鳴り響く轟音

作者:神無月シュン

 住宅街のゴミ捨て場に、粗大ゴミとして5.1chサラウンドスピーカーが置かれていた。
 そこへどこからともなく現れた、握りこぶし程の小型ダモクレスが機械で出来た蜘蛛の足の様なものを動かし、スピーカーによじ登っていく。
 小型ダモクレスはスピーカーの破損個所から中へと入り込むと、スピーカーに機械的なヒールを施し作り変えていく。
 融合し生まれ変わったダモクレスは6つのスピーカーを合体させ人型ロボットの様な姿をしていた。
「――――――ッ!!」
 ダモクレスが全身のスピーカーからハウリング音を発すると、近くの窓ガラスが振動によって砕け散った。
 ダモクレスはグラビティ・チェインを求め、住宅街を移動し始めた。


「住宅街のゴミ捨て場でスピーカーがダモクレスになる事件が発生するっす」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は集まったメンバーに事件の内容を説明し始めた。
「スピーカーのダモクレスか。ガラスを軽々割るとは、放置するわけにはいかないな」
 話を聞いていた九竜・紅風(血桜散華・e45405)は被害を予想するとそう呟いた。
「その通りっす。このままダモクレスを放置すれば、多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまうっす」
 その前に現場に向かって、何としてもダモクレスを撃破したい。

「このダモクレスは頭、胴、両手、両足の計6つのスピーカーが合体してロボットの様な姿をしているっす。それと戦闘では音を使った行動をしてくるっす」
 人型の為、走ったり跳んだりといった、人と同じような行動を取ることが出来る。その為住宅の屋根を跳んで移動して、一般人の元へ一直線に向かう可能性もある。
 どこの一般人が狙われるか絞り込むのが困難な為、避難誘導に時間をかけるよりもこちらから仕掛けに行く方がいいかもしれない。

「行動の予測がつきにくい相手っすけど、何とか被害者が出ない様にしてほしいっす」


参加者
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
武田・克己(雷凰・e02613)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)
七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)
九竜・紅風(血桜散華・e45405)
リリス・アスティ(機械人形の音楽家・e85781)

■リプレイ


「ヘリオンデバイス・起動!」
 ケルベロスたちが住宅街へと降り立つと同時、ヘリオンから光線が発射される。光を受けたケルベロスたちの下に、一瞬にしてヘリオンデバイスが実体化され装着された。
「俺の危惧していたダモクレスが本当に出て来るとは驚いたな。ともあれ、被害が拡大する前に倒せるなら、不幸中の幸いだな」
 九竜・紅風(血桜散華・e45405)は装着されたヘリオンデバイスの様子を確かめつつ呟いた。
「音楽家として、今回の事件は止めなければなりませんわね」
 同じ音を扱う者としてリリス・アスティ(機械人形の音楽家・e85781)は、音で人を傷つける者は放っておけないと語る。
「ふむ、サラウンドスピーカー。あんまり詳しくないけど5個くらいのスピーカーを回りに配置するんだっけ?」
「正確には5つのスピーカーと1つのサブウーファーを配置して映画などを楽しむ物だな」
 凝った機器に疎い源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)に普段講師業をしている癖か、鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)がスピーカーについて丁寧に説明していた。
「なるほど。音を響かせる機能がそのままなら物凄く迷惑だよね。ダモクレス化してるし。被害が酷くなる前になんとかしよう」
 とは言え、目的のダモクレスがどこへ向かうか見当もつかない。しばし考えていた紅風が口を開いた。
「避難誘導に時間をかけるより、こちらから敵の位置を確認して仕掛けに行くことを優先しよう」
「そういう事でしたら、私たちの出番ですわね」
「今からダモクレスの位置を割り出すので少しだけ待ってください」
 彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)と七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)は強化ゴーグル型のヘリオンデバイス『ゴッドサイト・デバイス』を使い、敵の位置を探し始めた。
「見つけましたわ」
「敵は向こうですね、皆さん、急ぎましょう!」
 しばらくすると、紫と綴がダモクレスの居る方角を指し示した。
 すぐさま武田・克己(雷凰・e02613)と瑠璃が『ジェットパック・デバイス』を使い、メンバーを牽引し飛翔すると、目的地へ向かって飛んだ。

