シャイターン襲撃~血染悲涙

作者:さわま

●東京都小金井市某所
 平和な住宅地に突如現れた3人のヴァルキュリア。
 無差別に人間を殺して回る彼女らによって、路上に多数の死体が横たわる地獄のような光景が広がっていた。
「……グスッ。みんな殺されちゃったよぅ」
 小さな子どもが必死に泣くのを堪えて物陰に縮こまり震えている。ヴァルキュリアから必死に逃げて物陰に隠れたのだ。
 ――ピチャリ。
 子どもの首筋に生温かい液体がかかる。驚いた子どもが首筋についた液体を手の平で拭うと、真っ赤に染まった手が目に入る。
「ウワァ!?」
 驚き顔を上げた子どもの瞳に宙に浮かぶヴァルキュリアの姿が映りこむ。その全身は殺した人間達の返り血がべったりと付着し真っ赤に染まっている。そして同じように真っ赤に染まったヴァルキュリアの持つ剣が大きく見開かれた子どもの瞳に映りこみ――。
 ――ピチャリ。
 数分後。地面に横たわる子どもの死体に赤い液体が落ちる。子どもの死体の前に無表情に立ち尽くすヴァルキュリア。
 その両の瞳から流れ落ちる血は、今なお温かい熱を帯びていた。
 

「勇敢なるケルベロスよ、エインヘリアルに新しい動きがある。鎌倉奪還戦で失脚した第一王子ザイフリートに変わり、新たな王子が地球への侵攻を開始したと情報が入った」
 山田・ゴロウ(ドワーフのヘリオライダー・en0072)が集ったケルベロスに告げる。
「その手始めにザイフリートの配下であったヴァルキュリアをなんらかの方法で強制的に従え、都市を襲い人間を虐殺させてグラビティ・チェインを奪おうと画策している」
 どのような方法でヴァルキュリアたちを操っているのかは不明だが、ヴァルキュリアたちは自由意思を奪われ人形のように命令に従うしかない状態だとゴロウはいう。
「ヴァルキュリアの出現が予知されたのは東京都小金井市だ。妖精八大種族のひとつシャイターンがヴァルキュリアを従え同時に複数箇所を襲撃する計画のようだ。こちらも複数の班での作戦が必要になる、他の班と共同で虐殺を阻止して貰いたい」
 
 さらに詳しい説明を続けるゴロウ。
「貴殿らには住宅地を襲うヴァルキュリア3体の部隊との戦闘をお願いしたい。このヴァルキュリアのうちの1人は以前にケルベロスと接触した事があるようだ」
 ヴァルキュリアたちの目的は人間の虐殺であるのだが、邪魔者が現れた場合はその邪魔者の排除を優先するよう命令を受けているらしい。
 つまりケルベロスが出現した時点で一般人が狙われる心配は無くなるという事だ。
「無理矢理従わされているヴァルキュリアたちだが、指揮官であるシャイターンが健在なうちは支配が強固で躊躇なく貴殿らケルベロスを殺しにくる。おそらく会話さえ不可能だろう」
 ならば他の班のケルベロスが指揮官のシャイターンを撃破した後ならばどうなるのだろうか?
「確かな事はいえないが……ヴァルキュリアたちへの支配に何だかの隙が生じる可能性はある」
 歯切れの悪いゴロウの言葉。ヴァルキュリアへの支配が弱まるのは間違いないにしても、具体的にどうなるかはその時にならなければ分からないという。
「操られているヴァルキュリアに同情の余地はあるが……だからといって虐殺を見過ごすわけにはいかないべよ」
 心を鬼にしてヴァルキュリア撃破に臨んでほしいとゴロウは懇願する。
「んどな、『手加減攻撃』で無力化すればその場で死ぬごとはねぇかもしんねぇべ」
 ヴァルキュリアを殺さないような形での解決を試みるつもりならば『手加減攻撃』は用意しておくべきだろう。
「ヴァルキュリアたちは3体ともゾディアックソードのグラビティを使用する」
 その戦闘能力は決して低くはない。3人を同時に相手取る事を考えると厳しい相手といえる。
「場合によっては増援の可能性もあるようだ」
 状況によってはヴァルキュリア1体が増援に駆けつける可能性もあるらしい。
 
