十二創神への使者~アダム・カドモンの決断

作者:沙羅衝

「みんな、集まってくれてありがとう」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)の前にはケルベロスの姿があった。
「ケルベロス超会議が終わったとこやねんけど、聖王女エロヒムちゃんと話し合った結果、さっそく動かなあかんことができたで」
 エロヒムとの慰問パーティー、そして地球の文化の説明を経て、これからの未来についての話し合いが行われたのだ。
「その内容については、報告書のほうに目を通しておいてほしいねんけど、結論として残る十二創神の『アダム・カドモン』と『衆合無ヴィローシャナ』にデスバレスの破壊と、それに伴う状況の変化を伝えること、そんでこれからのことについて交渉を行う必要が出てきたってことになる」
 そのための使者となるのが我々である。絹の説明を前に、ケルベロスはその事を理解した。
「うちらのチームがダモクレスの十二創神『アダム・カドモン』に向かうことになる。ビルシャナの十二創神『衆合無ヴィローシャナ』のほうはユキちゃんのチームが担当することになったわ」
 つまり、ケルベロス全体で重要な役割を持つ二班という事だ。
「まず最初の目標としては、『アダム・カドモン』に現在のこちらの状況、つまりグラビティ・チェインの枯渇の原因やった、デスバレスはもう破壊したっちゅうこと、つまりは、ケルベロスとデウスエクスが争わなければならない理由はもうないはずやっちゅうことを伝えるのが第一目標になる」
 グラビティ・チェインの枯渇以外での侵略理由はない。これは、エロヒムとの会話で確認済みである。であれば、もうお互いに消耗する必要はない。これは重要な情報になるだろう。
「これもエロヒムちゃんの説明にもあったことやけど、ゲート化したピラーからは、グラビティ・チェインは供給できへんねんけど、宇宙にはゲート化していないピラーも存在している筈なんよ。せやから地球人を虐殺してグラビティを奪わんくても、グラビティ・チェインを得る事が可能となるっちゅうのも、説得するには十分な材料になるやろな」
 絹がそう付け加える。特にダモクレスの最高司令官である『アダム・カドモン』は、そのことが何を指すのかという事が、瞬時にして判断できるだろう。
「ただや、相手も頭ええから、こっちの狙いもすぐに演算できるやろう。まずうちらの真の目的はダモクレスの力を借りたいっちゅうことやな。
 ダモクレスには宇宙を移動できる技術がある。その技術を提供してもらえれば地球に残ってるデウスエクス達をピラーのある場所に移動させられるかもしれん。
 あと、ゲートをピラーに戻す技術とかやな。そんな技術があれば出来る事はめっちゃ多くなるわけや」
 なるほどと頷くケルベロス達。そこで絹は、ただ……、と少し言葉を濁す。
「最終的にデスバレスのような歪みを無くす為には、『コギトエルゴスム化による不死』を、無くさんといかんっちゅう情報もある。相手はこのまま不死であることを、そのまま望むっていう考えもあるんちゃうかって思うしな。
 その辺をどうやって説明、説得するか。
 この情報を隠すってものまあええ。でも、相手は十二創神や、こっちが何か隠してるんちゃうか? って見破られたら、不信感は増すわな? せやから、伝えられたらええんやけど、決裂しないように、うまいことやらなあかん」
 そう思えば難しいと思えた。既にグラビティ・チェインの枯渇問題は解決しているが、歪みを完全になくすためには、相手に不死を捨てろという事にもなる。今それを隠す事ができれば、ケルベロスとしては優位に立てるかもしれない。しかし、不信感を持たれてしまっては、この交渉自体がとん挫する。
「ここは結構難しいところやと思うんやけど、とりあえず向かうための方法とか、わかってることを説明するで。
 まず、今回うちらは万能戦艦ケルベロスブレイドの『門』の拡張機能と、聖王女エロヒムの力をあわせて、『アダム・カドモン』の元にみんなを送る。
 送れるのはここに集まったみんなだけやから、そこは注意しといて。そんで戦闘行動をとったら強制的に引き戻されてしまうからな。武力行使は出来へんで」
 あくまでも今回は武力以外での説得、交渉となるのであれば、力技以外での作戦が必要だろう。
