迎撃、星戦型ダモクレス~決戦! 番犬vs三獣機

作者:坂本ピエロギ

「お疲れ様です、皆さん。いよいよ決戦の時が迫ってきましたね。超神機アダム・カドモンとの交渉が決裂した後、対応を決める投票でダモクレス勢力との戦争が決定しましたが……敵の侵攻は予想以上に迅速です」
 ムッカ・フェローチェはそう言って、ケルベロスたちに説明を開始した。
 ダモクレスの本星『惑星マキナクロス』が太陽系に侵入してから数日。その僅かな間に、マキナクロスが太陽系惑星を機械化していることが確認された。予知によれば、彼らの狙いは、季節の魔力を宇宙規模で発生させることにあるという。
「それが『グランドクロス』です。ダモクレスは機械化した惑星の運航を制御し、そうして得た魔力で『暗夜の宝石である月』を再起動させて、地球のマキナクロス化を実行しようとしているのです」
 いったん暗夜の宝石が起動されれば、それを止める術は存在しない。
 地球は一瞬にして機械化惑星へと変わり、地球側の敗北は決定的となるだろう。
 さらに悪いことに、マキナクロスは亜光速――ケルベロスブレイドよりも速い航行速度を有しているため、宇宙空間で迎撃を行うことも不可能なのだ。
「すでにダモクレスは火星の改造を終え、金星へと移動を開始しています。そして火星から金星に向かう地球周回軌道上で、グランドクロスの起動キーを果たす『暗夜の宝石』に制圧部隊を転移させて来るでしょう」
 本作戦ではケルベロスブレイドで月へと急行、魔空回廊から転移してくる敵の奪還部隊を撃破し、月の起動設備を防衛することが目的となる。襲撃が行われるポイントについては、聖王女エロヒムの助力によって詳細な場所が判明している状況だ。
「宇宙の未来を決定する戦いになります。確実に勝利し、地球の勝利を導いて下さい」
 ムッカは信頼の眼差しをケルベロスに送り、さらに説明を続けた。

 本作戦の戦場は、月面に存在する複数の神殿型遺跡となる。
 この遺跡群は暗夜の宝石の制御を司る施設で、遺跡内には制御用の機械が機能を停止した状態で放置されている。作戦目標はこの装置を守り切ることだが、もしも防衛が困難と判断した時は破壊して撤退することも出来る。
「戦争勝利後のことを考えれば破壊は避けたいところですが、地球をマキナクロス化される訳にはいきません。いざという時の選択肢として覚えておいて下さい」
 予知によって得られたポイントへ先回りし、魔空回廊から出現するダモクレスを撃破。
 そうして遺跡の制御装置を防衛し、地球のマキナクロス化を阻止する――。
 以上が作戦の流れだとムッカは告げて、敵戦力の説明へと移った。
「出現する敵は全部で3体。いずれも星戦型と称される宇宙戦闘用の個体で、強力な戦闘力を有します。ただし転送可能なのは1回につき1体、再転送には8分間の時間が必要です。これをうまく利用すれば、各個撃破も可能となるでしょう」
 ムッカによると、ムッカチームの戦場に現れる敵は『タウロス』『ゼブル』『リーオー』と呼ばれる獣型のダモクレスだという。
 タウロス。雷を帯びた大斧を駆使して戦う、牛型の獣機。
 ゼブル。高い機動力と狙撃力を武器とする、縞馬型の獣機。
 リーオー。3体の中でも突出して高い火力を誇る、獅子型の獣機。
 彼らはアダム・カドモンへの忠誠心と、そのアダム・カドモンが認めたケルベロスへの敬意を胸に、出し惜しみのない全力攻撃を仕掛けて来る。撃破するには綿密な連携が不可欠となることを告げて、ムッカは説明を終えた。
「ダモクレスとの雌雄を決する戦い、私も最後まで助力します。どうか皆さん、地球の……そして宇宙の未来のため、確実な勝利をお願いします」


参加者
風音・和奈(前が見えなくても・e13744)
葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)
安海・藤子(終端の夢・e36211)
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)
狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)
ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)

