シャイターン襲撃~多摩市、ある公園の惨劇

作者:白石小梅

●ある公園の惨劇
 そこは、東京都多摩市。その上空。
 何も無い空間に、渦を巻くような亀裂が入る。不穏な気配と共に現れるのは、光の翼を持った乙女。
 あの鎌倉を闘ったならば、誰しもが彼女らを知る。
 死の戦乙女、ヴァルキュリア。
 唯一つ、あの時と決定的に違うのは、全員が、目から涙のように血を流していること。
 血涙を流しながらも無表情に、戦乙女たちは三人ずつに分かれ、多摩市の中に飛んでいく。
 住宅街の穏やかな昼下がりに、血の雨が降り注いでいく……。
 
●混成部隊の襲来
「城ヶ島制圧戦も大詰めのところ、申し訳ありません。緊急事態です」
 セリカ・リュミエールが、早口にまくし立てる。
「エインヘリアルに大きな動きがありました。どうやら新たなエインヘリアル王子が、地球への侵攻を開始したようなのです」
 新たな王子? 地球に攻めてきたといえば、第一王子ザイフリートのはず。彼は、どうなったのか。
「第一王子ザイフリートは、鎌倉防衛戦の敗北を以って、失脚。頭がすげ換わった、ということでしょう。新たなエインヘリアル王子は、ザイフリート配下であったヴァルキュリアを洗脳し、強制的に従わせたようです。魔空回廊を用いて人々を虐殺し、グラビティ・チェインを得ようと画策しています」
 なるほど。彼らにも、色々と事情があるということか。だが今、目を向けるべきは、そちらではない。
「首都圏の住宅地に、多数の敵性個体の同時出現が予知されています。皆さんには、東京都多摩市に赴いてもらうことになります」
 多数の敵性個体、という以って回った言い方にケルベロスらが首を捻る。敵は、エインヘリアルではないのか?
「今回の敵、直接に襲撃を行う実行部隊はヴァルキュリアです。そしてそのヴァルキュリアを従える、別な種族の存在が予知されました。妖精八種族の一つ『シャイターン』です」
 それは、新たなデウスエクス。まだ誰も闘ったことの無い敵の名だ。
「ヴァルキュリア十二体から成る攻撃実行隊が十隊以上、首都圏に出現すると予知されており、それに加えて後方指揮を取るシャイターンも現れる……これは非常に大規模な襲撃と言えるでしょう。この度の防衛作戦では、都市部に攻撃をしてくるヴァルキュリアに対処しつつ、指揮官であるシャイターンを撃破する必要があるのです」
 
 具体的な任務内容は。その問いに、セリカが頷く。
「皆さんにはヴァルキュリアから都市を守っていただきます。多摩市を襲うヴァルキュリアは、十二体。三体ずつの四チームに分散して多摩市各地を襲撃します。皆さんは、こちらの公園に向かってください。ヴァルキュリアは虐殺を邪魔するものが現れた場合、邪魔者の排除を優先するようです。皆さんが戦いを挑めば、住民の方が襲われることはなくなるでしょう」
 つまり、公園で三体のヴァルキュリアを迎え撃てばいい。気になるのは、彼女たちが『操られているらしい』ということ……
 セリカの表情も暗くなる。
「まず、前提として……都市内でシャイターンが健在な限り、洗脳は破れません。問答無用で皆さんを殺そうとするでしょう。シャイターンの撃破を担ったチームがそれを成功させた後ならば……何か変化があるかもしれませんが、確かなことはわかりません。同情する気持ちはわかりますが、皆さんが敗北してしまえば、人々が虐殺されてしまいます。ここは、心を鬼にしてください」
 考えを振り払うように、セリカは話題を変える。
「敵戦力ですが、ルーンアックス装備のリーダー格に、ゾディアックソード装備の二体が援護に付いています。それぞれ一本装備、グラビティは武器に準じます。斧の個体は兜に赤い羽根飾り、剣はそれぞれ紅と青の宝石が埋め込まれていますので、それぞれ『赤羽根』『紅玉』『青玉』と呼称するとよいかと思います」
 また、と、セリカは続ける。
「指揮官であるシャイターンには護衛のヴァルキュリアがついているようです。状況によってはシャイターンは護衛を切り離し、こちらに援軍として差し向けるでしょう。来るとしても一体ですが、援軍に関しても注意を怠らないでください」
 
