激闘７分間～メカ・ステゴサウルス出現！

■リプレイ

●敵出現直前
「それじゃ、俺は飛ぶぜ」
　クラッシャーの日柳・蒼眞（落ちる男・e00793）は、もう一人のクラッシャー、マーク・ナイン（取り残された戦闘マシン・e21176）にそう言い置くと、ジェットパック・デバイスでビルの屋上あたりの高度に飛び上がった。
　普通は、同じポジションにいる者が別列になる道理はないが、デバイスで飛んでいる者といない者なら、ポジションが同じでも別列になる。そして今回の敵は、全力で列攻撃を放ち、通常攻撃にも列攻撃がある。クラッシャーの一人が飛び、一人が飛ばずにいれば、列攻撃で一網打尽にされるのは避けられる、というわけだ。
（「そして経験則上、単体で飛んでいる俺に列攻撃はこない。狙われるのは、三人が同列になっている地上前列だ」）
　声には出さずに呟き、蒼眞は地上を見下ろす。クラッシャーのマークと、ディフェンダー二人、四季城・司（怜悧なる微笑み・e85764）と九田葉・礼（心の律動・e87556）が、封印されたダモクレス、メカ・ステゴサウルスが出現すると予知されたビルを半包囲するように位置している。
（「ナインと四季城はともかく、九田葉は心細いな……どこまでもつか」）
　参加メンバー中、最もレベルの低い新人の礼を思いやり、蒼眞は眉を寄せる。死ぬ恐れのないサーヴァントならともかく、低レベルのケルベロスがディフェンダーポジションを務めるのは危険だと彼は思うが、本人が承知の上で覚悟して務めるというのを止めるわけにもいかない。
　すると、どうやら蒼眞と似たような心配をしたらしく、メディックのニケ・ブレジニィ（マリーゴールド略してマリ子・e87256）がレスキュードローン・デバイスを召喚し、これを盾にして戦闘するよう礼に勧めている。当初は、敵の全力攻撃の予兆が見えたら召喚して囮にできないか、などと思案していたようだが、封印ダモクレスは概してレベルが高いので、それでは絶対に間に合わないと気付いたらしい。
（「そういやブレジニィは、レスキュードローンって高価なんでしょ、壊したらまずいかしら、とか言ってたが。ヘリオンから投射されるエネルギー体のデバイスに、値段なんかあるわけないだろうに」）
　どうせ依頼が済めば消滅させてエネルギーに戻すのだから、壊しても弁償なんて話にはならないが、逆に、いくら金を出しても買えるもんじゃないよな、と、蒼眞は小さく苦笑する。
　一方、事前に行動……というか、うろちょろしているのはニケ一人で、ジャマーの美津羽・光流（水妖・e29827）とリリス・アスティ（機械人形の音楽家・e85781）、スナイパーのカロン・レインズ（悪戯と嘘・e37629）は、それぞれのポジションで敵の出現を待っている。
　そしてニケが、礼の傍らにレスキュードローン・デバイスを残して、本来のポジションの後衛に戻って、間もなく。
　ヘリオライダーが予知した時間通りに、予知されたビルが内側から爆発するように崩れ、全長7ｍ程度の大型ロボット……巨大恐竜型ダモクレス、メカ・ステゴサウルスが出現した。

●戦闘開始！
「最初位はイニシアチブ取りたいなぁ……大分状況が変わるんだよね。せめて敵の攻撃の前に……！」
　呟くニケの願いも空しく、メカ・ステゴサウルスは出現と同時に瞳を赤く光らせ、ケルベロスの誰よりも先に攻撃を開始した。
「シャギャアッ！」
　鋭い声で咆哮すると、ダモクレスの背中の放熱板が目映い輝きを放ち、口から激しい火炎が噴き出る。予想通り、炎はケルベロスの地上前衛……マーク、司、礼を襲う。
「庇いを……えっ？」
　マークを庇おうと飛び出した礼は、意志に反して、司の前に出てしまう。ディフェンダーの庇いは、確率で自動発動。庇うか庇わないか、誰を庇うか、自分で決めることはできない。
