ハンドミキサーは回らない

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 ゴミ捨て場に捨てられていたのは、ハンドミキサーであった。
 ハンドミキサーが、いつから捨てられているのか分からない。
 ただ、ひとつ言える事は、まだ使える状態であるにもかかわらず、捨てられたという事だった。
 それはハンドミキサーにとって、屈辱的な事。
 決して、あってはならない事だった。
 だが、自分では、どうしようも出来ない。
 そもそも、身体が動かない。
 その悔しさと怒りと絶望が、ハンドミキサーの中で渦巻いた。
 その思いに導かれるようにして、姿を現したのは、小型の蜘蛛型ダモクレスであった。
 小型の蜘蛛型ダモクレスは、カサカサと音を立てて近づき、ハンドミキサーに機械的なヒールを掛けた。
「ハンドミキサァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したハンドミキサーが、耳障りな機械音を響かせながら、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)さんが危惧していた通り、都内某所にあるゴミ捨て場でダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にあるゴミ捨て場。
 ここに捨てられていたハンドミキサーが、ダモクレスと化すようだ。
「ダモクレスと化すのは、ハンドミキサーです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、今回の資料を配っていった。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスと化したハンドミキサーは、ロボットのような姿をしているようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
六星・蛍火(武装研究者・e36015)
漣・雫紅(紅葉と夕空・e77286)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
九田葉・礼(心の律動・e87556)

■リプレイ

●都内某所
「まさか私が危惧していたダモクレスが本当に出て来るとは……。さすがに、これは他人事では無いでしょうし、私が倒す必要がありそうですね。何やら因縁めいたモノも感じますし、放っておく事など出来ません」
 兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認されたゴミ捨て場にやってきた。
 その場所は、廃校になった小学校の裏側にあった。
 以前まで、子供達の笑い声で賑わっていた小学校も、少子化に伴い廃校になってしまい、その裏側にあった雑木林がゴミ捨て場になっていた。
 当時はそこで肝試しなども行われていたようだが、今では大量の草木で覆われ、道も無くなっており、ゴミが山積みになっていた。
 それが、物悲しく感じられたものの、ゴミを捨てる者はいても、片付ける者はいなかった。
「無機物の電化製品に心が宿り、それをダモクレスが生き物らしく動かすのね……。心を得るって幸せじゃないのかも」
 九田葉・礼(心の律動・e87556)が、複雑な気持ちになった。
 それだけ大切に使われていたのかも知れないが、最後に行き着いた場所がゴミ捨て場である事を考えると、幸せな最後とは言えなかった。
 その事に気づいてしまったため、問題のハンドミキサーも、残留思念を漂わせ、小型の蜘蛛型ダモクレスを呼び寄せてしまったのかも知れない。
 それはハンドミキサーが望んだ未来では無かったのかも知れないが、呼び寄せたのは紛れもなくハンドミキサー自身であった。
「でも、どうして捨てられたのかな? 何か理由があると思うんだけど……」
 漣・雫紅(紅葉と夕空・e77286)が、事前に配られた資料に目を通した。
 資料を見る限り、理由は不明。
 おそらく、何らかの事情があって、捨てる事になったはずだが、あまりにも情報が少な過ぎた。
 ある程度、思い入れがあったような気もするのだが、限られた情報から、それを判断する事は難しかった。
 それでも、何か深い理由があって、捨てる事になったような感じがした。
 こればかりは想像するしかないのだが、ハンドミキサーにとって、望まぬ最後であった事は間違いない。
