デスバレス電撃戦~終わらぬ波濤

作者:つじ

●デスバレスに至る道
 万能戦艦ケルベロスブレイド内部。ヘリオンごと同乗していたヘリオライダーの一人、白鳥沢・慧斗(暁のヘリオライダー・en0250)が、ケルベロス達を集め、話し始める。
 先程の戦いの末、《甦生氷城》の制圧は成った。ケルベロスブレイドを襲った巨大死神も撃破され、その戦いに参加していた者達も戻ってきた頃合いだ。しかし、どうやらまだ気を抜く暇はないらしい。
「皆さん、どうか聞いてください! デスバレスへ突入する算段がつきました!!」
 《甦生氷城》で戦っていたケルベロス達から、聖王女エロヒムの声を聴いたという報告があったが、それと同じものを『グラビティ・チェインレーダー』でも確認する事ができた。その解析結果と、強化された予知能力により、鎧駅沖の海上に生じた回廊の向こう側、デスバレスの情報及び、死神の防衛作戦についての情報が得られたのだと、彼は言う。
 これはまさに、千載一遇のチャンスと見て良いだろう。この機を活かし、万能戦艦ケルベロスブレイドは、デスバレス回廊を突破し、冥府の海潜航能力を使って、聖王女エロヒムが囚われていると思われる『デスバレス深海層』を目指すことになる。
「危険な任務になるかと思いますが、死神勢力と決着をつけるまたとない機会です! どうか、皆さんの力を貸してください!!」
 
 この戦い、そしてデスバレスの重要性は言うまでもないだろう。それゆえに、敵側の防衛体制もかなり強固なものになっている。侵入者の迎撃に当たるのは死神の最精鋭軍、『ヴェロニカ軍団』。撃破された者をサルヴェージして戦い続けるという、死神の特性を生かした不死の軍勢だ。
「この情報だけでも厄介さは分かって頂けると思うのですが、今回はその上に、イルカルラ・カラミティの手で、さらなる強化が施されています……!」
 敵の儀式によって強化されているのは、よりにもよってその不死性だ。
 主戦力である奈落の兵団は、撃破されるたびに幹部の元で蘇生されて再出撃してくる。そしてその幹部はと言えば、『撃破されたその場で蘇生されて再出撃』するという出鱈目具合。その特性上、一度ケルベロスブレイドに取りつかれれば、甚大な被害を被ってしまう事になるだろう。
「これを防ぐためには、敵幹部をケルベロスブレイドに近づけさせないように迎撃する必要があるのです!!」
 無限に蘇生して再出撃する敵を足止めするという、非常に厳しい戦いになるのだが……。
「勿論、永遠に戦い続けるわけではありません! 我々とは別に、イルカルラ・カラミティを撃破する為のチームが編成されています!!」
 強化型ケルベロス大砲を利用して、ヴェロニカ軍団を飛び越え、敵の儀式場に突入するという、こちらはこちらで大変な作戦が待っている。彼らがイルカルラ・カラミティを撃破するか、儀式を破壊できれば、敵の組成と再出撃が止まる筈。それまでの時間をどうにか耐え抜き、反撃を成してほしいと慧斗は語った。
 
「ヴェロニカ軍団の幹部は総勢7体、皆さんにはその内の一人、『擁すグズル』の迎撃をお願いします!!」
 一見すれば年若い少女のようでもあるが、その中身は根っからの実力主義者。強者を好み、暇さえあれば強い死者を探しているという。当然本人も相当の実力者であり、彼女の振るう斧の刃は、対峙するものに不可視の圧力を感じさせるほどだ。
「そんな敵と戦い続けるというのは生半なことではないと思います! しかし、逆にこの軍勢を撃破できれば、ケルベロスブレイドを阻止できる軍団を再編成するのは、死神であっても難しいでしょう!!」
 成功させれば、聖王女エロヒムのいる、デスバレス深海層への大きな一歩となるだろう。だが失敗し、ケルベロスブレイドが破壊されればこちらは一巻の終わり。
「我々の命運をかけた大勝負と言っても過言ではないでしょう! それでも、皆さんならばものにできると、僕は確信しています!!!」
 だから、どうかご無事で。勝利をもたらしてくださいと、そう言い添えて、少年はケルベロス達を送り出した。


