●都内某所
廃墟と化したライブハウスに捨てられていたのは、エレキギターであった。
かつて、それを愛用していたのは、このライブハウスで有名だったロッカーであった。
彼の歌声は聞く者達を魅了し、エレキギターの音色を聞いただけで、文字通り痺れてしまう程だった。
だが、その男性がライブの途中に倒れて、命を落とした。
そのため、エレキギターは誰にも使われる事なく、ライブハウスに飾られる事となった。
しかし、エレキギターからすれば、まったく訳が分からない。
きちんと仕事をやり遂げたはずなのに、何故さらしモノに……?
そうしているうちに誰もいなくなってしまい、今まで感じた事のないほどの静寂が、恐怖となってエレキギターに襲いかかってきた。
故に、求めた。
誰かの助けを……。
それが誰であろうと関係ない。
助けてくれれば、それでいい。
その思いが小型の蜘蛛型ダモクレスを呼び寄せた。
小型の蜘蛛型ダモクレスはエレキギターを見上げ、機械的なヒールを掛けた。
「エレキィィィィィィィィィィィィィィ!」
次の瞬間、ダモクレスと化したエレキギターが耳障りな機械音を響かせながら、ライブハウスの壁を突き破って街に繰り出すのであった。
●セリカからの依頼
「兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)さんが危惧していた通り、都内某所にあるライブハウスで、ダモクレスの発生が確認されました」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
ダモクレスが確認されたのは、都内某所にあるライブハウス。
このライブハウスに飾られていたエレキギターが、ダモクレスと化してしまうようである。
「ダモクレスと化すのは、エレキギターです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
そう言ってセリカがケルベロス達に対して、今回の資料を配っていった。
資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
ダモクレスと化したエレキギターは、全身に電気を纏ったロボットのような姿をしているようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。
参加者 | |
---|---|
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793) |
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205) |
エマ・ブラン(ガジェットで吹き飛ばせ・e40314) |
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566) |
四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764) |
●都内某所
「ダモクレスと化したのは、エレキギターか。あの激しい音楽は痺れるよね。でも、使われてこそエレキギターには価値があるものだよ。だから、ダモクレスになってしまったなら倒すしかないね」
四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認されたライブハウスにやってきた。
ライブハウスは既に廃墟と化しており、入り口には鍵が掛けられていた。
そのため、ケルベロス達は回り道をするようにして、裏口から室内に入っていった。
室内にはカビのニオイが充満しており、少し息をしただけでも、激しく咳き込んでしまう程だった。
「……まったく、厄介な来歴のギターもあったものですね。元々グラビティを奪う資質があって持ち主を死に至らしめたのか、或いは持ち主のいなくなった孤独を付けこまれたのか。……今までの傾向なら使われなくなったからという感じですけど、このギターの来歴化からすれば前者の可能性も捨てきれず。いずれにせよ、放っておく事は出来ませんし、倒すしかないですけれど……」
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)が、深い溜息を洩らした。
どんな理由であれ、ダモクレスと化した以上、やるべき事は、ひとつ。
例え、どんな事情があったとしても、情けを掛ける訳にはいかないのだから……。
