●音々子かく語りき
「《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブングの制圧に向かった皆様が無事に帰還されましたー」
ヘリオライダーの根占・音々子がケルベロスたちに告げた。
ここはヘリポートの一角。だが、おなじみの場所ではない。万能戦艦ケルベロスブレイド内のヘリポートだ。
「作戦は大成功! しかも、ただ制圧しただけでは終わりませんでした。ヒューム・ヴィダベレブングが花咲くように展開して、デスバレスへと通じる回廊が現れたんですよー」
制圧戦に参加したケルベロスたちの中には、聖王女エロヒムの歌声を聴いた者たちがいたという。
そして、ケルベロスブレイドのグラビティ・チェインレーダーもその歌声を捉えていた。
「歌声を解析した結果、デスバレスに関する情報を色々と得ることができたんですよー。それらの情報を活かし、デスバレスに電撃戦を仕掛けることにあいなりました。ケルベロスブレイドの冥府の海を潜航能力を使って回廊に殴り込みましょー! 目指すは、聖王女エロヒムが囚われているであろう深海層です!」
歌声から得た情報によると、回廊の防衛にあたっているのは死神の最精鋭軍。
その名もヴェロニカ軍団。
だが、行く手を阻むのはヴェロニカ軍団だけではない。ケルベロスブレイドにダメージを与えて名を上げるつもりなのか、様々な集団が襲撃してくるであろうことが(これも歌声から得た情報によって)予測されている。
「まあ、このケルベロスブレイドは最強の万能戦艦ですからー! そんな独立愚連隊じみた連中の大半は防衛機構でちょちょいのちょーいと片づけちゃうでしょうけどね」
薄い胸を自慢げに張って余裕の笑みを見せる音々子であったが、すぐに表情を引き締めた。
「とはいえ、あくまでも『大半』です。討ち漏らす可能性もなきにしもあらず。その時は皆さんのお力に頼ることになると思いますので、よろしくお願いしますね」
●侵入のビジョン
回廊を突き進む万能戦艦ケルベロスブレイド。
それに群がるは死神の軍団。
もちろん、前者は無抵抗ではない。蠍の尾のごとき近接迎撃骨針を振り回しているし、搭乗員たるケルベロスたちもグラビティを放っている。
銃弾、光線、手裏剣、ミサイル、地水火風の魔法が飛び交い、剣と拳が唸りをあげて、メディカルレインに濡れた紙兵がキュアウインドで舞い乱れ、死神たちは一人また一人と消滅し、あるいは回廊の底へと墜ちていった。
だが、その中には――、
「た、ただで死ぬもんか……」
――爪痕を残した者もいる。
ガスマスクめいたものを装着したその少年型の死神は力尽きる直前、ケルベロスブレイドの外壁にグラビティをぶつけて穴を穿った。さして大きな穴ではないが(ケルベロスブレイドが受けたダメージも微々たるものだろう)、人が通り抜けられる程度の大きさはある。文字通りの突破口。
「でかしたぞ、テッレモート」
死神からただの死体に変じて落下していく少年を褒めたのは、筋骨隆々たる上半身を剥き出しにした赤毛の男。炎を纏った鎌を手にした姿はブレイズキャリバーを思わせる。
傍にいた二人の女に彼は呼びかけた。
「さあ、このデカブツを内側から焼き尽くしてやろうぜ!」
「ごめーん。アタシ、もう無理っぽい」
女の一人が力なく笑った。その身を包む衣装の色は黒だが、大部分が血に染まっている。
「先にトルメンタたちのところに逝っとくから、後はよろしくー」
そう言い残して、女は消滅した。
「あーぁ」
と、残されたもう一人の女――奇妙な文様が描かれた布で顔を隠した魔導師風の死神が肩をすくめた。
「六獄が双獄になっちまったねぇ」
「構うもんか! たとえ単獄になっても、やり通してみせる!」
飛び交うグラビティを躱しつつ、赤毛の男は外壁の穴に飛び込んだ。
そして、『内側から焼き尽くす』という言葉を実行に……移せなかった。
呆気に取られて、動けなくなったのだ。
なぜなら、そこは牧場だったから。
木の柵で仕切られた草原にいるのは羊の群れ。ある者は闖入者に驚き、『んめ゛ぇ~』という奇声を発して逃げ出し、ある者はもぐもぐと反芻しながら、男を物珍しそうに眺めている。
足下の土や草は本物であるらしく、濃厚な草いきれが漂っていた。頭上には青い空と白い雲。それらはさすがに本物ではなく、魔法か科学の技術によって投影されたものだろうが。
「まさか、艦内で羊を飼ってるとはねぇ。くくく……」
