デスバレス電撃戦~オリンピアの天使

作者:紫村雪乃


「《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブングの制圧に向かったケルベロスの皆さんも無事に帰還する事が出来ているようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が口を開いたのは、《甦生氷城》が制圧され、鎧駅沖の海上にデスバレスの回廊が現れた数時間後のことであった。ケルベロスブレイドを襲った巨大死神はすでに撃破されている。
 が、戦いはまだ終わってはいなかった。《甦生氷城》の制圧に成功した事で、デスバレスへの突入口を開く事ができたのだ。
「《甦生氷城》で戦っていた方たちから聖王女エロヒムの声を聴いたという報告がありました。同じものを『グラビティ・チェインレーダー』で確認し、解析を行っています」
 セリカはいった。
 この解析情報をもとにして、強化された予知能力により、突入口の向こう側やデスバレスの情報、さらには死神の防衛作戦について情報を得る事ができたのだった。
「これはまさに、千載一遇のチャンスです」
 万能戦艦ケルベロスブレイドはデスバレス回廊を突破、冥府の海潜航能力を使い聖王女エロヒムが囚われていると思われる『デスバレス深海層』を目指すことになる。
「危険な任務になりますが、死神との決着をつける為にも、皆さんの力を貸してください」
 ケルベロスたちを見回し、それからセリカは作戦について説明を始めた。
「ヴェロニカ軍団という死神の最精鋭軍が防衛にあたっています。そのヴェロニカ軍ですが、単なる最精鋭軍というだけではありません。儀式によって強化されているのです。よって足止めを行いつつ、儀式を破壊するといった作戦で対応する事にならます」
 セリカはいった。が、敵はヴェロニカ軍団だけではなかった。
 ケルベロスブレイドにダメージを与えて名を上げようという死神集団がいる。その死神集団がケルベロスブレイドに対して襲撃を行っているのだった。
「その多くはケルベロスブレイドの防衛網によって撃破できています。けれど全てを防ぐことは不可能でしょう。もし敵がケルベロスブレイドに取りついた場合、早急に現場に向かい撃破しなければなりません」


「……番犬どもを突破できたようだな」
 男がいった。
 暗色の鎧をまとい、黒い剣をたずさえている。昏い目をした男であった。
 名は木星ベクトール。オリンピアの天使と呼ばれる、暗殺者の中で強き者をサルベージした七人の死神の一人であった。
「でも……」
 女が悲しそうに目を伏せた。優しげな顔立ちの美しい女で、豊満な肉体をドレスに包んでいる。名を太陽のオクといい、彼女もまたオリンピアの天使の一人であった。
 オクの脳裏にうかぶ四人の面影。それは同じオリンピアの天使である金のハギト、水のオフィエ、土のアラトロン、月のフルの四人であるが。
 彼女らはもうこの世にはいなかった。ケルベロスブレイドにとりつく前に散ってしまったのである。
「彼女たちの死に酬いるためにも、残る我ら三天使の手で必ずやこの艦を破壊しなければ」
 最後の天使がいった。
 純白の翼。黒いローブが包むしなやかな肢体。火のファレグであった。
「そうだな」
 ベクトールはうなずいた。彼は殺す術しか知らぬ。戦いで仲間に酬いるのは望むところであった。
 ベクトールは辺りを見回した。
 広大な空間にベッドや温泉、マッサージチェアや食堂などが見える。かつて天蝎宮であったところがリラクゼーション施設に改造されているようであった。
「まずはここから潰す」
 ファレグはいった。


 セリカが目を見開いた。通信がはいったのである。
「連絡がありました。リラクゼーション施設に敵集団の侵入を確認したそうです」
 セリカがいった。迎撃により過半数の敵は撃破されており、侵入できた敵は九体のみのようだ。リラクゼーション施設には、そのうちの三体が入り込んだのだった。
「周囲の施設にできるだけ被害が及ばないように、迅速に解決してください。皆さんならできると信じています」
 ケルベロスたちを見回し、セリカは微笑んだ。