参加者
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)
エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)

■リプレイ

●迎撃
 デスバレスへと乗り込んだケルベロス達を迎えたのは、黒翼の兵から為る死神の精鋭、ヴェロニカの軍勢だった。
 それを指揮する七人の幹部の一人、『擁すグズル』は、手にした戦斧の先を戦艦ケルベロスブレイドへと向け、高らかに宣言する。
「ここまで乗り込んで来た事は褒めてやろう! だが、これで終わりだ!」
 その言葉と同時に、黒翼の兵団が舞い上がる。前進を開始した敵軍と合わせるように、イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)等ケルベロスもまた前に出た。
「ヴァルキュリアが来るなんて、びっくりだよね」
 そんなことを呟きながらも、イズナは表情を引き締める。
「でも、ここは通さないから!」
「ああ、此処から先は通さない! 絶対に……絶対に!!」
 これ以上、死神に大事なものを奪われてなるものかと、火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)も呼応する。背に守るそれは地球の希望、そして、仲間達の帰る場所でもあるのだから。
「粘るよ、みんな! 力だけじゃないケルベロスを見せつけてやるんだよ!」
 七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)もそれに続く。通常ならば、艦の付近に陣を張って待ち受けるところだが、今回ばかりはそうもいかない。
「ものすごく大変な相手ですね……」
「確かに、中々難しそうな状況ですが」
 思わずそう口にしたエルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)に、中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186)が同意する。同様に、塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)も軽く眉根を寄せてみせた。
「耐久戦にしかならないからね……ま、ひと踏ん張りするかね」
「ええ、絶対に負けませんよ」
 決意を込めて竜矢が言う。『無限に再生する相手』の脅威は理解している、それでも、勝算は確かにあるのだから。
「――滅びないものなど無い。忘れたとは言わせない」
「そうだね、それを分からせてやるためにも――根比べと行こうか」
 霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)の言葉にアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)が頷いて――ついに、両者が激突する。