「ハンドミキサーがどうして捨てられたのか分からないけど……。おそらく、性能の良さがもっといい機種が出たから、とかじゃないかしらね」
 そんな中、六星・蛍火(武装研究者・e36015)がキープアウトテープを貼りつつ、自分なりの考えを述べた。
 もしも、それが事実であったとしたのなら、それを目の当たりにした時、ダモクレスと化したハンドミキサーが、どういう反応を示すのか容易に想像する事が出来た。
 それは、最悪の未来であり、最もあり得る現実であった。
「ハンドミキサァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したハンドミキサーが、ゴミの山を弾き飛ばし、ケモノのような機械音を響かせた。
 ダモクレスはロボットのような姿をしており、両腕のハンドミキサーをフル回転させながら、螺旋状のビームを放ってきた。
 それはありとあらゆるモノを回転させ、カマイタチ現象の如く、衝撃波のようなモノを作り出していた。
「まさか、いきなり攻撃を仕掛けてくるなんて……」
 礼が信じられない様子で、ボディヒーリングを発動させた。
 おそらく、これは挨拶代わり。
 その証拠に、ダモクレスは既にエネルギーのチャージを始めていた。
 そこまで恨まれる理由は、何もないのだが、ダモクレスと化した事で、記憶を書き換えられている可能性が高かった。
 しかし、それは完全な逆恨み。
 身に覚えのない事で、ダモクレスから恨まれてしまっているのだから、悲劇以外のナニモノでもなかった。
 だからと言って、ダモクレスを説得している暇などない。
 そもそも、説得を受け入れる程、ダモクレスとフレンドリーな訳でもない。
「さぁ、行くわよ月影。サポートは任せたからね!」
 そんな空気を察した蛍火が、ウイングキャットの月影と連携を取りつつ、ダモクレスに攻撃を仕掛けていった。
 ダモクレスの装甲は無駄に硬かったが、月影は怯む事なく引っ掻き、ビームの発射を遅らせた。
「ハンドォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 だが、ダモクレスはまったく怯んでおらず、逆にケルベロス達が敵であると言う認識に間違いはないと確信している様子であった。
 それが単なる誤解であっても、間違いを正している時間はない。
 状況的には、火に油を注いでいる状況であっても、ケルベロス達に、それを正す術などないのだから……。
「まずはその素早い動きを、封じてあげるよ!」
 その事に危機感を覚えた雫紅が、ダモクレスにスターゲイザーを炸裂させた。
 この状況で考えている暇はない。
 とにかく倒す、全力で!
 その事だけを考えていなければ、ダモクレスの攻撃を食らって、あっと言う間にオダブツである。
「それでは、私はビームの発射口を破壊しておきますね」
 その流れに乗るようにして、紅葉がスターゲイザーを放ち、ビームの発射口を破壊した。
「ミィィィィィィィィィィィィィィイ!」
 その事にショックを受けたダモクレスが、両腕のハンドミキサーを回転させ、ケルベロス達に襲いかかってきた。
 その途端、ケルベロス達の脳裏に、ダモクレスの攻撃を食らって、グチャグチャになる未来の自分が映し出された。
 それは、あくまで可能性。
 それでも、確実にそうなってしまうのではないかと確信してしまう程、危険な雰囲気が漂っていた。
 そのため、全力。
 避ける事だけを考え、一定の距離を取った。
 そうしなければ、原型を留めぬ程、グチャグチャになってしまう可能性があるのだから、当然の反応である。
「ハンドミキサーは人を傷つけるための道具ではないのに……」
 そんな中、礼がエナジープロテクションを発動させ、ダモクレスの攻撃を防いだ。
 だが、ダモクレスは諦めておらず、耳障りな機械音を響かせながら、何度もハンドミキサーを叩きつけた。
 それでも、礼が作り出した盾は丈夫で、破壊する事が出来なかった。
「オーラの弾丸よ、敵に喰らい付きなさい!」
 その隙をつくようにして、蛍火がダモクレスに気咬弾を撃ち込んだ。
 蛍火が放ったオーラの弾丸は、ダモクレスに食らいつき、容赦なく装甲を剥ぎ取った。
「キィィィィィィィィィイィィィィィィィィィィィィ!」
 その事に苛立ちを覚えたダモクレスが、オーラの弾丸を振り払うようにして、ハンドミキサーを振り回した。
 しかし、届かない。
 届きそうで……届かない!
