緑や花に囲まれた、広い川。
船着き場では小型から大型までの丸型ボートが貸し出され、誰でも簡単に水の上で、くつろぐことが出来る。
ボートは川の上に浮かんでいるだけなので、わざわざ漕いで移動する必要も無い。
好きな飲食物を持ち込める上、コンロやプレートのレンタルも可能なので、たこ焼きや焼きそばが作れ、更に網焼きプレートを使えばバーベキューまでも楽しめる。
食に走るも良し、抜群の開放感を堪能するも良し、昼寝をしたり景色を楽しむのも良し、と。
心身ともにリフレッシュし、良い想い出が作れる場所として、人気だ。
『ボートなのに漕がないだと!? ボートとは、漕ぐ姿を女性に見せて、ワイルドさをアピールするものだろう!?』
空気の読めない異形の鳥が、船着き場に現れた。
無茶苦茶だが迫力は有る主張に、一般客もスタッフ達も、慌てて逃げて行った。
『フッ……俺のワイルドさに勝てぬ者どもめ。よし、では各自、食材を奪い、焼きまくって食せ! これぞワイルド!! 食材が無くなったら、逃げた者共を捕まえて、また食材を奪えば良いだけだ!』
10名の男性信者達に向けて指示を出せば、信者達は食材を奪おうと、販売所に向かい始めた。
「水上で、ゆっくり時間を過ごせるなんて素敵ですね。美味しい物を食べたり、飲んだり……景色も良いので、色々な楽しみ方が出来て、想い出作りにピッタリですね。……今回のビルシャナは、そういう楽しみ方が出来ないタイプのようです。食材を独占し、自分達だけで好き放題するみたいですね。その上、一般人に襲い掛かる気も有るようなので、犠牲者が出る前に、一般人の救出とビルシャナの討伐をお願いします」
ぺこり、と頭を下げる、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)。
周知の通り、ビルシャナの言葉には強い説得力が有る為、放っておくと、一般人は配下になってしまう。
配下は絶望的に弱く、倒すと死んでしまうほどなので、戦闘になれば攻撃しにくい面倒な敵となる。
ビルシャナを倒せば配下は元に戻るが、死なせる危険性が有る以上、ビルシャナの主張を覆すような、インパクトのある主張で、信者を正気に戻して配下化を阻止して欲しい。
男性信者達10名は、ビルシャナの言動の所為で、正気を失っているに過ぎないのだ。
念の為、人払いをしていれば、一般客を巻き込まずに済む。
「今回のビルシャナと信者達は、ワイルドというものに拘っているようですね。どういった言動が、ワイルドなのかは人それぞれで違うと思いますが……彼らが認めるほどのワイルドさを語ったり、行なったりしてみるのも、良いかも知れませんね。ワイルドとは正反対の癒しぶりを見せつけたりしても、大丈夫です」
ワイルドな面を女性にアピールすれば確実にモテる、と。
このビルシャナと信者達は思っている気がする、という事を、セリカは付け足して。
「ビルシャナとなってしまった人は、救うことは出来ません。せめて被害が拡大しないように、討伐をお願いします。皆さんだけが、頼りです」
参加者 | |
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ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352) |
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542) |
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524) |
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205) |
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455) |
香月・渚(群青聖女・e35380) |
六星・蛍火(武装研究者・e36015) |
●
降下後、現場に到着した時は、一般人が逃げ去った直後だった。
(「一応念の為に、殺界形成で人を近づけないよ……!」)
素早く殺界形成を展開する、ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)。
