あれは……もしかして2m級のシマエナガでは?

作者:星垣えん

●なんて愛らしい
 何事もない平和な一日。
 とある小さなショッピングモールを一人の男がぶらぶらしていた。
「歩き疲れたなぁ……」
 足を休めんと、手近なベンチに腰掛ける男。
 そのまま辺りを見回して、何の気なしにある一点に目を留める。
 そこには――。
「皆さん拍手でお迎えくださ~い。アリンガチョくんで~~す!!」
「――☆」
 ひらけたイベントスペースで謎の催しが行われていた。
 司会のお姉さんに呼び込まれて現れたのは『アリンガチョ』なるガチョウの着ぐるみ。ガチョウまんまの姿でひたすらぺこぺこ頭を下げてるのは悔しいが少し可愛い。
 どうやら地元の自治体が推すご当地キャラ……ということらしい。
「あんなんあったのかぁ」
 遠目にじーっと見つめる男。
「アリンガチョ……」
 貧乏ゆすりを始める男。
「着ぐるみハァハァ」
 呼吸を荒らげる男。
 その結果。
「うおおおおおおおおおおお!! 着ぐるみぃ!! 着ぐるみぃぃ!!!」
『えええええええええええっ!!!?』
 唐突に咆哮した男に周囲の人々が、アリンガチョに和んでいた方々がビビる。
 彼は着ぐるみが大好きだった。発作を起こしてしまうほどに。
 くたびれたおじさんの体はもこもこっと膨れ上がり、手触りが良くなり、顔とか四肢とかも『ずもんっ』と形を変え――最終的に可愛いシマエナガになってた。
 シマエナガである。
 押せば転がりそうなほど丸いシマエナガである。
 しかもなぜか背中には大きなジッパーが付いている。中に誰か入ってるとしか思えない出で立ちだ。開けたりできるんだろうか。あとガチョウで高ぶったのにどうしてシマエナガになっているんだ。
「キグルミィ☆」
「きゃーーっ!?」
「着ぐるみがこっちにぃ!?」
 もふんもふんと柔らかな足音を立て、集団に近づくシマエナガ。
 左右にゆらゆら揺れながら、ゆっくりと。
 その歩き姿があまりにカワイイので、怯えていた人々の表情がちょっとニンマリ綻んでしまったのも仕方のないことだった。

●アザトカワイイ
「むぅ、着ぐるみが大好きなおじさんなんだね」
「そのようだ」
 学校の机みたいなそれに着席しているリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)のすぐ前で、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)が資料っぽいのをぺらぺらめくりながら厳然と答えている。
 きっと真面目な仕事ではあるまい。
 そんな確信を得た猟犬たちだった。
「おまえたちに頼みたいのはビルシャナの処理だ」
 真顔のまま依頼の説明に入るザイフリート王子。彼の口から『大正義ビルシャナ』の案件だと理解した一同は、この場の軽いノリにも納得した。
 いちおう説明しとくと、大正義ビルシャナとは己の大正義(=強いこだわり)を刺激された結果として一般人が鳥さんになっちゃうやつである。
 しかも面倒なのが、その大正義にあてられて周囲の人が信者化してしまうという点。
 最悪ビルシャナ化まで至ってしまうので、そうなったらシマエナガ天国です。
「現場はショッピングモール? 人がいっぱいいるから大変だね」
「そうだ。なので早急に対処にあたってもらいたい」
 リリエッタの捕捉に頷いた王子が、自身の手荷物から一枚のイラストを取り出す。
 そこには――ふわもふなシマエナガが描かれていた。
「これが今回のビルシャナだ」
 なにそれかわいい。
「着ぐるみだがな」
 着ぐるみでもかわいい。
「このあざといまでの可愛さを持って、奴は近くの人にてこてこと接近する」
 想像しただけですごくかわいい。
「押すと転ぶ」
 たまらんっっ!!!!
「体高2m」
 デカいっっっ!!!!
 非常識なまでの可愛さだった。そんなのが近くにいて人々が逃げられるわけがない。いかん周囲の人々がシマエナガになってしまう。
「だからおまえたちには着ぐるみを着てもらいたい」
 横ある段ボールの山を指す王子。中を覗くと着ぐるみがぎっしり。
「かわいいにはかわいいで対抗だね」
「ああ。着ぐるみを装備して人々を魅了し、避難させるのだ!」
 リリエッタの反応に力強く首肯する王子。圧がすごい。
「ちなみにただ避難させようとしても、おそらくビルシャナは寂しがって追いかけていくだろう。だから何人か足止めする係も必要だ。全力で構ってやれ」
 ちなみにこの鳥さん、半端な愛で方では通用しないとのこと。
 己の内の欲望をぶつけるように、全身全霊でもふらなければ足止めすることは叶わないらしい。なんとも簡単……いや難しい仕事である。
「避難さえ済めばあとは奴を倒すだけだ。押せば転ぶほどだからどれほど弱いかは言うまでもないだろう。満足するまでもふったら逝かせてやれ」
 さわさわ、とシマエナガのイメージ体を撫でまわす王子。
 かくして、猟犬たちはまるもふなビルシャナさんと戦いに行くことになりました。