●防波
「さあ、退いてもらおうか!」
 先陣を切って突っ込んで来たのは、他ならぬ幹部本人。部下を置き去りにしながら迫り、手にした戦斧を振るう。その暴風の如き一太刀を受けつつ、翔子とアンセルムが距離を詰め、その前に立ち塞がった。
「そう言わずにさ、ゆっくりしていきなよ」
 重い一撃に気圧されぬよう踏み止まる翔子の背から、飛び出したひなみくが混沌の波を展開、ようやく追いついてきた敵兵諸共、グズルを押し返しにかかる。
「やっぱり、自分から前に出るタイプ……」
 戦列における敵の位置を割り出したひなみくは、「瑪璃瑠の予測が当たったね」と胸中で呟く。そしてその視線を、続けて奈落の兵団へと。創世衝波を抜ける者、躱す者、それらは一旦こちらを向いているが、連中の目指す先はやはり、ケルベロスブレイドだ。
 直剣を手に迫る兵隊を竜矢が迎撃、得物同士が刃を咬み合わせ、火花を散らす。その間に、アンセルムと和希の連携攻撃、ライトニングボルトとスターゲイザーを捌きながら、グズルが号令をかけた。
「構う必要はない、進め!」
「行かせませんよ……!」
 目の前の敵を押し返し、竜矢は氷結輪から溢れ出す冷気で、エルムはオウガメタルの黒光で敵集団を牽制。しかし、それでも取りこぼした数体が、彼等の囲いを突破してしまう。
「……!」
 こんな連中、皆を乗せる戦艦に触れる事さえさせたくない。ひなみくと和希はそれぞれの気負いから、思わずそちらを振り返る。追うべきか、そんな一瞬の迷いを切ったのは、後列に位置する瑪璃瑠だった。
「大丈夫だよ、前を向いて!」
 そう、現在死神勢力の標的とされている戦艦だが、他のケルベロス達も乗せたそれが、無防備で居るはずもない。
「目の付け所は良かったけどね……」
 召喚した光る猫で残った敵を攻撃しながらイズナが言う。彼女の言う通り、戦艦の尾のような部位――近接迎撃骨針が一薙ぎされれば、迫る敵ヴァルキュリア達が、血煙となって消えていった。この様子ならば、敵配下の数体程度は取り逃がしても問題はないだろう。
 そうなるとやはり、一番の問題は、『波状攻撃』の根元である敵幹部ということになるか。
「ふむ、一筋縄ではいかんな」
 ケルベロスの後方で雷神砲が一閃され、他部隊の兵士が墜ちていくのを見ながらグズルが呟く。それでも余裕の表情が変わらないのは、『無限再生』のため――グズルの隣で、戦艦の防衛機構に殺された兵士が蘇生。戦列へと戻っていく。
「傷一つ無い状態で復活、かあ」
「それでも少しは足止めになりそう?」
 それ自体は予知されていたこともあり、驚きはない。イズナと瑪璃瑠はしっかりと敵を見据え、得られた情報を分析。倒される前の毒や氷も消えているが、それは敵の守護陣の影響なども同じだろう、そして復活までに多少のタイムラグがある……直面しなければ得られないそれらを共有して。
「医者要らずってことかい、便利だねえ」
 こっちは一回死んだら終わりだってのに、とうんざりしたように翔子がボヤく。当然、それならそれでと思考は回っているのだが。
「でも、便利すぎるのも考え物だよ」
「そうだね、あの様子だと……」
 瑪璃瑠も同じ感想を抱いたようで、小さく頷く。敵は無限再生を当然のように受け入れすぎている。強いて言うなら、グズルがやられた部下に文句を言いたそうだが、その程度。様々な角度で反撃の糸口を探りながら、ケルベロス達は『耐える闘い』に挑んで行った。