 そのせいで、ダモクレスがイライラ、ムカムカ。
 逆にストレスばかり溜まってしまい、冷静な判断力を失っているようだった。
「まだまだ動けるようですね。それなら、貴方の生命力を奪って、大人しくさせるだけです……!」
 それに合わせて、紅葉が尋常ならざる怪力で、ダモクレスの装甲を剥ぎ取り、生命エネルギーを啜り始めた。
「サ、サ、サ、サ、サァァァァァァァァァァァ……」
 その攻撃を食らったダモクレスが、激しく体を震わせ、傷口からオイルにも似た液体をドクドクと垂れ流した。
 それがアスファルトの地面に広がり、漆黒の闇に変えていった。
「……悲鳴を上げている余裕なんて無いと思うよ」
 そこに追い打ちをかけるようにして、雫紅が月光斬を仕掛け、ダモクレスの右腕を斬り落とした。
 その切断部分からオイルにも似た液体が噴き出し、さらに辺りを漆黒の闇に飲み込んだ。
「ハンドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 それと同時に、ダモクレスが悲鳴にも似た機械音を響かせ、ハンドミキサー型のミサイルを飛ばしてきた。
 それがクルクルと回転しながら、ブロック塀や、アスファルトの地面を削り、大爆発を起こして、大量の破片を飛ばしてきた。
「そんな攻撃で、私達が怯むと思っていたのですか? それなら、その判断は間違っていましたね」
 その間に、紅葉が一気に距離を縮め、月光斬を繰り出し、ダモクレスの右腕を斬り飛ばした。
 その拍子に、ミサイルの破片が身体に突き刺さったものの、悲鳴を上げている暇はなかった。
 そのまま、紅の和み(日本刀)についた液体を払い、華麗に舞い踊るようにして、ダモクレスに斬りかかった。
「ミキサァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その事に危機感を覚えたダモクレスが、再びミサイルを発射しようとした。
 しかし、ミサイルを発射できない。
 ダモクレスの気持ちに反して、ミサイルを発射する事が出来なかった。
 おそらく、先程の攻撃でミサイルの発射機能に損傷を負ったのか、ウンともスンとも言わなかった。
「ハ、ハ、ハ、ハァァァァァァァァァァァァァ」
 それでも、必死にミサイルを発射しようとしていたが、歯車が軋む音と共に真っ黒な煙が上がってきた。
「……!」
 その邪魔をするようにして、月影がダモクレスのまわりに飛び回り、ミサイルを発射する邪魔をした。
「ンドォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 その事に気づいたダモクレスが、月影を振り払おうとしたが、両腕を失っているため、文字通り手も足も出なかった。
「いまさら何をやっても無駄よ。弱点を見抜いた以上、あなたに勝ち目がないわ」
 蛍火が破鎧衝を繰り出し、ダモクレスの弱点を見抜き、痛烈な一撃でブ厚い装甲を破壊した。
「ミィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その途端、無防備なコア部分があらわになり、ダモクレスが動揺した様子で後ろに下がった。
 だが、両腕を失っているため、まったく身を守る事が出来なかった。
『この一太刀で、全てを切り裂きます!』
 それと同時に、雫紅が夕焼けの一刀(ユウヤケノイットウ)を仕掛け、緋蓮刀に膨大な霊力を注ぎ、鋭い切れ味を更に強化し、無防備なコア部分ごとダモクレスを一刀両断した。
「キサァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスが断末魔のような機械音を響かせ、大爆発を起こして、ガラクタの山と化した。
「不要になった家電を弔える場所ってないのかな。ダモクレスがいなくなったら、ますます彼等の悲しさの行き場が失われるような気が……」
 そんな中、礼が複雑な気持ちになりながら、ダモクレスだったモノを見下ろすのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月6日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。