデウスエクスへの怒りを宿した。
「外さない!」
 真下に捉えたプロフェッサー・レイヴンの脳天に飛び蹴りをくらわせてふらつかせる。
 高濃度の回復薬を用い、プロフェッサー・レイヴンが強引にヒールを図ってくる。
 どんな敵にも一定の敬意を払う那岐は、プロフェッサー・レイヴンに千梨と別の心意気で立ち向かっていた。
「勇名さんを造ったのはあなたのようですが、勇名さんは私達の仲間です」
 空の霊力を注ぎ込んだ『貫く赫灼のアンタレス』でナイフの傷を斬り広げる。
 プロフェッサー・レイヴンに摩訶不思議な処置を施されても気にせず、勇名が柄を調整できる『じゃすてぃすハンマー』を最大の長さにした。搭載されたジェットエンジンで勢いをつけて力一杯振りかぶり、プロフェッサーを吹っ飛ばして壁に叩きつける。
「……んうー、博士、さよならだ」
 最期に意味深な薄笑いを浮かべて消滅していったプロフェッサー・レイヴン。それにどのような答えを出すかは勇名次第だろう。
 やがて2人が目覚めると、皆は自らの足でケルベロスブレイドに帰還するのだった。

作者:森高兼 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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