■リプレイ

●一
「ヘリオンデバイス、起動確認。みんな行くよ!」
 宇宙装備ヘリオンを出撃し、月へ降下した風音・和奈(前が見えなくても・e13744)は、先陣を切って駆けだした。
 暗夜の宝石を制御する月面遺跡群、その一角。魔導神殿にも似た荘厳な造りをした建物の中を、和奈ら6人のケルベロスたちは進んでいく。目的地への道程を把握している彼女らの足取りに、一切の迷いはない。
「酸素や重力は地球と同じか。声が届くのは助かるよ」
 タイマー機能つきの腕時計に目を落とし、和奈は小さな拳をギュッと握る。
 強敵との3連戦をという任務において、時間管理は不可欠だ。地球をマキナクロス化から守るためにも、この戦いは絶対に負けられない。
「千手観音とはいかないけれど、誰も死なせないよ」
 己が決意を示すように、6本の機械腕をブンブンと振り回す和奈。
 そんな彼女の言葉に、葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)は小さく頷いてみせる。
「頑張りましょう。宇宙の未来を、我々の手で開くためにも」
 口にこそ出さないが、元ダモクレスでもあるかごめにとって十二創神アダム・カドモンの主張は共感に値するものだ。しかし、地球のマキナクロス化には応じられないことも、彼女にとって譲れない一線だった。
(「交渉が決裂した以上、ダモクレス勢力とは戦う以外にない。ならば私は最後まで、自分の意思を貫くまでです」)
 強化ゴーグル型デバイス越しに見据える先、目的地の広間が見えてきた。
 敵影は未だゼロ。おそらく数分のうちに、戦闘が発生するだろう。
「星戦型ダモクレスが3体……厳しい戦いとなりそうですね」
 ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)は隊列の先頭、地を蹴る蹄に力を込めて、駆ける速度をいっそう上げていく。
 数多の戦場を駆け続けた彼にとって、背水の陣ともいえる今回の戦いは、どこか懐かしささえ覚えるものでもある。だが、かつてと今の自分では、ひとつ決定的な違いがあることをローゼスは知っていた。
 今の彼には、ともに戦う仲間たちがいることだ。
「もう、一人で駆ける必要はない。参りましょう」
「ああ。必ず勝って帰るぜ」
 地獄炎を燃え盛らせて、狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)が頷いた。
 種族を問わず、敵対するデウスエクスには一切の容赦をしない番犬。そんな彼にとって、この戦いに臨む理由は至って簡潔だ。
「相手が殺る気なら、その前に殺る――それだけだ」
 そうして広間へ辿り着くと、ジグはジェットパックで浮遊。
 戦場の地形を、安海・藤子(終端の夢・e36211)らと共有していく。
「制御用の装置は、入口の両脇にある2つだな」
「破壊は撤退時で問題なさそうね。……その機会が来ないと良いけど」
 停止した機械群を布面ごしに眺めながら、肩を竦める藤子。
 と、その時。デバイスで飛行する人首・ツグミ(絶対正義・e37943)が、周囲の仲間へと警告を発した。
「くふふ。来たようですねーぇ」
 ツグミが指さす先、それまで何もなかった空間が渦巻き始める。
 敵の魔空回廊に間違いない。次いで渦から現れたのは、巨大な牡牛型のダモクレス――『斧激型ボヴァロイド』タウロスだった。
「さて、さて。張り切って粛清と行きましょうかーぁ」
「最後の大一番だろうし、ここが肝要よね。いい未来に向けて頑張りましょう?」
 嬉々としてバスターライフルを構えるツグミ。
 藤子は緑色の瞳を爛々と輝かせ、一変させた口調とともにオルトロスへ指示を飛ばす。
「護衛は任せたぞ、クロス。さあ、闘り合いといくか!」