「大丈夫ですか……?」
 エルムの声と共に、傷付いた味方へ癒しの雪が優しく降る。翔子の呼ぶ『翠雨』もまた、そこに力を貸すが。
 この戦いに当たって、最も脅威となるのはやはり幹部であるグズルの火力だ。叩き付けられる大斧の衝撃を、ケルベロス等は分担し、都度回復して凌いでいた。しかし、もしここに、連携による追い打ちが加われば。
「強き者よ、私に続け!」
 戦場に在ってなお、彼女の声はよく通る。その号令に従うため、奈落の兵団はそれぞれに武器を構えた。
「させないよ」
 が、イズナの縛霊手から射出された光弾が、彼等の出足を挫く。影響を逃れた者も居るようだが、彼女はそれを見落とすことなく。
「二体残ってる、お願い!」
「了解しました」
「シロ、やれるね!?」
 その声に応えた竜矢のブレスが弓を引く個体を牽制し、ボクスドラゴンは体当たりで敵の姿勢を崩す。それでも主の命に応えるべく、奈落の兵団はそれぞれグズルに続けて攻撃を仕掛けた。
「……誰も付いてこれんとは、情けない」
 しかし乱れた足並みは如何ともしがたく、それはグズルの狙う連携とは程遠い。精鋭部隊が聞いて呆れる、と自ら苦笑を浮かべながらも、その目は中列に位置取るケルベロスの方へと向けられている。先程のイズナの動きも当然ながら、エルムもまた次の仕込みを兼ねるように、兵団の戦列を吹雪で乱していく。グズルの重い攻撃に、部下が続けて攻撃して来れば、一息に各個撃破されかねない……ゆえに続く戦闘でも、ケルベロス等は兵団に圧力をかける事を欠かさぬよう動いていった。
「これはむしろ、相手を褒めるべきか?」
 厄介な事だと、どこか楽し気にグズルは言う。そこへ、飛び込んできた和希がブーツによる一撃を見舞った。
「戦闘中に考え事ですか?」
 同時に、冷えた口調で彼は言う。スナイパーに位置する彼の狙いは、開幕からほぼグズルのみに集中している。敵が防御を捨てているからこそできる行動だが、これほど明確に意図を伝える方法もそうそうない。
「面白い、そうも私の刃が欲しいか」
 凶暴な笑みで、グズルは躊躇いなくそれに応じる。お返しに、と振るわれるは刃の颶風。斬り裂くのではなく破壊するのだと、そう宣言するように大斧が奔る。そこに、多大なプレッシャーを伴う刃の前へ、竜矢が割り込んだ。
「折れませんよ、この程度では……!」
 受け止めるのではなく、力ずくでぶつけるようにしてグレイブを振るう。その瞳を紅く輝かせ、彼は仲間達を襲うその攻撃を、真っ向から迎え撃った。当然無傷では済まないが、こうして仲間のために身を尽くす時にこそ、彼は真の力を発揮する。激痛も、圧力も、撥ね退けるように。そしてその強い意志を、敵に叩き付けるように。
「喰らい付け、妄執の毒蛇」
 竜矢が戦斧を弾いたそこに、アンセルムを包む『鎖』が緑の大蛇となって喰らい付く。それは味方の作った隙を無駄にしないための攻撃であり、同時にグズルの侵攻に抗うための一手でもある。大蛇は敵を顎に捕らえたまま、押し返すようにその身を振るった。
「ええい、鬱陶しい――!」
 これは絶好の機会だろう、とエルムは悟る。攻撃に、回復に、都度適切に行動できるよう努めていた彼は、今も戦況を冷静に分析していた。
 無限再生がある以上、ここでグズルを倒す意味は薄いか。むしろ他の兵士達のように、万全の状態で蘇生することを考えると、逆効果まである。しかし、敵の再生に一手使わせ、和希や竜矢が意図するように、『侵攻よりも戦いに没頭させる』のならば――。
「和希さん!」
 氷結輪から生じた冷気を、敵の足元へと向ける。一瞬の氷結で動きを止めたところへ、エルムの意図を汲んだ和希がサイコフォースを放った。
「ぐ、ォ――!?」
 直撃。眼前の爆発をもろに喰らい、死神はそこで事切れる。冥府の海に、その身は消えて。
「――ははは! 私を殺すとは、やるではないか!」
 瞬きの後に、グズルは傷一つ無い姿で蘇生した。
「分かってはいましたが……」
「うん、他の兵士達と同じだね」
 エルムの呟きに、再生した敵の様子を観察していたひなみくが頷く。
「無駄な努力だったな。それで、不死身の私を相手に、お前達はどうする?」
「別に、本当に死ぬまで倒すだけだよ」
 真の狙いを隠すように平坦な声音で、けれど嘘ではない言葉を選び、アンセルムはグズルの挑発に答えてみせた。
 その時が、きっと訪れる事を信じて。

●逆転
「お前達に勝ち目はない。いい加減諦めたらどうだ?」
 防戦は続く。何度倒されようとも、死神は即座に蘇生していく。その防御を気にしない猛攻に、傷付いたケルベロス達はじわじわと押されていた。それでもなお、折れぬ思いで彼等は抗う。
「何度も蘇るなら……何度だって殺すまでだ! どっちのスタミナが尽きるか勝負なんだよ!!!
 キャラメル色の如意棒に炎を纏わせ、ひなみくが敵陣を薙げば、瑪璃瑠がアンクを翳して味方を癒す。誰一人倒れさせぬと、気を吐いて。
「生きるんだよ、生かすんだよ! それがボクたち、瑪璃瑠なんだよ!」
 転機は、そこで訪れた。死と再生のループ、ケルベロスブレイドに突っ込んで行った敵兵が、グズルの元に戻ってこない。
「――ああ、ついに防衛機構を破ったようだな」
 それに気付いた彼女は、そう笑みを浮かべた。
 敵艦の迎撃機構に落とされた者が居ない。つまり、自分が辿り着くまでもなくそちらの戦場は決したのだと。ならば。
「中々楽しめたぞ。お前達の命が尽きた暁には、必ず私の麾下に加えよう」
 グズルの合図に応えて、奈落の兵団は一部を除き、一斉に翼を打ち振るう。これまでは、グズル本人の前進を優先してきた。だがこうして、形振り構わず一度に、そしてばらばらに飛べば、ケルベロスであっても止めることは出来ないだろう。
 包囲を突破した多数の兵士を、ひなみくが、和希が、急ぎ撃ち落としにかかる。しかし。
「終わりだ」
 撃ち漏らした者達が、ケルベロスブレイドへと飛翔する。彼女は勝利を宣言し――。
「――なに?」
 そこでようやく、異変の本質に気付いた。目の前で落とされた奈落の兵団さえ、誰一人『戻ってこない』。