 説明を終えたゴロウがペコリと頭を下げる。
「人々の命はみなさんにかかってますだ。どうかよろしくお願いしますだよ」


参加者
鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
一条・雄太(一条ノックダウン・e02180)
ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)
アリス・リデル(天下無敵のアッパーガール・e09007)
ウォーカー・ストレンジソング(彷徨い歩きのはぐれ歌・e10608)
ジャック・スプモーニ(死に損ないのジャック・e13073)
グレイズ・トッド(シャドウエルフのブレイズキャリバー・e17067)

■リプレイ


 眼下に見える住宅街をかすめるように飛ぶ3体の戦乙女。
 ふと何かに気づき上空を見る。
「世界常識の鎖に弾かれろ――『銀の雨(シルバーレイン)』」
 空から一条・雄太(一条ノックダウン・e02180)の声が聞こえ、無数の銀の雨が戦乙女に降り注ぎ、その甲冑を弾丸のようにうつ。
「向日葵畑の騎士ロベリア、いざ参る――『ランスチャージ』」
 戦乙女の1体に上空から現れたロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)の構えた槍が衝突。同じく残りの2体にも、巨大な閃光の槍を叩きつける鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)と光の剣を振り下ろすシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)の突撃が炸裂する。
 突撃の勢いに押され戦乙女たちが次々と地面と激突。ロベリアが背中の翼をひるがえし素早くバックジャンプ。地面に倒れた戦乙女に槍の先を向けたまま距離を取る。
「チャージ完了、砲門開放」
 槍の先から砲門が開き眩い光を放つレーザーが放たれる。
 ――ドォオオン!
 戦乙女の倒れた地面を大きな爆発が包み込む。
 地面に着地したロベリアが爆発の方向に向き直る。次の瞬間、その爆発の中から戦乙女が剣を構え飛びだし、ロベリアに肉薄する。
 ――キィンッ!
 その一撃に割り込むアリス・リデル(天下無敵のアッパーガール・e09007)。ギターで剣を受け止めて、能面のような表情の戦乙女に顔を近づける。
「Hey! 随分とシケたツラがまえじゃねーかよっ」
 鼻先が触れ合うような至近距離で言い放ち、剣を乱暴に弾き返す。
「テメーらに虐殺なんてゼッテーさせねーぞ」
 主人の心意気を示すように、駆けつけたミミックのミミ君の箱の中から剣や斧が飛び出し戦乙女に叩きつけられる。
 するとアリスの頭上に刃の光がきらめく。いつの間にかアリスの背後に別の戦乙女が回りこんでいたのだ。
「危ねぇッ」
 ウォーカー・ストレンジソング(彷徨い歩きのはぐれ歌・e10608)がアリスを突き飛ばす。戦乙女の斬撃を真正面から受けるウォーカー。剣が肩口を切り裂きジワリと血がにじむ。
「久しぶりだな、名前を聞くのを忘れていたが。全く、ひでえ顔しやがって」
 血の涙を流す目の前の戦乙女は以前出会った彼女に違いない。肩口を襲う激痛に顔をしかめながらも無理やり笑ってのける。
 その時、もう1体の戦乙女が剣からオーラを放つ。その奔流が前衛陣を巻き込み閃光と爆発が起こる。
「ちっ、容赦ねぇな」
 後方で戦況を伺うグレイズ・トッド(シャドウエルフのブレイズキャリバー・e17067)がその爆発に舌打ちをする。
「グレイズ君は全体のヒールを。私は傷の深いウォーカー君のヒールにあたります」
 同じく戦況を確認したジャック・スプモーニ(死に損ないのジャック・e13073)がグレイズにいう。
「……こういう役目はガラじゃねェってのによ」
 グレイズが前衛陣にヒールしつつポツリとつぶやく。ぶっきらぼうな態度に反して仲間想いのグレイズなだけに後方で仲間が傷つくのをじっと見ているのは堪えるものがある。
「見た目人間の連中を殴るのにも慣れたつもりだったが」
 血の涙を流し近づいてくる戦乙女に雄太がため息をつく。
「こいつは最高に気分が悪い。これを仕向けた連中は随分と悪趣味だな」
 戦乙女を操り人形に仕立てた連中へ改めて怒りを抱く。
 同じく戦乙女の悲惨な様子にヒノトが顔をしかめ、無意識にポケットの中のお守りを握りしめる。その肩に止まったネズミのアカが心配そうにヒノトを見る。
「操られて、望んでもない事なんかしたくないよね!」
 シルが戦乙女に向かい優しく言葉をかける。
「……だから、絶対に助けるから。ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してっ!」
 光の剣を構え戦乙女に向き合う。
「私は以前言いました。同胞に危害を加えるつもりならばどんな理由があれ容赦しないと」
 キッと戦乙女を睨んだロベリアが再度突撃を開始した。