「販売所の食材、全部くっださいな♪ 料金はもちろん払うよ……!」
信者達が販売所へ向かう前に、エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)は、料金を置いて、食材を全て買い込んでいた。
『何者だ!? 俺のワイルドさに勝てるとでも思っているのか!?』
信者達が販売所から食材を奪えず、ビルシャナの元へ戻って来ると、ビルシャナは威嚇するように声を張り上げて。
(「ワイルドかぁ、確かに最近は自然と触れ合う機会も少なくなったし……」)
香月・渚(群青聖女・e35380)が思案を続け。
(「何もかもが機械化されてワイルドを見せつける事も無くなったから、ワイルドさも貴重な物だよね」)
渚はそう考え、こくこくと頷いている。
「ワイルドさには自信あるよ!!」
『何だと!? 女性にアピール出来るほどの、ワイルドさを持っていると言うのか!?』
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)が自信たっぷりに堂々と答えれば、ビルシャナは直ぐに反応して。
「女にアピールったって、あんたら男ばっかじゃないですか!! それ前提が破綻してるからそうなってんでしょ!?」
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)がツッコミを入れれば、1人の信者がビルシャナや他の信者達を改めて見回し、ハッと息を呑む。
この中で、いくらワイルドさを見せたとしても、信者の中に女性が居ないのでは、お話にならない。
そう気付かされ、1人の信者は正気を取り戻して、逃げ去った。
●
「ボートなどという人工物に頼っててワイルドだって?」
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)は羽織物をボートに置き、マギーも置いて。
水着姿になり、食材を防水ビニール袋に入れる、ピジョン。
「真のワイルド。それは、泳ぐ!!」
言い終えた直後、ピジョンは川へ飛び込んだ。
「真のワイルドなら僕から肉を奪ってみな!」
防水ビニール袋を掲げて見せ、川を泳ぐという、危険な行為をするピジョンのことを、マギーが冷めた目で見ている。
(「説得だから仕方ないんだって!」)
マギーの冷ややかな目に気付き、胸中で言い返しているピジョン。
そこへ、煽られた信者が2人ほど川に入り、泳いでピジョンを追って来る。
ピジョンは、水泳が凄まじいほど得意……な、わけでも無く。
泳げはするが、あまり速くは無い。なので、頑張って逃げるだけだ。
『頑張れ! 奪い取れば、ワイルドレベルが上がるぞ!』
ワイルドレベル、とは。
(「ワイルドさを求めるビルシャナか。私はワイルドさはあまり良く分からないから、癒し系で対抗する事にするわね」)
信者を応援しているビルシャナを見ながら、六星・蛍火(武装研究者・e36015)が思案し。
「のんびりと眺めてみましょう? 静かな感じがして、とてもほのぼのとした雰囲気だと思わないかしら?」
ワイルドとは縁遠い、癒しを用いて説得を開始。
澄んだ川の周りは、木々の緑や季節の花が咲き、小鳥のさえずりも聞こえる。
信者の1人とボートに乗った蛍火は、ボートの上で横になり。
「こうやってのんびりと昼寝をするのも、自然の癒しが感じられて、素敵だと思わないかしら?」
信者へ視線を向ければ、その男性信者は赤くなり、必死で頷いて見せた。
どうやら、蛍火のような美女と、癒しタイムを共有出来るとは夢にも思って居なかった様子で。
この心地良さが長く続くのならワイルドとかもう、どうでも良い、とばかりにアッサリ信仰を捨てた。
「明日に怯えているようにしか見えませんね! ……ワイルドは常に死と隣り合わせ。ならば私は汁物を作りましょう」
ワイルドを象徴した歌詞を口ずさみ、ジュリアスは駄目な材料からブイヨンを作って汁物に。
「BBQは“焼く”なんて、他人の決めたもんに屈服する奴がワイルドであるものですか!」
ジュリアスは大量の肉を持ち込んでいたが、それらを焼くつもりは無く。
『何を言っている!? 外で焼く料理こそ、ワイルドだろう!』
「本当にワイルドな人は、お肉を焼いて食べたりしないのよ」