 セリカは溜息を落として、首を振る。
「……予知では、彼女たちは血の涙を落としていました。彼女たちにとっても、今回の虐殺行為は本意ではないのでしょうね。新たなエインヘリアル王子。そして、シャイターン。手段を選ばぬ、残忍な者たちのようです。彼らの手から、戦乙女たちを解放してあげることも、一つの救いなのかもしれませんね」
 如何なる方法で、か。セリカは、明言を避けた。
 ケルベロスらの胸中にも、苦いものが伝う。
「それでは……出撃準備を、お願いします」


参加者
アシェリー・サジタリウス(射手座の騎士・e00051)
鉄・八郎太(ブリキのディテクティブ・e00805)
マニフィカト・マクロー(ヒータヘーブ・e00820)
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)
山之祢・紅旗(ヤマネコ・e04556)
刻波・パセリ(不要な足跡・e07222)
リリー・リーゼンフェルト(一輪の黒百合・e11348)
一瀬・梵(魂喰・e13588)

■リプレイ

●開幕
 その日、公園に響くのは、死の爆音。遊具はへし折れ、大地は炸裂し、砂が舞い散る。
 その破壊の主。赤い羽根の兜の乙女が、斧を振り下ろす。
 必殺の刃を受け止めたのは、マニフィカト・マクロー(ヒータヘーブ・e00820)。
「女性にこれを使うのは憚られるが……仕方ないな」
 マニフィカトの胸元が裂けるように開く。そこから飛び出すのは、雀蜂の群れ。無尽の針と、弾丸のような蟲たちが、乙女の肢体を弾き飛ばす。
「おお、格好いいッスねー! 頼りになるッス。でも調子のって殺しちゃわないようよろしくッスよ」
 ふざけた口調で、茶々を入れたのは刻波・パセリ(不要な足跡・e07222)。
 しかし、意に介さぬとばかりに戦乙女は飛び起きる。
「来なさい。貴女たちを、解放してみせる」
 煌く剣閃。赤羽根の戦乙女が構えた斧をすり抜けて、その肢体に突き刺さるのは……剣の鞘。
 しかし、体の真芯を打撃に貫かれながらも、戦乙女は揺るがない。
「……さすがに一撃で崩れるほど、甘くはないわね。もうしばらく、本気で闘った方がいいかしら」
 アシェリー・サジタリウス(射手座の騎士・e00051)が舌打ちする。
 普段の闘いであれば、敵がどの程度まで傷を負っているのかは見目である程度わかる。だが、ケルベロスの眼力をもってしても、わかるのは命中率のみ。敵を生かすために負傷の度合いを見極めるのは、至難の業だ。
 デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)が、その舌打ちに続く。
「人を目覚めさせるのは好きだけど、こういうのは……気に入らないわね。八郎太くん、連絡は出来そう?」
「芳しくないね。警戒が厳しければ、向こうは奇襲のために信号弾を諦める可能性もあるし……一対多ならともかく、多勢同士の乱戦の中で連絡を取るのは厳しいかもしれない。かけるのも、受けるのも、ね」
 鉄・八郎太(ブリキのディテクティブ・e00805)が溜息を落としてそう応える。
 シャイターン本陣を奇襲するグループとは、戦闘に入るタイミングも異なれば、場所も離れている。連携は非常に難しい。
 そこに走りこんできたのは、一瀬・梵(魂喰・e13588)。
「連絡を取り合う暇も与えず、か。頼れるのは、自分たちだけだと思っていた方がいいということだな。遅くなってすまない」
 念の為、彼はキープアウトテープを用いて公園を覆ったのだ。
「大丈夫。いきなり赤羽根の子が切りかかってきたばかりだよ。ありがとう。これで、一般の人への被害は防げる」
 自分たちが、敗北を喫さぬ限りは。山之祢・紅旗(ヤマネコ・e04556)は、言外の意味を込める。
 ケルベロスの実力を超える相手を、加減しながら制圧する。その道は、苦難の道だ。
 以前の依頼で邂逅したヴァルキュリアを思い出しながら、リリー・リーゼンフェルト(一輪の黒百合・e11348)の瞳に怒りが宿る。分かり合える可能性を、感じた矢先のこの出来事。シャイターンは全てを台無しにしようとしている。
「そんなことさせない。あの子はアタシ達が勇者かもしれないって言ったんだよ……だから……勇者なんだから、助けなきゃ!」
 リリーの言葉にあわせ、血の涙の悲劇が、開幕する。

