漣と星月夜

作者:崎田航輝

 夜の帳が降りて、空に月が昇り始める。
 明るい時分には暖かさの増してきた季節でも、深い時間には空気が冷えて快い。
 穏やかな波音が響くそこは、広い海原に面した砂浜。澄んだ涼風を求めるように、点々と散歩に訪れる人影が見えていた。
 人々は涼しさばかりでなく、美しい月や煌めく星々にと、景色も楽しんで歩む。
 時折反射して輝くシーグラスや、海辺の小さな花々も眺めながら、暫し都会の喧騒から距離をおくように。
 静やかな夜の情緒を、それぞれの時間と共に楽しんでいた。
 ――と。
 そんな砂浜に近い岩礁地帯。
 岩場の間に転がっている一つの影があった。
 それは三脚に電源部と円環型の明かりが取り付けれた、リングライト。
 スイッチはオンのままになっていたが、既に壊れて久しいらしく点灯はしていない。
 誰かが写真撮影に使用した際に倒れて、そのまま放置されたのか。時折波に洗われながら、ただ眠ったように暗がりに横たわるばかりだった。
 けれど――そこにかさりかさりと這い寄る影がある。
 コギトエルゴスムに機械の足が付いた、小型ダモクレス。そのリングライトに近づくと、取り付いて一体化していた。
 するとそれは三脚を機械の手足に変貌させ、俄に動き出す。いつしか岩を乗り越え、岩礁地帯を抜け出ていた。
 そうして目指す先は砂浜。自身の存在を知らしめるように、眩く輝きながら――それは真っ直ぐに人々へ襲いかかっていった。

「集まって頂いてありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は集まったケルベロス達へ説明を始めていた。
「本日出現が予知されたのはダモクレスです」
 とある海辺にて、放置されていたリングライトがあったようで──そこに小型ダモクレスが取り付いて変化したものだという。
「このダモクレスは、浜辺にいる人々を襲おうとすることでしょう」
 それを防ぐために現場に向かい、撃破をお願いします、と言った。
「戦場となるのは砂浜の一角です」
 敵が岩礁から出てくる所を、こちらは迎え討つ形となるだろう。
「人々は警察が事前に避難をさせてくれます。皆さんは戦闘に集中出来るでしょう」
 周囲の被害も抑えられるでしょうから、とイマジネイターは続ける。
「無事勝利出来た暁には、皆さんも海辺で過ごしていってみては如何でしょうか」
 穏やかな波音と風が心地良い場所だ。
 美しい月や星も望めるようで、景色を眺めて歩むだけでも楽しめるだろう。海辺に生える花や、シーグラスなどを探して歩んでみても楽しいかも知れない。
「そんな憩いのためにも、是非撃破を成功させてきてくださいね」


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
六星・蛍火(武装研究者・e36015)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)