 獲物を探し民家の屋根の上を移動するダモクレスを取り囲むように、ケルベロスたちは民家の屋根へと降り立った。
「ハウリングとか音割れって、苦手なんだよねぇ。役に立つかわからないけど耳栓しておくか」
 ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)は持参したシリコン耳栓を両耳の穴に詰め込んだ。
「やっぱ意味なさそうだな、でも気の持ちようってことで」
 すぐに効果は薄そうと感じたが、ないよりましとそのまま詰めておくことにした。
「ハウリング音、中々危なそうですね。ですが、人々に危害を加えようとするものなら、破壊するのみです」
「うっわ、合体もお手の物ってか。被害が出るってんなら壊すっきゃねぇわなぁ」
「さて、スピーカー型のダモクレスが相手か。音の速さは人間である以上超えられない。なら、最初から受ける覚悟を決めておけばいいだけの話。俺の闘志を砕けると思うなよ」
「ガラスを軽々と割るスピーカーとは、これまた手ごわそうなダモクレスが出てきたものですわね。ですが、私もそう簡単にやられる訳には行きませんわよ」
「音楽家として、わたくしが貴方を止めますわ」
 各々意気込みを胸に、武器を構えダモクレスを見据える。
「さぁ、行くぞ疾風丸。頼りにしているからな!」
 紅風はテレビウムの疾風丸へ声をかけると、ダモクレス目掛けて駆け出した。


 克己の日本刀『直刀・覇龍』が雷の霊力を帯び、ダモクレス目掛けて突き出される。その間に瑠璃は『機龍槌アイゼンドラッヘ』を砲撃形態へと変形。放たれた竜砲弾が克己の離脱した瞬間にダモクレスへと着弾した。
「体勢を立て直す暇なんざ与えねぇよ?」
 続けて放たれた道弘の飛び蹴りが上空から襲い掛かった。
「スライムよ、敵を貫きなさい!」
 紫が『ダークマター』を鋭い槍の様に伸ばしダモクレスを刺し貫くと、綴から放たれた気が紫を避ける様にしてダモクレスを撃つ。
「そろそろ使わせてもらおうかな。防御、展開」
 詠唱と共にピジョンが前方に茨のバリアを張り巡らせた。
 ケルベロスたちの流れるような連続攻撃に、一方的な戦闘になるかと思ったその瞬間。
「――――――ッ!!」
「くっ……」
「う――、――い!」
 叫び声すらもかき消す様な大音量のハウリング音が、ダモクレスの身体にあるスピーカー一つ一つから鳴り響く。
 その暴力的な音が張り巡らせた茨のバリアを吹き飛ばし、紅風たちに襲い掛かった。
 咄嗟の攻撃に反応の遅れた紅風たちの耳からは赤い液体が垂れてきていた。
「この程度なら、まだ平気だ」
 紅風はそう言うとチェーンソー剣を手にダモクレスへと斬りかかる。
 その間に疾風丸は自身の画面に動画を映し出し、紅風の回復に努めていた。
「回復はわたくしにお任せを」
 リリスがライトニングロッドを掲げると、前方に雷の壁が構築され紅風たちの傷も癒えていった。
 克己が『直刀・覇龍』を振るうと斬撃が緩やかな弧を描く。続けて『霊杖「金木犀」』に肉食獣の霊気を宿し瑠璃が殴りかかる。更に道弘の放った竜砲弾が追い打ちをかけた。
「貴方の回復を、阻害してあげますわ」
 紫が対デウスエクス用のウイルスカプセルを投げつけると、治療を阻害するウイルスがダモクレスを蝕んだ。
「電光石火の蹴りを受けて、痺れてしまいなさい!」
 綴が一瞬にしてダモクレスの懐に飛び込むと同時、鋭い蹴りがダモクレスの胴に突き刺さる。続いてピジョンの放った稲妻がダモクレスを飲み込んだ。
 反撃に放たれた音の波がピジョンを飲み込み、後方へと弾き飛ばす。
「この呪いで、お前を動けなくしてやろう」
 紅風が呪いを放ちダモクレスを攻撃している最中、リリスはダモクレスの攻撃に合わせて的確に仲間の治療を行っていた。


