うどん処 びるしゃな

作者:星垣えん

●処
 清々しく晴れた五月の空。
 くっきり白い雲と眩しい太陽を見上げながら、鳥さんはちゅるんとうどんを啜った。
「……美味っ」
「はぁ~。この適度なコシとのど越し……!」
「ダシの優しい美味しさも骨身に染みるぜぇ……」
「さすが大将のうどんだ……」
 同じくうどんを啜った何人かの信者たちも、鳥の反応に合わせて称賛を口にする。
 何の変哲もない住宅地の一角。そこに鳥さんと信者たちはたむろしていた。モダンなハウスの広い中庭にテーブルと椅子を出して、洒落た昼食をキメていた。
 鳥さんの作った、うどんで。
 一杯のかけうどんを秒で完食した鳥さんが、ごとっと器を卓に置く。
「やはりうどんを超える料理などないと再認識してしまったな……。この食べ応えとスッキリしたダシの旨味、そして味がしつこくないからどんなトッピングも合わせられる」
「最強っすね……」
「つよつよじゃん……」
 穏やかに語る鳥さんのうどん推しに、信者たちは嘆息でもって応えた。美味しいうどんを食べたことで身も心も満たされているのだろう。顔が仏である。
 そんな彼らを見てくすっと笑った鳥さんは、中庭からキッチンへと引っこんだ。
 そして1分後。
「さぁ、まだまだうどんは沢山あるからな。好きなトッピングで食べなさい」
 鳥さんはトッピング類をたっぷり搭載したワゴンとともに戻ってきました。
 生姜や葱や天かすといった軽いものから、からりと揚がった天ぷらやかき揚げ、柔らかそうな茹で鶏から甘辛く味付けされた牛肉まで――至れり尽くせりのラインナップ。
 そんなん見せられちまった信者たちはもう、
「じゃあ王道の海老天のせちゃおっかなぁ!」
「俺はこっちの海鮮かき揚げを!」
「甘辛の牛肉をこんもり乗せるのが正義に決まってるやん!」
「男なら生卵とネギだけで十分」
 てな感じで狂乱するよりなかった。
 だって食べ放題ですもん。麺もダシも持て余すほど用意されてる上に、揚げ物も肉も食べきれる気がしねぇほど作られている。器からこぼれんばかりに盛ってしまっても何の問題もないだろう。
「こんな美味しいうどんを振る舞ってくれるなんて、うどんの神様や……」
「ありがとう、ありがとううどん神さま……!」
「いいんじゃよ。それよりうどんを啜りなさい。トッピングはそれで十分かね? もっとガッと肉を乗せたほうがいいんじゃないかね?」
『う、うどん神さまぁぁぁ!!!!』
 トングで肉を盛る神様のおせっかいに、感激しちゃう信者たち。

 以上、急遽開店された『うどん処 びるしゃな』の模様でした。

●うどんが我々を待っている
 青空の下のヘリポート。
 猟犬たちが参じたそこには、すでに御手塚・秋子(夏白菊・e33779)と笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が待っていた。
「うどんが食べ放題……!!」
「はい、食べ放題ですよ!」
「しかもトッピングが自由にかけ放題……!?」
「はい、かけ放題ですよ!」
「それが無料……!?」
「はい、ぜーんぶ無料ですよ!」
「行くしかない!!!!!」
 かなりしょうもない会話をしながら待っていた。言うまでもないが食べ放題と聞いて興奮しきりなのが秋子で、BOTと化してるのがねむちゃんである。
 が、安心してほしい。
 ねむちゃんはデキる娘である。
「あ、みんな待ってましたよ! 実はですね――」
 ちゃんと状況説明もしてくれました。住宅地にうどん推しのビルシャナが現れたこと、信者がいること、美味しいうどんが食べ放題になっていること、すべてを。
「ということなので、みんなにはうどんを食べに行ってもらいたいんです!」
「美味しいおうどん……なに食べようかなぁ。今の時期は冷やしうどんもいいよね」
 指を咥えんばかりの秋子はもはやうどんを食べることしか考えていないだろう。ねむちゃんもうどんを食べろとしか言ってこない。ビルシャナを倒せと一言も言ってくれない。
 しかしだ。ということは鳥を葬ることは簡単なのだろう。周りでうどん食ってる信者もいい具合に腹が膨れたあたりで適当に説得すれば改心するということなのだろう。うどんをディスったりしとけば大丈夫なのだろう。
「はい、ディスったりしとけば大丈夫です!」
 大丈夫らしい。ねむちゃんがそう言っとる。
「現場にはビルシャナが作った美味しいうどんが待ち構えていますから……気を付けてくださいね!」
「うん、気を付ける……気を付けてたくさん食べる!」
 きゅっと拳を握って訴えるねむちゃんに、同じく拳を握って頷く秋子ちゃん。