■リプレイ

●夜戦
「この季節の夜の海は涼しくて過ごしやすいわね」
 快い海風の吹く中、砂浜に降り立った六星・蛍火(武装研究者・e36015)は景色に視線を巡らせていた。
 見えるのは星月に輝く水面。
 美しくも穏やかな美観――故にこそ。
「こんな時にダモクレス案件とはな」
 ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)は遠方、ちらつく光に目を向けている。
 そこに岩礁から現れるものがあった。
 三脚を手足に変貌させた、リングライト。こてりと、フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)は小首を傾げている。
「歩く輪っかというのはー、覚えがあるようなー。テレビか何かでー、動く照明がジャンプしていたようなー?」
「……まだああいうダモクレスは残ってるんだね」
 刻々と変わる情勢の中で、未だ訪れる争いにピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)は呟かないではいられない。
 また一つ、この手で終わらせる事になるのか、と。
 その言葉に、マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)もそっと頷いた。
「ダモクレスとも、戦わなくて済むならいいんだけどね……」
 それでも今は守るべきものの為に、と。
 前へ踏み出せば、ランドルフもまた地を蹴って距離を詰めてゆく。
「せめて人に仇名す前に仕留めてやろう」
 その声に皆も続いて包囲してゆくと、ダモクレスも此方に気づいて眩く輝こうとした。
 が、それより先に煌めく光がある。
 それは小柳・玲央(剣扇・e26293)がその手に握る星剣。砂を軽く踏んだ玲央は、流麗に廻りながらその刃で軌跡を描き始めていた。
「それじゃあ、始めようか」
 リズムに乗るように舞えば、轍が星々の動きを象り、明滅する光が星座の加護を成す。
 その耀きが皆へ護りを授けて行けば――その間に、フラッタリーがダモクレスの裏側へ回り込んでいた。
 サークレットを展開させ、金色の瞳を開眼させたフラッタリーは顔に狂笑、額の弾痕から地獄を迸らせ――。
「紗ァ、亡ビnO烈火ヲ与エmAセウ」
 刹那、繰り出す一撃は『Jinniyahノ手ハ花々ヲ載セル』。種火より籠められた焔の塊を刃に宿し、見舞った斬撃で照明の一端を煤に塗れさす。
 ダモクレスは振り払いながらも反撃の様相を見せる、が。
「アロアロ、お願いするね」
 マヒナの声に、シャーマンズゴーストのアロアロが飛翔。臆病に震えながらも、しかと爪撃を刻んで意識を引き寄せた。
 直後、ダモクレスの光が向いてくると――。
「私達も行くよっ!」
 明朗な声を潮風に響かせて、山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)がライドキャリバーの藍と共に走り出していた。
 そのままアロアロと並んで前面に立つと、盾となって衝撃を後方に及ばせない。
 直後にはイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)が、燐光を纏うオウガメタルを流動させていた。
「すぐに癒やしますので、待っていて下さい」
 その意思に応じるようにオウガメタルが眩く明滅すると――発散された魔力の粒子が体へ溶け込み、意識を明瞭に研ぎ澄ませながら傷を癒やす。
「さぁ、行くわよ月影」
 と、蛍火がドローンの群を飛翔させ、その全てから治癒の光を照射すると、声に応えて箱竜の月影も黒炎で傷を回復。
 ピジョンのテレビウム、マギーも画面を輝かせて治療を進めると――ことほ自身も癒やしの風で自分達を万全に保っていた。
「こっちは大丈夫だよー!」
「では反撃を」
 イッパイアッテナが言えば、傍らにいた相箱のザラキがダモクレスへ噛みつき攻撃。
 そこへ藍も突撃を重ねてゆくと――ピジョンも『ニードルワークス改』。銀に煌めく糸と針でその足元を縫い付けた。
「今のうちに」
「うん」
 応えるマヒナが風に乗るように跳び、蹴撃を与えると――転げたダモクレスはそのまま間合いを取ろうとする、が。
 そこへランドルフがジェットパックを起動させていた。
『The wing bring you in the air.』
 起動音声と同時、舞い上がって直上からダモクレスを見下ろす。
「空中なれど地の利を得たり!」
 なれば狙い違うはずもなく。一直線に下降しながら、その拳に零の力を渦巻かせてゆく。
「未だ悪業無きならば、汝『零』に還るべし!」
 刹那、一撃。叩き込んだ衝撃が風を逆巻かせるように爆発し、ダモクレスを烈しく地へと叩きつけていた。

