デスバレス電撃戦~退路を守れ!

作者:そうすけ


 《甦生氷城》が制圧され、鎧駅沖の海上にデスバレスの回廊が出現した数時間後――。
 万能戦艦ケルベロスブレイドの発着場は、ヘリオンの発艦準備でにわかに慌ただしくなっていた。
 デスバレスへの突入口が開いたのだ。

 整備の進むヘリオンを背後に、ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)が、有志のケルベロスたちに向けて第一声を発する。
「《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブングの制圧に向かったケルベロスたちだけど、無事に帰還したよ。ケルベロスブレイドを襲った巨大死神も撃破できて、まずは一安心……と言いたいところだけど、残念ながら戦いはまだ終わってない」
 耳の速い者たちはすでに聞き及んでいるはずだ。
 あるいは《甦生氷城》内で直接聞いているかもしれない。
 聖王女エロヒムの予言を。
「『グラビティ・チェインレーダー』で聖王女エロヒムの予言を確認し、解析を行った結果、予知能力が強化された。そして、突入口の向こう側にあるデスバレスの情報、及び死神の防衛作戦について情報を得る事ができたんだ」
 これはまさに、千載一遇のチャンスだろう。
「これから、万能戦艦ケルベロスブレイドはデスバレス回廊を突破し、冥府の海潜航能力を使って、聖王女エロヒムが囚われていると思われる『デスバレス深海層』を目指す」
 ここでゼノはしばらく目を閉じて黙り込んだ。
 深く息を吸い、吐き出す。そしてまた吸って――。
 勇気を出して目をあけた。
「みんなには、ケルベロスブレイドの退路を塞ぐ敵の後方遮断作戦を阻止してほしい。死神との決着をつける為にも、みんなの力が必要なんだ」
 とても危険な任務だ、とゼノはいう。
 デスバレス突入直後にケルベロスブレイドから降りて回廊付近に潜伏、やってきた敵を撃破する、という作戦だった。
「ハロウィンで手に入れた季節の魔力を利用して、死神がデスバレス側からの回廊の閉鎖を目論んでいることが分かった。回廊の閉鎖されれば、ケルベロスブレイドはデスバレスに取り残され、地上へ帰る道を失ってしまう……」
 《甦生氷城》の回廊は、デスバレス側からは地上に抜ける事ができる。
 しかし、地上側からは、冥府の海潜航能力をもつケルベロスブレイドが無ければ移動することが出来ない。
 つまり、地上に残ったケルベロスたちが、この企みを阻止する事はできないのだ。
 デスバレス突入したケルベロスブレイドから出撃し、敵を待ち伏せ。回廊閉鎖の儀式をおこなう死神を倒す以外に手はない。
「回廊のデスバレス側の出口で敵を待ってもらうんだけど、冥府の海潜航能力をもつケルベロスブレイドが去ったあとは、デスバレスの海が押し寄せて周囲を埋め尽くす。海中での戦いになるので、そのつもりでいてね」
 回廊閉鎖の儀式を行うのは、セイレム・カリュブディスという死神だ。
 ケルベロスブレイドが回廊から十分に離れてから、移動要塞ゼルクルウルを使って回廊付近まで接近し、儀式を行うらしい。
「襲撃のタイミングは、セイレムが儀式を開始してから。一旦始めた儀式を中断した時点で、セイレムは季節の魔力を失ってしまうらしいんだ。逆に、儀式を始める前に襲撃すると、一旦退却して『戦力を整えてから』回廊閉鎖の儀式を行いに戻ってくるよ。そうなったら、まず儀式の阻止は困難だ」
 ほかにも、セイレムと儀式を守るように戦う巨大要塞のゼルクルウルには構わず、セイレムと戦う必要がある。
 セイレムよりも、ゼルクルウルのほうが強いということもあるが……。
 ゼルクルウルと戦っている間に儀式が終わったら、回廊が閉じてしまう。
 儀式の終了、すなわち、ケルベロスブレイドの帰還が不可能になるということだ。
 なんとしても阻止しなくてはならない。
「死神の魔女・セイレムは死神がよくつかう攻撃のほかに、【蒼い渦】に複数の敵を巻き込んで苦しめたりするよ」
 生命エネルギーを吸い取る【刺す】攻撃、自身の傷を癒す【漂う】、怨念をかき集めた黒い弾丸を放つ【怨霊弾】、そして【蒼い渦】の4つのグラビティを持つ。
 武器は槍だ。
「巨大要塞のゼルクルウルの大きさは、数時間前にケルベロスブレイドを襲った巨大死神と同じぐらい。倒すのが大変だということが、大きさから分かってもらえると思う」
 【マルチプルミサイル】、【スパイラルアーム】、【コアブラスター】、どれも馴染みのあるグラビティだが、一つ一つの威力がその大きさに比例して強くなっている。
「かなり辛い戦いになるけど、みんなの退路を守りぬいてほしい。作戦終了後は、回廊を通って鎧駅沖に撤退して。ヘリオンで迎えに行くよ」


