――ミシ……ミシ……
眼前のコンクリートのビルが大きな負荷を受け軋みをあげる。
――ドッゴオォオオン!
その力に耐えきれなくなったビルが破壊音を響かせて倒壊する。
――ズシィイイン。
ビルの倒壊で周囲に大きな土煙が上がる。そして、その土煙の中からビルを倒壊させた元凶が姿を現す。
それは巨大な翼の生えたトカゲのような怪物……『ドラゴン』であった。
ドラゴンはその長い首をもたげると周囲の街並みを見回し、近くにそびえ立つビルに目をつける。そして大きく首を振り、その巨体を器用に回転させ、太く逞しい尻尾をビルに叩きつける。
――ドグァァアアンッ!
その一撃でビルはあっさりと砕かれ、その残骸が周囲に落下。再び大きな土煙が上がる。
数分後……、周囲にはドラゴンにより無残に破壊された街並みが広がっていた。破壊しつくした街並みを不機嫌そうに眺めたドラゴンはその太い足で、のそりのそりと移動を始める。
ドラゴンの向かう先。そこには多くの人々が暮らす街の中心部があった。
今、多くの人々の生活と生命がこのドラゴンにより奪われようとしていた。
「福岡県久留米市で、先の大戦末期にオラトリオにより封印されたドラゴンが復活するという予知がありました」
シャドウエルフのヘリオライダー、セリカ・リュミエールがやや緊張した面持ちで告げる。
「復活したドラゴンはグラビティ・チェインの枯渇の為か飛行能力を失っています。そして、街を破壊しながら多くの人々がいる街の中心部へと向かうようです」
セリカは街の地図を見せドラゴンの進行ルートを指し示す。
「街の中心部に辿り着いたドラゴンは人々を……虐殺します」
虐殺といったところで微かに声を震わせるセリカ。
「その目的は人々を殺し、グラビティ・チェインを略奪する事にあると思われます。そして、力を取り戻し飛行能力を得たドラゴンはその場から飛び去ってしまうでしょう」
「どうかその前にドラゴンを撃破して貰えませんか」
セリカはそう言うとケルベロス一人一人に丁寧に頭を下げた。
「力を失っているとはいえドラゴンは強力な存在です」
ドラゴンの全長は10メートル程度。その巨体を駆使した攻撃は脅威だとセリカは語る。
「巨大なドラゴンとの戦闘ですから街への被害は避けられません。ですが今回は被害を気にする事なく確実にドラゴンを撃破してください」
戦闘前に市民に避難勧告を出し人払いは済ませる。また、壊れた建物もヒールで修復可能とのこと。場合によっては建物を遮蔽物に使ったり、ビルを足場にして巨大なドラゴンに飛びうつるなど戦闘に利用する事もできるかもしれない。
「どうか無事に帰ってきてくださいね」
セリカは手を胸の前で組み、祈るように再びケルベロス一人一人に頭を下げた。
セリカの説明を聞き終えたアメリカン忍者ガール、村雨・ビアンカが決意を口にする。
「オゥ、ドラゴンハントとは大変な任務デスネ。ワタシも全力を尽くしマース」
そしてこちらを向いてニッコリと笑い。
「それにとても頼もしそうな皆さんと一緒で心強いデス。張りきっていきまショウ!」
参加者 | |
---|---|
セーネ・コーデリア(冷厳なる射手・e00115) |
クルア・アマネ(サキュバスの降魔拳士・e00290) |
相馬・竜人(掟守・e01889) |
ロゼリア・アクエリアス(喪失の叛逆者・e02610) |
浅倉・英志(ドラゴニアンの降魔拳士・e02963) |
フォティーノ・アキシオン(銀龍の一族・e04618) |
風祭・春風(江戸っ娘台風娘・e05406) |
大道・つなぐ(ドワーフのブレイズキャリバー・e05493) |
●強襲
「おー大きい、ですね……」
「おっきいねー。ドラゴンのおにく……たべられるかな? にょわあぁぁ、お腹が空いてきたー」
ロゼリア・アクエリアス(喪失の叛逆者・e02610)のつぶやきに、大道・つなぐ(ドワーフのブレイズキャリバー・e05493)が反応する。
「オレっちの前で、ひとっ子ひとり殺させはしねェさ!」
「おおー。しっかりがっちりハントしてやんぜー」
