●決戦の始まり
集った番犬たちの顔に覚悟が宿っているのを見て、望月・小夜は静かに口を開く。
「ご存知の通りビルシャナは宇宙から去り、残る敵対勢力はダモクレスを残すのみ。改めて言うまでもありませんが、私たちはこれより彼らとの決戦を行います」
グラビティ・チェインの枯渇問題は現在のところ解消している。つまりこれが、侵略的デウスエクスとの最後の闘いとなるはずだ。
「決着をつけましょう。長き闘争に、終止符を打つために」
そして小夜は、スクリーンを展開する。映るのは、太陽系の図解。
「敵総帥アダム・カドモンが座上する『惑星級星戦型ダモクレス・惑星マキナクロス』は亜光速で太陽系に侵攻し、すでに太陽系惑星の機械化を開始しております」
その速度は、最高時速5万キロを誇るケルベロスブレイドでさえ相手にならない。目的は『機械化した惑星の運行を制御し、グランドクロスを発生させる』事だ。
「グランドクロスは、言うなれば宇宙規模で用いられる『季節の魔法』。その膨大な魔力によって『暗夜の宝石』……すなわち『月』を再起動し、その力で地球のマキナクロス化を一瞬で完了させるという作戦です」
既に火星の機械化は終了し、敵は金星へ移動中。その際の地球周回軌道上で『星戦型ダモクレス』によって構成される『暗夜の宝石制圧部隊』を月に送り込んでくる。
「星戦型とはダモクレスを宇宙戦闘用に改修強化した決戦兵器群です。今回は遺跡の制圧後に古代機械の操作を行うため、小型から中型の人型に絞って投入してくるでしょう」
敵は万能戦艦による迎撃を避け、魔空回廊を用いて遺跡内部に直接転移する。月面遺跡が制圧されれば、地球のマキナクロス化を防ぐのは不可能。
「ケルベロスブレイドで月に急行し、星戦型ダモクレスを撃退した後、遺跡を掌握する。それが今回の任務です。敗北はすなわち、地球がダモクレスに呑み込まれることを意味します」
●月面遺跡防衛戦
そして、スクリーンには月遺跡の絵図と、各班の防衛地点が表示される。魔空回廊からこれらの地点に転移して来る敵を、それぞれの班で迎撃するのだ。
「月面遺跡の制御に必要な地点は、聖王女エロヒムの協力によって予知することが出来ました。現れる敵は、一地点つき合計3体」
最初の一体が現れて8分後にもう1体。更に8分後にもう1体が転移されて来る。素早い各個撃破が理想だが、敵も全力で食い下がるだろう。手間取れば複数の強敵を同時に相手することになる。
「暗夜の宝石を傷つけたくはありませんが……最悪の場合、地球のマキナクロス化を防ぐため遺跡を破壊して撤退するのもやむを得ません」
月面遺跡は禍々しい邪教の神殿といった様相であったが、あれはマスタービーストが改造を加えていた箇所であるかららしい。
「今回の戦場となる遺跡は、暗夜の宝石の本来の姿。魔導神殿群ヴァルハラにも似た荘厳な神殿で、内部にはエネルギーが枯渇して停止した機械群が存在します。皆さんの担当場所はホール状の列柱広間となっており、戦闘に支障はないでしょう」
敵味方共に施設の掌握が目的であるから、設備の防衛など余計な心配はない。むしろ勝利が難しい場合は、こちらが『遺跡を破壊して撤退』する必要がある。
「しかしその場合、決戦勝利後に暗夜の宝石を利用できなくなる可能性があります。あくまで最善はダモクレスを撃退し、施設を掌握することです」
その為には、敵の陣容を知る必要がある。頷いた小夜は、資料を出して。
「皆さんの担当になる敵は、実績や性能を認められて星戦型へ昇格したダモクレスの混成部隊です。先行攪乱を務める『エアル・シュエット』。小隊リーダーにして遺跡制御担当『無命王 Dr.アノニム』。攻撃主力を担う『破神機グングニィル』。以上の三機が、順に転移してきます」
一番手のエアルは、梟を模した翼を持つ制空機。後続へ有利な状況を繋ぐため、その機動力を活かして戦場を撹乱しつつ、生き残るのが役目の先鋒だ。
二番手に来るのは、意外にも遺跡制御担当のアノニム。戦闘能力こそ他に劣るが、高い後方支援能力と判断力を持つ。仲間が生存していれば援護に徹し、撃破されれば戦場を掻き回す役を引き継ぐだろう。
そして最後が、星を砕くと謳われる攻撃特化機体、グングニィル。どんな犠牲も顧みずに最大火力を叩きつける、敵の切り札だ。