肩を揺らして笑ったのは、布で顔を隠したあの女。赤毛の男に続いて、例の穴から侵入してきたのだ。
彼女の声を聞いて男は我に返り、吐き捨てるように呟いた。
「ケルベロスどもめ……どんだけ食い意地が張ってんだ」
「食べるためじゃなくて、羊毛のために飼ってるのかもしれないよ」
「どんだけ寒がりなんだ」
「まあ、食いしん坊だろうと、寒がりだろうと――」
穴から吹き込んできた風によって、女の布が少しばかりめくれ、唇が覗いた。
邪悪な微笑に歪んだ唇が。
「――死んじまえば、みーんな同じさ。食い気とも寒さともおさらばさせてあげようじゃないか」
●音々子ふたたび語りき
「うぇーん! さっそく、お力に頼ることになっちゃいましたぁーっ!」
音々子がケルベロスたちに泣きついてきた。
「艦の左舷――羊さんたちの牧場がある区画に死神の愚連隊が侵入しやがったんですよー!」
エロヒムの歌声から解析した情報の中には、その死神たちのことも含まれていた。通称は『天災の六獄(カラミタ)』。六人の死神で構成された集団だが、艦内の侵入したのは二人だけ。他の四人は既に撃破されている。
「情報によると、敵の個体名は『風獄のフォラータ』と『炎獄のエルツィオーネ』。前者は風と恐怖の死神、後者は炎と憎悪の死神だそうです。なにやらヤバそうな感じの二人組ですが……皆さんの敵じゃないですよね―」
音々子はヘリオンに乗り込んだ。もちろん、発進するためではない(発進できるような状況ではない)。ヘリオンデバイスを発動させるためだ。
「だって、皆さんは風よりも速く、炎よりも熱いんですからー!」
ヘリオンデバイスの光線がケルベロスたちに照射された。
参加者 | |
---|---|
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414) |
大弓・言葉(花冠に棘・e00431) |
ペテス・アイティオ(オラトリオのヤバくないほう・e01194) |
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896) |
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506) |
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426) |
風音・和奈(前が見えなくても・e13744) |
リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197) |
●ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
SFアニメの背景画をそのまんま持ってきたかのようなメカメカしい通路を駆け抜け、目的のエリアへと通じるハッチの前に到着。
ハッチが開く間ももどかしく、あたしたちは中に飛び込んだのじゃ……いや、『外に飛び出した』という言い方のほうがしっくり来るかのう? そこは屋外と見紛うような場所だったのじゃから。
青い空と白い雲。
草に覆われた大地。
もふもふな羊たちの群れ。
実に長閑な光景じゃ。
二体の死神さえいなければ。
「来やがったなぁ、ケルベロス!」
鎌を持った男の死神が大音声を発した。こやつが炎獄のエルツィオーネであろう。もう一体の死神――奇っ怪な布で顔を隠している女が風獄のフォラータか。
「来やがったのはそっちでしょうが! 人様の船に断りもなく!」
負けじと声を張り上げたのはオラトリオの和奈おねえ。手にしている武器は、二連装のガトリングに砲撃形態のドラゴニックハンマーを装着したトリプルデッカい代物。
「招かれざる客には早々にご退場願うとしようか。もっとも――」
竜派ドラゴニアンの晟さんがずいと前に出た。こちらもデッカイ武器を持っとるぞ。錨型のドラゴニックハンマーじゃ。
「――お帰り口は既に塞がれてしまったようだがな」
「なあに。また開けてやるよ。あんたらの死体を投棄するための穴をね」
「減らず口を叩いてんじゃないですよ!」
小憎たらしいことを抜かすフォラータに向かって、ペテスおねえが怒鳴った。
彼女は和奈おねえと同じくオラトリオなのじゃが、種族の外見的特徴はすべて隠されておる。
羊の着ぐるみを纏っておるからじゃ。
●神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
