●宿縁のビジョン
空港を望む田園地帯。
「平和じゃのう」
静かに独白したのは小路を散策中のウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)。作り物の髭で顔を飾ったドワーフの少女だ。
「うむ。実に平和じゃ……」
ウィゼは足を止めて青空を仰ぎ、また呟いた。先程よりも強い感慨を込めて。
次の瞬間、平和は終わった。
一条の稲妻が天から地に走ったのだ。まさに青天の霹靂。
「おおう!?」
雷鳴の轟きに驚愕の叫びを重ねてウィゼは飛び退った。雷が落ちた場所は彼女の目の前だったのである。
いや、それは雷ではない。地に触れると同時に実体化し、ヒトの形――長身の青年の形を取っていた。
青年の肌は灰色、髪は空色、剥き出しの上半身には電光めいた文様が浮かび、右手には長大な戦斧を携えている。雷からの変化という現象がなかったとしても、その異様な容貌から明らかだ。
デウスエクスであることは。
「……死神かのう?」
「そうだよ。『雷獄のサエッタ』っていうんだ」
ウィゼが種族のあたりをつけると、デウスエクスの青年は頷き、自分の名を告げた。
「あんた、ケルベロスだよね? ケルベロスブレイドとかいう戦艦に乗ってたクチかい?」
ウィゼにそう問いかけたサエッタであったが、返事を聞く前に話を進めた。
「いや、どうでもいいか。あのデカブツに乗ってたかどうかにかかわらず、ケルベロスはすべて仇みたいなもんだ。死神という種族全体のね。だから、あんたにも――」
サエッタは肩をそびやかすようにして、ドワーフの少女を見下ろした。
「――死んでもらうよ」
「ふむ。デスバレス・ウォーの意趣返しというわけか」
ウィゼは胸を張るようにして、死神を見上げた。
「不毛じゃのう。報復したところで情勢が覆るわけでなし」
「確かに不毛だけども、一矢も報いずに死んじまったら、デスバレス・ウォーで散った仲間たちに顔向けできないからねぇ」
サエッタの口許が歪み、微笑らしきものが浮かんだ。生き場所を失った(あるいは最初から持っていなかった?)者の虚無的な笑み。
「もちろん、たった一矢で終わらせるつもりはないよ。命がある限り、ケルベロスを殺して殺して殺して殺して殺しまくる。そして、定命者たちの記憶にしっかりと刻みつけてやる。死神がいかに恐ろしい存在だったのかを……」
「己が生きた証を残すために他者を殺すのか……やれやれ。傍迷惑な奴じゃのう」
付け髭に隠されたウィゼの口から溜息が漏れた。
●ザイフリートかく語りき
「石川県小松空港の傍の田園地帯でウィゼ・ヘキシリエンがデウスエクスの襲撃を受ける」
ヘリポートに招集されたケルベロスたちの前にヘリオライダーのザイフリートが現れ、力強い声で予知を告げた。
「そのデウエスクスは『雷獄のサエッタ』という名の死神だ。聖王女エロヒムによってデスバレスが無力化した際、地球に逃げてきたのだと思われる」
死神勢の命運は既に尽きているが、それはサエッタも承知の上。しかし、座して死を待つほどの美学や矜持は持ち合わせておらず、一人でも多くのケルベロスを殺すつもりでいるらしい。その一人目に選ばれたのがウィゼというわけだ。
「自勢力の滅びが避けられぬと知っているにもかかわらず……いや、知っているからこそ、凶行に走らずにはいられなかったのだろうな。それを強さと見るか弱さと見るかは私には判らぬが――」
ザイフリートの声が暗くなった。
すぐに力強さを取り戻したが。
「――なんにせよ、赦すわけにはいかん。貴様たちの手で引導を渡してやれ!」
参加者 | |
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大弓・言葉(花冠に棘・e00431) |
華輪・灯(春色の翼・e04881) |
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426) |
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753) |