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)
斉賀・京司(不出来な子供・e02252)
リィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)
カタリーナ・シュナイダー(断罪者の痕・e20661)
ヴァイスハイト・エーレンフリート(死を恐れぬ魔術師・e62872)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)

■リプレイ


 広大なケルベロスブレイドの艦内。
 疾風と化して走る八つの影があった。いうまでもなくケルベロスたちである。
「こちら側へ攻め込むとは」
 シュシュで結んだ蒼いポニーテールをなびかせた女が嘆声をもらした。鋭い目の女で、身ごなしから只者でないことが知れる。リィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)であった。
 すぐにリィンはふふんと笑うと、
「奴さん達も切羽詰まってるな。なら、返り討ちにする迄!」
 獲物を見つけた猟犬のように、リィンの疾走速度がさらに上がった。

「始めるとするか」
 ベクトールが黒剣を振り上げた。収束された膨大な熱量に刃が黒くぬめ光る。
「土竜!」
 ベクトールが黒剣を振りおろした。放たれた圧倒的な破壊力にマッサージチェアやテーブルが吹き飛び、さらには壁に亀裂がはしる。
「さすがは」
 ベクトールが呻いた。彼は壁そのものも破壊したと思ったのだ。
「ならば、これはどうだ」
 ファレグが長大な柄の斧を振りかぶった。
 刹那ーー。
「待つのだ!」
 制止の声が響いた。するとファレグが目のみちらりと動かした。
「来たな、番犬ども」
 忌々しげにファレグがいった。その視線は声の主である美麗な少年の姿をとらえている。無論ファレグは知らぬことであったが、少年の名は叢雲・蓮(無常迅速・e00144)といった。
「死神よな」
 昏い美貌の男ーー斉賀・京司(不出来な子供・e02252)がいった。
「この艦は皆で紡いだ希望、安易に渡す訳には行かぬ」
「できるかしら、たった八人でわたしたちを止めることが」
 オクが憫笑をその優美な顔にうかべた。
「できる。いや」
 冷然とした女が口を開いた。針のような視線をオクの面上にすえる。
「やる。やらねばならん。命にかけてな」
「たいした覚悟だが……。が、我らにも意地がある。誇りがある。断じて邪魔立てはさせん」
「貴様らに意地があるのなら、我々にも意地がある」
 女ーーカタリーナ・シュナイダー(断罪者の痕・e20661)の目がぎらりと光った。
「覚悟を定めたケルベロスの艦に乗り込んできたのだ。ただでこの艦に侵入できると思うなよ。すぐに貴様らも仲間の後を追わせてやる」
「仲間……」
 オクが哀しげに目を伏せた。
「そう。わたしたちには散っていった仲間がいた。金のハギト、水のオフィエ、土のアラトロン、月のフルという仲間が。もう先に逝ってしまったけれど」
「ほう」
 カタリーナが揶揄するような声を発した。
「貴様らも仲間の死が惜しいか? まさか覚悟もなく我らの縄張りに踏み込んで来たわけではあるまい? ならば、その怠慢こそ貴様らの最大の敗因だ」
「ほざけ、番犬」
 ファレグがカタリーナをねめつけた。すると一人の男が進み出た。大人びたところのある少年で、人形のように整った顔の持ち主である。名をヴァイスハイト・エーレンフリート(死を恐れぬ魔術師・e62872)といった。
「オク、ファレグ、ベクトール」
 ヴァイスハイトが呼んだ。親しみと哀しみの入り交じった声音で。
「貴様ーー」
 ファレグが絶句した。が。すぐにニヤリとすると、
「我らオリンピアの天使の敵であるヴァイスハイト。よもやここで出会うとはな」
「彼らを知っているのですか?」
 驚いたように如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)が目を見開いた。
「はい」
 ヴァイスハイトがうなずいた。オクたち三人はかつて彼が保護した者たちであった。が、死神にサルベージされ、死神と化してしまった。おそらく記憶は書き換えられているのだろう。
「天使、か……他の四人はきっと先に帰っているだろう。ならば、魔術師として! テスタメントの性を受け継いだ者として!  無へ帰せ!」
 自身に言い聞かせるかのようにヴァイスハイトはいい放った。
 そのヴァイスハイトの心に痛みがはしった。死神に利用された事に対する痛憤である。
「悪いが容赦はしない。ボクは魔術師、今だけは無へ帰す魔術師だ!」
 ヴァイスハイトが叫んだ。その身がすうと上昇していく。ジェットパックデバイスを起動させたリィンに牽引されたのである。
「お友達の事を思い出すのは良い事やな。あ、安心しい…すぐにお友達に会えると思うよ♪」
 華奢な少女が月光のような輝く笑みをうかべた。可憐な笑みであるが、いっていることはかなり物騒である。
 その笑みのまま、少女ーー月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)は黄金の果実を実らせた。


