アイスクリームを作れるペンギンさんは孤独らしい

作者:星垣えん

●食べさせたい
 そこは、新緑の薫る森だった。
 足を踏みしめれば確かな土の感触。涼やかな空気を吸えば草葉の匂いが感じられ、背の高い木々からの木漏れ日には日常を忘れさせる美しさがある。
 まるでこの場だけ時間がゆっくり過ぎているような、心地よさがそこにはあった。
 そしてペンギンさんもいた。
「アイスクリーム」
 大木にもたれかかるペンギンさんが、生い茂る木々の天蓋を見上げる。
 その姿は巨大にして奇怪。
 まず高さと幅ともに2mというサイズの存在感である。普段目にするシュッとしたペンギンさんたちのフォルムとはまるで違う。この時点でもうペンギンさんではない。背部が黒くて前面が白いというカラーリングこそ忠実だが絶対にNOTペンギン。
 というかボディが硬い。輪郭はずんぐり曲線的だけどプラスチック的な光沢がすごい放たれている。毛並みとか全然見えない。
 そして腹に空洞が空いている。
 透明な蓋の内にぽっかりスペースがあり、そこに撹拌機のような回転羽根がついている。
 これが果たして何なのかというと――。
「アイスクリーム!」
 あぁっと! ペンギンさんの気合とともに羽根がぎゅるんぎゅるんと回りはじめたァ!
 同時に腹の中に乳白色の液体が流れこみ、ぐわんぐわんと混ぜられてゆくゥ!
 さらに! 庫内が冷えているのだろうか! 液体はどんどん冷え固まっていって!
「アイスクリーーム!!」
 カパッと蓋がひらいたときには、立派なバニラアイスクリームが完成していたァ!
 ……うん、というわけでね。完全にダモクレスですね。
 ペンギン型アイスクリームメーカーと合体したダモクレスさんですね。大方どこかの誰かがノリで買ったものの5年ぐらい使わずに放置して森に捨てたのでしょう。ごみの捨て方を守れない奴だったのでしょう。
「アイス! クリーム!」
 ぐるぐるとフル稼働して、次々にアイスクリームを生産するダモさん。
 絶好調である。長らく人に使われなかったアイスクリームメーカーは、ダモさんの力によって世界最高峰の名機に生まれ変わっていた。
 しかし、そんな彼にも悩みがあった。
「アイス……アイスダヨォ……」
 静寂の森に響くばかりの、悲しげな呟き。
 そう、この深き森には、彼しかいない。

 せっかく美味しいアイスクリームを作れてもね、食べてくれる人がいないんですよね。

●行くしかないやん
「こんなにいい天気なのに、お客さんがいないなんて……」
「森だからな。仕方あるまい」
「仕方ないって、アイスクリームが溶けちゃうじゃないか!」
「それも仕方あるまい」
 ヘリポートに来るなり目についたのは、わいわいと元気に申しているクロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)を、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)が資料整理しながら捌いている姿だった。
 うん、平和そうな仕事ですね。アイスクリームとか言うとるし。
「来たか。ではこれを読んでくれ」
 すでに猟犬たちが集まっていることに気づいた王子が、今まさに整えていた資料を一同に配布する。各員にプリント1枚分。
 果たして用意する必要があったのか。と言いたいのを堪えて猟犬たちは目を通した。
 どうやら、関東近郊の森林にアイスクリームメーカー型ダモクレスが爆誕したらしい。愛らしいペンギンの形をしたそれは辺り一帯にアイスクリームをまき散らしているとのこと。
 きっと現場はめちゃくちゃベタついてやがるぜ、と気を引きしめる一同。
「今はまだ森でアイスを作っているだけだが、奴が人里に下りれば多大な被害が出ることだろう。そうなる前にこいつを片付けてきてくれ」
 淡々と成すべきことを告げる王子。
 一方、クロウはヘリオンの周囲で忙しなく動きまわっていた。
「器やスプーンは搬入完了っと。コーンは全部運べた? ワカクサ?」
「――!」
 どさっと重そうな段ボール箱を荷室に乗せて、傍らを飛ぶ紙の小竜『ワカクサ』に訊くクロウ。対するワカクサは「もちろん!」と言わんばかりに、己が運んだ小さな箱の上で胸を張っていた。
 準備をしている。
 明らかにアイスクリームパーティーの準備をしている。
 粛々と搬入作業を行うクロウとワカクサを眺める一同の横に、王子がスッと並ぶ。
「ダモクレスは自力でアイスを作り出せるから原料を持っていく必要はない。しかもバニラだけでなく色々なフレーバーにも対応し、さらにはフローズンアイスやトルコアイスのように形状を調整することもできるらしい。優秀な奴だ」
 なるほどぉ、と王子の話を耳にとどめる猟犬たち。
 いやぁ! 楽しい一日になりそうですなぁ!
「よし! トッピングも全部乗せた! いつでも出発できるよ!」
「――!」
 全作業を終えたクロウとワカクサが、ぶんぶんとこちらに手を振っている。
 かくして、猟犬たちは森の中のアイスパーティーに出席することになるのだった。