参加者
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
風音・和奈(前が見えなくても・e13744)
霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284)
モヱ・スラッシュシップ(あなたとすごす日・e36624)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)
大森・桔梗(カンパネラ・e86036)

■リプレイ


「ミィ♪ ミィ♪」
「あぁ、よちよちと歩いて!」
「なんてこった……」
 愛らしいビッグシマエナガに迫られ、頭を抱える人々。
「むぅ、強敵なもふもふだね」
「なんという圧倒的なモフモフ……!」
 爪先立ちで人山越しにそれを眺めていたリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)とルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)が、揃って踵を床に下ろす。
 間違いなく強敵。
 そう瞬時に理解できるほど敵は可愛かった。
「ですが人々を救うのが私たちの役目! お客の皆さんは絶対に護ってみせます!」
「頼もしいですわ、ミリム様!」
「尻尾もぶんぶんしてて、気合十分だね」
 旅団の大先輩たるミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)の入れ込みように、拍手を送るリリルーの二人。それほど凄まじい気迫だった。どんぐらいかと言うと視線がシマエナガから全く離れない。
「どーやラ半端な着ぐるみジャ勝てネーな……」
「ですねー。すごく手触りが良さそうです」
 アリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)と霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284)の二人も、敵への称賛を惜しまない。
 大きな荷物から着ぐるみを取り出すユーリの手にも、力が入った。
「ふっふっふ、ハロウィンの時の着ぐるみが、また活躍するときが来ました!」
「ウチもとっておきの奴を持ってきたビテン!」
 ユーリに呼応してドヤ感を出すアリャリァリャは――海老天に扮していた。
 しかも頭付きである。上下が逆になっていて赤い尻尾らへんから顔が出ており、お尻から海老の頭が飛び出ている。おまけに足が鋏。
「キモカワイサを推してくゾ!」
「私も負けませんよ!」
 対シマエナガへと気炎をあげる二人。
 一方、風音・和奈(前が見えなくても・e13744)とモヱ・スラッシュシップ(あなたとすごす日・e36624)も別の意味で気合が入っていた。
「足止め頑張ろうねクウ君。全身でしっかりともふっていこう」
「幾つになってももふもふは良いものデス。たまには童心に帰ってもふもふもふもふ致しマショウ」
 和奈は頭に乗っけたオウガメタルに決然と語り、モヱは手指をわさわさ動かして準備を始めている。
 欲望しかなかった。
「早くなでなでしたいな」
「飛びこむのが楽しみデス」
「でも、シマエナガは実は肉弾戦が得意らしいですね」
 そわそわ待機する二人に、ぽつりと零したのは大森・桔梗(カンパネラ・e86036)。
『肉弾戦……』
 タイタニアの一言を受けて和奈たちは妄想開始。
 縦横2mのシマエナガが近づいてくる。
 羽でペチペチしてくる。
 短い嘴でツンツンしてくる。
 最終的に疲れて寄りかかってきた。
『勝てる気がしない』
 膝をつく和奈とモヱ。
 二人が無事に今日を生き延びることを、願うばかりである。