「罪もない羊さんを狙う悪辣な輩は速やかに冥府の海に叩き帰してあげますですよ! そこで仲間に蘇生とかしてもらえばいいんです! そーせい! ……です!」
着ぐるみ姿のペテスが仁王立ちして両腕を広げた。威嚇するミナミコアリクイのように。
しかし、エルツィオーネは威嚇に怯むことなく(まあ、当然だな)、『そーせい』という駄洒落にツッコむこともなく(これも当然か)、怒りの表情に呆れ顔を混ぜて抗弁した。
「べつに羊なんか狙ってねーし! 装甲をブチ抜いて突入したら、そこに羊がいたんだよぉ!」
さぞかし、面食らっただろうなぁ。
「てか、戦艦で家畜を飼ってるのも意味不明だけど、その家畜のチョイスも判んないよ。なんで羊なのさ?」
「さあ? なんで羊なんだろう?」
フォラータが首をかしげて疑問を口にすると、左右の手に刀を持った白髪の青年――鬼人も首をかしげた。
もっとも、一秒も経たぬうちに首の確度は元に戻ったが。
「とはいえ、これは俺たちの船だ。部外者たる死神どもに――」
フォラータの懐に飛び込み、斬撃を見舞う鬼人。剣人一体とでも呼ぶべき自然で滑らかな攻撃であったためか、敵はそれを躱せなかった。
「――ケチをつける権利はないぜ!」
「そーだ、そーだ!」
鬼人に同意を示しつつ、オラトリオの言葉が砲撃形態のドラゴニックハンマーを構えた。どうでもいいことだが、彼女が身に纏っているのは、雪だるまを思わせるモコモコとしたドレスだ。ペテスといい、言葉といい……オラトリオの間ではこういうのが流行ってるのか?
「言っとくけど、羊の牧場なんてまだマトモなほうなんだからね! この船にはヘンテコな施設が他にもいーっぱいあるんだから!」
「私たちでさえ呆れ返っちゃうほどにね」
和奈も砲撃形態のドラゴニックハンマー(が装着されたダブルガトリングガン)をフォラータに突きつけた。これまたどうでいいことだが、彼女の服は羊飼いの衣装をイメージしたであろうワンピースだ。ある意味、TPOに合っていると言えなくもない……か?
●ペテス・アイティオ(オラトリオのヤバくないほう・e01194)
言葉さんと和奈さんが同時に竜砲弾を発射。どちらもフォラータに命中して爆発しました。どかーん×2!
「ひゃっはぁーっ!」
陽気&狂気な叫び声をあげて、フォラータが爆炎の向こうから飛び出してきたですよ。しかも、何発もの火の玉を伴っています。後ろにいたエルツィオーネが放ったでんでしょうね。
「今夜の晩餐はラムステーキの人間膾添え!」
フォラータはワンドを一振りして、突風を起こしましたです。その突風と火の玉の群れが向かった先は後衛陣。
でも、すべての攻撃が後衛陣に届いたわけではないです。
「当店のメニューに膾はない」
晟さんが盾となり、筋骨隆々たる巨体で受け止めましたから。
「ラムステーキはありますが、あなたたちにごちそうするつもりはありません」
それにサキュバスのアイドルのめぐみさんも筋骨隆々ならぬ皮骨細々な体(ええ、人のことは言えませんが? それがなにか?)で受け止めましたです。
「らぶりん、お願い!」
「ナノー!」
ナノナノのらぶりんがハート型のバリアを展開。
それに包まれながら、めぐみさんも盾を展開しました。こちらはエナジープロテクションの盾。対象は鬼人さんです。
「メディカルシステム、起動!」
ウィゼさんがアームドフォートめいた大がかりな装備をがちゃこんがちゃこんと動かして、簡易型の医療設備を設置しました。別の大がかりな装備――レスキュードローン・デバイスも同時に起動し、後方へと飛んでいきました。羊さんたちを避難させるためでしょうか? でも、すべての羊さんを載せられるほどドローンは大きくありませんし、羊さんたちが素直に載ってくれるとも限りません。
「リューディガーくーん。羊さんの避難誘導、頼める?」
「承知した」
言葉さんのお願いに応じて、狼の人型ウェアライダーにして既婚者リア充野郎のリューディガーさんが羊さんたちに駆け寄ったです。たぶん、防具特徴の『動物の友』を使うつもりですね。
●水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
リューディガーがペーターよろしく羊を連れていく間(いや、ペーターが飼ってたのはヤギだっけか?)、死神コンビはフェアプレイ精神を発揮して戦闘を中断してくれた……ってなわけもなく、がんがん攻めてきやがった。
人数では勝っているものの、こっちがちょいと圧され気味だ。敵は個々の戦闘力が高いだけでなく、息がばっちり合ってるから。