「転移先は『アダム・カドモン』のすぐ近くになる。でも、明らかに不審者やわな。部下も多いかもしれんし、すぐに攻撃されてしまう可能性だってある。せやから、まず最初に転移直後に強制帰還とならへんように、最初の印象を工夫せなあかんやろな」
 敵の中枢ど真ん中に送り込まれるわけである。当然最大限の警戒であるはずだ。
「なんとか会話になりそうやったら、必要な情報を伝える。そんで、相手の反応、返答とか。出来るだけ引き出せるように頑張ってほしい。交渉が打ち切られて攻撃されてしまえば、もうそこで交渉は終了になってまう。
 話す内容、順番とかこういった戦略は細心の注意を払う必要があるで」
 まず会話を成立させること。そして、その内容に関しても作戦を練らなければならなさそうだった。
「詳しい情報は最初に言うた通り、報告書をまず確認してほしい。そんで交渉には何が必要かってことかな。
 こっちの考えだけを押し付けるんは交渉やない。相手の立場、状況を踏まえて、興味を持つようにすること。結構難しいけど、『アダム・カドモン』、そんでダモクレスの興味がどこにあるかってのを考えて工夫するのが、ええかもしれんな。
 ほな、ちょっとみんなで作戦考えて、頑張っていってみよか」


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)
愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784)
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)
リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)
ジェミ・フロート(紅蓮の守護者・e20983)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
九門・暦(潜む魔女・e86589)

■リプレイ

●惑星マキナクロス
 不思議な感覚の後、目の前の風景が突如として切り替わる。そして、聞こえてくるアラーム、警戒音。
『何者だ!』
『ケルベロス!!』
 けたたましく鳴り響く音と共に、明らかなる警告の声が発せられた。
 ケルベロス達は、聖王女の力でここ『マキナクロスの中枢』に瞬時に移動したのだ。周囲には数十体のダモクレス達。いずれの個体も大きく、巨大な力を持っている事がケルベロス達には理解できた。
 そして、目の前には更に大きな個体が鎮座していた。十二創神『超神機アダム・カドモン』である。
 銃口、砲口を向けられ、撃鉄が起こされる音が響く。攻撃された瞬間に強制的にこの転移の効果はなくなる為、安全ではある。しかし、ひとたびそのグラビティが放出され、攻撃を受けてしまった瞬間に自らの命が終わる可能性があるという程の危険性を感じることができた。
「待ってくれ!」
 水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)がすっと、旗を上げる。白旗である。
「ちょっと待って下さい! 私達ケルベロスはダモクレスと話し合うために来ました」
 リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)もまた、白旗を振りながら言葉を届ける。少しでも、警戒心を解く為だ。
「話し合う為に、ここに来ました」
「どうか、武器を納めてください」
 九門・暦(潜む魔女・e86589)と、愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784)は、丁寧な言葉で、こちらに敵意が無い事を示す。
「……」
 アダム・カドモンは、巨大な椅子に座りケルベロス達をじっと観察しているようだった。だが、動きはない。その微動だにしない態勢が、余計にケルベロス達に威圧感を与える。
「まず、ここに突如として現れた非礼を、詫びさせてもらおうと思う」
 両手を上げ、アダム・カドモンをまっすぐに見つめるのは神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)だった。そして、片膝をつき、ゆっくりと礼をする。
「こちらは非武装です。話を聞いていただく許可をお願いします」