「俺が奴らの相手をする。お前たちはこの艦を破壊しろ」
 ベクトールがオクたちに命じた。単なる破壊活動より敵と刃をあわせる方が彼の性にはあっていたのである。
 ケルベロスたちは顔を見合わせた。予定ではオクを最初の撃破対象としていたからだ。
「ふふん」
 コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)が鼻を鳴らした。
「戦場は千変万化。こちらの予定通りにはいかせてくれまいよ」
 コクマは死神たちを見下ろすと、続けた。
「死神が死を悼むか。死を与える存在でも悼む心があるか。ならばそれをもっと他に向けるべきだったな」
「黙れ、番犬。お前たちに何がわかる」
 ベクトールの黒剣が唸りをあげた。放たれた衝撃波がコクマを貫く。
「ぐはっ」
 コクマが鮮血を吐いた。内臓がミンチになっている。
 この時、ベクトールにあわせてオクとファレグも破壊を開始していた。艦内設備が吹き飛び、壁に亀裂がはしる。
「急がないとケルベロスブレイドがもたない」
 焦りのにじむ目を死神たちからひきはがし、沙耶は叫んだ。
「コクマさん。貴方の運命をお守りします!」
 沙耶の示す運命。女帝の愛の力により、前衛に立つ者たちの進む道に光が灯った。
「すまんな、如月」
 口から滴り落ちる血を手で拭い、コクマが躍りかかった。
「ああ…苛立たしい。貴様らの想いなんぞワシにはどうでもいい。ただ気晴らしに砕け散れ!」
 空気のみを足場とし、コクマが跳躍した。一気に接近。その手の巨剣ーースルードゲルミルをコクマはベクトールにぶち込んだ。
 あまりに重い斬撃にベクトールが艦内の床をすべり後退した。勢いのとまらぬスルードゲルミルが床を穿つ。
 はじかれたようにオクが叫んだ。
「ベクトール!」
「俺にかまうな。破壊を続けろ!」
 ベクトールが叫び返した。そのベクトールに次々とケルベロスたちの攻撃が撃ち込まれる。
「番犬どもめ!」
 ベクトールの黒剣が再び吼えた。狙ったのはヴァイスハイトであるがーー。
 衝撃波にのけ反ったのはビハインドであった。ヴァイスハイトを庇ったのである。
「待て」
 攻撃にでようとしたヴァイスハイトを京司がとめた。
「君の因縁ならば、君がとどめを下すべきだ。そうだろう、死を越える魔術師よ?」
 告げると、京司の手から槍のようなものが噴出、ベクトールを貫いた。変化させたブラックスライムである。
 続けて襲ったのはオルトロスーーリキだ。反射的にベクトールがリキのくわえた神器をはじく。
「さすがはオリンピアの天使と呼ばれるだけはある。しぶとい。がーー」
 カタリーナはバスターライフルでポイント。灼熱の光流でベクトールを撃ち抜いた。
「来るな!」
 苦悶しつつ、しかしベクトールはファレグたちにむかって叫んだ。破壊の手をとめ、二人が駆け寄ってこようとするのを見とめたからだ。
「仲間を失ってまで、何のために俺たちはここまで来たんだ。俺たちはハギトたちの思いも背負ってる。それを忘れるな!」
「敵ながら天晴れだ。が、私たちも思いを背負って戦っている。負けるわけにはいかない!」
 何者も避け得ぬ一撃をリィンは放った。
「我は死を恐れぬ魔術師、テスタメントの名を冠せし魔銃よ顕現せよ。シュロス・ブレッヒェン・ツヴァイ・マギゲヴェーア!」
 詠唱とともにヴァイスハイトの左右手に紅黒の長銃身をもつ銃を現出した。
「また、何処かで会おう。我が盾よ……」
 哀しみの光を瞳にやどし、ヴァイスハイトはトリガーをしぼった。銃口の前に展開された魔方陣をから呪力を吸収。破壊の権化と化した魔弾がベクトールめがけて疾りーーかすめて過ぎた。
「ボクがいくのだ!」
 蓮が間合いに飛び込んだ。床を踏み砕くようにして抜刀。瘴気をまとわせた玉環国盛でベクトールを切り裂いた。