「どうやら、運だけで対空攻撃を潜り抜けてきたわけではなさそうだ」
三度目の火の玉攻撃を胸板で受け止めながら(盾になったのも三度目だ)、晟が足を蹴り上げてグラインドファイアを放った。
標的であるフォラータは近接攻撃魔法と思わしき光を掌から発して、それを相殺。だけど、爆風で吹き飛ばされた。
めぐみの遠隔爆破だ。
「あなたたちにとって、定命化は消滅と同意義だそうで、めぐみたちとは不倶戴天の敵ということらしいですね。ならば、お互いにもう語ることは……」
「はぁ?」
めぐみがすべてを言い終える前にエルツィオーネが苛立たしげな声を出した。
「どこの誰がそんなこと言ったのか知らねえが、べつに『定命化=消滅』なんて思ってねえわ!」
「でも、不倶戴天の敵という点については異議なーし」
吹き飛ばされたフォラータが下半身だけを使ってぐいっと立ち上がり、ワンドを振った。カマイタチを起こす烈風のグラビティ。
それを食らったのは、俺を含む前衛陣。体のそこかしこが斬り裂かれただけでなく、恐怖心が沸き上がって動きが鈍くなるのを感じた。
もっとも、フォラータに反撃した瞬間、恐怖心は消え去ったけどな。めぐみのエナジープロテクションや、ちょっと前に晟が散布した紙兵のおかげだ。
「恐怖を司る敵だろうと、憎悪を司る敵だろうと――」
同じく仲間からの異常耐性で恐怖に打ち勝ったであろう言葉がジャンプして、フォラータにスターゲイザーをぶち込んだ。
「――ばっちり倒すのがケルベロスのお仕事でーす!」
「そう! 手抜きは許されぬ重要なお仕事なのじゃ!」
ウィゼが黄金の果実の光を放射し、ヒールとキュアのダメ押しをしてくれた。
●リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)
狼のウェアライダーである俺が羊の群れを先導するというのもおかしな話だ。妻ならば、『ルーディは優しい狼さんだから』などと言ってくれるのかもしれないが……。
なにはともあれ、俺は羊の避難誘導を終え、戦場に戻った。
「さて、またフルメンバーになったことだし――」
鬼人が斬霊刀の一太刀をフォラータに浴びせた。命中したのに流血が生じないのは、霊体のみを傷つける斬霊斬だからか?
「――反撃開始といこうか」
「ええ! 前のめりでがんがんいっちゃうわよー!」
言葉のドラゴニックハンマーが火を噴いた。いや、氷を噴いた。発射されたのは竜砲弾ではなく、時空凍結弾だ。
間髪容れず、熊蜂型のボクスブレスのぶーちゃんがボクスブレスで追撃した。主人である言葉に倣って、前のめり……ではないな。怯えて腰が引けている。
対照的なのは同種族のラグナル。敵をきっと見据えてブレスを吐いている。
もっとも、敵に向けた眼差しの鋭さは和奈のほうが上だが。
「アタシたちには、絶対に譲れないものがある! 絶対に守りたいものがある! アンタたちはそれに手を出したんだ。だから――」
ダブルガトリングが次々と弾丸を吐き出した。すべての弾丸に魔力が込められているらしく、火戦が不思議な光を帯びている。
「――アタシは命をかけて戦う!」
「ふざけんな!」
と、怒声を発したのは銃撃を受けているフォラータではなく、エルツィオーネのほうだ。
「先に手ェ出したのは、おまえらだろうが!」
●大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
エルツィオーネはエキサイトしてるけど、フォラータは余裕があるっぽい。
「落ち着きなよ、エルツィオーネ。どっちが先に手出ししたかってのはビミョーな問題かつフモーな議論でしょ。デウスエクスと人間の間だけじゃなくて、人間同士の国家間とか民族間でもさ」
とはいえ、余裕綽々なのは精神面だけ。体のほうはもうボロボロみたいね。
「そもそも羊さんを襲うという考えが甘めぇ~です! 羊さんだけに!」
ペテスちゃんがオラトリヴェールの光で前衛を癒してくれた。駄洒落を連発しながら。
「みんなが平和を待ットンです! 羊さんだけに! 恨むなら、軽率にここを襲った判断をうラムです! 羊さんだけに!」
「うむ。このテンションをキープして戦い続けるのじゃ! シープだけに! そして、クールに決めるのじゃ! ウールだけに!」
回復役のウィゼちゃんも駄洒落を披露しつつ、ヒール……するかと思いきや、駒みたいにくるくる回りながら、フォラータに体当たり!
