チャイルド・アット・ハート

作者:土師三良

●宿縁のビジョン
「まさか、午前中に完売していたとは……評判を甘く見ていましたね」
 がっくりと肩を落として、オウガの青年が海辺の町の裏通りを歩いていた。
 パン職人にしてケルベロスである武蔵野・大和(大魔神・e50884)だ。
 知る人ぞ知るという隠れ家的なパン屋に行った帰り道なのだが、その手に商品は一つもない。お目当てのメロンパンは売り切れていたのだ。実は知る人ぞ知るではなく、知らぬ者などいない人気店だったらしい。
「おじさんもメロンパンを買い逃したクチ? 残念だったねえ」
「え?」
 愛らしい声を背後からかけられ、大和は振り返った。
 そこにいたのは、熊のぬいぐるみを抱いた男児。声がそうであるように容貌も愛らしい。鹿を思わせる角と耳を有しているので、獣人型のウェアライダーに見える。
 だが、『見える』だけだ。
 大和には判った。
 その男児がウェアライダーではないことを。
 デウスエクスであることを。
「オイオイ、こりありあヨォ。『オジサン』呼バワリハ失礼ダロウガ」
 と、熊が男児に注意した。もちろん、ぬいぐるみが喋るはずがない。『コリアリア』と呼ばれた男児の腹話術であろう。
「コイツハマダ『オニイサン』ノらいんニ留マッテルト思ウゼ。ぎりぎりダケドナ」
「そうかな? まあ、どっちでもいいじゃない」
「マアナ。『オジサン』ダロウト『オニイサン』ダロウト、俺タチノ獲物トシテハ歳ヲ食イスギダ。ヤッパ、がきんちょカラ奪ウぐらびてぃ・ちぇいんヨリ美味イモノハネエワ。ゲシシシシ!」
 口を動かさずに下卑た笑い声を発するコリアリア。
 その声に合わせるかのように熊が右手を振った(からくり仕掛けか念動力の類であろう)。
 包丁を持った右手を。
「そうだね、マヤリス。グラビティ・チェインは子供から奪うのが一番だ」
 コリアリアは熊の声で笑うのをやめて、自分の役に戻った。熊の名は『マヤリス』というらしい。
「だけど、ここ最近、ぼくたち死神は極悪非道なケルベロスどもに圧されっぱなしだろ? 獲物を選んでる余裕なんかないんだよ」
「フム。めろんぱんガ売リ切レテルカラ、あんぱんデ妥協スル……ミタイナ感ジカ?」
「そういうこと。と、いうわけで――」
 コリアリアは大和に向かって、にっこりと微笑みかけた。
 とても無邪気な笑顔に見える。
 だが、『見える』だけだ。
「――アンパンのお兄さん、ぼくのグラビティ・チェインになってよ」
「お断りします」
 大和は即答し、身構えた。
「言っておきますが、僕はアンパンほど甘くないですよ」

●音々子かく語りき
「大分市に死神が出現しやがるんですよー!」
 と、ヘリポートに緊急招集されたケルベロスたちに予知を告げたのはヘリオライダーの根占・音々子。
「現地をたまたま訪れていた武蔵野・大和くんがその死神の標的にされるんです。大和くんにそれを警告しようとしたのですが、連絡が繋がりませーん。でも、今すぐにヘリオンで飛び立てば、最悪の事態は避けられると思います」
 そう言いながら、小走りでヘリオンに向かう音々子。
 当然、ケルベロスたちも後に続いた。
「件の死神は『コリアリア』という名前でして、鹿っぽい人型ウェアライダーのような可愛らしい男の子の姿をしています」
 足を止めることなく、音々子は敵について語り始めた。
「でも、可愛らしいのは見た目だけですよ。本人と相棒の口振りからすると、子供ばかりを狙う凶悪な死神のようですね。あ? 相棒というのは、コリアリアが持ってる熊のぬいぐるみのことですよー。名前は『マヤリス』だそうです」
 マヤリスはコリアリアとはまた別の死神……というわけではなく、コリアリアが腹話術で演じている架空の友人に過ぎないらしい。あるいはコリアリアとしての言動のほうが演技であり、マヤリスの人格こそが本来のものなのかもしれないが。
「では、行きましょう!」
 ヘリオンの前に到着すると、音々子は皆を振り返り、改めて宣言した。
「可愛いお子ちゃまの皮を被った邪悪な死神をやっつけに!」