風祭・春風(江戸っ娘台風娘・e05406)が意気込み、浅倉・英志(ドラゴニアンの降魔拳士・e02963)も気合充分。
4人がいるのはビルの屋上。そして視線の先にはコンクリートの街並みを悠々と闊歩する巨大なドラゴンが。
「ドラゴンはまだこちらに気づいていないようだな。作戦通りにいこう」
ロゼリアの言葉に頷く3人。
「まずは、オレたちからいくぜー」
かけ声とともに、英志とつなぐが勢いよく屋上から飛び降り、ドラゴンに向け降下する。落下する2人の眼前にドラゴンの巨体が迫る。
「えーいっ、ひゅううーのっ、どぉおおーんっ!」
つなぐが身長の倍はあろうかという巨大な鉄塊――鉄塊剣をドラゴンの背に落下の勢いそのまま振り下ろす。
ドラゴンの背中に大きな衝撃が走る。不意をうたれたドラゴンが身体をのけ反らせ悲鳴のような叫びを上げる。
そのドラゴンの背に英志が一拍遅れて着地。ドラゴンの背をダッダッと駆け出し、その長い首を駆け上り、ジャンプ。
叫び声を上げるドラゴンの眼前に英志が現れ、ドラゴンの瞳が驚きで大きく見開く。英志は不敵にニヤリと笑い、グラビティを纏った回し蹴りを無防備なドラゴンの顔面に叩き込む。
英志の一撃でバランスを崩しあおむけに倒れ込むドラゴン。周囲の建物が振動で揺れる。
「このまま畳み掛けよう」
「おう、派手にいこうぜ」
ビルのへりからその様子を見下ろすロゼリアと春風。
ロゼリアがドラゴンに向け氷結の螺旋を放つ。
同時に春風がビルから飛び出し、無防備にさらけ出た下腹めがけ突貫する。
「いいいいっやっほー! 覚悟しやがれ龍畜生めー!」
春風の両手から竜巻の螺旋が発生。その螺旋を自らに纏わせ、人間竜巻と化してドラゴンに突撃する。
2つの螺旋がドラゴンに命中。氷の竜巻にさらされ、ドラゴンがのたうちまわる。
「よう、トカゲ野郎。テメエに今からここの『ルール』ってやつを教えてやるよ」
相馬・竜人(掟守・e01889)がドラゴンの眼前に姿を現し、挑発するようにドラゴンに向けた指をくいっと曲げる。
その隣に静かにたたずむ銀の髪の青年、フォティーノ・アキシオン(銀龍の一族・e04618)と、その後ろで妖艶な笑みを浮かべるクルア・アマネ(サキュバスの降魔拳士・e00290)。
むくりと起き上がり怒り狂ったドラゴンが大きく息を吸い。炎のブレスを吐き出す。
――ゴォオオァアア!!
竜人とフォティーノがドラゴンの炎に飲み込まれる。
「フフフ、予想通りの反応。可愛い子ね」
怒るドラゴンを見て目を細めるクルア。
すると炎に包まれた竜人とフォティーノの足元から魔法陣が展開。炎の勢いを弱める。
「あなたが可愛い悲鳴を上げてのたうちまわっている間に準備したの、フフフ」
炎がはれると、そこにはいつの間にか髑髏の仮面をつけた竜人と、銀の龍人に姿を変えたフォティーノが。
「仮面は全てを覆い隠す――……」
『仮面舞踏会(マスカレイド)』を発動し竜人は自らの全てを覆い隠す。
「私がお前と相まみえる。これも運命かもしれないな」
フォティーノがドラゴンに肉薄し斬霊刀を一閃。ドラゴンの身体から血が吹き出す。
「この感覚、いつ以来か……」
誰に言うでもなく小さくつぶやくフォティーノ。
「奇襲は成功したみたいね」
ドラゴンから死角になる建物のかげ。セーネ・コーデリア(冷厳なる射手・e00115)が落ち着いた所作で戦況を眺める。セーネは後の一手の為に、あえて奇襲には参加せずに有利なポジションを確保する事に専念した。
「一時的な勢いだけで押し切れる相手じゃないもの。これからが本当の勝負よ」
怒りくるうドラゴンはまだまだ余力があるように見える。戦いはまだ始まったばかりだ。
●究極生物vs地獄の番犬
戦闘開始から数分が経過していた。
ドラゴンの尻尾が周りの建物を巻き込みながら前衛に襲いかかる。
ドラゴンの攻撃はケルベロスの予想以上に激しいものだった。その巨体を生かしたリーチと速度は攻撃がくることが分かっていても完全に回避するのが難しい。
尻尾がケルベロスたちを巻き込みながらビルの壁面に叩きつけられる。
さらなる一撃を加えようとドラゴンが予備動作に入る。
と、一発の乾いた銃声が空に響く。
――ギャシャアァアアア!