「こちらを疲弊させつつ最後の火力戦まで生き残り、盤面を一気に制圧する……三体全てが命を顧みず、その作戦に徹した連携を見せるはず。無策のまま敵を揃えさせれば、勝ち目はありません」
敵もまた、各個撃破される危険は承知の上。
考え抜かれた編成で、精鋭中の精鋭が来る。
智慧と力。覚悟と連携。
番犬の全てを振り絞り、この闘いを制するのだ。
「これは宇宙の未来を決める闘い。皆さんの双肩に……いえ……それは、いいか」
そこで小夜は口を止める。しばらく迷った後、囁くように。
「私は……一緒に闘えて、幸せだった。もう勝敗なんて構わない。皆は精一杯やってきた。その選択と努力の結果なら、私は死んだっていい。ただ一つだけ……」
彼女は微笑む。恋をする乙女のように。
「その出撃を、最後まで見送らせて……必ず迎えに行くから。私の、番犬たち」
……さあ。出撃準備を。
勝敗など問うな。
己に恥じぬ闘いを、示せ。
参加者 | |
---|---|
マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462) |
皇・シオン(強襲型魔法人形・e00963) |
愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784) |
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020) |
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348) |
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490) |
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455) |
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796) |
●
列柱広間には大気があった。静止した機械群が眠る遺跡で、ガスマスクをつけた八つの影が酸素供給装置を捻って、濃度を調整する。
マスクをめくりあげ、リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)は金色の髪を揺らして。
「……長かったわね、ここまで。思い出すわ……多摩川の河川敷とか、因縁の弩級残軍とか。そうこうしてる内にアタシ、二十歳になっちゃった」
ね? と、肩を竦める視線に、ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)もマスクを外し「縁起でもねえこと思い出すなよ」と、苦笑する。
マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)も綻んだ口元を解放して。
「我々は何度負けようと立ち上がってきた……改めて、私は誓おう。現在を守り、未来を護り抜くことを。私の……皆の幸せの為に」
それぞれ己の道筋に想いを巡らせて、番犬たちはその決意に応じるように一斉にマスクを払う。
顔を上げれば、帯電と共に虹色の裂け目が広がりつつあった。
「さあ……来るぞ!」
瞬間、黒い影が裂け目から飛び出した。
「エアル……」
皇・シオン(強襲型魔法人形・e00963)の小さな呟き。その声に視線を向けた敵先鋒に、悲しみに似た何かが走ったのは、刹那の間。
『……エアル・シュエット。接敵しました』
そして、星々を駆け、星々を懸けた者たちの、決戦の幕が上がる……。
●
轟く竜砲が浮かばせる、列柱の影。稲妻の如く交差する、蹴り込む番犬と黒い機影。
(「……速い! これが、星戦型……!」)
爆炎の中、敵はまるで重力を感じさせぬ直角軌道で列柱を縫い飛んだ。
『敵影8体……遅滞行動開始。地球マキナクロス化作戦を開始します』
「させないよ! 地球が機械化されたら美味しい食べ物とかもみんな金属とかオイルとかになっちゃうんでしょ!? そんなの絶対に阻止なんだよ!」
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)の身から銀光が迸る。超加速された感覚で、遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)は駆け抜ける影を捉えて。