 戦闘開始から数分が経過。
 双方共に激しい攻撃を繰り広げるケルベロスと戦乙女。
「ハッ!」
 突き出されたロベリアの槍を戦乙女がジャンプでかわす。すると空中を衝撃波が襲い、戦乙女がよろめく。
「今だっ!」
 衝撃波を放ったヒノトが短く叫ぶ。すでに戦乙女を追うように空中に跳んだシルとアリスの飛び蹴りが交差するように戦乙女に叩き込まれる。
「急所は外すつもりだが。殺しちまっても恨むなよ」
 右拳にグラビティを纏い雄太が落下する戦乙女に接近。渾身の右拳で戦乙女の腹を打ち抜くとその甲冑がバキバキと砕け散る。そして勢いよく横方向にふき飛ぶ戦乙女。地面を転がりやがて止まる。
 それでもよろよろと起き上がる戦乙女。しかし力を失ったその手から剣が滑り落ちる。
「あいつにもう戦う力は残ってねぇな。この調子なら何とか……」
 半死半生な様子の戦乙女と仲間の負傷具合を見てグレイズが息をつく。
 集中攻撃により1体ずつ敵を撃破していき、敵の攻撃力を削いでいく作戦をとったケルベロス。そして残り2体の攻撃ならばこの後も何とか凌ぎきれそうだった。
 ふらつく戦乙女が地面に転がった剣を無視しケルベロスに背を向け空中に浮かび上がる。
「!? 逃がしません!」
 敵の拘束の為にロベリアがケルベロスチェインを戦乙女に向ける。しかしその鎖は他の戦乙女により弾き飛ばされ、もう1体の戦乙女がロベリアに攻撃する。
 その隙にふらふらと住宅街を離れていく戦乙女。
「虐殺を諦めて撤退するのか? 誰も殺させずに済みそうだな」
 ウォーカーが胸を撫で下ろす。しかし次の瞬間驚きの声をあげる。
「ロベリア、何処にいくつもりだ!?」
 攻撃を凌いだロベリアが翼を広げて逃げた戦乙女を追おうとしていたのだ。
「あのヴァルキュリアを追います!」
「あいつはもう虐殺を諦めている。今は残りの連中を止めるのが先だろうが」
「ここで逃せばまた同じ事を繰り返すかもしれないでしょうっ! ……こんな事になるのなら先ほどトドメを刺しておくべきでした」
「オメェ……何をいってんだ!?」
「彼女らの事は私も気の毒に思います。だからと言って、人々の生命の危険を担保にデウスエクスである彼女らを助ける必要が本当にあるというのですか!?」
「それは――」
 その時だった。逃げた戦乙女と入れ違いになるように斧を持った戦乙女がこちらに向かってくるのがケルベロスたちの目に止まる。
「増援かよ……ちっと早過ぎねぇか」
 雄太がチッと舌打ちをする。
「話は後だな。流石にまた3体相手じゃオメェを向かわせるワケにはいかねぇ」
「……分かっています」
 悔しそうな顔をしたロベリアが目の前の戦乙女に向き直った。


「シャイターンを撃破しにいった連中も、ちったぁこっちの負担を考えて欲しいもんだぜ」
「雄太、大丈夫か?」
 傷つき悪態をつく雄太に同じく傷の増えてきたヒノトが声をかける。そこに回復役からのヒールが飛ぶがそれで完全に回復するには至らない。
 予想以上に早い増援――実際はケルベロスたちの作戦が見事にはまり、早い段階で敵を追い込んだ事で皮肉にも優先して増援を回された結果なのだが。その増援により再び攻撃力と手数を増した敵に対して徐々に回復が間に合わなくなっている。
 戦乙女の剣がロベリアの甲冑を叩き、その衝撃に息を詰まらせる。
「このッ!」
 その痛みを堪え勇猛果敢に戦乙女に槍を突き出すロベリア。しかし見切られ、逆に体勢を崩した所に別の戦乙女の斧が振り下ろされる。
 ――ガシャンッ!
 執拗な集中攻撃を浴びたロベリアの背中に衝撃が走り、身体の力が抜け片膝をつく。
 ――ピチャリ。
 目の前の地面に赤い液体が落ちるのを見てロベリアが顔をあげる。そこには血の涙を流す戦乙女がこちらに向けて剣を振り下ろす姿が――。
(「やはりあの時、この子を説得で逃したのは……」)
 地面に倒れ伏すロベリア。その意識は闇の中に沈んでいった。