 風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)がそう、願う。こちらが感情的になってしまっては、お互いに良くはならないはずだ。殺気立つダモクレス達の雰囲気を冷静な空気に変えるという事は、かなりの難しさである事を感じながら、心を落ち着かせて冷静になろうと努めた。
 すると、周囲の雰囲気が少し変わる。警戒はされているだろうが、先程のような一触即発な状態ではなく、様子を見るといった動きに変化していった。
「今後、ケルベロスが動く前提条件になる、いい情報だけでなく懸案事項もあるので、まずは一通り話を聞いてほしい」
 マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)は、直立不動のまま微動だにせずに、要件のみを伝えた。
(「懐かしい……という感覚、なのか?」)
 マークは周囲の雰囲気を自らのAIがそう感じていることに少し戸惑いながら、その感覚を己の中枢回路にそっと記憶させた。それはジェミ・フロート(紅蓮の守護者・e20983)も同じだったようで、マークに少し頷きながら、これからである事を自らに言い聞かせた。
 ほんのわずかな静寂な時間が、これほどまでに長く感じたことがあっただろうか。気を抜くと次の瞬間に終わるという事実。緊張の糸が切れそうになる。
 すると、アダム・カドモンの右腕が動いた。
「攻撃は不要である」
 右手を軽く上げ、掌を向けると、ダモクレス達は一斉に砲口の向きを下げた。
「このマキナクロスに直接転移してきたというのならば、諸君は聖王女の使いなのであろう。
 デスバレスに囚われていた聖王女が、いかにして、力を振るったかは知らぬが、伝言があるならば話すがいい」

●理由
「地球の者。地球の者となった者。そして、かつての同胞もいるようだな。聞かせてもらおう」
 右手を下ろし、ゆっくりと元の態勢に戻るアダム・カドモン。
「話を伝える前に、一つ注意事項と訂正がある」
 すると、マークがここにいる全員の顔を確認しながら、第一声を発した。
「まず、現在我々は聖王女の力でこの場所に転送されているわけだが、我々が攻撃を受けると強制的に送還されるようになっている。つまり、話の途中で攻撃を行わないでほしいということだ」
 この事実がまず相手に伝わっていないと、話にはならないわけである。
「なるほど。では、約束しよう。話の途中では攻撃を行わないという事を。皆も従うように」
 アダム・カドモンはそう厳かに言った。こちらの言葉が真実という事はまだわからないわけである。だが、それをひとまずは信用してくれたという事は、少しケルベロスを安堵させた。
「では、もう一つの訂正だが。我々ケルベロスは、決して聖王女の言葉を伝えに来たわけではない」
 これはあくまでも我々の意思である。そう伝えたかったのだ。
「聖王女とケルベロスの関係は対等である、と?」
「そうなるんだぜ。俺たちは、聖王女の使いではなく、俺たち自身の意思でここに来た。そして、その理由をこれから説明する為に来ているんだぜ」
「こちらはあくまでもケルベロスとして来ています。聖王女の部下という事は、断じて無いのです」
 鬼人と暦が続ける。鬼人はそう言いながら、これから交渉が始まるのだという事を実感する。慎重に、冷静を造れるように、心の中で祈った。
「……話してみよ」
 情報を扱うという事は、ダモクレスにとって十八番と言えた。もしそれに嘘が含まれていたとしても、このダモクレスの司令官にとっては容易く見破られるだろう。短い言葉からそれを感じる。とすれば、覚悟は決まっている。
「まず、わたしから、これまでの流れを説明させていただきますね」
 リュセフィーが少し前にでて一礼する。
「先日。我々は死神からデスバレスを制圧することに成功しました。この事は、先程聖王女エロヒム様の使者とおっしゃったのも、その事を知っておられるからでしょう」
 リュセフィーはゆっくりとした口調で、話を始めた。
「デスバレスを制圧することで、聖王女エロヒム様を救出、そしてデスバレスの海が消滅いたしました」
 一瞬ざわつくダモクレス達。言葉にはしていないが、通信でのやり取りもされているかもしれない。
「……ほう」
 アダム・カドモンは感嘆の声を漏らしながら、ダモクレスをすっと手を上げる事で制し、続きを促した。
「そうです。つまり、もうグラビティ・チェインの枯渇の原因だったデスバレスが破壊されたという事になります。ピラーを通したグラビティ・チェイン供給は再開していることでしょう」