参加者
モモ・ライジング(神薙桃龍・e01721)
紺崎・英賀(自称普通のケルベロス・e29007)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
武蔵野・大和(大魔神・e50884)
犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)
 

■リプレイ

●武蔵野・大和(大魔神・e50884)
「言っておきますが、僕はアンパンほど甘くないですよ」
 僕は身構えました。いつでも相手に攻撃できるように、あるいは相手の攻撃を躱せるように。
『相手』とは、熊のぬいぐるみを抱いた小さな男の子です。一見、無害。しかし、その正体は死神です。やれやれ。お目当てのメロンパンを買い逃した挙げ句、こんな輩に襲われるとは……散々な一日ですね。
 まあ、散々なままで終わらせるつもりはありませんけど。
「ゲシシシシ!」
 死神の腕の中で熊のぬいぐるみが笑い声をあげました。いえ、実際に笑っているのは熊ではなく、死神のほうなのでしょうが。
「甘カロウガ、辛カロウガ、同ジコトダ。オマエハココデ死ヌンダヨォ」
「だよねー」
 にこやかに笑いながら、死神が熊に同意を示しました。お寒い一人芝居です。
「たった一人で、ぼくとマヤリスに勝てるわけないもん」
「それはこっちの台詞なんだけど?」
 静かな声が空から聞こえてきました。
 見上げるまでもありません。なにが起きたのかは判っています。同じようなシチュエーションを四回も体験しているので。
「たった一人とぬいぐるみ一体で私たちに勝てるわけないでしょ」
 声の主である軍服姿の女性が僕と死神の間に着地しました。
 同業者のモモさんです。念のために言っておくと、同業というのはパン職人じゃなくて、ケルベロスのほうですよ。
 彼女に続いて、四人のケルベロスと三体のサーヴァントが次々と着地しました。あっという間に形勢逆転。
「助太刀させてもらうぜ」
 鎧武者の偉丈夫が声をかけてきました。彼は鬼太郎さん。僕と同じく惑星プラブータの生まれです。
「ありがとうございます」
「この死神は――」
 敵を威嚇するかのように拳を振り下ろしたのは志保さんです。
「――子供ばかりを狙う悪趣味な輩だと聞きました」
 その動きに合わせて重々しい金属音がしたのは、彼女の拳がバトルガントレットに包まれているから。オラトリオである所有者と同様に双翼を有したガントレットです。片方はオラトリオの翼で、もう片方はドラゴニアンの翼。
「少しお灸をすえる必要がありますね」
「オキュー?」
「ゲシシシシ!」
 死神がわざとらくしく首をかしげて復唱し、その後で熊がまた笑いました(腹話術なので、同時に声を出すことはできないのでしょう)。
「子供バッカリ狙ウノガ悪趣味ダトイウノナラ、オマエラモ悪趣味ジャネエカヨ。子供デアルこりありあヲ今マサニ狙ッテルワケダシ」
「うーん……君を子供の範疇に入れていいのかな?」
 灰色の髪の青年――英賀さんが呟きました。死神と同じ角度かつ逆方向に首をかしげていますが、わざとらしくは見えません。
「デウスエクスとドワーフの見かけの年齢は当てにならないからなあ……」
「ドワーフなんかと一緒にしないでよ。ぼくは正真正銘の子供だってばー」
 死神が膨れっ面をしてみせました。
 やっぱり、わざとらしいです。

