デスバレス電撃戦～不死なる軍を飛び越えて

■リプレイ

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　強化型ケルベロス大砲。
　初の実戦投入となる今作戦、『出発』の時を待つケルベロスたちの姿があった。
（「大きな戦いは怖いけれども、大丈夫」）
　死神幹部との相対に臨む七星・さくら（緋陽に咲う花・e04235）。その顔に満ちるのは、殊の外、穏やかな微笑みだった。理由は、さくらのすぐそばに。
（「頼もしい皆がいるし。比翼連理のお守りがあなたの所へ導いてくれる筈だから……いってきます」）
　そしてさくらは、飛ぶ。ケルベロスブレイドの先、死に満ちた海……デスバレスへ。
　続いて、ケルベロス大砲に装填、撃ち出されるのは、源・那岐（疾風の舞姫・e01215）。
　那岐の胸には、死神への嫌悪感。祖母や兄の肉体が死神に奪われた過去に起因するものだ。
　無論、それだけではない。仲間を、世界を守りたいという気持ち。
　一言には収まらぬ感情を抱き、那岐たちが目指すは、冥府の神、イルカルラ・カラミティ。
　飛翔する那岐を追うのは、ルーシィド・マインドギア（眠り姫・e63107）。慣れぬ火力役を担うとあって、若干体がこわばる。
　だが、この作戦には、絆ある親友も参加している。その顔を思い浮かべると、緊張も和らいだ。
　粛々と行われる出撃。だが、カルロス・マクジョージ（満月の下でディナーはいかが・e05674）は気づいた。というかわかってた。
「いややっぱこれ人間大砲じゃん……こrおわあーーーっっ！！！」
　しかし、最早流れは止められず。カルロスもまた撃ち出された。盛大に。
　射出。衝撃の輪をくぐり、加速する折平・茜（モノクロームの中に・e25654）の眼下、ケルベロスブレイドに殺到する敵群……ヴェロニカ軍が見えた。
（「茜にさくら、見知った顔も多いからな。無様な姿を晒すわけにはいかぬ。気合い入れていくぞ！」）
　仲間同様、空の人となった劉・沙門（激情の拳・e29501）は、一足先に飛翔する仲間たへの頼もしさを抱きつつ、先を見据えた。
　やがて飛距離も８キロを超過したところで、一行は、大小無数の剣に雨にさらされた。ケルベロスブレイドの放つ波動を受け、剣化したザルバルクだ。
　スノードロップ・シングージ（抜けば魂散る絶死の魔刃・e23453）は、文字通りの剣の雨を突っ切り、海中に突入。
　『前の自分』にとって恨みがあるスノードロップとしては、死神には『少々』痛い目にあって貰う所存。それに、オラトリオとして、聖王女の存在も気になる。
　程なく、白石・明日香（愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516）は、不可思議な光景に出くわす。とめどなく降る剣の群れが、波動の降下範囲を外れ、海水に戻っていくのだ。
　しかしそれも、すぐに終わる。既にデスバレスエリア内にあると理解した明日香は、速度を落とし始めた。
　行く手に、目標となる七大審問官が１人、ジェミニ・フィリウスを捉えたからである。
「いや、おかしいおかしい。ケルベロスが飛んでくるとか」
　絵に描いたように浮足立つフィリウス。だが。
「僕の『アート』、見ていってくれるかな。お代は、キミらの命でね」
　巨大な絵筆を構え、ケルベロスの迎撃を開始するのだった。