 攻撃手であるロベリアが倒れた事で3体を相手取る戦いは長期化していった。
「クッ!」
 満身創痍のヒノトが戦乙女の剣を地面を転がり紙一重で回避する。そこに別の戦乙女の剣が襲い来る。
 ――ザッシュウッ!
 間一髪で割り込んだミミ君がその剣を受けるが、その姿が次第に薄れていく。
「あっ……」
 目の前で消滅していくミミ君を申し訳なさそうに見るヒノト。
「Hey! ショボくれてんじゃねーよ!」
 そんなヒノトをアリスが怒鳴りつける。
「ミミ君は自分の役目を果たしただけだっつーの。テメーにそんな情けねぇツラさせる為にしたんじゃねーんだぞっ! 腑抜けてねぇで気合い入れろっ!」
 アリスの言葉にハッとなり、ヒノトが表情を引き締め立ち上がる。
「ミミ君、ありがとうな。俺も自分の役目を果たすぜ」
「Yeah! それでいいんだよ」
 アリスがヘヘッと笑い、戦乙女に向き直る。ケルベロスの集中攻撃に戦乙女側のダメージも決して小さくは無い。
「もっと熱く! もっと激しく! 盛り上がってこーぜ! 『まるで恋する生娘のように(レット・ヒート・イット)』!!」
 アリスの口ずさむ燃え上がるような激しいナンバーが戦乙女の身体を焦がす。そして苦しむ戦乙女にヒノトが飛び付き、両者がもみくちゃになりながら地面を転がる。
「アカッ!」
 馬乗りになって戦乙女を押さえつけたヒノトが短く叫ぶと、地面に転がっていたヒノトの杖がネズミのアカに戻り、ヒノトに向かって走り出す。そしてヒノトの背中を駆け上がり、ヒノトがタイミング良く振り上げた両手の中で再び杖に戻る。
「うぉおおおッ!」
 赤く燃えさかる杖の先端をヒノトが戦乙女に力一杯振り下ろす。
 ――ガシィインッ!
 戦乙女が力を失い抵抗を止める。それを見てヒノトがほっと息をつこうとした瞬間。突然ヒノトの身体が宙に吹き飛ぶ。斧を持った戦乙女が素早くヒノトに接近して横合いから一撃を加えたのだ。
「ヒノト君!」
 駆けつけたジャックが気を失ったヒノトを抱きかかえる。空を見れば先ほどと同じく傷付いた戦乙女が撤退していく姿が。
 ぐったりとしたヒノトをジャックが静かに地面に下す。
「……父さん」
 無意識に呟いたヒノトがジャックの服の袖をギュッと掴む。ジャックがヒノトの頭を優しく撫でてやるとその手が袖から離れる。
「よく頑張ってくれました。後は私達に任せてください」
 あどけない少年の穏やかな顔を見てジャックがいった。