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770) |
比嘉・アガサ(のらねこ・e16711) |
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290) |
帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004) |
●ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
「傍迷惑な奴じゃのう」
『雷獄のサエッタ』なる死神の前であたしは溜息をついた(付け髭が揺れて、少しばかりくすぐったいのじゃ)。
しかし、ケルベロスたる者、溜息気分を引っ張たりしてはいかん。心を戦闘モードに切り替え、武器を構えるのじゃ。右手にルーンアックス、左手にもルーンアクッス。
そして、足を――、
「ウィゼちゃーん、大丈夫ぅー!?」
――踏み出そうとした瞬間、アニメちっくな声が聞こえ、戦場たる小路の人口密度が一気に上昇したのじゃ。
なにが起こったかは言うまでもないだろうが、言うておこう。そう、仲間たちが降下してきたのじゃ。
「私たちが来たからには百人力よー!」
アニメ声の主であるオラトリオの言葉おねえが簒奪者の鎌を振ってポーズを決めた。その頭の上では、熊蜂型ボクスドラゴンのぶーちゃんが『ふんす!』と鼻息を荒くして胸を張っておるのじゃ。
「いえいえ、百人力どころじゃありませんよー!」
同じくオラトリオの灯おねえもポーズを決めた。その頭の上では、ウイングキャットのアナスタシアが『にゃあ!』と高らかに鳴いて胸を張っておるのじゃ。
「今日の私は前のめりえんじぇりっくですから!」
言葉の意味はよく判らんが、確かに百人力どころではない。一人頭(無論、サーヴァントたちも含むのじゃ)千人力くらい? 合わせて一万力を軽く超えておるな。
「コギト産業の皺寄せが積もり積もった挙句に自我を持った存在が死神だというのなら……まあ、この歪んだ宇宙に一矢報いたいという動機くらいは理解しないでもない」
煙草の煙めいたバトルオーラを纏った黒豹の獣人型ウェアライダーの陣内さんがサエッタをねめつけた。その頭の上では名無しのウイングキャットが……いや、いなかった。主人のシリアスな空気を無視してアナスタシアのほうに飛んでいき、じゃれついておるのじゃ。
「しかし、だからといって、俺たちの生き様を食い荒らしていいってわけじゃない。人のせいにすんのも大概にしろよ」
「そう言うけどさー。実際、あんたらのせいだろ?」
サエッタも陣内さんのシリアスな空気に呑まれることなく、にやけ顔で肩をすくめてみせた。
「あんたらが食い荒らされる側の立場にずっと甘んじていれば、コギト産業も斜陽にならず、我らがデスバレス株式会社も倒産せずに済んだはずさ」
勝手な言い種じゃのう。
●大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
「勤め先が倒産して明日をも知れぬっていうのなら、さっさと首でも縊れば? 骨くらいは拾ってあげるよ」
吐き捨てるように言ったのはアガサちゃん。イリオモテヤマネコの人型ウェアライダーなので可愛いケモミミや尻尾が生えてるんだけど、サエッタに向けられたネコの瞳はアイスエイジ並みのの冷たさ。絶対、骨を拾うつもりないと見た!
そんな扱いを受けても、サエッタはにやけ顔をキープ。
「こう見えて、俺は寂しがり屋でね。一人で首を縊るよりも無理心中に走るタイプなんだ」
「ふざけるな!」
怒鳴ると同時に帰天くんが突っ込んだ。鬼のような勢いと言っても過言ではないし、比喩でもないの。オウガメタルを纏って、所謂『鋼の鬼』状態になっているんだから。
「死んだ仲間のところに送ってやるぜ!」
サエッタのボディに戦術超鋼拳を打ち込む帰天くん(荒々しい口調だけど、普段はもっと礼儀正しい子なのよ)。
「うむ。送ってやろう」
ウィゼちゃんも攻撃を仕掛けた。二刀流ならぬ二斧流のルーンディバイド。
「しかし、どこに送られるのじゃろうな? デスバレスはあんな状態じゃし……」