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「あら？　疲れているようだけど、ヴェロニカ軍団復活の儀式のせいかしら？」
　さくらに指摘され、フィリウスが肩をすくめた。正解、らしい。
「その綺麗な顔、絶望で塗り替えてあげるよ」
　さくらを狙うフィリウスの体が、何かに引っ張られたように硬直した。見ればその原因は、赤い糸。さくらと死神を結ぶもの。
　ぐん、と腕を振って。フィリウスは、虚空に怪魚を描き出すと、ケルベロスに毒を届けにかかった。
　戦場を自分色に染めんとする死神に対し、黒医者・明日香もまた、オウガ粒子によって戦場を彩る。
　傷ついた仲間たちを癒し、感覚を限界以上に研ぎ澄ませる。仮面に隠された敵の狙いまで看破するように。
　その時、フィリウスの死角を突いたのは、一陣の風……那岐だ。
（「仮面で視線が読めなくても、気配なら読めます」）
　神楽舞とともに、迸る雷光。那岐の瞳と敵の仮面を照らす竜となって、フィリウスの全身を切り裂いた。
　戦場の主として、ケルベロスを翻弄する側であるはずのフィリウスは、しかし、惑わされる側となる。ルーシィドの影から生まれた蔦が、審問官を眠りと現実のはざまに縛り付けたのだ。
　ルーシィドに急激な脱力を強いられるフィリウス。その行動は、ケルベロスの撃破より、戦いを長引かせる事を主眼にしている様子。口数が多いが、その一環だろう。
　失った活力を取り戻すべく、フィリウスは片手を獰猛な魚に『描き直し』、ケルベロスの命で賄おうと試みる。
「吸い取られるのはゴメンデス」
　フィリウスとの近接戦を嫌い、ジェットパック・デバイスで飛び回るスノードロップ。
　反面、自らの攻撃となれば、容赦はしない。絶死の魔刃を招来、ザルバルクに満ちた海ごとフィリウスを断ち切る。
　ケルベロスたちに翻弄され、思うように挙動できないフィリウスのコートを、茜の気合が揺さぶった。
　最近戦った死神にも、友情より使命に殉じた者が居た。言葉が通じなくとも同胞のために必死な奴も。だが、不死身のプレゼンはお断りだ。
　茜の五爪が、死神を、存在そのものを、切り裂く。
「大人しく、あのお舟の中で冥府神の裁きを待てばいいものを」
「俺がどう死ぬかは自分で決める！　貴様に決められてたまるか！」
　フィリウスの揶揄へと、沙門が力強い返答をぶつけた。
　さくらや茜が攻め込む隙に、沙門はフィリウスの筆をしかとつかんでいた。
　そのまま相手の体を引き寄せ、飛び膝蹴りを見舞う！
　少なくとも外見は、一般人の普段着レベル。鎧すら砕く沙門の功夫は効いたようだ。ミミック、オウギに噛みつかれた痛みに気づかぬくらいには。
「ちっ、僕も癒されたいなあ」
　フィリウスの羨望の先は、カルロスの傍ら、ボクスドラゴンのアルバリドラだ。傷を受けた傍から回復している。
　そこに、小竜の主にして朋友、指揮官役のカルロスの放つ光が続く。
「さあ、白に染まれ！」
　七色を操る死神の視界を、カルロスが一色に塗り替える。
　ぴしり、と走る音は、仮面のヒビ割れの証。
　さくらの雷杖から射出された魔弾が、またしてもフィリウスから自由を奪い取る。
「審問官の中では下位とは言え、僕を追いつめるとはね……ご褒美に聖王女の事、教えてあげようか？」
　フィリウスが、突如転身した。問いで隙を作ったつもりか。だが狙いは、逃走ではなく、スノードロップ！
　比較的傷を負い、かつ、今後の戦いでダメージソースとなりうるスノードロップだけでも……と、そう考えたに違いない。
「フフフ」
「？　何故笑える？　……はッ」
　悪あがきの一撃、それを阻んだのは、茜の光明縛鎖だった。
「な……！」
「誰だって思いつくんだよ、ばーか！　今までの戦略も、全部お見通しだっての！」
　茜の忌憚ない言葉に、ひび割れた仮面の隙間から、フィリウスの悔しさがのぞく。
「随分姑息な手を使うのね。仮面で素顔を隠すくらいの臆病者、だもの」
　フィリウスを待ち受けていたのは明日香。バックダンサーの如く、多数の剣を従えて。
　次の瞬間、披露される剣の舞。退路ごと、標的を断つ。明日香の全方位からの刺突、斬撃が、死神に引導を渡した。
「ははっ、死なんてどうという事はない。イルカルラ様がご無事ならまた蘇る」
「そのような未来は訪れません。私たちがあなたと会った最後のケルベロスです」
　那岐に突き放され、フィリウスは、遂に海の藻屑と消えた。
「よし、次は本命だな。強い反応、それも２つなら……すぐにつかみ取れよう！」
　沙門は、ゴッドサイト・デバイスに意識を集中、イルカルラの位置を把握する。
　沙門に導かれたルーシィドが、洒落た黒ハイヒール型のジェットパック・デバイスで皆をけん引していく。
「こちらジェミニ・フィリウス班！　これよりカラミティへ攻撃を開始するよ！」
　マインドウィスパー・デバイスを介した、カルロスの他班への通達の後。
　一同は赴く、次なる戦場、イルカルラが待つ場所へ。

