鳥が両手にケーキを持って待ち構えているだと?

作者:星垣えん

●めーい
 暦も5月に入ったとなれば、すっかり春。
 日によっては夏を感じることもあるだろう。
 となれば現れてくるビルシャナさんもまた、そーゆー季節感を出してくるものだ。
「ダイエットの方法に糖質制限って、あるよな」
 とある民家の一室。
 シャレオツな天窓から注ぐ陽光の下で、鳥さんが信者たちに語りかけていた。
「痩せるために糖質を摂らないようにするってアレだ。だが俺は思うんだ。人間にとって糖質はなくてはならぬもの、それを断とうなどと愚の骨頂であると!!」
 信者たちの視線を一身に浴びつつ、凛と背筋を伸ばして謳う鳥さん。
 そんな鳥さんは、しかしピンク色の愛らしいエプロンを装備している。
 そして右手には桜色のショートケーキを、左手には新緑のロールケーキを持っている。
 あぁなるほど、と察するに容易い絵面だった。
「人は糖質を摂るべき……もっと言えばケーキを食うべきなのだ! ケーキこそ素晴らしき糖質の結晶! 1日3食ケーキが理想の食生活ですことよ!!!」
「うおおお!! ケーキだああぁぁぁぁぁ!!」
「早く食わせて下さい教祖! 体が糖を求めちまってるんですよぉぉ!!」
「いいとも。今日は『苺と桜のショートケーキ』と『茶葉のロールケーキ』だぞぉ」
『ヤッター!!!』
 鳥さんがテーブルに置いた2種のケーキを見て、万歳する信者たち。
 ふたつのケーキはどちらも実に春らしい。
 ショートケーキは桜色のスポンジ生地とクリームが何とも可愛く、食べるのも気が引けるよう。てっぺんに何個も並ぶ苺はつやつや甘そうだし、散りばめられた花弁は塩漬けの桜花だろうか。甘さの中だるみを防ぐ良いアクセント。
 隣のロールケーキも見るだけでも楽しい一品だ。どんっと存在感ある緑色の生地はフォークが抵抗なく沈むほどふわっふわだし、内側にあるクリームは茶葉の香りが強く感じられて少しほろ苦い。それが一緒に詰められた甘い小豆を引き立たせてくれている。
 鳥さんこだわりのケーキは、普通にめちゃくちゃ美味そうだった。
「こんなん……最の高じゃん……」
「っぽさがやべぇよ……5月っぽさしかしねぇよ……」
「ちなみにとにかく激甘のが食いたいという人のために、特製チョコレートケーキも用意しました」
『ふああああああああああああああっっ!!?!?』
 すでにノックダウン気味の信者を襲う第三の衝撃。
 鳥さんが出してくれたチョコレートケーキは……とにかく重厚の一言に尽きた。密度の高そうなしっとり生地にはふんだんに生チョコが仕込まれ、さらにその濃密チョコ生地の上には口どけ軽いチョコレートムースの層が乗っている。表面にビターなカカオパウダーがまぶされているのも憎い心遣いだ。
 なんつーかもう、食べなくてもわかるヤバさだった。
「さぁ、好きなケーキからお食べよ」
『い、い、いっただっきまぁーーーーっす!!!』
 一斉にケーキに飛びつく、信者たち。

 一口食べるなり、とろんと惚けた表情を見るに、本当に美味いんでしょうなぁ。

●春を食べに行こう
 鳥さんが信者を集めて手作りケーキを振る舞っている――。
 とゆー聞き捨てならない状況を知らされるなり、東雲・憐(光翼の戦姫・e19275)は凛然とした眼差しをセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)に向けた。
「つまり今日はケーキを食べられるということだな」
「そういうことになりますね」
 真面目に言った憐さんに真面目に返すセリカさん。
 なるほどそういう仕事なのか。
 今回のノリを理解した猟犬たちは、とりあえず肩の力を抜いておきました。
「ビルシャナの下にはもう信者の人たちがいるので対処をお願いすることになりますが、説得自体は簡単だと思います。ケーキを食べて食べて食べ過ぎたところで偏食の怖さなどを伝えて頂ければ……」
「口も甘ったるくなっているだろうしな。上手く刺さるということか」
「はい、そうです」
 こくりと憐に頷いたセリカは、足元に置いていた段ボール箱を取り上げる。
 そこに入っていたものは――。
「ケーキ箱です。お持ち帰りに必要かと思いまして」
 ケーキ屋さんで使われるようなアレだった。
 取っ手があって便利なアレが、組み立てる前のぺたっと平らな状態で束になっていた。
「もちろん保冷剤も用意してますよ」
「素晴らしい」
 保冷剤つめつめのクーラーボックスまで持ち出してくれたセリカに、横に立つ憐さんが満足げな微笑みを湛える。
 なるほどどうやら鳥さんのケーキが持ち帰り放題のようだ。
 ひゃっほう! と皆の心が浮き立ったのは言うまでもなかろう!
「それでは皆さん、どうぞヘリオンに乗って下さい」
 あちらへ、と手振りで自機へ導くセリカ。
 かくして、猟犬たちは鳥さん印の美味しいケーキに向けて飛び立つのだった。


