住宅地のごみ捨て場へと姿を現した小型ダモクレス。その機械で出来た蜘蛛の足のようなものを器用に動かし、廃棄されていた電気アイロンへと取り付く。すると突如、小型ダモクレスと電気アイロンが眩い光に包まれた。
光の中、小型ダモクレスが電気アイロンを自身の体として作り変えていく。
光が収まり生まれたダモクレスは、
「アイロンマン、参・上!」
特撮ヒーローの様に名乗りをあげ決めポーズを作っていた。しかし姿は、人の体にアイロンを乗せたような見た目。とてもヒーローと呼べるかは怪しい。
どうやらこのアイロンが使われていた時、常に特撮ヒーローの番組が流れていたのだろう。アイロンもいつしか特撮ヒーローに憧れを抱いて、その残留意志がこの姿として現れたようだ。
しかし、特撮ヒーローに憧れていたとしても、ダモクレスはダモクレス。グラビティ・チェインを奪う為、すぐそばの公園へと向かって歩み始めたのだった。
●
「粗大ごみとして廃棄されていた電気アイロンが、ダモクレスになってしまう事件が発生します」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の説明を聞いていた、タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)は掛けていた眼鏡を外すと目頭を押さえ、ため息を漏らした。
「想像の斜め上を行くダモクレスが現れましたね」
「ですが、ダモクレスには変わりありません。このまま放置すれば多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまいます」
特撮ヒーローに憧れている事から、もしかしたら善人は襲わないかもしれない。しかし襲わないという確証もない。それに、ダモクレスの正義感が我々と同じとも限らない。
故に被害が出る前にダモクレスを倒してほしいと、セリカは頭を下げた。
「ダモクレスは、頭部がアイロンの人型ロボットの様な姿をしています。予知の通り、特撮ヒーローへの憧れが強く表に現れていて、その攻撃方法も派手な動きから繰り出されます」
電気アイロンの特徴の熱を使った攻撃が主となる。注意したいのが前方広範囲に蒸気を噴射する攻撃と、特撮ヒーローお馴染の上空から繰り出される蹴りだ。
「それと、このダモクレスはピンチになる程、能力が上がるようです」
「まさに逆境を跳ね除けるヒーローという感じですか」
ダモクレスが向かった公園には、近くの保育園の子供たちが遊びに来ている。その数、引率と子供たち合わせて20人。特撮ヒーロー然としたダモクレスに興味を持つ子供たちも居る事だろう。素直に避難してくれるといいのだが……。
「出来るだけ子供たちに危険が及ばない様、お願いします」
参加者 | |
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タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641) |
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471) |
紺野・雅雪(緋桜の吹雪・e76839) |
四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764) |
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住宅地を歩く4人のケルベロス。今回はヒーローと呼び変えてもいいだろう。その4人はこの先の公園までの道のりを並んで進みながら話をしていた。
「まさか私の危惧していたダモクレスが本当に現れるとは……。しかも予想の斜め上でいく様に、ヒーロー風になったダモクレスだとは驚きですね」
電気アイロンのダモクレスが現れるだろうと予測していたタキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)も、今回出現するダモクレスの様子には驚きを隠せないでいる。
「ダモクレスがヒーローか、身分不相応な事この上ないね。ヒーローたるもの、人々の命を救うのが使命の筈だよ」
人の命を脅かす者はヒーローではないと四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)。
「電気アイロンごときがヒーローを名乗るなんて、世も末だな。本物のヒーローと言うものがどういうものなのか、身をもって教えてやろう」
「見た目だけで言えば、どう考えても怪人だもんな。まあ、人を殺そうとしてる時点で論外だがな」
紺野・雅雪(緋桜の吹雪・e76839)と柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)はダモクレスの外見を思い浮かべつつ話をしていた。