「闘わない選択肢もあったのに、わざわざ呪われに来たのね……いいわよ、好きなだけ喰らっていきなさい! 冥府より出づ亡者の群れよ、彼の者と嚶鳴し給え!」
足元からは、怨霊の群れが吹き荒れる。纏わりつく呪いに舌を打ち、敵は身を捻って竜巻を放った。
「受けるわ!」
身を挺して前へ出たリリーのデバイスが、暴風に裂かれる。だが攻撃の瞬間の隙を、闇を穿つ瞳は見逃さない。
「ダモクレスは、いつも仕事が早くて驚くよ。実行速度に、統率の取れた兵と、その数。流石だよね。でも……」
敵の脇腹を、呪縛を込めた影刃が掠め裂く。ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)の瞳は語る。
「こちらも、経験を積んで来た。以前のようには、いかないよ」
……そうだろ? そう問う視線を受け止めるのは、共に『以前』を駆け抜けた仲間。
「ええ。これが……交渉がダメだった、私なりの責任のとりかた。結果を受け止める覚悟だけは、誰にも負けられないのです……!」
灼熱の敗北。差し伸べた手を払われる痛み。惑いながらも闘う嘆き。その全てを呑む決意を氷弾に変えて、愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784)が敵を穿つ。
それを咄嗟に払い、敵は真空の刃を放った。その狙いは、シオン。
(「覚悟……ここに集った者には、全員にそれがある……」)
シオンは、どこか遠く思考しながら攻撃を受けた。肩口を裂かれながらも、月光の刃で敵と馳せ合う。
即座にマルティナが、敵へ蹴り込んで。
「大丈夫か! 皆、私の後ろに!」
敵の高速機動は凄まじい。だが己の無力に膝をつき、死線を潜り抜けてなお、その度に立ち上がって来た番犬たちは、それを上回る速度で闘いに適応する。
「引き付け助かる! さあ、行くぜ……! 月の上とて地の利を得たり! 狙うは……そこだ!」
激闘の中、位置を見極めていたランドルフは、跳ね返るように柱を跳躍して敵の足を裂いた。即座に応じて、仲間たちが次々に打ち掛かる。
『そう容易く、墜ちはしません……!』
不退転の決意を示すように、敵はシールドを展開する。その一瞬の隙を突いて、シオンは竜砲の引き金を落とした。
彼女は決して、番犬として劣りはしない。しかし。
(「……この戦場では、力で一歩を譲るのは確か」)
纏わりつく爆炎を煩わしく思ったか、敵の視線が彼女を貫いた。即座に放たれた竜巻に翻弄されながら、受け身を取る。
先ほどから、敵は執拗にシオンを狙う。生存を目指す敵にとって最も当てやすく、支援の手を割かせることが出来る相手であるからか。いや……自分だから、か。
(「それなら、私は……」)
この闘いで示すべきものを己に問いかける中、宿縁は絡み合う……。
●
再び広間の中央に広がり始めた虹色の淀みを睨んで、マルティナが叫ぶ。
「もうじき8分だ! 新手が来る前に、決着をつけなければ!」
足元から伸びた闇が、敵機の足に食らいつく。しかし敵は、鉄翼を羽ばたかせて足を引き千切った。
『まだ、です!』
「もう最後まで持たないって分かるでしょ! 降伏しないなら……墜ちなさい!」
篠葉の叫びと共に、月のそれをはるかに超える重力が敵機に降り注いだ。翼が歪みながらも、追い討つ仲間たちの攻撃の隙間を飛翔する。
『例え、私は墜ちるとしても……後のために!』
「マズい! 次が来る!」
生み出された烈風。誰を狙うのかは、見なくてもわかる。リリーが咄嗟に、庇いに走る。
「シオンさん……!」
「いいえ。私に構わず……皆さんには、繋ぐべき先があります」
だがそれこそ、シオンの待ち構えた機。彼女は守護を拒み、自ら烈風へと跳躍した。
「『……!?」』
シオンが脇腹を裂かれながらも敵機へ激突した時、虹を割って巨大な木偶人形を引き連れた男の影が戦場へ割り込む。
『どこだ、エアル……! 援護する!』
「行かせはしないよ」
舌を打ち、番犬たちと新手の男がにらみ合う。その背後では、黒い敵機とシオンとがもみ合って。
『くっ……放せ! アノニム! こいつを……ッ!』
烈風に幾度も身を裂かれながらも、掴んだ手は離さない。
わかっているのだ。己は、この闘いを走り切ることはできないと。