 まず最初に動き出したのは、ユーリだった。
「わっ、ワニの着ぐるみ……?」
「怖くないワニですよぅ、甘えん坊で人懐っこいワニワニです!」
 びくっと反応した人へ、両手をひろげておどけてみせるユーリ。二本脚で立つコミカルなワニの口から笑顔を覗かせて、彼女は人々に着ぐるみボディを擦り付けた。
「こうやって気軽にスキンシップしちゃいますよぅ!」
「やーん可愛いー」
「僕にも触らせてー!」
 お母さん方や子供に好かれ、徐々に人だかりを作ってゆくユーリワニ。
 それと同時に、桔梗もまた着ぐるみ姿を披露。
「私達はケルベロスです、どうか落ち着いて下さい」
「えっ……雪だるま?」
「この時期に……」
「いつの時期でも雪だるまはいいものですよ」
 怪訝そうな視線に微笑み返す桔梗は、まるっとフォルムな雪だるまになっていた。真っ白な丸の中から桔梗の顔だけ出てるのはとってもシュール。
「あのシマエナガはデウスエクスなので危ないです。舞台のアリンガチョさんやスタッフさんも早くこちらへ!」
「わ、わかりました」
「慌てずに、ビルシャナの方は見ないようについてきてください!」
 桔梗が呼びかけて集まってきた人々を、ユーリが先導して裏口へ向かう。
 意気揚々と尻尾を振って歩くワニに続いて行列がぞろぞろと移動。
「ミィ?」
 シマエナガもちゃっかり移動。
 ――が、その道に飛び出してくる影!
「がうー!」
「ミィー!?」
 横合いから飛びつかれ、すてーんと倒されるシマエナガ!
 ばたばた暴れる丸鳥にしがみついていたのは――ルーシィドだった。
「がうがうー!」
「ミィィ!」
 正確に言うと、わんこ着ぐるみを装備して犬になりきってるルーシィド。
 果敢にも飛びこんだ眼鏡っ娘はシマエナガを、全体重をかけて押さえこむ。
「ミィーー!」
「がうーー!」
「キグルミィ……」
「がう……」
 そして徐々に力が緩んでゆく。
 負けそうになっていた。シマエナガさんの毛並みに負けそうになっていた。
 傍で見ていた和奈とモヱが視線を交わす。
「モヱさん、アタシたちも」
「はい、ルーシィドに加勢しまショウ」
 即座に駆け出す二人。
 全速で床を蹴りつけてシマエナガの手前で跳躍した彼女たちは――。
「うーん。この大きさがもふもふ動くなんて、もうそれだけでね」
「ずむずむ沈みこむ感覚がたまりマセン」
「お二人ともようこそ……ですわぁ……」
「キグルミィィ!?」
 全身でシマエナガのボディを味わっていた。投げ出した身をばいんと受け止めてくれた弾力たるや高級ベッドも形無し。毛並みはふわふわのもふもふで頬ずりしてるだけで眠くなってくる。ルーシィドとか半分寝てる。
「ミィミィ!」
「おーよしよし。怖がってるのかな。可愛い」
「ミィー!?」
 全身を弄りつつ、シマエナガを舐めるように観察する和奈。頭の上のクウ君も全力ですりすりを堪能しており、無事に変質者と化している。
「最近は夫がいるのでワタシの人生は寂しさもなくむしろバラ色なのですが、夫はもふもふしていませんカラネ。今日はもふもふ補充デーデス」
「ミィィ……!」
 さりげなく惚気てるモヱも徐々にシマエナガのふわもふに埋まっていってる。さっきから全然顔を上げない。そのうち沈みきって消えるかもしれへん。
 しかし一番怖いのは――。
「キグルミィ♪」
 すべてを受け入れてるシマエナガさんである。地母神。
「このままでは皆さんが敵の術中に!」
 恐るべき敵の懐の深さに、ミリムが焦燥を露にする。
 ちなみに白熊の着ぐるみである。
 もふもふに負けてはいけないとか言い出して、マイ着ぐるみを持ってきて万全の状態になっているミリムである。
「さぁ、私が相手ですよ!!」
「ミィ?」
 仰向けだったシマエナガが、つぶらな瞳をミリムに。
「ミィ! ミィ!」
 もいんもいん、と体を起こそうと頑張る。5回目で成功。
「ミィィ♪」
 嬉しそうにミリムに近づいてくる。よちよち。
 ミリムは自然と両腕を水平に構えていた。
「はぁあああーー可愛い!! モーフモフモフモフ! ヨーシヨシヨシクマ!!」
「ミィーー!?」
 白熊の着ぐるみにタックルされ、結局また仰向けになるシマエナガ。ベアハッグな勢いで抱きしめるミリムはもはや人のテンションではない。王国とか作りそう。
 猟犬たちに捕まり、盛大にもふられるシマエナガ。
 それを遠目に見ていたアリャリァリャ(海老天)は、近くにいた人々に叫んだ。
「キケンなデウスエクスとケルベロスが戦っていルビテン! 巻き込まレネーうちにココカラ早く離れルビテン!」
「ほんとに戦ってます!?」
「すげー幸せそうですけど!?」
 当然の反応だった。
「いいから離れルビテン! プチ情報だがモール内の蕎麦屋では天ぷらそばがお得価格になってるらしいテン!」
「お得価格!」
「そういやさっきから蕎麦のつゆの匂いが……」
「……行くか!」
 腹を空かせた人々が、アリャリァリャの情報をもとに蕎麦屋へと旅立ってゆく。ヘリオン内で食べてた蕎麦のつゆを着ぐるみにこぼした甲斐があったってもんです。
 もうあと一押しで安全は確保できそうだ。
 リリエッタは未だ残っている人たちにぺこぺこと頭を下げた。
「スマンガチョ、スマンガチョ。避難してほしいガチョ」
「なにこの子カワイイー」
「ガチョウの着ぐるみなのかなぁ?」
「スマンガチョっていうガチョ」
 ぺこぺこぺこぺこ、と平身低頭を続けるリリエッタはガチョウの着ぐるみ。どうやらアリンガチョくんの兄弟キャラという設定らしいが、腰の低さが妙に可愛い。
 十分に関心を引けたことを確認すると、リリエッタは――。
「みんなついてきてほしいガチョ」
「バ、バク転!?」
 キレのあるバク転を披露!
 そしてそのまま連続バク転で華麗に裏口の方向へ!
「フィジカルが全然ゆるくない!!」
「こっちガチョー」
「あ、待って待って!」
 リリエッタを追ってく形で避難を始める人々。
 辺りにすっかり人影がなくなるまで、そう時間はかからなかった。


