かつて賑わっていた大衆食堂。しかし閉店してしばらく放置されていた店内はテーブルやイスが倒れ、埃が降り積もっていた。そして厨房、そのまま残された調理器具も今は無造作に床に散乱している。厨房の奥にはすでに壊れて動かなくなった冷蔵庫が横倒しになっていた。
倒れた冷蔵庫に目を付けたのは、握りこぶし程の大きさの小型ダモクレスだった。機械で出来た蜘蛛の様なそれは、一目散に冷蔵庫へと入り込む。
小型ダモクレスは壊れた冷蔵庫に機械的なヒールを施すと、自らと融合していく。
生まれた冷蔵庫ダモクレス。一見ただの冷蔵庫と見た目は変わらないが、水かきの様なものが付いた足が生えている。
「コォォォォォォォ!」
ダモクレスが冷凍室の扉を開けると冷気が溢れ出し床が凍り付く。その上をペンギンの様な動きで移動を始めるダモクレス。
やがてダモクレスは店の扉を破壊すると、外を歩く通行人に襲い掛かるのだった。
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「閉店した大衆食堂で壊れて放置されていた冷蔵庫が、ダモクレスになってしまう事件が発生します」
「冷蔵庫ですか、私の予測通りですわね」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の説明を聞いていた彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)がうんうんと頷いていた。
「幸いにもまだ被害は出ていませんが、ダモクレスを放置すれば、多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまいます」
「その前に現場に向かって、ダモクレスを撃破すればいいのですわね? 私に任せて下さいませ」
紫はそう言うと、心配ないと微笑むのだった。
紫の様子に頼もしさを感じ、セリカは説明を続けた。
「このダモクレスは冷蔵庫に足の付いたロボットの様な姿です。攻撃方法も冷蔵庫に関係あるもので、主に氷や冷気を使用してきます」
「他に注意することはあります?」
「そうですね……。戦闘が長引くとダモクレスの放った冷気が室内に充満して、寒さで思う様に動けなくなる恐れがあります」
ダモクレスが外へ出るのを食い止めれば、一般人への被害が出る可能性は低くなるものの、冷気の影響を諸に受けるだろう。だからといって外で戦うというのも……。どちらにしても何かしらの対策を考えた方が良さそうである。
「厄介な相手ではありますが、人々を守るためにも、どうかよろしくお願いします」
参加者 | |
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彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306) |
ミミ・フリージア(たたかうひめさま・e34679) |
六星・蛍火(武装研究者・e36015) |
四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764) |
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「まさか私の危惧していたダモクレスが本当に現れるなんて驚きましたけど、被害が出る前に対処できるなら不幸中の幸いですわね」
大衆食堂へ向かって歩くケルベロスたち。その中の一人、彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)が呟いた。
今回の敵は大衆食堂に置き捨てられた冷蔵庫がダモクレス化したもの。店が存続していれば今なお現役だったであろう冷蔵庫も、店が閉店となればその役目を終えるしかなかった。処分されずに店内に放置された年月が冷蔵庫に無念を募らせ、そこへダモクレスが目を付けたのだ。
「食堂で働いていた働き者がダモクレスになってしまうとはのぅ」
ミミ・フリージア(たたかうひめさま・e34679)は「残念な事じゃ」と冷蔵庫に同情した。
「寒い環境か、まぁそろそろ暑くなってきている季節だから、少しくらい涼しいくらいが丁度良いわよね。寒すぎるのは勘弁だけど……」
「寒いのはちょっと苦手だけど、人々に被害が出そうな時にそんなことは言っていられないね」
六星・蛍火(武装研究者・e36015)と四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)はダモクレスの攻撃方法について話をしている。
