電気カーペットは蠢かない!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 出火現場にあったのは、電気カーペットの一部であった。
 この電気カーペットは以前から重大な欠陥が確認されており、長時間の使用で設定温度を超える発熱、発火、爆発などが問題視されていたようである。
 しかし、出火現場となった家に住んでいた住民は、全く問題視しておらず、炎と煙に巻き込まれて命を落としてしまったらしい。
 それでも、電気カーペットの一部は、諦めていなかった。
 発熱したのは、たまたま。
 運が悪かっただけ。
 次の機会があれば、必ず皆を暖める事が出来る。
 だから、お願い。
 もう一度チャンスを……!
 二度と失敗する事が無いから、もう一度だけチャンスを!
 そんな残留思念に引き寄せられたのは、小型の蜘蛛型ダモクレスであった。
 小型の蜘蛛型ダモクレスは、電気カーペットの一部に、機械的なヒールを掛けた。
「電気カーペットォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した電気カーペットが、産声にも似た機械音を響かせ、発熱しながら街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)さんが危惧していた通り、都内某所にある民家跡で、ダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある民家跡。
 この場所は電気カーペットが原因で出火し、全焼してしまったらしい。
「ダモクレスと化したのは、電気カーペットです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスと化した電気カーペットは、機械化した一反木綿のような姿をしており、ムカデのような脚でカサカサと地面を移動するようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
青凪・六花(暖かい氷の心・e83746)
四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●都内某所
「まさか、私が危惧していたダモクレスが本当に出てくるなんて……。少し驚いたけど、動き出す前に倒す事が出来そうね」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認された民家跡にやってきた。
 その場所は、出火当時のままになっており、焼け残った家具などが、そのまま放置されていた。
 どうやら、家の持ち主が亡くなった事で、誰が撤去費用を支払うかでモメており、結論が出ないまま時間だけが過ぎているようである。
 そのため、誰かが勝手に立ち入らないようにするため、家を囲むようにしてロープが張られていた。
「電気カーペットは快適でありがたいものだけど、それが故障しちゃうと火事の原因にもなるんだよね。それだけ扱いには気を付けないといけないって事かも知れないけど……」
 青凪・六花(暖かい氷の心・e83746)が複雑な気持ちになりつつ、事前に配られた資料に目を通した。
 どうやら、問題になった電気カーペットは、他の場所でもトラブルを起こしていたらしく、メーカー側が回収をしていたモノらしい。
 だが、家の持ち主がまったく気にしておらず、メーカー側に送り返す事なく、使い続けていたようである。
 その事が災いして、家が炎に包まれてしまったものの、家の持ち主が亡くなってしまった以上、その選択を後悔したかどうかは分からぬままだ。
「今の季節にはあまり使わないですけど、冬の季節にはありがたい物なんですけどね。でも、それが故障や事故を起こすと確かに危ないですよね」
 綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)が、民家跡に視線を落とした。
 どれも焼けてしまって原型を留めておらず、ドロドロに溶けて混ざり合っているため、元の形が分からないモノばかりであった。
 ここから問題の電気カーペットを探すのは、かなり難しいように思えた。
 しかし、その事を心配する必要は、あっという間になくなった。
「デ・ン・キ・カ・ー・ペットォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 耳障りで奇妙な機械音と共に、焼け落ちた頭を弾き飛ばして、ダモクレスと化した電気カーペットが姿を現した。
 ダモクレスは機械で出来たムカデのような姿をしており、無数のアームを脚の如く使っていた。