突然苦悶の叫びを上げるドラゴン。首を前後左右に振りたくり暴れまわる。
「周囲への注意が疎かだっわね。お目めにお薬のお味はどうかしら?」
セーネが殺神ウイルスを弾丸に仕込み目に向かって投射したのだ。
ドラゴンの隙をついて態勢を立て直したケルベロスが反撃にでる。
クルアがケルベロスチェインの先端をビルの上部に絡る。それをウインチのように巻き上げ上昇。宙を移動しながらドラゴンに接近する。
鎖にぶら下がりドラゴンの頭上に現れるクルア。至近距離でドラゴンと目が合い優しく微笑む。
「痛かったでしょ、可哀想。こういうのはいかがかしら」
まるで恋人に手作りのプレゼントを渡すような口調でドラゴンにガントレットを向ける。するとガントレットから震動波が降り注ぎ、ドラゴンの頭が圧力でのけ反る。
フォティーノが翼を広げ跳躍しドラゴンの眼前に迫る。巧みに翼を操り空中で身体を反転。その勢いで弧を描くように長い首を斬りつける。
「浅い、か……久方ぶりで感覚が鈍っていたな」
皮膚を切り裂く感覚はあるが断ち切るには至らない。
続いてロゼリアが民家の屋根、ドラゴンの死角から手裏剣を頭にめがけて投射。
「まだまだこれから! こんなことで弱音をはいていたら、情けなくてあの人の所に帰れやしない!」
大切な人の事を思い浮かべ、自らを奮い起こす。
再びドラゴンの注意がそれた隙に、つなぐが巨大な剣を引きずりドラゴンに突撃。
「そーれっ、どっかああああん!」
大剣をグワンと振りかぶり、全身で振り抜く様子は大剣に振り回されてるように見えなくもない。
大剣が前足に命中し悲鳴を上げるドラゴン。しかし大剣はさらに勢い余って1回転の2回転。
「目がぐるぐるー、ってするぅううう!」
「さらにおまけだぜー」
小柄な英志が周囲の建物の残骸を足場に巨大なドラゴンの周りを跳ね回る。すれ違いざまに拳で一撃、足で一撃、尻尾で一撃、羽で一撃と変幻自在、縦横無人に攻撃を加えていく。
その小刻みな攻撃にイラつきを隠せないドラゴン。英志を身体ごと押し潰そうと前足を浮かせ上体を反らす。
「チャンスだな! オレっちに任せな」
春風が半壊した建物の壁を蹴り、空中を駆けるように素早くドラゴンに接敵。掌に生じた螺旋のグラビティを接触させる。
螺旋の波動が皮膚から体内に浸透しドラゴンは不安定な態勢をさらに崩す。
「こいつで仕上げだぜー」
そこに英志の渾身の回し蹴りが炸裂。再び倒れこむドラゴン。
この戦い、単純な火力比較であればドラゴンに分があった。しかし死角からの攻撃を意識し、ドラゴンの注意を一箇所に集中させない事で、ドラゴンを翻弄。ケルベロス側が主導権を握り戦いが進んでいた。
●ルール
さらに数分が経過。ケルベロス達もドラゴンも互いに傷つき、疲弊が大きくなっていた。
特にドラゴンの注意を能動的に引きつけ、仲間をかばい続けた竜人やフォティーノの消耗は無視できない状況になっている。
竜人が腰が碎け落ちそうになるのをぐっとこらえる。あと何発攻撃に耐えられるだろうか……自分の身体に問う。
――無理だ、もう限界だ。
冷徹な自分が答える。その言葉を仮面の下に隠し竜人はドラゴンに向き直る。
「まだまだやれるぜ、トカゲ野郎――」
ここまで良い流れで戦ってこれた。もしここで退いて、その流れが変われば戦いがどう転ぶか分からない。
「お互い無理をするな、とはいえないか……」
状況を読んでフォティーノもため息をつき覚悟を決める。
その時、だった。竜人がふとある気配に気づく。ドラゴンの瞳に浮かぶ2人の覚悟に対する嘲りの色。
「テメエ……なんだその顔はよ」
死の存在しないデウスエクスに死の恐怖と天秤にかける覚悟の重さが分かるはずがない。このドラゴンは死の可能性が迫っているにもかかわらず、未だ死の恐怖を実感できていないのだ。