●5分経過
 戦闘開始より、5分が過ぎて。
 擦り傷と血に塗れ、肩を上下させている赤羽根。
 上空から降り注ぐ幻影の爆撃を掻い潜り、その前に立ったのは、二人。
「機、だな。私たちでやるしかない。援護を頼もう」
「了解ッス。足引っ張らないよう、頑張るッス」
 マニフィカトの言葉に、パセリが頷く。
 赤羽根は迷うことなく突っ込んでくる。パセリの攻性植物、セロリが勢い良く蔓を広げて、その一撃を止めてみせる。そのまま絡みついた蔓が、戦乙女の動きを抑えて。
「マニフィカト君、今ッス!」
 魔術師は均整の取れた顔を歪ませることなく、言葉を紡いだ。
「……誉れの無い闘いに身をおかねばならぬとは、さぞ辛いだろう。これで決めるぞ」
 斧を弾かれ膝をついた赤羽根に、魔術師はその胸元を開いてみせる。それは、百蟲魔法の構え。煌く蟲の群れが、無理やりに前へ出ようとした赤羽根を弾き飛ばした。これが雀蜂の群れであれば、もはや赤羽根の命はない。
「だがこんな闘いの中で最期を迎えたのでは無念に過ぎる……」
 だが、魔術師の言葉と共に、煌きながら散っていったのは……大きな翅の、揚羽蝶。柔らかく戦乙女を打ち据えた蝶の群れが、ひらひらと舞っていく。
「憐憫は趣味ではないかね? 甘い味も、たまにはいいものだぞ」
 ルーンの斧が乙女の手から離れ、虚しい金属音を響かせる。赤羽根は膝をついて咽こんだ後、己はすでに戦力にならぬと判断したのか、木々の間を飛び去っていった。
 パセリがホッと息を落として、口笛を一つ。
「いやぁ……麗しいお手加減。お見事ッスね。一つ今度、真似してみるッスよ」
「優しくするのは、女性を相手にするときの、基本だよ」
 胸元の埃を払い、魔術師は踵を返した。

「赤羽根は撤退、だね。上の二人は、動じる様子もなし、か」
 八郎太が、溜息を落とす。負けが濃くなった状況に対する指示はないようだ。
「つまりシャイターンは……負けるのも承知で、死ぬまで闘えって命令してるんだよ」
 リリーがその思案の答えを出す。デジルがそれに頷き、言う。
「ええ……でもそろそろ、場が動く頃合よ。今頃、護衛が切り離されているはず」
 だがその増援がどこに来るかは、わからない。
「じゃあ、悠長に待っているわけには行かないわね。前に出るわ」
「援護しよう。俺が囮になる」
 進み出たアシェリーに、追随するのは梵。頷き合うと同時に、左右に跳躍する。亡霊のように撃ち出される無数の幻影の中を、梵はまるで縫うように飛び込んでいく。
「争うつもりはない。この凶行を……止めさせてもらう!」
「……!」
 懐に飛び込む梵。その攻撃に、リリーのブレイクルーンが加護を重ね、御霊殲滅砲の力を増幅する。
 御霊に撃ち抜かれた二人の戦乙女の下方で、幻術の詠唱が、重く響く。
「純白の画布に、孤独を描く。汝、自らの無力さを知り、星の強さを知れ……」
 振り返った紅玉が、アシェリーの瞳と目を合わせる。それは、雪原の絶望への招待状。怯えた表情で紅玉が中空に剣を振り始める。
「今よ、畳み掛けて!」
 その声にあわせ、デジルの惨劇の鏡像が見えぬ敵を増やしていく。
 流れはケルベロスらが掴んでいる。敵のトラウマを呼び起こし、殺さずに無力化することも可能だろう。
 全ては順調だった。
 その瞬間まで。
「リリーちゃん、危ない!」
 その時、リリーを抱えるように飛び込んだのは紅旗。戦場に走った一条の光が、紅旗の肩に突き刺さる。
「山之祢さん!」
 それは、ホーミングアロー。ケルベロスらにも、飛行する戦乙女にも、妖精弓を装備した者は、いない。つまり。
「ずっと、警戒していたのが役に立ったけど……タイミング、悪いね。もう少しで、完全に流れを掴めたのに」
 紅旗の言葉も終わらぬうちに、輝く翼の乙女がもう一人、公園に降り立った。
「増援……! ここに来たか!」
 梵が舌を打つ。
 八郎太は溜息と共に首を振り、背負っていたバスターライフルを引き抜く。
「……向こうも連絡のしようもない事態なんだろうね。引き金を引きたくはなかったのだけど……今回は仕方が無い」
 かつての自分を写すようなその姿は、目に余る。救うために必要ならば、禁忌も破る。
 だが増援の到着により、状況は変わる。奇襲部隊の状況も不明。場合によっては、冷酷な判断を下すべきときが来るかもしれない。
 八郎太の銃口が火を噴いたのを合図に、悲劇の第二章が幕を開ける……。