 それは一見すると不便そうに見えたものの、文字通り手足のように使っているため、まったく支障がないようだ。
「それが、もう一度チャンスを掴んだキミの姿かい? それじゃ、電気カーペット本来の力を発揮する事が出来ないと思うけど……。そこまでして掴みたかったチャンスだったのかな? それなら、余計に哀れだね。僕も何か協力する事が出来たらよかったんだけど……。そうなってしまった以上は、撃破するしかないね」
 そんな中、四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)がキープアウトテープを貼り終え、ダモクレスの前に立った。
「デ・ン・キ・カー・ペットォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 それと同時に、ダモクレスが燃え上がりそうな勢いで身体を発熱させ、ケルベロス達を狙うようにして超高温の炎を発射した。
 その炎がまわりにあったモノをドロドロに溶かして、別のモノに形を変えながら、ケルベロス達に迫ってきた。
 それはまるで電気カーペットの怒りと悔しさと悲しみと絶望が具現化したような炎であった。
 それが入り混じって燃え上がり、超高温の炎を生み出しているような印象を受けた。
「雪の属性の盾よ、仲間を護りなさい!」
 すぐさま、玲奈がエナジープロテクションを発動させ、雪属性の盾を形成すると、ダモクレスが放った炎を防いだ。
 だが、ダモクレスの炎は、高熱。
 あまりの熱さに雪属性の盾がドロドロに溶け、地面に落ちた汗がジュッと音を立てて蒸発し、危うく玲奈を飲み込みそうな勢いで広がった。
 それでも屈する事なく、鋼の意思で立ち向かい、何とかダモクレスの炎を消し去った。
「デ・ン・キィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それを目の当たりにした電気カーペットが、怒り狂った様子で再び炎を発射した。
 その炎は先程と比べて大きく、まわりのモノを飲み込むようにしながら、ドロドロに溶かして醜く歪んだ形に変えていった。
「どんなに強力な炎であっても、これで凍結してあげるわ」
 すぐさま、六花が氷の吐息を吐き掛け、ダモクレスが発射した炎を凍りつかせようとした。
「デンキィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それでも、ダモクレスはまったく怯まず、咆哮にも似た機械音を響かせながら、さらに炎の勢いを増していった。
 その影響でダモクレスの身体が悲鳴を上げていたが、まったく気にしている様子がなかった。
 それどころか、自分の身体をあえて痛めつけ、限界を超えて炎を発射しようとしているような感じであった。
「雷鳴の蒼螺子よ、皆を護る盾を形成しなさい!」
 そんな空気を察したリサが、エナジープロテクションを発動させ、ダモクレスが放った炎を防いだ。
 その拍子に大量の火の粉が飛び散り、辺りに落ちていたゴミを炎に包んで消し炭に変えた。
「デ・ン・キィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 しかし、ダモクレスは諦めておらず、再び炎を発射するため、エネルギーをチャージし始めた。
 その気持ちに反して、なかなかエネルギーが溜まらなかった。
 それは連続して炎を発射した事が原因。
 炎を無尽蔵に発射する事が出来ると、ダモクレスが勝手に思い込んでいた事が、災いした結果であった。
「その様子じゃ、僕がいる事を忘れていたようだね。まあ、いまさら気づいたところで、何もできないと思うけれど……」
 その間に、司がダモクレスの死角に回り込み、スターゲイザーを炸裂させた。
「カァァァァァァァァアア・ペットォォォォォォォォォ!」
 予想外の一撃を食らったダモクレスは、バランスを崩して、ブロック塀に激突した。
「デ・ン・キィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 だが、ダモクレスは怯まなかった。
 すぐさま、無数のアームをワシャワシャさせ、ケルベロス達に掴みかかる勢いで、一気に距離を縮めてきた。
「竜砲弾よ、敵の動きを止めてしまいなさい!」
 それを迎え撃つようにして、玲奈が轟竜砲でハンマーを砲撃形態に変形させ、ダモクレスに竜砲弾を撃ち込んだ。
「カ、カ、カ、カ、ァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 しかし、ダモクレスの勢いは止まらない。