「ありがとう。だけど、これは……」
　効率の悪い形になってしまったね、と、司が苦笑を浮かべる。最も守りの固い司が無傷で、マークと礼が大きなダメージと炎のBSを負っている。
　一方、蒼眞が高空からメカ・ステゴサウルスの頭部を狙って急降下し、火炎弾を連続して叩きつける。身体に比して小さな頭部が炎に覆われ、ダモクレスは苛立たしげに頭を左右に振る。
「シャギャアッ！」
「行きますよっ！」
　後衛からカロンが跳躍し、ダモクレスの前足付け根に重力蹴りを打ち込む。四足歩行なので、そう簡単にバランスは崩れないだろうが、少しでも足取りを乱そうという狙いだ。
（「しかし……デウスエクスが地球を侵略し始めた頃は恐竜は当然、既に絶滅していたはずですから……これ作った方って、律儀に博物館を見学したのでしょうか？」）
　機敏に飛び退きながら、カロンは小さく首を傾げる。
（「巨大恐竜型ダモクレス……どんな人、いや、人ではなくてダモクレスですか、が作ったんでしょうね？」）
　そしてマークが、身体にまとわりつく炎をものともせず、真正面からガトリング砲を連射する。
「目標確認。SYSTEM COMBAT MODE……FIRE！」
「シャギャアッ！」
　嵐のように撃ち込まれる銃弾から、メカ・ステゴサウルスは神経質に頭を逸らす。
「意外に脆いんかな？　火力重視の量産型やからな」
　それにしてもステゴサウルスかいな、恐竜好きなダモがおったんやろな、と呟きながら、光流がカロンが打ち込んだのとは反対側の前足付け根に、重力蹴りを見舞う。
「僕も恐竜には興味があるけど、あの大人しそうなステゴサウルスが破壊を繰り返すなんて、放っておけないね」
　そう言いながら、司は礼に気力を送り、ダメージを治癒して炎を消す。この状況では、礼かマークのどちらかを強力に治癒してBSを消しておかないと危ない。
　そしてリリスが、オリジナルグラビティ『機械仕掛けの夜想曲（メカニカル・ノクターン）』を発動させる。
「わたくしの演奏、聴いて頂けると幸いです」
　猛り狂うメカ・ステゴサウルスに向けて丁寧に告げると、リリスは即興で作曲した夜想曲をバイオリンで奏でる。その途端、メカ・ステゴサウルスの四肢の付け根で、耳障りな異音が生じる。どうやら、演奏をよく聞こうとして無理な体勢をとってしまい、脚にダメージが走ったらしい。
　ニケはマークの側へ走って左肩に白で『R．F．』とペイントする。ゴッドグラフィティの効果で、強力な治癒と破壊力上昇が付与され、更にメディックの特殊治癒効果で炎が消える。
「ありがとう、助かる！」
「これが役目だもの。任せて！」
　律儀に礼を言うマークに、ニケは笑顔で応じる。
　一方、礼は自分を含めた地上前衛に、エクトプラズムを使ったヒールとBS耐性の付与を行う。
　そして、メカ・ステゴサウルスの尻尾が持ち上がり、棘状のミサイルが発射される。狙われたのはマークだったが、今度は司が飛び出して庇う。
「これは……ディフェンダー以外、いや、僕以外が受けたら危ないな」
　さすが追撃付き単体攻撃、と、半分苦悶、半分感心という複雑な表情になって、司が唸る。大変、次は四季城さんにペイントしなくちゃ、とニケが用意をする。
（「図柄は紫の薔薇、描く部位は手の甲ね……それにしても、イニシアチブ、全然取れないなあ」）
　いったい、どれだけレベル差があるのよ、と、ニケは声には出さずに呟き、小さく溜息をついた。

●激闘の末に
「はあ……はあ……」
　荒い息をつきながら、礼はガネーシャパズルから光の蝶を呼び出し、自分自身を治癒、命中率を上げる。既に何ターン戦ったかよくわからないが、メカ・ステゴサウルスの攻撃は苛烈で、彼女は自分や仲間を回復するだけで手一杯、まだ一回も攻撃をしていない。