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
神宮時・あお(彼岸の白花・e04014)
ステイン・カツオ(砕拳・e04948)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
副島・二郎(不屈の破片・e56537)

■リプレイ


 甦生氷城の回廊に突入した直後、ヘリオンは万能戦艦ケルベロスブレイドを出撃した。いくらも飛ばないうちに、ケルベロスたちがヘリオンを飛び出す。重力に引かれて落下しながら、ヘリオンデバイスを装着した。
 デスバレスの海を裂くザルバルク剣化波動の効果は半径8キロだ。すぐに海水が押し寄せてくるだろう。それまでに身を潜めなくては。
 ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)とヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)が装着する『ジェットパック・デバイス』の効果で、ケルベロスたちは緩やかに滑空しながらデスバレスの海底に着地した。
 前方で破水音がして顔をあげると、小さく、点のようになったヘリオンが闇壁を突き破った所だった。
 宇宙空間でも飛行できる特別仕様のヘリオンでも、デスパレスの海を長時間飛ぶことはできない。回廊の出口まで短距離であるからこそ、厳しい水圧に耐え、ギリギリで鎧駅沖の海面まで飛んでいけるのだ。
(「どうかご無事で。必ずまたお会いまショウ!」)
 シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)は、ヘリオンを見送ると、すぐに身を潜められる岩場を探しはじめた。全員一緒に隠れられる場所が理想だが、暗くてよく見えない。万能戦艦ケルベロスブレイドが遠ざかるにつれて、急速に光が減じ、辺りの景色が濃紺に沈んでいく。
(「Oh……これは早く隠れ場所を見つけないとまずいデスネ」)
 ウィッカもゴーグルを装着して辺りをみまわした。
 甦生氷城の回廊は思っていたよりも広かった。万能戦艦が悠々と通れるぐらいなのだから、当然といえば当然なのだが。ここを閉鎖する……一体、セイレム・カリュブディスはどんな儀式を行うのだろうか。
(「あ、そうだ。海水で満たされれば、上も下もなくなりますね」)
 ハンドサインを出してみんなの注意を引き、上を指さした。
 なるほど、とシィカとヴォルフが頷く。
(「いまなら飛べるからな。それもありか」)
 海水が満たされるまでの間、マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)とステイン・カツオ(砕拳・e04948)の『アームドアーム・デバイス』で天井に鋼の爪をたてて張りついていればいい。
 マークが、急げ、とハンドサインを出した。
(「ザルバルク剣化波動の効果圏内から外れた。すぐに海水が押し寄せてくるぞ」)
 直後、低い地鳴りが通路に満ちる。
 水滴の音が、ゴボゴボという低い水の音に変化し、数メートル先で水が噴出し、大量の海水が水煙を上げて押し寄せた。もっと近くでは頭上を覆っていた結界壁に亀裂が入り、そこから漏れた水が降りかかってくる。
 慌て飛び立った。
 ステインたちが天井の湿った岩に先をピッケル状に変形させたアームドアームを突き立て体を固定したところへ、ロープなどを使って、押し寄せてくる海水に揉まれ、流されないよう体をつないでいく。
 ようやく体を固定したところで、ステインが何かに気づいたように指でくるくると輪をかきだした。体の向きを変えよう、といっているようだ。
(「うっかりしておりました。セイレムたちは回廊の奥からやってくるはずでございます。このまま出口に顔を……つまり、奥からやってくるセイレムたちに尻を向けて待つのは失礼ではないでしょうか」)
 失礼かどうかはともかく、間抜けではある。
 神宮時・あお(彼岸の白花・e04014)とマヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)の『ゴッドサイト・デバイス』が働いているので、敵に先に見つけられ不意打ちをくらうことはないだろうが。
 そうしましょう、とあおが目をそらすようにコクリと頷く。
 ケルベロスたちは急いで体の向きを変えた。
 回廊のあちこちで次々に水が噴出し、ケルベロスたちの体に当たって水飛沫をあげた。マヒナのパートナー『アロアロ』が驚いて、小さく叫び声をあげる。
「大丈夫だよ、アロアロ」
 マヒナは傍らで震えるパートナーの背中を、指輪をはめた左手で優しくなでてやった。
 海水はごうごうと音をたてて、すでに広大な回廊の半分を満たしている。
 副島・二郎(不屈の破片・e56537)は出口を振り返った。
 ケルベロスブレイドの光がとどかないところからは、暗黒のトンネルが伸びている。凍えるような海水を湛えて。
「帰る道は、守り抜く。……絶対に」