「この状況をまず伝える事が、我々の第一の目的となります」
 恵はそれだけを言い、アダム・カドモンの反応を待った。
 そして、全員が緊張する中、アダム・カドモンの反応は歓迎の言葉だった。
「……素晴らしい。聖王女の力を借りたとはいえ、ケルベロスが冥府の海の制圧を成し遂げるとはなんと素晴らしい快挙か」
 ミライ、そして煉はこれで、次の話に進むことができると密かに思い、安心したうえで、気を引き締め直した。
「ピラーのゲート化を行わず、種族全てがコギトエルゴスム化していたデウスエクス達が救われたであろう事も、僥倖である。
 デウスエクスを代表して、礼を言わせて頂こう」
 次に続く言葉もまた、希望を持たせてくれる言葉だった。
「その事実を伝える事、そして歓迎されたこと。超神機さま、私は嬉しく思います」
 ジェミが真の言葉を伝える。これからが本当に伝えたいことだ。ケルベロス達は、次に伝える言葉に躊躇いはなかった。

●ケルベロス達の提案
「デスバレスを制圧したことで、もう、グラビティチェインの枯渇問題はなくなりました」
 ミライが今後の提案に向けて、まず話を始めた。
「沢山の願いを背負って、ここまで来ました。
 友人の。地球の人々の。……今日を迎えることが出来なかったデウスエクスの皆さんの。
 大事なものを守るために、殺し合う。そんな時代は私達で最後にしたいのです!」
 そんな想いを持って、ここに来たことをミライが話す。目指す事は、ともに歩んでいける未来。それは想いの力に他ならない。
 すると、鬼人が少しフォローを入れる。
「ゲートに改造されたピラーを、元のピラーに戻すことができれば、問題の多くは解決するんじゃないかって、思ってるぜ。その為には、俺たちケルベロスだけでは、駄目なんだ。だから、協力してほしい」
 へりくだることも、おごることも、しない。交渉にはまずそれが必要である。立場は、同等のはずだ。
「そのためには、全デウスエクスの問題であるピラーの供給の為のゲートの研究、修復、そして、有志のケルベロスを募って、ピラーの検索やその道中の戦力、索敵、情報収集を担う事が約束できる」
 鬼人がそういうと、ジェミが一歩前に出る。
「それができない場合は、宇宙船の開発を、我々と共に行う事はできないでしょうか?
 ピラーのある場所まで宇宙船で移動できれば、グラビティ・チェインの枯渇問題は、解決できるのではないでしょうか? それに、惑星間での交流もできますし、そこも視野に入れることができます」
 ジェミは精一杯に、話した。相手の利点をいう事は交渉事の基本である。
「……なるほど。良い事の様に思えるな」
 他のダモクレスが、少しざわついた後、アダム・カドモンがそう言って周囲の部下を静かにさせる。ただ彼はそう言うが、それ以上は言葉を続けなかった。その少しの沈黙は、ケルベロス達にも言わなければいけない内容を見透かされているようでもあった。
 すると、煉が一歩前に出た。
「これは、言おうかどうしようか、本当に迷って、みんなで決めた事だ。でも、これを言わないとフェアじゃねぇ」
 煉はそう言って片膝を再び付き。深く礼の姿勢を取った。
「デスバレスの歪み。多分知ってると思うが、その原因はコギトエルゴスム化にあるんだ」
 空気が凍り付く事を感じる。それ程までに衝撃的である事は、予測は出来ていた。それを感じながら煉は言葉を続ける。
「だから、デウスエクスからコギトエルゴスム化の性質を除去するための研究が、これから先、必要になってくる」
 ケルベロスがコギトエルゴスムの性質を排除するために動く。それは、全てのデウスエクスを巻き込むものであり、ダモクレスもまた、当然に含まれている。
「少し、ショックだろうと思う。俺らも、俺らも死神の奴らには宇宙の破壊者だの言われたよ。憤る気持ちは痛い程分かる。自分たちの文明にも誇りがあると思ってんだよな。
 故に、全部滅んじまうなんてのはきっと……耐え難い。ここにいるマークやジェミのようなレプリカントは生き残るだろうが、それはもうダモクレスじゃねぇ。
 でもよ、ダモクレスがダモクレスのまま、人も人のまま自分らしく、殺し合わず、その魂のまま生きられる世界。そんな世界を望むなら、俺達の手を、取ってくれ」
 煉の言葉は、ケルベロス達の本心である。このまま戦わずに、共存していける事は、互いに良い事のはずだからだ。