 民家の屋根上で繰り広げられる戦い。その余波にいくつかの屋根は見るも無残な状態になっていた。
 とはいえ建物の被害が出てはいるが、一般人への被害が出ていないのはケルベロスたちの作戦が上手くいっていることに他ならない。
 今にもケルベロスたちを無視して一般人の元へと向かおうとするダモクレスを包囲するように立ち回り、逃がさない様に注意しつつ攻撃を続ける。
「何をそんなに焦っているんだ?」
 克己が自分の間合いを維持しつつ、ダモクレスへと斬撃を浴びせていく。
 そんな克己に気を取られれば、加速した瑠璃の『機龍槌アイゼンドラッヘ』が背後から襲い掛かる。その隙を逃さず道弘が怒りを激しい雷に変えダモクレス目掛けて放つ。
「この虹に、見惚れてしまいなさい!」
「私でも、やれば出来るのです!」
「隙だらけだねぇ」
 紫、綴、ピジョンの連続攻撃に、ダモクレスは堪らずたたらを踏んだ。その間にピジョンのテレビウム、マギーはダンスミュージックの動画を流し治療を行っていた。
 紅風がチェーンソー剣を振るい、リリスが雷の壁を構築し仲間を援護する。
 度重なる波状攻撃に為す術のないダモクレス。今なお立っていられるのはスピーカーから流れるヒーリングミュージックのおかげである。治療を阻害してもなお驚異的な回復力を発揮していた。
「戦いじゃなければいい音楽なのになぁ!」
 実に勿体ないとピジョンは残念そうに語る。
「敵が回復を続けるのなら、その回復力を上回る攻撃を浴びせればいいって事だ」
 紅風の言葉に皆が頷き、一斉に構える。
「木は火を産み火は土を産み土は金を産み金は水を産む! 護行活殺術! 森羅万象神威!!」
 ワイルドスペースから召喚されたカトレア・ベルローズ(e00568)の残霊と共に克己が駆け出しダモクレスへと斬りかかる。2人がしばらく連撃を加えた後、互いの気と大地の気を融合させダモクレスを十字に斬り裂くと同時、気が爆発四散し白い霧となって辺りに降り注いだ。白い霧が消える頃、カトレアの残霊はワイルドスペースへと帰っていった。
「意志を貫き通す為の力を!! 全力で行くよ!!」
 瑠璃は太古の月の力を剣に変えダモクレス目掛けて一気に振り下ろす。
「追い込んでくぜ、覚悟しやがれ!」
 道弘は数本のチョークを握り潰すと、その破片をダモクレスへと投擲する。逸れた破片は地面を跳ね返り再びダモクレスへと襲い掛かる。破片に誘導させる形で移動した先には紫が待ち構えていた。
「ぴったりですわね」
 紫の手には鋭い槍と化した『ダークマター』。腕を伸ばせばダモクレスへとその鋭い槍先が吸い込まれていく。
「身体を巡る気よ、私の掌に集まり敵を吹き飛ばしなさい」
 綴は自身の気功を両手の掌に集中させ、ダモクレスへと放った。
 ピジョンはガネーシャパズル『Eternal moon』を掲げる。するとパズルから竜を象った稲妻が飛び出しダモクレス目掛けて飛んでいく。
「わたくしの演奏、聴いて頂けると幸いです」
 リリスがバイオリンを取り出すと即興で作曲したメロディを奏で始める。リリスの音楽と共に放たれた気功と稲妻がダモクレスへと襲い掛かる。
「その硬い身体を、かち割ってやるぞ!」
 高々と上空へ跳び上がった紅風はルーンアックスをダモクレス目掛けて一気に振り下ろした。
 頭部のスピーカーが叩き割られ、胴、足のスピーカーが次々と潰れていく。ダモクレスは行動する力も尽き、そのまま動かなくなった。


「音を操る相手か。なんともやりにくい相手だったな。が、いい修行にはなった。次は音の壁をぶち抜いてやる」
 強者との戦いに克己は満足そうに微笑んでいた。
 戦いが終わり、割れたガラスや壊れた屋根の修復を綴、道弘、紅風の3人が手分けして行う。
「今日は音楽聞いてみようかな」
「でしたらわたくしが演奏いたしましょうか?」
 瑠璃の呟きにリリスが演奏を買って出た。
「演奏会ですか。いいですわね」
「戦い以外でゆっくり聞けるのはいいねぇ」
 紫とピジョンもこれから始まる演奏会に期待を寄せる。
 事後処理を済ませると、ゆっくり演奏が出来る場所へと移動する為、ケルベロスたちは早々にその場を後にした。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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