反発するビルシャナに、ローレライが言葉を掛けた。
どういうことだ、と。ビルシャナも信者達も、疑問符を浮かべまくって、ローレライの言葉を待つ。
「馬刺しみたいに生で食べるのよ……! そのかわり後でお腹を壊すけれど!」
『な、何と言う事だ……腹を下すのを承知で、生で食べるだと!?』
ワイルドレベルの高さに、衝撃を受けるビルシャナと、信者達。
畳みかけるように、ローレライは言葉を続けた。
「そもそもワイルドなら食材は自分で捕まえて、捌いて食べるもの! そう、サバイバルとワイルドは紙一重なのよ……!」
流石にそこまでのレベルには、辿り着けない、と。
信者2名が諦めて我に返り、脱兎の如き勢いで去ってゆく。
そして、ピジョンを追っていた2人の内、1人は、泳ぐのがあまり得意では無かったのか疲労し、食材を奪うのを諦めた。
諦めた自分自身には、ワイルドさが足りないのだとショックを受け、信仰を捨てて帰ってゆく。
「苦労して狩るから、美味しいの!」
ビルシャナはローレライに、何も言い返せず、プルプルと震えている。
ちなみにジュリアスは食材を焼かず、鍋をこしらえていた。
野菜も入れて、コンロで程良い具合に熱し、蓋を開ければ、蒸気と共に食欲を誘う香りが漂う。
「鍋には鶏肉が欠かせませんよねえ、鶏公?」
ジュリアスの問いに、ビルシャナは身の危険を感じて一歩後退。
「鳥さんがワイルドさを知りたいなら、教えてあげないとね」
声がして振り向けば、水着姿の瑠璃が、準備運動を終えたところで。
瑠璃は川へ飛び込み、大きく腕を動かし、豪快に泳ぐ様を見せつける。
(「大分久しぶりに泳ぐんだけど気持ちいいなあ」)
瑠璃が泳ぐたびに、川の水がザバザバと音を鳴らし、ワイルドさを際立たせ。
「ワイルドさを求めるなら川を自在に泳げるようにならないと!!」
ピジョンをまだ追って泳いでいた信者1人は、瑠璃の声を聞き取り、動きを止める。
(「僕もBBQに加わりたい」)
その隙に、ピジョンは川から上がった。
信者1人は瑠璃のワイルドな泳ぎぶりを、食い入るように見つめていたが、足がつり、溺れそうになる。
そんな信者を迷わず救助し、川岸を目指して泳ぎながら、瑠璃は口を開く。
「昔は森を駆け回って狩りをしたんだ。僕も最初から川を上手く泳げた訳じゃないし、狩りも獣に襲われたりしたし」
真剣な表情になる、瑠璃。
「生半可な気持ちでワイルドさを求めるのは、やめた方がいいよ」
岸に上がり、瑠璃は、きっぱりと言い放つ。
水もしたたる良い男状態になっている瑠璃は、鍛え抜かれた体を堂々と見せて。
豪快に肉を頬張った瑠璃に、圧倒される信者達。
ボートの上でくつろいでいたマギーも、瑠璃の肉体美を見て「ええ体しとるやん」と、目で語っていた。
「大事な人を護る為、頑張って鍛えたんだ!!」
ワイルドレベルが高すぎる。あと、イケメン過ぎる、と。
助けられた信者は衝撃を受けて我に返り、助けて貰った礼を言い残して立ち去った。
「焼きまくって食べるのがワイルドなんだよね? じゃあ一緒にどーぞ」
山盛り状態の食材を、どんどん焼いて、信者達に声を掛けるエヴァリーナ。
信者達は嬉しそうに箸を持ち、焼けた食材を取ろうとした、次の瞬間。
エヴァリーナが猛スピードで、それらを奪って食べてゆく。
食べ物を奪い合うスキルが身についており、それでいて大食いの性質を持つ、エヴァリーナ。
「この私から肉の一切れでも奪えると思わないでね。この世は弱肉強食。ワイルドを目指すなら奪われても文句は言えないんだよ……!」
厳しすぎる世界を、エヴァリーナのお陰で思い知った、信者2名が、リタイア。
ワイルドを諦めると同時に、信仰心も捨てて、帰路につく。
「ボクが思うワイルドと言ったら、バーベキューだよ! しかもただのバーベキューではない!」
渚も肉を焼き、程良く焼けた肉を、箸で掴んで。
「ボクは肉を焼いた後は、塩コショウ、タレ等の味付けは一切せず、そのまま肉を食べるんだよ!」
渚は宣言通り、味付けをしていない肉を、頬張る。
「余計な味付けをしない、肉本来の味を楽しむ、これこそワイルドじゃないかな?」
なんという、ワイルドの高み。
味付けは絶対する派の信者が1人、正気を取り戻した。
残る信者は、あと1人。