 いったい二人とも、何に気を付けるっていうんですかね。


参加者
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
シフカ・ヴェルランド(鎖縛の銀狐・e11532)
岡崎・真幸(花想鳥・e30330)
御手塚・秋子(夏白菊・e33779)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)

■リプレイ

●神の庭
 うどん処びるしゃな――。
 と思われる邸宅の門前に、ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)と円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)は立っていた。
「……うどんいいわよね。冷やしでもいけるし、あったかくてもいけるし」
「そうね。今の時期なんて重宝するわ」
 当たり前のようにうどんに狙いをつけている二人。
 初夏ですものね。さっぱりしたものって良いよね。
「ちょうど野菜の天ぷらをたくさん食べたいと思っていたんですよ」
「天ぷらも美味しいわね」
「私は海老天が食べたいわね!」
 やたらピンポイントな願望が湧いていたらしいシフカ・ヴェルランド(鎖縛の銀狐・e11532)に、うんうんと頷く二人。
 後方に控えていたエトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)は、姦しくすらある三者を見て微笑んだ。
「待ちきれない感じですネ」
「なかなかない機会ですものね。私も本当に楽しみですわ」
 薔薇色の髪をなびかせて、カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)がエトヴァの横を通りすぎる。
 そして、さも当然のように鳥邸の門扉を開け放った。
「さぁ、行きますわよ」
「堂々とした御姿、頼もしいですわ!」
「人の家なのですガ……構いませんカ」
 颯爽と不法侵入してゆくカトレア嬢に尊敬の眼差しで続くルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)。さらに少し遠慮がちにエトヴァがついてゆく。
 で、ずいずい中庭に進み。
「うどんが食べられる場所って、此処でしょうか?」
「君たちもうどんを食べたいのかな?」
 普通に挨拶した現れたカトレアを、普通に鳥さんが歓迎した。
 そこはうどん祭り。1玉ずつ分けられた大量のうどん、温冷2種類のつゆ、天ぷらやかき揚げ等々はそれぞれ特大の器に山盛りにされている。
「これほどの量を一人デ……」
「美味しそう……はっ、いけません! これは邪悪な誘惑……!」
 鳥さんの仕事に感心するエトヴァの隣で、ルーシィドがぶんぶんと頭を振る。超会議での屋台巡りで全力を出したらしい彼女はそこらへん慎重になってる。
「おうどんがたくさん……たくさん!」
「あぁ、馬鹿らしくなるぐらい大量だな」
 5歳児並みにきょろきょろする御手塚・秋子(夏白菊・e33779)の横で、岡崎・真幸(花想鳥・e30330)が呆れたような声音で返す。
 が、その眼光は鋭い。
「あまり食い過ぎるなよ」
「だ、大丈夫…………」
 ぎくりと震えた秋子が、弱々しい声で返事をする。
 持っていたトクホのお茶を咄嗟に隠したのは、なんか怒られる気がしたからだった。