●決着
 ふらつきながらも、ダモクレスは立ち上がっていた。
 断続的に明滅するその輝きは、何かを訴えているようにも見えて。
「撮影用に使ってたのがどうなってこうなったんだろう……」
 スイッチは、入れられたまま放置されていたという。それに少し想像を巡らすように、ことほは呟いていた。
「途中で、壊れちゃったのかな」
「……それで、置いていかれて……寂しかったのかも知れないね」
 その機械自身は、綺麗な写真を撮れるようにと頑張っていたのだろうから。マヒナは、ごめんね、と小さく声を零す。
 ダモクレスはそれに対しただ、攻撃をしてくる事しか出来ない。だから迫るその姿に――蛍火は立ちはだかっていた。
 静かで平和なこの場所を、荒らさせる訳には行かないから。
「ここで止まってもらうわ」
 真っ直ぐに手を翳し、輝かせるのは夜光のオーラ。
 蛍が瞬くように優しく、暖かく。それでいて確かに蛍火の意思を形にするように。撃ち出された光が鋭く機械の躰を削りゆく。
 そこへことほが大地に眠る負の感情を拾い上げ、桜の枝の形へと昇華していた。
「これで――逃さないから」
 ダモクレスを包囲する『迷宮の妖怪桜』は、美しく咲き誇りながら動きを阻み、命を蝕んでゆく。
 それでもダモクレスは光を返すが――その只中でもフラッタリーの獄炎は尚煌々と煌く。
 否、それは寧ろ光を飲み込む程の熱量を以て。
「躰ガ痲痺シ、眩ム光ニ眼ガ焦レドモ、焔ハ止mEル事能ワ不」
 刹那、獣のように、喰らいつくように。至近から炎を棚引かせながら振り抜かれた一刀が、照明部分の一部を灰にした。
 それでも光は消えず、前衛の膚を灼いてくるが――。
「問題ありません。癒やします」
 既にイッパイアッテナが攻性植物を流動させている。
 共に戦ってきた仲間の、力も意志も信頼している。だから今自分に出来る事さえやれば心配はない――それが判っているから。
 瞬間、蔓に実らせた果実から黄金に煌めく光の祝福を注がせた。それが前衛を癒やし、護りも施していくと――。
「攻撃はお願いします」
「了解」
 応えた玲央が疾駆。
 星灯りも月灯りも、眩く美しい。そして迫るダモクレスもまた瞬いているから。
「とても賑やかだ」
 すべきは無粋な戦いだけれど――その光と協奏をするように。踊りながら優美に振るう刃が、鮮やかに傷を刻んでゆく。
 よろめくダモクレスを、ランドルフは逃さずに。
「汝に終焉(オワリ)を齎さん! 喰らいて爆ぜよッ!」
 放つ『バレットエクスプロージョン』は烈しく眩く。爆裂する衝撃で、ダモクレスを吹き飛ばしてゆく。
 その躰を、走るピジョンが縦横に斬り裂けば――。
「行けるかい」
「……うん」
 静かに頷くマヒナが、朽ちゆくダモクレスをそっとハグする。
 ――いつか、また人のために働けますように。
 思いやりも、優しさも、忍耐も。あらゆる意味を込めて抱きしめる――そのあたたかな『アロハ・ハグ』が、ダモクレスの命を消滅させていった。

●光夜
 海に静けさが帰ってくる。
 その中でイッパイアッテナは周囲を見回していた。
「終わりましたね」
 言いながら、目を留めるのは荒れた地面。
 人々に被害は及ばなかったものの、砂浜は多少抉れて元の形とは変わっている。故にイッパイアッテナは皆と共にそこへヒール。
「美しい浜の姿へと戻りますよう――」
 思いを込めて治癒の光を注げば、徐々に戦いの跡も消えていった。
 そうして人々へ無事を伝えれば――戻ってきた人々は喜びの声と共に、星と月の灯りの下で散策を楽しみ始める。
「暫し、私達も歩いて行きましょうか」
 と、イッパイアッテナもミミックと共に歩み出す。
 すると砂の感触が心地良く、時折吹いてくる風も涼しくて。
「良い環境ですね」
 呟いて空を見上げると――月もまた丸く輝いていて見頃だった。
「綺麗なものです」
 少しだけ、先の未来を考えるように。
 イッパイアッテナはその光を眺めつつ、散歩を続けていく。

 緩やかな波音が遠くに響く。
 そんな中に吹く浜風に誘われて、フラッタリーはゆらゆらと散策を始めていた。
「何とも穏やかなー、夜ですわねぇー」
 提灯を引っ提げて、時折煌めくシーグラスに目を留めてはそこへと歩む。宝玉のように美しい粒を見つければ、それを拾い上げたりしながら。
「おやー?」
 と、ふと少し離れた場所に、逆に光を反射しないものを発見する。
 そちらへ歩を進めると、落ちていたのはリング状のもの。あの照明についていたものと思しきキャップだった。
 フラッタリーはそれを掲げて、輪を通すように月を眺める。
 すると何もしないで見る時よりも、スポットライトのように仄かに眩しく感じられて。
「月に輪っかでしたらー、幸運の象徴というのでしたかー」
 言いつつもキャップを下げる。
 これをつけるべきものは、跡形もなく消え去った。
 故にこれもと、そう判断したろうか。フラッタリーは炎をちかりと閃かせ、ごみを処理するようにそれを焼き尽くす。
 それからまた海風に揺られるように――ゆらゆらと、浜を歩んでいくのだった。