 敵の接近に最初に気づいたのは、やはりゴッドサイト・デバイスを装着している二人だった。
 あおがすっと腕を伸ばして、真っ暗な先の一点を示す。
 蒼よりもさらに深い蒼の影を背後に、ゆらゆらと揺れる光点あった。大きな光の塊がひときわ明るく輝き、一瞬膨れ上がったかと思うと、無数の小さな光となって放射状にゆっくりと飛び散っていく。それはどこまでも遠くにあり、水の底から見上げる星空のように見えた。
 死神、セイレム・カリュブディスだ。後ろの巨大な影は巨大要塞のゼルクルウルだろう。暗い海の中をゆったりと漂いながら、それでもかなりのスピードで出口に近づいてくる。
 やがて、巨大な影の中に赤い色が滲むように浮かびあがり、止まった。そこで儀式を始めるようだ。
(「……死神の、思惑、通りに、なんて、絶対に、させ、ません」)
 こぽりと音をたてて空気の泡が吐き出された。
(「それではケルベロスライブ、スタートデース! ロックンロール!!」)
 シィカの宣言でみなが一斉にライトをつける。
 明るい水色の光の筋が、澄み切った海水のはるか下にまで届く。まるでガラスの中に浮かんでいるかのような錯覚を覚えた。
 二郎はできるだけ速く、遠くに腕を出してケルベロスチェインを振り回し、遠心力を使って思い切り水中に守護魔法陣を描いた。
 ケルベロスたちの体がグラビティの防御膜に包まれる。
(「行くぞ」)
 襲撃に気づいたゼルクルウルが、儀式を執り行い始めたセイレム・カリュブディスの後ろを回って、ケルベロスたちを迎え撃ちに出てきた。
 歩きながらミサイルハッチを開こうとしているらしく、巨体のいたるところから泡の柱が立ちあがる。
(「おとなしくしているデース!」)
 シィカがエネルギー光弾をぶち当てて、ミサイルハッチの動きを封じにかかった。
 ハッチを開き切ろうと巨体を揺すってもがくゼルクルウルの傍らを、ウィッカたちが通り抜けていく。
(「ケルベロスブレイドが、みなさんが無事に帰れるように、セイレムは確実に撃破します!」)
 腕を振るい、デスパレスの海水を凍らせた氷結輪を飛ばす。
 巨体が横へずれて氷結輪を受け、セイレムへの攻撃を防いだ。砕けた氷破がライトの光りを受けてキラキラ輝きながら、ゼルクルウルの動きによって起こった海水の動きによって横へ吹き飛ばされていく。
 ようやくミサイルポットの一部が開いたらしく、魚雷が先端から気泡を出しながら、空気中を飛ぶようにケルベロスたちに向かってきた。
 マークがショルダーシールドで魚雷を受ける。
 水中に爆発の赤いひらめきが見えたと思ったら、白い泡が大量に発生した。白く閉ざされた前方から飛び出してきた残りの魚雷を、ステインがバトルオーラで叩き落とす。
(「本当に邪魔なデカブツでございますね。さっさと片づけたいところでございますが、ここはみなさんにお任せして先へ進みましょう」)
 シィカと『アロアロ』にゼルクルウルのお守を任せたケルベロスたちは、大量の泡に紛れてゼルクルウルをやり過ごし、儀式を行っているセイレムへ迫った。
 さすがに気づいているはずなのに、セイレムは儀式を中断するどころか振り返りもしない。
 ゆっくりと青から赤紫へ、そしてまた青へと光色を変化させる魔法陣の中央に立たち、半透明のクラゲの傘をふわり、ふわりと波打たせている。
 あおは砲撃形態にしたドラゴニックハンマーをあげて、セイレムに狙いを定めた。
(「……回廊の、封鎖。…絶対に、阻止、しなくては、いけません、ね」)
 発射とともに水中に波浪が生じ、波の咆哮が恐ろしい泡沫を引いて一直線に突き進んでいく。
 背中にヒットした瞬間、セイレムが仰け反った。衝撃で体が浮き上がり、前へ押し出されたが、クラゲの腕を瞬かせて魔法陣の中に踏みとどまる。
 セイレムがゆらり、ゆらゆらと青い光点をクラゲの傘から腕に走らせて受けた傷を癒しながら、魔法陣の中央へ体を戻し始めた。
(「そうはさせるか!」)
 ヴォルフは海の精霊を召喚した。
(『Weigern……。約束しよう、海を汚す悪しき者を必ず倒すと』)
 ヴォルフと契約を結んだ海の精霊たちがセイレムの周りに集い、波紋を広げる。
 治癒を妨げられた死神が、ついに青白い顔をケルベロスたちへ向けた。

