ラジコンカーは動かない!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 公園の茂みの中にあったのは、新品同然のラジコンカーであった。
 このラジコンカーは途中で操作不能になり、茂みの中に突っ込んだまま、見つからなかったモノだった。
 だが、ラジコンカー自身は、持ち主に捨てられてしまったのだと、勝手に思い込んでいた。
 そのため、『ボクを見つけて!』『早く探して!』『ボクはココだよ!』と心の底から訴え続けた。
 しかし、その思いに答えたのは、ラジコンカーの持ち主ではなく、小型の蜘蛛型ダモクレスであった。
 小型の蜘蛛型ダモクレスは、ラジコンカーに近づき、機械的なヒールを掛けた。
「ラ・ジ・コ・ン・カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したラジコンカーが、耳障りな機械音を響かせ、茂みの中から飛び出すのであった。

●セリカからの依頼
「七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)さんが危惧していた通り、都内某所にある公園で、ダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある公園。
 この公園の茂みにあったラジコンカーが、ダモクレスと化してしまったようである。
「ダモクレスと化したのは、ラジコンカーです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスと化したラジコンは、禍々しく変化しており、ケルベロス達を敵として認識しているようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
アリア・ハーティレイヴ(武と術を学ぶ竜人・e01659)
七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)