 竜砲弾を食らって醜く身体が歪んでも、まったく気にせず迫ってきた。
「このハンマーの一撃を……食らえー!」
 その事に危機感を覚えた六花も轟竜砲を仕掛け、ダモクレスに竜砲弾をブチ当てた。
「カァァァァァァァァァァァァァペットォォォォォォォォォ!」
 それでも、ダモクレスが怯む事なく、無数のアームをワシャワシャさせながら、ケルベロス達に迫ってきた。
「随分と諦めが悪いようだね。だったら、この炎で焼き尽くしてあげるよ!」
 即座に、司がグラインドファイアを使い、ダモクレスの身体を炎に包んだ。
「カァァァァァァァァァァァペットォォォォォォォォォォ!」
 だが、ダモクレスは全身炎に包まれながら、無数のアームをワシャワシャさせ、司に覆いかぶさる勢いで迫ってきた。
 次の瞬間、身体の方が悲鳴を上げ、ボンという音と共に真っ黒な煙を上げた。
「ギ・ギ・ギ・ギ・ギィガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その現実を受け入れる事が出来なかったのか、ダモクレスがケモノの叫び声にも似た機械音を響かせ、無数のミサイルを解き放った。
 そのミサイルはまったく狙いが定まっておらず、めちゃくちゃな方向に飛んでいき、ケルベロスとは関係ないモノを、次々と破壊していった。
 それと同時に、大量の破片が雨となって降り注ぎ、ケルベロス達の身体を傷つけた。
「最後の悪あがきと言ったところのようですね」
 そんな中、玲奈がボクスドラゴンのネオンと連携を取りつつ、ダモクレスの死角に回り込み、スターゲイザーを炸裂させた。
 それに合わせて、ネオンが属性インストールを使い、自らの属性を玲奈に注ぎ込んだ。
「カ、カ、カァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、怒り狂った様子でミサイルを装填し、発射の準備を整えた。
「この地に眠る霊達よ、皆を癒す力を分け与えなさい!」
 その間に、リサがゴーストヒールを発動させ、この地に眠る霊達の力を借り、仲間達の傷を癒していった。
「デンキィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、ミサイルを発射しようとした。
 その気持ちに反してミサイルは発射される事なく暴発し、悲鳴にも似た爆発音とともに、真っ黒な煙を上げた。
「我が声に従い、現れよ! 三つの属性の水晶体よ、敵を取り囲み、魔法を放て!」
 その隙をつくようにして、六花がトライアングル・マジックを発動させ、火属性、氷属性、雷属性の三つの水晶体を召喚した。
 それがダモクレスを囲むようにして動き、水晶体から同時に三属性の魔法が放たれた。
「カ、カ、カー・ペットォォォォォォォォォォォォ!」
 それと同時に、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、真っ黒な煙を上げて、大量のオイルを垂れ流した。
「デ・ン・キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 しかし、ダモクレスはまったく諦めておらず、ケルベロス達を巻き込んで、自爆しそうな勢いでエネルギーのチャージをし始めた。
 その反動で身体のあちこちが吹き飛び、真っ黒な煙が上がっていった。
「カァァァァァァァァァァァァァペットォォォォォォ!」
 それでも、炎だけは発射しようとしていたが、とっくの昔に限界を迎えた体が耐えられる訳もなく、爆発四散して完全に機能を停止させた。
「……なんだか可哀想ね。本当なら、こんな事……望んでいなかったはずなのに……」
 リサが複雑な気持ちになりながら、ダモクレスだったモノに視線を落とした。
 おそらく、ダモクレス自身も、どうしてここまでして、ケルベロス達を倒す必要があったのか、まったく理解していない事だろう。
 その事を理解する事なく、利用されていた可能性が高かった。
「それでも、ダモクレスと化した以上、撃破するしかないからね。その前に気付く事が出来たら、もっと別の方法があったのかも知れないけど……」
 司も同じような気持ちになりながら、ダモクレスとの戦いで壊れたモノを、ヒールで修復していった。
 そしてケルベロス達は次の戦いに備えるため、その場を後にするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月27日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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