「鍋や肉は、たとえ元信者であろうとも希望者には振る舞う。それが私なりのワイルド」
元信者達に鍋や肉を振る舞ってから、帰していたジュリアスが、ビルシャナを指差し。
「あの鶏公、戦闘になった場合は、あなたを盾にするチキンのようですね! ワイルドの欠片もないので気をつけてください!」
『は!? ちょ、待て、何を言っている!?』
ジュリアスの言葉が衝撃過ぎて、信者は教祖を見る。
『いやいやいや、しないぞ! 盾になどしないからな!?』
ビルシャナの焦りぶりが、信者の不信感を煽る。
「ボート漕ぐだけのワイルドより、スマートに女性をエスコートする方がカッコよくない? さりげなく手を握ってみたり……!」
そこへ追い打ちの如く掛かるのは、ローレライの言葉。
確かにそのほうが、女性に好かれるのではないだろうか。現に、女性が言っているのだから、と。
信者は納得した瞬間、正気を取り戻した。
立ち去る信者を、追い駆けようとするビルシャナだが、ケルベロス達がそれを許さない。
「行くよドラちゃん。サポートは任せたからね!」
「さぁ、月影……一緒に行きましょう!」
渚と蛍火が、戦闘開始の合図とばかりに、サーヴァントへ声を掛け。
あっという間に、敵にダメージを与えてゆく、メンバー。
「ワイルド瘡霊弾!」
ジュリアスは霊気で作った玉を放って。
「容赦なく、しばき倒すね。ワイルドなパワーを喰らえ!!」
瑠璃は一本の大きな剣を、一気に振り下ろし、威力の凄まじい攻撃に耐えきれず、敵は完全に消滅した。
●
「ワイルドとモテるのは同義ではないのです」
戦闘を終え、そう呟くのは、ジュリアス。
メンバーは片付けやヒール作業などを終えてから、殺界形成を解除。
「バーベキューとか、まだ残っているかな? もう少し食べて帰りたいわね」
振り向いた蛍火が確認すれば、まだまだ残っている食材、ジュリアスが作った鍋やご当地の味が楽しめる汁物など、美味しそうな物が揃っていた。
「待ってましたみんなでバーベキュー! 食材も沢山買ってきたわ! 特に、お肉……!」
ローレライも、エヴァリーナと同様、大食いの性質なので、食材の量が半端無い。
「おしごと終わったから、後はバーベキューを本格的に楽しもう……!」
エヴァリーナが早速、食材を焼き始め、説得時とは違い、仲間達の分も残しておく。
「やっぱり肉本来の味は、ワイルドで味わい深いなぁ!」
渚が美味しそうに、肉を咀嚼し、感想を零す。
「大事な人を護る為に、そこまで鍛えたなんて、すごいわね」
「6年で、身長も20cmぐらい伸びたしね!!」
蛍火は高身長の瑠璃を見上げて、話し掛ければ、更にすごい成長ぶりを聞けて。
「鍋も汁物もおいしそうなんだよ……! 食べても良いんだよね」
エヴァリーナは、汁物や酒を飲んでいるジュリアスに、念の為、確認。
了承を得れば、嬉々として頂く、エヴァリーナ。
余ったら、後日に一人で食べる気でいたジュリアスだったが、この面々なら、完食して貰えるだろう。
「具材は牛肉と鶏肉が好きなんだが、有るかな」
「有るよー! カルビに、豚トロ! ささみまで! あとはバター醤油で焼きおにぎり!」
尋ねるピジョンに、テンション高く答える、ローレライ。
焼けた分を簡易皿に移し、ピジョンはボートの上でくつろいでいるマギーの隣へ座り。
コーンが好きなマギーに食べさせ、自分も熱々でジューシーな肉を味わう。
水上でくつろぎながら、美味しい物を食べられ、その上、景色も良い。
(「若者が楽しむ様を肴に酒を呑む。それが、おじさんなりの楽しみ方です」)
焼いて貰った肉も食べ、ジュリアスは楽しそうなメンバーを眺めて。
「外で飲む酒は、室内とはまた違った風情です」
満足そうに呟く、ジュリアス。
「景色は最高だし、みんなで食べるご飯は最高に美味しいわよね! しっかり焼いて食べましょう!」
メンバーに声を掛けてから、ローレライは幸せそうに、美味しく焼けた食材を食べまくった。
作者:芦原クロ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年6月1日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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