■リプレイ

●都内某所
「まさか、私の危惧していたダモクレスが本当に出て来るとは……。これも何かの縁でしょうし、ダモクレスが暴れて、誰かを傷つけてしまう前に、被害を食い止める事にしましょうか」
 七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認された公園に向かっていた。
 公園には沢山の親御連れがおり、あちこちから笑い声が聞こえていた。
 おそらく、この場所にダモクレスが現れるとは、夢にも思っていないのだろう。
 みんな完全に油断しており、ダモクレスが現れるような事があれば、成す術もなく命を落とす事は確実だった。
 だが、何の事情も知らない状況で、それを察しろという事自体、無理な話であった。
「さすがに、このまま放っておくと、大惨事だな」
 その事に危機感を覚えた柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)が、詳しい事情を説明した上で一般人達を公園の外まで誘導した。
 一般人達の中には、鬼太郎の話を聞いても、半信半疑の者もいたが、自分達の身に危険が迫っている事を知りながら、逃げずに反論する者はいなかった。
「……これで誰かが間違って入ってくることもありませんね」
 すぐさま、綴がキープアウトテープを貼り、公園の敷地内に一般人達が立ち入らないようにした。
「それにしても、まさかラジコンカーがダモクレスと化すなんて……。私はあまりラジコンで遊ばないけど、熱中する人が居るという事は、魅力がある物なのかしら?」
 静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)が不思議そうに首を傾げながら、事前に配られた資料に目を通した。
 資料を読む限り、ダモクレスと化すのは、一般的に普及しているラジコンカー。
 それほど値段も高くないため、途中で探す事を諦めてしまったのだろう。
 その事実を知らぬまま、ラジコンカーは持ち主を待ち続けた。
 小型の蜘蛛型ダモクレスを呼び寄せるほどの思いを、残留思念に変えて辺りに漂わせ……。
 故に、自分が捨てられたとは、夢にも思っていなかったようである。
「ラ・ジ・コ・ン・カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したラジコンカーが、勢いよく茂みの中から飛び出した。
 ラジコンカーはダモクレスと化した事で、禍々しい姿になっており、ケルベロス達に対して、鋭い殺意を向けていた。
 おそらく、ダモクレスと化した事で、ラジコンカーの思いが歪められ、すべての原因がケルベロス達にあるのだと思い込まされているのだろう。
 実際には存在していない記憶が作り出され、その記憶が本物であると思い込まされているようだった。
「これは……凄まじい殺気だね」
 アリア・ハーティレイヴ(武と術を学ぶ竜人・e01659)が、警戒した様子で間合いを取った。
「ラ・ジ・コ・ン・カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 それと同時にダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、超強力なビームを放ってきた。
 そのビームは芝生を焼き、炎に包みながら、まっすぐケルベロス達に迫ってきた。
「雪の属性よ、仲間を護る盾を作りなさい!」
 すぐさま、依鈴がエナジープロテクションを発動させ、雪属性の盾を形成した。
 次の瞬間、ダモクレスの放ったビームが雪属性の盾に直撃し、行き場を失った大量のエネルギーが辺りに散った。
 それはまるで小さな星のようであったが、地面に落ちると芝生を焼いた。
「ラ・ジ・コ・ォォォォォォォォォォォォォォォン!」
 それを目の当たりにしたダモクレスが、再び自らの怒りをエネルギーに変換し、ビームを放つためにチャージを始めた。
(「完全に俺達を敵だと思い込んでいるようだな。……たくっ! 面倒な事をしやがって。この状況で説得は無理か。そもそも、言葉が通じねえ。……となると、やっぱり……やるしかねえか」)
 鬼太郎が覚悟を決めた様子で、メタリックバーストを発動させた。
 それと同時に、全身の装甲から光輝くオウガ粒子が放出され、傍にいたアリアの超感覚を覚醒させた。
 その間、ウイングキャットの虎が、キャットリングを飛ばしつつ、ダモクレスを牽制した。
「ラ、ラ、ラ、ラ・ジ・コォォォォォォォォォォォォォン!」
 その攻撃を鬱陶しそうにしながら、ダモクレスがビームを放つタイミングを窺った。
 しかし、虎が邪魔をするため、なかなかビームを放つ事が出来ないようだった。
「とりあえず、ビームの発射口を破壊しておこうか。このまま何度も撃たれると、被害もシャレにならないしね」
 その隙をつくようにして、アリアがペトリフィケイションを発動させ、古代語の詠唱と共に魔法の光線を放ち、ビームの発射口を石化させた。
「ラ・ジ・コォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
 その一撃を食らったダモクレスがブチ切れ、ビームを放とうとしたものの、ボンと音を立てて暴発し、大量のオイルが飛び散り、真っ黒な煙が上がった。
「私でも、やれば出来るのです!」
 そこに追い打ちを掛けるようにして、綴が大器晩成撃を仕掛け、将来性を感じる一撃をダモクレスに叩きつけた。
「ラ・ジ・コォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
 次の瞬間、ダモクレスが真っ黒な煙を上げながら、超高速でクルクルと回転し始めた。
 その影響で立ち上っていた煙が消え、辺りに焦げたニオイが漂った。
「……たくっ! 面倒かけやがって!」
 すぐさま、鬼太郎が戦術超鋼拳で拳を地面に叩きつけ、籠手に変化させているオウガメタルを変形させ、ダモクレスの進路を変えて転倒させた。
「ラ、ラ、ラ、ラジィィィィィィィィィィィィィ!」
 その途端、ダモクレスが転倒したまま、クルクルと回転し、コマのようになった。
 だが、元に戻る事が出来ず、狙いを定める事も出来なかった。
 そのため、ダモクレスは高速回転しながら、公園にあるモノを次々と壊していった。
「光の蝶よ、第六感を覚醒させてあげてね!」
 依鈴がヒーリングパピヨンを発動させ、パズルから現れた光の蝶を使って、アリアの第六感を呼び覚ました。
「さて……、そろそろ倒してしまおうか。ダモクレスが反撃してくる前に……」
 続いて、アリアがサークリットチェインを発動させ、地面にケルベロスチェインを展開し、綴を守護する魔法陣を描いた。
「ラ、ラ、ラ、ラ、ラァァァァァァ!」
 それと同時に、ダモクレスがクルクルと回転しながら、ケルベロス達に襲いかかろうとした。
 しかし、狙いが定まらない。
 ケルベロスが何処にいるのか分からない。
 何とかケルベロス達の居場所を絞り込もうとしているが、特定する事が出来ぬまま、回転速度を増していた。
 それが地面を削り、土煙を上げながら、少しずつではあるが、ジリジリと距離を縮めてきた。
「電光石火の蹴りを、見切れますか?」
 それを迎え撃つようにして、綴が旋刃脚を仕掛け、ダモクレスを蹴り飛ばした。
「ラ・ジ・コォォォォォォォォォォォン!」
 その拍子に、ダモクレスの身体が宙を舞い、ゾウの滑り台にブチ当たった。
 次の瞬間、ゾウの滑り台が砕け散り、大量の破片が飛び散った。
「カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 だが、ダモクレスの勢いは止まらない。
 その屈辱をエネルギーに変換し、無数のミサイルを発射した。
 だが、傾いた状態まま飛ばしたミサイルが、ケルベロス達に当たる訳もなく、そのうちのいくつかがダモクレス自身に命中した。
「ラァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その勢いを利用して、ダモクレスが上手く着地をすると、ケルベロス達を威嚇するようにして機械音を響かせた。
「まさか、その状態で戦うつもりなのか? ……もう諦めろ。いくら足掻いたところで、苦しむだけだ。そんな事……、お前だって望んではいないだろ? だから、ここで終わりにしよう」
 鬼太郎が悲しげな表情をうかべ、ダモクレスに語り掛けた。
 既に、ダモクレスは、ボロボロ。
 そのため、動く事さえ、奇跡と思えるレベルであった。
「ラ・ジ・コォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
 それでも、ダモクレスは、諦めていなかった。
 ……まだ行ける。
 まだ、やれる……!
 だから、逃げない。
 ……絶対に!
 そんな気持ちが伝わってくるほど、ダモクレスは必死であった。
 この様子では、ダモクレス自身も、どうしてそこまでする必要があるのか、理解する事が出来なくなっているのだろう。
 限界なく膨らんでいく怒りを、ケルベロス達にぶつける事しか、考えていないように思えた。
「ラァァァァァァァァァァァジコォォォォォォォォォン!」
 そのため、身体のあちこちが悲鳴を上げ、装甲が弾け飛んでも、ダモクレスの考えが変わる事はなかった。
 ある意味、最後の悪あがき。
 例え、自分の身が滅びたとしても、ケルベロスさえ倒せばいいと思っているようだった。
「……捨て身の特攻という訳か。でも、残念だったね。ここから先には進ませないよ!」
 即座に、アリアが猟犬縛鎖を発動させ、精神操作で鎖を伸ばし、ダモクレスを締め上げた。
「ラ、ラ、ラ、ラ、ラァァァァァァァァァァァァ!」
 それでも、ダモクレスは抵抗し、ケルベロス達に迫っていこうとした。
 だが、既に限界。
 身体のあちこちから火花が散り、爆発音と共に、真っ黒な煙が上がっていった。
「身体を巡る気よ、私の掌に集まり敵を吹き飛ばしなさい」
 次の瞬間、綴が練気掌波(レンキショウハ)を発動させ、自身の気功を両手の掌に集中させ、ダモクレスに掌を向け、気を解き放った。
「ラ・ジ・コ・ンカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その一撃を食らったダモクレスが、断末魔にも似た機械音を響かせ、大爆発を起こしてガラクタの山と化した。
「何だか可哀想ね。小型の蜘蛛型ダモクレスに利用されて、こんな事になってしまったのだから……」
 そう言って依鈴が複雑な気持ちになりつつ、ダモクレスだったモノに視線を落とすのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月29日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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