「テメエはまだここでの『ルール』を理解できていねぇようだな」
ドラゴンに近づく竜人。ヒビ割れていた髑髏の仮面の一部が碎け射すくめるような視線がドラゴンを捉える。
「殺されたらテメエも俺たちと同じように『死ぬ』んだよ。それがここでの『ルール』だ」
仮面から漏れ出す竜人の尋常でない殺気。ここに至ってドラゴンは生まれて初めて死の恐怖を感じとる。
その恐怖にかられ鉤爪の生えた前足を竜人に乱暴に振るう。
しかしその一撃は竜人に当たらず地面を抉る。恐怖で浮足だった攻撃であった事もあるが、ドラゴンに大量に付与されたバッドステータスが効果をあらわしたのが大きい。
「みんな、あと少しだぜ! ここで決めやがれー!」
「皆サン、頑張ってくださいデース」
春風と回復役に回ったビアンカのヒールと檄がとぶ。
ケルベロスたちは恐慌状態に陥ったドラゴンに一気呵成に攻撃を加える。
「そんなに震えて……怖いの? ああっ、愛しい子!」
クルアが恍惚とした口調でドラゴンに語りかけると、抱擁するように黒い鎖がドラゴンを絡め取る。
「愛に例外は無い。総て、抱き締めてあげましょう。『遍し狂愛(アモル・オムニブス・イーデム)』!」
クルアを中心に大量の魔力と快楽エネルギーにつつまれた空間が発生。そして鎖に縛られ身動きの取れないドラゴンの力を奪っていく。
「美味しく頂く頃合かしら? 一気に行くわ」
セーネが銃に特製の弾丸を装填。スラリと銃を構え冷静な動作で狙いをつける。
「じゃ、悪いけどそろそろ片付けさせてもらうわね……砕け散りなさい。『ヒューネラル・バースト』!」
発射された弾丸が巨大なドラゴンを一直線に貫く。手足を支える力も失ったドラゴンがふらふらと揺れ、倒れこむ。
巨大なドラゴンの身体が自分に向かって落ちてくるのを、ロゼリアは静かに見上げる。
「怒りも無く、悲しみも無く、ただ倒すという意志を乗せろ……『禍を転じて福と為す』!!」
ロゼリアが受けた痛みが純粋な意志に還元される。その意志を乗せ巨大な竜巻を放つロゼリア。
それは悲鳴にならない声をあげるドラゴンを空に巻き上げながら切り刻み、遥かな空へと運んでいく。
ついに、不死なるドラゴンが死を迎えたのだ。
●戦い終わって
「っしゃー! ざっとこんなもんだぜー!」
勝鬨をあげる春風のそばにセーネがやってくる。
「みんな、お疲れ様。全員無事で良かったよ……」
「んお? なんか感じがちがうぜー」
先程に比べ柔らかい口調で話すセーネ。英志が素直な疑問を口にする。
「わたし、任務の時といつもは違うから……」
少し恥ずかしそうに答えるセーネは年相応の少女にしか見えない。
「さ、帰ろうぜ!腹へッちまったよ!」
「ね、みんなでご飯食べにいこ! ねー、ごーはーんーっ!!」
「オレ、肉がくいたいー。にーくー!!」
春風の言葉に猛烈に反応するつなぐと英志。
「竜人、お疲れ様」
その場にへたり込んだ竜人に声をかけるロゼリア。
「お疲れさん、ロゼリア。最後の竜巻は驚いたぜ」
竜人がロゼリアにニヤリと笑いかける。
「いや、竜人こそドラゴン相手に一歩も引かずに。……凄かったよ」
ロゼリアの差し出した手を取り、立ち上がる竜人。
フォティーノがドラゴンの消えた空を静かに眺める。
「空を眺めて。どうかしたのかしら?」
クルアが相変わらずの微笑みを浮かべフォティーノのとなりに立つ。
「いや、大した事ではない」
フォティーノの答えに空を見上げるクルア。
「そうなの? でも、いい空ね」
優しい声でクルアはいった。
作者:さわま |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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