「もちろん、こちらからも様々な事は提供できるでしょう」
 恵は煉の言葉を受けて、相手が必要であろうと思われる情報を、的確に結んでいく。
「まず、デスバレスには地獄の炎があることが分かりました。これは、我々の中にいるブレイズキャリバーも含めて、地獄を扱う者と共に、研究材料として派遣できるでしょう。
 また、その研究には戦力、情報に関しても共有ができますし、そちらから要請があれば、任務にも参加させることが可能でしょう。
 ただ、これは個人の意思がありますので、強制は出来かねますが……」
 恵は、ただ、淡々と話す。それは、こちら側にも常識はあるが、それは地球の文化での事だ。判断するのはあちら側であり、ケルベロスの意思を情報に混ぜ込むのはかえって良くない事と感じたからだ。
「まだ、こちらからは他にも提供できるものがあります」
 ジェミが続けて切り出す。
「剣化した大量のザルバルクや、隕石や宇宙空間の物質なども、研究の役に立つと思います」
「この剣化の装置に関しては、まだ出力が足りないと感じる。なので、後々性能が向上できるように協力しあいたいというのが、提案という事にもなる」
 ジェミの言葉をマークが補った。
「ダモクレス達に必要な機械を、ダモクレス達の為にある程度提供することもできます」
 リュセフィーもまた、頷きながら付け加えた。
 すると、暦が研究についての事を話す。更に相手の興味を引き出すためだ。
「そのうえで、共同研究したいことが様々にあります。例えば、死者の泉に関しても、まだまだ研究が必要でしょうし、ダモクレスとなった者を、元の種族に戻すという研究などになりますね。もし既に分かっていることならば、是非に教えていただきたい所です」
 すると、暦の話を一通り聞いたアダム・カドモンが問いかけた。
「メリュジーヌのケルベロスよ。一つ尋ねたい。君は恐らく地球の者となってそう長くないはずだ。君から見て、ケルベロスをどう思う?」
「そう……ですね」
 突如の質問に、暦は少し虚を突かれたが、嘘偽りない気持ちを応えることが吉と思えた。
「遊びにも手を抜かないような大人気なさもありますが、一度、同胞と認めたら己の身の危険を顧みず救いの手を差し伸べようとする……とんでもない甘ちゃん野郎共ですよ」
 確かに数々のデウスエクスに対して、甘い所が多いだろう。相手はこちらを殺しにかかりに来ているのにもかかわらず、だ。
 ただ、彼女はこう、最後に付け加えた。
「自分達のしたことを後悔しないという、最高の、ね」
 それを聞いたアダム・カドモンは、ゆっくりと頷いた。
 できる提案はすべてしたつもりだ。相手のメリット、デメリットを含めて。結果として最後まで話をすることができた。あとは、相手側の決断となる。
「わかった……」
 少しの時間の後、アダム・カドモンは厳かに口を開いた。
「ここまでよく来てくれた。そして、貴重な情報も有り難く受け取ろう。
 では、私の決断を伝える」

●超神機アダム・カドモン
「ゲートのピラー化の研究、そして宇宙船の開発。その他デスバレス、地獄、死者の泉……。これからの未来について非常に明るい話だ。良い研究となるだろうな」
 それを聞いたケルベロス達の表情が少し緩む。しかし、その安堵感は次の彼の言葉によって消えることになる。
「だが、デウスエクスのコギトエルゴスム化の性質を除去する事のみ、飲めぬ」
「そんな……!」
 リュセフィーはそう漏らし、絶句する。しかし、心のどこかでは、選択肢としては存在しているという事は、わかってはいた。
「理由を聞いてもよろしいですか?」
 恵は少し狼狽える仲間を見て、冷静に話を切り出した。
「我が剣(ブレイド)は、どのような困難をも切り伏せ、未来を切り開く存在である」
 朗々と、この場に響き渡る、決意の声だった。
「剣(ブレイド)を振るうものは、常に前に向かって進まねばならない。デウスエクスのコギトエルゴスム化を無くすというのは、明確な『退化』であると言わざるを得ない」
「退化……。そんなはずは……」
 ジェミが食い下がるも、アダム・カドモンは続ける。
「我が身可愛さに、『退化』を受け入れるならば、私は、我が剣(ブレイド)に相応しい存在では無くなる」
 アダム・カドモンの言葉は、ケルベロス達にとっては受け入れられないものだった。
「しかし、コギトエルゴスム化を放置すれば、再びデスバレスのような歪みが発生してしまいます!