「でも、かなり高価なモノだったんですよね? 何だか壊してしまうのは、勿体ない気がしますけど……」
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)が、複雑な気持ちになった。
おそらく、エレキギターを使いこなせる者がいない……もしくは、その事に対して不満を持つ者がいたのだろう。
結果的に、エレキギターを飾るという方向性で、話が纏まったようである。
「確かに、有名なロッカーのエレキギターってだけでも何か起こりそうな予感がするしね。最後に派手に送ってあげようかな。さあラストセッションだよ!」
エマ・ブラン(ガジェットで吹き飛ばせ・e40314)が肩出しヘソ出し生足なガールズロックな衣装姿でダモクレスの前に陣取り、ハープを奏でた。
「エレ……キ……」
その事に違和感を覚えたダモクレスが、警戒心をあらわにした。
おそらく、見慣れぬモノを前にして、色々な意味で危機感を覚えたのだろう。
まわりの空気がピリつき、パチパチと静電気が発生していた。
「エレキィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
次の瞬間、ダモクレスと化したエレキギターが、耳障りな機械音を響かせながら、ケルベロス達の前に現れた。
ダモクレスは全身に電気を纏ったロボットのような姿をしており、ケルベロス達に対して激しい敵意を向けていた。
「これ、ぶっ壊すのマジでファンにシノビネエのダワ……。相手の命を奪う覚悟はシテるとは言え、そういう方向で恨まれる覚悟には……ウーン……」
そんな中、パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)が深呼吸をして、ゆっくりと目を閉じた。
この状況で、そんな事をするのは、自殺行為に等しい事であったが、パトリシアには迷いがなかった。
少なくとも、10秒。
その時間さえあれば、覚悟が決まる。
それは一瞬であったが、本人には永遠にも感じられた。
いくつもの迷いが障害となって立ち塞がり、まるで迷路に迷い込んだような錯覚を覚えたが、途中で止まる事なく突き進み、そこでキッパリ覚悟を決めた。
「この場所なら、まわりを心配する必要もないので、後はギター君を何とかするだけですね」
その間、ジュリアスは警戒した様子で、ダモクレスに視線を送っていた。
しかし、ダモクレスは動かない。
まるでエネルギーをチャージするようにして、小刻みに体を震わせ……。
「エレキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
ケルベロス達に狙いを定めて、一気にビームを放出した。
そのビームは大量のビームが集まったモノで、辺りのモノを破壊しながら、ケルベロス達に迫ってきた。
「そんなに殺気を撒き散らしていたら、当たるモノも当たらないよ」
司が軽く皮肉を言いながら、死角に回り込むようにして、ダモクレスにスターゲイザーを繰り出した。
その途端、身体に纏わりつくようにして、ビリッと電波が駆け巡った。
「ならば、卓越した技術の一撃を、食らいなさい!」
続いて、紅葉が目にも止まらぬ速さで、達人の一撃を繰り出した。
「エレキィィィィィィィィィィィィィイ!」
それに対抗するようにして、ダモクレスがビームを放ち、バチバチと激しく電気を走らせた。
紅葉の身体にも一瞬動けなくなるほどの電気が走ったものの、我慢する事が出来ないほどのレベルではなかった。
「鳴かせてやるゼ、出来損ない!」
その間にパトリシアが距離を縮め、ダモクレスに降魔真拳を叩き込んだ。
だが、狙ったのは、あくまで異形と化した部分。
その上で、エレキギターを弾いて、ダモクレスの内に眠るソウルを刺激した。
「エ、エレキ……」
それがダモクレスの心に響いたのか、体に纏っていた電気が消えた。
「巧みなハープさばきでロックに革命を起こすよ。わたしの歌を聞けー!」
その隙をつくようにして、エマがブライブマインで、ド派手な花火を打ち上げ、テンションを一気に上げた。
その勢いに乗ってハープを奏で、極上のメロディと歌声をブチかました。
「……!」
その気迫に圧倒され、ダモクレスがビクっと震わせた。
そもそも、ハープにあるまじき音色が辺りに響いているのだが、ダモクレスはその事自体、まったく理解していない。
それでも、ハープの見た目に反して、ハードでロックな事は理解しているらしく、恐怖にも似た感情が芽生えていた。
「エ、エ、エ、エレキィィィィィ!」