●二
 生命か機械か、定命か不滅か。
 番犬とダモクレス、譲れぬ未来を背負う者たちが、雌雄を決さんと戦闘を開始する。
『我等マキナクロスの未来のため! 勝負だ、ケルベロス!』
「我が名はローゼス! この場は我らが掌握しようぞ!」
 堂々たる名乗りとともに、先陣を切ったのはローゼスだ。
 彼のゾディアックソードは鞘から抜き放たれると同時、描き出された星座の守護で前衛の仲間を包み込んでいく。
 時を同じくして、ツグミはデバイスの力で飛びながら、バスターライフル『solitaire』の照準を狙い定める。『正義の味方』を自称する彼女にとって、為すべきことはシンプルだ。敬意には敬意をもって、悪であろうダモクレスを粛正する――それのみ。
「くふふ。耐えられますかーぁ?」
 周囲に広がる床面もろとも、凍結光線が標的を包んだ。
 凄まじい威力を誇る砲撃と共に、絶対零度の氷に身を覆われながらも、タウロスはまるで怯んだ様子がない。それどころか、その目に賞賛の色さえ浮かべると、雷を纏わせた黒鉄のボディで突撃を繰出してきた。
『ぬうんっ!』
 雷を帯びた巨体が、鉄槌さながらに暴れ狂った。
 妨害特化の個体とは思えぬ火力に服を破られるのも構わず、藤子はオウガメタルを展開。同時、オルトロスへ攻撃指示を飛ばすとレスキュードローンで回復力をブーストし、前衛へオウガ粒子を散布する。
「行け、クロス。容赦するな!」
 かけ声と共に放たれたのは、ソードスラッシュの一閃だった。
 かごめを庇って受けた傷をオウガ粒子で塞ぎ、突撃。前列から浴びせる剣はタウロスの装甲を切り裂き、その守りを剥ぎ取っていく。
『ぬっ……!?』
「捉えました。――そこです」
 露出した傷口を狙い定め、エアシューズを装着したかごめが加速。
 回避を奪う流星蹴りの一撃は、剥いだ装甲の隙間を寸分違わずに穿ち、タウロスの生命を奪い去る。そこへ追撃となって襲い来る、ジグのズタズタラッシュ。けたたましい金属音を立てながら、回転刃の斬撃が漆黒の金属片を床にぶちまけた。
「遊んでる余裕はねぇんでな。速攻で行かせて貰うぜ」
「くらえっ、フォーチュンスター!」
 和奈は妖精靴で生成した星を叩き込みながら、腕時計に目を落とした。
 残り時間は3分。敵へのダメージ蓄積は順調だが、ケルベロス側の負傷も軽くはない。
 斧の乱舞からツグミを庇うと、和奈は挫けそうになる気持ちをシャウトで吹き飛ばす。
「絶対に……負けないっ!」
「たいしたパワーだ。さっさと片付けないと面倒だな」
 藤子は負傷した体を叱咤して爆破スイッチをオン。七色の煙幕で後衛を鼓舞していく。
「行け。叩き潰してやれ!」
「突撃! いざ、目標を蹂躙せよ!」
 同時、ローゼスが疾駆。力強い蹄で地を蹴ると、戦場を駆け巡る。
 セントールの超加速突撃が繰り出す『Aimatinos thyella』の一撃だ。赤い風と化した彼が繰り出す刃は、変幻自在の軌道をもってタウロスを捉え、その装甲を剥ぎ取る。
「好機です。総攻撃を!」
 そうしてローゼスの声に応えたのは、3人のアタッカーが織りなす一斉攻撃だった。
 狙いすまして発射される、かごめのフロストレーザー。直撃を浴びて凍結するタウロスの身体めがけ、ジグのチェーンソー剣が紅い火花を散らし、ジグザグの斬撃で切り開く。息もつかせぬ猛攻撃が、漆黒の機獣を着実に追い詰めていく。
「みんな、残り1分!」
「了解ですよーぅ。……真理の崩壊、法則の崩壊、人であることの崩壊――」
 和奈の合図が飛ぶと同時、ツグミは詠唱を開始した。
 『魂魄収斂禍』。降魔拳士として喰らってきた魂の全てを圧縮し、その爆発をもって敵を消し去る、危険極まりない代物だ。
「くふふ、ふ。手間暇も人生も掛かった一撃ですから、ちゃんと味わってくださいねーぇ」
 詠唱完了。混ぜ込んだツグミの魂が同調し、弾けた。
 突然の爆発によって生じたエネルギーの奔流が、タウロスを飲み込む。迸る雷、鋼の体、赤く光るコア、その全てを塵へと変えながら。そうして己の死を悟ったタウロスは、最期に大きな嘶きを上げて、
『ゼブル、リーオー! すまぬ……!』
 同胞への慟哭を遺し、跡形もなく砕け散った。