●モモ・ライジング(神薙桃龍・e01721)
「オキューとかいうのがなんなのかは知らないけど、いたいけない子供をよってたかってイジめようとしている君たちこそ――」
「――オ灸ヲ据エラレルベキジャネーノ!」
 自称『いたいけない子供』の後を熊が引き取り(というか、腹話術による一人二役なんだけど)、こちらに突進してきた(というか、熊を抱いてる死神自身が突進してきたんだけど)。
 熊(を抱いた死神)は武蔵野さんの懐に飛び込み、手に持ったナイフで脇腹を抉り抜いて、またもや『ゲシシシシ!』と哄笑し……というような展開を繰り広げるつもりだったのでしょうね。
 でも、武蔵野さんの懐へと飛び込む段階で変更を余儀なくされた。
 柴田さんが行く手を防ぎ、自らの体を盾にしたから。
 熊のナイフに甲冑を刺し貫かれたというのに苦鳴一つあげることなく、柴田さんは死神にタックルを仕掛けた。ただのタックルではなく、甲冑騎士の組み付き。
 死神は素早く横っ飛びして、それを回避した。
 でも、銃弾までは回避できなかった。
 その銃弾を発射したのは私よ。柴田さんにタイミングを合わせて、愛用のリボルバー銃『竜の爪牙』でクイックドロウを決めたの。
 肩を撃ち抜かれ、死神はよろめいた(ちなみに銃弾が傷つけたのは肩だけじゃない。軌道上にあったナイフの刀身を傷つけて攻撃力を低下させた)。
 すかさず、犬飼さんが翼付きのガントレットを突き出した。
「冷たいお灸というのも新鮮かもよ」
 鋼の拳から放たれたのは時空凍結弾。確かに冷たそう。
 武蔵野さんも攻撃を仕掛けた。前方宙返りからの旋刃脚。
「ナンダヨ、ソノ無駄ニ派手ナ蹴リハ?」
 直線の軌跡を描いて飛んだ凍結弾と曲線の軌跡から繰り出された蹴りを続けざまに食らいながらも、死神は(熊を通して)減らず口を叩いてみせた。
「ソコマデシテ目立チタイノカ」
「べつに目立ちたいとかそういうのじゃなくて――」
 死神から反撃を受ける前に素早く後退する武蔵野さん。
「――大切な仕事道具である手を傷つけないよう、足技を主体にしているだけですよ」
「仕事道具って?」
 と、紺崎さんが聞き返した。
「僕、パン屋なんです」
「そうなんだ。今度、食べに行こうかな……」
 武蔵野さんと言葉を交わしつつ、紺崎さんは無造作とも思える所作で螺旋手裏剣を投擲した。
 死神は紙一重で回避……したけれど、最初の時と同じように別の人たちの攻撃まで回避できなかった。いえ、人じゃなくてサーヴァントなんだけどね。ウイングキャットのソラマルが輪っかを飛ばし、オルトロスのイヌマルが神器の剣で斬りつけたの。
「バァーカ! オマエラニ『今度』ナンカネエンダヨ!」
 これまたさっきと同じように、死神はダメージをものともせずに減らず口を叩いた。
「ココデ死ヌンダカラナ!」