 数分後。
「ミィ?」
「……エビ?」
 ビッグシマエナガの愛らしいお目目と対峙するアリャリァリャ。
 首を同じ角度に傾けてしばらく見つめあった両者は――。
「エビタックル!!」
「ミーー!?」
 もふんっ、と衝突した。というかアリャリァリャが突っこんだ。
「エビテン……エビテン……ふわふわぁ……」
「ミィ……」
 すりすりして蕩ける海老天と、すりすりされて蕩けるシマエナガ。
 ありのままを言おう。
 猟犬たちは全力で巨大シマエナガさんというコンテンツを楽しんでいた。
「ふわっふわですねー。癒し効果とか凄そうです……」
「ミィィ……」
 ユーリとかいうワニさんも執拗に顔からダイブしまくっている。ふわふわ柔らかなボディに全身を埋め、表情をゆるゆるにしている姿からは、
『それでは、鳥さんをやっつけてきます! 皆さんはここで待っていてください!』
 と避難した人たちへ言ってのけた時の頼もしさとか全く感じられません。
 恐るべし、ビッグシマエナガ。
「いけません……このままでは全員骨抜きになってしまいますわ!」
「むぅ、やっぱり強敵だったね。倒せるかな」
 ルーシィドとリリエッタが、改めて敵の脅威を知り、表情を引き締める。
 ちなみにビッグシマエナガさんのクッションのような体の上である。
 二人並んで寝そべって、ふかふか具合を楽しみながらである。
「わんことなったわたくしもモフモフでは負けていないはずなのに……モフモフを相殺しきれませんわ!」
「ルーがうっかり寝ちゃったのもわかる気がするよ。もふもふ」
「ふふ、ごろごろするリリちゃん可愛いですわ!」
「? あそこにジッパーがあるね。開くのかな」
「ミィィー!?」(飛び起きるシマエナガさん)
『うわぁぁーー!?』(振り落とされるユーリ&アリャリァリャ)
「あっ、シマエナガさんが!?」
「ビックリさせちゃった?」
 リリエッタがジッパーを引っぱったことに反応したか、シマエナガさんが唐突にばたばた動き出す。
「暴れさせては周囲に被害が!」
「しっかり止めてあげないとね」
 瞬時に制圧に動いたのはミリムと和奈。
 韋駄天のごとく駆けた二人は――もふっ。
「ヨーシヨシヨシヨシヨシ。モーフモフモフモフモフ」
「キ、キグルミィ……?」
「ここが気持ち良い? ちゃんと君も喜んでくれたら嬉しいよ」
「ミ……ミィ♪」
 二人に的確にポイントを突かれ、うっとりするシマエナガ。
 完全に飼い慣らされている。
「パニックになってたのもすぐ忘れて、可愛いデスネ」
「走ってるところを簡単に止められてしまう弱さもいいですね」
 もふり倒されるシマエナガを眺めてるモヱと桔梗。
 が、ここで二人の心の内にイケない興味が湧いてしまう。
「……押せば転ぶ」
「ザイフリートさんがそう言ってましたね」
 しばらく静かになるモヱ&桔梗。
 やがててくてく歩きだし、シマエナガが手に触れる位置で止まる二人。
 結果。
「ミィィィ!?」
「あぁぁ! もふもふに巻き込まれていきますー!」
「毛並みに包まれながらゴロゴロ……癖になりそうデス」
「いけません。これはいけませんね」
 困惑するシマエナガと一緒に、ミリムとモヱと桔梗がモールの床を盛大にごろごろしていた。下側になるとずむんと確かな重さに圧されるのだが、それがまた気持ちよかった。
「何時間でも遊べそうデス……」
「このまま家に持って帰りたいかもしれません」
「それいいですね桔梗さん……って、和奈さんが前方に!」
 蕩けるモヱと桔梗と一緒にまったりしてたミリムが行く手を指す。
 そこには、仁王立ちする和奈さん。
「おいで」
「ミィィィ!?」
 ――ずむぅ。
 正面衝突した和奈とシマエナガ。
 受け止めた和奈はゆっくりと、押されて、押されて――。
 最終的にしっかりと、ずんぐりボディに潰されていました。
 だがシマエナガの下からはみ出てる彼女の手は、力強いサムズアップ。
「――アイルビー、moffu」
「ミィ?」
「もふ」
 うん、幸せそうで何よりですな。