参加者
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
朱桜院・梢子(葉桜・e56552)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)

■リプレイ

●憩いの森です
「アーイス。アーイス」
 清らかな森にただ一体、ぽつんと座るペンギンが呟いている。
 そして、ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)と花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)が二人並んでその哀愁を見つめている。
「アイスクリームを作って下さるとは、良いダモクレスも居たものですね」
「暑くなったこの季節にはありがたい、ですね」
「アイスー!」
 無表情のまま言葉を交わすミントと綾奈の頭上を、ぽーいとアイスクリームの球が飛んでゆく。それは後方の木の幹に当たって、ひっついたかと思えば数秒もせぬうちにポトッと地面に落下した。
 そんなことを猟犬たちが来るまで繰り返していたのだろう、森の地面は一面がびっしりアイスクリームに覆われている。
「まずは陣地の構築だな。こうべたついてちゃあ食うときに落ち着いて腰も下ろせねえ」
「そうだな。協力して会場を仕立てよう」
「おう」
 足を踏むたびに得るベタベタした感覚に、柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)とハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)が行動を起こす。
「こういうときは、やはりブルーシートだな」
「椅子もあるから森林浴もできるぞ。ぱらそるどろぉんも飛ばしておくか」
 ばさぁっ、とブルーシートとかいう万能物をひろげるハル。彼のてきぱきした手際の横で鬼太郎はパラソルドローンを上方に展開し、アウトドア用の椅子を何脚か設置。
「――♪」
 いの一番に虎(ウイングキャット)に1脚占領されてしまったが、それでも仲間たち全員がゆったり過ごすには十分すぎる環境ができあがった。
「これで心置きなく楽しめるぜ」
「うーん、椅子まであるなんて最高ね……」
 ちゃっかり椅子に身を預けている朱桜院・梢子(葉桜・e56552)。
 ぐっと背もたれに倒れた彼女は、遠い目で木漏れ日を見つめた。
「あいす食べ放題の依頼ではいつも最後にお腹を痛めていたわ……でも今日の私は一味違うのよ! 何せ腹巻してきたからね!」
 ぽん、と腹を叩く梢子さん。一味違うどころか普段とまるで変わらねえ妻を見て葉介(ビハインド)は「うむ」と頷いた。諦念の極致。
 とかやっとるのをスルーして、ハルはダモさんに歩み寄った。
「待たせたな。アイスを頂きに参上した。さぁ、皆が望むアイスを」
「アイ?」
 俯いていた顔を上げるペンギン(機械)。
「こっちおいでー! お客さんだよー!」
 声のほうを向いてみれば、広いブルーシートの上でクロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)がぶんぶんと諸手を振っている。手の速度がすごい。バニラ大好きなワカクサ(ボクスドラゴン)に至っては羽ばたく翼が見えない。超早い。
「ほら、まずはシンプルなバニラアイスをお願い!」
「アイスー!」
 どたどた、とクロウに駆け寄るダモさん。
 その何とも愛嬌ある姿に、ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)は些細な物思いに耽った。
「こういうダモクレスを見ていると、地球に住まう生命と仲良くできるのではと希望を夢見てしまうが……ふ、今はアイスを戴くか」
 てくてく、と会場(シート)へ向かうペル。
「さあダモクレス。あんたの自慢の技を見せてもらおうか。此方は剣も盾も準備完了だ」
「ダモゥ」
 スプーンとカップを持ってニヤリと笑う鬼太郎にこくんと頷くダモさん。
 そこへ、ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)がおずおず近づく。
「あの、わたくしはラムレーズンを頂きたいのですが……ラム酒やレーズンは必要なんです? え、いらない?」
「イエス!」
 当然さ、とばかりにサムズアップするダモさん。
「素晴らしいですわ! 念のためのラム酒は持ってきてたのですが……これはのちのち飲みましょうそうしましょう」
 うふふ、と酒瓶を大事そうに抱くルーシィドさん。
 あーこれは飲む。飲んじゃうやつですわー。