●祭りってわけよ
 煌めく出汁と、つるつるのうどん。
 そのシンプルにして最強の連携をちゅるんと喉に流しこむと、ローレライは桃色の瞳を星屑のように瞬かせた。
「ん~! ただのかけうどんとは思えないわ!」
「ええ、とっても美味しいですわー」
 向かいで食べていたルーシィドも思わず口角が上がっている。
 最強。
 出汁と麺だけで理解できるほど、神のうどんは美味かった。
「次はおねぎを乗っけてみましょう」
「わたくしはどうしましょう……」
 ウキウキ顔でたっぷり葱を乗せるローレライ。一方のルーシィドは近くの仲間たちの様子を窺い、はたとエトヴァに目を止めた。
「おお、お出汁の風味に衣がサクっと。とろりと半熟卵が麺と出汁に絡んで相性最高ですネ」
 驚いた顔で食べているのは温玉揚げだ。出汁の少し染みた衣を齧り、こぼれ出た半熟の黄身を絡めてうどんをずずずっと啜り上げる。
「卵に合わせて茹で鶏も乗せてみましたガ、こちらも美味しいデス」
「とても美味しそうですわ……」
 茹で鶏をも味わうエトヴァを見て心を持ってかれるルーシィド。
 だが誘惑はそれだけに留まらない。
「つるつるしこしこのうどんに、とろろのふわふわ、卵のまろやかさが絡んで……美味ね!」
「あちらも美味しそう……!」
 うどんを啜り、こくこくと頷いてるキアリにも気づくルーシィド。
 キアリの器は一面がとろろに覆われている。そこに黄身を崩して食べれば最高に美味いに決まっていた。
 しかも。
「そこにクワッと主張される、鴨肉とネギの存在感……素晴らしいわ」
 とろろの下には、香ばしい鴨肉と葱が隠れていた。温かい鴨南蛮うどんに月見とろろを足すという贅沢を、キアリさんはキメていたのだ!
「ぜ、全部試しますわ! ちょっとずつなら問題ないはず!」
 トッピングを求めて小走りするルーシィド。冒頭でカロリーを気にしていた彼女はもういない。きっと帰宅した頃に我に返ると思う。
「目移りしているようですわね」
「種類が多いですからね。私は野菜一択ですけど」
 慌ただしくしてる人を眺めて、うどんを啜るカトレアとシフカ。
 そんな二人のうどんは王道のトッピング。カトレアは大きな海老天をどっさり。シフカはレンコンやナスの天ぷらと、野菜をミックスしたかき揚げを乗せている。
「サクサクの衣に、プリプリの海老の身。うどんのトッピングと言えば、やはり私は海老天が一番好きですわね」
「私は野菜の天ぷらが推しですね」
 出汁に触れても未だサクサクを保つ海老天をぱくりと口にするカトレア。そこに謎の対抗心を覗かせるシフカが、軽快にレンコンの天ぷらを齧る。
 で、同時にうどんをつるつる。
「うどん自体が控えめな味ですから、揚げ物に合いますわね」
「何杯でもいけそうですね……おっと野菜の天ぷらがなくなってしまいました」
「私も海老天を追加しようかしら」
 ふーむ、と少し考える二人。
 とかやってる横では、逆に秋子が思考を放棄していた。
「ゴボ天とかしわ天おいしー♪ 薩摩揚げと温玉揚げと葱もいいなー♪」
「お前……食い過ぎだろ」
 胃袋が欲するままトッピング盛り盛りで食ってる秋子を、呆れ顔で眺める真幸。
 が、こうなった秋子が止まらないこともわかっているので、真幸は諦めて自身が何を食うかを考え出した。
「……秋子、スダチ大根の冷やしうどんと、明太子月見冷やしうどんを食いたいんだが、半分こして食わね?」
「え、シェア?」
 頬をもごもごさせつつ訊き返す秋子。
「普段食べすぎるなって言うのに私に食べさせるのか! 上等だ!」
「いや別にそういうわけじゃ」
「うどん神さま! 追加で肉卵天かすの冷やし混ぜうどんを!」
「俺は食う量を減らすために言ったんだが……」
「大丈夫! トクホが」
「あっても大丈夫じゃねぇ」
 グッとサムズアップする妻に被せ気味でツッコむ夫。
 仲睦まじいようで、何よりである。