私もそれが疑問なのよねー。これから先、冥府送りになったデウスエクスはどうなっちゃうんだろう? ……と、心の中で首をかしげてる間にサエッタは斧を避けちゃった。
もっとも、反撃はできなかったけどね。三人目のウェアライダー(ちなみに狼の獣人型)である宮口くんが――、
「無に還るのかもしれんな」
――ウィゼちゃんの攻撃に合わせて、サウザンドピラーを光らせたからよ。
光は見慣れない星座(やっぱり、おおかみ座とかなのかしらん?)の形を取って、狼っぽいオーラを発射。
それを受けてよろめくサエッタの足に小さな影が噛みついた。狼よりも鋭い牙を持つその影はミミックのザラキちゃん。
「死後の運命は判りませんが、生きている間は――」
ザラキちゃんの主人であるドワーフのイッパイアッテナくんがジャンプ。
「――もう誰も傷つけることはできませんよ」
そして、サエッタにスターゲイザーを打ち込んだ。
『もう誰も傷つけ』させないために。
●華輪・灯(春色の翼・e04881)
ステンドグラスが組み込まれたお洒落なガネーシャパズルを陣内さんがガチャガチャといじり回し、蝶型の光を飛ばしました。
「死神ってのはお利口さん系ばっかりだと思ってたんだけど――」
蝶がとまったのはアガサさんの肩の上。
「――あんたみたいになにも考えずに突っ走るタイプもいたんだね」
蝶からエンチャントを得たアガサさんは如意棒をヌンチャク状にして、キツめの一撃を放ちました。キツめの眼差しとキツめの悪態を添えて。
サエッタはヌンチャクで横っ面を張り飛ばされましたが――、
「なにも考えてないわけじゃないさ」
――その勢いを殺すことなく一回転し、正面に向き直りました。
「できるだけ多くの命を奪うことを考えてるよ。さっきも言ったけど、寂しがり屋なんでね。無理心中の相手は多ければ多いほどいい。目標は一千人くらいかな」
笑えない冗談とともに片腕が突き出され、掌底からボール状の雷を撃ち出しました。
その先にいたのはウィゼさん。しかし、彼女には命中しませんでした。イッパイアッテナさんが立ちはだかり、盾となったので。
「その一千人の一人目にウィゼさんを選んだのは失敗でしたね」
ダメージに怯むことなく、イッパイアッテナさんはそう言ってのけました。
「ご存じないようですが、彼女は数々の襲撃を退けてきたんですよ」
「ああ、存じちゃいないよ」
と、サエッタも動じることなく言ってのけました。
「俺的にはさー、より多く殺すということが重要なのであって、殺す相手の詳細なんかどうでもいいわけ。とはいえ、その相手ってのがデカブツに乗ってた奴だったりすると、ちょっとばかし溜飲が下がっちゃったりするかもね」
デカブツというのは万能戦艦ケルベロスブレイドのことでしょう。
「はいはーい! 私、『デカブツに乗ってた奴』よ!」
言葉さんが挙手して自分をアピール……したかと思うと、簒奪者の鎌をいきなり振り下ろし、ブレイズクラッシュを叩き込みました。
「でも、溜飲は下げさせてあげないのー」
●帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)
「先の戦の際、ナンタラ獄とか名乗る面々がケルベロスブレイドに殴り込みをかけて返り討ちにあいよったが――」
激闘が続く中、ヴィゼさんが(攻撃の手は休めずに)サエッタに問いかけました。
「――自称『雷獄』のおぬしもそやつらの仲間じゃったのか?」
「さあ、どうだろうね」
サエッタは答えをはぐらかし、逆に問い返してきました。
「仮に仲間だったら、なんだっていうの?」
「いや、なかなか仲間思いの奴だと思うてな。こうして仇を討とうとしておるのじゃからのう。傍迷惑という奴という印象は変わらんが、嫌いではないのじゃ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、仲間とかいう小さいスケールの話じゃないんだ。最初にも言ったように――」
サエッタは長大な戦斧をウィゼさんめがけて振り下ろしました。
「――あんたらは死神という種族全体の仇なわけ!」