●満喫しとります
 冷たいそれを一口食べれば、芳醇なバニラの香りが突き抜ける。
 工夫もなく真っ白で、しかし蕩けそうなほど絶品の王道バニラアイスを味わって、ハルは無意識に何度も頷いていた。
「うん、美味いな。これは他の味も期待できる」
「暖かくなったこの季節にぴったりだね!」
 スプーンを咥えたまま、ころころと笑うクロウ。
「こんな子が森で眠っていたなんて、勿体ないなぁ」
「使い手次第では、毎年大活躍できただろうに」
「アイスー」
 不遇を惜しむクロウとハルの間で、呑気な声を発してるダモさん。その間も胴体の庫内ではアイス製造が完了しており、二人は蓋を開けてバニラをスクープ。
「シンプルだからいくらでも食べられるな」
「ねー。ワカクサも食べて――あれ? ワカクサがいない……」
 首をきょろきょろさせるクロウは、しかしすぐに気づいた。
 姿こそ見えないが、至近でワカクサの紙翼の音だけは聞こえることに。
「バニラアイスの食べすぎでバニラ属性になってる! バニラ好きすぎだよ!」
 無印となってしまった小竜にツッコむしかねえクロウだった。
 と、騒がしくしてる横では。
「うーむ、これは絶品だな」
「冷たくて、美味しい、です……本当にこんな素敵なアイスは久しぶりです」
「はぁ、美味しい……」
 鬼太郎や綾奈、ルーシィドが楽しそうにアイスクリームを食べていた。鬼太郎と綾奈はチョコチップアイス(チョコチップは綾奈が持ってきた)を、ルーシィドは宣言どおりのラムレーズンを味わって陶然としている。
「このちょこちっぷあいすというのは、なかなか美味いな!」
「チョコチップ、美味しいですよね……沢山あるので、どうぞ試して下さいね」
 アイスを乗せたコーンをさくっと齧りながら、綾奈がチョコチップの入った袋をがさがさと振ってみせる。それを絶品バニラに散りばめたアイスが美味くないわけがない。
「気になりますわー……でもあまり沢山食べてはあとでお酒が飲めませんし……あら、ミント様はチョコミントですか?」
「あぁ、はい」
 皆のアイスをチラ見していたルーシィドが、ふと傍で食べていたミントのアイスに気が付く。爽やかな翠色の球に点々とチョコがあしらわれたそれは見るからにスッキリしている。
「私の名前も『ミント』ですから、こういうものは大好きなので」
「それは良いと思いますわ! チョコミントも美味しいですよね!」
「冷たくて、頭が痛くなるほどですけど、とても甘くて美味しいですね」
「わたくしもチョコミントを少し頂いてきますわー!」
「なに? ちょこみんと? 俺も食べるぞ!」
 ダッシュで去ってくルーシィド。それに釣られて鬼太郎も走り出す。そんな二人の背中に手を振りながら、ミントは次なる一口をパクッ。頭がちょっとキィンとしたけどやっぱり美味しい。
 他方、ペルは黙々とストロベリーアイスをもぐもぐしていた。
「ふむ、矢張りストロベリーは至高だな。甘酸っぱさと冷たさが我を癒す」
 持参した白いコーンと、その上のピンク色のアイスを眺めて、口角を緩めるペル。まるで己を模したようなアイスの見た目に、気分が上がっているようです。
「さて、では次のアイスを食べるとするか」
 ぺろりとストロベリーアイスを完食したペルが、てくてくとダモさんのもとへ。
「オカワリ?」
「いや次は珈琲味のアイスを頼む。少しビターな感じでな」
「ビターー!」
 咆哮し、フル稼働するダモさん。
 珈琲アイスはあっという間に出来上がり、その深い色合いのアイスをペルは黒いワッフルコーンにぽてっと乗せた。
「さて、生意気な珈琲アイスはしっかりと食べきらねばならんな? この苦味も残る甘さがたまらんのだ……クク」
 アイス相手にほくそ笑むペルさん。
 そのシュールな光景の裏では、梢子さんも奇行に走っていた。
「温かいすいーつと一緒に食べる。冷たいまま涼を味わう。それを交互に繰り返す温冷交互作戦よ! これならお腹も痛めず沢山食べられるはず!」
 と豪語する残念美人は、自由の女神よろしく揚げパンを掲げている。空見しそう。
「この温かい揚げパンにあいすを乗せるのよ……んーちょっと溶けたところがまた美味しい……!」
「へー、そんな食べ方もあるのか!」
 揚げパンアイスを幸福顔でもごもごしてた梢子に、ふらっと近づいてきたクロウ。
 これだけ見れば、仲間のアイスに興味を持っただけの人に見えるだろう。
 しかし違った。
 クロウの口からは、びよーんと30センチは伸びたアイスが!
「何なのそれは!?」
「トルコアイスだ! 名前しか知らなかったけど、伸びて楽しい!」
「とるこあいす……あとで食べないと!」
 にぱっと笑うクロウを見て決意する梢子さんだが、しかしその手はバニラアイスの乗ったカップを持っている。
「それは何してるの?」
「私、ばにらあいす食べる時はいつもこれなの。これが合うのよ……!」
 梢子がクロウに見せたのは焼酎。それをバニラアイスにかけて一口食べると、梢子さんは頻りに首を縦に振った。
「たまらないわ……!」
「お酒かぁ。自分はまだ食べられないや」
(「バニラの焼酎がけ……!?」)
 残念、と笑うクロウの後ろで、身を乗り出さんばかりのルーシィド。
 ラム酒を我慢してる中での焼酎は、結構心を揺らされたらしいです。