「ベクトール!」
 ファレグが叫んだ。その眼前、ベクトールが消滅していく。殺すことしか知らぬ男の顔に小さく笑みが浮いていた。
「オク。破壊は頼んだぞ」
 告げると、ファレグはケルベロスたちにむかって歩み出した。
「来い、番犬ども」
「一人はもうお友達のところにいった。すぐに後を追わせてやるからに」
 朔耶の口辺に薄く笑みがういた。それが合図であったようにリキが襲いかかる。
 するりとファレグはかわした。その隙をつくようにカタリーナが灼熱の魔法光を撃ち込む。
「もらった!」
 カタリーナのその叫びは、すぐに愕然たる呻きに変わった。彼女の放った魔法光がはじかれたからだ。横からのびた天秤の軸によって。それは槍様の武器であった。
「オク!」
 カタリーナと同じようにファレグもまた愕然たる声を発した。
「なにをしている? 破壊を続行しろといったはず」
「嫌よ!」
 オクは激しく首を横に振った。それにあわせて乳房もまた大きく揺れる。
「嫌?」
「そうよ。もう仲間が死んでいくのを見送るだけなんて嫌。わたしも一緒に戦うわ」
「おまえはーーくく」
 ファレグは苦笑した。
「いいだしたらきかぬおまえだ。よかろう。オリンピアの天使の力、存分に番犬どもに見せてやろうぞ」
「ええ!」
 にこりと微笑んだオクがもつ天秤の先端から紅蓮の炎が噴出した。炎の嵐と化したそれは避けもかわしもならぬケルベロスたちを焼き払う。
「させません。あなたと同じように私も仲間が大切だから!」
 沙耶は七色の光のベールを降らせた。前衛に位置するケルベロスたちの傷が癒えていく。
「いい覚悟なのだ。もし立場が違ったら友達になれたかもそれないのだ!」
 運命に対する怒り。それを稲妻に変えて蓮は放った。
「くっ」
 紫電に肉体を灼かれるオクに代わり、ファレグが反撃した。恐るべき執念といえる。
 戦斧の一閃。白光が刃と化してケルベロスたちを切り裂いた。


「お前たちがどうであろうと、わしたちのやることは変わらん」
 コクマがいった。個の撃破。それが当初からの作戦であった。
 コクマが舞い降りた。身を旋回させ、遠心力を利用して破壊力を増した一撃をオクに叩き込む。
「こんなもの!」
 火花を散らしてオクが受け止めた。衝撃にオクの足下の床が陥没する。
 さらにケルベロスたちが攻撃を続けた。オクの身に傷が刻まれる。
「オク、さがれ!」
 ファレグの戦斧が再び空に亀裂を刻んだ。わずかに遅れて沙耶と朔耶が回復。
 完治とはいえぬ身でリィンが跳んだ。蠍の尾を想起させる鋭い切っ先をもった細剣に空の霊力をまとわせて薙ぎつける。
「ああっ!」
 血飛沫を散らしてオクがよろけた。とどめを刺すべくヴァイスハイトが身を舞わせる。
 流星の煌めきをやどした彼の蹴りは、しかし空をうった。
「くっ。命中率が五十パーセントではそうそう当たらないか」
「僕に任せてくれ」
 かちり。京司が開いたパズルからカーリー神が飛び出し、オクを切り裂いた。
「ああっ!」
 オクの口から絶叫がほとばしりでた。
「ファレグ、ごめんなさい」
「オク!」
 ファレグが手をのばした。が、その指先が触れる前に、すうとオクは消滅した。
「皆を、最後まで優しく導いてあげてくれ……」
 小さくヴァイスハイトはつぶやいた。