ヒーローへの憧れが強い今回のダモクレス。テレビの影響を大きく受けているのならば、本当に悪人しか殺さないのかもしれない。しかしダモクレスの悪人の括りがどれほどなのか見当もつかない。狙いが殺人犯などの凶悪犯だけならまだしも、その辺のごみのポイ捨て程度でも過剰に反応されたら堪ったものではない。
そういう意味でもこのダモクレスを放置するわけにはいかない。その考えを4人で共有していると、前方に公園が見えてきた。
「殺戮を好むものがヒーローだなんておこがましい、真のヒーローを見せてあげましょう」
ここからでも子供たちの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。4人は絶対に子供たちを守ってみせると、気を引き締め公園へと足を踏み入れた。
公園について早々、司は『キープアウトテープ』を取り出した。
「司さん、手伝います」
「お願いするよ」
タキオンの申し出を快く受け取り、2人は周りに『キープアウトテープ』を貼り始めた。
「これ、なぁに?」
「今から悪い奴が来るから、ここから先は危ないぜ、巻き込まれないようにテープの後ろまで離れてくれな」
その様子を興味津々に見つめる子供たちに、鬼太郎は笑いかけると、近づかない様に促した。
「ところで、全身タイツを穿いた方が良かったかな?」
「どうしてだ?」
「だって、その方が戦隊ヒーローっぽいし?」
「急にそんなことを言ったって、用意なんてしてないぜ?」
雅雪のお調子者な面が顔を出す。それを聞いていた鬼太郎は呆れた表情をしていた。
「ああ、その辺は私に考えがあります」
テープを貼り終えタキオンが皆を集め小声で考えを伝えていると、ダモクレスが姿を現した。
「アイロンマン、参・上!」
ヒーローの様に決めポーズを作るダモクレス。これには子供たちも何かが始まったと目を輝かせてダモクレスを見つめていた。
このままダモクレスに好き勝手させて、こちらが悪者にされては非常に不味い。こちらも急いで名乗りをあげることにする。
「ケルベロス参上!」
「僕らは正義のヒーロー、ケルベロス!」
「俺たちは正義のヒーロー、ケルベロス! 悪をやっつける皆の味方だ!」
「我らは番犬戦隊ケルベロス! 正義の為にダモクレスと戦おう!」
余りに急いだせいで、セリフは被るわ名乗りはめちゃくちゃだわと散々だった。子供たちのポカンとした顔がこちらへと向き、居心地が非常に悪い。
「……なあ、流石にやり直さないか?」
「ええ。次こそは先ほど伝えた通りに」
「だったら……」
鬼太郎はタキオンへと耳打ちをした。
「えっ? それ本当に?」
「おう、しっかりな」
鬼太郎の言葉に驚くが、議論している暇はなかった。
「予定の物、お願いします」
『了解しました。ヘリオンデバイス・起動!』
タキオンの連絡を受けヘリオンから4本の光がそれぞれに向かって降り注ぐ。
「「「「――変身!!」」」」
タイミングを合わせて声をあげるケルベロスたち。光が収まりヘリオンデバイスを装着したケルベロスたちに子供たちから興奮した声が上がった。
「あ、悪を倒す正義の使者! ケルベロスレッド!!」
言われた通りにタキオンが名乗りをあげると、他の面々も続いて名乗っていく。
「「「「番犬戦隊ケルベロス、ここに参上!!」」」」
決めポーズと同時、各々の背後に名乗った色の爆発が起きる。すると子供たちからも拍手が起きた。
「あの、どうして私がレッドなのでしょう? 見た目の色合い的にも鬼太郎さんの方が良かったような」
「何言ってんだリンデンバウム。今回の事件が予知できたのもお前のおかげだろ。だから主役はお前なんだよ。今回俺はアシストに徹すると決めてたからな」
「細かい事はどうでもいい。今はダモクレスに集中しようぜ」
雅雪が2人の話に割り込み、話を中断させる。敵はとっくに臨戦態勢に入っているのだ。これ以上やり直している暇はない。
「さあ、どっちが本物のヒーローに相応しいか、勝負だよ!」
気を引き締め直すと、司の言葉を皮切りに戦闘が始まるのだった。
●
タキオンが跳び上がると上空から蹴りをお見舞いする。ダモクレスに蹴りが直撃する瞬間を見計らって鬼太郎が爆発を起こし、支援のついでに派手さを演出した。
「真のヒーローはこの私だ! くらえっ! ヒィィィトナッコォォォ!」
熱を帯び赤く染まったダモクレスの拳がタキオン目掛けて繰り出される。咄嗟に腕を交差させ受け止めるも、衝撃を殺しきれずに後方へと吹き飛んでいく。
「花に閉じ込められて、動けなくしてあげるよ」
司の持つフェアリーレイピア『光の道標』の先端から花の嵐が放たれる。それに紛れて雅雪はエアシューズのローラーを地面へと擦り付ける。
「熱を扱うのはお前だけじゃないぜ」
摩擦によって生じた炎を蹴りに乗せて放つ雅雪。花の嵐が止んだ所に炎が襲い掛かる。