 ピラーの無い皆さんへの、少しの範囲のマキナクロスを提供したりもできます。いま、すぐにという事でもないのです!」
 ミライが必死に食い下がる。彼女は涙があふれそうになっている。
「そうだぜ。そうなったら、今度はまた多大な被害が発生することになるぜ。
 個人的には、ダモクレスには恩があるんだよ。偶然なんだが、恋する電流マシンがいなかったら、大切な婚約者も、今のちゃんとした生活もなかったわけだし、な。だから、もう、争いたくは、ないんだぜ」
 鬼人も、正直な気持ちを言う。
「それを防ぐために、必要な事なんだ。このままじゃ、全部、本当に滅んじまう……」
 煉は、少しうなだれながらも、最後まで諦めずに説得を行う。
 しかし、アダム・カドモンからは、肯定の言葉は聞こえてこなかった。
「諸君は、自ら道を切り開き、デスバレスの危機を見事に解決して見せたでは無いか? その諸君が、未来の歪みを恐れるのはおかしな事である」
 未来を切り開いてきたケルベロス達が、分かっている危機を恐れることが理解できない。そういう反応だった。
「ですが超神機さま。私は元ダモクレスですが、上の妹をこの手で殺し、先日下の妹と戦う覚悟を決めたところでした――。
 でも、本当に欲しかったのは、戦う覚悟じゃない。手を取り合い、共に生きていける未来こそが欲しかったんです!
 戦いの中喪われた多くは、決して忘れてはいけないでしょう。けれど私達は、貴方達は、違いを越え、手を取り合い、互いにとって良い未来を切り拓けるはずです。
 ……どうか、ご英断を」
 ジェミは、必死だった。まだまだ知ってほしい気持ちがある。それはレプリカントになったダモクレスだからかもしれない。
「少し、理解してもらうほうがいいかもしれん。定命の自分達は、未来の危機の時には生きていないだろう。だからこそ、今できる、最善の行動をしようとしている。
 これは、退化とは異なる、前に向かって進む事では無いのか?」
 マークは気持ちではなく、論理的に物事を捉えながら、相手との差を埋めようと尋ねた。
「かつての同胞よ。未来の脅威と戦うのは、未来に生きる者達であり、今の諸君では無い。それは、そこのオラトリオも言った事であるな。
 そう、その危機はまだまだ先の話なのである。
 もし、ケルベロスの諸君が未来に責任を負うというのならば、出来る事は子孫達に、脅威と戦う為の力を伝える事であろう? それに協力するデウスエクス種族も現れよう」
「未来に歪みが起きたなら、定命の者の子孫だけではなく、デウスエクス達も、抗う存在となりうる……か」
 定命のケルベロス達は、未来の歪みが生じた時、そこにいないかもしれない。
 だが、ケルベロス達に殺されさえしなければ、不老不死のデウスエクス達は、当事者として未来に確実にいる。その性質こそが歪みの原因なのだが、デウスエクスという存在の強さでもある。
「諸君がもたらした情報は、私に歪みへの対策を取らせるに足るものでもある。
 だが、私は、その手段として退化を選ぶことはしない」
「つまりそれは、コギトエルゴスム化は捨てない、ということですね」
「その通りである。コギトエルゴスム化という優れた能力を失うことは退化である。
 退化せず、困難に立ち向かう事こそが未来を切り開くのだ」
 暦が最後に確認すると、アダム・カドモンは先程の結論を繰り返す。
「ケルベロスよ。諸君ら地球の者は、全く無力な状態から、デスバレスを制圧し、グラビティ・チェインの枯渇をも解決してみせたのだ。そのケルベロスが、自分達の子孫に同じことが出来ないと考えるのは、私には理解できぬ」