 寄せては返す静波に、ぱしゃぱしゃと触れる。
 そんなふうに波打ち際で遊ぶアロアロの姿を眺めながら――マヒナとピジョンは夜空を見上げていた。
 故郷ではいつも、海辺で月や星を眺めていたマヒナにとって……こんな涼やかな夜は懐かしくも親しみがあって。
「あ、ほら、南の空の高いところ!」
 眩い一等星を見つけて指をさす。
「アークトゥルス! ホクレアだよ」
「ホクレア――」
 ピジョンも視線で追って、その光を見つける。『喜びの星』を意味する呼び名は、その逸話も共に想起させる。
「あれが船を導く星かぁ」
「うん。それに、そろそろさそり座も昇ってくるね――」
 マヒナは少し目線を下ろして浅い角度の遠方も見つめる。そこにもまた、眩しい星を抱いた星座の一端が垣間見えていた。
 ピジョンもまた、波の音を聞きながら同じ光を目に映す。マヒナはそんな横顔を見て少し微笑んでから――また視線を戻した。
「さそり座の尾の星はハワイではマウイの釣り針って呼ばれてて……半神マウイが島を釣り上げた時に飛んで行った釣り針が、空に引っかかってそのまま星になったんだって」
「へえ、面白いね」
 耳を傾けていたピジョンは、言いながら表情を和らげる。
「マヒナは星と故郷のことをいつも楽しそうに話すね」
 うん、と。
 言ったマヒナと視線が合うと――ピジョンは思い立ったように浜を一歩歩んだ。
「こんな綺麗な夜だから、踊らないかい?」
「踊るって、ダンス?」
 小首を傾げるマヒナに、ピジョンは頷いて。
「マギー、お願いできるかな」
 と、短いワルツを頼むと――マギーは肯定の顔文字を映してから、緩やかな三拍子の曲を流し始める。
 さあ、とピジョンは誘うように手を差し出した。
 マヒナは翼で空中散歩にも誘ってみたかったけれど……その手をそっと取る。
「ワタシ、前に社交ダンスの練習したんだよ」
「本当かい?」
「うん。上手に踊れるか分からないけど――」
 言ってステップを踏み始める。ピジョンもまたリードするようにリズムを取って――星月の下、二人は穏やかなワルツを踊った。
「後で海の上の散歩、行く?」
「連れて行ってくれるのかい?」
 ピジョンの言葉に頷いて、マヒナはゆるりとターンする。
 宵の涼しさの中で踊るのは、心地良くて。海風に乗るのもまた楽しみになって――マヒナはその優しいリズムに身を委ねていた。

 遠くで揺れる波が、星と月を反射して宝石のように煌めいている。
 その淡い輝きに照らされた海辺を、ランドルフは歩んでいた。
「……」
 さり、さり、と砂を踏む音が響く。
 先刻の戦いから一転したその静けさは、平和の証と言えるだろう。
 けれど今はただ、目の前の争いを一つ越えたに過ぎない。未来を決める決戦は、すぐ近くに迫っているのだから。
 その覚悟を自分の中に確認するように、そして地球の息吹を感じるように――風に毛並みを仄かにそよがせ、ランドルフは目を閉じる。
「全ては俺達の戦いぶり次第、か」
 多くの命運が、この腕にかかっている。
 ランドルフはその実感に拳を握りしめていた。
「……『螺旋の理』の先が『零式の修羅道』か」
 目を開けて仰ぐ月は、眩しいほど。
 その光に瞳を細めながら、ランドルフは亡き師を想う。
「悪ィなおやっさん、まだアンタの所には逝けそうもねえぜ……」
 全てが終わった先で自分がどうなっているかはまだ考えない。今はただ、この力を発揮すべき戦いがあるから。
「――」
 馳せた想いを胸にして、ランドルフは月へ遠吠えを響かせる。それは長く長く、波間に漂うように反響していた。