「それなら、互いに後に続く仲間のために。これが、私の覚悟です」
『やめ……!』
刃を、振り下ろす。姉妹機の、胸倉へ。
敵機が絶叫にのけ反ると同時に、男の放った雷電がもつれ合う二人に直撃した。
(「さようなら、エアル。せめて……安らかに」)
そして姉妹は爆炎に呑まれて姿を消した……。
●
敵は全て、楽には打ち破れぬ強敵ばかり。この闘いに犠牲は避けて通れない。
「でもその覚悟は、無駄にしないよ。皆で一緒に、笑顔でただいまを言うために……誰も欠けずに、勝って帰るんだよ」
ドローンデバイスが、シオンを回収に向かう。全てを守る熱意と、勝利に徹する冷徹さを胸に。エヴァリーナは後ろを振り切って、光の粒を呼び寄せる歌を口ずさむ。
『進化の帰結を受け入れず……足掻くかい、人間ども』
男が指を鳴らすと、木偶人形がワイヤーを伸ばして腕を鞭の如く振り払う。光に守られながら、その前へ躍り出るのは。
「シオンは……狙撃手の責務を果たした。この一手で、私たちはまだ盾になれる……! 行くぞ、リリー!」
「ええ! 並んで同じ役目をするのは、久しぶりよね……! 無事に生きて帰りましょ、マルティナさん!」
蹴撃と拳の気弾を合わせて放ち、二人の盾が前へ出る。木偶人形を打ち合わせる男の背後に、ふわりと回る影は。
「帰結かは、わからないけれど。進化だとは、私も思います。皆さんの魂の存在を証明したい、なんて、烏滸がましかったのです。皆さんは、こんなにも……懸命で――」
その想いに乗せたミライの歌声は、敵にとって賞賛か、侮辱か。眉を歪めた瞬間、男は音の衝撃に弾き飛ばされて受け身を取る。
「おおっと! 着任早々、守りに入る気かな? もちろんどうぞ、僕はちょっぴり邪魔するだけさ……!」
「ふふ、ちょっとだけ合流させちゃったけど、さっきの梟さんの方が強かったわね! あなたには、外さないわよ!」
ヴィルフレッドの暴食竜の弾丸が。篠葉の飛び出す亡者たちが。呪縛となって男を縛り上げる。目に見えて破損していく男は、慌てて木偶人形からスペアパーツを生成するが。
「させん!」
瞬間、その腕をランドルフのナイフが切り裂いた。その刀身に、男は何を見たのか。
『ひっ……うわああ!』
「人を捨てた者にはきつかろう! 己が忘れようとするモノを突き付けられるのは!」
炸裂する、番犬たちの一斉攻撃。男は無様に転げ回りながら、破損した身を換装する。
その唇に、一瞬だけ笑みを浮かべて……。
●
……幾度も腕が砕け、胴にはひびが入り、片足のもげた男の機体。幾度も換装パーツを生成した木偶人形も、すでにその動きは鈍い。
だが。
『じ、時間を……』
男は逃げては反撃を繰り返し、グラビティを高めて刻まれた呪縛を打ち破る。
「はぁー、いやらしー! せっかく僕が育てたBSを! あれは絶対モテないね!」
己の嫌がらせを全力で棚に上げながら、ヴィルフレッドは幾度も引き金を絞る。だが。
(「コイツ……負傷の割に、しぶとすぎる。どういう仕掛けだ?」)
ちらりと見やれば、全員がすでに違和を感じ取っていた。
「圧倒されてるように見せた時間稼ぎ……かな。一番手がやられた時、作戦を切り替えたんだね」
エヴァリーナは賦活の電撃でマルティナを癒す。敵機は口をにやりと歪ませ、するりと姿勢を正した。
『ばれていたか。もう少し謀れると思ったが』
「……奴はあの損傷で、なぜまだ動ける。次の敵までは、あと一分ほどしかないのに……くっ! 下がれ、皆!」
戦場の中心には新たな虹色のゆがみが表れる中、ズタボロの躯体から伸びてくるコードが無数のスパークを放つ。
「何かタネがあるんだわ! 見た目の損傷をごまかせる何か……えと、わかんないけど、とにかく全部呪えば片が付くわよね!」
篠葉の放った凍てつく閃光が男の全身を捉え、驚愕の表情のまま男の躯体は凍り付いていく。やがてその体は、粉々に砕け散って。
「え? あれ、倒……?」
「違います! わかりました! その人の、本体は……ッ!」
ミライが叫んだ次の瞬間、倒れていた白い木偶人形が跳躍した。咄嗟に放たれた氷弾に背を裂かれるも。
『お前さえ、死ねばッ!』
その腕は、ヴィルフレッド目掛けて突き出された。血飛沫が舞い、青年の頬に緋が散る。
「……ッ!」
そう。彼の前に飛び出して、胸を抉られた者の血が。