参加者
青葉・幽(ロットアウト・e00321)
セレネテアル・アノン(綿毛のような柔らか拳士・e12642)
東雲・憐(光翼の戦姫・e19275)
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)
天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)
朱桜院・梢子(葉桜・e56552)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
大森・桔梗(カンパネラ・e86036)

■リプレイ

●勝ったな
『ケーキ! 春っぽいケーキや!』
 通りにまで響いてくる信者の歓声。
 それを聞きつつ、青葉・幽(ロットアウト・e00321)は鳥邸の外壁を睨んでいた。
「ここがケーキ食べ放題……じゃなくてビルシャナの居所ね」
「訂正しても遅いと思うが」
 真面目な顔してる幽を流し目で見る東雲・憐(光翼の戦姫・e19275)。本音を盛大にこぼしてしまった幽は咳払いでごまかし、「そんなことより」と敬愛する憐に視線を向ける。
「憐お姉ちゃん……何だか良い匂いがするわ。お風呂あがったばっかりみたいな」
「ああ、シャワーを浴びてきたからな」
 けろりと答える憐。
「どうしてシャワー?」
「トレーニング上がりでな。糖質制限もしていたから準備は万端だ」
 けろりと答える憐。
 そして、そんな彼女の勇ましき背中を無言で眺めるリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)。
「むぅ、憐のやる気がすごいね」
「そうですね。頼もしいです」
 柔和な顔で頷くのは大森・桔梗(カンパネラ・e86036)だ。
 が、そんな二人も抜かりはない。
「リリもケーキのおともに紅茶を持ってきてるけど、トレーニングには負けるね」
「紅茶もいいですね……私は新茶を持ってきてます」
 大きな水筒(2L)を持ち出すリリエッタに、小脇に抱えた雅な茶器セットをチラ見せする桔梗。備えが盤石すぎる。
「これでいっぱいケーキを食べられるね」
「ええ。しかし3食ケーキとは流石に罪深い……間食まで含めてしまえば1日4食ケーキに! 危険すぎますね」
「ここは信者の人たちを助けるためにも私たちが頑張らないと~!」
 リリエッタと桔梗の間ににょきっと出てきたのはセレネテアル・アノン(綿毛のような柔らか拳士・e12642)。
 そのままするりと前に出たオラトリオは、鳥邸の扉をがちゃり。
 大胆な大股で鳥たちがいるリビングまで進軍した。
 で。
「えっ、誰!?」
「知らない人が家の中に……」
 もちろん不審者として警戒された。
 しかしセレネテアルはそれしきで尻込みする女ではない!
「ケーキが沢山~! これは腹が……いえ腕が鳴ります~!」
 最速で春ケーキにふらふら近づく女だった。
「無断で入ってきた上にケーキまで!」
「なんて奴や……」
「このケーキ食べ放題なんだよな? よっしゃ、思いっきり食うぞー!」
「こっちにもおる!?」
 ひそひそ話をしていた信者らを瞠目させたのは、ケーキに覆いかぶさらんばかりに身を乗り出してるラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)。人ん家でも動じないネアカっぷりである。
「このままでは我々の領域が!」
「教祖! どうしま――」
 一斉に鳥さんのほうを向いた信者が、フリーズする。
「ありがとう……鳥さんありがとう!」
「ぬおおおお!?」
 朱桜院・梢子(葉桜・e56552)に両手を掴まれ、鳥さんがぶんぶんされていたからである! 上下に!
「5月に誕生日を迎えた私に無料で大量のけえきを食べさせてくれて本当にありがとう!」
「感謝は伝わったからヤメロォォォ!!」
「おまっ……そんなピザ生地みたいに扱うなァ!」
 わぁぁ、と梢子を止めるべく群がる信者たち。
 そうして手薄になった信者らのテーブルに、天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)は涼しい顔でしれっと座った。
「失礼するよ」
「えっ」
「私もご一緒して大丈夫かな?」
「……まぁ、いいんじゃないすかね?」
「じゃあ、よろしく」
 にこりと笑う蛍。
 よし! とりあえず食卓に溶けこむことに成功だ!