●自首のススメ
 アイスパーティーも、少し盛りを過ぎた頃。
「温かい紅茶が身に沁みますわー」
「やはり茶で一服するのは、悪くないな」
 ルーシィドと鬼太郎が、並んだ椅子に座ってまったりしていた。
 とはいえ二人の様子はまったく違う。ルーシィドが持ってるのはちゃんと熱いアッサムティーなのだが、鬼太郎のほうはアイスと果物がこんもりしてる抹茶碗。
「柴田様、それは……」
「抹茶と合わせた俺なりの抹茶さんでぇだ! 美味いぞ!」
 わはは、と笑い飛ばしながら抹茶サンデーを頬張る鬼太郎。こんな楽しげな人に追及はできない、とゆーことでルーシィドは逆隣で休憩してるペルに話を振った。
「ペル様は……コーヒーフロートというものでしょうか?」
「あぁ、これか」
 片手に持っていたグラスを少し上げるペル。
「締めは珈琲と決めている。あの喫茶ほどの味ではないが」
「あの喫茶……?」
「気にするな」
 きょとんとするルーシィドの前で、バニラアイスを掬いとるペル。
 そうしてゆっくりしてる者もいる一方、ミントと綾奈はまだ大量のアイスに囲まれていた。
「どれもこれも、とても美味しいです。こちらも試してみましょう」
「種類も沢山あって、全部食べたらお腹を壊してしまいそうですね……夢幻は何か食べたいもの、ありますか?」
 幾つものフレーバーを並べて食べ比べてるミントの横で、綾奈は膝上に乗せた夢幻(ウイングキャット)の様子を窺う。ぺちぺちと手振りでラムレーズンアイスを示したので、綾奈はそれを一口取ってあげた。
「美味しいですか?」
「――♪」
 ふりふり、と尻尾を振る夢幻。
 と、微笑ましい主とサーヴァントのやり取りがある一方。
「きゃー傾いてる!? 葉介、ばらんすとって!」
「――!?」
 梢子さんと葉介は騒がしかった。
 すべて梢子が、
「なんだか今日はいけそうな気がするわ!」
「あいす積みちゃれんじよ!」
 とか言い出して、コーンの上にアイスクリームをめっちゃ積もうとしてるせいである。妻に付き合わされて積み役をやらされてる葉介は被害者と言っていい。
「――……」
「まだよ! まだ積めるはず!」
 葉介が「これぐらいでいいんじゃない?」という雰囲気を醸し出しても頑として首を振る梢子さん。もちろんこの後すぐにアイスは倒れた。
 それを遠巻きに眺めるクロウは、少し唖然とした。
「梢子、張りきってるなぁ……」
「あれはバランス感覚が必要だな」
 もぐもぐ、とアイスを乗せたパンケーキを頬張るハル。
 パンケーキである。
 脈絡もなくパンケーキ。
「どう? この子のパンケーキ美味しいでしょ!」
「ああ。ふわふわしていて素晴らしい」
「へへー。この甲羅をぱかっと開ける機構もカワイイよねー。以前に今回みたいな依頼で回収した子なんだー」
 傍らにあるパンケーキメーカーの蓋をパカパカするクロウ。亀らしからぬピンク色をしたそれはふわふわパンケーキを作れる優れもので、クロウの家にて現役でやっとるらしい。
 ハルは、ダモさんへ目線をやった。
「ダモ?」
「君もこのパンケーキメーカーのようにならないか。優秀な機械がこのまま埋もれるのは惜しいと思うのだ」
「ダモ……?」
 アイスをもぐもぐ食べながら、ぽむとダモさんに触れるハル。
「手荒なことはしたくない。なるべくなら自分で機能停止してもらえるとありがたいのだが」
「アイスゥ……」
 肩を並べ、しんみりと話し出すハル&ダモさん。
 なお、若干いい感じになりはしたものの、やっぱり壊す段になったらダモさんは暴れたので、結局戦うことにはなりました。