しかし、名無しのウイングキャットが小さな体を盾にしてウィゼさんを守り、名前のあるほうのウイングキャットが尻尾の輪でサエッタに反撃しました。
「仇? そういう屁理でいくなら、死神も俺の仇だ」
名無しのほうの主人である陣内さんがケルベロスチェインで魔法陣を描き、前衛陣の防御力を高めました。
「俺の……魂のな」
陣内さんの声はとても静かなものでしたが、どす黒い怒りと深い悲しみが込められているように思えるのは気のせいでしょうか? もしかしたら、亡くなった身内を死神に利用されたという苦い経験があるのかもしれませんね。
僕と同じように……。
「死神は、その在り様が人々の魂を殺し続ける。奪っておきながら、奪われて逆ギレとは……無様だぞ」
「そーだ、そーだ! 無様だぞー!」
と、陣内さんの静かな述懐に乗っかったのはヴァオさんです。
彼が奏でる『紅瞳覚醒』からエンチャントを受けながら、僕はバスターライフル(ワイルドスペースの力を攻撃エネルギーに変換できる特別製です)からフロストレーザーを発射しました。
「そう、今度はこっちが奪う番だ。無様なてめぇな命をな!」
「そーだ、そーだ! 奪ってやるぅー!」
乗っからないでください、ヴァオさん。
●玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
「……っしゃ!」
尻尾をピンと立てて、アギー(アガサのことだぞ)が吠えた。何回目かのシャウト。こいつ、回復役の俺をさしおいて、ことあるごとに死神野郎を睨みつけてはシャウトで自己回復してやがるんだよ。どうやら、敵を挑発してるつもりらしい。
「――!」
アギーに負けじと吠えながら(あまりにも甲高くて、よく聞こえないが)、ぶーちゃんが死神野郎にボクスタックルをぶちかました。この坊やはだいたいにおいて張り切りモードかビビりモードのどちらかに針が振り切れてるんだが、今日は前者らしい。
「くたばりやがれぇ!」
ぶーちゃんに続いて吠え猛りながら、翔が戦術超鋼拳を叩き込んだ。なにやら荒れ狂っている。俺と同様、死神がお嫌いらしい。いや、好きな奴はそうそういないだろうが……。
「言われなくても、くたばってあげるよ」
これだけの猛攻に晒されてなお、死神野郎はふてぶてしい態度のまま。
「でも、ただではくたばらない。さっきの宣言通り、最低でも一千人は道連れにする。死神の恐ろしさを皆の記憶に刻みつけるためにね」
自分の死を織り込み済みで行動してる奴はタチが悪いよな。死にたけりゃあ、一人で死ね。一人で死ね。
……なんて憤ってしまう俺とは対照的に双牙は冷静に見える。
「今更だな。死神に限らず、すべてのデウスエクスが恐るべき存在であることは誰でも知っている。だからこそ、ケルベロスは全力で戦ってきたし――」
双牙はダッシュして死神野郎に組み付いたかと思うと、肩に担ぎ上げた。
「――その多くの者が真剣にそれらと向き合ってきた。俺も、拳を交えた相手はすべて覚えている」
そして、助走をつけて地面に叩きつけた。地獄の炎で燃やしながら。
「……がっ!?」
さすがの死神野郎も苦鳴を発した。それでもストンピング等の追撃を食らう前に地面を転がり、距離を取ったのはたいしたもんだ。
双牙のほうはといえば、バックヤードプロレスめいた荒技を決めた直後だっていうのに息を乱してもいない。
「『雷獄のサエッタ』の名も、この拳に刻んでおくとしよう」
よかったな、死神野郎。とりあえず一人の記憶には刻みつけることができたぞ。
●比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)
「やっぱ、さすがに千人は厳しいかな」
地面を転がってた死神が立ち上がり、全身から電流をびりびりと放った。
「でも、諦めないけどね。あんたらだけでも道連れにしないと、格好がつかないよ」
プラズマボールみたいなやっすいビジュアルだけど、それを浴びた前衛陣はダメージを受けてるみたい。ダメージだけじゃなくて感情にも作用しているらしく、前衛のサーヴァントたち(ぶーちゃん、陣のネコ、ザラキ、オルトロスのイヌマル)が興奮してあっちこっちを走り/飛び回ってる。トイレ・ハイ?