●春ですな
 そして2分後。
「んー。やっぱり旬の物って美味しいわよね」
「甘さが体に染み渡っていくのを感じるな」
 隣り合って桜と苺のケーキを食べている幽&憐。
 猟犬たちは、普通に団欒のケーキタイムを堪能していました。
「見た目も可愛いし、クリームは桜餅みたいだし、苺の程よい酸味が甘さを引き立ててるわ!」
「これは、ぺろりと食べきれてしまいそうだ」
 桜色のケーキをもぐもぐ頬張って、ご満悦の二人。
 そのまるで姉妹のように微笑ましい光景の横では、リリエッタと桔梗がじっくり味わうように桜ケーキを口に運んでいる。
「苺と桜は女の子が好きそうな取り合わせですね」
「桜も食べれるって、リリ初めて知ったよ」
「確かに、観ることはあっても食べることはなかなか」
 端正な顔にほんわか笑みを浮かべていた桔梗が、桜の花びらをぱくりと咥えたリリエッタを見て、自身も一枚口にする。ささやかな塩味が効いていて、思わず二口目のケーキをいきたくなってくる。
 そうして導かれるまま早くも1個完食した梢子さんは、ほわわんと至福顔に。
「苺の甘酸っぱさと桜の塩漬けで口の中が春爛漫だわ……! おかわりしようかしら!」
「……」
 もう目線が2個目に向いてる妻を、じっと窺うのみの葉介(ビハインド)。その顔には諦念を超えて達観すら感じられる。止めても無駄ってわかってんだよね。
「うん……春だわ!」
「季節限定というか、時季を感じられる食べ物っていいよなぁ」
「普段はタルトばっかり食べちゃう私ですが、それはわかります~」
 おかわり桜ケーキ食ってる梢子の感想に共感する、ラルバとセレネテアル。そんな二人の頬もケーキで膨れている。揃ってむぐむぐしてめっちゃ満喫しとる。
 が、これも序の口である。
「ロールケーキはくるくるなのがかわいいよね」
「ろぉるけぇき!? 待ってリリエッタさん、私もいただくわ!」
 そう、茶葉を使ったロールケーキがあるのだ。知らぬ間にそれを手元に持ってきていたリリエッタに気づくなり慌てて続く梢子さん。なぜ待ってほしいのかは謎。
「ほろ苦いけど、ほんのり甘くて美味しいね」
「お茶のいい香り……それに苦みが甘い小豆を引き立てて上品なお味だわ」
「こっちは珈琲でもよかったかも」
「それもよさそうね!」
 緑の鮮やかなロールケーキを頬張りつつ、語らうリリエッタと梢子。
 そして幽もまた、茶葉のロールケーキに舌鼓を打っている。
「ちゃんとお茶の風味が利いてるのがニクいわね。うん、香ばしくて美味しい」
「ああ、美味いな。これもおかわりしておこう」
 かちゃり、とカラの皿にフォークを置く憐。
 じぃっとそれを見る幽。
「……そんなに食べて大丈夫? 憐お姉ちゃん」
「心配ない。この日のために、1ヶ月もケーキを抜いてきたんだからな」
 ふっ、と勝ち誇るような微笑を見せる憐。1ヶ月前から今日のことに備えられるはずもないのだが、その表情には自信があふれている。ケーキ抜いてたのは本当っぽい。
「甘いのはいいよなー……みんなも笑顔になるしな」