 ――ゼルクルウル! ケルベロスに儀式の邪魔をさせないで!!

 美しい口から発せられたのは音ではなく渦。言葉が怒りの渦となって魔法陣から押し寄せて来て、ケルベロスたちの前進を阻む。
 同時にゼルクルウルも動いた。
 胸部を開き、コアブラスターをヴォルフへ放つ。
 『アロアロ』が庇いに入り、一直線に突き進む破壊の光を体で遮った。
(「アロアロ!!」)
 平気だよ、とマヒナに向けて弱々しく手を振り返す。気丈にも、次はアナタの番、と儀式を再開し始めたセイレムを指さした。
 魔法陣の周りに珊瑚が生まれ、急速に枝を伸ばし始めていた。珊瑚は胞子を飛ばし、どんどん回廊に広がっていく。
 薄いピンク色から濃い赤色、そして青みを含む赤へ。光放ちながら成長していく珊瑚のグラデーションはとても美しく、時と場所が違えば見惚れただろう。
 さあ早く、と『アロアロ』。
(「うん、わかった」)
 マヒナは胸の前で手の指を組むと、海に祈りをささげた。いたずらな波を呼び起こす。
(『ナル、力を貸して』)
 海水が動いた。
 抗いようのない重い水流が、セイレムの手足を絡め捕って引きちぎろうとする。死神は抗おうとするが、思うように波を振り払えない。
 シィカの猛攻のせいでもあるが、ゼルクルウルもその巨体が災いして、体を回し切れないでいる。
 敵が動きを鈍らせて反撃できないでいるうちに、二郎が仲間たちの傷を癒した。


(『RED EYE ON』)
 赤く光ったマークのカメラアイが、死神の冷たく光る青い目を射抜く。赤い光はセイレムの脳波を激しく描き乱し、怒りを沸き立たせた。
 魔法陣がさざなみ立ち、乱れる。
 その間もマークのAIはフル稼働していた。背後のゼルクルウルを解析するが、データに乏しく、いまだ攻略法を見いだせていない。
 『アロアロ』が復帰してゼルクルウルの押さえに戻ったが、たった二人であの巨体をいつまで止めておけるか……。
(「考えている暇があったらせっせと手を動かすでございますよ!」)
 ステインがガネーシャ・パズルを開き、摩訶不思議な檻から稲妻を纏った水龍を解き放つ。
 水龍は大きく開いた咢で珊瑚の林を食い壊しながら、セイレムに迫り、その体に電流を流して痺れさせた。
 ステインの背後でも、仲間が放った水龍が海中に雷鳴を轟かせ、回廊全体が黄色に染まった。
 ウィッカが手のひらをセイレムに向ける。
(「稲妻の次は炎で焼いてさしあげましょう」)
 竜語で呪文を唱え、炎纏うドラゴンの幻影を手のひらの先に作り上げる。
(「お行きなさい」)
 海水を沸き立たせ、白い泡を残しながら火竜が飛んで行く。珊瑚の上で漂い、急ぎ成長させようとするセイレムの体を焼いた。

 ――くっ、おのれ!!