●箸が止まらんのよ
 うどん処びるしゃなでの時間は、とても和やかに進んでいた。
 どんぐらい和やかかというと、
「にしても、本当に美味しいですわ。流石はうどん神さまと言われるだけの事はありますわね」
「いやぁ、それほどでも」
 カトレアが普通にビルシャナと歓談してるぐらいである。互いにうどんを啜りながら朗らかにトークしてる姿はとてもこれから戦りあう人たちとは思えません。
「こんなにサクサクした海老天は食べたことがありませんわ」
「それはうどん用に衣を工夫して――」
「すみません大将、野菜のかき揚げがなくなりました」
「沢山あったのに!?」
 海老天の秘密を明かしかけた鳥さんが、真顔で言ってくるシフカに秒でツッコむ。百人前以上は用意してたのだ。なくなるはずがなかった。一人の野菜狂いがいなければ。
「まったく。じゃあ揚げてくるよ」
「それまでは海老や魚で我慢しましょう」
「なんで上から目線!」
 ぶつぶつ、と文句を言いつつキッチンへ引っこむ大将。
 その背中を見送りながら、エトヴァはつるるっと釜玉うどんを啜る。
「卵が絶妙に絡んで美味しいですネ。それに明太子のピリ辛でお箸が進みマス」
「明太子も和えてあるのね。ちょっと気になるわ」
「俺も試すのは初めてですガ、美味しいデス」
 お腹が満たされて小休止していたキアリに、にこりと微笑んで釜玉明太うどんを勧めるエトヴァ。今日だけで食の新たな扉を何枚か開けた気分。
「しかし、そちらは大丈夫ですカ?」
「そちら? あぁ、アロンのことね」
 足元を見下ろすエトヴァ&キアリ。
 そこには1杯のうどんと対峙するアロン(オルトロス)がいた。肉うどんにコロッケとメンチカツ、それと温玉を乗せた器に前脚をかけている。
「お箸を使えないのにどう食べるのか、見物だわ……」
「そうですネ……」
 じっと固唾をのむ二人。
 ――と『うどん対アロン』の注目カードが行われてる他所では、真幸もまた重大局面を迎えていた。
「腹がヤバい」
 卓にどちゃっと突っ伏す真幸。
 食い過ぎだった。
「え、3杯ぐらいしか食べてないよね……?」
「お前とは違うんだよ……てか冷やしうどんにしたのが失敗だったかも」
 ガチで不思議がる秋子に一般人として物申す真幸氏。
「なら温かいおうどんを食べて治すのだ! 神様、神様ー! 山芋ととろろ昆布を入れた甘め出汁のあったかうどんをひとつ!」
「うどんにネバネバしたもんぶちこむのやめてください……俺苦手なん……」
 食い過ぎを食って治そうとする妻の袖を、ぐっと引っ張って制止する夫。
 さりげなく見守っていたルーシィドは人知れず拳を握る。
「岡崎様……頑張ってください!」
「ルーシィドさん、次は何を食べる?」
「あ、はい! 何にしましょう!」
 隣からずいっと覗きこんできたローレライに慌てて応じるルーシィド。
「そろそろうどんタイムも潮時でしょうし、私は海老天大盛りにしようと思うわ!」
「じゃあわたくしもそれにしますわ!」
「よーし海老天よー!」
 わーっと走り出すローレライ&ルーシィド。
 ちゃちゃっとうどんを用意してきた二人は、あっという間にすとんと帰還。ビビるほど海老天を積んだうどんにローレライは早速挑みかかる。
「ぷりぷりの海老が美味しい……!」
「食べ応えがありますわー」
 一緒に海老天をもぐもぐする二人。
「このまま海老天を食べるだけでも幸せ……でも食べ方はそれだけじゃないのよ! カモン、シュテルネ!」
「えっ?」
 ローレライの掛け声を合図に、何処からともなく現れるシュテルネ(テレビウム)。
 その手には――おにぎり!
「これをおつゆに浸してお茶漬け風にして食べても良さそうと思って」
「出汁にオニギリを浸すなんてシメが……これは発明ですわ!」
 ほぐほぐとおにぎりが崩されるさまを、大発見の表情で観察するルーシィド。
 たぶん、カロリー超過は待ったなしですね!