●十七分後……。
「やはり、無茶はいかんな。序盤に飛ばしすぎたようだ」
 時がここに至るより前。マニフィカトはそう呟いた。
「やれ、やれ……少々、休ませて、もら……」
 星座の幻影をその身に幾度も撃ち込まれ、背に矢を生やした姿で、魔術師は膝を折った。

「来い。奥に閉じ込められたお前の心まで届くように、貫こう」
 数分前、梵はそう言って身構えた。なおも闘志を燃やして、青年は紅玉と馳せ合う。
 その攻撃で、倍加していくトラウマ。紅玉は叫び声を上げ、ついにその剣を取り落とした。何事かを喚きながら、飛翔して撤退する。
 やった。ついに。これで残りは、二体。
 ざくり。
 勝利の後の一瞬の余韻と、それを切り裂く、嫌な音。青玉が、梵の背後に浮かんでいた。その瞳には、血の涙。
「泣かないでいい……自身の過ちを嘆き悲観した所で、何も……産まれないし、始まらない……」
 がくりと膝の力が抜けて、倒れ付した青年の背から、血だまりが広がった。

 そして今。公園の中心には、剣を交えた二人の女。
 アシェリーが青玉の剣を押さえ、瞳の幻術を放つ。
「その血涙が、心までは操れないという証拠。体は無理でも、心を強く持ちなさい。心が折れたら、人形に成り果てるわ」
 だが、その身が縛られている以上、心は檻の中だ。早くしないと……。
 どつり、という叩かれたような衝撃。振り返る。背に突き立つのは、矢。
「しくじったわね……」
 アシェリーの意識が、闇に落ちる。

「……限界だね。これ以上はもう、もたない」
 悲しみを抑えた声で、そう呟いたのは、八郎太。
「マニフィカト君も、一瀬君も、アシェリー嬢も戦闘不能ッス……三人とも、最前線で体張って来たッスから……」
「次の波は……僕は、リリーちゃんの盾になろう。刻波君はデジルちゃんを、頼むよ」
 向き合って笑った紅旗とパセリは、すでに立っているだけで限界。頼む、という言葉の最期には、共に倒れる道に向き合う覚悟がある。
「……方針変更ね。一般市民に被害を出させるわけにはいかないわ……反撃に出ましょう」
 二人の覚悟を受け、デジルの唇は、悔しさを伴ってそう結んだ。
 ここから始まるのは、血で血を拭う、殲滅戦……。
「みんな待って! あれ!」
 ふと、リリーの指差した先で、悲鳴が上がった。誰も聞いたことのない声の。
「なによ、これ! あんた何やってんの!」
 その主は、増援のヴァルキュリア。空中で悲鳴を上げる青玉の戦乙女に飛びついて、声をあげる。と、今度は増援の娘が悲鳴を上げて頭を抱え、ケルベロスらに弓を構える。それを体当たりで止めたのは、なんと青玉。
「これを、私がやったの? こんなことは……」
 青玉が、呆然と周囲を見やる。増援が起き上がり、始まったのは、戦乙女の同士討ち。
「……シャイターンが倒されたんだ。今だよ! 止めなきゃ!」
 リリーが叫んだ。
 いきなりの状況の変化はあまりにも劇的。だが、もはや躊躇をしている暇はない。
「方針変更……! 青玉と増援を説得して沈静化するわ」
 デジルの言葉も終わらぬ内に、八郎太はもみ合う二人に割って入った。紫電を纏った刀の柄で、増援のヴァルキュリアを押さえ込む。
「落ち着いて……ここは矛を納めてくれないかな? 僕らの目的はあくまで虐殺を防ぎ、虐げられる者を助ける事だ」
 これが、最後の機会。正気に戻り、かと思えばすぐに錯乱して周囲を攻撃し始めるヴァルキュリア二人に、五人のケルベロスが殺到する。
「行くわ、螺旋忍法葉隠! 強制執刀魔術切開! もう絶対に誰も……倒さない! 倒させない!」
 リリーがプリンセスモードを起動し、ヴァナディースフラワーを散らしてみせる。リリーのヒールの力を借りて、デジルが矢を掠らせながらも前進する。その手のレコーダーから流れるのは、ヴァナディースの残霊の声。
「聞こえるでしょう。死した者の魂を導く事こそ矜持だった筈よ。それくらい思い出しなさい……!」
 語りかけるたびに、戦乙女たちの瞳に輝きが戻り、また消え、それを繰り返す。
 暴れる増援の乙女を、八郎太と共に取り押さえながら、パセリが必死に言い聞かせる。
「お姉さんたちを傷つけたくないッス! やりたくないことはやらなくていいってもんスよ!」
 増援の乙女から、ゆっくりと力が抜ける。
「俺達は君達の虐殺を止めるために此処に来たんだ。助けを求める君達の声が聞こえたから。泣くほど悲しく辛いなら、この手を取って。必ず守ってみせる」
 紅旗がそう言ったとき、二人の戦乙女はついに武器を取り落とした。
 公園の中から、闘いの気配が引いていく……。