 セイレムが死神の槍を振るい、深海に沈んでいた悪霊たちを呼び起こす。悪霊たちは牙を剥く深海魚の姿に変化して、ケルベロスたちに襲い掛かってきた。
 マークとステインが壁を作って防御したが、すべてを塞ぎ切れない。怨霊弾のいくつかが二人の間を抜けて、あおに被弾した。
 すぐさま二郎が青黒い混沌の水をあおに放つ。
(『――命を支える、力となれ』)
 温かな水流が、傷ついた華奢な体を包み込み、傷をたちまち癒した。
 やれるか、とあおハンドサインを送る。
(「この程度、の……痛み、世界が、デウスエクスに、受けた……ものに、比べれば……」)
 何でもない、とあおは二郎に頷き返した。
 暁に散る花一華を胸に押し抱き、すっとまぶたを伏せて怨嗟の詩を口ずさむ。
(『……満ちる、朽ちる。……理を翻す、歪曲の、調べ……』)
 世界が負った痛みの記憶が回廊に押し寄せ、逆まき泡立つ怒涛となってセイレムに襲い掛かった。
 回路全体の三分の二を覆ったところで、珊瑚の成長がぴたりと止まる。
(「いまだ。回廊を塞ぐ珊瑚ごと、セイレムをやるぞ!」)
 最終攻撃の口火をヴォルフが切った。
 鈍色の尖る塊を纏わせた鋼拳を振るい、回廊を半ば閉ざす珊瑚を砕く。
 戦闘不能者を出さないことを第一にして動いていた二郎も、攻撃に加わった。
(「エアの残量も心許ない。一刻も早く儀式を止めて脱出しなくては――」)
 心に湧く怒りを激しい雷に変えて、セイレムを撃った。
 珊瑚が崩れ、細かな破片となって海中をただよう。
 桜の花びらが舞い散るような幻想的な景色の中心で、青白く体を発光させながらセイレムが反撃に出た。
(「無駄な悪あがきでございますよ!」)
 ステインがギュッと圧縮した悪意を指先から放つ。被弾した直後、セイレムの体を黒い竜巻がさらい、地獄へ送り返した。


(「――ぬ!!」)
 背後からゼルクルウルが放ったミサイル群をマークが肩のシールドで受け止める。
 守るべき対象を失って、ようやくシィカにうけた攻撃のダメージから回復したようだ。ゼルクルウルは巨大な赤い目を細めて、ケルベロスたちを睨んだ。
 二郎は水中ボンベのメーターを指で刺した後、ハンドサインで脱出優先を全員に伝えた。
 マークもそれに賛同した。
(「こいつの戦闘力を解析できていない。現状、あれだけ攻撃されてもまだまだ余裕があるようだしな……」)
 これから戦って倒すだけの時間の余裕がない。
 ウィッカが槍状に変形させたブラックスライムを動きだしたゼルクルウルに投げ、つき刺した。
(「撤退しましょう。目的である儀式は阻止し、出口の封鎖は防げましたし」)
 ケルベロスたちは一丸となって出口を目指す。
 ゼルクルウルが脱出を阻もうとするが、ウィッカたちのチェイスアート・デバイスが効果を発揮してやすやすと巨体をかわすことができた。
 抜けられてしまったことで気が抜けたのか、それとも追いたところで倒し切れないと思ったのか、ゼルクルウルはその場に立ち止まってケルベロスたちを見送る。
 マヒナはデバイスが放つビームにけん引されながら、回廊の奥を振り返った。
 デスバレスの回廊のずっとずっと奥で、いま、この時もケルベロスブレイドに乗った大切な人達が戦ってる……。
(「皆が無事に帰って来られますように」)
 マヒナはそっと左薬指の指輪に触れると、大切な友人から贈られたアニミズムアンクを強く握りしめた。

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月19日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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