●閉店
 十分後。
「ふー。食ったなぁ」
 うどんをたらふく食った信者たちは、満足げに腹を撫でていた。
 これは――好機。
 敏感にそれを察知した秋子は、すかさず行動を起こした。
「ぶふっ! ごふっ!?」
「な、なんだぁ!?」
 がっつりうどんを頬張った秋子が、盛大にむせた。
「喉越しを堪能してて窒息しかけたよ! お汁と一緒に飲み込みにくいのは危険!」
「無茶な食い方するからじゃ……」
「何を言ってるの。これがうどんの危険性よ」
 総ツッコミくらいそうな秋子のフォローに入ったのは、キアリだ。
「うどんを啜ると出汁が飛び散って服が汚れるわ。不衛生よ!」
「服の話!?」
「それはそうだけども!」
「汚れても問題ないって言うの? カレーうどんでも?」
「そ、それは困るけど……」
 信者の抗議を圧で黙らせるキアリさん。
 静かになって話しやすくなったところで、真幸は口をひらく。
「というかお前ら、栄養面を考えたことはあるのか」
「栄養……?」
「炭水化物は中毒性があるからな、そのうちうどんしか食わんようになるぞ。そうしたら食物繊維やタンパク質が不足、最終的には栄養障害だ。俺は実際それで医者にかかった」
「確かにお前、今にも死にそうだな……」
「ほっとけ」
 信者たちの眼差しから、ふいっと青い顔をそらす真幸。
 それと入れ替わるようにシフカは信者たちの前に進んだ。
「いくら様々なトッピングがあっても、必要な栄養のすべてはカバーできません。いずれ健康を崩して倒れてしまいますよ」
「な、なるほど……」
「サラダ、漬物、筑前煮……色んな料理法で楽しく美味しく野菜を食べましょう」
「え、野菜?」
「野菜です、野菜を食べるのです……」
「なんか怖い!」
「ナスの天ぷら持って迫ってくるんじゃない!!」
 野菜を推してくる人から逃走する信者たち。
 一方、シフカにターゲットされなかった信者たちにはエトヴァがそっと接近。
「皆様……お腹いっぱいのご様子ですが、デザートは要らないのですカ?」
「はっ、デザート」
「塩と砂糖はどちらも身体が自然に求めるもの。さっぱりアイスも、しっかりケーキもいいものデス。ほら……食べに行きたくなりませんカ?」
 優しく、出口のほうを指差すエトヴァ。
 それを受けて何人かの信者は逡巡を示した――が。
「いいのよ。私たちはダイエット中だから!」
 幾人かの女性たちが、強硬な意志を見せた。
 痩せたい。そう願う彼女らは手ごわいかもしれない……と思われたが。
「うどんってすごく消化にいいから、すぐにお腹空いちゃうわよね。それでつい何杯も食べちゃったりして……でも気づいて! それじゃダイエットにならないのよ!」
「それはごもっともー!?」
「あと糖質もやばいわよ! むしろダイエットの敵よ! ダイエットしたいならうどんより蕎麦よ蕎麦!」
「蕎麦ならいいのね!?」
「えぇ! とにかくうどんはダメよ!」
『わ、わかったわ!!』
 ローレライに5秒で説き伏せられ、ダッシュで門へ消えていた。
 てな感じで信者たちはどんどん改心し、その数は二人にまで。
 が、最後まで残っただけに彼らの覚悟は固い。
「俺たちはうどんに命を捧げる」
 と言って席を立つ気配のない男たち。
 そんな彼らの横で、ルーシィドはニコッと笑った。
「では皆さん、次はどのうどんにします?」
「え、次?」
「えぇ! ボリュームたっぷりの鴨南蛮は絶品でしたわ! ジャンボ海老天なんかうどんの中に収まりきらないぐらいで!」
「いやちょっと今は……」
「えっ、うどん食べないのですか?」
「ウッ……」
 押し黙る信者たち。
 覚悟はあった。でも今は満腹だった。食うとかはちょっと。
「うどんに命を捧げるのでは?」
「んー、それは……」
「そもそも、うどんってトッピング無しだと淡白過ぎてあまり美味しさが感じられなく無いですか?」
「な、なにぃ!?」
 問答するルーシィドと信者の横で呟いたのは、カトレアだ。
「いくらトッピングで自由度が高いとはいえ、単体で味が感じられないのでは料理としてダメでは無いでしょうか?」
「まーそれはね……」
「うん、そう言われるとダメかも……」
 語気の消えた信者たちが目を合わせ、ゆっくりと席を立つ。
 こうして、うどん処びるしゃなからは一人の客もいなくなった。

 それから、大量の野菜のかき揚げと一緒に戻ってきた鳥さんを殺って、猟犬たちは平和な帰路についたという。
 もちろん、絶品うどんとトッピングの残りを持ってね!

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年5月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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