●紺崎・英賀(自称普通のケルベロス・e29007)
「調子に乗ってるんじゃないわよ!」
 志保さんが死神を怒鳴りつけた。見かけによらず、おっかない。
 でも、死神のほうはおっかないとは思ってないらしい。無邪気(に見えるけど、本当は邪気たっぷり)な笑みを浮かべて、指鉄砲を突きつけてきた。
「ぱーん♪」
 死神が可愛くも憎らしい声で叫ぶと、クラッカーを思わせる炸裂音が連続して響き、こちらの前衛陣の体のそこかしこから血飛沫が上がった。
「にゃーん!」
 対抗するかのように可愛く鳴いたのは、武将のごとき格好をした『虎』という名のウイングキャット。清浄の翼をはためかせて、前衛陣の傷を癒した。もっとも、前衛は三人プラス三体もいるので、効果はちょっと減衰しているみたいだけど。
「遊び気分で殺し合いに興じていると――」
 虎の主人である鬼太郎さんが鬼神角を伸ばした。
「――痛い目を見るぞ」
「確かにこれはイタい! イタいよぉーっ! うえーん!」
 角に抉られ、死神は泣き叫んだ。まあ、本気で泣いてるわけじゃないんだろうけど。熊の声で『大丈夫カ、こりありあ? ソーレ、痛イノ痛ノ飛ンデケー』とか励ましてるし。随分と余裕があるというか……挑発しているつもりなのかな? だとしたら、大成功だね。僕はさておき、他の人たちはちょっとイラっとしてるみたいだから。
 いや、志保さんは『ちょっと』なんてレベルじゃないかな。
「調子に乗るなと言ったはずよ」
 怒声とともに放った跳び回し蹴りが死神の顔面に命中。ブレイズキャリバーでもないのに脚が炎を纏っている。特殊なグラビティなのかもしれない。
「まあ、そのふざけた態度を改めたとしても、絶対に許しはしないけどね」
 そう言いながら、モモさんが死神を睨みつけた。
「私の仲間の一人に手を出したんだから」
 モモさんの視線の先――死神の胸のあたりで小さな爆発が起こった(結果、熊が少し焦げた)。サイコフォースだね。あるいは常人離れした目力。
「志保さんが仰ってたように、冷たいお灸というのも悪くないかもしれませんが――」
 手を出された『仲間』であるところの大和さんが手ならぬ脚をまた出した。さっきは旋刃脚だったけど、今後の技はフォーチュンスターだ。
「――僕としては、熱いやつのほうが性に合ってますね」
 炎を帯びたフェアリーブーツ(大和さんはブレイズキャリバーらしいけど、それが地獄の炎かどうかは判らない)からオーラが射出され、死神の体にお灸の痕……じゃなくて、星形の印を焼き付けた。
 それだけでは味気ないとでも思ったのか、ソラマルが猫ひっかきを繰り出して――、
「にゃん!」
 ――斜線の傷跡を星に付け加えた。

●柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
 小生意気な態度を取り続ける死神小僧ではあったが、戦いが始まってから五分も過ぎた頃には焦燥感ってやつが隠せなくなってきた。
 俺たちに圧されているからだ。
「どうしたの? もうボロボロじゃない」
 志保が挑発される側から挑発する側に転じて、ガントレットを装着していないほうの腕を一振り。そこに絡みついていた茨型の攻性植物が解けて展開し、今度は死神小僧のほうに絡みついた。
「こういう風にじわじわと動きを鈍らされてから殺やられるという恐怖を――」
 攻性植物に拘束された死神小僧に英賀が肉迫し、戦術超鋼拳を叩き込んだ。
「――味わったことあるかい?」
「今まさに味わっているんだろうよ」
 俺がタックルで追撃すると、死神小僧は転倒した。実に無様だ。それでもマウントを取られるより先に俺の組み付き(と、絡みついていた攻性植物)から脱し、素早く立ち上がった点は褒めてやってもいいだろう。
 もっとも、立ち上がった直後に――、
「逃げられると思わないことね!」
 ――銃弾の雨を浴びることになったが。
 その雨を降らせたのはモモ。リボルバー銃による制圧射撃だ。対複数用のグラビティなので大きなダメージは与えられなかったものの、それを補うかのようにソラマルがキャットリングを飛ばした。
 リングに脚を斬り裂かれ、死神小僧は片膝をつきそうになったが、なんとか体勢を維持。
「ハァ? 逃ゲヨウナンテ思ッチャイネエヨ! ソモソモ、逃ゲル必要モネエシナ!」
 腹話術で怒鳴りながら(余裕がなくなったせいか、口が少し動いてしまってる)、俺を睨みつけてきた。グラビティの眼差し。モモじゃなくて俺に仕掛けたのは、組み付きで怒りを受け付けられたからか?
「大丈夫ですか、鬼太郎さん?」
 そう問いかけながら、大和が横を駆け抜けた。
「問題ない。むしろ、俺を攻撃してくれるのは好都合だ。こちとら、最初から皆の盾役を務めるつもりでいるんだからな」
 と、俺が答えている間に大和は死神小僧に降魔真拳を決めた。いや、降魔真脚と言うべきか。例によって、蹴り技で発動させたのだから。
「何度モ足蹴ニシヤガッテ!」
 ドレインのおまけ付きの蹴りを食らった死神小僧(の抱いている熊)がナイフでお返しした。
 しかし、俺とは別の盾役――頼れる相棒の虎が両者の間に飛び込み、代わりにナイフの斬撃を受けた。
「にゃおー!」
 お返しのお返しとばかりに猫ひっかきを見舞う虎。
「足蹴にされるのが嫌なら――」
 間髪を容れず、志保が死神小僧めがけてガントレットを突き出した。拳を固めることなく、指を立てて。そう、指天殺だ。
「――こういうのはどう?」
 ぶっとい指(いや、志保自身の指は細いんだが、ガントレットを装着しているからな)が死神小僧の鳩尾を抉り抜いた。

●犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)
「『逃げ出すつもりはない』という言葉を撤回したいんじゃない?」
 モモさんのドラゴニックハンマーから竜砲弾が撃ち出され、コリアリアに命中しました。
 爆風で吹き飛ばされる小さな体。
 まだ宙にあるうちにそれは黄金の角に刺し貫かれました。
 鬼太郎さんの鬼神角です。
「撤回したからといって、逃がしはしないがな」
 鬼太郎さんが角を引き戻すと、コリアリアの体は重力に従って地面に落ち、バウンドした後に再び落ちて、ころころと転がりました。
 そして、立ち上がりました。満身創痍であるにもかかわらず(先程は『ボロボロ』と評しましたが、今はもっと酷い有様です)、『マヤリス』とかいうぬいぐるみをしっかりと保持しているのは流石というかなんというか……。
「なんつーか、コドモみたいな見た目の敵ってのは戦いづらいよなぁ」
 バイオレンスギターで『紅瞳覚醒』を演奏しながら、ヴァオさんがぼやきました。
「こっちが悪いことをしてるわけでもないのに罪悪感を覚えちまうぜ」
「そうだね……確かに戦いづらい……」
 ぼそぼそと呟くように英賀さんが同意しました。言葉とは裏腹にきっちりとコリアリアを攻撃しながら。
 コリアリア(とマヤリス)も黙ってはいませんでした。
「なに言ってんの? 実際、オジサンたちは『悪いことを』をしているじゃないかー」
「ソウダ、ソウダ! ナンノ罪モナイ子供ヲ数人ガカリデりんちシヤガッテ! コレガ『悪イコト』ジャナクテ、ナンダッテンダヨ!」
「なんの罪もない子供って……」
 英賀さんが困惑の表情を浮かべて、私に視線を向けてきました。
「冗談のつもりかな? それとも、本気で言ってる?」
 いえ、私に訊かれても……。
「とりあえず、冗談として受け取り、ツッコミを返しておきましょうか。ねえ、武蔵野さん」
「そうですね」
 モモさんに促されて、大和さんがコリアリアにツッコミを入れました。
 紅白の縞模様のファミリアロッドを投擲するという形で。
「ウギァッ!?」
 可愛い子犬に変わったファミリアロッドに噛みつかれ、悲鳴をあげるコリアリア。声がマヤリスになっていますね。やはり、そちらが地声なのでしょうか?
「コ、コノくそ犬メェ!」
 コリアリアは子犬を引き剥がそうとしましたが、それより早く、子犬のほうが自主的に飛び退きました。
 そして、別の犬が突撃。神器の剣をくわえたオルトロスのイヌマルです。
 サーヴァントたちの猛攻はそれで終わりではありませんでした。犬ばかりに活躍させてなるものか……と、思ったのかどうかは定かではありませんが、ソラマルが数度目の猫ひっかきを浴びせたのです。それに鬼太郎さんの虎も。
 猫派の私としては燃えるかつ萌えるシチュエーションですが、デレデレと見蕩れる場合ではありません。虎が攻撃を終えると同時に茨の攻性植物を繰り出しました。
 熊派であろうコリアリアめがけて。