「オラァッ!」
 甲冑の繋ぎ目を狙った雄太の指突が斧を持った戦乙女に突き刺さり鮮血が飛び散る。
「……踏み込みが浅かったか。畜生」
 雄太がそう毒付き地面に崩れ落ちる。雄太の攻撃とほぼ同時に戦乙女の一撃がその腹を直撃していた。
 2体目のヴァルキュリアを倒すまでに戦闘開始から10分以上が経過していた。その間、前・中衛の攻撃手達は敵に集中して狙われていたのだ。
「クソッ……」
 守るべき仲間が次々と倒れていく状況にグッと拳を握りしめるウォーカー。アリスも同じく悔しそうな顔を見せる。
 とはいえ、2人も仲間への攻撃を庇い続けた事で満身創痍の状態だ。回復支援がしっかりしている事と敵の手数の多さが相まり、壁役が倒れるより先に運悪く庇いきれなかった攻撃で先に攻撃手たちが戦闘不能に陥っていた。
「ホント情けねぇし格好ワリィけど……立ち止まるワケにはいかねぇ」
 ウォーカーがずっと歌い続けてきた奇妙な歌――『覚悟のストレンジソング』を口ずさみ心を奮い立たせ戦乙女に向かっていく。その背中にアリスも続く。
 近づいた戦乙女がウォーカーに剣を振りかぶる。
「……ァア……イャァアアア!」
 しかし突然、戦乙女が剣を取り落とし叫び声をあげる。
「おいッ? これってひょっとすると……」
 グレイズが振り向くと、インカム越しに他班からの連絡を受けるジャックの姿が。
「あぁ――おかげでこちらも希望が見えてきました。手早い撃破に感謝を」
 通信を終えたジャックがグレイズに頷く。
「おいッ! 正気に戻ったのか!?」
 目からぽろぽろと透明な涙を流す戦乙女の肩をウォーカーが掴む。
「皆さんと戦いなんて、虐殺なんて、したく無い……お願いです私を殺してください」
 戦乙女が悲しそうに笑い、そっと目を閉じる。
「そんなこと出来るワケねーだろうがッ!」
 アリスが怒ったような声をあげる。
「……今がチャンスだよな? このままじゃアイツらもやられちまう」
 遠目に戦乙女の様子を見たグレイズが左手に炎を揺らめかせる。その左腕を掴むジャック。キッと睨むグレイズにジャックがいう。
「いざという時は私がやる。こういった事は年長者の役目だ」
 手にした拳銃の銃口を戦乙女に向ける。
「ねぇ、わたし前に言いたかったことがあるんだ」
 つかつかと戦乙女に歩みよるシル。戦乙女の顔を掴み自分の顔を近づける。
「だから、目を開けて。わたしの目を見て聞いて欲しいな」
 開いた戦乙女の瞳にシルの優しい青色の瞳が映りこむ。
「わたしはあなたの力になりたいの。ねぇ、お友達になろうよ。あなたにはわたしたちがついてる。だから、操りなんかに負けないでっ」
 戦乙女の瞳が大きく見開き、シルをドシンと突き飛ばし剣を手にとる。
 ジャックが拳銃の引き金に手をかける。
 ――ダンッ!
 戦乙女がシルの背後に迫っていた別の戦乙女の斧を受け止め背中越しにいう。
「私の名前はリビィです。彼女にも正気に戻るように声をかけてやってくれませんか?」
「任せて、リビィ!」
 明るい声でシルがいった。


 目を覚ましたロベリアの顔をリビィが心配そうに覗き込む。
「……正気に戻ったのですね」
「あの、ゴメンなさい!」
 ため息をつき起き上がるロベリアに謝るリビィ。
「大丈夫か?」
 ウォーカーが声をかける。
「身体は大丈夫です。しかし逃したヴァルキュリアはまた人々を襲うことになります」
「その時は俺やお前がまた止めればいいじゃねぇか」
「……私達にそれが必ず出来るとでも?」
「だったらその時は他の仲間がいる。その為の仲間だろ」
 ウォーカーが真っ直ぐロベリアを見ていう。

「あ、悪い。写メ撮っていい?」
 雄太が携帯を手に戦乙女たちに話しかける。
「おっ。いーじゃん、みんなで撮ろうぜ!」
 ニヒっと笑ったアリスが雄太を引っ掴む。
「そういう写真じゃ……って押すな!?」
「オイオイ、何やってんだ?」
「グレイズも行こうぜ」
「みんなで一緒にね」
 ヒノトとシルがグレイズを引っ張り輪に加わる。
「コラっいい加減に――」
 仲間たちにのしかかられた雄太の手から携帯を奪うジャック。
「おいっ、オッサン」
「皆さん撮りますよ」
「ねぇ、今度は楽しいお祭りとかで会えるといいね」
 もみくちゃになりながらシルがリビィに話しかける。
「お祭り、ですか?」
「それいいな。あたしらもう友達っしょ」

 遠くの空に消えていく戦乙女――友達を見送るシル。
「リビィ、またね」
 澄み切った空の色がその青い瞳を輝かせた。

作者:さわま 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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