●アダム・カドモンの決断
 話はそこで停滞した。ケルベロス達が他の思いつく限りの説得、交渉を持ち出しても、アダム・カドモンの意見とは全くの平行線となったためだ。そのうちに、徐々にケルベロス達の意見は、真新しさを創り出すことが出来なくなっていってしまっていた。
「我が剣(ブレイド)は、諸君の言葉を受け入れる事は出来ない」
 アダム・カドモンは最後にはっきりと宣言した。ケルベロス達にはもう、どうすることもできなかった。
「しかし、デスバレスを制圧した諸君の言葉も、また正しいのであろう」
 次の彼の言葉は、今度は全く予期せぬ言葉だった。互いに顔を見合わせて、アダム・カドモンの言葉に耳を傾けた。だが、続く言葉は、ケルベロスの意思とは違っていた。
「互いに正しい思いを貫くのならば、戦いこそが決着の手段である」
「あくまでも、戦うというのですか!?」
 リュセフィーが尋ねる。それは、デウスエクスに共通する力の理論であった。
「ダモクレスは、ケルベロスを尊敬すべき敵として全力で戦い、滅ぼす事を約束しよう。惑星マキナクロスが地球に到達した時が、決戦の刻となるであろう」
 ケルベロス達の主張を認め、好敵手と認めた上で、なお、戦いを望む。
 それが、アダム・カドモンの決断だった。
 交渉決裂かと、ケルベロス達が己の無力さを感じかけた時、アダム・カドモンはこう続けた。
「諸君が欲したデータについては、可能な限り集めておこう」
「え?」
 悔しさに包まれかけていた煉は、耳を疑った。
「もし、諸君が勝利したならば、そのデータを活用して、望む未来を描くがいい」
 そう、ケルベロス達の主張は届いていたのである。その上でのアダム・カドモンの決断だったのだ。
「ダモクレスが勝利したならば、予定通り、地球のマキナクロス化を実行する。
 地球をマキナクロス化する事で、ダモクレスは更なる高みに至ろう。
 地球の力を持ってすれば、未来に起こる『歪み』への対策も行えるであろう」
「そこまで分かっていただいた上で、まだ戦おうと言うのですね」
 ミライが確認を行うと、アダム・カドモンは然りと告げる。
「既に、交渉の時は過ぎた。帰って決戦の刻を待つように伝えるがいい」
「……ああ、分かった」
 鬼人は心残りを感じつつも頷く。

 ケルベロス側は、退化を望まぬアダム・カドモンの意志を知った。
 アダム・カドモンもまた、ケルベロス達の考えに正しさがあることを認めた。
 互いに妥協できない部分があり、戦いは避けられない。
 だが、戦いの先にも希望を繋げたことで、マキナクロスを訪れたケルベロス達は、求められた役割を果たせたと言っても良いのだろう。

 アダム・カドモンの指先から軽いビームがケルベロスに放たれる。
 その輝きが、交渉の終了を告げる合図となった。
 強制転移させられ、地球に送還される一瞬の間。ケルベロス達はアダム・カドモンの言葉を胸に刻み込む。
 ダモクレスとの決戦。
 その刻が、迫ろうとしていた。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年5月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 29/感動した 2/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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