 手でロールケーキを口に放るラルバ。茶葉の香りと苦み、それに甘い小豆が合わさってくる美味しさに、彼もまた自然と柔らかな笑顔になっていた。
 ――が、それも霞むような満面の笑みが隣にはある。
「やっぱり甘い物は別腹ですね~! ん~! 美味しいです♪」
 両の手で交互にロールケーキをぱくぱくしとるセレネテアルが、脚をぱたぱたさせながら歓声をあげていた。さっきから食べる速度がヤバい。ラルバの3倍はいってる。
「相変わらずよく食べるなー。セレネは……」
「あっ! ラルバさん、ほっぺたにクリーム付いちゃってますよ~?」
「ん? クリーム?」
「私がとってあげますね~」
「お、ありがとなセレネ」
 ハッと気づいたセレネテアルの指が、ラルバの頬からクリームを拭いとる。
 そしてそのままノータイムで自分の口に入れるセレネテアル。
 一瞬、固まるラルバ。
「…………ちょっと待て??」
「このクリーム美味しいですよねっ」
「いや、セレネ? そうじゃなくてな??」
 まるで意に介さずケーキを食べ続けるセレネテアル。その横でひたすら混乱してるラルバくんは紛うことなく思春期の少年だった。
「やはり新茶を合わせると和スイーツ度が増しますね」
 で、それを横にして完全スルーできる桔梗は天然だった。
「こんな上品なケーキを作るのに本職ではないとは、鳥さんはかなりの強敵ですね」
「ね。それ私も思ったよ」
 茶飲みを卓に置く桔梗に頷いたのは、蛍である。
 他の仲間たちよろしく春ケーキでしっかり幸せになっていたオラトリオは、手元の皿に乗っているショートケーキ(2個目)とロールケーキ(2個目)に視線を落とした。
「どっちも甘いだけじゃなくて、桜や茶葉が良いアクセントになってて美味しかった。しかもそれだけじゃなく苺も小豆も良い物を使っている……」
 赤い眼をじっと細める蛍。
 その射抜くような眼差しは、ゆっくりと横へ滑る。
 ぱくもぐとケーキ食ってる鳥のアホ面があった。
「たぶん自分の目で買い付けから厳選しているんじゃないかな。どうなの鳥さん!」
「ふあっ!? なに急に!?」
 一瞬で詰めてきた蛍に、びくんと跳ねる鳥さん。
 そっから彼が蛍の質問攻めをくらってる間に、桔梗とリリエッタは特製チョコレートケーキに手を付けていた。
「これは……禁断のケーキですね」
「桜とかお茶とか和風で来てたのにここにきてどかんと力押しの甘さだね。でも、チョコだらけでもリリは負けないよ」
「ここまできて、負けられませんからね」
「私も負けないわ!」
 糖質爆弾に挑む二人。そこに続けとばかりに闘志を燃やす梢子。
 が、はむっと濃厚チョコケーキにかぶりついたところで、彼女は気づいてしまった。
「はっ、もしかしてこれ……三ついっぺんに食べても美味しいんじゃないかしら!」
 急いで三種のケーキから一口ずつ取る梢子。
 それをひとつにまとめると、彼女はあーんと己の口へ。
「ん~苺と桜とお茶とちょこれいと、合うわね~」
「そんな食べ方が……」
「リリも試してみようかな」
 触発され、動き出す桔梗とリリエッタ。