「ふふん! どんなに感情をかき乱されようと、皆がいるからだいじょーぶ!」
声を張り上げたのは言葉。文字通り右往左往するサーヴァントたちの間を縫うようにして疾走し、死神を戦術超鋼拳で攻撃した。そんな技を使う時でもモーションを可愛い感じにしているところが言葉らしい。もっとも、奥歯の破片を撒き散らして吹っ飛ばれてる死神も視界に入ってるから、絵面は凄惨極まりないけどね。
次なる展開はもっと凄惨だった。灯がウィゼと一緒に料理を手早く(それはもう本当に手早く)つくりあげ――、
「さあ、地球の乙女の素敵な手料理を召し上がれ!」
――吹っ飛ばされた死神のところに駆け寄り、口の中に押し込んだの。
「ちょっ、やめ……ろぐぉわ!?」
抵抗も虚しく、死神は『地球の乙女の素敵な手料理』とやらを飲み込まされた。うわー。デスバレスの地獄対策に追われていたイグニスに教えてあげたいね。この光景こそが本当の地獄なんだって。
「ぺっぺっ……こりゃ、地獄よりひどい」
死神は飛び退くような動きでどうにかこうにか灯から逃れ、口の中に残っていたものを吐き出した。
そして、戦斧を一振り。ただでさえ長大なその武器はゴムみたいに伸びてリーチを増し、普通なら届かない位置にいる標的――翔へと向かった。
だけど、イッパイアッテナが翔の前に飛び込み――、
「おかわりを作ってあげてください、灯さん」
――灯に話しかけながら、代わりに攻撃を受けた。
●宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)
サエッタはおかわりなど要求しなかったが、俺たちは自己流のもてなしを続けた。
「斧は近接用の武器だということを教えてやるのじゃ」
ウィゼがスカルブレイカーを炸裂させ、アナスタシアが近接武器ならざる伸縮式の爪で引き裂き、ザラキが近接武器に他ならない牙を突き立てる。
もちろん、連続攻撃を受けたサエッタがその場に留まっていられるはずもない。いつの間にやら、苗が植えられて間もない水田に足が浸かっていた。
「田んぼを踏み荒らすなっての」
アガサが突風のグラビティをサエッタに浴びせた。結果、水田は更に酷い状態になったが、こればかりはしょうがない。
「もし、立場が逆だったら……そう、私が種族の中でただ一人残された存在だったのなら、あなたと同じような行動を取っていたかもしれません」
水田から小路へと戻ったサエッタに灯が迫っていく。
「だけど、見逃すわけにいきません! もう止めてくれるような友達もあなたにはいないでしょうから――」
フェアリーブーツに包まれた爪先が振り上がり、星形のオーラが飛んだ。
「――私たちが止めてあげます!」
「ああ、止めてやるぜ! 息の根を!」
怒号を響かせて、翔がサエッタに突進した。星形のオーラが命中して起きた小爆発が収まらぬうちに、混沌の水を纏った手足で殴り、蹴り、また殴り……壮絶なラッシュ。
回復役であったはずの陣内もそこに加わり、紫煙のバトルオーラを刃に変えてサエッタを斬り刻んだ。無言ではあるが、翔のそれと同じくらい激しい怒号を発しているのかもしれない。心の内で。魂で。
しかし、そんな容赦のない猛攻を受けながら、サエッタは――、
「くっくっくっ……」
――ボロボロになった体を揺らし、笑ってみせた。
「ひっどいなぁ。兄弟をこんな目にあわせるなんて……」
●イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
「いやいやいやいや! こんなに血色の悪いお兄ちゃんもしくは弟くんを持った覚えはないから!」
言葉さんがデスサイズシュートを放ちましたが、サエッタは(精神的には)堪えていないようです。
「デスバレスの底に溜まっていた地獄がケルベロスのルーツなんだから、あんたらと俺らは兄弟みたいなものじゃないか。もうちょっと手心を加えてくれてもいいんじゃないの?」
「都合よく忘れておるようじゃが、先に兄弟喧嘩をふっかけてきたのは――」
ウィゼさんが左右の手でルーンアックスを掲げました。
「――そっちじゃぞ」
二丁のルーンアックスが交差してX字型の軌跡を描き、四つに分断しました。
一千人との無理心中を夢見た『兄弟』の体を。
「荒れてしまった田畑はちゃんとヒールしないとね」
アガサさんが袖をまくっています。
「というわけで……がんばろう、ヴァオ」
「俺もやるのかよー!」
文句を言いつつもアガサさんとともにヒールを始めるヴァオさん。ちなみにアガサさんはシャウト以外のヒール系グラビティを用意していなかったらしく、普通に手作業です。袖まくりはジェスチャーじゃなかったのですね。
「死神を弔うのにこの流儀が正しいのかどうかは判らんが……」
と、呟いたのは双牙さん。サエッタの無惨な亡骸の前で合掌しています。
双牙さんの後ろには翔さんと陣内さんがいますが、二人は手を合わせていません。
「やっぱり、僕は……死神が嫌いです」
翔さんが独白しました。
陣内さんはなにも言わずに煙草をくゆらせていますが、無表情すぎて逆に饒舌な印象を受けるポーカーフェイスから察しがつきます。翔さんと同じ心持ちであろうことは。
「確かに好きにはなれません」
灯さんが翔さんたちの傍に寄り、静かに語りかけました。
「だけど、死神も私たちと同じように理不尽に抗い、愛する同胞を守り、誰かの意志を継ぐのだと聞きました。だからといって許せるわけではありまんが……忘れません」
もしかしたら、自分自身に語っているのかもしれませんね。
「死神が私たちと同じだったっということは……」
作者:土師三良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年6月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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