大衆食堂の前に辿り着き、辺りを見回すケルベロスたち。この辺りは食堂やレストランが建ち並ぶ通りでお昼近くなのもあって、それなりの数の人が歩いていた。
「流石にこれだけの人が居たら、戦闘中に覗き込んでくる人も出てきそうね」
人通りの多さに蛍火は一般人への被害が出る心配をした。
「そんなこともあろうかと、用意しておいたよ」
司が懐から『キープアウトテープ』を取り出した。
「それなら大丈夫そうね。貼るの手伝うよ」
「お願いするよ」
司と蛍火が『キープアウトテープ』を貼るために動き出すのを見て、紫が通行人に声をかけた。
「今からここにダモクレスが現れますの。危険ですのでこれから貼るテープの内側に入らない様にお願いしますわ」
紫が説明し、通行人が下がったところに素早く『キープアウトテープ』を貼っていく。
「これで大丈夫だろう」
「では、突入しますわね」
人払いを終え、紫が大衆食堂の扉に手をかけ横にスライドする。扉がガラガラと音を立て開かれと、中から埃とカビと長年染みついた油の臭いが一斉に外へと飛び出してくる。それには4人も鼻と口元を手で押さえ、顔をしかめた。
店内に入ると、最後尾のミミが出入りを封じるために扉を閉めた。この臭いの中戦うと思うと気が滅入るが外へと被害を出さないためには仕方がない。
歩く度舞い上がる埃に嫌気が刺すが、ぐっと我慢し奥へと歩みを進める。
「コォォォォォォォ!」
やがて厨房の奥にいたダモクレスを発見する。ダモクレスは自身の扉を開け冷気を放出していた。
こちらへと気が付いたダモクレスが、凍った床をペンギンの様にヨチヨチと歩きながら向かってくる。
「ちょっと面白い動きもするようじゃが攻撃は危険じゃな。このままにはしておけぬし、ゆっくり休ませてやるからの」
その様子を眺めていたミミは、可愛らしい動きに惑わされて油断しない様告げると身構えた。
「さぁ、行くわよ月影。頼りにしているからね!」
蛍火がボクスドラゴンの月影に声をかけると、月影は手で鼻を押さえながらイヤイヤと首を横に振っていた。
「臭いだろうけど我慢して、お願いだから。ね?」
蛍火の頼みに、月影は諦めて戦闘態勢に入った。
「ダモクレス。あなたはここで止めますわ」
紫はゲシュタルトグレイブ『聖銀の騎士槍』を構えると、ダモクレスとの戦闘を開始した。
●
ダモクレスが進むのをじっと待つ。今仕掛けてしまうと狭い厨房内で戦う事になるからだ。ダモクレスの歩みに合わせてゆっくりと後退る。出入り口の側まで後退すると、仕掛ける機会を窺う。
もう少し。もう少し……今!
「神速の突きを、見切れますか?」
ダモクレスが食堂の中央付近まで進んだタイミングを見計らって、飛び出した紫。即座に距離を詰め稲妻を帯びた『聖銀の騎士槍』の一突きがダモクレスを捉える。
「寒いのはやめてほしいのぅ。まだ夏ではないからのぅ」
室温が下がり始めているのを感じ言葉を漏らしながらも、ミミはダモクレスへと一撃を浴びせる。そこへテレビウムの菜の花姫も手にした凶器で殴りかかった。
「ドローンの群れよ、仲間を警護しなさい!」
蛍火は守りを固めるため、ドローンの群れを操り前方へと配置する。その横で月影がダモクレスに向かってブレスを放射する。
ダモクレスが自身の扉を開けると、中から無数の氷が散弾銃の様に飛び出し司へと襲い掛かった。
「痛っ! 冷たっ! 氷には氷のお返しだよ」
氷を浴び服の中に入った氷を慌てて取り出す司。ダモクレスを睨みつけ反撃と、掌に力を込める。
「螺旋の力よ、敵を凍らせる力となれ!」
司の掌に氷結の螺旋が集まる。手を前に突き出すと同時、放たれた螺旋はダモクレスに襲い掛かり飲み込んでいく。
「投げ飛ばしてあげますわ!」
ダモクレスが螺旋に飲み込まれる中、紫が何もない所で投げ飛ばす動きをすると、突然ダモクレスが宙に浮き地面へと叩きつけられた。
その隙を逃さずミミはフェアリーブーツ『雪うさぎ』に籠めた星型のオーラをダモクレスに撃ち込んだ。
「警護の数をもっと増やすわね」
引き続き追加のドローンを操り守りを厚くする蛍火。
ダモクレスは冷凍庫の扉を開け、中から大量の冷気を辺りに放った。冷気は意志を持ったかのように紫たちに纏わりつく。一気に体温を奪われる感覚と共に体が凍り付いていく。攻撃の余波か店内の温度が下がっていくのを感じる。
「まだ平気だけど、大分冷えてきたね」
司が手にしたフェアリーレイピア『光の道標』を華麗に振りかざす。その動きで生まれた衝撃波が埃と冷気を巻き上げながらダモクレスを襲う。
巻き上げられたあまりの埃の多さに、口を押さえ咳込むケルベロスたち。足元を冷やす強い冷気も一緒に巻き上げられた事で、足への影響は減ったが室温は確実に下がっていた。