その迷いを振り切るようにして、ダモクレスがカッター状の電気を飛ばしてきた。
「この程度の攻撃で、わたしのハープ魂を消す事なんて出来ないよ」
それでも、エマが怯む事なく、ハープを掻き鳴らした。
しかし、ダモクレスの攻撃によって、服はボロボロ。
今にも不自然な光がスポットライトの如く降り注ぎそうな勢いであったが、エマに迷いはなかった。
「弾いて千切ってイかせてヤるゼ、いい音で鳴きナ!」
その間に、パトリシアが間合いを詰め、ダモクレスに指天殺を繰り出した。
その途端、辺りに響いたのは、ソウルのこもった音色。
ほんの一瞬、ライブ会場にいるような錯覚に襲われ、存在するはずのない観客達の熱気が心の底まで伝わってきた。
おそらく、最初に覚悟を決めておかなければ、迷いの波に飲み込まれ、深い底に沈んでいたことだろう。
だが、パトリシアには迷いがなかった。
「あの世で相棒が待ってますよ? 少し遅くなってしまったかも知れませんが、大丈夫。相棒は決して、あなたを見捨てたりしませんよ」
それに合わせて、ジュリアスがダモクレスに語り掛けながら、絶空斬を繰り出した。
「エレ、エレ、エレキィィィィィィィィィィィィィ!」
ダモクレスが動揺した様子で、耳障りな機械音を響かせた。
この様子では、エレキギターだった頃の記憶が蘇り、ダモクレスに迷いが生じているのだろう。
「昔を思い出しているのかい? それなら、もっと熱くしてあげるよ」
そんな空気を察した司が、グラインドファイアを放ち、ダモクレスの身体を炎に包んだ。
「ギタァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
それと同時に、ダモクレスが悲鳴にも似た機械音を、辺りに響かせた。
「ダモクレスと化すことがなければ、こんな事にはならなかったのですが……」
そこに追い打ちをかけるようにして、紅葉がダモクレスの懐に潜り込み、月光斬を繰り出した。
「エ、エ、エレキィィィィィィィィィイ!」
次の瞬間、ダモクレスの左腕が宙を舞い、悲鳴にも似た機械音が辺りに響いた。
「ギ、ギ、ギタァァァァァァァァァァァァァ!」
それでも、負けるわけにはいかないと思ったのか、ダモクレスが音符型のミサイルをぶっ放した。
そのミサイルはノリノリと音楽を奏でながら、ド派手に爆発して、大量の破片を飛ばしてきた。
「随分と甘く見られたものだね。こんなモノで倒せると思われていたなんて……」
司が素早い身のこなしで、大量の破片を避け、紫蓮の呪縛(シレンノジュバク)でレイピアを華麗に振りかざし、ダモクレスに衝撃波をブチ当てた。
「ライブ会場がしっとりとしたところで、いよいよ本日ラストの一曲。『トーンアパート』で盛り上げてフィナーレだよ」
それに合わせて、エマがノリに乗った状態で「トーンアパート」を発動させ、屈せぬ決意の歌と共に放つ希望の光でダモクレスを射貫いた。
「さあ最後の演奏会ダ。ワタシはいつも末期のデウスエクスの全力に付き合ってやることにシてる。言ってるコトがわかるかどうかはシラネエが、かかってコイ。受けきってヤるゼ」
続いて、パトリシアがバビロンストレッチ・TG(バビロンストレッチトーキョーゴーストストーリー)を仕掛け、ダモクレスの身体に絡みついて肉体を反らし、捻る事で装甲をバキバキに破壊した。
「エ、エ、エレキィィィィィ」
その途端、ダモクレスが危機感を覚え、再びミサイルを発射しようとした。
だが、度重なる攻撃によって、身も心もボロボロ。
その上、ミサイルを装填しているだけの時間はなかった。
「貴方の生命力を、頂きますね!」
それと同時に、紅葉が尋常ならざる怪力によって、ダモクレスの装甲を剥ぎ取り、溢れた生命エネルギーを啜り取った。
「ギタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
そのため、ダモクレスは反撃する事さえ出来ず、断末魔を上げて完全に機能を停止させた。
「本星も近くなってきている事ですし、ダモクレスとの小競り合いは増えていくかもしれませんねえ」
そう言ってジュリアスが物思いに耽りながら、何処か遠くを見つめた。
エマも敵でありながら、熱いロック魂を持ったダモクレスを称え、胸に熱いモノを感じていた。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2021年6月1日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|