 数十分後。
 サクッとシマエナガを屠った猟犬たちは後処理とかをやっていた。
「チャックの中……ワタなかっタ……」
「いったい中身は何だったんです? 気になります……」
 とぼとぼ歩くアリャリァリャを見下ろしつつ、辺りに巡らせておいたキープアウトテープを回収する桔梗。果たしてジッパーの中は何だったのか。
 一方。
「さぁ! どうぞもふもふしてくださいリリちゃん!」
「? よくわからないけど、していいならもふもふするね」
「あっ、私ももふもふします! リリちゃん! ルーさん!」
 ルーシィドとリリエッタとミリムの三人は、お互いに盛大にじゃれあうとかいう可愛さしかないシーンを繰り広げていた。
「リリちゃん、もふもふし足りないでしょうから!」
「あー確かにそうかもですね」
「ん、じゃあルーとミリムで補充するね」
『きゃーー!』
 歓迎する二人にすりすりっと寄ってくリリエッタ。
 とゆー幸せ成分補充の儀を執り行うのを横目に、モヱはすっきりした顔をしていた。
「ふぅ、もふもふ成分を補給できマシタ」
「ふわふわでしたねー」
 隣で満足げにしているのはユーリだ。
 が、その顔には一抹の寂しさも見えた。
「実はもふもふボディ、羨ましかったりします。鬼天竺鼠ってたわしって言われちゃう毛並みなんですよね」
「そうなのデスカ?」
「はい。私も、もふもふなでなでされてみたいです」
 そう言って、鬼天竺鼠に変身するユーリ。
 その毛並みは確かに『ふわもふ』とはいかなそうである。
「しかし、これも良いとは思いマス」
「――!?」
 そっとモヱに背中を撫でられて、びくりとしちゃうユーリだった。
 小さく響く鬼天竺鼠の鳴き声。
 それを遠く聞きながら、和奈はホクホク顔で帰路についていた。
「あのもふもふの感触と大きさ……本物のぬいぐるみで再現、できないかな。獅子宮の癒やしの獅子毛皮とかが参考になるかな」
 頭上のクウ君に語りかける和奈。
 彼女がその後、裁縫店に直行し、しばらくシマエナガ作成に没頭したのは言うまでもないですよね。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年5月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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