●停戦
 冬の乾いた風の音さえ聞こえる、一時の静寂。
 戦闘不能の三人も意識を取り戻した。八人のケルベロスの前には、正気を取り戻した戦乙女が二人。
 全員が、痣や切り傷は数え切れず、土ぼこりに塗れ、どちらが勝者であるのかさえ、わからぬ姿。
「ヒールするわ……動かないで」
 そう言ったのは、リリー。ライトニングウォールを受ける二人に、パセリが花柄のハンカチを差し出す。
「涙、拭くといいッスよ。女の子はやっぱり、笑顔が一番ッス」
 礼を言いながらパセリのハンカチを受け取る増援の娘。対して青玉の方は、戦闘不能になった三人の前に進み出て、頭を下げる。
「皆さんは、私たちを殺すことなく止めようとしてくださったのですね……」
「気にすることではないよ。私の方も、君達に怪我を負わせてしまったからな」
 マニフィカトは紅旗に寄りかかりながら、その謝罪を受ける。
「お心ある扱いと、寛大な停戦の申し出とを、感謝いたします」
 青玉はそう言いながら、紅玉の残した剣をアシェリーに差し出した。
「……?」
「停戦と、感謝の証に。きっとあの子もこうして欲しいと言いますから」
「そう……受けるわ。ありがとう」
 青玉は、今度は梵に頭を下げた。
「あの子の命を救っていただき、ありがとうございました」
「いや、気にするな。この状況の根源となった奴に、責任がある。糾弾する手が要るなら、俺達ケルベロスが力を貸そう」
「いずれ共に歩めるようになれるかどうかはまた別として、ね。こんな闘いは、僕たちも望まない」
 梵を支える八郎太が、言葉を結ぶ。
「心配ないさ。君達の仲間には俺達の仲間が手を差し伸べてる。きっと、みんな無事だよ」
 紅旗の言葉に、青玉が頷く。
 増援の娘が、言った。
「じゃあ……ありがとね、ホント……」
「いい? 貴方達はもう自由よ。女神様もそう仰っているわ。覚えておいてね」
 デジルがそう返す。増援の娘は不安そうに顔を歪ませながらも、頷いた。
「我々の戦友に、武運のあらんことを。失礼いたします」
 光の尾を引きながら、二人の戦乙女が空へと昇っていく。
 滲む目をはらって、リリーが言う。
「さて……ヒールしなきゃ。みんなのことも。この公園もね」

 その日、多摩市のある公園で起こった闘い。
 戦闘時間、十八分。
 戦闘不能者、三名。
 手加減攻撃による敵撃破、二体。
 残り二体はケルベロスらの説得を受け、降伏。後に撤退。
 死亡者、敵味方ともに、無し。
 惨劇は、ついに死者を出すことなく、その幕を下ろしたと記録される。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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