●またいつか
 10分後!
「見事な技、見事な手前だった。技の幅も一つ一つのキレも見事だったぜ」
 ダモさんは普通に倒されていた。
 合掌してる鬼太郎さんの足元にころんと転がっとる。ダモさんと合体する前の姿に戻ったペンギンさんの倒れざまは、ある種の悲哀すら漂っている。
 綾奈は膝を畳んでしゃがみ、そっとペンギンさんを撫でた。
「悪い方ではなかったですし、ちょっと心苦しかったですね」
「仕方あるまい」
 そっと横に来たのはペルだ。
 手で触れてペンギンさんの具合を確かめると、ペルはサッと立ち上がった。
「大きく損壊した部位はなさそうだな。これならアイスクリームメーカーとして復活することもできるだろう」
「うん、それは自分に任せて!」
 景気よく声を出して、どんっと胸を叩くクロウ。厚手の袋のペンギンさんを入れ、辺りに散らばった幾つかの部品を回収してゆく。持ち帰って修理するつもり。
 一方。
「あいす食べ放題ありがとう! お土産も美味しく頂くわね!」
「しばらくは、アイスには困りませんね」
「寮のお友だちに振る舞うのが楽しみですわ!」
 梢子とミント、ルーシィドはきっちり土産アイスを確保していた。ミントはまだ片手で持てる控えめな量だけど、ルーシィドはクーラーボックスを肩掛けだし、梢子さんとかもう両手が塞がってる。
「それにお仕事も終わりましたし、ラム酒解禁ですわ!」
「えっ、ルーシィドさん私も付き合うわ!」
「お二人とも元気ですね」
 酒瓶を掲げるルーシィドに呼応する梢子。その二人の間を縫ってミントは粛々と帰路についた。酒飲みに絡まれる前に早く!
 それに続いて猟犬たちは次々と森を出ていき、クロウもペンギンさんの袋を抱えて颯爽と帰途へ向かう。
「これでこの夏は涼しく過ごせそうだね!」
 揚々と去ってゆくクロウ。
 その頼もしい背中を見送って、ハルもまたゆっくりと一歩を踏み出す。
「あとはクロウに任せるとしよう」
 ペンギンさんとはまたいつか――。
 そう胸の内で呟いて、ハルは少し穏やかになった木漏れ日の下を歩いていった。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年5月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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