「許さんぞ、番犬ども!」
 憤怒にゆがむ顔をケルベロスたちにむけ、ファレグは斬光を放った。前衛の者たちの肉体が無惨に裂ける。
 沙耶が気遣わしげ視線をヴァイスハイト送った。
 ヴァイスハイトは体力が低い。ビハインドがカバーしているとはいえ、油断はできなかった。
 そのヴァイスハイトは命を預けた大事な仲間達が死神に肉体を奪われたのである。彼の心情は、同じ境遇である沙耶にはよくわかった。
「だからこそ目をそらさない。私の役目を全うします!」
 沙耶が進むべき道を指し示した。ヴァイスハイトを含めたケルベロスたちの再生が始まる。
 さらに続く激烈な攻防。その余波で艦内は惨憺たる有り様だ。
「くたばれ、番犬ども!」
「誰も死なせはせぬ!」
 ファレグが席巻させた刃嵐を静めるように朔耶が七色の光をほとばしらせた。
 その光の中、リキが襲った。切り裂かれたファレグが後退る。その隙をカタリーナは見逃さなかった。
「楽にしてやる」
 復讐心よりも、むしろ憐憫の情を胸に秘め、彼女はトリガーをひいた。ガトリングガンが吼え、爆炎をばらまく。
「あれは……敵なのだ!」
 独語すると、ファレグの意識の間隙に滑り込むようにして蓮が踏み込んだ。地をするような低い姿勢はまさに獲物を狙う肉食獣。
 抜刀一閃。ファレグから鮮血がしぶいたのは蓮が納刀した後のことで。
「死神の枷から彼等を救う役目は、ヴァイスハイト、お前に任せたっ!」
 叫ぶリィンの拳と脚が視認不可能な速度で疾った。ファレグがその全てをはじく。が、氷の刃を錬成して生み出した大太刀の一撃は避け得なかった。
「ま、まだだ」
 腹から大太刀の刃を引き抜き、ファレグが得物をふりかぶった。がーー。
 水晶の刃の化け物じみた巨剣が袈裟にファレグを斬り下げた。コクマが冷淡に告げる。
「わしは容赦はせん。敵は粉砕するのみ」
「くっ」
 死力をふりしぼり、ファレグが跳び退った。いやーー。
 動けない。彼女の足に鎖が巻きついていた。
「ヴァイスハイト。今度こそとどめを刺せ。それが死を超える魔術師の運命だ!」
「わかっているよ」
 京司の叫びにヴァイスハイトがうなずいた。
「ありがとう。キミは素晴らしい友だった」
 万感の想いを込め、ヴァイスハイトは二丁の魔銃のトリガーをひいた。


「……よくやったよ」
 京司が立ち尽くすヴァイスハイトの肩に手をおいた。ヴァイスハイトには声もない。
 無理もなかった。友を自らの手で葬らねばならなかったのだから。
 が、彼の目には強い光があった。明日を生きんとする者のみ持ちうる光だ。それが亡くなった友に対する義務であることをヴァイスハイトは知っていた。
「死神って…やっぱり変っ!」
 嘆くような、呆れたような。
 独語する朔耶の傍ら、リィンがそっと花を手向けている。白と赤のポピーであった。
 白の花言葉は眠り。そして赤の花言葉は慰めであった。
 とまれ戦いは終わった。かくしてケルベロスブレイドは守られたのである。
 が、それは死神との決戦の始まりであった。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月19日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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