 撫ぜるような海風の間を、玲央は歩みゆく。
 空と海に星月が美しく煌めく中で――惹かれるのは砂の間に瞬く色彩。
「シーグラス……見つかるものだね」
 反射する光に気づいて目を向ければ、小さな硝子が転がっている。その近くにも幾つか垣間見えて――玲央はそっと拾い上げていた。
「綺麗だね」
 紅に翠、橙と、色は千差万別。
 その中でも玲央は青色を探してみる事にする。自分の大切なもの達に近い色を、見つけられたらとそう思ったから。
 懐にしまい込んでいる櫛と、腕時計のベルト。それを思いながら歩むから、求めるのは青の中でも空の青に近い色。
 故に、夜の中にふと蒼空のような彩が瞬くと――。
「おや」
 足を止めて玲央はそれを見つめた。
 角度を変えて光を反射させてみると、硝子に閉じ込められた青い空が姿を見せてくれるようで幻想的。
 それを持ち帰る事にすると……すぐ近くにまた、全く同じ色のシーグラスを見つける。
 だから玲央はそれを星灯りに透かして、髪飾りと同じように並べて。
「うん、良いね」
 導き合うように、隣り合った二つの色彩。
 それを優しい瞳で、暫しの間眺めていた。

「お疲れ様」
 ノチユ・エテルニタは三毛猫を連れて巫山・幽子と合流。手を繋いで散策を始めていた。
「一等星はレグルスと……スピカも見えるかな」
「どれも眩しくて、綺麗ですね……」
 星を指して教えると、幽子は一つ一つを口にして反芻する。かわりにハマナスやハマナデシコと、海辺に咲く花を教えて貰って、ノチユもそれを覚えた。
「……もう少し暑くなったら泳げるのかな。幽子さんって泳げる?」
「少しだけ……。エテルニタさんは……」
「僕は……まぁ、そんなには。……でも、今度……一緒に海で遊べたらいいな」
 水着が見たいとは、流石に言えなかったけど。
「私も夏になったら……一緒に、遊びに来たいです……」
 そう言って微笑む幽子が、夜の海の煌めきによく映えていて――ノチユはその姿をそっと、見つめていた。

 絹地のような滑らかな海風が吹く中を、蛍火は一息つきながら見回していた。
「いい景色ね。ここにはシーグラスもあるらしいけれど――」
「シーグラスあるんだ!」
 と、声音を明るくするのはことほだ。
 折角だから探してみたいけれど――視線を巡らす限りではまだ、それらしきものは見当たらなくて。
「そうだ、をネットで調べてみよっと」
 スマホを操作して、海から小石などが流れてくる場所が良いらしいと情報を得る。
「んー、この辺じゃないんだね」
「私も探すところだから、一緒に行きましょうか」
 蛍火が言うと、ことほもうん、と頷いて。
「それじゃー、出発!」
 藍と月影も伴って、暫しシーグラスを求めて探検をする事にした。
 近場の浜は平坦だけれど、少し歩けば岩場もあって、少々入り組んでいる。ことほと蛍火はそこを越え、波打ち際に目を配りつつ進んでいった。
 すると――。
「あっ!」
 ことほが星明かりに煌めく何かを見つける。
 蛍火もそれに歩み寄っていた。
「幾つもあるわね」
 その周囲をよく観察すると、小さな硝子玉が複数転がっていた。
 ことほはその一つを拾い上げている。
「わぁ、綺麗……!」
 まるで宝石のような深い青色。月に翳すと中で光が乱反射して、美しかった。
「こっちの緑色も、赤色も、どれも可愛い――」
「ええ、キラキラしていて……とても綺麗だわ」
 蛍火もそっと、気になった一粒を拾ってみる。それは紫水晶のような色合いで、透明感の強い輝きを宿していた。
 更に黒色と黄色も落ちていて、それには月影が反応している様子。
「ほしいの?」
 それに月影が小さな鳴き声を返すので……蛍火は仄かにだけ目元を和らげて、それを持ち帰る事にしたのだった。
「そっちは何か、良いものは見つかった?」
「うん。色々あったよー。藍ちゃんカラーも」
 と、ことほが艶感の強い青色の粒を見せると、藍もふぉんと音を立てている。ことほはそれだけじゃなく、海のような青を中心に各種の色を揃えていた。
「小瓶に入れて飾るんだー」
 気分によって色合いを変えてもいいし、楽しめるだろう。
「素敵ね」
 それに蛍火も微笑んで。二人はまた海辺を歩み出していった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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