フォラータはぽーんと弾き飛ばされ――、
「ホント、面白い連中だわ」
――空中でそう呟いて、地面に落下。
そして、二度と立ち上がることはなかった。
「うぉぉぉーっ!」
激怒状態がデフォルトみたいなエルツィオーネが怒りレベルを更に上げて(仲間の死に怒るなんて、意外と人間くさいのね)、グラビティを放とうとしたけれど、リューディガーさんが機先を制した。
「俺たちもまた貴様らと同じだ。一歩も退けぬという点ではな。すべての命の尊厳を守るため――」
フォートレスキャノンをどかどか連射。
「――俺たちは死に立ち向かう!」
「笑わせるな! 定命者に尊厳なんかあるわけねえだろ!」
砲弾の嵐の中でエルツィオーネが叫んだ。『笑わせるな』とか言ってるけど、笑ってないよね。
「俺たちからすれば、定命者なんぞは家畜と同じ! そう、地球という牧場で短い一生を過ごした後、デスバレスという市場に送られる家畜なんだよ!」
はぁ? それこそ、笑わせんなっての!
●若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)
「開いたこのドアの先はきっと♪ 未踏の地が広がってて♪」
ウィゼちゃんの『碧落の冒険家』が流れる中、サーヴァントたちが立て続けにエルツィオーネを攻撃しました。
らぶりんは可愛く。
ラグナルは勇ましく。
ぶーちゃんは……ぷるぷる震えながら。
「もう震えなくてもいいでしょ、ぶーちゃん。敵は瀕死なんだから」
言葉さんが簒奪者の鎌に地獄の炎を纏わせ、エルツィオーネにブレイズクラッシュをぶつけました。
続けて、和奈ちゃんもブレイズクラッシュ。得物はガトリングガンから外したドラゴニックハンマーです。
「瀕死ってのは大袈裟だと思うけど――」
「――弱っているのは間違いないな」
神崎さんが後を引き取り、大きなドラゴニックハンマーを叩き込みました。武器の種類は和奈ちゃんと同じですが、グラビティはアイスエイジインパクトです。
「いや! 俺ぁ、まだまだ戦える!」
ハンマーの横殴りをもろに食らいながらも、エルツィオーネはその場に踏みとどまりました。だけど、その体はぶーちゃんよりも激しく震えています。恐怖ではなく、疲労とダメージによって。
「家畜扱いしていた者に倒されるなんて、なんか哀れだよな」
鬼人さんが日本刀を一閃。絶空斬で傷口を斬り広げました。
確かに哀れですね。
だけど、同情はできません。
●風音・和奈(前が見えなくても・e13744)
めぐみさんの遠隔爆破が発動。
さすがのエルツィオーネも今度ばかりは踏ん張ることができず、爆風に吹き飛ばされた。そして、すぐにまた戻ってきた。逆方向からの爆風に煽られて。
第二の爆風を生み出したのはペテスさん。スマホからバッテリーを外して投擲したの。バッテリーが爆発する理屈はよく判らないけど。
「こんなところでつまづいてられないです! これはまだ前哨戦なんですから! もっと厳しい戦いが待ってるんですから!」
駄洒落を封印してマジメなことを口にするペテスさんの横で、リューディガーさんがリボルバー銃を発砲した。
偽りの空が投影された天井に向かって。
「命とは、理不尽に抗うもの。愛する同胞を守るもの。そして――」
弾丸が白い雲に呑み込まれたかと思うと、小気味良い音を立てて跳ね返ってきた。ガンスリンガー御得意の跳弾射撃ね。
「――意志を受け継ぐものだ」
「それは命ある者だけに限ったことじゃねえだろうが!」
そう言い返すエルツィオーネの顔は怒りに歪んでいた。
そして、血に濡れていた。
額に穿たれた小さな弾痕から流れ落ちる血。
「死神だって、理不尽には抗うし、愛する同胞を守るし、誰かの意志を……受け継ぐことも……でき……」
声は徐々に小さくなり、やがて、消えた。
エルツィオーネの体も消え失せた。色も形も失い、地面に染み込むように……。
「めぇ~」
緊張感ゼロの鳴き声が背後から聞こえた。
振り返ると、そこにいたのは羊の群れ。危機が去ったのを察して(あるいは最初から危機感なんて抱いてなかった?)戻ってきたみたい。
なにごともなかったかのように草をはむはむと食べ始めた子も何頭かいるわ。
平和だねぇ。
作者:土師三良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年4月19日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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