●三
 勝利によって訪れた静寂は、数秒で破られることとなった。
 戦場の中央に展開する魔空回廊。そこを飛び出たのは、神速を誇る縞馬型のダモクレス、『一意戦神』ゼブルである。
『タウロス……お前の遺志は俺が継ごう! 行くぞ、ケルベロス!』
「やれやれ、休む暇もないってか……!」
 藤子は目力でゼブルを睨みつけながら、オウガ粒子の散布態勢に入った。
 敵の回避は並ではない。撃破に手間取れば、それだけケルベロスは不利を強いられる。
 命中の確保。それが最優先すべき事柄だった。
「メタリックバースト、準備よし! 全員叩きのめしてやれ!」
 藤子の飛ばす檄が、一斉攻撃の合図となった。
 先陣を切って襲撃をかけるのは、エクスカリバールを握るツグミだ。
「くふふ。そこですぅ!」
 デバイスの推力で加速し、投擲。藤子のオウガ粒子が舞う中を、恐るべき破壊力を秘めたバールが追尾の軌跡を描いてゼブルに迫る。頭部を狙ったその一撃は、しかし僅かに狙いを外れ、ゼブルの肩先を吹き飛ばすに留まった。
「命中確保が足りないわ。かごめさん、砲撃いくわよ!」
「了解しました。竜砲弾、発射!」
 かごめは和奈に頷きを返し、息を合わせて轟竜砲を発動した。
 強化ゴーグル型デバイスで強化されたかごめの一撃は、決して狙いを過たない。立て続けに響く炸裂音。幾度も繰り返される2人のコンビネーション砲撃を浴びて、ゼブルの動きが少しずつ鈍っていく。
「第三波までの残り時間は?」
 スターサンクチュアリで前衛を包むローゼスの問いに、和奈は3分と答える。
 戦闘開始から既に10分以上。休みなき戦いによって着実に蓄積されていくダメージが、焦燥の炎となってケルベロスの心を焦がす。対するゼブルもまた負傷を重ねながら、さらに勢いを増して攻撃を続行する。
『どうした! お前たちの力、そんなものではなかろう!』
 ゼブルのランページアタックからジグを庇い、クロスが消滅する。
 お返しとばかり振り下ろされる、ズタズタラッシュの斬撃。竜砲弾の傷口を切り開かれて回避を失っても尚、ゼブルの攻めは衰えない。そこには怒りでも憎しみでもない、強敵たるケルベロスへの称賛があった。
『なんと素晴らしい力……流石はアダム・カドモン様がお認めになった相手だ!』
「ありがとよ。お前は一足先に、あの世で超神機を待ってな!」
 藤子は爛々と双眸を輝かせ、爆破スイッチに指をかけた。
 残り1分の合図が和奈から飛ぶ。同時、後衛へブレイブマインを発動。
 息を合わせ、仲間5人が一気呵成に攻撃を繰り出していく。
「今だ、ゼブルを倒せ!」
 ローゼスの脚が繰り出すスターゲイザー。ジグが振るうチェーンソー斬り。
 足止めとジグザグのコンビネーションで回避能力を完封されたゼブルへ襲い掛かるのは、ツグミの魂魄収斂禍が織りなす爆発だ。
「くふふ。年貢の納め時、ですよーぅ?」
『ぐおぉ……っ!!』
 ゼブルは苦悶の声を漏らし、一意戦神モードの発動態勢に入った。
 傷を癒し、戦闘を続ける気なのだろう。だが、かごめの『壊神掌』はそれを許さない。
「回復はさせません」
 そして――。
 呪詛を込めた掌底打ちを撃ち込まれ、ゼブルが致命傷に悶絶した、その刹那。
 フォーチュンスターで仲間を援護していた和奈が、戦場の中央を指さして告げた。
「みんな、あれ……!」
 魔空回廊から現れた最後の敵。獅子の姿を有する、指揮官リーオーの出現である。