●再び、モモ
 クラッカーを思わせる音が響き、一部の前衛陣が傷を負った(一部だけで済んだのは柴田さんやサーヴァントたちが盾になったからよ)。死神の指鉄砲から発せられるグラビティだけど、おなじみの『ぱーん♪』はなし。
「掛け声を口にするだけの気力も残ってないようだな」
 柴田さんがオウガメタルの黄金の粒子を放出させた。たぶん、自分たちの傷を癒すためではなく、同じく前衛にいる武蔵野さんの命中率を上昇させるために。

●再び、鬼太郎
 束ねた髪をなびかせて志保が死神小僧に突進し、何度目かの指天殺を食らわせた。
「ナメルンジャネエ!」
 死神小僧が熊の声で吠えた。指を突き立てた志保ではなく、この俺に向かって。
「気力モ体力モマダ残ッテルゼェーッ!」
 とてもそうは見えないけどな。
 仮に残っていたとしても、数分も経たないうちに尽き果てるだろう。

●再び、志保
「どっちをバラせば、君は止まるんだろうね? ぬいぐみのほうか、人型のほうか……」
 答えなど期待していないであろう問いを投げかけながら、英賀さんがライトニングロッドを掲げた。
 その先端に雷光が生じ、斜め下方へと伸びてゆく。
 コリアリアが反射的に身を竦ませたけど、雷光の直撃を受けたのは大和さんだった。ライトニングボルトじゃなくて、エレキブーストだったのね。

●再び、英賀
「とどめ、お願いします!」
「決めちゃいなさい!」
 僕が放ったエレキブーストに続いて、女性陣の声が大和さんの背中を打った。
「はい!」
 死神へと突き進んでいく大和さん。
「太陽を間近で見たことはありますか?」
 謎の問いかけを発しながら、得意の蹴り技でとどめを……刺すかと思いきや、相手の顔面に掌底を叩きつけた。
「今、見せてあげますよ!」
「ギャアアアアアアーッ!」
 なにがあっても離さなかった熊を地面に落として、死神は絶叫した。
 その顔を覆う手は大和さんの手は光り輝いている。
 太陽のように。

●再び、大和
 死神の全身が炭化し、真っ白い灰に変じて、砂像のように崩れ去りました。
「皆さん――」
 数秒ほど黙祷を捧げた後(黙祷するだけの価値がある敵だったかどうかはさておき)、私は振り返りました。
「――今回はありがとうございました。それと迷惑をかけて申し訳ありません」
「べつに迷惑をかけられた覚えはない」
「そうですよ」
 と、鬼太郎さんの言葉に志保さんが頷きました。
「ケルベロス同士で助け合うのは当然のことですから」
「とはいえ――」
 モモさんが悪戯っぽく笑いました。
「――一人で抜け駆けして評判のパン屋さんに行ったのはちょっと許せないかも。次に行く時は私も連れて行きなさいよ」
「戦ってる時も言ったけど、僕は大和さんのパン屋にも行ってみたいな……」
 と、英賀さんが遠慮がちにリクエストしました。

 では、帰ったら、すぐにでも下拵えを始めましょう。
 感謝を込めた最高のパンを皆さんに食べていただくために。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年5月3日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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