●
　明日香による治療も受けつつ、イルカルラへと接近する一同。
　途中、タウルスを撃破したチームと合流、遂にイルカルラをその視界に捉えた。
　が、敵への射線は、突如遮断される。壁となったのは、ザルバルクを彷彿させる古代魚……イルカルラの副官にして七大審問官筆頭、ポロス・ナムタル！
　石碑を思わせる粘土板。７つのそれを周囲に浮かべた副官は、ケルベロスに牙を剥いた。
　２班は互いに頷き合うと、突破を試みた。後続の味方に道を開くためにも、ポロスは自分たちで止める！
「時は金ナリ、デスネ。歌エ、血染めの白雪」
　躊躇いなどない。スノードロップが抜刀、斬撃を繰り出す。
　威力と狙いは正しく発揮され、ポロスに直撃する。
　だが、確かな手ごたえとは裏腹に、刀傷を受けたのはポロスではなく、周囲に浮かぶ粘土板の方だった。
　続くケルベロスたちのグラビティも、ポロスを傷つける事は叶わず、代わりに粘土板が破壊されていくのみだ。
「あの石碑めいたものが、ポロスの身代わりになっているようですね」
「壊すことならお任せくださいな」
　那岐の分析を受け、ルーシィドが前に出た。繰り出すのは、ノーモーション、フルパワーのボルトストライク。
　威力は十分、粘土板はあえなく土塊に帰した。
　他の板も、ケルベロスたちの波状攻撃を受け、次々破壊されていく。
　が。
　砕かれたはずの粘土板は、しばしの後、再生を果たしていくではないか。それも、７つとも。
　いぶかるケルベロスたちを、ポロスの反撃が襲う。周囲を満たす怨霊の波から、味方を庇う茜。
「こっちの攻撃は全部板に押し付けて、自分は攻撃に専念するって訳か」
「しかも、すぐ再生しちゃうなんて。こちらは二つのチームだし、交互に攻撃してみてはどう？」
「なるほど！　まずは一班が攻撃して、肩代わりする粘土板を全部破壊。それが再生しちゃう前に、もう一班がポロス本体にダメージを加えるんだね」
　さくらの発案を受け、もう一チームに作戦を伝達するカルロス。
　提案に応じてくれたのは、同じキャスター、風峰・恵だった。
「そうですね。それでは交互に行きましょう」
「ありがとう。じゃあ、最初はこちらが露払いするね！」
　カルロスたちの意志は、恵がしっかり自チームに伝えてくれたようだ。ならば後は、完遂を目指すのみ！
「まずは俺たちの番という訳だ！　サルベージの要とはいえ、主への献身、死神ながら見上げたものだ。全力でお相手しよう！」
　沙門は覇気を放つと、オウギとともに、ポロスに挑みかかった。

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　他の審問官を突破したケルベロスたちが、次々イルカルラに向かう中、ポロスに仕掛ける２班。
　そして今度は、こちらがポロスを直接狙う番だ。
「今度こそ、ぶち抜きマス」
　スノードロップの宣言の直後、ポロスの全身が、またたく間に虚無に呑みこまれた。
　痛烈な一撃にもがくポロスの鱗が、派手に破裂した。ルーシィドの杖から解放した獣の一撃によるものだ。
　仰け反るポロスへと、明日香が電光を迸らせるのは、敵の破壊のためではない。
　貴重なチャンスを逃さず、確実にポロスを砕くための力を、味方に託す雷だ。
　明日香たち仲間の支えに応えるためにも。さくらは攻守の力秘めた雷を纏い、ポロスに迫る。
　海も空も、ケルベロスの前では等しく戦場。さくらの、舞うような華麗な蹴撃が、鮮やかに決まる。古代魚を彷彿させる鱗に、星型を鮮烈に刻みつける。
　自らを砕かんとするものに、ポロスの容赦はない。周りに不定形の黒を召喚すると、ケルベロスたちに浴びせかけた。受けた箇所を黒化する、侵食の波動だ。
　ヴェロニカ軍団を食い止めている仲間たちを救えるのが、この戦場にいる自分たち。ならば、やり遂げねば。
　そして、スイッチ。今度は、敵の守りを打ち砕く番。
　幾度にも渡るケルベロスの攻撃により、ポロスの体は、徐々に崩れ始めている。
　自分が倒れれば、イルカルラが危険にさらされる。ポロスの反撃は、命あるものの如く、もがきあがくものとなっていく。
　死神に死を与えるべく、茜のバスターライフルがポロスを捉える。
「お前達もわたし達も思い上がってる、散々殺しといて自分達だけ生きたいだけ生きるなんてあっていいワケないだろうが！」
　茜渾身の一射。直後、粘土板が破片１つ残さず吹き飛んだ。
　そして、沙門の、鋼をも凌駕する超硬度の拳が、続く。吹き飛ぶ粘土板が、威力の高さを物語る。
　アルバリドラに仲間の治癒を託し、粘土板と相対するカルロス。
　ポロスをえぐる、獣の拳。その威力を転移され、粘土板を一撃で粉砕する。
「また１つ。これはカウントダウンだよ。ポロス、いや、イルカルラ撃破のね！」
　那岐が構えた掌から、火が熾る。動きを同期させた御業から、炎砲を放つ。
　死神の魔手から世界を護る決意、爆ぜた一撃が、ポロスを、最後の粘土板を、焼却する。
　そして、もう１チームにバトンを渡す。
　これで決めて、と、声を上げたのは誰だったか。果たして、その願いは結実した。
「GYAAA！」
　子狐や子狸たち……グラビティによる百鬼夜行が、ポロスを完全に破砕したのだ。
　ポロス撃破は、イルカルラと交戦していた班、その１つにも伝わったようだ。
　両チームがそれぞれに勝利を表す中、ルーシィドは、巡らせた視界の中、イルカルラの呼んだ深海魚群と戦う親友の姿を見つけた。
　私は大丈夫……ルーシィドが視線にこめた意思は、大事な人へと届いたようだ。

　残るはイルカルラのみ。全ての守りを失い、孤独となった神様だけだ。

作者：七尾マサムネ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2021年4月19日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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