（「まだ……まだ大丈夫……誰も倒れていない。私も倒れていない」）
　自分自身に言い聞かせるように呟いた時、複数のアラームが一斉に鳴った。
「……五分、経過？」
　あと二分、と認識するより先に、メカ・ステゴサウルスの背びれ……放熱板が、今まで火炎放射をしてきた時とは比べ物にならないほどの強烈な輝きを放つ。
「全力攻撃、来るぞ！」
　マークが叫び、礼は一瞬、光の蝶を呼び出そうとガネーシャパズルを構えたが、むろん間に合うわけもない。次の瞬間には、ニケの忠告に従ってレスキュードローン・デバイスの陰に入らなければ、と思ったが、思考に身体がついていかない。
　実際、礼には認識できなかったが、メカ・ステゴサウルスの全力放熱攻撃は、いったん中天高くエネルギービームを放ち、滝のように雪崩れ落とすというもので、レスキュードローン・デバイスを盾にするには下に潜り込むしかない上に、たとえ盾にしたところで、デバイスを易々と貫いて標的に命中するだけの威力があった。
　いずれにしても、何をする間もなく、礼は強烈としか言いようのない熱線に直撃された。一瞬で吹っ飛びそうになる意識を懸命に捕まえて、全力で身体に引き戻す。
（「私は……ディフェンダー……ダメージは半減……いくら巨大ダモクレスの全力攻撃でも……いくら新米でも……半減したダメージで、やられるわけには！」）
　意志の力を総動員して、礼は焼けるように熱い息を吐き、いつの間にか閉じていた瞼を上げ、ひりつく目て周囲を見回す。
　すると、頭上から蒼眞の声が聞こえた。
「おい！　前衛！　ナイン、四季城、九田葉！　無事か？　生きてるか？　動けるか？　声は出せるか？」
「自分は……無傷だ。司に、庇われた」
　マークの声が応じ、続いて司の声がする。
「ああ、庇った。二重ダメージはさすがに重かったけど……どうやら凌駕したらしい。無事とは言い難いけど、動けるよ」
「私も、動ける……動けます」
　自分のものとは思えない、熱でしわがれた声で、礼は申告した。無傷だというマークはともかく、魂が肉体を凌駕したとはいえ動くのがやっとのはずの司は、なぜ普通の声が出せるのだろう、と、礼は不思議に思う。彼は自分と同じヴァルキュリアだと聞いたが、やはり踏んできた場数が違うのだろうか。
　すると蒼眞の声が、上から響く。
「よし、上出来！　敵は２ターン頓挫だ！　全力で潰すぞ！」
　礼が痛む首をもたげて空を見上げると、ちょうど蒼眞がオリジナルグラビティ『巨大うにうに召喚（ギガントウニウニコーリング）』を発動させるところだった。
「うにうにっ！」
　蒼眞が空中で変なポーズを取ると、謎の巨大存在『うにうに』が、頓挫したメカ・ステゴサウルスの上から雪崩れ落ちる。見栄えもへったくれもない、とにかくひたすらダメージが大きい質量攻撃を受け、巨大恐竜型ダモクレスの全身各所が音をたててひしゃげ潰れる。しかし付与された炎や氷は消えておらず『うにうに』の方が焼かれ凍らされて消滅する。
「行きますよ！　変幻自在の攻撃、受けてみなさい！」
　カロンがオリジナルグラビティ『境界面上のブルーティアーズ（キョウカイメンジョウノブルーティアーズ）』を発動。装備武器のファミリアロッド『forever』とドラゴニックハンマーを一時的に融合させ、真蒼の大槌『blue　destiny』（仮名）を発現させる。そして、ドラゴニックハンマーのアイスエイジインパクトを彷彿とさせるが、更に鋭く激しい一撃で、メカ・ステゴサウルスの胴中を砕いてぶち抜き大穴を開ける。
「やはり、進化の袋小路に嵌って滅びた恐竜を模したメカには、進化の可能性を奪う一撃ですね」
　会心の一撃、クリティカルヒットです、と、カロンはにっこり笑う。