「アタシは役割を違えはしない……そうでしょ? 今度は、アタシが守るわ。格好いい……お兄、さん」
血の滲む唇に笑みを湛えて。リリーの膝が、がくりと落ちる。
即座に横から飛び込んできたランドルフが、木偶人形をねじ伏せた。
「やってくれたな……! 本気で人を捨てようって輩が、人の姿をしてるはずはねえってか!」
『ヒヒ、ハハ……! そうだ! 人の姿も、覚悟も、愛も! 進化には必要ない! それを証明しろ、グングニィル! 私の、代わりにィイ!』
ランドルフは激怒に顔を歪めて、頭蓋に押し当てた銃を引き絞る。
「汝に終焉(オワリ)を齎さん! 喰らって爆ぜよッ!」
爆音と共に白い頭蓋が砕け散り、その叫びは爆炎の中に消え去った。
●
休む間もなく、全てを撃ち抜く巨砲の化身が押し寄せる。
二名が倒れ、残るは六人。
エヴァリーナはリリーをデバイスに乗せると、するりと立ち上がって。
「この努力を、無駄にはできないよ……皆で、笑顔の小夜ちゃんに迎えてもらうために……最後まで頑張るんだよ……!」
その魔術縫合を受け、ヴィルフレッドは降り注ぐ閃光の中を転がりながら竜弾を撃つ。
「ああ。仕事ができるところを、見せなくっちゃね」
すでに負傷は激しくとも、一人として退かぬままに番犬たちは金の巨体へ突貫する。
……激闘の中、髪を振り乱したマルティナが巨体の背に剣を突き立てた。そのまま、力を充填する砲塔にしがみついて。
「二人に遅れを、取るものか……! 我々は絶対に負けない。負けられない……!」
金色の機体は構わずに、灼熱を撃ち放った。己を焼き貫く熱を無理矢理に押さえ込みながら、マルティナは砲塔の一つに遠隔の爆破を捻じ込む。
「墜とすぞ……コイツを!」
巨体の肩口が暴発し、マルティナの肢体が弾け飛ぶ。
だが敵が向き直った眼前には、逃げることもなくミライが佇んでいて。
「ええ。もう二度と、戦場では歌わないかもしれない歌を、聞いていただくのです。皆さんの覚悟もあなたの覚悟も、受け止めるのが……私の、覚悟だから」
焼け付く蒸気が放たれる中、ミライの歌が魂をぶつける。頬を伝う涙と共に、その身が倒れるまで、彼女は歌い続けた。
番犬たちは、次々と身を捨てて突貫する。
「デバイス、二人を回収して……! 安全なところに!」
「クソ……まだか! こっちはもう、誰も耐えきれん!」
だがその気迫は、お互い様だ。敵は鉄くずのように歪みながらも、一歩も退きはしない。
「戦闘不能が四人。つまり退き時だね。最初の予定では」
「でもそれは……勝ち目がなかったら、よね!」
紫電を噴き上げながらも、敵は再び閃光を充填し始める。
「私ね、意外と修羅場もくぐってるの。強い殿方に凄まれた程度じゃ、怯まないわ! 呪いの圧なら、誰にも負けない……!」
紡げる限りの呪いを込めて。篠葉の放つ重力が、金色の巨体を上から押さえ込む。
この間に決着をつけなければ、この怪物は全周を閃光で薙ぎ払い、全てが決する。
逃げるか。攻めるか。
番犬たちは……。
「いいぜ……! 度胸競べだ、デカブツ! 良き終焉(オワリ)のための、新たなる開闢(ハジマリ)を! 俺が齎して見せる!」
「お熱いのは得意じゃないけど、こうもみんなに身を挺されちゃあ、ね……! 格好いい、お兄さんとしてはさ!」
ランドルフとヴィルフレッドが銃を突き立て、霊弾を握ったエヴァリーナの拳が装甲の隙間に突き刺さった。
「退くべきだってわかってる。それでも、魔女医の務めと誇りに懸けて……譲らないの。皆の覚悟を結ばせるのが……私の仕事だから……!」
『……!』
(「さあ……一斉に!」)
番犬たちはグラビティを解き放つ。
金色の巨体から閃光が迸った。
そして、音が飛び、視界が白く絶えて……。
●
戦場に、静寂が戻る。
砕けた瓦礫が散乱する広間で、土煙が晴れていく。
むせ込む音と共に、瓦礫の中から立ち上がるのは……満身創痍の四つの影。
ふらふらと降りてきたデバイスからは、闘いに傷つき倒れた四人がよろりと降りて。
全てを出し尽くした番犬たちは、言葉もないまま頷き合った。
三機の星を、墜としたのだと……。
作者:白石小梅 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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