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戦いが始まってから室温は下がり続け、今では氷点下に達していた。吐く息は白く、寒さが容赦なく肌を刺す。
「うぅ。さ、寒い……」
防寒対策としてコートを羽織っていた司だが、それだけでは足りずに体を震わせている。その様子を見ていた紫が呟いた。
「これ以上冷えるのはまずいですわね」
「そうね。寒さのせいか眠く……」
ガタガタと震える月影を抱きしめ、呟きに答えた蛍火が瞼を閉じる。
「今寝てしまっては、死んでしまいますわ……というか、蛍火様はいつでも眠そうにしているではないですの?」
「そうなんだけど、こういうやり取り一度やってみたかったのよね」
紫と蛍火は『寒冷適応』の効果で多少寒さを感じる程度で済んでいた。まだ余裕のある2人は皆の寒さを紛らわせようと話を続けていた。
「こういう時はカロリーを摂取して体を温めればいいのじゃ」
ミミはそう言うと『かにかま』を取り出して食べようとする。しかしこの室温に『かにかま』はカチカチに凍っていて、とても食べられる状態ではなかった。
「ああ……わらわのソウルフードが……。何てことしてくれるのじゃ」
ミミがダモクレスへと怒りをぶつける。
その様子に苦笑しつつ蛍火が舞い踊り、降り注ぐ花びらのオーラが傷を癒す。
ダモクレスは更に冷気を放出すると司たちを包み込む。
「こんなことで負けるものか。さぁ、その冷気よりも強い、炎をあげるよ」
司の足が炎を纏い、蹴りと同時に激しい炎が巻き上がる。放たれた炎がダモクレスを包み込み、更に店内が僅かだが温められた。
「もっと積極的にこの攻撃をすれば良かったですわね」
「僕も今そう思ったところだよ」
店内が冷えるならば温めればいい。その事に今更気が付いて紫と司はため息を吐いたのだった。
「ここまできたのならば、もう倒してしまった方が早いですわ」
紫は稲妻を帯びた『聖銀の騎士槍』でもってダモクレスを貫く。
「そうじゃのぅ。早く終わらせて温まりたいのじゃ」
ミミが悴む手で弓を引く。放たれた矢は妖精の加護を宿しずれた照準を自動的に修正しダモクレスに突き刺さる。
ダモクレスは無数の氷を司へと飛ばす。攻撃態勢に移っていた司に襲い掛かる氷のつぶて。氷が届くより先ミミが身体を割り込ませると、一身に受ける。
「大丈夫? すぐに回復するからね」
「僕のこの剣技を、避けられるかな?」
蛍火がすぐさまミミに治療を施し、司は構えた『光の道標』を振り上げる。生まれた衝撃波は真っ直ぐダモクレスの元へ。
「自然の中に眠る精霊たちよ、我が声に応じ、敵を貫きなさい!」
詠唱により床から魔法で出来た樹が現れる。紫の合図と共に樹から蔦が飛び出しダモクレスを貫く。ダモクレスは蔦に貫かれた箇所から徐々に光の粒子となってやがて消滅した。
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「これで直に暖かくなるね」
ダモクレスの消滅を確認した蛍火は冷気を外に逃がすため、食堂の扉と窓を全開にした。
「修復するついでに、少し掃除もしておこう」
温度が元に戻ると、司はコートを脱いでそう提案した。
「そうですわね。いくら使われていないとはいえ、これではあんまりですわ」
最初に扉を開けた時に感じた臭いを思い出し、紫が頷いた。
紫と司が壊れた個所の修復を行い、その間に蛍火とミミが掃除を行う。全てを終え『キープアウトテープ』を剥がせば任務は完了だ。
最後にテーブルとイスを並べ直せば、まるで営業していた当時の状態に戻ったようだ。
「この食堂では何がおすすめじゃったのかのぅ。どんな店か気になるのじゃが、閉店してしまっているのは残念じゃ。また新しいお店ができるといいのぅ」
いくら元通りとはいえ活気まで戻るわけではない。ミミはその事に寂しさを覚えつつも、ここを新たに使ってくれる人が現れる事を願った。
「きっとまた活気あふれるお店になりますわ」
「こんないい場所にあるんだしね」
「繁盛間違いなしだね」
「そうだといいのぅ」
店の外へと出て扉を閉める。店を眺めいつか賑わう様子を思い浮かべると、ケルベロスたちはその場を後にした。
作者:神無月シュン |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年4月30日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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