　そしてマークが、オリジナルグラビティ『pile bunker charge（パイルバンカーチャージ）』を放つ。
「MODE ASSAULT READY」
　感情の一切を排した機械的な声とともに、マークはショルダーシールドを切り離し、バスターライフル『DMR-164C』を構えて突撃する。そして、銃身下部に装備されたパイルバンカーでメカ・ステゴサウルスの頭部を貫き、そのまま接射を行う。恐竜型ダモクレスの比較的小さな頭部が、完全に粉砕されて消滅する。
「胴をぶち抜かれ、頭を砕かれ、それでも死なんか？　無駄に粘らんと、とっとと逝けや！」
　攻撃されたわけではないが、炎や暑熱を苦手とする光流が目いっぱい不機嫌な声を出し、オリジナルグラビティ『路傍の花（ロボウノハナ）』を発動させる。
「其は何処にも無く、其は何処にも在れり。見んとする目は此処に！　咲け！」
　尋常ならぬ気合とともに光流が地面を叩くと、一瞬、地面を覆う雪割草の幻影が現われ、次の瞬間、数本の巨大な氷柱が地面から飛び出してメカ・ステゴサウルスの全身を串刺しにする。ダモクレスの巨大な身体に新たな氷が張り付き、余熱を帯びていた放熱板が急速冷却されてびしびしと割れ砕ける。
「氷が残っている……ということは、まだ死んでいないということだね」
　そう言って、司がゆらりと立ち上がる。声はいつも通りの飄々としたものだが、その姿は、魂が肉体を凌駕して動いてるだけあって、ほとんど焼死体のように無残だ。
「では、決着をつけようか。僕のこの剣技を受けて、耐えられるかな？」
　言い放つと、司はフェアリーレイピア『光の道標』を構え、オリジナルグラビティ『紫蓮の呪縛（シレンノジュバク）』を放つ。衝撃波が飛び、メカ・ステゴサウルスの四肢がすべて斬り飛ばされ、胴体がどすんと地面に落ちる。
「……まだか。氷が消えない」
「では、僭越ながら」
　優雅な歩調でリリスが進み出て、バイオリンを構えたものの、相手の頭がなくなっていることに気付いて眉を寄せる。
「聞いてもらえないのでは、仕方ありませんわね」
　呟くと、リリスはバイオリンの弓をしまい込み、空いた腕をドリルのように回転させてメカ・ステゴサウルスに叩き込む。もはやスクラップの山にしか見えない巨大ダモクレスの各所で小爆発が起きるが、それでも付着した氷は消えない。
「例によって、ムダにしぶといですね～」
　これでいけるかな、と、ニケがフェアリーレイピアをめったやたらに振り回し、目に付いた部位を切り刻む。しかし、氷はまだ消えない。
（「え？　私が、最後……？」）
　戸惑う礼に、降下してきた蒼眞が苦笑混じりの声をかける。
「大丈夫だ。九田葉が仕留めきれなくても、もう一ターン余裕がある。思い切っていけ」、
「……はい」
　うなずいて、礼はオリジナルグラビティ『Armoerd Prison（アーマードプリズン）』を発動させる。
「あなたはもう逃げられない。この魂たちがそれを許さないのだから……」
　呟きとともに、礼の光の翼が光の槍に変化し、メカ・ステゴサウルスの切り刻まれた一塊、見た目では特に変哲のない部位を突き刺す。すると、どうやらそこが最後の中枢だったらしく、爆発が生じ、一斉に氷が消える。
「お見事！」
「……魂に、導かれました」
　蒼眞の称賛に小声で応じた途端、全身の力が抜け、礼はその場にへたりこんだ。

作者：秋津透	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2021年6月10日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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