 当然、ケルベロス達はいち早くそれに気付いていた。守備を重視しながらも、敵の進軍阻止と、反撃の糸口を探すことに注力してきた彼等は、対応も敵の数手先を行っている。
 ――今回の作戦に対する深い理解の賜物だろう、意識としても戦力としても、このチームのリソース配分は理想的と言って良い。
「行きましょう皆さん、反撃です!」
 エルムの声と共に、彼の降らせていた癒しの雪が、吹雪となって敵を襲う。それを合図に、より攻撃的にシフトした一同は、戸惑うグズルに、変わらず特攻を続ける兵団に、畳みかけるように仕掛けていく。
「……馬鹿な。破ったのか、カラミティを」
 その動きを前に、ようやくグズルも状況を悟った。驚愕に目を見開いた彼女へ、アンセルムが植物を纏わせた蹴りを見舞う。
「無敵タイム、楽しかった?」
 揺さぶり、混乱をもたらし、その間に敵を追い詰め――。
「……見事、と言うほかないな」
 壊滅的な状況を察したグズルが苦い表情を浮かべる。作戦は失敗、不死身の軍団は瓦解した。ならばせめて、お前達だけでも。
「心中に付き合うつもりはありませんよ」
 敵はなおも強力。だが、最大の長所である不死を失った相手を前に、和希の瞳の奥で暗い炎が揺らぐ。彼の展開する『蒼き刃の嵐』を皮切りに、その場を凌ぐのではなく、今度こそ仕留めるために、ケルベロス達は力を注いだ。
 壁役に徹していた翔子も攻撃に回り、轟竜砲の音色をそこに響かせる。
「さすがにしぶといね……!」
「でも、それもここまでだよ!」
 それは勿論、これまで味方を支えるのに徹してきた瑪璃瑠も同様。これを機と見た彼女は、双子座の力によって分身する。その身を分かつとも、ピンクの瞳と金の瞳は同じ物を見つめて。
「ユメは傍ら!」「ウツツの果てまで!」
「夢現十字撃・改め」「真名……」「「ムゲン・クロノス!!」」
 二つの斬撃が敵の中心で交わり、死神の備えた鎧を切り裂き砕く。さらにはその身を、黄金の鎖が絡め取った。
「逃がさない、進ませない――最初に言った通りだよ」
 イズナの操る『貪り喰らう魔法の紐』は、その名に違わぬ力で、死神を大地に繋ぎ止める。
「だが、まだ……!」
 恐らくは最後の抵抗、なおも前進したグズルの放つ、波濤をも両断するような斬撃を、ひなみくが正面から弾き飛ばす。互いに傷付き、鈍った体であったとしても、明暗の程は明らかで。
 前のめりに進む姿勢のまま、ひなみくはグズルの『気』、死神の首に手をかけた。
 奪われたものが、もう戻る事はないとしても。
「今度は、私が奪ってやる」
 強い意志の元、彼女はその手で勝利を、命を。掴み、そして奪い取った。

●一時の凪
 指揮官、そして再生能力も奪われた残りの兵士達は、ほどなく掃討することが出来た。これでひとまずは、帰る場所を守り切れたと思っていいだろう。
「……これで、ようやく聖王女サマに会いに行けるかな」
 やれやれと肩を回して、翔子がそちらへ目を向けた。

 この先、デスバレスの深層へ、ケルベロス達は歩みを進める。

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月19日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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