●四
 星戦型ダモクレスが2体――それを見たかごめの判断は迅速だった。
 火力に優れるリーオーを放置すれば苦戦は免れ得ない。ならば、為すべきは只一つ。
「私はリーオーを抑えます。皆さんはゼブルの撃破を!」
「くふっ。了解ですぅ」
 バールを構えるツグミ。させじと突撃するゼブルを、和奈が真正面から防ぐ。
「どこを狙っているの!? アンタが傷付けて良いのはアタシだけだ!!」
『マキナクロスのため、負けるわけには……!』
 全身から煙を吹きながら、なおも攻撃を続行せんとするゼブルへ、ツグミの投げバールが命中した。鉄が砕ける鈍い音。そうして頭部を失ったゼブルが爆散するのと同時、かごめのゼログラビトンがリーオーを捉えた。
「重力中和光線、発射!」
『遅いぞ、ケルベロス!』
 装甲で弾ける光弾。リーオーが牙をむいたのは、その直後だった。
 初期化力場――保護を消去する深紅のフィールドがケルベロスの後衛を包んだ。かごめが衝撃で吹き飛び、そのまま昏倒する。全身を攻撃グラビティに曝された藤子もまた、口から溢れ出す血で制服を赤く染め、床に倒れた。
「葛城さん、安海さん……!」
 ツグミを庇った和奈はシャウトで懸命に傷を塞ぐ。狙撃役と回復役が倒れた今、残された猶予は僅かしかない。ふらつく肉体を叱咤して、懸命にアタッカーを守る和奈とローゼス。その2人に守られながら、ツグミとジグが降魔真拳を振るいリーオーを攻める。
「潰すが先か潰されるが先か。くふ、容赦しませんよーぅ?」
「ぶった斬ってやるぜ、獅子野郎」
 傷だらけの体を不屈の精神で支え、なおも抗うケルベロス。
 序盤の被弾で火力を減じながらも、怒涛の勢いで暴れ続けるリーオー。
 ローゼスは押し寄せる猛攻撃をシャウトで凌ぎながら、ツグミとジグへ目を向けた。2人の攻勢は火のように凄まじく、着実にリーオーを削り続ける。だが――その刃は、あと一歩のところで敵の心臓に届かない。
(「ダモクレスの精鋭、伊達ではないということか……!」)
 そして――。
「みんな、後はお願い……!」
 激闘が敵味方の体力を容赦なく削る中、轟咆からジグを庇った和奈がついに倒れた。
 残る仲間はあと3人。これ以上の戦闘は危険と判断したツグミとローゼスは、その狙いを神殿の機械へと切り替える。
 ダモクレスに此処を利用されぬよう、撤退前にあれを破壊しなければ。
 ――そう決意した、次の瞬間。
「悪い。……二人とも、あと頼むわ」
 ヒュン。
 不吉な風切り音が響き、次いでリーオーの右腕が玩具のように軽々と吹き飛んだ。
「狼炎さん?」
 まさか、とツグミが視線を向けた先。
 そこにいたのは、赤黒いオーラで全身を染め上げ、破壊の化身となったジグの姿だ。
 悪魔さえも怯みそうな凄絶な笑みを浮かべ、ジグは餞の言葉をリーオーへ投げる。
「お前らの強さはよーく理解した。だが俺たちも――絶対に負けられねぇんだわ!」
『ぬ……ぬおおおおおおおおおおおっ!!』
 軛を外れ、爆発的に膨れ上がったグラビティがリーオーのコアを抉った。恨みの力が奔流となって荒れ狂い、リーオーを跡形もなく消し飛ばす。時を同じくしてジグの肉体もまた、異形へと変貌を遂げていく。
「もう、長くは保ちそうにねぇ……必ず、必ず勝ってくれ……!」
 地獄化した声帯から言葉を振り絞り、遺跡の外へと消えるジグ。
 ケルベロスたちはその背中を見送ると、守り抜いた遺跡を後に、ヘリオンの回収ポイントへ帰還を開始するのだった。
 6人で掴み取った戦果を未来へ繋ぐため。
 地球と、そして宇宙の明日を切り開くために――。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604) 
種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:6人
結果:成功!
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