 信者たちの説得に取り掛かったのは、だいたい30分後になりました。

●和の心
「う……お腹いっぱいかも……」
「俺もぉ……」
 ケーキを食べかけのまま、腹を押さえて止まる信者たち。
 これは頃合い。
 そう見た蛍はすかさず動いた。
「いやぁ、ケーキ美味しかったね! ところでみんなはいくつケーキを食べた?」
「え、いくつかなぁ」
「7、8個は食べたかも……?」
「なるほどね。美味しい物はついつい食が進んじゃうよね。スーパーとかで売ってるケーキよりずっと甘くて美味しいもんね」
「そうそう、やっぱり手作りは美味しくて」
「ちょっとレベルが違うんよ」
「わかるなー」
 ハハハ、とにこやかに信者と談笑する蛍。
 そうして朗らかな笑顔のまま、彼女は話を続けた。
「ところでスーパーのケーキは一つ300~900キロカロリーくらいだけど、600消費するのにはランニング1時間必要なんだって」
「はは……は」
 ぴた、と信者の笑いが止まる。
「600……だと……」
「大変だよねー。いま食べた分を消費するのに何時間走るか考えたらぞっとするよね。でもって3食続けた日にはもう運動だけの生活になっちゃうね」
「ヤベェヨヤベェヨ」
 蛍の残酷な説明を受け、信者たちの顔が一気に青ざめる。
 セレネテアルは、そんな彼らの肩をポン。
「皆さんも、カップ麺だけで生活してみたとか、玉子だけで1年過ごしたとか、そういった類のネットニュースとか見た事ありますよね~? ケーキだけを食べてたらどうなるか……もう言わなくてもわかりますよねっ」
「か、体に悪いんだろうなとは……」
「でも君もさっき爆食してたよね?」
「今日はたまたまデザートを程々に嗜んでいるだけで、普段のご飯はもっと食べますよっ」
「程々!?」
 平然と言ってのけるセレネテアルにビビるしかねえ信者たち。
 そこへ、リリエッタは背後から接近。
「たとえば虫歯になっちゃったら、痛くて何も食べれなくなるし大変だよ」
 ドリルをきゅいーんと回すリリエッタ。
 ドリルである。
「おい何だその物騒なブツは!」
「それで俺たちをどうしようと……」
「治療するのにドリルで口の中ぐりぐりしないといけないんだよね。怖いね」
「ち、近づくなァァーーー!!?」
 ドリル持ち少女から逃走する信者たち。
 それを悠々と眺めながら、ラルバと梢子は聞こえよがしに話しはじめた。
「だいたい、この次の食事がまたケーキってどうよ? やっぱ飽きねえ?」
「そうねー。やっぱりめりはりも欲しいわよねー」
 そう言って、ぽりぽりとらっきょう漬けを食べている二人。梢子の持ちこみである。世話になってたお手伝いさんから梅干しと一緒に送られてきたそれを梢子とラルバはあてつけるように齧りまくっとる。(梅干し担当は葉介)
「けえきってどれも主役なのよね。主役ばっかりじゃ飽きてしまうわ……この梅干しやらっきょう漬けみたいな箸休めがないとね!」
「ケーキもたまに食うから美味いんであって、やっぱり基本はバランスよく食った方がいいよな。いろんな栄養取れて健康にいいだろうし」
「やはりバランスは大事なのか……?」
「毎食ケーキは体にも舌にも悪いんだろうか……」
 二人の話を聞いていた信者たちが、一人また一人と膝をつく。
 いよいよ自身の愚行に気づきはじめた彼らに、幽は厳しい表情で語りかけた。
「お菓子ばっかでお腹膨らませちゃダメってママンに教わらなかった?」
「ママンに……」
「ケーキは腹持ちが悪いから、いっぱい食べてもすぐにお腹が空いちゃうでしょ。だからちゃんとご飯も食べなきゃダメ。ケーキはあくまでデザート」
 幼い子を叱るように、厳然と言う幽。
 そこへ徐に加わってくる憐。
「主食である肉や魚も食べられなくなるしな。お前たちは食卓に近江牛や山形牛のステーキが出ていても、大間のマグロが刺身になっていてもケーキを食べるというのか?」
「そ、それは……!」
「さすがにそっちを食いたいかも……」
「そうだろう。それにそこまでとは言わなくとも、甘いものばかりだとこういうのが無性にほしくなるものだ」
 そう言って憐が取り出したのは――塩むすびだった。
 何も変わったところのない、白いおにぎり。
 だがその輝くような艶と、ほんのり利いてるだろう塩味に、信者たちは喉を鳴らす。
「おにぎり……いいな」
「あぁ、いい……」
「皆さんが欲しいのでしたら、用意はしていますよ」
「なっ!?」
 思わぬ提案に驚く信者たち。
 彼らが声に振り向けば、桔梗が無数の塩むすびセットをテーブルに展開していた。それも熱いお茶付きである。THE日本。
「ケーキは確かにご馳走ですが、それも普通の食事が有るからこそです。甘味だらけで味覚が変になる前にこちら、お茶と塩おにぎりは如何ですか?」
「お茶とおにぎり……」
「う、うおおおおおおおおお!!!!」
 にっこり笑うタイタニアの招きに、おにぎりとお茶に、駆け寄る信者たち。
 おにぎりを食い、茶を啜る彼らの顔には、どこか生気が戻ったように見えたとか。

 そっから、猟犬たちはサクッと鳥を殺った。
 信者を説得してる間に新しいケーキを作ってたみたいでね、それをケーキ箱に詰める時間はみんなとても幸せだったそうです。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年5月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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