「何のこれしき」
立て続けの攻撃をなんとかその場で踏ん張り抜いたダモクレス。先ほどまで炎に包まれていた体の端々からは黒い煙が上がっている。
「貴方のグラビティを、これで中和してあげますよ!」
続いてタキオンはバスターライフルを構えるとエネルギー光弾を発射。
「虎、遅れんなよ?」
鬼太郎はウイングキャットの虎へ声をかけると、揃ってダモクレスに向かって突撃していく。
エネルギー光弾が直撃し、更に鬼太郎と虎の斬撃が立て続けにダモクレスに襲い掛かった。
「スチィィィムボンバァァァ!」
ダモクレスが反撃に放ったのは、高温になる蒸気の波だった。
「くっ!?」
「オーロラの光よ、仲間を癒す力を与え給え」
蒸気を浴び後退るタキオンたち。そこに雅雪の放ったオーロラの様な光が降り注ぎ、包み込まれた体から傷が癒えていく。
「その硬い身体を、かち割ってあげるよ」
回復を行っている間も攻撃の手は緩めない。司が高々と跳び上がるとルーンアックスを頭上からダモクレス目掛けて振り下ろした。
続くグラビティの応酬に、ヒーローショーだと思っている子供たちも何が起きているのか分からずに混乱し始めてきた。大声で技名を叫ぶダモクレスの方がヒーローショーを感じられて子供たちのウケがいい。
「おっと、演出が足りなかったか?」
鬼太郎が自身の回復を行いながら呟く。
「ハッハッハッ! これで真のヒーローが誰か分かっただろう? そろそろ終わりにしてくれる。必殺! ヒィィィトキィィィィック!!」
ダモクレスが上空へと跳び上がると同時、蒸気の輪っかが3つ現れる。ダモクレスの足が灼熱の色を帯び、輪っかを通って急降下を始める。
ダモクレスの蹴りが鬼太郎に襲い掛かる。灼熱の蹴りが守りの効果を打ち破り直撃すると大きな爆発が巻き起こった。
「グッ……」
爆発に吹き飛ばされ鬼太郎の体は地面へと転がった。
「自然を廻る霊達よ、人々の傍で見守る霊達よ。我が声に応え、その治癒の力を与え給え!」
すぐさま駆け寄る雅雪。周囲に浮遊する精霊たちに声をかけ、力を貸してもらうと鬼太郎の治療を始める。
『がんばれぇ。ケルベロスぅぅ!』
戦場に子供たちの応援する声が響く。
「子供たちの応援がこれほど力が湧いてくるものなんてね」
応援されたからには負けられないと、司は『光の道標』をぎゅっと握りしめた。
「ダモクレスなんかには負けない。フラワージェイル! 行けぇ」
司の剣先から花が嵐となってダモクレスに襲い掛かる。
「弱点を見抜きました、この一撃を喰らいなさい! 破鎧衝!」
タキオンが花の嵐に乗じてダモクレスの目の前へと接近し一撃を叩き込む。
「くらいな! 鬼神角!」
鬼太郎は頭部から黄金の角を伸ばし、ダモクレスを貫く。
「私が押されている!?」
「僕のこの剣技を、避けられるかな?」
驚愕するダモクレス。そこへ司の放った衝撃波が容赦なく襲う。
「俺も攻めさせて貰うぜ。怒號雷撃!」
「目標捕捉、攻撃準備完了、発射!」
雅雪の放った雷が降り注ぎ、タキオンの発射した素粒子が加速しダモクレスを射抜いていく。
「こんなはず……じゃ……」
「偽物のヒーローは、さっさとご退場願おうか」
「グオォォォォォ」
限界を迎えたダモクレスは光の粒となって弾け飛んだ。
●
「皆さん無事ですか?」
「はい」
タキオンは保育士へ話しかけ、子供たちの無事を確認した。
ケルベロスたちの勝利に子供たちは大はしゃぎ。
更に子供たちにせがまれて、ヒーローショーの最後の様に握手会をする羽目に。子供たち一人一人と握手を交わしていると、守ることが出来たんだと心が温かくなってくるのを感じた。
程なく握手会が終わると、子供たちは保育士に連れられて公園を後にした。その際も見えなくなるまで何度も振り返っては手を振ってくれたのだった。
子供たちが帰った後は事後処理だ。
タキオンと司が周辺の修復を行い、鬼太郎と雅雪はその間に『キープアウトテープ』を剥がしていく。
「何か、普段の任務より疲れた気がします」
「けど、いつも以上に達成感があった気がするよね?」
「確かに……。子供たちの笑顔を守れて本当に良かったです」
タキオンと司が話していると、『キープアウトテープ』を回収し終えた2人が戻ってきた。
「お疲れ。見事なリーダーっぷりだったぜ」
「次があったら今度は衣装を合わせるのも面白そうだな」
鬼太郎が労い、雅雪は冗談交じりに話す。
それには次は誰が何色かと話が盛り上がる。
ひとしきり笑うと、ケルベロスたちは公園を後にした。
作者:神無月シュン |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年4月21日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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